●旋律
猟兵と生きていく過程において、播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は多くのものを見てきた。
時に世界。
時に人。
それらは彼女の心に多くの波を立てるものであった。
波は風が起こす。波は何かが落ちることで生まれる。波は誰かの手によって形を変える。いずれにしたって、ただ一つでは存在し得ないものだ。
何かと何かがぶつかって生まれるものであったというのならば、クロリアは猟兵としての経験こそが、己の中に数々の『リズム』を生み出すものであり、その『色』から彼女は旋律という名のダンスを体得していくのだ。
つまり。
「最初は電流が体に走った、と思ったのです」
クロリアは後にそう語っていた。
彼女は猟兵として戦う最中、どこかマンネリを感じていた。
何に、というのならばそれは己の全てであろうダンスに、である。表現すること、そこにどうにも停滞じみたものを感じていたのだ。
それは彼女にとっての大きな悩みの一つだった。
そのことについて相談できる者はいたかもしれないが、しかし抜本的な解決にはなり得ない。だからこそ、クロリアは思い悩んでいた。
けれど、彼女は見たのだ。
事件を解決するために他世界への転移を維持するグリモア猟兵。
ナイアルテ、と呼ばれる女性の猟兵の瞳を見た時、これだ、と感じたのだ。
それは本能に近い。
湧き上がる情動。
心のままに体が動き出す。
彼女のことをクロリアは知っている。優しげな微笑みを浮かべ、けれど、その体躯にアンバランスな能力を併せ持っている。
安定に欠く、ということは即ち危うさということ。
自然に生まれたものではない。後天的なもの。けれど、そこに満ち欠けする月の美しさをクロリアは見出していたのだ。
「これが、きっとそうなのです」
手が天へと伸ばされる。
掌は杯。
そして、もう片方の手は己の胸に。
自身の鼓動を感じ、そして降り注ぐ月光を追い求めるかの如き情動を溢れさせる静かながらどこか激情を湛えた旋律。
舞うように、けれど、どこか導かれるように。
そんな旋律という名のダンスを終えたクロリアは額の汗を拭うこともなく、称賛送るナイアルテの手を掴む。
「どうか、この旋律に名前をつけてください」
その言葉にナイアルテは目を見開く。
「それは、とてもむずかしいことのように思えます」
けれど、それでも、と告げるクロリアに押されるように彼女は呟く。
己の胸に去来したものを――。
成功
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