霜月・加八
こんにちは。中の人です。
このキャラクターのGGOに初めてログインした時の話を書いていただけると幸いです。
内容:
手を替え品を替え同じことの繰り返しをする生活に、作品と言えない作品を生み出すことに嫌気がさしていたある日、ネットでGGOのことを知りログインの準備を始める霜月。
「ハンドルネーム……あー、そっか本名は名乗っちゃダメなのか……なら……うーん、凝ったのは思いつかねえから本名を捻るか」(神楽月(霜月の異名)→月神楽→ツキカグラ)
とりあえず思い切り武器を振りしたり思い切り動いたりをやりたいなと大雑把にキャラメイクをしていく
「斧とかカッコイイ感じがするし、思い切り振り回せたら最高だよな」
そしてクエストを受け、高原的な所に向かい、思い切りモンスターとやり合う。ここの描写は色々お任せします。
「……昔から羨ましかったんだ。人生設計図が運動してもいい職業に作られたやつが……俺は、健康維持に必要な程度しか許されなくて……見てることしか出来なかった……わかってる。アイツらだって自由ってわけじゃねえ。それでも、羨ましかったんだ」
「それが、ここでは……ここでなら、許される……思い切り、走って、動ける……最高だ。泣きそうになるくらいにな」
キャラクターについて:
絵本作家のような事をしている、その為に人生設計図に縛られ続けた男。でも本当は……運動というものを思い切りしてみたかった。思い切り外を駆け回ってみたかった。そんな、男。
ガサツな喋り方だが悪い奴ではない。
不明点等あればMS様にお任せします。アドリブも大歓迎です!
よろしくお願いします!
●不変と変化
きっと自分はよくないことに足を踏み入れているという自覚があった。
だが、止まれようはずもない。
なぜなら、すでに自分は変化を受け入れ始めているのだから。
反復する。復唱する。
変わらないこと。普遍に不変であることを『統制機構』は求めている。
何に、と問われたのならば全てにである。
汎ゆるものが変わらないことを求めている。
たとえ、それが結末の異なる物語であったとしてもだ。
「そしてみんな同じように幸せになりました」
そんなのはクソ喰らえだと思う。
これは本当に作品なのかと霜月・加八(ゲームプレイヤーのバーバリアン・f41813)は始まりと経過は異なれど、結末だけはこのような文言で必ず締めくくられる物語を書いている。
いや、書いているとは言えない。
こんなのは物語ではない。
いつからだろう、こんな風に思うようになったのは。
手を替え品を替え、ただ同じことを繰り返しているだけに過ぎないのだ。それに気がついた……いや、嫌気が差したのがいつだったのか思い出せない。
己の人生を振り返ろうと思えば一瞬で振り返ることができる。
圧縮されれば、恐らく紙一枚分に37年という月日が集約されるだろうことは疑う余地もない。
それほどまでにルーチンワーク地味た毎日を自分は送っているのだ。
「クソッタレ」
呟く。
全部『統制機構』のせいだ。『人生設計図』などというけったいなものがあるせいで、汎ゆるものが決められた通りに進むように出来ている。
これが人生なのか。
本当にそうなのか。
疑念だけが浮かんでは消えていく。
けれど、これさえこなしていれば、己は絵本作家としての地位を確立したまま生きていける。だが、それは本当に生きていると言えるだろう。
「言えるわきゃねえんだよ、こんなもんは」
だから、加八は『ゴッドゲームオンライン』――通称『GGO』にアクセスする。
ログイン画面が眼前に呼び出される。
これがどんなに危険なことか自分だってわかっている。
出会いは偶然だった。
作品とも言えない。物語とも言えない。
そんなものを作り出すために加八は資料をネットで探していた。そこで『GGO』のことを知ったのだ。
以前から噂になっていたのだ。
究極のオンラインゲーム。
『統制機構』にはない変化に富んだ世界。とてもコンピューターグラフィックとは思えないスクリーンショット。それを加八は見た。見てしまったのだ。
止まれる訳がない。
『あなたのアカウント名を入力してください』
メッセージウィンドウを前に加八はしばし固まる。
「……あー、そっか本名はダメなのか。身バレしちまうもんな」
だからというわけではない。
指が動いた。自分の本名をひねればいいと思ったのは絵本作家として長年生きてきた、培ったものがあるからだろう。
すぐに思いついた。
己の名字は、霜月。別の名は神楽月。文字をひっくり返して月神楽。なら、『ツキカグラ』だと自分のゲームの中でのアバターのネームを決める。
『アカウント名を登録しました。ようこそ、ツキカグラ。究極のゲームへ』
そのメッセージウィンドウを消して加八……いや、『ツキカグラ』はアバターメイキングに入る。
何をしたいかは自分次第。
とりあえず思いっきり動きたい。
それは己が描いてきた願いだった。己の世界は、『統制機構』は汎ゆることを定める。逸脱することは許されない。
中高一貫校の学校に通ったことも、卒業後の進路も、全て決まっていた。カリキュラムだってそうだ。
運動は絵本作家には必要ないと健康維持の最低限のみ。
けれど、どうしようもなく加八は羨ましかったのだ。
額に汗かき、己の体の骨身がきしみながらも体の限界まで動く学友たちが。
運動して良い職業に定められた者たちとそうでない者たち。
超えることのできない垣根がある。
だから、クソッタレだと言ったのだ。己の限界も己自身で定めることができない。誰かに決められた限界の先へと手を伸ばすことさ許されない。
「武器は斧だ。思い切り振り回すならこれだろう」
次々とアバターメイキングこなしていく。
少しだけ年若く作ったのは、見栄だったかも知れないが、これくらいは許されることだろう。兎にも角にも憧れが先行していた。
決定したアバターが己の体に馴染んでいく感覚がする。
頬を撫でる風を感じた。
眼の前に広がるのはチュートリアルクエストエリアだった。
高原めいた場所。
そこにモンスターの姿が見える
「……此処がゲームの世界?」
とんでもない。
色鮮やかな緑。降り注ぐ太陽の光。頬を横切っていく風。
モンスターが迫る音さえ、ダイレクトに加八の五感を刺激する。バチバチと己の神経が目覚めていく気がした。
思うだけで体が動く。
振るう斧のモーションがなめらかに感じる。風を切る刃の音が響いて、迫るモンスターが切り裂かれる。
わかっていた。
これがきっと己が羨ましかった彼らがしていたことなのだろう。
体の限界まで酷使すること。
羨んだ彼らだって、自由じゃなかったのだ。それでも、どうしようもなく。羨ましかった。
だから、加八はチュートリアルクエストクリアの表示を見て、肩で息をする。
「……ここでなら、許される……」
視界が滲む。いや、潤んでいる。
心の中に去来するものの名前を加八は知っている。
これは感動というものだ。心が揺さぶられるからこそ満ちるもの。
溢れる。
頬を伝う熱ささえも『GGO』は再現してくれる。
「思い切り、走って、動ける……最高だ」
思わず体が動く。大地を蹴って、風を感じ、肩にかかる重力に笑う。
小高い丘の上に駆け上がって叫ぶ。
最高だ、と。
泣きそうになるくらいに、と。
それは慟哭ではなかった。咆哮だった。
ここでならば己は自由だと、何物にも縛られず、思うままに野を、山を駆けて良いのだと心震えるままに叫ぶ。
灰色の世界に生きている者たちの全てがきっと多かれ少なかれ思うこと。
もう戻れない。
このゲームなしの世界など。
あの停滞した世界にはない変化が万華鏡のように加八の視界にどこまでも広がっていた――。
成功
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