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🐈👻、ふかふかぽかぽかの冬

作者：海鶴

●パトロール
　巡回は常にやらなければならないことである。
　自分の縄張りの管理というものは、猫たる身にとっては当然の責務である。いや、責務という言葉は正しくないのかもしれない。
　己を己で証明する方法の一つであると言えばいいだろうか。
　とは言え、寄る年の瀬には猫とて勝てないものである。
「にゃ～……」
　屋敷の猫、二又の尾を持つ『玉福』はげんなりしていた。
　いや、ちょっとだけである。
　誰に言い訳しているわけではないのだが、しかして、言い訳したくもなる。

　そう、寒いのである。
　強烈寒波が到来しているのだ。
　年の瀬寒波だとかなんだとか屋敷の主たちは言っていたが、よくわからない。
「にゃ」
　どんな名前がこの寒さについているのだとしても、征かねばならぬ。
　それが猫である己が身の証明である。
　縄張りは己の器を示すものであるから、やはり危機管理はしっかりしなければならない。

　自らの存在を証明できなければ、縄張りは瞬く間に他の猫たちによって切り取られていくだろう。
　そうなってからでは遅いのだ！
「にゃ！」
「あれ、パトロール行かれるんですか？　お供しますよ」
　幽霊の『夏夢』が半纏を羽織ってやってくる。
　なんだ、その暖かそうな毛皮は、と『玉福』は思う。
　どうやら『陰海月』や『霹靂』からプレゼントされた半纏のようだった。馬県・義透（死天山彷徨う四悪霊・f28057）の霊力で編み上げられた特別製だ。
　ぬくぬくしていて。
『玉福』はちょっぴり羨ましいと思った。

　だが、パトロールに出ることには変わりない。
　ぴゃっと飛び出して、ぴゃっと戻ってくれば良い。
「にゃにゃにゃー！」
　気合。気合。気合にゃ。
『玉福』は屋敷の外に飛び出していく。その後を『夏夢』が追ってくる。
　こうなったら、縄張りパトロール最速理論を打ち出すしかあるまい。あの木々の合間を縫い、さらに加速していく。
　目を走らせる。
　異常なし、ヨシ！　にゃ！

「ま、待ってください～お猫様～！」
「にゃ」
　ふっ、と『玉福』は笑う。
　多少動き回っているからか、体は温まってきたようである。だが、油断すればすぐに体の熱は寒風に奪われてしまう。
　だからこそ、最速でパトロールを終わらせねばならないのだ。
　大地を蹴って、林の木々の枝の上を駆け上がっていく。

　うむ。
　今日も己の縄張りに異常なし。
『夏夢』も追いつけないほどの速度で縄張りを確認して満足げな『玉福』は枝から飛び降りて、後から追いかけてきていた『夏夢』と合流を果たす。
「はぁ、ひぃ、速いです～……」
「にゃぁ」
　運動不足じゃない？　いや、幽霊に運動不足もあったもんじゃないのかもしれないが。しかし、自分に蒔かれるようではまだまだであるな、と『玉福』はごきげんで元来た道を歩む。
「にゃ」
「は、はい～戻りますぅ……！」
「にゃあ！」
　日課のパトロールは終わった。
　後は、お楽しみである。

　そう、此処最近の『玉福』は密かに楽しみにしていることがある。
　密かな、と言ったが『玉福』以外の屋敷の皆は、それが何を示しているのかを知っている。
『夏夢』が半纏をもらったように、『玉福』もまた『陰海月』たちからプレゼントをもらっていたのである。
　それこそ『フカフカほかほかマット』である。
　早く帰ろう。
　もう一時も、この寒空の下にいたくない。

　戻ったら、あのマットの上に陣取って毛づくろいをして、一眠りするのだ。
　あれは良い。
　あれは幸せの象徴とも言える。
　なんといっても柔らかい。そして、暖かいのだ。
　それに自分の前脚での踏み心地もよい。ふにふにしているとなんだか懐かしい気分にもなる。
「にゃあ」
　戻った、と『玉福』が屋敷の居間に『夏夢』と入ると、そこにはプレゼントの贈り主である『陰海月』と『霹靂」がいた。
　ふたりとも思い思いに過ごしている。
「ぷきゅ！」
「クエ！」
　おかえり～と言っているのだろう。
　やれやれ、と『玉福』は思う。これだから猫じゃない奴らは、と思う。縄張りを持たず、寒空を知らずにぬくぬくしているのだから。仕方ない奴らだ。
　けれど、自分に『フカフカもふもふマット』をくれたことは、とても感謝している。

「にゃ」
　とことことマットの上に飛び乗って『玉福』は身を丸める。
　うん、暖かい。
　フカフカしていてちょうどよい。
　その上を『夏夢』がゆらゆらと浮かぶ。
　あの寒い外から最速でパトロールを終えた自分をいたわるようにして頭を撫でてくれる。あ、いや、撫でている。
　夏はひんやり、冬はあったか。
　なんとも便利な家来である。
　うむ、苦しゅうない、と言うように『玉福』は欠伸混じりの鳴き声を上げて、マットの中で眠る。

　それは幸せな午睡。
「お疲れ様でした。ゆっくりお休みになってくださいね。温度調節はこの『夏夢』におまかせを！」
　これは自分だけの仕事だと『夏夢』は大いに張り切り、『玉福』を撫でるという栄誉に感動打ち震えるのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2023年12月29日