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邪魔

#ダークセイヴァー #戦後 #『紋章』 #第五の貴族 #同族殺し #受付停止

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「邪魔よね」
 理由としてはそれだけで十分だった。
 今までであれば種族的な理性や、存在的制約の様な物があった様な気がするが…、
(と、思ったけれどかなり自分勝手やってきたような気がするわね。けどきっと他も似た様な物ね)
 ともかく、なにか心の内にあった自重の様なつかえが取れていた。
「超える事が出来ない壁に突き当たって、自分の中に沸き上がる絶望と、それでも越えようとする意志を鬩ぎ合わせる。……ふふ」
 少女は綻ぶ様にその口元に笑みを浮かべ、鼻歌を歌いながら道を進む。
 崖に張り付くような延々と続く程の坂の先、その場所から強大な気配がする。
「邪魔なのよねぇ…」
 何時の間にやら変わったらしい状況。
 人類に開陳された上の世界。
 種族として考えるのであれば、随分と焦るべき、少し前とは天と地ほど変わった世界。
 未だ、景色に程度の違いはない…が、これから球が坂を転がり落ちる様に変わるのだろう。
 今はまだ、転がり始めたばかり。
 けれど、転がる事が無かった時とは比べるべくも無い。
「あははっ」
 笑む。
 きっと人は動く。
 人は挑戦する。
 今までに比して数多くの人々が立ち上がるのだろう。
 その目に反抗を宿して。
 ………。
 ……。
 …。
「ひひっ」
 少女は|愉う《わらう》。
 楽しそうに、愉しそうに。
 きっと多くの勇士が挑戦し、多くの勇士が絶望に心折れ、けれど多くの勇士がその絶望に蹴散らされながらも立ち上がり、その目を背ける事無く前を睨む事だろう。
 それはきっと心が躍る様な世界だ。
 たとえいつか、天秤が傾く様にその世界が終わるとしても。
「でも? だから? やっぱり? あれは邪魔よね。絶望は存在していなければいけない。挑戦すべき、心を砕くような、果てを見上げる様な強大な絶望が。けれど、乗り越えられる可能性のないそれなんて、夢も希望も無い絶望なんてナンセンス…邪魔でしかないわよね」
 少女は進む。
 ただ、自己中心に。


「おぉぉぉぉっは。寒いねー。え、今がどんなシーズンって? 知らなーい! どうせ君達もだろー?」
 けらけらと全シーズン酔っ払い済みグリモア猟兵がほざいている。
 まぁそれはどうでもいいのだ。
 ワーカホリックなんて幾らでもいる。
「でーでーでーまーまーまー、そんな事は投げちゃってー。今回はねー、お久で久しぶりな久方の世界―………ダァァーーックセイブアー!」
 ダークセイヴァー。
 下層。上層。そしてフォーミュラが倒された世界。
 とは言え、フォーミュラが倒れたからと言ってぱっと平和になると言う訳でもない。
 未だ平和とは程遠い。
「そこでねー、同族殺しぃぃぃーーーーー? なのかなー? それが上層の道の一つを塞いでいる存在を消しに向かってるんだよねぇ。そ・こ・で、君達には漁夫の利を取ってきて欲しいんだー」
 にっこにこで掠め取り作戦。
「いや…通せんぼの方もやばいけれど、同族殺しの方もやばいんだよねー。通せんぼの方は紋章付きだし」
 紋章。ダークセイヴァーでよくオブリビオンにくっついているあの虫。
 大体装着者を面倒くさく強化している。
「紋章。通せんぼにぶち込まれてる紋章は、物としては従属させる事も出来ない存在をその場に止める『楔』としての役割が強いみたいだねー。まぁその存在の固定が、同時に存在の確固化させて……まぁ防御力がヤベ―って感じだねー。倒し方はいつも通り削り切るか、それかどうにかして内部の紋章にダメージを与えて壊して、弱体化させてから倒すか」
 どちらにせよ、力でもって倒す事には変わりはない。
 紋章は、暫定的に『楔の紋章』と呼称するのだろうか。
「先に通せんぼをたおして、その後に同族殺しをたおす。ざ、シンプルだぁねー。実際何か面倒なタスクは無いから、ただ倒してくる。それだけだね」
 酔っ払いがグリモアを持ち上げる。
「さ、戦いが好きな人は?」


みしおりおしみ
 いえー!
 かける余裕が沸きだした!
 はい、みしおりおしみです。
 純戦がやりたいと思いながらここ二、三作位なにか心情重めの作品になってしまったが今回は大丈夫。
 思いっきり戦えるはずだ。
 だってボス戦二戦フラグメントだもの!

 はい、戦闘書きたいからこれです。
 特にマスターからの注意書きはありませんね。
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第1章 ボス戦 『絶望の集合体』

POW   :    人の手により生み出され広がる絶望
【振り下ろされる腕】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に絶望の感情を植え付ける瘴気を蔓延させる】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    粘りつく身体はぬぐい切れない凄惨な過去
いま戦っている対象に有効な【泥のような身体から産み出される泥人形】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    過去はその瞳で何を見たのか
【虚ろな瞳を向け、目が合うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【幾千という絶望な死を疑似体験させること】で攻撃する。

イラスト:井渡

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 街と言うよりかは都市と言うべき広大な灰色の箱庭。
 整然と並ぶ石造りの家。
 四方から見下ろす鐘楼。
 そして、崩れ残骸のみを残す城跡。
 人どころか、吸血鬼の気配すらない死んだ営みの領域。
 その場所に、巨大な何かが鎮座していた。
 山のように巨大な、凹凸の無い、光を飲み込む黒一色の塊。
 暗闇の世界ですらはっきりと視認できるより深く暗い不吉な黒。
「やっぱり邪魔よねー」
 その巨体からすればアリの足音のようなその声に、その『絶望』は目を開き足元へ目を動かした。
 絶望に抗う姿を愛する者、『絶望卿』アルマ・アークナイツ。
 笑う彼女を『絶望』は敵と認識した。
 地を平にする戦いが、始まる。


 1章、開始。
 開幕からクライマックス。
 アルマは特に、猟兵がちょっかいを掛けて来なければ猟兵を認識しても気にしないけれど、同時に巻き込まない様にとかも気にもしません。
 
・紋章
 『絶望』の体の内にある紋章。
 元から貫き難いし再生もするので弱点露出させるのも難しい。
 脳筋で削り殺すよりかは多少楽かも程度。
アーロン・フェニックス
壊せばいいんだろ?
いいね、そう言う話はオールシーズン歓迎だ。

こんにちは、絶望卿。僕は君とアレを、壊しに来たんだ……ま、僕がバラバラになってなければまた会おう。


《不退転》を噴かし『ダッシュ、空中戦』
じゃ、バラバラになっちゃうくらい撃ちまくろうかッ
《機巧腕》に《楽園》《光明》を連結、【UC】発動し『乱れ撃ち』

僕にとっての絶望はね、僕の引き金で全部が無くなった後にやってくるんだよ。敵も友達も荒れ野さえ失くなって、きっとそれでようやく僕は気付けるんだ。

俺はそれまで止まりはしないよ!
手始めにこの廃墟から平らにしてみようか、その頃にはみぃんないなくなってるかもね!

・アドリブ絡み歓迎



「こんにちは、絶望卿。僕は君とアレを、壊しに来たんだ……」
 アーロン・フェニックス(アーロン・ザ・テンペスト・f24438)のその声は、どこか奇妙な、抑えきれない感情を無理やり抑え込んでいるような声音だった。
 と言うよりも、躊躇なく同族殺しと化しているアルマ・アークナイツに声をかけていた。
「……」
 真っ正直に加害予告をされたアルマが顔だけで振り返り、薄赤の瞳と濃紅の瞳が結ばれる。
 が、アルマは少しすると興味が失せた様に視線を正面に戻すと剣を手に行ってしまった。
 フラれた、と言う奴だろうか。順番の事を考えれば都合よくはあったが。
「ま、僕がバラバラになってなければまた会おう」
 既に背も見えず、街ごと揺らす衝撃を作り出す存在にそれだけ言葉を落とす。
 ところで、どこか感傷的とも取れる様な台詞だが、アーロン自身の思考回路はまともに動いていなかった。
 何時からと言えばアルマに声をかける前から。つまり初めから。
 宣戦布告ともとれる言葉も先程の言葉も、ただ視界からインプットされた情報からぽろっとアウトプットされた言葉に過ぎない。
 どうしてそんな状態かって?
「壊せばいいんだろ? いいね、そう言う話はオールシーズン歓迎だ」
 とっくに理性も思考も脳も瞳も、衝動で焼いて溶かして蕩け切っているからだ。
 アーロンの背部推進器《不退転》に火が灯る。そして、
「ガ……っ…! …あァ!」
 体を引き千切る様な急激な加速を身に受けながら、空へと一気に上昇する。
「はっ…ぁ! じゃ、バラバラになっちゃうくらい撃ちまくろうかッ」
 一度息を吸い込み、その顔に凶暴な笑みを浮かべると、その巨大な両の機巧腕にそれはまた巨大な電磁投射砲《光明》と殲滅機関砲《楽園》を出現させ、それぞれに連結する。
 次の瞬間、鉄火の雨と幾筋もの光槍の様な閃光が生み出された。
 乱射。文字通りに乱れ撃つ。
 狙いも集中も何もない。
 火力でもって面で圧し潰す。
 数十発が明らかに周囲に逸れようが、数千発が当たるのだからそれでいい。
 敵である『絶望』自体、規格外の巨体でもあると言うのに、その体がアーロンの砲撃の爆炎でもってすぐに覆い隠されてしまう。
 しかし関係ない。射撃前に赤いマントが目に入った気がするがそれは初めから意識外。
 構わず衝動のままに、齎される反動で体と脳を揺らしながら破壊に熱望する。
「僕にとっての絶望はね、僕の引き金で全部が無くなった後にやってくるんだよ。敵も友達も荒れ野さえ失くなって、きっとそれでようやく僕は気付けるんだ…」
 どこか陶然とした様な調子で己の絶望を口にする。
 しかし、テンションがアベレージに入ったと思えば、一気に再びハイにまで点火する。
「俺はそれまで止まりはしないよ! 手始めにこの廃墟から平らにしてみようか、その頃にはみぃんないなくなってるかもね!」
 自身の周囲を砲音で満たし、衝動に委ねるままに地へ向け引き金を引き続ける。
 撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃ちまくり、
 壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊しまくる。
 どうなっているのか、どんな状況か、一旦土煙が晴れるのを待ってみようなどと言う考えは鼻から思い浮かばなかった。
 が、煙から真っ直ぐに飛び出し、天を突いた巨大さから見れば細くも見える白い腕がどう考えているかも関わらず状況を知らしめた。
 白い腕が空を飛ぶアーロンの遥か上まで伸び…次の瞬間、その視界が激しく回転した。
「ん…っな!?」
 ただ上げた腕を振り下ろしただけ。
 けれど、その速度がよく想像する様な巨人のゆっくりとした速度ではなく、腕が霞み、次の瞬間にはその手は地面を叩き付けていた。
 アーロンはその腕に当たった訳でも掠った訳でもない。
 ただ、振り下ろす余波で砕かれた大気に飲み込まれ揺らされただけに過ぎない。
 上下が何度も入れ替わり、天地を見失う中、何とかバランスを立て直し状況を再確認する。
 砲撃によって作られていた煙は衝撃波によって吹き散らされ、地面には巨大なクレーターと巻き上がった土石が降り注いでいた。
 『絶望』の巨大な目のような物がその体を這いずり動き、アーロンへ視線を向ける。
 離れた鐘楼に掴まっている赤いマントからも、視線を向けてきている気がするが気のせいかもしれない。
「……。……?」
 相手の姿がシンプル過ぎてどれくらいダメージが入ったのかよく分からない。
 黒一色だし大きいし。まぁ小さくなったような気がしなくも無い。
 とは言え、そんな事は特に気にする事でもない。
 まだまだ衝動をぶつけることが出来るし、壊し甲斐があるという事なのだ。
「君の全てを壊したいんだ! 俺の心を、見せてあげるから…さぁ!!」
 アーロンは笑う。楽しそうに、獰猛に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白河・文月
猟兵としての初任務でござる!
何やら壊せばいいと聞いてやってきたでござるが…何でござるあれ?
通せんぼでござるか、忍者らしく横をするっと通り抜けたいところでござるが…それではだめなようですな?

やや、何やら泥の人形が出てきたでござるな。
人形ごときで私をなんとかしようとは…!?
Nooooooo!
先輩!?先輩方でござらんか!?
こ、これはどうしたこと!?

先輩方に勝てる筋なんて見えないでござるが!?
など泣き言を言えば言うだけ教育と称して血まみれにされるので手裏剣で戦うでござるよ。
なんとなく手が震えて狙いが定まらない気もしますが!

ところでナントカ卿は先輩方をなんとかできるでござろうか?
…押し付けてしまおう。



「何やら壊せばいいと聞いてやってきたでござるが…………何でござるあれ?」
 白河・文月(忍び少女・f42351)はその光景をすぐに飲み込むことが出来なかった。
 文月は忍であり、忍びの里と言う特殊な環境で育ち、それなりに一般離れした生を生きて来たが、『猟兵』と言う世界からすれば修行中であったそれは箱入り娘の様なものだったのかも知れない。そう文月は感じた。
 向けた視線はずっと遥か高くを向いている。
 熊や、高い木、遠くの山の山頂へ向ける様な程度ではなく、仰ぎ見る。
 百メートルは優に離れていると言うのに、その敵の巨大さはその存在を極間近とすら錯覚させるような大きさであった。
 あの酒臭い案内人は確かにやばいとは言ったが、この類のやばいのだとは聞いていない。
「通せんぼ…でござるか」
 そう呼称されていたのもイメージに影響したのではないだろうか。
 だって『とおせんぼ』なんてなんか少し語感が可愛らしいじゃないか。
 もっとなんと言うか人間大と言うか、大きくても熊程度の敵がとおせんぼーしてるような気がするじゃないか。
 それがデイダラボッチかみこし入道かと言う様な、ちょっと苦無や小刀とか暗殺とかじゃ難しいかなーと言った具合。
 その巨大なのが、遥か高くをちらちら見える赤い点に向け腕を振り、外した腕が時々地面に叩き付けられる度に、地面が跳ねたように揺れ足が宙に浮く。
「忍者らしく横をするっと通り抜けるのであれば出来るでござるが……、それではだめなのでござるよな…」
 ここに到着しあれを見る前までは、文月は「猟兵としての初任務でござる!」とそれはそれは元気とやる気に満ちていたのだが、今は弱気が首をもたげつい気弱に呟いてしまった。
 が、実際これが奥に何か施設等があってそこに潜入とかならば、文月の言っている通りこうも悩みはしなかっただろう。
 が、うん。
 あれを倒すのが第一目標である。
 文月はがっくりと肩を落とし呻き声を上げながらも、とりあえずやるだけやってみようと顔を上げた…その視線の先に何かが居た。
 巻き上げられ拡散した瘴気や、恐らく攻撃で散ったのであろう黒い泥のような体の一部。
 それが様々な場所でゆっくりと寄り集まり、形を整え、立ち上がりつつあった。
「やや、何やら泥の人形が出てきたでござるな。人形ごときで私をなんとか~…しようと…は……」
 初めは気持ちを切り替え素早く臨戦態勢を取った文月であったが、それが後になるにつれ思いもよらぬものに出会ったように途切れ途切れの言葉になっていった。
 泥人形は人型を取った。
 その姿は判を押したような一定の形ではなく、それぞれ特徴…と言うよりも個人としての形があった。その総数が多いため探せば同じ姿の物もいるだろうが、それはあまり気にすることではない。
 重要であるのは…、
「Noooooooooooooo!」
 それが文月が知った姿や特徴を持っていた事だ。
「先輩⁉ どうして先輩方が⁉ こ、これってどういう事⁉」
 驚き過ぎてござるが抜けていた。
 忍びとしての上下関係。なにより自身は修行中の身で実力は半端者なのだ。
 先輩は先を行っていて自分よりも出来るから先輩。何度も怒らせてもいた。
(先輩達に勝てる筋なんて見える訳ないっ!)
 なんて思いはするものの、何とか口には出さないで置く事は出来た。
 とは言え、口に出さなかったのも矜持やそう言ったものでは無く、過去に泣き言を口にしてきたその結果の学習によるものだった。
(言ってたら血まみれ…!)
 泥人形が武器を構え、飛ぶように距離を詰めて来た。
 わざと視界の内に入り注意を引き付ける者。
 遮蔽物に隠れたり、現れたりを繰り返しながら接近し意識のリソースを割く者。
 そして、完全に死角を熟知し音を消し近づく者。
 訓練でも修練でもない。
 文月は手裏剣を手に取るがその手は震えていた。
(勝てる訳ないっ)
 何時も通り、修行通り、学んだ通り、手裏剣を放つ。
 けれど、それは思い通りに飛ぶ事は無かった。
 焦りか怯懦か、それとも本人でないと分かっていても知っている顔に殺意を向け投げる事に躊躇があるのか、冷静さを欠いた現状ではそれが分からない。
 ただ、当たらないという事だけしか分からない。
「~~~っ。あのナントカ卿とか言うのは…、もうあのナントカ卿と言うのに押し付けて……」
 背後へ下がりながらどうにか戦い、そしてふと…空で大気が揺れ動くのを感じた。
 巨大な存在が動き、空気が攪拌された後、その場所に引き戻されている様な感覚。
「……ぁ」
 『絶望』がこちらに体を向け、腕を振り上げていた。
 その目は文月を見ていない。
 遥か高く、宙を跳んでいるアルマだけを狙ったものだった。
 けれど、どちらにせよ起こる事は変わらない。
 狙われた所で、巻き込まれた所で。
 『絶望』の白い腕が霞んだ。次の瞬間にはきっと衝撃と土砂に踊らされる事だろう。
 絶望とはとかく泥のようだ。
 それに屈せば、飲まれれば、体が遅々として動かない。
 諦観。
「――――ハっ」
 微かに、文月の耳に笑った声が聞こえた。直後、空で衝撃波が弾けた。
 白い腕とアルマが衝突…いや、白い腕をアルマが巨大な魔方陣を背にその剣でもって迎え撃ち、そして弾き返していた。
 その結果、『絶望』は軽く仰け反る様にバランスを崩し、アルマはその反動により地面へと叩き付けられた。
 落下の衝撃で舞い上がった土煙が、文月の前方に生まれていた。
 ぱらぱらと地面を形成していた石畳の細かい欠片が文月の方まで飛んできた。
 もしかして、死んでしまったか。
 まともな生物であれば死んでいる。
 土煙が晴れればそこには大量のトマトを叩き付けた様な状況が…。
(なんて考えてる状況じゃないっ)
 飛び道具が鋭く飛来する。泥人形は構わず文月を狙い迫って来る。
 恐らく、既に詰みへのレールに乗せられている。
 避けられているのは避けさせられた攻撃。外れている攻撃は、誘導する為の攻撃。
 何手先か、数手か、数十手か。
 突破出来なければ詰む。
 打開する手立てを探る為に忙しなく動く眼球。
 その視界の中に、赤色が揺れた。
 薄れる土煙、その中で赤色が揺れ…
 そして、視界の中、泥人形が、全て、一斉に、弾け飛んだ。
 甲高い擦る様な音を立て、長大な蛇がのたうつ。
「かったいわねぇ」
 面倒そうな、けれど何処か喜色の滲んだ呟きと共に、泥人形を貫いた鎖を手にアルマが土煙が吹き散らされたそこに居た。
 土汚れはある。だが、五体満足でどこかしら痛めた様子も見えない。
 文月の視線の先、アルマは鎖を引き戻すと一瞬で再び『絶望』へ向かっていった。
 一度も文月へ視線を向ける事も無く。
 これが、『猟兵』と言う世界。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
本当、邪魔ね、オブリビオンって。この規模、ちょっとした人類砦くらいないかしら?
同族殺しが来る前に紋章持ちのヴァンパイアを討滅する。随分とハードな話だわ。やってやろうじゃない。「負けん気」が頭をもたげてくるわ。

「全力魔法」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「結界術」で紅水陣を展開。
何者をも溶かし尽くす紅い強酸の世界に、いつまで耐えられるかしら。紋章も溶かせたらいいわね。

視線が合う前に、「霊的防護」の「オーラ防御」。邪眼が精神に干渉する事を防ぐ。目を開けていると、酸が流れ込んで痛いわよ?
敵が目を閉じたら、すかさず「封印術」。二度と目を開かせない。

あなたにばかり構っていられないのよ。次が使えてるんだから。



 村崎・ゆかり(|紫蘭《パープリッシュ・オーキッド》/黒鴉遣い・f01658)は独り言ちる。
「本当、邪魔ね、オブリビオンって」
 どこに行っても、何があっても、猟兵をしているからと言うのもあるが出会わないという事が無い。
 それに、
「この規模、ちょっとした人類砦くらいないかしら?」
 今、目の前に居るのはとにかく巨大だ。
 都市一つを占有する巨体。もしこれが動き回れていれば、ただ踏み潰すだけで人類砦は消されていただろうから、これが楔で邪魔止まりで収まっていた事は幸運な事だろう。
 同族殺したるアルマが既に戦っている為、今はまだ気づかれておらず、こちらに攻撃は来ない。
「それじゃ、古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ!」
 廃都市に雨が降り始めた。赤い雨。赤く、けれど黒みを帯びた血のような雨。
 そして滞留する様に地上に満ちていく赤い靄。
 雨滴に当たった石材が雨滴の跡をなぞる様に削れ、そして時間が経つにつれ形を崩し、ただ丸みを帯びた物体と化していった。
 溶解していく。
「いつまで耐えられるかしら。紋章も溶かせたらいいわね。」
 村崎自身は結界の展開を繰り返す事で赤い雨と靄を遮断しつつ状況を観察する。
 『絶望』はその目を上へ移動させ、降ってくる雨を疑問そうに観察していた。
(うーん、目に当たっても問題無し…ね)
 溶解で目が潰れればいいと思ったが、生物的な器官としての目と言うよりも、象徴やシンボルとしての目なのだろう。
 と、そう考えていると頭上に影が落ちた。
「――え?」
 尖塔が飛んできていた。
 飛んでくる中で形を崩していったのか、無数の瓦礫を伴いながらも間違いなく村崎を狙った軌道で飛来した。
「あぶなっ」
 村崎は急いでその場から走り離れると、術式で防御を張り砕けた礫を防いだ。
 が、それだけでは終わらなかった。
 その防御を砕く様に赤黒い剣が降り、地面に突き立った。
 さらに続いて次々に雨に雪でも混じったかのように剣が降り注ぎ、避けそこなった溶けて刃が鈍った剣に肌が削られる。
「これっ……紅水陣に重ねられてるっ」
 UCから感じる力的にあの巨大な『絶望』の物ではない。
 そしてこの戦場にはもう一人、居る。
「見逃してはくれなかったのねー」
 『同族殺し』『絶望卿』『アルマ・アークナイツ』。
 遠く、崩れつつある城壁から、その身を雨で溶かす事無く視線を突き刺してきていた。
(不死性の付与…ね)
 村崎は自身の身体、剣で削られた筈の場所に視線をやる。
 白い、傷一つない綺麗な肌。ただ痛みだけが頭に伝わってくる。
 ちょっかいをかけた。
 それに、投げられた尖塔によって『絶望』に見つかった。
 目が真っ直ぐに村崎に向けられている。
 手を翳し直接目を合わせないようにするが…すぐに走り出した。
 『絶望』が腕を振り上げるのが見えたからだ。
 警告止まりだったのか剣の雨は止んでいる。敵は血の雨で、自分が時間を稼げれば弱っていく。
 事実、初めと比べれば縮んでもいるし、一番目の猟兵の時と比べれば腕を地面に叩きつけた時の衝撃も弱まっている。
 相手の目を見ない様に注意しながら逃げ続ける事は面倒ではあるが…最後まで付き合う必要は無いのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葉月・静夏
猟兵になってから……半年くらいになるけれど、この世界は初めてね。オブリビオンも強いみたいだから、どんなにスリルのある戦いができるのか楽しみだけれど、気を抜かないようにしないとね。

私は攻撃より防御のほうが得意。敵も防御力が高い。私だけでは長期戦になりそうね〜。とはいえ1人ではないので、得意を活かして戦ってみるね。
絶望に対してすぐに【夏印・盛夏斧爆】で夏印を貼るよ。これで私を優先して狙ってくれるとアルマも攻撃に集中できると思うの。
夏印が付いている間は【鉄壁】の守りで耐え、敵の動きに慣れてきたら【ジャストガード】でよりダメージを抑えつつ、反撃も狙っていくよ。



「猟兵になってから……半年くらいになるけれど、この世界は初めてね」
 そこに立つ猟兵は、戦場に立つにしてはあまりにも軽装が過ぎた。
 少々粗く言えば下着とも……世界的に見ればビキニアーマーの方が露出が多い気がする?
 それは五十歩百歩…他に例があったのだからつまりおかしくは無い?
 そうかもしれない。
 そこに立つ猟兵、葉月・静夏(せい夏・f40839)は装備としては露出の多い軽装であり、武器や防具のような物が見えなかった。
 それでも、一切の不安や緊張は表情に見えず、逆に期待する様な、スリルを楽しんでいる気配さえ覗かせていた。
「オブリビオンも強いみたいだから、気を抜かないようにしないとね」
 静夏は小さく笑みを浮かべると駆け出した。
(私は攻撃より防御のほうが得意。相手の防御力を突破できるか分からないわね)
 削り倒す…なんて言われたけれど、自分ではどうしたって長期戦になる。
 けど…、
「私は私の得意を活かして戦って…、今回は1人じゃないからね」
 都合よく利用できる存在が居る。今戦っている『絶望』と同格ともいえる強力な存在。
 同族殺し。アルマ・アークナイツ。
「|夏印《サマーシール》!」
 静夏は縮んだとは言え壁の様にそびえる『絶望』の体に左拳を叩き付けた。
 真っ直ぐな正拳突き。いい打音が響いた…が、無論ダメージとしては細やかに過ぎる物だった。
 静夏はすぐさま後退し、敵の全体を視界に収める。
 先の一撃の効果は絶大であった。
 ダメージは些細であったにも拘らず、敵の目は真っ直ぐに静夏に向けられていた。
 静夏が敵に付与した夏印。それは敵の注意やヘイトを静夏に優先的に向けさせるもの。
 静夏がやろうとしてる事は単純明快であった。
 攻撃はこっちで受け切り、アルマに全力で攻撃に集中させる。
 スリルとリスク溢れる選択であった。
 アルマが一撃を入れたのか衝撃音と共に敵の身体が傾ぐ。けれど、だと言うのにその視線は静夏から外れる事も無くその腕を振り上げた。
(根性っ)
 静夏は両腕を頭上に揃え受ける姿勢を整える。次の瞬間、視界を白が埋め尽くすと共に絶大な衝撃が襲い掛かった。
(―ッ!)
 衝撃に耐える足が地面を突き破る様に突き刺さり、次の瞬間に衝撃が伝播し周囲が砕け散る。
 以前から守護を役目に戦ってきたからこそ受け切れているが、それでも多少痺れるようなダメージが響く。
 メディックが居れば言う事がないが、居ないのだから無い物ねだりだ。
 それよりも…と、静夏が周囲へ視線をやる。
 周囲に土埃とは別に黒い瘴気が漂っていた。
 心に絶望を植え付ける瘴気。今影響が無くとも、何時か影響が出てくるかもしれない。
(けど、それは私の心の持ちようよね。私の心か肉体が先に倒れるか、向こうが倒れるのか先か…楽しいわね)
 横殴りに地面ごと削り取る様な一撃を、押し込まれる様にしながらも確かに受け切る。
 さらに、アルマは動き回っていたが、静夏はその場で受け切るか前の為に、すぐに次の一撃が続く。
 一撃。二撃。一般人からすればその衝撃はビルで殴られる様なものだろう。
 そんな物を静夏は受け続ける。
 そして、数度目を受け切った時、呟いた。
「そろそろ分かってきたかも」
 そして、敵が腕を振り上げ、叩き付けた。叩きつけようとした。
 なぜか、敵の白い腕が地面ではなく、弾き返され泳ぐ様に敵の頭上で揺れた。
 静夏は今回受け切るのではなく迎撃したのだ。
 大振りで、単調な振り下ろされる腕のタイミングを見切り、変則式ではあるが掬い上げる様に体を回し、腕全体を使う左ラリアットでもって勝負し、打ち勝った。
 自身の意思とは無関係に跳ね上げられた腕を、それが驚きの感情を持っているのかどうかわからないが、敵の目がそれを追う。
 その視線の先で、腕がブツ切りにでもする様に一瞬で幾つにも断たれた。
 いつの間にか、空中に巨大な魔方陣が描かれていた。
 アルマが加速する。自身の残像すら置き去りにし、まるで分身した様に敵に殺到する。
 『絶望』が仰け反り、衝撃に背後へ押し出される。
 身体を抉られ、幾つもの剣撃が重なるように響き…そして後に続く音は無かった。
 動きを止めた『絶望の集合体』が、暗闇に滲む様に消えていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『絶望卿』アルマ・アークナイツ』

POW   :    死が貴方を連れ去るまで
【ユーベルコードを強制停止する血鎖の鞭】が命中した対象を爆破し、更に互いを【自身の負傷の全てを相手に転写する呪いの鎖】で繋ぐ。
SPD   :    “とかく一目惚れとは暴力の如く”
自身の【行動時間をレベル倍速化する巨大魔方陣】が輝く間、【超怪力を用いて操る重量レベルtの魔剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    鮮血の恋歌
【殺意を戦闘力そのものに変える無数の殺戮剣】を降らせる事で、戦場全体が【全ての者に一時的な不死を与える悪鬼の地獄】と同じ環境に変化する。[全ての者に一時的な不死を与える悪鬼の地獄]に適応した者の行動成功率が上昇する。

イラスト:らぬき

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 『絶望の集合体』が消えると、その廃都市は一気に物寂しい雰囲気を発し始めた。
 先の戦いで構造物と言う構造物は元の形を失くし、瓦礫の山と言った方が正しい場所と化していた。
 その、瓦礫が重なった最も高い場所で腕を上げ、背伸びする者がいた。
 『絶望卿』アルマ・アークナイツ。
 そして、その視線を猟兵へ向けた。
東・御星
恋人のゆかり(f01658)は歴戦の猟兵。
ダークセイヴァーに討伐に向かったのを
聞いた私が箒で飛んで後追いしつつ…!よし、見つけた!
電装体に移行して、武器の取り回しの都合上箒は以後飛行ユニット
兼武器になる。
細かく回避機動をとりつつ相手に硬質残光の弾丸と、
GRANDビットによるオーラ防御と自律攻撃によってゆかりをかばいながら、
私が一番警戒しないといけないのは…。
要は…命中しなきゃいいのよね?
「それなら…こんなのはどうかしら!?」
睦ノ型・「玲」の鏡で無数の私とゆかりの偽物を作り出し
炎の幻で相手を翻弄しつくす。どう!?
「恋人の役に立てないってね、私の癪に障るのよ!」
終わったらゆかりとハイタッチ!


村崎・ゆかり
恋人の御星(f41665)と

来てくれたのね、御星。心強いわ。一緒に戦いましょう。

「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「串刺し」で寒氷陣を展開。
足下から一斉に、氷の槍を生み出し貫く!

氷柱を動かして敵の攻撃の「盾受け」に利用しつつ、死角から氷柱を突き込ませる。
氷柱はまだまだあるんだからね。
その上で、「オーラ防御」を張って、機甲式式神の『鎧装豪腕』を自分を「盾受け」で守らせるために「式神使い」「召喚術」で喚び出す。
しっかり「陽動」して御星への注意を逸らさせる。

あなた、人間に期待しすぎよ。勝手にやること決められても困る。
もちろん地元の人たちの協力は必要だけど、手に負えないのはあたしたち猟兵が狩る。



「よし、見つけた!」
 箒型の飛翔機を駆って東・御星(旅は道連れ揺らり揺られ・f41665)が村崎・ゆかり(“|紫蘭《パープリッシュ・オーキッド》”/黒鴉遣い・f01658)を追って飛来してきた。
 すでにその姿は電装体に移行しており、早々に上空からの光で形成された弾丸での援護射撃が開始された。
「来てくれたのね、御星。心強いわ。一緒に戦いましょう」
 村崎はその箒が引く軌跡を見やり、頼もしそう呟くと自身も詠唱を開始した。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。冷たく凍えし絶望の爪牙よ。地の底より目覚めて、大地を闊歩する傲慢なる衆愚を穿ち貫け。疾!」
 その声に、上空からの射撃を慌てる事も無く軽いステップで数メートル跳んで避けつつ、東の動きを目で追っていたアルマが視線を向けた。
 アルマの足元で、何か弾ける様な割れる音が響き、次の瞬間その一帯に氷の槍が空を貫く様に乱立した。
 幾つもの氷柱が身を擦りつけ、削り合いながら、軋み泣く様な音を発しながら伸び…
「二人掛かり? けど、うーん…もっと激しくできるわよね?」
 容易に、当たり前の様に、当然の様に氷柱のその先端に立っていた。
「緩いダンスも温いテンポもつまらないでしょう? 躓いてしまう様な、足を取られてしまう様な、激しいテンポで……出来るでしょう?」
「甘く見てっ」
 東が上空から重ねて銃撃をするが、間に合わない。
 安全を重視した位置取りゆえに、放たれた弾丸は氷柱のみを撃ち砕く。
 そしてアルマは次々に発生する氷柱を背にし、村崎を間合いの内に捉え剣を振るっていた。
「っ!」
 村崎は自身とアルマの間に氷柱を重ね壁にしようとした…が、
「ふっ…」
 氷柱が纏めて、なんの淀みも無く両断され、『ガン』…とその砕かれた氷の奥で鈍い衝突音を響かせて剣が止まった。
「あら、よかった。届かなくって」
 落ちる氷の向こうに巨大な籠手があり、それがアルマの剣を受け止めていた。
「あなたはっ」
 空から降る弾丸と足元から襲い掛かる氷柱を、アルマは村崎から距離を離す事無く脇を抜ける様に潜り抜け、手首のスナップだけで鋭い斬撃が走る。
「こうすればあっちの子は貴女を気にして撃ちにくい。貴女もあの氷柱は出しにくいでしょう? それで?」
 アルマが笑う。まだまだ本気でないと言うように。
「あなたは人間に期待しすぎよ。勝手にやること決められても困る。もちろん地元の人たちの協力は必要だけど、手に負えないのはあたしたち猟兵が狩る」
 村崎は浮遊する籠手を軋ませながら受け止め、薙刀を手に出し振るう。
「変な事を言うわね。期待しすぎって、どうせ出来ないって期待してないような物よ? あら、あっちの子もこのくらいの状況は越えられるわよねー」
 いつの間にか、周囲に合計九基の自立兵器『GRANDビット』が浮遊していた。
 そして、それらが突撃と射撃でもって割り込むように、無理やり村崎とアルマの間に距離を作る。さらに…
「まぁ…」
 アルマが感心したような驚きの声を上げた。
 村崎と自立兵器が幾つも、ぐるりと数えるのも面倒なほどに増殖していた。
 睦ノ型・「玲」。
 東・御星のUC、その効果の一つ。あらゆるものを自在に映し偽物を作る氷の鏡で、自立兵器がアルマの視界を遮る一瞬の内に複製したのだ。
「あはっ」
 アルマは驚いた。だから笑った。対応してくる。適応してくる。
 隠し玉を持っている。
 やはり猟兵は楽しい。
 だから、ユーベルコードを使った。
 一瞬で巨大な魔方陣が暗い空を覆いつくし、その禍々しい輝きが地上を照らす。
 そして次の一瞬で、作り出され動き出そうとしていた幻影の大半が消し飛ばされた。
 舞う、踊る、鎖と剣を手に。
 そして、その目が捉えた。
 操る者の対応力が高いのか、危機察知の勘がいいのか、どちらにせよ“危険に反応し、自立兵器が大勢の内の一人を護る様に”集まっている。
 その一人が本物だ。
 アルマは瞬く間に肉薄し、そしてほぼ重なる様に九つの撃音が響いた。
 九つの“本物”の自立兵器が村崎を護り吹き飛ばされた。
「ひひっ」
 剣が振り下ろされ…
「………っこんなのはどうかしら⁉」
 アルマの真横からすさまじい速度で何かが突っ込んできた。
「空のっ」
 アルマは突撃されるがギリギリで反応し、肋骨の一二本が折れる程度で脇腹にめり込むそれを掴んでいた。
 突き刺さるそれは箒型の飛翔機。東が降下とブースターを全開で回し、加速に加速を重ね突撃を仕掛けてきたのだ。
「恋人の役に立てないってね、私の癪に障るのよ!」
 さらに追い打ち。
 その状態で、弾丸を連射した。
 避けようなど無い。
 アルマの腹を何発もの弾丸が穿ち、その手が箒を放し落下する。
「やるわねぇ!」
 けれど、その口から血を零しながらもその目には嬉々とした色に満ちていた。
 落下し、手から付こうとしたその地面から、直前に鋭い氷柱が真っ直ぐに伸びる。
「わっ」
 氷柱が手を貫く…も、そのまま掴み腕の力だけで体を回すように投げ着地した。
 アルマの戦意は揺らぎない。しかし、間違いなく深手だ。
 村崎と東はその戦果に互いに手を打ち合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葉月・静夏
絶望する程ではなかったけれど、なかなか楽しい戦いができたね。
次も絶望と付く相手ね。先程ちらっと見えた戦いぶりだけでも間違いなく強敵。もっと楽しい戦いができそうね。

敵のユーベルコードが攻撃を避けるつもりのない私とは相性が悪そう……だけれどそれを超えてこそね。
戦い方自体は先程と同じように【鉄壁】の守りで耐えて隙を見て反撃。動きが見えてきたら【ジャストガード】をしてより強い反撃を狙うこと。
ユーベルコードを受けて鎖でつながれたらすぐに鎖を腕に巻くよ。この腕を防御に使って敵の攻撃で鎖を破壊しつつ【一頭両断西瓜割り】での反撃を狙いたいね。
あるいは【怪力】で鎖を千切ることも考えてこうかな。



「絶望する程ではなかったけれど、なかなか楽しい戦いができたね」
 葉月・静夏(せい夏・f40839)は少し陶然と、けれどどこか物足りなそうな表情をしていた。
 自身の数十倍もある相手の攻撃を受け続け、それでも物足りない。
 スリルが足りない。スリルが欲しい。
「けど…」
 ついさっき目にした、もう一人の絶望を冠する敵の戦いぶりはすごかった。
 間違いなく強敵。
「ふふっ…もっと楽しい戦いができそうね」
 静夏は口元に、つい笑みを浮かべてしまう。
「あら、良い戦い方をしてた人」
 アルマがその気配に反応し顔を向ける。
 静夏がアルマを目にした様に、アルマも静夏の動きを認知していた。
 真正面から折れず恐れず立ち向かい戦うのは、アルマの琴線に触れる戦い方でもあった。
「貴女、無手よね? じゃあこっちも剣は無しね」
 そう言うと、アルマは軽い動作で剣を地面に突き刺した。
「ああ、勘違いしないでね? 手加減じゃなくてその方が楽しいからだから」
 腹から血を流しながらアルマは軽やかに笑い、その声が終わらぬ内に目の前に踏み込まれていた。
 静夏はアルマの拳を腕で受ける。
 重い。受ける為に力を込めていた腕は容易く押し込まれ、地面を踏みしめた足が地を削りながら後退させられる。
 けれど、そんな事は戦い続けた中で幾度もあった。
 それでも、守り、耐えて、それで生きて勝って来たからここに居る。
 押し込んできていた拳の力が消えた。
 アルマが腕を引き戻す。腕が伸び切った。
 違う。静夏の目の前で握られていた拳が一瞬でほどけ、絡みつく様に腕を掴んで来ていた。
「ははっ」
「っ!」
 そして、押し込まれていた力が瞬く間に引かれる力に変わり、足が浮いた。
 アルマが体を捻る様に回転し、静夏の身体が振り回され、投げられた。
 10メートル。20メートル。30メートル。
 手放された風船の様に容易に地上から距離が離れていく。
(――けど)
 このまま落ちるだけであれば、静夏であれば怪我一つなく着地できる。
 けれど、ここで終わるわけがない
 腕に何かが絡みつき、関節が引き延ばされ軋むような感覚と共に空中で無理やり引き留められる。
 右腕に鎖が絡みつき、真っ直ぐに伸びる。
 そして、視界がブレる。
 腕を鎖で引き絞られる痛みがし、勢いよく下へと引き摺り落とされる。
 離れていたはずの地面が今度は勢いよく接近していく。
(このくらいっ、はっ……ね!)
 静夏は鎖に引かれる右腕に力を込め、引き返す。そうする事で右腕を前に引かれる状態から、勢いをつけ体を前に出し体勢を立て直す。
 衝突する勢いのまま足から地面にぶつかり、膝をたわめ、何とか勢いを抑え鎖に引かれるままに地面を蹴り前へ跳ぶ。
 一度、二度と地面を蹴り体を浮かし、勢いを乗せ肘を前へ振るう。
「かったいわね貴女」
 突き出した肘から衝撃が体に伝わる。
 アルマが向かえる様に放った蹴りと肘がぶつかっていた。
 鈍い音が響き、反動で距離が開く。
 二人の間に繋がる鎖に静夏は視線を一瞬やり考える。
(これが繋がってる限りUCが使えないのね。千切る方法は…)
 けれど、そんな事を深く考えている余裕はなかった。
 アルマが怒涛に攻勢をかけて来た。
 殴られ、蹴られ、その度に骨が軋み痺れる。
 そして、力押しだけでなく時に掴まれ、時に足を刈ってくる。
 力に備えすぎて体が硬くなれば技術でもって体勢を崩され、小手先に気を向け過ぎて守りに隙間が生じれば力でこじ開けられるだろう。
 静夏は守りを潜り抜け喉元に迫る手刀をギリギリで躱し、腕を払い攻勢をなんとか捌く。
 アルマの攻撃を右腕に絡んだ鎖で防ぎ壊そうと思っても、それに気付かない敵ではない。だから、鎖の破壊も反撃も一度きりのチャンスだろう。
「……だけれどそれを超えてこそね」
 静夏の顔に焦燥は無い。
 どうするか、何をするか。
 誘えばいい。自分を倒せる隙を作り、殺せず鎖が外れるか、殺して勝利するかの。
 拳が空気を震わせる。足が音を断つ。
 その度に鎖が擦れ、音を鳴らす。
 そして、静夏の身体が背後に泳いだ。
 それを逃す事無くアルマが踏み込む。
 二人の間に鎖が泳ぎ、振るう拳に重なる。が、止まらない。
 アルマの拳が鎖ごと静夏の胸の中心を撃ち抜いた。
 ……。
 静夏の口から静かに血が零れ………静夏の右手がアルマの腕を掴んだ。
「貴女って私より頑丈なんじゃないの?」
 アルマの呆れた様な称賛を耳にしながら、静夏は罅の入った鎖を左手で握り壊してからその身を大きく仰け反らせ…ヘッドバットをかました。
 会心の一撃!
 静夏の額は吸い込まれる様にアルマの額を撃ち、とてもいい音を響かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーロン・フェニックス
結局街一つ潰すってのは難しかったか。いやはや僕ってば伸び代だけの男だな。
今日はせめて、絶望卿の首飛ばすくらいの成長を見せないとね?

射撃武装を《相棒》に積載し、援護を任せる(自身を巻き込んで)『なぎ払い、
制圧射撃』

《不退転》を噴かし『ダッシュ』、機械触手《悠久》で牽制しつつ砲鎚《大団円》を手に殴り合いに臨む。
血鎖の鞭を食うタイミングを『見切り、咄嗟の一撃で』【UC】発動

武装破損後は自身の手足を『破天荒』
として剣相手でも躊躇なく打ちこむ



君と俺とを別つ、ひと時の死を……さあ、世界に刻み込んでやろうよ!


アドリブ絡み歓迎



「ああ…」
 嘆く声が聞こえた。
「結局街一つ潰すってのは難しかった……か」
 静かに、心を痛めた様にアーロン・フェニックス(アーロン・ザ・テンペスト・f24438)は嘆いていた。
 念願果たせなかった様に、空を仰ぎ、目を閉じて…。
 しかし、アーロンは突然に目を全開まで見開き、テンションを最高にまで引き上げ喝采する。
「いやはや! つまり! 僕ってば伸び代だけの男だな!」
 腕を大きく広げ叫ぶ。
 不出来の嘆きが可能性の理想へ裏返る。
「今日はせめて、絶望卿の首飛ばすくらいの成長を見せないとね?」
 そんなアーロンの背後に爆音と共に武装貨物車が横滑りしながら突っ込み、アーロンがその両手の射撃武装を放り投げれば貨物車のアームがそれを空中でくわえ込み、武装の一つとした。
「それじゃあ…」
 アーロンの推進機に光が灯る。
 それがどんどん熱と光を強め、そして。
「君と俺とを別つ、ひと時の死を……さあ、世界に刻み込んでやろうよ!!」
 それが最高潮に達した時、爆発した様に飛び出した。
「……? ああ、トリガーハッピーか」
 アルマは突っ込んでくるアーロンと、その背後からアーロンごと巻き込むように迫る砲火を見て、剣を地面から抜きながら納得した。
 そして衝突した。
 速度と勢いと衝動のままに、押して押して押して押し続ける。
 アーロンは背部から機械触手を鋭い速度で伸ばすが容易く剣で叩き落とされる。
 が、それは牽制のサブに過ぎない。
 メインは両の腕に砲戦鎚を装備しぶん殴る事だ。
「おおおおぉぉぉぉおおっるぁぁあああ!!」
 砲戦鎚が唸る……しかし、その度にアルマの身体が翻り、回り、跳ぶ。
 アルマの足が伸び、閃き、砲戦鎚の側面を砲弾でも当たりでもしたかの様な威力で蹴り付け避けられる。
 降り注ぐ砲弾が、揺らめき薙ぎ払う鎖に遮られる。
 幾条も伸び貫く機械触手が、器用に最小動作で払われる。
 唸る砲戦鎚が、まるで曲芸の如く蹴り逸らされる。
 その全ての動作に澱みも不合理も無く、流れる様にこなされる。
 それどころか、アルマの剣が既にアーロンの身体に幾つもの傷をつけていた。
 アーロンは勢いでは押していた。けれど、趨勢において押されていた。
 そんな中で、アーロンは……高揚していた。
 力を、力を、力を、力を、力を。
 全てを壊し尽くす。全てを焼き尽くす。全てを圧倒する力を。
 全てを呑み込んで、全てを圧し潰し、全てを押し流すような力の本流を。
 衝動に呼応して、出力が燃え上がる。
 アルマの鎖が自分の横を通り過ぎて背後へ伸びていくが今はどうでもいい。
 背後からあった砲撃が途絶えたが今はどうでもいい。
 なんか背後の上の方で風切り音がして影が出来た様な……多分武装貨物車が降って来ているが、今はどうでもいい。
 今は気分が乗ってきたのだから。
「え、馬鹿?」
 鎖で武装貨物車を引き投げたアルマが、一切背後を気にする素振りの無いアーロンについ呟くがやはり気にされなかった。
 落ちてくる武装貨物車は二人へ直撃コースだが、位置取り的に先に当たるのはアーロン。アルマであればアーロンが潰されてから退く事も出来る。
 だからアルマは焦る事も無くただ呆れていた。
 その視界の内でアーロンの持つ砲戦鎚がスパークし、その全体に内から溢れる電流を纏いだした。
 ユーベルコード。
 だから、アルマは自身のユーベルコードでそれを強制停止させる為に鎖を放った。
 鎖と砲戦鎚がぶつかる瞬間、砲戦鎚がアーロンの右腕ごと破裂し膨大なエネルギーを撒き散らす。
「―――は?」
 アルマが目を見開き、初めて表情を変える。
 けれど、息を付く暇も無く再び電光が弾ける。
 アーロンのもう一方、左腕の砲戦鎚から電流が溢れ出す。
 鎖はさっきの爆発であらぬ方向へ飛び引き戻す時間は足りない。
 さっきの結果からして蹴り飛ばすのはリスクがある。
 だから、剣で迎え撃つ。
 アルマはそう結論し、剣を振りかぶり叩き込まれる砲戦鎚を迎撃した。
 衝撃が弾け、アルマの剣が砕け散る。
 同様に、アーロンの残った左腕ごと砲戦鎚が砕け散っていく。
「……。」
 アルマは衝撃にやられ体勢を崩している。
 けれど、アーロンも体勢を崩し、その両腕も喪失した。
 これで終わりだ。アーロンの勝ちは無い。
 そう、アルマは思った。
 アーロンはそうは思っていなかった。
 アーロンの背部推進器が無理やりアーロンを押し出しアルマへ接近し、その足が…無刃刀《破天荒》が鞭の様にしなり振るわれ……アルマの首を断った。
 アーロンは蹴りの勢いで推力が荒れ、横へそれながら地面に転がりながら停止する。
 アルマはそのままの勢いで慣性に引かれ地面を転がり…その上に武装貨物車が落下し盛大に爆発を巻き起こした。
 火薬やその他エネルギーのミックスされた盛大な爆発、生きてるはずも無い。
 ここに、戦いは終わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年01月06日


挿絵イラスト