【相撲】一夜限りのハロウィン場所!
●初日(一夜限りなので千秋楽)
呼出は執事服、行司は王様のような服を着た土俵上。これが何の集まりか、コアなファンならすぐ分かるだろう。そう――ハロウィン場所である!
「今生道、侍ノ姿、似合ッテルナ」
観客席から怪獣、ではなくミーグが見守っていた。
「一方の無黒海……まさかのアスリートアース大阪にある某一粒で沢山走れる人の姿をしてるなんて……意外です」
南瓜の着ぐるみに身を包んだゼノヴィアは白い服と白いペイントに身を包んで両手を挙げたポーズの無黒海を見て感心していた。
「はっけよい」
王様が軍配を裏返す。
「残った!」
「今の自分は流浪の侍、今生道! 負けないでごわす!」
「ハッハッハ!! 今の私は一粒で300回押し出せるッ!!」
しかし今生道が使うのは張り手だった。
「貴様ァ!! その刀は飾りかッ!!」
「当たり前でごわす!! 刀使って神聖な土俵に血飛沫飛んだらどうするでごわすか!!」
結果、押し出されたのは無黒海であった。そもそも刀はレプリカである。
「ふむ……押し出しの張り手にキレがありますね。この日の為に鍛えてきたのでしょう。一方の無黒海もまた、一粒で300回押しだせるその宣言も嘘ではないような気迫が見えましたね」
ティーゲルが親方めいた紋付袴姿で解説する。
「……つまり二人とも強いって事にゃ?」
魔女っ子姿のアシュレイがティーゲルに尋ねる。
「そうです。鍛えられた肉体がまさにこの一瞬のぶつかり合いで発揮されていました」
「続いての取組は、現鵬~対、花魁富士~」
東西関係なく組み合わせはランダムに決まっているらしい。花魁富士は女狐部屋らしく、九尾の狐の仮装だ。
「動きづらく無いでごわすか」
「貴方こそ、その姿はまるで……」
現鵬の仮装は、歌舞伎役者だった。どうやら、背中にどでかい飾りをつけている。
「成程なぁ、両者共に重量で勝負するつもりか? だがビッグバン場所の優勝横綱、|武楽鵬龍《ぶらくほうりゅう》のデカさには負けるぜ!」
肩にオウムの人形をくっつけたザッカリーはふんぞり返った。
「聞いた事ないけど誰にゃ?」
「ビッグバン場所、聞イタ事、無イ」
「しっ知らないのかビッグバン場所を!? 宇宙相撲12場所のうちの一つ、S5810星雲で開かれるかなり有名な場所だぜ!?」
「……知らないわ」
ゼノヴィアに否定されてガーンと落ち込むザッカリー。
「はっけよい、残った!」
王様が軍配を翻して取組はもう始まっていた。
「前に押し込めば勝ちでごわす」
「あら、それは貴方も同じこと……ふふ、どちらが勝つかしらね?」
「ならば――肩すかしでごわすよ」
急に肩を押されれば、成す術なく尻尾が土俵に付いた。現鵬の勝ちだ。
「くっ、後ろに重量がある者同士、同体に持っていけたら良かったのに……また相手をするわ」
「今のはどう見るのにゃ? あちしはよく分からにゃい」
ティーゲルはうーむと腕を組んだ。
「早く取組を終わらせたかったのではないでしょうか? 飾りがある以上、長引くと互いに不利になりますからね……現鵬は古傷もありますし」
「おお、スーパーノヴァ場所の|鬼羅星《きらぼし》の里と似た感じの取組だったな! 怪我中だった鬼羅星の里はでかかったぜ~、んでもって取組を早く終わらせようと――」
「だからそれは誰にゃ?」
「知らないわ……」
「スーパーノヴァ場所、知ラナイ」
そして次に出るのは南雲山。銀色の全身タイツに身を包み、頭にアンテナが生えたタイプの宇宙人の仮装だ。
「エイリアンデース!」
その相手をする邪悪ノ花は、銀色の全身タイツに身を包み――。
「銀色のタイツが被ったじゃとぉぉ!?」
「オー! まさか被るとは! そちらもエイリアンデスカ?」
「わしのはテンプレ的な未来人じゃあ!!」
会場に拍手と笑いと歓声が響く。
「はっけよい、残った!」
王様が軍配を翻す。宇宙人と未来人、勝つのはどっちか。
「大関にも成れとらん風情が宇宙人を名乗るのは百年早いわ!!」
「オーノー! ワタシの未来人のイメージと全然違うネ! そっちの負けデース!!」
多少口論になりながらも、足を払われてすっ転んだ南雲山。
「ハッハッハ!! わしの勝ちじゃあ!!」
決まり手は裾払いだった。
「一瞬ダッタナ、南雲山ガ、軽イノモ、理由カモシレナイ」
「軽いと吹っ飛びやすいものね……」
「邪悪ノ花は重いのにゃ?」
「まぁ、重い方でしょうね……」
「いっ今のは! ブラックホール場所で行われた|愚羅美帝《ぐらびてい》と|夢獣力《むじゅうりき》の取組を見てるようだぜえぇ!!」
盛り上がるザッカリー。
「「「「誰?」」」」
他の全員が首を傾げたのだった。
ここで、勝負審判の交代だ。勝負審判、今まで揃いも揃ってカラフルなお揃いの衣装を着て男子アイドル風だったのが、次は殿様と大臣みたいな姿になってやってくる。
「続いての取組は、氷蒼~対、燃鵬~」
会場がざわめく。氷蒼は確か引退したはずでは、という声とまさかの復活に黄色い声が飛ぶ。
「やあ、今回限りの特別デビューさ」
フィギュアスケーターの仮装を身に纏ってモデル歩きで入場する氷蒼。細身だからこそ出来る技だ。
「孔雪部屋の得赦とも戦って見たかったがぁぁぁぁぁ!!!!! 会いたかったぜぇぇぇ!!! 氷蒼ィィィィィィ!!!!!」
「それは嬉しいね。勿論、得赦もこの後控えているよ」
ちなみに燃鵬のコスプレはテニスプレイヤーである。
「はっけよい、残った!」
次の王様、イノスケ41世が軍配を翻した。
「うおぉぉぉぉぉ!!!! 全力でぶつかるぜぇぇぇぇぇ!!!!」
「あまり派手にやられても、それはそれで稽古の指南に支障が出るんだけどね……!」
全力でぶつかり合う両者、互いに譲らない。そして、3分が経過して――イノスケ41世はなんと水入りを宣言した。
「水入りって何にゃ?」
「仕切り直すような物です。互いに疲労しているので、この後はすぐ決まると思いますが」
「ドッチモ、全然、動カナイ、珍シイ!」
「そうね……氷蒼、引退したのだから体力は衰えているはずなのに……」
「まっまさかとは思うが!! ウルトラ場所で開催された|覇王道《はおうどう》と|黒王豪《こくおうごう》の水入りの試合が再現されているようで手に汗握るぜぇ!!」
「「「「誰???」」」」
そして取組は再開し、先にトンデモ決まり手「吹っ飛び」で吹っ飛んで倒れたのは大方の予想通り氷蒼だった。
「よっしゃああああああ!!! 氷蒼に勝ったぜぇぇぇぇ!!!」
「はぁ、良い、前哨戦には、なった、かな……」
なお、ガッツポーズは所作がなっていない証拠なのでしてはいけない。張った声で嬉しさを表現している燃鵬だった。
「前哨戦、ツマリ、得赦ガ、出テクル?」
「そういう事なのかにゃー?」
「だとしたら面白くなりそうですね。最近メキメキ力をつけていますからね」
「得赦って何者なんだよ?」
ザッカリーは首を傾げる。
「……宇宙相撲の方が、詳しいみたいね」
ゼノヴィアは呆れて首を振った。
「続いての取組は、得赦~対、闘竜~」
悪振部屋の闘竜も、今や力をつけて大関としてはかなりの強さを誇っている。
「俺の仮装は、勇者だ! かかってこい得赦!」
「私は氷の女王です。その身体を氷漬けにして差し上げましょう!」
童話に出て来るような仮装に身を包んだ二人が、息を飲む。
「はっけよい、残った!」
イノスケ41世が軍配を翻すと、どすこいどすこい、しゃなりしゃなりと両者腰を落として近づき合い、回しを掴んだ。
「得赦ノ回シ、全部、掴ミ切レテイナイ」
「闘竜は全く気にせず全部掴まれたままね……」
「どっちが先に倒しちゃうのかにゃ~?」
「得赦が完全に掴み切っている以上、有利なのは得赦でしょうね」
「おおっ、手に汗握るぜ!」
「うっ、確かに冷たいなお前の身体……それでエネルギー消費していいのか!?」
「心配ご無用、孔雪部屋の力士全員特別なちゃんこで力をつけていますので!」
ちなみに孔雪部屋のちゃんこは冷麺入りクールちゃんこ、冷たさに定評がある。炬燵で食べるアイスの如く体を冷やしてくるのだとか。良い相撲プレイヤーは真似しないで下さい。
「冷える前に……カタをつける!」
闘竜が氷蒼と同じく細身の得赦を勢いよく持ち上げる。場内が沸く。
「おっと? それで決まるほど孔雪部屋は細身ではありません!」
逆に前に体重をかけて、背中から闘竜を落とす勢いだ。だが、互いに転んだ方向は真横。殿様が手を挙げて、物言いだ。
「今度は物言いが出たわね……」
「アスリートアース相撲、滅多ニ、物言イ、無イ!」
「たまにあるのにゃ? ならいいんじゃないかにゃ」
「通常の相撲は結構な頻度で物言いが出る日もありますからね。放送時間が延びる事もあるとか」
「うおぉ! まるでこれはアトミックフレア場所の|愚霊堅《ぐれいがた》と|脚取富士《きゃとるふじ》の取組を見ているようだぜ!!」
「……そ、そうね?」
流石にそろそろ相槌を打ってあげた方が良いと思ったゼノヴィアだった。
「えー、只今の審判について説明致します。行司軍配は闘竜に挙がりましたが、両者体を付くのが同時ではないかと物言いがつき、協議の結果体が付くのが同時という事で取り直しと致します」
沸いた会場。それに伴って再び取組の準備からやり直す得赦と闘竜。
「しかし、細身の得赦は次も回しを掴んでも持ち上げられれば不利なのではないでしょうかね……」
「そうだにゃー、持ち上げられたらどうしようもないにゃ!」
「フッ、愚霊堅は脚取富士の身体のUFOから出る光線で持ち上げられても何とかサイコビームでUFOを撃墜したから問題ないぜ!」
「ソレ、人間、出来ナイ」
「身体特徴にあればビームやUFO使っても良いのね宇宙相撲……」
「はっけよい、残った!」
イノスケ41世が再び軍配を翻し、二人はぶつかり合う。
「何っ、今度はその手を使うか!?」
「ええ、なりふり構っていられなくなってきましたからね!」
得赦が狙おうとしているのは、後ろから土俵の外に出そうとする送り出し或いは送り倒しの戦法だろうか。
「くっ!!」
闘竜は即座に回り込もうとするも、少し遅かった。送り倒しで、得赦の勝ちである。
「オオ、今ノハ、上手イ!」
「ワザマエ、ってやつね……」
「多分カタカナ表記だとちょっと違うと思うのにゃ」
「いずれにしても、良い相撲でしたね」
「で、最後はどうするんだよ?」
最後は、一番良い取組に投票するそうだ。手元の端末から参加しよう。
「アア、入場スル時ニ、渡サレタ、コレカ」
「この着ぐるみだと操作しにくいです……」
「もちろん、あの取組なのにゃ!」
「そうですね、やはりここはあの取組で」
「ん~、迷うけどこれにするぜ!」
結果発表。一番人気だった取組は、氷蒼と燃鵬の奇跡の取組だった。続いて得赦と闘竜と続き、三番人気はまさかの仮装被りという事で南雲山と邪悪ノ花だった。
「いやー、楽しかったのにゃ! 次はまた来年かにゃ?」
「来年も見に来ましょうか」
「余ニモ、解説サレル、宇宙相撲、気ニナッテキタ」
「お、じゃあ今度みっちり教えてやるぜ!」
「私は勘弁しておきます……」
塩の代わりに撒かれた飴を食べながら、一同は会場を去るのだった。
成功
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