深島・鮫士
料理人にとってクリスマスは稼ぎ時!
しかし、腕を振るわせてもらっているバーには大食いが多い!
ということで、七面鳥がわりのばかでっかい鳥を狩りに来ました。という感じでモンハンさせてやって下さい。
その草原には空を飛ばず、地を駆ける怪鳥が出るらしい。そんな噂を聞きつけた鮫士はまさにその怪鳥と対面していた。
怪鳥はまるで恐竜のような足を踏みしめながら、派手な色のとさかを震わせて縄張りに入った見知らぬ存在を全身で威嚇している。毛ではなく羽を逆立たせたその姿は怒りに震えているようにも見えた。
対する鮫士は、その姿を見て安堵していた。話に聞いた内容だけならダチョウのような姿をしていることも想像していたが、思っていた以上に鶏や七面鳥に近くてよかった、と。
これでクリスマスの料理は大丈夫だと、包丁を構えながら目の前の「食材」にやっと満足のいく大きさの鳥肉が手に入れられそうなことに安堵したのだ。
クリスマス、それはどんな世界のどんな商売人にとっても稼ぎ時。
もちろん料理人だってその例に漏れず。なんなら一二を争うほどに忙しいのではないかと思うほどにやることが溢れている。料理人がいる場所でクリスマスを祝うのに、飲んで食べないなんてことはないのだから。
「足りない、だろうな」
店で一番立派らしい七面鳥を眺めながら、鮫士はポツリと呟いた。これに詰め物をして焼いたら問題なくおいしいローストターキーが出来ることは確実であるし、一般的な家庭の食卓ならば十分パーティーの主役として立派に役目を果たせるだろう。
しかし如何せん鮫士が腕をふるっているバーにいるのは普通ではない大食らいたちなのだ。この程度の大きさのローストターキーなんて、酒を飲む傍らで瞬きをする間になくなってしまうことだろう。
パーティのメインのはずが居酒屋で一番最初に出る突き出しのような扱いをされるのは七面鳥としても不本意かもしれないが、鮫士がどれほど腕のいい料理人であったとしても量が足りないというのはどうしようもない。
数を増やすにも限度がある。それならばどうするか?簡単なことだ、七面鳥の方を大きくすればいい。そんなわけで鮫士は巨大な怪鳥をクリスマスのごちそうにするために相対している。
人々が噂をして恐れるような怪鳥は、さすがに簡単に食材になってくれるつもりはないらしい。羽を大きく広げて足を踏み鳴らしながら、鮫士を踏み潰さんと向かってきた。
飛ばないとは言えど巨体で羽ばたかれると、軽いものならば吹き飛ばされてしまいそうな風圧が襲ってくる。その衝撃とそれによって飛ばされてきた細かい石の礫に耐えながら、鮫士は冷静に狙う場所を見極める。
普通の食材にするのであれば、どこをどう切った所で構わない。しかしクリスマスならばローストターキー、もしくはローストチキンにしたくなる。そうするととどめには少し気を使わなければならないだろう。
胴体に深い傷をつけてしまうと詰め物をするときに中身が出てしまったりもするだろうし、肉汁を十分に閉じ込められなくなるかもしれない。ならば最後に狙うべきは首、それを斬りやすくするように立ち回る必要がある。
「血抜きの手間も省けるしな」
自分が食材として見られているなんて全く考えていないだろう怪鳥は、目の前の敵を排除するために容赦なく蹴りを放ってくる。それを受け流して斬りつけると、巨大な羽が派手に飛び散って辺りを染めた。
考えていなかった一撃に更に激昂する怪鳥が、鮫士を突こうと嘴を振りかぶる。それを躱し目の前に差し出された顔面を逆袈裟に切り裂けば、予想だにしていなかった攻撃にパニックになった怪鳥がつんざくような鳴き声を上げた。
「悪いが頭は必要ないんでな」
悲鳴を上げながら仰け反り無防備になった怪鳥の足を横薙ぎに切り裂くと、バランスを崩しもんどり打って大きな音を立てながら横向きに倒れた。もがきながらもダメージは大きいらしく、簡単には立ち上がれそうにない。
それを好機だとしっかりと構えた鮫士が刀を振り下ろすと、もがいていた怪鳥の首から鮮血がほとばしりしばらくして動かなくなった。巨大な怪鳥が巻き起こした土煙が収まると、辺りに音を立てるものはなにもなくなる。
返り血を手の甲で拭いながら鮫士は深く息を吐くと、白く長く吐き出された息は寒風に流されてかき消えた。年末も近いこの時期、どこの世界であっても寒さはそれほど変わらないのかもしれない。
倒れ伏し動かなくなった怪鳥を見上げて鮫士はもう一度包丁を構え直した。ただ討伐しに来たのならばこれで終わりだが、今日はそういうわけでもないのだ。
「さてと、ここからが本番だな」
今までの戦いはあくまでも食料調達で、料理人としての仕事はここから。この身長を優に越えるほどの巨大な食材を料理してクリスマスのごちそうにするのがの仕事だ。
これだけの大きさなら下拵えだけでも相当に時間がかかるだろう。完成までの時間を計算しながら、はとびきり美味しい焼きたてを出せるようにと頭を働かせた。なにせクリスマスはもうすぐで、腹を空かせた客たちが料理を楽しみにしているはずなのだから。
成功
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