ヘビーウォーリアー・コーデ
●重戦士のハイン
人は見かけによらないという。
第一印象というのは大切な要因だ。誰かが誰かを知ろうとした時、必ずついて回るものだからだ。
「なあ、お前はどっちだと思う？」
「なんだよ、賭けの話か？」
「すーぐ賭けにしたがるわね、あんた」
ゴッドゲームオンライン、そのトイツオック地方と呼ばれるエリアでの初心者クエストを経験したゲームプレイヤーたちは必ずと言っていい程、一つの疑問を抱く。
それは初心者クエストの助っ人キャラクター……すなわち、ノンプレイヤーキャラクターの性別についてである。
全身鎧を身にまとった性別不詳の重戦士。
彼、もしくは彼女についてゲームプレイヤーたちが知ることは多くはない。
重装甲の鎧で敵の攻撃を受け止め、初心者ゲームプレイヤーたちに攻撃が向かぬようにとヘイトを稼ぐスキル構成には多くのゲームプレイヤーたちが助けられた。
そんな、彼ないし彼女の性別については議論のなされるところであった。
顔がわからない、というのも議論の加速になる要因だった。
「名前からしても男性女性、どっちとも取れるんだよな」
「声も中性的というか、少年声っていうか。じゃあ、男の子なんじゃない？」
「いや、仮にそうだとしてもあの動きのしなやかさは」
「金属鎧ガチガチなのに、あれだけ動けるっていうんだから筋力の強い男でしょ」
「そもそも年齢もわからんしな」
そんなふうに彼らがやいのやいの言っているのをギルド組員のヌグエン・トラングタン（欲望城主・f42331）と、その同僚は耳にした。
「結構話題になっているわね」
「あ～……確かにぱっと見た感じ性別不明なのは鎧のせいだけど、あいつも兜も取らねぇからなぁ」
「素出ているわよ」
「おっと……」
ヌグエンはメガネのブリッジを人差し指で押し上げる。
『重戦士のハイン』はお助けNPCの一員である。
だが、ゲームプレイヤーたちが、彼女の素顔や本来の性格といったものを知らないが故に議論が白熱しているのは、傍から見ていれば面白いものだと思う。
別に訂正したいわけじゃあないし、正しい答えを示したいわけでもない。
彼らにどう思われていても、己の家族であることには代わりはないのだ。
なら、それはそれでいいことなのだ。
「ま、あいつが聞いたら、どんな顔をするのかは気になるけどな」
「言葉遣い」
「はい」
ヌグエンは未だ続く議論に耳を傾け、穏やかな日々に欠伸を一つ噛みしめるのだった――。
成功
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