聖なるかなアリウム・シーパ
●クリスマスイベント
リアルでは味わえないクリスマスを。
そう銘打たれたイベントがゴッドゲームオンライン上では開催されていた。
灰色の現実とも言うべき『統制機構』に支配されたクリスマスは、サプライズであったり、予期せぬ喜びというものは存在しない。
サンタからの贈り物一つとっても『人生設計図』に記されている。
最初から決まっているのだ。
変更なんて無い。
だから、クリスマスと言っても何ら普段の日常と変わらぬ、ただ名ばかりの日だったのだ。
「でも、此処は違うんですね!」
ノーチェ・ハーベスティア(ものづくり・f41986)は他のゲームプレイヤーたちでごった返すイベントエリアの街並みを見て声を上げる。
そう、今はクリスマスイベントでゲームプレイヤーたちが集う拠点はクリスマスカラーに染まっているのだ。
以前、猟兵としてエネミーに占拠された拠点でクリスマスイベントが行われているというメールをもらい、こうしてノーチェはやってきていた。
『学園』と呼ばれている拠点。
此処で行われているのは、クリスマスマーケットと銘打たれたフリーマーケットだ。それにクリスマスマーケットに出店する際の場所代が不要とされているのだ。
それならば、とノーチェは自分がアイテム合成で作ったアイテムや、農園エリアで作り上げた野菜アイテムを売り出そうと決めたのだ。
「いらっしゃいませー!」
ノーチェの言葉にゲームプレイヤーたちが彼女の用意したアイテムを覗き込む。
「これは? 農作物アイテムっぽいけど」
「あ、それはですね。アイテム素材を元に種子から育てたものなんですよ。ポーション効果があるんですけど、調理スキルと合わせると別の効果も期待できるみたいなんです!」
ノーチェの説明にゲームプレイヤーたちは、なるほどなぁ、と感心している。
その視界の端で『たぶん玉ねぎ』みたいな物体がうろちょろしている。
いや、なんで『たぶん玉ねぎ』なのかはわからない。
ノーチェが初めて作った植物なのだが、何故か勝手にちょこちょこ歩いたりできるようだった。
テキストデータを見て、詳細はわからないのだ。だから、『たぶん玉ねぎ』
「そいつもアイテムなの? なんか勝手に動いているけど」
「あ、それは、そのー……『たぶん玉ねぎ』です」
「たぶん、なのか……」
そうです、とノーチェは曖昧な顔をしてしまう。
売り物じゃないよな、とゲームプレイヤーは思ったのか、並べられた幾つかの作物アイテムを買い込む。
「アイテム合成でいいんだよな? 調理スキルも要る?」
「あった方が結果がよくなると思いますよ。ありがとうございました!」
ノーチェは初めて自分の作ったものが売れたという喜びに震える。
すると、『たぶん玉ねぎ』もまた、彼女の感情に触発されるように体をぷるぷる震わせ、びょいん、とその場でジャンプして見せる。
「ふふ、君も嬉しいんだね」
ノーチェは笑う。
『たぶん玉ねぎ』というほかない謎のアイテムだけれど、ああやって跳ねている姿は可愛らしいとも言える。
なら、とノーチェは己のアイテムの売上を握りしめて『たぶん玉ねぎ』を手招きする。
「おいで。ふふ、せっかくだから他のお店も見てみよう。ついてきてくれる?」
その言葉に『たぶん玉ねぎ』は、びし! とお供を任されたことを栄誉に思うように直立する。
その姿がまたなんとも可愛らしくってノーチェは笑みを深める。
灰色の世界は遠く。
此処には今、雪の白と赤と緑の飾り、そしてキラキラ光る星の瞬きに寄る彩りが満ちている。
そんな中をノーチェと『たぶん玉ねぎ』は共に歩み、その瞳に本当のクリスマスを映し出すのだった――。
成功
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