心響のキャンディ・ナイト -Trick×Buddy-
●親愛なる悪巧みの相棒へ
おねえちゃん、おねえちゃん。みて、来て。ほら、これみて。
「あら、なぁに?」
海の真ん中。海面には五階分。屋上には小さな観覧車。沈没した廃デパートの一角で、ちいさくてかわいいゴーストたちがペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)の手を引いて連れていったのはエレベーターの前。
「……あっ」
思わず跳ねた声。
扉に挟まれていたカードは確認しなくたって判る。手に取れば想像通り、バラの刻印。
内容を確認したなら、緩む口許をカードの蔭に隠しペペルは身を翻す。ねえなぁに? おねえちゃん、なんて書いてあったの? ふぅわふぅわと周囲を泳ぐゴーストたちへ、ふふりと咲う。
「──予告状よ」
いつかのボトルレターのお返しみたいなそれを胸に抱いて、ペペルはアルダワ魔法学園の諸王国連合の港町に立っていた。目の前には大きな外輪船が停泊している。その船はペペルの喚び出すお魚型の幽霊船よりずっとずっと大きくて、彼女は左右いろちがいの瞳を丸くした。
「すごいわ。うふふ。楽しみね」
「うんまあ、そうだね」
自らの傍に浮く今日のお供のゴーストは、水色の瞳の水色の子。みんながみんな一緒に行きたがったけど、おめつけ役にはぼくがいちばんいいよ、と彼がみんなを説得したのをペペルは知っている。
海風に吹き飛んでしまいそうなメロン柄の鹿撃ち帽を押さえて目を細める彼女の顔を、水色の子が覗き込んだ。
「ねえおねえちゃん。ラヴィさんてさ、」
「ペペル!」
明るくて華やかな声が港に渡る。お砂糖を溶かした海みたいなふわふわの髪を泳がせ振り向けば、向こう側から紅い薔薇のドレスを翻して撫子色の髪をひとつに結わえた娘が駆けてきて、そのままペペルの手を取った。
「えっ、ラヴィちゃ──」
「船が出ちゃうわ、急ぎましょ!」
風のように現れ攫って行く怪盗に扮したラヴィ・ルージュブランシュ(甘惑プロロンジェ・f35723)がにっこり笑うから、最初こそ驚いたペペルも「……ええ!」にっこり笑って駆け出した。
「……ううん。やっぱりみどりの子に似てるんだよね、あのかんじ……」
そんなふたりの後ろを、軽く肩を竦めた水色の子がふぅわふぅわとついて行く。
●キャンディ・ナイト
ふたりの二度目の船旅は群島海域と中原地方の港を経由して、精霊の森に着く頃にはすっかり夜になっていた。
そもそも、ラヴィにとってアルダワ魔法学園の世界へ|根っこ《あし》を踏み入れるのは初めてだ。甲板の手すりを握り締めてきらきらな瞳の輝きは、精霊の森に辿り着いてからも褪せることはなかった。
深い森はラヴィ自身の国にもちょっぴり似ているかもしれないけれど、全然違う。深く青く、静かながらも何者かの気配が確かにある。至るところにカボチャのランプが据えられていて、歓迎されている|気配《それ》があった。
「素敵な森ね。なんだか安心するわ」
隣を見れば、クリームソーダみたいなインバネスコートに、ラヴィが似合うと思ったサクランボみたいな赤の髪飾りで髪をふたつに結わえた、最近仲良くなったお友達。と、そのお友達の大切なお友達のゴースト。水色のおめめだからこの子の名前はきっと水色の子。ふたりと──いいえ。みんなともっと仲良くなりたい。
左手のハート型の手錠の片割れを揺らし、ラヴィは紅い薔薇の柄が刻まれたハーフフェイスマスクを装着した。くるんと身を翻し、不敵な笑みを浮かべて見せる。
「ねぇ探偵さん! 今宵は誰かを欺く必要もなく、美味しいおやつを頂戴し放題よ。どちらがたくさん集められるか競いっこしましょ?」
それはこの日のためにそれぞれの衣装を仕立てる際、ふたりでめいっぱい楽しみながら考えた設定だ。折角だもの、ろーるぷれい? と言うものに洒落こんでみるのも悪くない。
探偵が瞬くより疾く、怪盗は軽い足取りで跳び、掴んだ木の枝を鉄棒みたいに大回転! 音もなく枝の上に立ったかと思えば、走り出す。
「捕まえてごらんなさい、なぁんて、ね」
ひらりひらり、紅いドレスを翻す怪盗が遠のいていくのに、わくわくとペペルの唇が吊り上がった。
「負けないわ。さあ水色の子|くん《ヽヽ》、行くわよ」
「うん、たくさん見つけて、かいとうさんをびっくりさせよう」
ここには宝石みたいなキャンディがたくさんあるのだと聞いている。傍に寄り添う探偵助手が持つ籠をいっぱいにしてみせよう。ペペルは水色の子と肯き合い、ランプに照らし出される森の道へと捜査に走った。
「私の推理が正しければ、きっとここにあるはずだわ。……──ほら!」
カボチャランプがここだけ隠すみたいに照らしていないもの。ペペルが高く伸びた草を掻き分けた先に、古めかしい宝箱があった。太い枝に膝を引っ掛け、ぴょこっとラヴィも逆さまにそれを覗き込む。
上と下からほとんど同じ高さになった視線を交わし合って微笑んで。軋む宝箱を開いたなら、物語の挿絵みたいな、煌めく透明な宝石……否、キラキラのキャンディたち。
ほわぁ、と感嘆の吐息をこぼすラヴィに、ついつい自然とペペルは抓んだひとつの“宝石”を彼女の唇に軽く押し込んだ。ぱちぱちと瞬いた仮面の奥の薔薇色の左目が、途端に“宝石”にも負けないほど輝いた。
「んん……! 瑞々しくって果物みたい! ペペルも食べてみて」
頬を紅潮させるお友達からのお誘いに、もちろんペペルもお口にぽい! 舌に触れた途端キャンディがほろり崩れ、あまい果実が弾けたみたいな味が広がった。
「すごい。こんなキャンディもあるのね」
貴方もいかが? バゲット・カットの“宝石”をひと粒、水色の子へと差し出したペペルに「えっ?」驚いたのはラヴィだ。
だってちいさなゴースト達の白いお顔には、宝石みたいなまんまるの目がふたつだけ。そう以前にも考えたことがある。食べられるのと、猫みたいに身軽に回転して着地し好奇心の灯る瞳を向けるラヴィへ、水色の子はついと顎を上げて見せた。少し頑張れば、ちいさなお口が現れてキャンディをぱくり。それからすぐにお口は消えた。
コロコロと頬っぺたでキャンディを転がして、ペペルのお友達は水色の目を細めた。
「おいしいね、おねえちゃん」
──おねえちゃんが言うのなら、きっと、そう。
甘いものは、うれしくてあたたかくなるような、むねのおくに花がさくような味。アメはとけてゆくほどにかなしさまでとかし流してしまうようなおかし。おねえちゃんがそう言っていたもの。
「そう、食べられるのね! じゃあ、もっとたくさんのキャンディを集めなくちゃ」
どんな味が好き? キャンディは色によって味が違うのかしら。自分のことのように喜んでくれるラヴィの横顔に、ペペルの胸の奥もふわふわと出来立ての綿菓子みたいにあたたかくなるのを感じた。
意気込むラヴィに、水色の子もちょっぴり首を傾げて見せる。
「──うん、ありがとう。ラヴィさんのすきな味も、さがそうね」
「ええ! ラヴィは花蜜の味とか好きよ、香りが良いの」
「ふふ。じゃあお花の中心を見てみたらあるわ。きっとね」
自信ありげに探偵が言えば、怪盗はその推理にいっそ誇らしげに肯いて、助手はやっぱりふぅわふぅわとふたりの後についていく。
ぷちりと花の中心からいくつめかの、蜂蜜をぎゅっと固めたみたいなキャンディを摘んだとき、そうだ、とペペルは顔を上げた。視線の先には青々と葉を茂らせた木がある。
傍で水色の子と一緒にまた見つけた宝箱の中のキャンディの色当てをしているお友達へと視線を遣った。彼女が治めている国にのみ枝を伸ばす木の実を探したのは、まだ思い出と呼ぶには新しい記憶だ。
「ねぇラヴィちゃん、ここにも──……フロウの木みたいに生ってるキャンディはないかしら」
「! やっぱりペペルはすごいわ」
フロウの木がここにはないなんて、誰が決めたのかしら?
ラヴィにとってペペルはいつだって、ラヴィには思いつきもしないことを提案してくれる。タイクツは吹き飛んで、楽しい思い出が増えるのだ。
既に探偵助手の籠はだいぶいっぱいになりかけていたけれど、そんなことは問題じゃない。
再び颯爽と枝の上に跳び乗ったなら、怪盗は探偵へと手を差し伸べた。迷うことなく手を取ったなら、あっと言う間にその身体は怪盗の隣に招き上げられた。なにせ彼女は力持ち!
双眸を丸くするペペルへ、なにが驚きを呼んだのか不思議顔のラヴィが問う。
「どうしたの、ペペル?」
「ふふ、ううん。なんでもないの。ラヴィちゃんが頼もしくて素敵だなと思っただけよ」
「? そう?」
「ええ、そう。ね、行きましょ」
そうして逞しい枝を進み葉を掻き分ける。キャンディはたくさんあった。でも、どれもこれも葡萄の房みたいに丸い粒が鈴生りになっていたり、さくらんぼみたいに慎ましく揺れていたりで、フロウの木みたいに硬い殻に覆われているものは見つからない。
せめて毬栗のようなものは? ……そんな姿も見つからない。
「ここの精霊たちは、とてもシンセツなのね」
かさ、と軽い葉を手の甲で押し遣るだけで、そこには煌めく“宝石”が顔を覗かせる。ちょっぴり肩を竦めたラヴィだったけれど、不思議とガッカリする気持ちはなかった。
──だって、
「やっぱりフロウの木はラヴィちゃんの国にしか育たないのかしら? ねぇラヴィちゃん、それにもきっとなにか理由があるのかもしれないわ」
むむむと眉を寄せ思案していた探偵さんが、新たな推理を|懐《いだ》いて微笑みを咲かせるから。今度はそれも考えてみない? なんて、当たり前みたいに『次』を提案してくれるから。
ラヴィの口許は自然と綻んでしまうのだ。
木の幹の|洞《うろ》の中に隠れていた小さな宝箱をそっと開ければ、澄んだ紅のブリリアント・カット。わぁと吐息をこぼしてペペルが夜空にかざした、その向こう。
どこに居ても目につく、巨大な樹。天空樹、と呼ばれるらしいそれ。
「……天空樹へ捧げるって、ほんと、どうしたらいいのかしら?」
ペペルの視線を追ったラヴィと水色の子が揃って腕を組みうーんと首を傾げた。
「こんなにどこからでも見えるから……どこからでも声が届きそうだけれど」
あんなに大きな樹の根っこはこの大陸の隅々まで届いていそうだし、あの長く高い枝から伸びる豊かな葉は大気のすべてにその力を送っていそうな気さえする。
だけど。
「とりあえず行ってみましょ、ペペル!」
「、うふふ、もちろん」
迷いなく駆け出す怪盗を、一も二もなく探偵は追った。
辿り着いた巨大な樹の幹は、大人が一体何十人抱きついたら囲い切ることができるのだろう。
ペペルがそんなことを考えるくらい、傍に立てばもはやそれは圧倒的な『壁』だった。
「こんにちは、お邪魔してるわ」
仮面を外し、まっすぐに見上げてラヴィは怯むことなく声を掛ける。しばらく返事を待ってみるけれど応えはない。こてり傾げた首と、揺れた撫子色の髪。
「お前はお喋りできないのかしら」
「……この子たちみたいにお口が出て来る、ということも難しそうよね」
水色の子へ視線を遣り、彼が手にした籠からペペルはいくつかのキャンディを選る。様々な形、色、大きさ。澄んだものから、ペペルの瞳のように乳白がかったものもある。その中でもいっとう大きなものを抓まみ上げた。
プレゼントするなら一番大きなものを、というのは決めていた。
──キラキラと光る大きな飴なら、より私達を素敵な場所に連れて行ってくれそうだもの。
大きな宝に価値はあってもどこかに持って行くのは難しい。小さな宝物がより集まった方が、どこかに行くには都合がいいわ、なんて。
想像を巡らせれば自然とシュワシュワ、胸の奥がソーダ水みたいにくすぐったくてわくわくする。
それは隣のお友達も同じだったようで。
「ねぇ天空樹。ラヴィたちね、魔法に掛かりに来たの。ふたりで集めたお宝を分けてあげる、だからお前の魔法を見せて!」
ペペルの手許の“宝石”をラヴィも掌で示す──と同時にキャンディから色とりどりの光が溢れ出た。
●怪盗と探偵の秘密の隠れ家
「「!」」
カカカッ! と。
正面から向けられた幾筋もの強烈なスポット・ライト。
思わず掌で庇を作り目を守ったふたりの耳に、先程までの穏やかな葉擦れではない、もっとざわざわとものものしい喧噪が届いた。
瞬きすれば逆光になった男たちの姿が辛うじて確認できる。黒のジャケットに、黒の特徴的な防護帽。
「居たぞ、薔薇の怪盗だ!」
「ペペル・トーンも居るぞ」
「名探偵、ペペル・トーンが追い詰めている!」
その声だけで。
ここがどこなのか、判ってしまった。
ペペルと視線を合わせ、すぐさまラヴィは再びマスクをつける。探るように背後に回した紅い手袋が触れたのは、石積みの壁。古びてはいるが脆くはない。
光から逃れるように目を走らせれば、長い長い石段がずぅっと尖塔の先へと続いているのが見えた。
にッ、と笑ってラヴィは駆け出す。
「これで追い詰めた、なんて。冗談でしょ?」
鹿撃ち帽のつばの蔭で、ペペルもこっそり笑みを浮かべる。周囲を取り囲む『警官たち』へと声を張り上げる。
「ここはわたしに任せて」
探偵は、逃げる怪盗によって開け放たれた重い木製の扉の隙間に滑り込み、長く緩やかに螺旋を描く石段を一度見上げた。怪盗の姿を認め、己も同じく踏み出す。
ふたり分の足音が塔の中に響き渡る。石段の横にはいくつもの明かり取りの窓があって、遠くにはオレンジ色の街の灯りが見える。空は暗く、星が瞬いて忍び寄る冬の気配を伝えていた。けれど、しなやかに駆け上がっていくラヴィの躍るドレスは一向に速度を落とさず、ペペルは追う内に息が乱れる気がした。
(みんなラヴィに『もうちょっと女王様らしくお淑やかにしてください』なんて云うのよ。失礼だと思わない?)
秋の実りを探しているとき。そんなふうに頬を膨らませていた彼女のことを思い出せば、彼女のお世話役たちの苦労が推し量られた。
「ふふっ、」
自然と声が零れる。ちらと振り返ったラヴィのマスクの奥の瞳も、明らかに笑っていた。
ここは、怪盗ラヴィの隠れ家だ。──いいや。怪盗と探偵の、ふたりの秘密の場所。
ハロウィンの街からおいしいおやつを頂戴するわるーい悪党とそれを追う名探偵は、実は仲良し! ふたり手を組みたくさんのおやつをふたり占めしてしまうのだ。
もちろん、それはふたりの空想。こんな石造りの尖塔に隠れ家なんて見たことも作ったこともない。初めての場所だというのに、けれどラヴィにはこの塔の構造がすべて判った。きっとここに。
石段の途中でえいと壁の一部を押せば組んだ石のひとつが動いて、ごごごと地響きと共に塔の壁がずれ部屋が現れた。素早く既に閉まり始めるそこに飛び込んだなら、
「ペペル!」
「ラヴィちゃん!」
どちらからともなく差し伸べた手。しかと掴み、引っ張り込んだと同時──ずん、と重い音を立てて“扉”は閉じる。壁の向こう側では遅れ馳せながら踏み込んできたらしい警官たちの困惑の声が、ほんの微かに漏れ聴こえてきた。
「うふふ。こんな本格的になるなんて、ね」
「ラヴィもびっくりしちゃった! 精霊の力ってすごいのね」
「ちゃんと警官さんたちに信じてもらえたかしら。怪盗さんを捕まえる気だって」
「きっと大丈夫よ。だってラヴィ、本気で逃げたもの」
ほんのちょっぴり息を整えながら顔を見合わせ笑い合う。
それから奥へと続く隘路をふたりでゆっくり進む。道は塔に沿って曲線を描き、突如開けた。
「「わぁ……!」」
笑顔を浮かべたカボチャのランプが部屋を照らし、真ん中にはオレンジのテーブルに紫色のテーブルクロス。その上には今はまだ空っぽのグラスや銀のカトラリー。
棚には棒付きキャンディやクッキーがところ狭しと並んで、傍らのワゴンにはパンプキン・パイやアプリコットタルト、ケーキだってモンブランにチョコレート、果物がたっぷり乗ったものやチーズがメインのそれまで何種類も!
それらがふたりが頂戴してきたおやつたちなのだと、教わる必要もなく判った。
悪戯っぽく顔を見合わせたなら、「いただいちゃいましょ」「ええ、もちろん!」。
たっぷり大きめに切ったパンプキン・パイと飾りつけに棒キャンディを添えて、グラスには林檎のジュースを注ぐ。乾杯。グラスを合わせてさくさくのパイをひと口。カボチャの甘みと香りが口の中に広がって。
「ん~~っ」
「……おいしいっ」
頬っぺたが落ちそう、なんて思ったわけでもないのに、ふたり揃って頬に掌を添えてしまうのだから不思議だ。
おいしいものを食べたら幸せ、なのはもちろんだけど。お友達が同じものを食べて頬を緩めているのを見るだけでも胸の奥がふわふわと浮き上がる心地になる。
ころころと変わる表情をかわいいと思う。自由で素早い挙動も魅力的だと思う。あんまりたくさん触れ合うとデパートの小さな子達が妬いてしまうといけないからペペルからは積極的には手を伸ばさないけれど、……躊躇わずに何度も手を伸ばしてくれることを、嬉しいと思う。
ペペルはパイに添えた生クリームを乗せてぱくり。ラヴィの左腕に揺れる手錠の片割れを見遣れば、くすりと口許が緩んだ。
「ねぇラヴィちゃん。……これからも手を組んでいけると嬉しいわ」
お友達になったばかりの距離もいとおしいけれど。これからもお友達でいたい気持ちに、『いつもと違う自分なら言える』……魔法に沿って、探偵らしさと“仲間”であることを加えてみた科白。まんまるになったラヴィの左目を見ればペペルはちょっぴり安心する。
──言わなくても判る、なんていうのは、やっぱり不思議だから。
伝えたいことは、ちゃんとお伝えしておくの。今思うことは、今伝えておきたい。
──そうしたら、私がもし忘れても貴方が憶えていてくれるかもしれないもの。
「ありがとう」
遊んでくれて。思うままの言葉を零せば、「そんなのラヴィだって、」パイを飲み込んだラヴィは口を噤んだ。
たくさんたくさん考えて、“準備”はしてきた。テーブルの向こう側で微笑むペペルは、やっぱりとっても可愛い。お喋りが上手でお話ししていて楽しいし、さっきみたいに新しい視点をくれるお友達。
──ううん、ラヴィは一度お話したらお友達だって思ってるタイプだけど……。
「……」
だからこそいざ面と向かって話そうとしたら照れちゃうかもしれない。ここに来るまでは確かにそう思っていた。
けれど、ペペルはまっすぐにそう伝えてくれて、それがとても嬉しかったから。
『これからもふたりで、楽しいことや素敵なこと、いっぱい探していきましょうね!』。そんな科白はきっと、普段でも言える。魔法のシチュエーションを借りて伝えたいことはなんだろう?
ここは『ふたり』の秘密の場所だ。
だからラヴィも微笑む。
「これからも素敵なお友達でいましょ!」
怪盗と探偵。
立ち位置は違うだろう。だから見るものもきっと違う。生まれだってもちろん違う。それでもこうしておいしいものを一緒に食べて、一緒においしいって笑って。たくさんたくさん、話をしたい。
そんな関係を表す言葉をラヴィは、『お友達』以外に知らないから。
純粋で真摯な声が告げたなら、ペペルも眦を和らげる。
「もちろん、喜んで。……こちらこそ、よ」
『予告状。ハロウィンの夜、“いつもと違うふたり”になりましょう!』
成功
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