●贈り物
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちは少しだけ思った。
確かに贈り物とは嬉しいものだ。
わかっている。誰かが誰かのためにという気持ちは尊いことだ。けれど、ちょっとだけやっぱり思ったのだ。
「自分たちには……?」
と。
気持ちはわからないでもない。
普段から共に在る者たちからは感謝を伝えられている。
別に贈り物がなくたって気持ちが伝わればそれでいいのだと思う。
けれど、やっぱりちょっと思う。
孫のように思っている彼らからなにかないのかな、と。
それは情けない、と思われることであったかもしれないが、人情というものであろう。誰がそれを咎めることができようか。
「いや、そういうのはよくないですねー」
「本当に……」
「じゃが、ちょっとばかし寂しいと思うのもまた事実であろうが」
「そうなんですけど」
とは言え、彼らが思う以上に心配なんてしなくたっていいのである。
ちゃんと『陰海月』たちは考えていたのである。
●セール
巨大なクラゲ『陰海月』はお馴染みの手芸店へとふよふよと漂うようにやってきていた。
ショーケースを眺める。
自分の作ったものが並んでいる光景というのは、いつだって心が沸き立つような気持ちになってしまうものだ。
「ぷきゅ」
ふふん、と少しだけ誇らしい気持ちになる。
これ、自分が作ったんだよ! と誰彼れ構わず告げたくなってしまう。
とは言え、今日はショーケースの中を見に来たのではない。
そう、彼がやってきた本当の目的は!
『クリスマス前セール』である。
今日からセールが始まると知っていたのだ。目的は一つ。毛糸である。
「ぷっきゅ!」
目当ての毛糸コーナーへとふよふよと漂って行って品定め。
うん、やっぱりちょっと安くなっている。
青色に緑色あが入っている毛糸がほしかったのだ。緑はクリスマスカラーでもあるから、きっと入荷していると踏んでいたのだ。
「きゅ~」
悩む。
同じ緑といっても微妙な色の違いがあるのだ。
難しい。
どうせ買うならしっかり吟味したい。
とは言え、普段よりも吟味に時間がかかっているのは、この毛糸を使って義透たちへのプレゼントを作りたかったからだ。
そう、彼らがしょんぼりしていたって、ちゃんと『陰海月』は考えていたのだ。
創るのはマフラーだ。
これなら寒い日に戦いに臨んだとてきっと寒さから守ってくれるだろう。
そうでなくても普段遣にしてくれたっていい。
「きゅ!」
これだ! と毛糸を購入してこっそり屋敷に戻っていく。
すでにマフラーにつけるアップリケは作って隠してある。バレないようにするのが大変だったけれど、サプライズっていうのはいつだって大変なのだ。
「クエッ!」
ヒポグリフの『霹靂』が部屋で待っている。
ちゃんとアップリケを義透たちにバレないように見てくれていたようだ。
「きゅ、ぷきゅ」
ありがとうねー! と『陰海月』はお礼を言ってから、購入してきた袋の中から毛糸を取り出す。
袋から転がり出てきた星のパーツに『霹靂』が首を傾げる。
セールでやすかったので、それも購入してきたのだ。
もしかしたら、ぬいぐるみに使えそうだと思ってのことだった。
だが、時間がない。
モタモタしていたら間に合わなくなってしまう。
「ぷきゅ!」
しゃきん。
編み棒を手に『陰海月』は触腕を巧みに動かして義透たちに贈るためのマフラーを編み上げていく。
喜んでくれるかな。
きっと喜んでくれるに違いない。
そんな思いを折り込むようにして『陰海月』は暖かな優しさを織り込んでいくのだ。
彼らが寒くないように。
いつだって一緒にいるってことを知ってもらうために――。
成功
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