Plamotion Reservation Actor
●別の意味での戦争
予約。
それは予め約する、ということである。何の説明にもなっていないことは重々承知であるが、あえて言わせてもらおう。
予約とは即ち戦争である。
昨今のホビー商品の予約は至難を極める。
以前ならば行きつけのホビーショップなどに販売日に並んだりと、まあ、別の意味での争奪戦が勃発したもんであるが、インターネットの普及によってネット通販が一般化したところに趣味の裾野が広がったのだ。
となれば、即ち、それを欲しい、と願う者が増えるということだ。
「ぷきゅ!」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の元に居る巨大クラゲ『陰海月』もまたそうであった。
彼が欲しているのは『幻想騎馬隊限定Ver.飼育クラゲ』である!
なんとなくゆる~い雰囲気が子供にも大人にも受けた商品である。類似商品だってたくさん販売された。
バージョン違いさえも売り切れてしまうのだ。
またつるんとした造形のおかげで組立自体は難しくない。
所謂初心者用というよりは、ホビーへのきっかけとなるキットとして販売されることが多いのだ。
だが、そういう仕様のキットであると言っても侮れないのがこのキットの凄いところである。
今回の新作キットは、その飼育クラゲの情景セットなのだ。
「はぁ、なるほど。この間手に入れた牧場キットと合わせて楽しむのが前提のキット、というわけですか」
「ぷきゅ」
主人である義透たちの言葉に『陰海月』は力強く頷く。
眼の前にはパソコンの画面。
開かれたブラウザにはネットショップのホームページが開かれている。商品ページを開くと、まだ予約開始ではないのだろう、予約ボタンが薄く表示されているだけだ。
「ぷきゅ~……!」
それならまだ慌てることはないと思うのだが、『陰海月』は闘志みなぎっていた。
カチ、カチ、とイメトレみたいにマウスのクリックを押している。
そんなに慌てなくても予約なのだから、と義透たちは思った。甘い。甘すぎる。そう、甘々である。『陰海月』たちに対するおじいちゃん的な意味合いも籠めて、甘すぎる!
前述したが予約ボタンを押すのも一瞬の躊躇いが敗北に直結するのが予約戦争である。
特に人気キットともなれば、それはもう大変なのだ。
コンマ秒の遅れが敗北につながる。
回線の不調だってあるかもしれない。
アクセス過多でサーバーがそもそもダウンするかもしれない。
となれば、別のサイトにと向かえば、そのタイムラグで予約だってできないかもしれないのだ。
故に『陰海月』はそうしたリスクを排除するように一点集中するのだ。
「集中していますね……」
ごくり。
ごくり、じゃないが。まあ、ともかくそういうわけなのである。
『陰海月』が此処まで集中しているのもわからないでもない。
何故か、というか、無論『プラモーション・アクト』、『プラクト』が世界大会を行っているからでもあるし、そこで『陰海月』が作ったホビーが活躍する姿が全世界に配信されているのだ。
これ以上無いくらいの販売促進であることは言うまでもない。
故に、予約合戦が加熱するのは皮肉だった。
「きゅ~……きゅっ!」
時間である。
秒針が0を示した瞬間、『陰海月』の神速のクリックが走る。
見事な指捌き、あいや、触腕捌き。
だが、予約戦争とはワンクリックで終わるものではない。
お支払情報確認。配達住所確認。最終確認。
この間にタイムラグが発生すれば、絶望的なのだ。
「きゅ、ぷきゅっ!」
ッターン!
決まった、と『陰海月』は誇らしげに予約完了の表示をみてご満悦である。
よかったですねぇ、と義透は胸をなでおろす。
これで販売日に模型店に並ばなくて済む。後は配送されるのを待つだけである。
予約完了メールが届いたのを確認してから『陰海月』は宙に舞うように踊る。
それを見ていたヒポグリフの『霹靂』は友達が喜んでいるのを見て嬉しいのか、一緒に踊っているし、二股尾の猫『玉福』も何事かと目を見開いている。
「どうしたのですか?」
「祝いのダンス、でしょうねー」
『夏夢』が首を傾げている気配がある。それに義透たちは笑う。
なんともにぎやかなことである。
まだ品物は手元に届いていないとうのに。けれど、そんな些細なことでも喜びを表現することのできる『陰海月』を見ていると、些細なことだと思えるだろう。
だって、いつだってそうだが、誰かが喜んでいる姿を見るのは心に暖かいものをもたらしてくれる。
その表情が曇らぬことを願いたい。
いつだってそうだけれど、
義透たちはいつだってそう思っている。己たちがオブリビオンと戦うのは、怨念渦巻くからである。呪詛が湧き上がり続けるからである。
けれど、それだけではない。
そう思える光景が眼の前に広がっている。
それで十分なのだ。
戦う理由なんていうのは――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴