一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)には商店街がハロウィンカラーに染まる頃になると必ずと言っていい程に思い出す、可愛らしい思い出がある。
家からもほど近いこの商店街では、昔から盛大なハロウィンイベントが開催されている。それは帝が小さな頃からずっと変わらず、今も続けられているもの。その中の一つに、小学生以下の子どもは仮装してハロウィンの置物が飾られているお店に行くと、必ずお菓子が貰えるというものだ。
「懐かしいな」
そう呟いて、帝はジャックオーランタンが重ねられた置物に目をとめて立ち止まり、あの日の事を思い出す様に僅かに目を閉じた。
あれは七歳くらいの頃、小学校に上がった年だっただろうか。商店街で行われるハロウィンイベントを知った知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)がふわふわのピンクブロンドの髪を跳ねさせて、帝を呼びにきたのだ。
「ミカー! あ、おばちゃんミカおる?」
「あら、いらっしゃい飛鳥君。帝ね、ちょっと待ってね」
帝ー! と母の呼ぶ声と、ミカー! と飛鳥の呼ぶ声に、リビングにいた帝は一も二もなく玄関へと走っていく。
「ミカ!」
「どうしたの、飛鳥」
今日は遊ぶ約束はしていなかったはずだけど、と思いつつ問い掛ければぴっかぴかの笑顔で飛鳥が答える。
「うん、あんな、商店街のハロウィン、一緒に行こ!」
「商店街のハロウィン?」
「ああ、そういえば商店街に仮装して行くとお菓子が貰えるんだったかしら?」
「そう、それ! ミカと一緒にいきたいんや! いってもええ?」
飛鳥が帝の母に視線を向けてねだる、帝が断るとは思ってもいないのだろう。そしてそれは、勿論その通りなのだが。
「そうね、二人一緒ならいいわ。でも仮装がないのよねぇ……」
シーツお化けならできるかしら、と呟いた帝の母に、飛鳥が心配いらんよ! と笑う。
「あんな、俺な、ミカとお揃いの作ってやーってかーちゃんに頼んであるんや!」
「そうなの? 悪いわね……今度お母さんにお礼しなくっちゃ」
「な、だから行ってもええやろ?」
「そうね、帝」
名を呼ばれ、飛鳥と母の会話を聞いていた帝が頷く。
「大丈夫、車に気を付けて行ってくるから」
「やったぁ!」
念の為、とお小遣いの入ったお財布を首から下げて貰い、帝は飛鳥と手を繋いで飛鳥の家へと向かうのだった。
飛鳥の家へ着くと、すぐに飛鳥の母が出てきてくれて飛鳥と揃いだという衣装を着せてくれる。
「ありがとうございます」
「ふふ、いいのよぉ! さ、飛鳥も準備できた?」
「うん! これでええ?」
「これはこっち」
掛け違えたマジックテープを直してやり、形を整えると飛鳥の母が二人に魔法使いの杖を持たせて完成だと笑みを浮かべた。
「ミカ、見てみて~! 俺、まほーつかい!」
くるくると飛鳥が回ると、膝丈程まである黒いマントがひらひらと揺れる。マントに飾り付けられた月や星の飾りがキラキラして、なんとも可愛らしい。ビシっと杖を天井に向けて、ポーズを決めて帝に向かって飛鳥が笑う。
「うん、すごく似合ってる。俺のは変じゃない?」
子ども心にも、なんて可愛いんだろうと思いながら帝がお揃いの衣装――首元や帽子のリボンの色は飛鳥が紫で、帝が青だけれど――を見下ろして飛鳥に問うた。
「うん、ミカのもめっちゃイケてるー!」
「二人共、よーく似合ってるから安心していっておいで!」
その前に写真を撮らせてと、飛鳥の母が二人の写真をめいっぱい撮ってからお菓子を入れる為の籠を持たせると商店街へ送り出してくれた。
「楽しみやなー、お菓子!」
「うん、楽しみだ」
手を繋ぎ、ゆらゆらと揺らしながら二人並んで歩く。商店街が近くなってくると、同じようにハロウィンの仮装をした子ども達が見える。皆楽しそうな顔で、お菓子を貰おうと笑い合っていた。
「ミカ、ミカ、俺らもいっぱい貰お!」
「ハロウィンの置物が置いてあるお店……だよな?」
「うん! ええと……あ、あれや!」
きょろきょろと辺りを見回して、早速商店街の入り口に近い店にジャックオーランタンが積み重なった置物が置かれているのを見つけた飛鳥が、帝の手を引く。
「行こ!」
アーケードの下できゃあきゃあとはしゃぐ子ども達に混じるように、飛鳥と帝もハロウィンの色に染まった商店街に向かって駆けだした。
ひとつめ、ふたつめ、と順調に置物のあるお店を巡り、少しずつ籠の中にお菓子が増えていく。
「あ、たい焼き屋さんにもあるで!」
「あっちの電気屋さんにもあった」
子ども達が楽しそうにしている姿に買い物に訪れていた大人達にも笑みが溢れて広がって、通りすがりのおばあちゃんが飴をくれたりなんかもして、商店街を半分も過ぎていないのに籠の中はあっという間にお菓子で満杯だ。
「ミカ、ミカ、籠ん中いっぱいや!」
「大丈夫、こっちの袋に入れよう」
飛鳥の母に渡されていた買い物袋を広げ、その中に籠の中のお菓子を移す。
「これ、お菓子一年分くらいありそうや!」
「一日一個……だったら二か月分くらいじゃないかな」
なんて、わいわい言いながら再びお菓子を貰いに歩き出す。
「あ! 駄菓子屋さんにもある! おばちゃーん、こんにちはー! トリックオアトリート!」
「おばさん、こんにちは。トリックオアトリート」
元気よくお店に飛び込んだ飛鳥に、礼儀正しく頭を下げた帝の二人に駄菓子屋のおばさんが目を細めて笑う。
「あら~、お揃いの衣装? 可愛いねぇ」
「そやねん! 揃いでな、まほーつかいなんやで!」
「飛鳥のお母さんが作ってくれたんです」
可愛い可愛い、と褒められて飛鳥は満足気だったし、帝も飛鳥は可愛いと小さく頷く。
「さ、悪戯されないようにお菓子をあげなくちゃねぇ」
そう言って、おばさんは中身が見えないようにした箱を二人に差し出した。
「この中に手を入れて、ひとつだけお菓子を掴むのよ」
言われるままに手を入れて、ひとつだけ手にして引き抜く。せーの、で見せ合えば飛鳥はお化けの形をしたマシュマロで帝は南瓜の形をしたマシュマロ。
「かわいー! ありがとう、おばちゃん!」
「ありがとうございました」
お礼を言うと、手を振りながら他のお店を探してお菓子を貰って……と繰り返し、商店街の通りが終わる頃には再び籠の中はお菓子でいっぱいになっていた。
「お菓子いっぱいや! ミカ、明日から一緒に食べような!」
「うん、一緒に食べよう」
お菓子が無くなっても、ずーっと一緒! と無邪気に笑う飛鳥に、帝が頷きながら手を強く握り直す。ずっと一緒に、その約束を大きくなっても守れるように、と――。
「ミーカ!」
物思いに耽っていた帝の後ろから、聞きなれた声がして振り向けば魔女の帽子を被った飛鳥がいて、帝が軽く目を瞬く。
「飛鳥、それ」
「ん? 魔女の帽子やで、懐かしいやろ~? 俺ら、ハロウィンになるとこの商店街で毎年お菓子貰いに回ってたもんな~」
もう貰える年齢ではないけれど、懐かしくてと飛鳥が笑う。
「……似合ってる」
「そうか? そんならお菓子買いに行こか~、そんで一緒に食べよ」
「そうだな、じゃあたい焼き屋からだな」
それから、駄菓子屋にも寄っておばちゃんに挨拶をして。
「そうと決まれば善は急げや! 行くでー!」
飛鳥が帝の手を握ると、小さい子どものように走り出す。その姿はまるであの頃のままのようで、帝は口元が緩むのを感じながら一緒に走り出したのであった。
成功
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