ポーラーライト・グラント
●関心事と心配事の境目
タマキ・カンナ(清澄玉虫・f42299)の報じる『虹色スライム』は隠れ里の守り神としてゴッドゲームオンライン上に存在している。
『プリズム洞窟』と呼ばれるフィールドは今はゲームプレイヤーたちが近づける場所ではないが、しかし、クエストによっては支援キャラとしてタマキは出張っていくのだ。
そんな彼女が猟兵と覚醒したことで、多世界まで足を伸ばすことができるようになったのは僥倖であったことあろう。
しかし、『虹色スライム』は心配だった。
まあ、確かに外の世界というのはとても関心あることであったが、しかし、それで己の巫女たるタマキが怪我をしたりするのはちょっと頂けない。
今日もタマキは己がねだった『コーヒー』なる茶褐色の飲み物を購入しに出て行っている。
確かに。
確かにね。うん。
頼んだ。ねだった。美味しいものだから。合計にして81回目である。あ、今は82回目のおつかいである。
タマキもタマキである。
流石に、と。
飲み過ぎ、と。
けれど、彼女は嬉々としておつかいに出ていく。外の世界に出れるようになったことを喜んでいるのではない。
彼女は『虹色スライム』に何か命じられることを喜んでいる節がある。
己の心身は全て『虹色スライム』のものであると公言してやまぬ彼女であるから、それは正しいのだろう。
とは言え、猟兵というものに覚醒したということは。
そう、バグプロトコルと戦うということである。
世界の危機に応える戦士に選ばれたのだから、己の巫女として鼻が高い。けれどだ。そう、けれど、なのだ。
戦うということはとっても危険なことである。
もしかしたら、我が巫女たるタマキが怪我をしてしまうかもしれない。
次の瞬間、『虹色スライム』は飛び上がって天井に頭部……頭部という部位があるのならば、それをしたたかに打ち据えていた。
そう、心配なのだ!
タマキがとっても心配なのだ!
いや、本当に。
戦うのならば何か武器が必要だ。
にょき、と伸びた『虹色スライム』の一部が洞窟内部の六角水晶柱を引っこ抜く。
これをこうして、あーして、と加工していく。
このゴッドゲームオンラインにおいてアイテム合成は必須スキルである。これによってアイテムを作成してくのだが、そこはレア素材アイテムである。
加工時間に比例するようにして性能も高くなっていく。
通常ならば6日間を要する加工時間も、NPCである特権で時短である。
いやまあ、単純にタマキが心配で心配で仕方なかったために強硬手段を使ったので、6分で出来上てしまった。短縮しすぎたかも知れないと思ったが、できてしまったもんはしかたないのである。
「あれ? 水晶柱が一つないような……『虹色スライム』様ー、コーヒーお持ちいたしました!」
タマキの声である。
お、コーヒー! ぴょいんと跳ねるようにして『虹色スライム』はタマキの方へと向かう。
恭しく献上されるコーヒー。
ああ、このかぐわしい香り! じゃなかった。
「え、これ、杖ですか!? これを私に下賜されると!?」
わ、とタマキの顔がほころぶ。
どこか誇らしくも、喜びに満ちた顔に『虹色スライム』は満足げな気持ちになる。がんばってよかったなぁ、と思うのだ。
「でも、一体いつのまに」
6分。
にょきっと伸びた腕部が6本指を立てる。
その様子にタマキは、えっ、と驚愕する。
「『虹色スライム』様!?」
Vサインを作って見せる。
「はりきりすぎました!?」
そういうこと、と笑うように『虹色スライム』が揺れに揺れる。そのさまを見てタマキは一層『極光杖』を強く抱いて、報じる神の慈悲に頭を垂れるのだった――。
成功
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