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Fallen Araneus

#ダークセイヴァー #ノベル

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茨天・斗鬼




 先を見通せない宵闇が折り重なった複層領域、絶望が支配するダークセイヴァー世界にて――茨天・斗鬼(オウガガール・f39676)は、絶体絶命の危機を迎えていた。
 義憤に駆られ独り戦いを挑んだ。
 領主たちが十重二十重に仕掛けていた罠を潜り抜け、隷属していた者たちを助け、逃し、刺客を返り討ちにし、スーパーヒロインらしい持ち前のガッツでやっとの思いで死地を抜けた……安堵したその矢先であった。
 現れたのは製造されたばかりの『シックス・アイズ』の群れ。粗製濫造とはいえ圧倒的な物量差は疲弊した斗鬼を捕縛するには十分だった。
 今、橙角に凭れる銀の髪を揺らし、その角とよく似た色合いの眼を敵愾心と憤怒に染まらせて、「オウガガール」は──頭の後ろで両の手を組んで、胸を張って、ガニ股に開脚した、いわゆる蹲踞と称される姿勢を維持していた。捕まった敗者のポージングとしてこれほど惨めなものもない。

 ――ウイィイイっ……ズニュニュるるッ……!!

「な……んだ……ッ!? 鬼の体に、何をしようとも無駄だと言って……くうぅッ?!」

 背面が見えない。捻れない。気持ち悪い。気持ち悪い! キモチワルイ!
 彼女のしなやかな肢体が不快感にギシッと悲鳴を上げる。……今の斗鬼はおよび知らぬことではあったが、まさしく、この瞬間こそが、彼女が生還できる最後のタイミングであった。
 腕が引きちぎれてでも全身全霊で暴れて、「それ」――スパイダーユニット型の装着式拷問具の接触を拒まねばならなかった。賢しくも、耐えればきっと脱出の好機はくるハズと思い込んでしまった。
 何よりクスクスと嗤う、俎上に載せられた魚がのた打ち回る様子を見ているかのような小馬鹿にした眼差しの小娘たちに、一泡ふかせたいと思ってしまった。彼女は生粋のヒーローであり……誇り高き大鬼の血を受け継いでいるのだから。

「知りたい?」
「知りたい知りたい知りたい♪ この体に何をされるか、何になるか?」
「美味しそお! ね、すぐに私たちと同じにしてあげるから❤︎」

 気を抜けば、肉体が意識を強制的にシャットダウンさせてしまうほどの淫辱感が、挿入られてくる。肉孔を掻き分け縊り出し、じゅぼじゅぼと蜜音を響かせながら、下腹後背部から全身を凌辱し尽くすだろう。

「はぁ゛ッッ゛……ワタシに゛、ふれ、るなぁ゛ッ゛!!」

 快楽中枢が異常刺激され、意志とは関係なく脳内麻薬が過剰に分泌される。体内であろうと鬼神呪法で強化された肉体を有しているにも関わらず、感度の増幅と筋肉弛緩により熱ぼったい状態が拭えない。蕩け爛れゆく媚体……甘く切ない淫感に人目も憚らず股座を掻き毟りたい衝動が抑えられなくなりそうになる。
 ふいに、思わず橙眼はぎゅうっと細まって、筋肉質な肉体が、別の生物かのように不自然な痙攣と蠕動を繰り返してしまった。

「はァ――ッ゛、ぐッ、ふぅ゛――ッ゛!!」

 ユニットの後背に異常に膨らんだ形状は、名前の通り蜘蛛の腹部を思わせる。基節から蹠節まで複雑に折れ曲がり斗鬼に纏わりついて離れる様子がない。
 拘束された手足が小刻みに震え、全身にぷつぷつと鳥肌が浮いていく。違和感、拷問器具の装着に伴う痛みが落ち着いてきた頃、胎の奥底でビュービューと音が鳴り始めた。

「ひっ……!? ふ、あっ……今度は、なに……!? なに、がっ……ふざけるな……は、なせっ!」

 液体を、流し込まれている。
 ユニットが、ドクドクドクと、ポンプのように脈打ち、斗鬼に注射をしていた。蜘蛛は袋状の柔らかい外骨格を持っているが、その大きさからは想像もつかない複雑な構造をこの器具はしているのだろうか? 鬼少女にはまるで得体の知れない何かが内側をじわじわ、じわじわとゆっくり冒していく。

「話を、聞いているのかッ……!? やめ゛、ら゛……ぐうううっ゛……!?」
「動かないでよぉ今鬼蜘蛛にしてるんだから」
「今、してる……? は……」
「子蜘蛛が少しずつ新しい宿主のナカに移動してるの♪ あっまたうごいたぁ!」
「ドクンドクンってあはは♪ まるで妊娠したみたぁい」

 その醜く膨らんだ腹部を晒させるように、黒いヒーローコスチュームをびりびりと引き裂かれてしまう。しかし、もはや彼女に衣服を心配するような平常心は残されていない。全身がぴいんと引きつり、自律神経が崩壊の前の硬直を見せていた。心臓が悲鳴をあげて汗が止まらない。狂う。狂ってしまう。いやもうすでに狂い果てていたのか。

「あ、ギ……ああっ、があっ……!」

 力なく、いやいやと、首を振る斗鬼。
 それが彼女にできる最大限の抵抗だった。そしてそんな抵抗を嘲笑うかのように、肢体に群がる。
 シックス・アイズの一人が、薄い胸板を掴み上げて赤い舌をちろちろ這わせた。また別の一人は踏ん張る下腹部に挑発的に五指を擦り付けて、興奮に沸る微熱を楽しんでいる。その他、耳を執拗に舐るもの、ツノに体液を振りかけるもの、臍に爪の先や針状の器官を押し付けるもの、丹念にナノマシンが注入され「改造同化」されていくサマを記録していくもの。腋、腹部、首筋や臍周り、乳たぶの周辺や太腿や内股、下腹部と結合部は重点的に、さらには関係なさそうな指の間や膝裏に至るまで、ありとあらゆる全体の箇所へイタズラめいた性感刺激を断続的に与えていく。
 ……人の体をなんだと思っているのか。
 大鬼の血を受け継ぐ神聖な肉体を玩具さながらに弄ばれ、沸々とドス黒い殺意がわき上がってきた。それでも、己が体に根付く、否、注入され続ける劣情を引っ込めるまでには至らない。

 ――メキメギメギィ……!

「はグぉ……っ?!」

 そのうち、異変が起きる。火種を押しつけられたような常軌を逸した苦痛が、胎内で弾ける。斗鬼の最奥に到達した子蜘蛛……ナノマシンが内部から斗鬼を喰み、食い散らかし、中に巣を張って改造を施し始めたのだ。粘ついて剥がそうとしても切除しなければ剥がれない不可逆の陵辱が進行する。
 同時に蛇のように赤い舌の先端が両耳から突き入れられる。耳の溝へ舌先をぐいっとねじ込み、綿棒で掃除するかのようにゴシゴシと擦り上げていく。舌の抽送で発せられるジュッポジュッポという下品で大きな音が斗鬼の脳裏に反響して、正常な認識を奪っていく。
 胎内に張り巡らされていく絶大な悦楽、舌ピストンによるエロティックな音楽の演奏、終わらせることのできないインモラルなハーモニーに舌をだらんと突き出し、ひくひく痙攣してしまう。

「快楽が……制御、できなぃイイ〜ッ?!」
「うんうん。そうだよねえ♪」
「これから楽しいこと気持ちいいこといっぱいその体に教えてあげる。それしか分からなくならいいよね♪」
「私たちみたいに!」
「私たちみたいに♪」

 一緒になろう、一緒にしようの大合唱。一様に同じ見た目のシックス・アイズにも個性があって自我があった。今はない。ユニットに脳まで支配され、自己同一体を増やす本能しか残っていない。

「わたし……私は、鬼。鬼蜘蛛なんかじゃ――」

 ――じゅじゅううっ……! じゅっじゅうううっ……!?

「ぎイゃアアアああ゛あ゛あ゛――ッ?!」

 神経が焼きつく。内側が灼熱で焼かれる痛苦に、口の端にとめどなく泡が吐き出され、白く染まっていた視界が真っ赤に染め上げられていく。決心も、敵意も、確固たる思念のその全てが絶望的な快感に上塗りされていく。耐えられるわけがない。自分を構成される個々が少しずつ切り捨てられ、作り替えられてしまうのだから。削り取られた人格がユニットに吸収され、新たなナノマシンを作る養分に返還される。「斗鬼」を構成する煌めきが、結合部から粘音と背徳の快楽と共に噴き出すのだ。

「嫌だあッごおぉおおッ?! んギッ?! んゴぉ!!?」

 記憶とて例外ではない。瞬く閃光のようにあちこちで苦痛が弾け、到底処理できない刺激に脳がパンクしてしまう。溢れ落とした記憶は二度と元には戻らないだろう。オウガガールとしての矜持も、自分の身に宿る鬼の力の使い方も、忘れるはずのなかった大切な思い出もひび割れて思い返せなくなっていく。
 それでも、信じ難いことに、想像を絶する激痛に襲われてなお、その中に確かな快楽を感じる。むしろ快楽を感じる部位だけが不本意に肥大化し、五体を支配してしまっているかのようだ。

「見て♪ 鏡、ほら!」
「はァ……へ、ぁ……?」

 現に、目の端から一筋の涙をつつうと溢しながら、本当に幸せそうに笑っていた。
 ヒーローの成れの果て、穏やかな日常の代わりに自己の快楽を選んだ、|鬼蜘蛛 《オウガスパイダー》の姿。
 新たな悪がこの世に生まれ落ちる日も、そう遠くない未来だと……そう予感させる、凄惨な笑みを浮かべて――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年12月24日


挿絵イラスト