●暖かさの幸せ
冬は寒い。
言うまでもないことであるが、寒さというのは心を痛めつけるものである。
生きているのならば当然であるとも言える。
寒さを感じない生き物もいるであろうが、しかし、歌に歌われている通りである。
「ぷ~きゅぷきゅぷきゅぷっきゅぷきゅ~」
ねーこはこたつでまーるくなる。
そう、冬とは多くの動物の活動が鈍くなるものである。
巨大なクラゲ『陰海月』もヒポグリフの『霹靂』もそうである。
とは言え、彼らは去年の折にお気に入りが見つかっている。
ならば、此度は新しい同居人である『玉福』と『夏夢』の番である。
ついでにいうと『陰海月』はプラスチックホビーの予約合戦に勝利を得ていて、ほくほくしている。
「ぷきゅ!」
「クエ!」
『陰海月』と『霹靂』が互いに顔を開かれた雑誌を覗き込んでいる。
うーん、と二匹が唸るようにしているのを馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は認めたが、しかし何か言うことは憚られた。
彼らが自身で何かを考えているのならば、自分たちの言葉は野暮であろうと思ったのだ。積極的に口を出すわけにもいかず。
さりとて、心配になってしまうのは老婆心というものであろう。
そんな彼らのハラハラとは裏腹に『陰海月』と『霹靂』は覗き込んだ雑誌をぺら、とめくる。
それはケルベロスディバイド世界に存在する雑誌の一つだった。
あの宇宙からの侵略者に対抗するために戦い続ける世界であっても、こうした雑誌というのは存在しているのである。
「ぷきゅ~」
「クエ~」
はえ~という具合に彼らは雑誌に記されている『ウィングキャットおすすめ! ゆふのほかほかグッズ特集』を眺めている。
そう、『玉福』は猫である。
多世界のウィングキャットという種族がおすすめするものであれば『玉福』に何がよいかがわかるだろうという算段であったのだろう。
キャットウォークなんかも楽しそうである。
おもちゃもいいのでは。
いや、それはあったかグッズとは関係ない。
今は暖を取れるグッズが必要なのである。
そんな風に二匹の視線はあっちこっちに移動している。
でも、どれがいい? と『玉福』に聞くのはできない。
それじゃあ、プレゼントにならないではないか。
こういうプレゼントになければならないのは驚きである。つまり、サプライズ。
サプライズがなければプレゼントではないと言ってもいいだろう。いや、言い過ぎかもしれない。
とにかく、二匹は驚きと喜びを二人にしたいと思っていたのだ。
驚きと喜びは共存できるのだ。
なら、得られる感情は多いほうがいいだろう。
なんだってそうである。
「ぷきゅ」
こっちかな? と『陰海月』が触腕で指させば、『霹靂』はこっちがいいんじゃない? と嘴で突く。
一向に決まらない。
「にゃあ」
「ぷきゅ!」
「クエッ!」
なんでもない! と一鳴きした『玉福』に二匹は雑誌を隠す。
知られちゃならない。知られたならサプライズにならない。
そんな様子に『玉福』はあまり興味なさそうだった。良くも悪くも猫であった。ふい、と興味なさげに日課の散歩という名の巡回に出ていった『玉福』の背中を『夏夢』が追いかけていく。
「ぷきゅ~」
あぶないー、と言わんばかりに『陰海月』は触腕で額を拭うような仕草をしてせる。
「クエ」
あ、とあわてて隠したものだから、ページがめくれている。
再び開いた時、彼らは『フカフカほかほかマット』という電気毛布を見つける。
これはいいかもしれない。
あったか調整機能も付いている。
なにより、『玉福』のサイズにちょうど良さそうだった。
後は『夏夢』のものである。
「とは言え幽霊ですからね。霊力で編んだ半纏なんてどうです?」
義透たちに相談した所、そのような言葉が帰ってくる。
確かにそうだ。
『夏夢』は幽霊である。自分でつかもうと思うものは霊障の如き力でつかめるが、他の物はすり抜けてしまう。
難儀と言えば難儀である。
となれば、義透たちの言うものが良いだろう。
後は。
「クエッ!」
そう、プレゼントするその日まで購入した品を隠し通せるかどうかである。
なにせ、相手は『玉福』である。
『夏夢』であればどうとでもごまかせるが、『玉福』は勘所がよい。下手な隠し方では簡単に見つけられてしまうだろう。
いい意味で『夏夢』は隙が多いのだ。
ならば、と『霹靂』は購入した品を己の羽根のなかに隠す。ちょっと無理があるんじゃないかなと思ったが、大きく動くことがなければ、問題ないだろう。
問題はいくつかあったけれど、なんとかなりそうだ。
二匹は『玉福』と『夏夢』が喜ぶ顔を想像して、互いに顔を見合わせて笑うように鳴く。
今年の冬は暖かく過ごそう。
みんなで、そう思う心があることを義透たちは嬉しく思いながら、自分たちには……? と少しだけ思うのだった――。
成功
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