クリスマス・コーデ
●家族
ゴッドゲームオンラインにおいてもクリスマスイベントは催される。
当然のように。
けれど、その当然の裏側には管理者であるドラゴンプロトコルたちの悲喜こもごもが存在していることを忘れてはならない。
「だー! もうトリリオンが底をついた!」
ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)もその一人である。
だが、予算てものがある。
期間限定レイドの敵として己が力を振るう時もあれば、今回のようにイベントクエストのためのアイテムであったり、仕掛けというものを用意するために奔走しなければならないときだってある。
今回はクリスマス。
そう、夢いっぱいのクリスマスなのだ。
家族であれ、恋人であれ、多くのゲームプレイヤーたちが共に過ごし喜びに満ちた日にするために、ヌグエンは奔走している。
だが、先立つもの。
そう、トリリオンがどうしたって足りないのである。
「どうしたもんか、どうしたもんか!」
あーでもないこーでもないと知恵を振り絞ってみたものの、どうにもこうにもうまく行かない。
何をどうしたってトリリオンはいるのだ。
イベントクエストであれば、専用のドロップアイテムが必要になる。
それを調達するのもトリリオンである。
この世はトリリオンで回っている、と言われても頷ける所である。
「ねえ、なら自分たちで作ってはどう?」
ヌグエンは己の妻たちの言葉に首を傾げる。
自分たちで。
作る。
「それだー!」
「名案でしょ。ドロップアイテムじゃなくて料理にすればいいのよ。ええと」
「クリスマスの料理っていったらチキンじゃない?」
「鳥? 鶏肉ってこと?」
「違う違う、それだと生でしょ。オーブンで焼いたり、油で揚げたりしたやつよ。フライドチキンって言ったり、ローストチキンって言ったり」
「とにかく鶏肉?」
ヌグエンはそれならば、と早速モンスターを狩り倒しに向かう。
なに、ドラゴンプロトコルであるからゲームマスター権限でどうにでもなる。どうにもならんのはトリリオンくらいである。
「それで、次はどうする! ドロップアイテムならぬドロップ料理は確保できたわけだが!」
そう、次は肝心なアイテムだ。
アイテムは謂わば報酬。
クエストをクリアした証でもあるし、その報酬がうまければゲームプレイヤーたちは喜んでくれるし、また足繁くこのエリアにやってくるだろう。
だからこそ、だ。
「うーん……武器?」
「クリスマスの武器って何よ。槍とか?」
「槍使いの人しか興味ないでしょ。防具も……限定ガチャとかにお株を奪われそう」
「じゃあ、装飾品は? それならコーデってことでみんな欲しがるかも!」
「デザインは……」
「私が見繕ってくる! クリスマスって言ったらツリーでしょ!」
妻たちの言葉にヌグエンは頷く。
「よし、それでいこう! 他のエリアだとバグプロトコルも出てるって噂だ。必要アイテムを集めるのにも慎重にな!」
号令と共に妻たちが走り出す。
自分たちにはトリリオンがない。
なら、ないなりにゲームプレイヤーに楽しんでもらえるようにイベントクエストを運営するまでなのだ。
「バグプロトコルがなんだっつーんだよ! こちとらもうトリリオン不足の背水の陣だ!」
「まあ、なんとかなるでしょ」
「なんとかならなかったら、その時は笑い飛ばせばいいのよ」
「そーそー、みんながんばろー!」
そう言ってゲームプレイヤーたちのクリスマスのためにヌグエンたちは奔走する。
後日談であるが、その甲斐もあってゲームプレイヤーたちにはわかりやすいクリスマスイベントは好評であったのだが。
肝心な。
「トリリオンがまったくない!」
もう少しお財布はペラペラなのだった――。
成功
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