メイデン・オーナメント
●バースデー✕クリスマス
『虹色スライム』は思った。
自分もタマキ・カンナ(清澄玉虫・f42299)もゴッドゲームオンラインというゲーム世界のAIである。
自覚はしっかりあるし、だからと言って特に何が変わるわけでもない。
けれど、タマキは違う。
彼女は猟兵として覚醒し、多世界を知ることができる。
その結果として、今この洞窟の中を満たしているのは、コーヒーの芳しい香りであった。
「はぁ~……『虹色スライム』様、どうですか、これ! 外の世界から献上させていただきましたが!」
彼女はどうにも今日が自分の誕生日である、ということに意識が薄いようであった。
本日の主役はクリスマスという日と同じに日に生まれた彼女なのだ。
なのに、これ。
目の雨のいちごジュースのジュレの大量たること。
なんかサイズ間違ってない?
「間違っておりません! 私が『虹色スライム』様に楽しんでいただけるようにと献上した品なのです!」
のわりには、と『虹色スライム』は思う。
彼女の眼の前に置かれているいちごのショートケーキの小さいこと。
もっとこう、ホールでもよかったんでは?
「いいえ! 確かに今日は私の誕生日! ですが、ご一緒させて頂いているだけで、それはもう恐悦至極なのです!」
無礼講でもいんだけど。
「敬愛する『虹色スライム』様のおそばに居られることこそが最高のプレゼントです!!」
言い切った。
でもまあ、タマキがそれでいいのならばいいか、と思う。
自分にとっては掛け替えのない巫女だ。
例え、己と彼女がAIであったのだとしても、それを仮初であるとは思わない。
自分たちは今を生きている。
例え、作り物であったとしても宿るものがある。
例えば。
「それにしてもコーヒーの苦味と香りが、こんなにも甘いものと合うものなんですね」
このようにコーヒーを楽しむ一時を慈しむことができる感情がある。
タマキは無欲でもなければ、自らに忠実な巫女でもない。
彼女は数多ある感情の中から己への敬愛を選んでくれただけなのだ。
なら、自分もそれに応える。
ソファのように変形した膝下とも言うべき場所にタマキを載せて、共に甘味とコーヒーを味わう。
それは『虹色スライム』にとっても得難い時間であったことだろう。
だからこそ、大切にしたいと思うのだ。
タマキと共に過ごすクリスマス。
それは彼女の生誕を己が最も喜ぶ日でもあるのだから――。
成功
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