1
鵜飼章の受難

#ゴッドゲームオンライン #ノベル

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ゴッドゲームオンライン
🔒
#ノベル


0



鵜飼・章
リュカさん、今日誕生日だったっけ。
おめでとう。
せっかくなので、お祝いに何か行ってみたい場所や、やってみたい事があったら何でも付き合います。
…というリクエストを送ってみる事にしたんだ。

ゴッドゲームオンラインなら大体何でもありそうだから、という理由で行き先はこの世界にしてみたよ。

特にやりたい事がなければ、僕は勝手に辺境に行ったり、辺境グルメを食べたり、その辺りの虫を捕まえたりします。
でもそれいつもやってるから、リュカさんの希望を優先してくれると嬉しいな。
例え無茶振りでも、UCで空気を読んだりすればなんとかなるだろう。
気楽に書いていただければ幸いです。

という訳で、よかったら検討してみてほしいな。
よろしくお願いします。



「……くそゲー?」
 一度だけ、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は聞き返した。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)はまじめな顔でひとつ、頷いた。
「そう、ゲームといえばくそゲー。くそゲーをクリアすることがゲーマーの嗜み」
 そういえばそんなの好きだったな、と章は真面目腐った返答を聞きながら思い出す。今日はリュカの誕生日だ。だから折角なので、リュカがしたいことをしよう、と思って章はこのゴッドゲームオンラインに誘ったのだ。だって、だいたいのものは何とかなりそうだったし。
 で、何がしたいか尋ねての返答がそれだった。具体的にどういうの? と尋ねると、
「進行不能だったり、バカみたいな強さだったり、文字化けしてたり、グラフィックが崩れてたり……ってのはないか。天下のゴッドゲームオンラインだし……。そうつまりは……」
「……」
 その後の言葉を章はなんとなく理解した。理解したけど言わないことにした。今日はリュカに任せるのが章の基本方針だったからだ。果たして、
「バグプロトコル……オブリビオン狩り?」
 果たして、リュカは章の想定通りの結論を導き出し、そしてオブリビオン狩りに出かけ、結構な数の敵を倒したところで、
「……ってこれ、普段の仕事と一緒じゃないか」
「うん、まあ、そうだねえ」
 リュカが我に返るまで、章は普段にはあるまじき効率でオブリビオン狩りをこなしたのであった。
「わかってたら、なんで言ってくれなかったの」
 無表情にリュカは不貞腐れる。
「いや、今日はリュカさんがしたいことをしようと思ってたから」
 章もまたしれっとした顔で答える。
「普段そんなにやる気出さないじゃない、お兄さん」
「鴉くんは、今日も良く頑張ってくれたよ」
「俺は仕事がしたいわけじゃないんだ」
「じゃあ何がしたいかな。まだ時間があるから、それをしよう」
 難しい顔のリュカに、章は平気な顔をして肩を竦めてそう尋ねた。
 そして……、

 章の目の前にはドラゴンが立ち塞がっていた。よくある、ゲームで見る、体が大きくて人を丸呑みにしそうなそれである。
「頑張って、ドラゴンさん……!」
 背後からリュカの声援が聞こえるが章にではない。声に応えるようにドラゴンは巨大なかぎ爪を振り下ろす。
「……っ!」
「惜しい!」
「いや、なんで僕がドラゴンと戦ってるのかな……っ!」
 火を吐くドラゴン。章の前髪とマントが焦げる。もうちょっと右、なんて声を飛ばしながら、リュカは平然と、
「俺がドラゴンを見たいから。動いてるドラゴン、カッコイイよね」
 なんて言うので、章は鴉くんを攪乱にドラゴンの顔面に嗾ける。
「それは……頑張ってる鴉くんのことも、ちょっとは見て欲しいかな」
「でも俺は、戦ってるドラゴンを見たかったから」
 自分が戦ってるときは危ないからゆっくり見られないし。なんて当たり前のような顔でリュカは言う。
 ひどい人だ。まあリュカがそういう人だって知ってたけど。そしてそういうリュカのしたいことに付き合う、と決めたのは章だけど。……それでも、
「お兄さんが……勝っていいよ」
 なんでそんな悔しそうな顔をして言うんだろうか。そして、
「そうしたら俺がドラゴンステーキを作って、お兄さんが食べる」
 なんでそんなこの世の終わりみたいな提案をするのか……!
「……リュカさん?」
 リュカに任せれば、生は危険だからとドラゴンの肉を炭になるまで焼いて、味は強いほうがいいからと山もりの唐辛子と砂糖を投入するに決まってる。そしてそれが親切なのだということを章は知っている。知っているが……、
「それ、リュカさんは……」
「うん、好きなんだ、料理。それに、今日はだいぶ我が儘を言ったから、せめてお礼をしたいよ」
 いえ、結構です。と喉元まで出かかった言葉を章は飲み込む。
 鴉くんや闇くんたちは「そろそろ我慢も限界じゃないかな」みたいな顔で章を見ていた。
 ……もともと、章は忍耐は強くないし、
 誰かの笑顔の為とかそういうのとは縁遠い人でなしだ。
 でも……。
「ほら、お兄さん、前」
「わー」
 顔面すれすれを火球が通過する。思わず棒読みの悲鳴をあげる。ドラゴンと戦闘しながら、章は全力で己の空気を読む力と、そして生存するための力を思い出し、必死こいてこの後来るであろうドラゴンより恐ろしい死をどうやって回避するかを考え始める。結論、
「……リュカさん」
「なに?」
 真剣にドラゴンを見ているリュカに、章もまた真剣な顔をした。
「誕生日、おめでとう」
 そして、生を放棄した。
 リュカは少し、言葉に詰まり。
「こちらこそ。……今日は、ありがとう。とても楽しい」
「うん、それはよかった」
 ドラゴンを前に、笑いあう二人。そして、
「……じゃあ、そろそろこれ倒していい?」
 まあ倒したら料理なんだけど、と思う章。
「あ。ちょっと待って、もうちょっと……!」
 章の寿命は、まだもう少し残っていそうであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年12月06日


挿絵イラスト