「帝都桜學府は影朧の救済と称し、全ての影朧を帝都から排除しようとしている」
「慰撫、浄化、転生などと耳障りの良いことを謳ってはいるが、今ここにいる影朧の意思は、記憶は、想い出はどうなる」
「全ての影朧を問答無用で排除しようなど、言語道断!」
そう、影朧に同調するような言葉を次々連ねるのは、帝都のエリート大學生達だ。
彼らはいきり立ったまま、興奮冷めやらぬ表情でぐるりととある一点を凝視した。
「こ ん な に か わ い い の に ! ! ! ! ! !」
視線の先には黒猫がいる。
儚げだが知的な雰囲気を漂わせた、少年の形をした黒猫だった。
「故に!! 彼等を排除せんとする帝都桜學府を許してはならぬ!!」
「そしてその帝都桜學府を擁立する帝を……その治めるこの大正の世を、許してはならぬ!!」
「大正の世の打倒を掲げる幻朧戦線を支援し、哀れな影朧の安息後の地を作るのだ!!」
応、と息巻く若人達。大丈夫かな、この子ら一応エリートなんだよな。
どうやら黒猫も同じことを思ったようで、困ったように微苦笑を浮かべて。
「ううん……参ったなあ」
そう、呟いた。
●
「可愛いものを守りたい、って気持ちは解らなくもないのよ? でもね、可愛いからって影朧をそのままでいさせることはね、影朧自身の為にもならないの」
皆は解るわよね? と、花神・玉恵(花竜の乙女・f41618)が首を傾げる。
影朧、即ち他の世界で言うところのオブリビオンは、存在するだけで世界を滅びに導く存在。加えて、傷つき絶望に囚われた存在でもある影朧は、癒しを受けて転生の輪に乗らないことにはその悲しみを癒せぬまま彷徨い続けることとなる。
世界の為にも、影朧自身の為にも、癒しを与えて転生の輪に乗せるのは、大切で重要なことなのだ。
「だからね、その影朧……と言うより、影朧を守りたい子達には可哀想なのだけれど。彼らが匿っている影朧のところに向かって、転生の輪に乗れるようにしてあげてくれないかしら」
猟兵としては、頼まれるまでもない話だ。
問題はどこにいるのか、また具体的にどうすればよいのかだが。
「まずね、影朧の居場所なのだけれど。普段は大學生の子達に匿われていて、人前に出てこないのだけれど……今がね、まさにチャンスみたいなの」
予知によれば、今夜は流星群が訪れると言う。
何でも、この學生集会――と言っていいのかも危うい集まりだが――の主催の父親が天文學の教授だそうで、息子である彼も學会兼講演会に出席しなければならないらしい。因みに彼自身の専攻は天文學ではない為、恐らくは単純に人脈を広げる為なのだろう。
話を本題に戻すと、そうして主催に連れられ会場に向かう途中、一瞬の隙を突いて、影朧は脱走してしまうと言う――あれ?
影朧が黒幕なのではないの?
「うーんと……影朧……猫さんはね、本当に祭り上げられてるだけみたいよ。大學生の子達の熱意にちょっと気圧されてすらいる感じだったわ」
駄目じゃん。
「だからね、學会の開かれている会場の近くにはいる筈なのよ。正確な場所は現地で探して貰うことになるけれど……見つけられたら、猫さんは転生に同意してくれると思うわ」
但し、彼は条件を提示してくると言う。
「猫さんね、思い出せない大切な記憶があるみたいなの。それがどんな記憶か、取り戻せるのかまでは解らなかったのだけれど……胸にぽっかり穴が空いたような、深い寂しさに囚われているみたい」
その心は余りに空虚。
纏う儚さは、その虚無感に裏打ちされたものでもあるのだろう。
「だから、代わりになる想い出を、見せて欲しいんですって。大切な記憶をひとつ、共有させて欲しいって。個人的なものでも、誰かとのものでも、心を温められそうなものなら何でもいいわ。彼の中に思い出を複製しているほんの数分から数十分だけ、一時的にあなたはその記憶を忘れてしまうけれど……それが終われば、返してくれるようだし」
その間は、影朧が抱えた虚無を、一時的に味わうことになるかも知れないが。
影朧に沢山の温かな思い出を共有してあげれば、彼は寂しさを抱えず転生の輪に乗れるだろうと。
「あ、転生はね、出来る子がいなければ、桜學府所属の桜の精さんに知り合いがいるから、頼んでみるって金時さんが言ってたわ。御衣黄桜の美少年なんですって」
……その人ってもしかして皇族……まあいいだろう。本人も身分を隠しているようだし。
ともあれ、影朧を無事に転生の輪に乗せれば、後は學生達のアフターケアも必要になるだろう。
志を折られ……いや、可愛い黒猫と別れることになるのだから。そのショックは大きいに違いない。
「そこでね、私、調べてあるのよ。主催の子のお屋敷から歩いて行ける圏内にある、猫カフェーっていう素敵なお店!」
要するに名前のまんま猫カフェだ。フリードリンク制で、沢山の猫達と戯れることが出来る。
「お代金は大學生の子達の分も含めて、私達グリモア猟兵の側で持つから。恙無く進めば閉店までは二時間。思う存分、猫さんと戯れてくるといいと思うわ。あんまり構いすぎて、怖がらせないようにだけ注意してね」
學生達は猫カフェにさえ放り込めば各自で堪能して傷心を癒すらしいので、特別声をかける必要はないという。勿論思うところがあれば話をしてもいいのだが、基本的には猫との交流やドリンクを楽しむことに集中してしまって大丈夫とのことだ。
どんな猫がいるのか、ドリンクメニューなどは実際にカフェーで説明があると言う。
「因みに猫さんは戦っても倒せるし、寧ろ戦闘力は殆どないに等しいから、その方が話は早くはあるのだけれど……猫さんを探してる大學生の子達が、怒っちゃうから」
猫の危機を察知して駆けつけてくるし、何の躊躇いもなく庇いに入ってくるし、攻撃の成否に拘らずその後の猫カフェーへの出入りをディフェンスされると言う。過激派。
「私としても、戦わずに済むならそれに越したことはないと思うし。だから、どうか穏便によろしくね」
にこりと微笑む玉恵の掌の上、|淡紅一重咲の桜《グリモア》が花開く。
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあと申します。
猫カフェ行きたい行きたいと言いながら、行けた試しがないです。かなしみを背負った。
流れと詳細は以下の通りになります。
第1章:日常『スタアゲイザー』
第2章:ボス戦『忘れ路の猫』
第3章:日常『桜舞う、ハイカラカフェー』
第1章では、流星群を眺めながら散策を楽しんでいただきます。
散策を楽しんでいますと、噂として目撃情報が自然と耳に入ってきますので、特別調査に手を咲く必要はございません。
桜舞う夜に流れ星を、一人でのんびりと、大切な誰かと一緒に。思い思いに過ごしていただければ幸いです。
第2章では、『忘れ路の猫』の頼みで彼に想い出をひとつ共有してあげることになります。
ご自身の中の温かな記憶を、プレイングに乗せて託していただければ、幸いです。
記憶がない束の間、どんな気持ちになるかを示していただくのもよいでしょう。
満足すれば(=必要成功数に達したら)、猫は満足して転生を受け入れます。
第3章では、しょんぼりする大學生達を伴って猫カフェーに行きましょう。
詳しいシステムやドリンクメニュー、どんな猫がいるかは断章にて。
また、拙宅グリモア猟兵(慧、シトロン以外)と、御衣黄とその友人達(呼び出しの意図や接し方によっては応じない可能性あり)もお声がけいただければご一緒させていただきます。
第1章開始前に、断章を執筆予定です。
戦闘パートの地形などの追加情報も、断章での描写という形で公開させていただきます。
断章公開後、プレイング受付開始日をタグにて告知させていただきますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
第1章 日常
『スタアゲイザー』
|
POW : 願い事をたくさんする
SPD : 願い事を素早く3回唱える
WIZ : 願い事に想いを込める
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
青藍の空には満天の星が輝いている。
ばかりか、星の光を受けて白く抜けたように煌めく桜が、風に踊るようにして、舞っている。
そして時折、気まぐれのようにちかり、瞬いて星が流れゆくのだ。
冬の夜はまだ肌寒いが、澄んで冴えた空を照らす光は明るく、夜の帝都の街並みも、暗がりに阻まれることなく見渡せるほど。
美しい夜と穏やかな時間を、今は存分に楽しんで――、
「ネコチャンは何処に行った!?」
「何て事だ、今頃迷子になって心細い思いをしているに違いない!!」
「早々に探し出して保護するのだ!!」
……、……うん。
時折、無粋な叫び声が聞こえてくるけれども。
彼らも必死なのだ。それに悪気はない。許してあげよう。……いや、悪気はなくとも幻朧戦線を支援されるのは困るけれども。
「猫……ちゃんって、さっき向こうに走っていった男の子?」
お陰で、歩いているだけで噂も耳に入りやすいことだし。
夜の帝都の散策を楽しみながら、街の噂に耳を傾けることにしようか。
インディゴ・クロワッサン
行く宛など無く、ただふらふらと。
普段の依頼で着まくってる私服じゃなくて、夜に紛れそうな|普段着《基本JCの姿》で歩いてるけど、不審に思われないってホントありがたいよねー。
歩きながら時折空を見上げれば、夜空に瞬く星と幻朧桜のコラボレーション。
「…………。」
星を見上げて、何かしらの思う事はあるんだけど…上手く形にならないし、言葉にもならない。
言語化すら出来てないこの感情を、どう…認識…すれ……ば…
ってやっかましーーーい!!!
|折角《せーっかく》、自分の内面を探るべく、エモエモな感じで浸ってたのにー!!!
「…はぁ…もういいや…」
UC:集め集う藍薔薇の根 発動ー!
さーて、黒猫はどこかなー
●
藍染めの月は夜に紛れる。
当て所なく彷徨い、ふらふらとただ独り歩く。
インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)の装いは、そのまま夜に溶けてしまいそうな、平素の出で立ち――黒を基調とし、|外套《マント》を翻し、異国の騎士を思わせるもの――であったが。
(「不審に思われないってホントありがたいよねー」)
行く先の時代や文化、その情勢に合わせる必要がないというのは、気楽でいい。
まだ少し、肌を撫でる風は肌寒いが。はらり、その風に舞い上がる白に導かれるようにして、夜天を仰げば。
夜空に瞬く星と、青藍を白く抜いて煌めく幻朧桜の|共演《コラボレーション》がそこにある。
「…………」
インディゴは我知らずその口を軽く開き、しかしそこから漏れ出る声はなかった。ただ微かな呼吸の音ばかりが、白を伴った吐息と共に流れゆくばかり。
心の中には確かにえも言われぬ感情が、寄せては返す波のように、浮かんで来ている筈なのに。そのどれもが上手く形にならず、また言葉にもならない。
(「言語化すら出来てないこの感情を、どう……」)
「いたか!?」
「いないぞ!!」
(「認識……すれ……」)
「くっ、此の儘では凍えて弱ってしまう!!」
「未だ探していない場所を当たるぞ!!」
(「ば……」)
「「「ネコチャアアアアアアン!!!!!!」」」
「ってやっかましーーーい!!!」
ああもう台無しだよ!!
当の學生達は恋は盲目、ならぬ猫に盲目状態でどっか行ってしまったが。道行く一般ピヰポヲは驚愕の表情でインディゴを振り返っていた。
「|折角《せーっかく》、自分の内面を探るべく、エモエモな感じで浸ってたのにー!!!」
静謐の夜、儚く流れる星々に、寒風に攫われそうな桜。物思いに耽るには丁度いい夜だった。……うるさいのさえいなければ。
「……はぁ……もういいや……」
人々もすぐにそれぞれの日常へと戻っていったことだし。
インディゴは脱力し、がくりと肩を落としつつも、即座に埒外の力で世界に感覚の根を張った。薔薇のそれのように巡る神経は、今や密やかな囁き声すら聞き逃すことはない。
(「さーて、黒猫はどこかなー」)
夜の下で、藍の薔薇が咲く。
大成功
🔵🔵🔵
キャット・アーク
サイバーザナドゥの空は大概いつも曇ってて、街のネオンもずっと付きっぱなし
星なんて見えた試しが無い
ネオン以外のものがチカチカ光ってるのが珍しくて、しばらく立ち止まって見入っちゃう
(尚、5分と経たず飽きた模様)
オレが〝迷い猫〟じゃないのかって何人かに声掛けられた
そりゃ、猫だけどさ
フードを脱ごうか考えた所で良い事思いついた
逆にオレが迷い猫だって言い回れば、学生達を誘導して足止め出来るんじゃ?
会う人会う人に「迷子になったの」「お兄さん達とはぐれちゃって」って言いまくるよ
その内向こうが見つけてくれるんじゃないかな
探してる猫と違うってなってもお構いなし
構って構って、ってすり寄って行くもんね
●
……思えば。
(「サイバーザナドゥの空は大概いつも曇ってて、街のネオンもずっと付きっぱなし」)
そんな環境で、星が見える方が奇跡と言うものだろう。
少なくとも、キャット・アーク(|路地裏の王様《ボスネコ》・f42296)はそんな世界で生きてきた。
だから、ネオン以外のものがチカチカ光っているだけで、まるでこの世のものではないみたいに珍しくて。
「………………」
足を止めて、青藍に染まった空を見上げて。
年相応の子供のように、立ち尽くしていた。
紫水晶の瞳の中に、映った星が瞬いて、時折滑るようにして、消えていく。
最初の内は、それも物珍しかったのだが。
(「……やーめた。首痛いし」)
猫とは得てして気紛れなもの。
五分と経たずに飽きてしまい、視線を目の前へと戻す。
「ちょいと、君」
「?」
道行く人の一人が、声を掛けてくる。
「君、さっきから探されてる『迷い猫』かい?」
「……んーと」
違う。
と、言い切ってしまうのは余りに簡単だ。
(「そりゃ、猫だけどさ」)
フードを脱いでしまえばそれでおしまい。
……そこまで考えて、ふと。
(「良い事思いついた」)
一度は上げた手を降ろし、心細げに告げてみせる。
そうだよ、と。
「迷子になったの」
「あらぁ、やっぱりそうだったんだねぇ」
自分自身が迷い猫を装えば。
學生達を誘導して、足止めすることが出来るかも知れないと。
妙案を思いついた、と言わんばかりにキャットはここから、会う人会う人に言い回った。
「お兄さん達とはぐれちゃって」
「そうかいそうかい、戻ってきたら探してたって伝えておくよ」
まるで自分を探してくれる學生達の姿を求めて、彷徨う迷い猫のように。
やがて狙い通り、學生達が迷い猫の噂を聞きつけてやってきた。
「ネコチャン!!」
「……では、ないな。ネコチャン違いか。この子も可愛いけど」
「済まんな名も知らぬネコチャンよ、我々は先を急――」
「待ってよ」
人違いならぬ猫違いだったと去ろうとする學生の、一人の腕へとキャットは尻尾を巻きつけるかのように腕を絡めて。
上目遣いで甘えて見せれば。
「構って構って、置いてかないでよ」
「「「ネコチャンカワイイ」」」
想定以上にチョロかった。
すっかりデレデレになった學生達は、キャットの掌の上でコロコロされたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
例年この時期は目立った流星群というのは聞かないのですが…突発出現の小流星群でしょうか、そもそも違う世界ですが。
それにしても天文學の講演会だなんて、私が聴きに行きたいくらい…いえ今は流星群ですね!
私方向音痴な上に星となると夢中になっちゃう…歩きながらだと私が迷子になりかねないので。
できれば街の中でも腰を落ち着けて空を見上げられる場所、ベンチなどがあればそこに座って聞き耳を立てながら流星を探したいですね。
同じ場所での情報収集には限界もあるでしょうから適宜場所は変えつつ。
夜空に一瞬キラリと光る流星を見つける度に胸はときめいて。
たくさんある願い事はとても唱えられないけれど、ひとつくらいは届くでしょうか
●
(「例年この時期は目立った流星群というのは聞かないのですが……突発出現の小流星群でしょうか」)
そもそも日本の大正時代――とは似て非なる世界。流石に故郷のそれとは天文の法則も違うのだろうかと、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は思案しつつも。
「それにしても天文學の講演会だなんて、私が聴きに行きたいくらい……いえ今は流星群ですね!」
異世界の、もしかしたら天文の法則も異なるかも知れない世界のものではあれど――いや、だからこそだろうか。そっちに一瞬気を取られつつも。
一旦それは堪えて、きょろりと詩織は周囲を見渡す。そして、探していたものを見つけてそちらに駆け寄った。
(「私、方向音痴な上に星となると夢中になっちゃうので……」)
星空の下で散策、なんて何とも風情があるが。
猫を探すどころか、詩織自身が迷子になってしまっては元も子もないと、木製の|長椅子《ベンチ》に腰を下ろす。
こうして落ち着いて空を眺められる方が、何に気兼ねすることもなく星空を楽しめるから。
(「あっ、また流れた……」)
きらり。
その一瞬を見逃さない。青藍の空に白い、滑らかな線を描くように、星が流れて消えていく。
短く、願いを掛ける合間にも過ぎ去っていきそうな、儚くも美しい光の命だ。
「何処だネコチャン!!!!!!」
「……ねえ、あの人が探してる猫って……」
勿論、聞き耳を立てるのも忘れない。
(「今の通行人の話からすると、目撃情報があったのはあっち……でしょうか」)
一所に留まっていても、集まる情報には限りがあるだろうから、噂を頼りに場所は変えながらも。
再び、腰を下ろすのに丁度いい場所を見つけて観測を始めれば、また光る一瞬に流れ星を見つけて。
その度に、詩織は胸をときめかせずにはいられないのだ。
(「たくさんある願い事はとても唱えられないけれど……」)
でも、ひとつだけなら。
もしかしたら、あの光に届くかも知れないなんて、思うことはやめられないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
一体何をやってらっしゃるのでしょうね?
学生の身でありながら勉学を疎かにするなんて。
主義思想の主張は構いません。ですが学業を放っておいてまで、まして猫さんの気持ちを無視してはいけないでしょう。
いけませんね。ちょっと気持ちが高ぶってしまって星を見るどころではない状態です。
ですがあえて星を見る事で気持ちを落ち着けて……「静かに!」と言わないだけまだ自分の状態はましだと思いましょう。思わなくては。
無粋な声を上げるからこそ情報が集まるのですから。
でも猫さんは大きな声は好まないと聞いた事がありますが、主義思想の主張で嫌われたりしなかったのかしら?
●
「ネコチャン何処ー!?」
「………………」
声を張り上げ、猫を捜索する學生達。
彼らへと、鋭く刺さるような視線を向ける者がいた。
(「……一体何をやってらっしゃるのでしょうね?」)
夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はお冠であった。
いや、これにはちゃんとした理由があった。
(「学生の身でありながら勉学を疎かにするなんて。いえ、主義思想の主張は構いません。ですが学業を放っておいてまで、まして猫さんの気持ちを無視してはいけないでしょう」)
一つ一つならまだしも、合わせ技でアウトであった。
特にいたいけな猫相手に、逃げ出すほどの扱いをするなど言語道断である。悪気がないのは理解出来るが、悪気がなければ何をしてもいいというわけではないのだ。
(「いけませんね。ちょっと気持ちが高ぶってしまって……」)
正直、星を見るどころではない。そんな心の余裕は今の藍にはない。
だが、だからこそここは夜天を仰ぐのだ。冬のまだ寒い空気に澄み渡る青藍の空、その中で瞬き、儚くも柔らかく希望の光を放つ星々を眺めていれば、心のざわめきも凪いでいくよう――、
「ネコチャンは何処に行ったんだああああああ」
「………………」
そういうとこだぞ。
……と、藍も似たようなことを思ったのだが、口にはしなかった。既のところで理性で押し留めたのである。超偉い。
(「ここで『静かに!』と言わなかっただけまだ自分の状態はましだと思いましょう。思わなくては」)
それに彼らを敢えて放置しているからこそ、目的の猫の情報が集まるとも言える。だいぶ不本意ではあるけれど。
だが、まだ耐えるのだ。ここが正念場だ。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
(「でも猫さんは大きな声は好まないと聞いた事がありますが、主義思想の主張で嫌われたりしなかったのかしら?」)
余程その猫はおおらかなのか、或いは辛抱強いのか。
どちらでもなければ……そんなことすら些事に思えてしまうほどに、彼は空虚なのだろうか。
その可能性に思い至ってしまってからは、先程までとはまた別の、もやもやとした気持ちが、藍の中に燻って。
星の光でさえも、今はそれを晴らせそうになかった。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
WIZ判定
「もぎゅううぅ……」
カントは怒っているのです
ゆーいっちゃん(カントの主)がまた猫カフェに行ったのです
カントというものがありながら……
もふもふはカントだけで十分なのです!
でも猟兵としてお仕事は頑張るのです
サアビスチケットがあるので、お菓子を食べながら黒猫さんを探すのです
ちょっぴりやけ食いしちゃうのは仕方ないのです
満天の星空にふと足を止めて見とれるのです
星がキラキラで、手を伸ばしたら届きそうなのです
ぴょんぴょんもきゅもきゅと飛び跳ねて楽しむのです
もきゅ!? 流れ星なのです!
お願い事をしなきゃなのです!
『ゆーいっちゃんとずっと一緒にいれますように』
もきゅん! やっぱりこれが一番なのです!
●
「もぎゅううぅ……」
ここにもお冠な者がいた。
高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)――愛するパートナーの青年と、シルバーレインで暮らしている、好奇心旺盛でちょっとヤキモチ焼きな、モーラットの女の子である。
だが今、その隣に愛する青年の姿はなかった。いや、彼は能力者であって猟兵ではなく、グリモアの転移が使えない……というのもあるのだが。
そもそも、カントは彼に内緒でこっそり抜け出してきたのである。それと言うのも。
(「|もっきゅもっきゅきゅぴぴ《カントは怒っているのです》」)
その胸中を体現するかのように、彼女の所作は普段よりちょっとだけ荒っぽい。
(「|もーきゅっぴ、もきゅもきゅもっきゅ《ゆーいっちゃんがまた猫カフェに行ったのです》」)
もふもふならここにいるじゃない。
大好きって、君とずっと一緒だよって言ってくれたじゃない。
結婚して式だって挙げたし、名実共に花嫁になってくれたじゃない!
「|ももっきゅっきゅっきゅっきゅ、もきゅもきゅもっきゅきゅきゅーきゅっきゅぴー!《カントというものがありながら……もふもふはカントだけで十分なのです!》」
この浮気者! むきー!!
そんな気持ちでプチ出奔。恋する乙女の行動力を甘く見てはいけない。
でも猟兵としてお仕事は頑張るのです、と。
サアビスチケットと交換して貰ったお菓子を食べながら、黒猫を捜索。ちょっぴりやけ食いモードに入っているけれど、仕方ないことなのです。
そんな中、夜だと言うのに空が明るい気がして、ふと見上げれば。
「|もっきゅー!《わあー!》」
きらり、瞬き煌めく満点の星空。
宝石箱の中身を広げたような空に、ふと足を止めて見惚れてしまい。
それから、ぴょんぴょんもきゅもきゅと飛び跳ねて楽しむんでいると。
「もきゅ!?」
ちかりとした光が、滑り落ちるように柔らかな線を描く。
(「|ももきゅっきゅきゅ! もきゅもきゅもきゅきゅもきゅきゅもきゅきゅ!《流れ星なのです! お願い事をしなきゃなのです!》」)
叶えたいことは色々あるけれど、星の流れる時間は短い。
それなら、やっぱり。
『ゆーいっちゃんとずっと一緒にいれますように』
時々ヤキモチ焼いてしまうこともあるけれど。
それも大好きだからこそ、だから。
「もきゅん! |もきゅきゅっきゅぴー!《やっぱりこれが一番なのです!》」
だってやっぱり大好きなのだ!
大成功
🔵🔵🔵
スリジエ・シエルリュンヌ
うーん、つまりは大學生の皆さんが空回りしている状態、と。…同年代として、少し気持ちはわかるのですが。
桜色の文豪探偵、押して参ります!
流星群!流星と桜の共演…いつの季節でも、桜とともに眺められるのは、故郷の特権ですね。
そうのんびりと思いながら、一人で散策しています。
こうして足で稼ぐのも探偵ですし…。何より、文豪としても肥やしになりますから。
それでも、目撃情報は忘れないようにしませんと。
さて、どちらに…?
●
「うーん」
相変わらずドタバタしている學生達を前にして、スリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)は思案する。
(「つまりは大學生の皆さんが空回りしている状態、と」)
影朧に同情する――と言うか、猫を愛する気持ちに嘘はないのだろう。が、当の猫が現状をよしとしておらず、こうして行方を晦まされてしまった。
そして未だ見つかっていない、ということだ。
(「……同年代として、少し気持ちはわかるのですが」)
よかれと思ってしたことが、いい結果に終わらなかったり……なんて経験は、スリジエにも覚えがある。
それを思えば何となく彼らが憎めないような気もするが、駄目なものは駄目なので。
それに、猫探しと言えば探偵の仕事だ。
「桜色の文豪探偵、押して参ります!」
サクラミラージュに生きる探偵であり、文豪であるスリジエは、この世界の事件を見過ごせない。
とは言え、まだ未遂。しかしだからこそ、未遂の内に解決し、放置すれば起こるであろう事件を未然に防ぐのだ。
意気込んだところで、ちかりと若葉色の瞳に光の筋が映る。
ぱっと顔を上げれば、丁度星達がひとつ、またひとつと溢れるように流れ落ちて。
「流星群!」
それだけではない。
帝都の灯りや星の光を受けた幻朧桜の花弁が、まるで自ら輝くように、白く煌めき舞っているのだ。
(「流星と桜の共演……いつの季節でも、桜とともに眺められるのは、故郷の特権ですね」)
こんな素敵な世界を故郷に持つ自分は、幸せ者だ。
その事実を噛み締めながら、のんびりと一人、帝都の街を散策する。
(「意外と地味って思われることもありますけど、こうして足で稼ぐのも探偵ですし……何より、文豪としても肥やしになりますから」)
何がネタになるか、存外解らないものである。
日常の営み、ちょっとした変化……なんてことないと思えるものだって、想像力を豊かにする為の材料だ。
探偵としても文豪としても、足で稼ぐというのは結構、大切なことなのだ。
(「それでも、目撃情報は忘れないようにしませんと。さて、どちらに……?」)
その時、気になる噂が耳に届く。
「猫ちゃん……って、黒い耳の外套と、尻尾を生やした男の子のことかね」
「だったらさっき、少し外れの丘の上に向かっていったな」
街の灯りから外れて、小高い丘の上。
星がよく、見える場所。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『忘れ路の猫』
|
POW : すぐに返すから少しだけ、君の記憶を借りるね
対象に【自身と同じ猫の耳と尻尾】を生やし、自身とのテレパシー会話を可能にする。対象に【一時的な記憶の忘却(数分〜半日後に返還)】の状態異常を与える事も可能。
SPD : 受け入れてくれるなら、その花に触れて欲しいんだ
レベルm半径内を【記憶共有の許可を得た者のみ触れる翡翠葛】で覆い、[記憶共有の許可を得た者のみ触れる翡翠葛]に触れた敵から【一時的に記憶(数分〜半日後に返還)】を吸収する。
WIZ : この虚無を埋める為に、力を貸してくれないか
【記憶共有の許可を得た者のみ見える魔法銀幕】に映し出された【大切な人の顔だけが見えない自身の記憶】を見た対象全てに【一時的な記憶の忘却(数分〜半日後に返還)】を与え、行動を阻害する。
イラスト:kae
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠花神・玉恵」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
街の灯りから外れて、小高い丘の上。星がよく、見える場所。
そこには一本の桜の木が佇んでいて、その下にゆらり、尻尾を揺らす影がある。
影は星を見上げていたようだったが、猟兵達の気配に気がついて、立ち上がると振り返る。間違いない、彼が『猫』だ。
「君達は帝都桜學府……いや、超弩級戦力の人達かな」
ひどくあっさりと、彼は事態を受け入れていた。猟兵達の姿を見ても、逃げたり抵抗したりしようとする様子が一切感じられない。
「僕を『救済』してくれるんだろう? 拒む理由なんてないさ。……ただ、その前に僕の『頼み』を聞いて欲しいんだ」
僕には『記憶』がなくてね――そんな言葉から始まった彼の事情は、概ねグリモア猟兵から聞いた通りだった。
何か、思い出せない大切な記憶がある。それが何なのかすら、猫自身にも思い出せない。ただ、心の空洞を通り越して虚無になってしまうほど、大切な記憶だったことだけは理解出来ている、と。
その記憶が戻ることはないだろうと猫は言う。根拠はないが、確信めいた予感があるのだ。だから、取り戻す代わりに虚無を埋める方法を考えた。
まさにその方法というのが、他者の心を満たす大切な記憶。それを分けて欲しいのだと言う。
「分けて貰うと言っても、一時的に預からせて貰って複製して……それから返す、と考えて欲しい。一時的に君達の中から消え失せてしまうけれど……僕が複製を終えて返せば、なくなっていたこと自体が嘘みたいに、君達の中にすっと戻ってくる筈さ」
その間は、もしかしたら猫と同じ喪失感、虚無感に襲われることもあるかも知れない。根っから忘れてしまって、嘘のように何も感じないかも知れない。その辺りは個人差があるらしい。
「口約束にはなってしまうけれど、必ず返すよ。|他者《ひと》のものでも幸せな記憶が少しでも多くあれば……その幸せを、見守るように抱えて眠れたのなら。きっと、来世の僕は大丈夫だから」
こんなことを頼めるのは、君達の他にはいないと。
猫は、まっすぐに猟兵達を見つめて、告げた。
高崎・カント
「もきゅう?」
記憶を貸す?
仕方ないのです……絶対返して下さいなのですよ!?
大事な記憶は、ゆーいっちゃんと初めて会った時のことなのです
カントはずっと昔は野良モラだったのです
山で遊んでいたら、ゆーいっちゃんに会ったのです
『カント』って、名前を付けてもらったのです
それからずっと一緒なのです!
……今はプチ家出中なのですけど
もっ? なにしてたっけ?
きゅ! おかしがあるのですー!
おかしおいしいのですー
きゅっぴ、ねこさんなのです
たのしくなってくるくるまわるのです
もきゅ? どうして――はおこってたんだっけ?
記憶を返してもらったら、毛をもふっと逆立てちゃうのです
カントがカントじゃなくなったような気分だったのです
●
「もきゅう?」
高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)が首を傾げる……ような仕草を見せる。
記憶を貸す。その意味は理解出来るが、いまいちどういった感覚なのか想像がつかない。
ともあれ、それでこの猫が満足するのであれば否やはない……のだが。
「|もきゅきゅもきゅぴ……もっきゅーもきゅもきゅもきゅきゅぴぴ《仕方ないのです……絶対返して下さいなのですよ》!?」
しっかりと念を押したのは、彼が貸して欲しいのが『大切な記憶』であるのなら、何を持って行かれるのか、カントには容易に想像がついてしまったからだ。
そしてそれは、絶対に失いたくないものだからだ。
「ありがとう。大丈夫、なるべく早めに返すようにするよ」
意図を察してくれたらしい猫がそう言う。
嘘を吐いているようには見えないが、万が一ということもある。それに、不安なものは不安なのだ。
猫の周囲に翡翠葛が生い茂り、その一房がカントに触れた。
――ずっと昔。
まだ、カントが『カント』ではなかった頃。
一匹の野良モーラットが、どこかの山で遊んでいる。
そこに現れた、物心ついたばかりと思しき少年。
彼はモーラットに『カント』と名付け、それからふたりはずっと一緒。
偶にこうして家でもするけれど、今でも大切な人。
少年は、……彼の、名前は――、
「もっ?」
なにしてたっけ? と再び首を傾げるような仕草をする 。
「きゅ!」
はお菓子を見つけた。上機嫌でぱくぱくと食べる。
「きゅっぴ」
ねこさんなのです、と は近寄ってみた。耳がぴこりと、尻尾がゆらりと揺れている。
にも耳と尻尾がある! 真似をしてたら楽しくなってきて、くるくる回った。
「もきゅ?」
どうしてだろう。
どうして はおこってたんだっけ――?
「……ごめんね」
猫が呟く。
翡翠葛が、はらはらと散る。
「もきゅ!!」
流れ込んでくる、記憶。
思い出した。全て、思い出した!
「|もーきゅっぴ《ゆーいっちゃん》!!」
ゆーいっちゃん。大切な人。
『カント』の、大切な人!
毛をもふっと逆立てるカントに、猫が声を掛ける。
「ありがとう。怖かったよね、でも安心して。もう全部戻った筈さ」
猫はそう言うが、怖かった……とは少し違う。
(「|もきゅきゅもきゅきゅ、もきゅきゅっきゅもっきゅきゅぴぴ《カントがカントじゃなくなったような気分だったのです》」)
もしかすると、猫も同じ気持ちでいるのだろうかとカントは思った。
猫が、穏やかに微笑みながら、泣いていたから。
大成功
🔵🔵🔵
スリジエ・シエルリュンヌ
…わかりました。それが必要なのは、本当ですし。
私が差し出すのは、お養父様との記憶。
白銀のドラゴニアンだったお養父様。
幻朧桜から生まれたために孤児だった私を、引き取って育ててくださったんです。
隠れ里の守人でしたから…鍛錬をよくしてまして。それを、幼い私は眺めていたんです。
で、その後に…サンドイッチを一緒に食べて休んでたりしたんです。
それを一時的に失くすとしたら…ええ、喪失感と虚無感はあります。
だって、大切な…誰かの顔を思い出せないのですから。
いつだったか、影朧になったその人を…転生させたことだけは、残ってるのですから。
※この養父の影響で『超絶近接バリツ探偵』になったのは、別の話
●
「……わかりました」
目の前の少年を――猫を、救う為なら。
(「それが必要なのは、本当ですし」)
思うところはあったが、スリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)は、それを受け入れた。
「ありがとう」
猫は柔らかく微笑んでお礼を言う。邪気や悪意は……今のところは感じられない。
からからから、と二人の周囲を銀幕が覆い尽くす。少年の姿ではない、文字通りの黒猫が、女性と仲睦まじげに戯れている様子が映し出された。女性の顔は、黒く塗り潰されてしまっていたけれど。
だが、それも上書きされるようにして、消えていく。
――桜に包まれ、生を受けた。
帝都に、世界に咲く幻朧桜から生まれた彼女に親はなく、白銀の色を纏ったドラゴニアンによって育てられた。
隠れ里の守り人であった養父を、幼い娘はよく見ていた。鍛錬に余念のない男だった。その背を見て育った。
余談だが、そのお陰で現在の彼女の戦法が形作られたほどである。ともあれ、それほどまでに影響を受けていた。
鍛錬が終われば二人でサンドイッチを食べて休んで……そんな日々が、続いていた――。
(「……ええ、確かに喪失感と虚無感はあります」)
心のどこか、深い部分が空っぽになったような感覚。
スリジエ自身を形作る根底が、すっかりなくなってしまったかのような錯覚。
(「だって、大切な……誰かの顔を思い出せないのですから」)
恐らくは、猫にとってのあの銀幕のように。
(「いつだったか、影朧になったその人を……転生させたことだけは、残ってるのですから」)
それはとても虚しいことだ。
忘れているから悲しみはない。それでも、思い出せないことが寂しくて、そして、とても空虚だ。
だが、ふと。
空っぽの心に、満たされていく感覚がある。
器に水が注がれるように。暗闇に光が差し込むように。
「これで終わり。本当にありがとう」
「……本当に、これでいいのですね?」
「ああ」
スリジエにはその表情がやはり、酷く寂しげに見えてならなかったが。
本人がそう言うのであるから、それ以上は何も言わなかった。
大成功
🔵🔵🔵
インディゴ・クロワッサン
一時的に提供する記憶(肉体依存)
宿敵:アンリと共に、庭園に咲く藍色の薔薇を眺める穏やかな時間
※|本人《インディゴ》の意識/記憶からは排出済みなので、帰ってきた時に本人は動揺すると思います。
記憶や想い出、ねぇ………
「僕にロクな記憶なんて無いんだけど…ま、それでもいいならどーぞどーぞ」
まぁ最悪、猟兵になった以後の記憶でもいいや…
UC:ヒトをダメにするタイプのふわふわの薔薇 でクッションを呼び出したら、猫くんの側でごろーんと横になって
「僕、クッションに埋もれて寝てるから、終わったら起こしてねー…」
おやすみなさーい…(爆睡)
●
(「記憶や想い出、ねぇ……」)
うーん、と少し、インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)考え込んだのには理由があった。
「僕にロクな記憶なんて無いんだけど……ま、それでもいいならどーぞどーぞ」
へら、と笑ってそう答える。
渋ったわけではないのだ。ただ彼の……猫の望む糧になるようなものを自分が分け与えられるかどうか、その一点に疑問を持ったのみである。
とは言え、猫が『救済』される為に必要なことなら、やれるだけはやってみるかの精神である。
(「まぁ最悪、猟兵になった以後の記憶でもいいや……」)
この時の彼は本当に、それほどまでに何も思い浮かばなかったのだ。
「僕、クッションに埋もれて寝てるから、終わったら起こしてねー……」
どこからともなく、猫の隣に大きな藍色の薔薇――否、それを象ったクッションが現れた。所謂ヒトをダメにするタイプのそれは、インディゴがごろーんと寝そべれば、文字通りその身体が埋もれてゆく。
「おやすみなさーい……」
インディゴはそのまま、程なくして爆睡してしまった。
ふふ、と猫はそんな彼に微笑み、銀幕を広げる。
――美しい庭園があった。
庭園には見事な藍色の薔薇が咲き誇っていて、手入れの行き届いたその庭を、深く濃く彩っていた。
それを眺める藍染めの月の傍らに、付き従うような影がある。
姿勢を正し、執事服をかっちりと着こなした、まさに人々の思い描く『理想の使用人』を体現したような男。
繊月描く唇が彼を『アンリ』と呼んだ。
今は意識の、記憶の外に追いやられた筈の穏やかな時間――。
「………………ッ!!??」
がばり、と。
勢いよく、インディゴがその身を起こす。
先程までは夢すら見ない、深い眠りの世界を揺蕩っていた筈の彼が、まるで嘘だったように。
「終わったけれど……どうかした? やっぱり、辛い思いをさせてしまったかな」
「……あ? あ、ああ、いやいや! ヘーキヘーキ。てかもう終わったんだって? 思ったより早かったねー」
猫が心配そうにこちらを見ている。
安心させる為というわけではないが、へらりと笑っていつもの調子で返したものの……その胸中は確かに、乱れていた。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
こんばんは、猫さん。
星、好きなんですか?
私も星は大好きですよ。
大切な記憶を分けてほしいんですよね、でしたら…
私が学生時代に設立した結社『天文部』で部員の皆と過ごした日々の記憶を。
屋上で天体観測したこと、黙示録に出場したこと、皆既月食や金環日食を皆で見たこと…
私の、青春の全て。私の宝物です。
複製している間はすごく大切な仲間がいたはずなのに思い出せない状態に大きな喪失感や不安を抱えてしまって。
これは…予想以上に辛い、ですね…
でも今の旅団の仲間達は思い出せる。新しい思い出を作っていける。
過去と今、どちらも欠かすことはできないから…
貴方も、次は借り物の記憶だけではなく新しい記憶も作っていけますように。
●
「こんばんは、猫さん」
八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は穏やかに猫へと声をかける。
「星、好きなんですか? 私も星は大好きですよ」
「そうなんだ。ああ、僕も星は好きだよ。綺麗だからね」
猫もまた穏やかに言葉を返してきた。その答えはとても純粋で、子供らしい――いや、動物らしい、と詩織は感じた。年齢は関係なく、ヒトの雑念に囚われないような、そんな無垢さだ。
きっと彼の言葉は全てが真実だ。記憶が欲しいと言うのも、複製が終われば全て返すと言うのも。
「大切な記憶を分けてほしいんですよね、でしたら……」
詩織が提示したのは、学生時代のとある記憶。
日常の、けれど何にも変え難い、かけがえのない記憶。
猫は頷くと、からからと銀幕を広げた。
――結社『天文部』。
詩織が学生時代に設立し、日々を部員の皆と過ごしていた。
天文部の皆で集まって、屋上で天体観測をした。
黙示録にも出場して、切磋琢磨し強くなった。
皆既月食や、金環日食も皆で見ることが出来た。
そう、詩織にとってはその全て――、
(「これは……予想以上に辛い、ですね……」)
大切な仲間がいた筈だ。大切な時間があった筈だ。
何にも変え難いほどに。その事実は未だ心にある。
けれども、それが何なのか、どうしても思い出せないのだ。抜け落ちてしまう、とはこういう感覚のことを言うのだろう。
大きな穴が空いた心に溜まっていくのは、同じだけの喪失感や不安。恐怖にすら近かった。
(「でも今の旅団の仲間達は思い出せる。新しい思い出を作っていける。過去と今、どちらも欠かすことはできないから……」)
自分の辿ってきた時間の全てが、自分を形作っている。
それを思い起こして、恐怖に耐えていると。
すっと、まるでふとした瞬間に思い出すのに似て。
流れ込んできた記憶が、思い出せなかった大切なことを、思い出させてくれた。同時に恐怖も薄れていく。
「終わったよ。待たせて済まなかった」
「いえ……」
猫はこれでいいのだと言う。
それでも、これはあくまでお裾分け。彼自身の大切な記憶ではない。
「貴方も、次は借り物の記憶だけではなく新しい記憶も作っていけますように」
「……ありがとう。あなたは優しいね」
そして、と言葉は続く。
「この記憶を……とても、大切にしているんだね」
詩織は笑顔で、そしてしっかりと、頷いた。
「ええ。私の、青春の全て。私の宝物です」
大成功
🔵🔵🔵
キャット・アーク
えー……心が満たされる記憶?
って言われてもピンと来ないんだよねー
(1日1日を気まぐれに過ごす充実した生活
過去の思い出に頓着しなさすぎて幸せかどうかすら意識しない)
オレは別に、美味しいもの食べて、その時の気分にあった寝床で寝れればそれでイイんだよね
その記憶だけコピーしても、って感じじゃない?
折角ならさ、今ここでやっちゃおうよ
そうと決まれば宴会の準備
季節外れのお花見でも、キミのいってらっしゃいの会でも、理由はなんでもいい
近くに居た人たちに片っ端から声かけて、食べ物から飲み物から沢山持って来て貰おう
ほらほら、学生のお兄さん達も!
ぼんやりしてないで、|オレ《猫》達をおもてなししてくださーい
●
「えー……心が満たされる記憶?」
「やっぱり駄目かな」
「ダメって言うかー……って言われてもピンと来ないんだよねー」
キャット・アーク(|路地裏の王様《ボスネコ》・f42296)は首の裏を掻きながら明後日の方向に視線を遣った。
確かに、一日一日を気紛れに過ごす生活は、かれにとっては充実したものだと言えるだろう。
過去の思い出に頓着することもなく、幸せかどうかすら意識しないような、そんな。
「オレは別に、美味しいもの食べて、その時の気分にあった寝床で寝れればそれでイイんだよね。その記憶だけコピーしても、って感じじゃない?」
「そう……なのかな?」
目の前の猫は首を傾げたが、キャットなりにそれは何かが違うだろうと感じていた。
その日暮らしでやりたいようにやる、自由気ままな生き方は、楽しくはあれど思い出にはならないから。
それよりももっといい方法がある。
「折角ならさ、今ここでやっちゃおうよ」
「え?」
「はい決定! そうと決まれば宴会の準備!」
ないなら作ればいいのだ。
影朧としてとは言え、彼にはまだ思い出を作る為の時間があるのだから。
「季節外れのお花見でも、キミのいってらっしゃいの会でも、理由はなんでもいい。近くに居た人たちに片っ端から声かけて、食べ物から飲み物から沢山持って来て貰おう」
「それは……楽しそうだね。でもいいのかな」
「察するにワガママなんか殆ど言ったことないんでしょ。偶になら許されるって」
近くを通り掛かる人へ、丘の上からおーいと声を掛け。
「ほらほら、学生のお兄さん達も!」
「!!」
近くまで来ていた學生達も、勿論確保。
何なら一番献身的に色々してくれそうですし。
「ぼんやりしてないで、|オレ《猫》達をおもてなししてくださーい」
「ハイヨロコンデー!!」
居酒屋か。
「あはは」
猫が楽しげに笑う。
彼を取り巻いていた、影のような空気はもうだいぶ薄れている。
けれど、やるのならば徹底的に、だ。
猫の空虚をも満たすほどに、宴は盛大に執り行おう!
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『桜舞う、ハイカラカフェー』
|
POW : 軽食を頼む
SPD : デザートを頼む
WIZ : クリームソーダを頼む
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「ネコチャン」
「ネコチャン……」
「行ってしまった」
「嗚呼……」
『桜學府所属の桜の精』に伴われて去りゆく猫の姿に、もう目に見えて意気消沈している學生達。
……うん、まあ。悪気はなかったのは確かである。いや勿論、悪気はなかったで済むなら學徒兵は要らねえって話ではあるが。一応今回はまだ未遂なので。一応。
それに、まだ立ち直りやり直すことの出来る、未来ある若人達である。察するに影朧本人の尊重を謳ってはいたものの、猫以外はついでのような感じもするし。それはそれで、猫以外の影朧に謝った方がいい気もするが。
ともあれ、失意の内にあってはまた道を踏み外さないとも限らない。
彼らの心を癒し、精神的に立ち直らせる必要がある。
――という名目で猫カフェーに行こうではないかと!!
深夜営業も――勿論、厳しい条件をクリアした上で――行っているというその猫カフェーは、今から訪ねてもちゃんと猫達がお迎えしてくれる。
昼間の内にぐっすり眠って、英気を養ってきた子達だ。お疲れのところを無理させているかも、という心配はない。
それでも滞在出来るのは長くても二時間ほどだろうが……十分だろう。
システムは単純明快。ドリンクを取って猫達のいるスペースに入り、おやつをあげたり遊んだり、のんびり見守ったりと自由に過ごす。
勿論、最低限のマナーを守り、猫の嫌がることや危険なことはしない。これは言うまでもないことだろうが。
そして満喫したら、本来であれば料金を払って退出するのだが、今回支払いはグリモア猟兵が持ってくれるらしいので、そこは心配ご無用。
ついでに學生達も勝手に満喫して立ち直るようだと予知にあったので、こちらも特別構う必要はない。
●
肝心の猫達だが。
オスは気紛れな黒猫のクロ、警戒心強めな虎猫のトラ、甘えん坊のマンチカンのチイ。
メスは大人しい白猫のユキ、構ってちゃんな三毛猫のタマ、ツンデレさんなスコティッシュフォールドのキクがいる。
……大正時代に日本にいるのか怪しい品種もいるが、あくまでここはサクラミラージュだ。深く考えない方がいいだろう。
ドリンクは珈琲、紅茶、日本茶にリンゴ、オレンジ二種のジュースが用意されていて、フリードリンク制だ。
一度猫のいるスペースから出ることにはなるが、食事スペースもあり、オムライス、パンケーキ、アップルパイが食べられる。
猫と戯れるもよし、軽めの夕食を取るもよし。學生達の為でもあることだし、ここは遠慮なく、癒し空間でのんびり過ごそう。
インディゴ・クロワッサン
私服に着替えて猫カフェにゃーん!
…って言いたいけど、帰ってきた?記憶っぽいのが…ねぇ…
さく~っと日本茶を持って、猫ちゃんスペースを通り越してアップルパイを注文。
ずーっと帰ってきた記憶の事考えてるから、端から見たら上の空っぽく見えるかもねー
宿敵であるアンリとの穏やかな時間。
|僕《インディゴ》自身に覚えはないものの、ソレが帰ってきたって事は…コレは|藍色を名乗る前の《インディゴではない》僕が経験した事、なんだよねぇ…
アップルパイを咀嚼しながら、再び思考の沼に…んぇ?
「えーっと、グリモア猟兵の…玉恵さん、だっけ?」
え?後ろ…? Σわっ
にゃんこがガラス越しに僕のポニテにじゃれようとしてるー!
●
――私服に着替えて猫カフェにゃーん!
と、意気揚々と猫カフェーへと突入する気満々だった。
実際、そのつもりだったのだ。少なくとも、インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)がこの依頼を受けた時点では。
(「……けど、帰ってきた? 記憶っぽいのが……ねぇ……」)
最早猫のことよりも、先程の記憶のことで頭が一杯になってしまった彼は、半ば無意識気味にさく~っと日本茶を確保し、猫スペースすら通り越してアップルパイを注文。そのまま食事スペースの席に着いていた。
ずっと、ずーっとあの記憶のことを考えていて、アップルパイを持ってきた店員さんに大丈夫かどうか尋ねられてしまった。どこか上の空のように見られたのかも知れないと、他人事のようにインディゴは思った。
あの記憶に、自分のものだと実感が湧かないのは変わらない。
けれど、あの記憶の光景の中にいた人物に――アンリには、覚えがあった。
(「|僕《インディゴ》自身に覚えはないものの、ソレが帰ってきたって事は……コレは|藍色を名乗る前の《インディゴではない》僕が経験した事、なんだよねぇ……」)
宿敵であるアンリとの穏やかな時間。
きっと確かに存在したのだ。自身を『インディゴ』と定義する以前の自分の中に。
そこで漸くアップルパイへとフォークを突き立て咀嚼すれば、その甘みが煮詰まりつつあった思考を少し解きほぐしたような気がした。それでもあの記憶を完全に自分の中の片隅に追いやることなんて出来そうにもなくて、再び思考の沼へと足を踏み入れようとした――その時。
「……あら、あなた……」
「……んぇ?」
顔を上げれば、見覚えのある人物が目の前にいる。
花を纏い、桜の精に似た、精霊ではないもの、人ならざるもの。
「えーっと、グリモア猟兵の……玉恵さん、だっけ?」
「ええ、そう! 花神・玉恵よ! インディゴさん、よね。今回はどうもありがとう。ところであなた、後ろは大丈夫かしら?」
「え? 後ろ……?」
声を掛けられて嬉しかったのか、ぱっと笑顔になった玉恵だったが。その柔らかな空気はそのままに、そんなことを言って首を傾げるので、インディゴが背後を確認すると。
「わっ」
ガラスの仕切りから身を乗り出すようにして、三毛猫がちょいちょいと前足を動かしている。
その狙いは目の前で揺れる藍色、つまり。
「にゃんこが僕のポニテにじゃれようとしてるー!」
「うふふ! 玩具で遊んでくれてると思ったのかしらね?」
「違うのにー!」
わたわたと慌てる藍月と、ころころと笑う花竜の声が、俄かにカフェーを賑わせる。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
ここが猫カフェ、ゆーいっちゃんを惑わす|伏魔殿《パンデモニウム》!
きっと中は酒池肉林の宴が……
敵情視察なのですー!(ぴょんと中に飛び込む)
もきゅきゅぴぴ、なんだか思ってたのと違うのです……
猫さんも人間もくつろいでいるのです
これはカントもくつろぐべきなのです?
自分用の紅茶と猫さん用のおやつを持って猫カフェ体験なのです
白猫さんの隣に、もふっと丸くなって座るのです
猫さん、こんばんはなのです
カントは新入りじゃなくてお客さんなのです
お客さんだからおやつをどうぞなのですよ
もーきゅ?
和むのはわかるのです、でもおやつやもふもふはカントでもいいのです
わからないので、今度こっそりゆーいっちゃんについて行くのです
●
高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)は猫カフェーの前に仁王立ち(?)していた。
その目は戦場に臨む戦士のそれであった。
(「|もっきゅ《ここが猫カフェ》」)
ここが愛するゆーいっちゃんを惑わす|伏魔殿《パンデモニウム》――!
きっと中では酒池肉林の宴が行われているに違いないのだ。愛する者を堕落させかねない、危険な宴……カントはその実情を知る必要がある。
「|もきゅっぴぴー《敵情視察なのですー》!」
いざ、ぴょんとカフェーの中へと突入!
……と、勇んで乗り込んだはいいものの。
「もきゅきゅぴぴ」
猫スペースでは猫も人間も和み寛いでいる。
(「|きゅーぴっぴ、もきゅきゅっぴー《なんだか思ってたのと違うのです》……」)
何だかすっかり拍子抜けしてしまったカントであるが。
まあ、郷に入っては郷に従え、とも言う。
(「|もきゅきゅきゅっきゅぴぴ《これはカントもくつろぐべきなのです》?」)
早速、紅茶と猫用おやつを確保して、いざ猫スペースで猫カフェ体験!
「もっきゅ」
大人しく丸くなっていた白猫の隣に、カントもまたもふっと丸くなって座った。
「|もきゅきゅ、もっきゅっきゅ《猫さん、こんばんはなのです》」
「……みゃあ?」
まずはご挨拶。相手が誰であろうと礼儀は大事である。
「にゃーお?」
「もきゅ? |もきゅきゅぴもっきゅぴ、もきゅきゅぴーもきゅ《カントは新入りじゃなくてお客さんなのです》」
どうやら『こっち側』だと思われた模様。そこはちゃんと否定しておき、おやつを差し出す。
「|もきゅきゅぴー、もきゅきゅきゅもきゅきゅ《お客さんだからおやつをどうぞなのですよ》」
「にゃーん」
白猫はスンスンとその匂いを嗅いでから、ゆっくりと食べ始めた。
……そんな感じで暫く猫達と交流を持ったり、のんびりしたりしていたものの。
「もーきゅ?」
やはりよく解らない、といった雰囲気のカント。
(「|もきゅきゅもも、もきゅもきゅきゅもきゅもきゅもきゅきゅ《和むのはわかるのです、でもおやつやもふもふはカントでもいいのです》」)
愛する者がわざわざ猫カフェに行く理由は結局謎のまま。寧ろ謎が深まったまである。
(|もきゅきゅきゅきゅ、もっきゅもっきゅきゅもーきゅっぴ《わからないので、今度こっそりゆーいっちゃんについて行くのです》)
やはり、彼がいないと何も始まらないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
キャット・アーク
毛並みも良くて行儀の良い猫ばっかりってのも、路地裏で遭う猫とはまた違ってちょっと新鮮
流石に他所の(猫の)縄張りだしね、挨拶はしとかないと
言葉にはしないけど、仕草や目線で何となく通じる
ここの待遇どんな感じ?とか
ボスって決まってるの?とか
何も無い時の集会みたいにゆるーくやり取りするよ
ひと通り挨拶し終わったら、学生達の側で猫に混じってゴロゴロ
しもべ達の面倒をみてあげるのも王様の務めだからねー
宴会の時も色々やってくれたし、ご褒美はあげないとね
体のどこかを引っ付けた状態で寝る
お腹も一杯だし、時間ギリギリまで寝ちゃうかも
大きなあくびを一つ
おやすみー
●
(「へえ……」)
キャット・アーク(|路地裏の王様《ボスネコ》・f42296)は猫カフェーの中、興味深そうに目を瞬かせていた。
(「毛並みも良くて行儀の良い猫ばっかりってのも、路地裏で遭う猫とはまた違ってちょっと新鮮」)
今までに出会った|猫《かれ》らは自分と同じ。お上品とは決して言い難いが、明日をも知れぬ影の中で大胆不敵に逞しく生きる、野良猫ばかりだったから。
すると、猫達もこちらをじっと見ていることに気づく。
(「……っと、流石に他所の縄張りだしね、挨拶はしとかないと」)
改めて猫スペースに入り、『猫流の』挨拶を。
言葉はない。だが、|猫の王様《ボスネコ》として路地裏の猫達と接してきたキャットには、仕草や目線で彼らの考えは何となく伝わるのだ。
ここの待遇どんな感じ? と聞けば、疲れることもあるけど悪くはないと。
ボスって決まってるの? と聞けば、ボスと言うほどではないけどもクロが一番の古株なんだとか。
その様子は何もない日の猫の集会。気の向くままに交流を持ったり、のんびりしたり。ゆるーくやり取りして、思い思いに過ごす。
そうして一通り挨拶を済ませたら、すっかり猫空間に緩みきった學生達の姿を見つけて、そちらに寄っていく。
「ん?」
猫に混じって彼らの側で喉を鳴らすようにゴロゴロしてやれば、先程の消沈が嘘のように幸せそうに溶けきった顔をしていた。
「ネコチャン」
「ネコチャンカワイイ」
チョロい。
いや、本当に彼らエリートで家柄もいい筈なんだよな。
だが、キャットにとっては最早王に侍る下僕も同然である。手綱にぎにぎ。
(「しもべ達の面倒をみてあげるのも王様の務めだからねー」)
民心が離れれば王は王たり得ない。
そのことを、キャットはよく知っているのだ。
(「宴会の時も色々やってくれたし、ご褒美はあげないとね」)
ひとりの學生の膝を枕にして、また別のひとりの服の裾を掴んで横になる。残りの學生達にも身体のどこかをくっつけて。
「ふぁーあ……お腹も一杯だし、時間ギリギリまで寝ちゃうかも」
大あくびしてそう告げれば、學生達が任せてくれと言わんばかりに。
「安心してくれ、時間まで安眠は我々が守る……!!」
「何ならもう好きなだけ寝てても」
流石に営業時間は守れや。
そんな愉快な|學生《しもべ》達に、ふふとキャットは極上の微笑みを向けて見せて。
「おやすみー」
そのまま、すっかり寝入ってしまった。
「天国はここにあったのか」
……うん、學生達ももう大丈夫そうですね!!
大成功
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ジゼル・サンドル
グリモア猟兵の旗野先生(f41805)を猫カフェーへお誘い。
(うひゃあ作家先生を呼び出すなんて畏れ多いことをしてしまった…!色んな意味で緊張する!)
ひとまずは食事スペースで軽く何か食べながら…わたしはパンケーキにしようかな。
ええと…こうして話すのは魔書事件以来だな、グリモア猟兵になってて驚いたぞ。
悪魔探偵シリーズの新作読ませてもらったが、すごくよかった…!
そ、それでだな、よかったらこの本にサインしてもらえないだろうか…?
今夜は流星群だったらしいな、あのひと…えっと、悪魔を見送った夜も星が綺麗で、なんて話をしたらまたこの先生興奮してしまうだろうか…
先生は猫は好きか?少し猫達と遊んでいかないか?
●
(「うひゃあ作家先生を呼び出すなんて畏れ多いことをしてしまった……! 色んな意味で緊張する!」)
食事スペースの席に着き、膝の上で揃えて握り締めた手へと視線を落とす形で俯くジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)。身体が強張っているのが自分でもよく解る。
対して、肝心の作家先生こと旗野・スミは、以前の奇人っぷりが嘘のように落ち着いた様子で、店内を見渡していた。黙っていれば絵になるとか言われそうなタイプである。
お待たせしました、と注文したパンケーキが運ばれてきて、ジゼルはそこでようやくはっと我に返った。パンケーキは猫の形をしていて、それが少しだけ緊張を和らげてくれた……かも知れない。
「ええと……こうして話すのは魔書事件以来だな、グリモア猟兵になってて驚いたぞ」
「うん? うむ、私もまさか生き帰れるとは思ってなかった。いやあ駄目元でもやってみるものだな!」
何やったんだ……とジゼルはちょっと思ったものの、彼に伝えたいことは別にあって。
「悪魔探偵シリーズの新作読ませてもらったが、すごくよかった……!」
「おお? おお! 読んでくれたのか! いやはや、矢張り読者の生の声を聞けるのは嬉しいものだな……!」
感慨深げな様子のスミ。機嫌もよさそうだし、ジゼルは思い切って彼の前に購入した本を差し出すと。
「そ、それでだな、よかったらこの本にサインしてもらえないだろうか……?」
「サイン? それくらいならお安い御用だとも! 君は私と、私の作品の命の恩人なのだからな!」
猫の顔が描かれたオムライスの皿を一度避けて、スミは手に取ったペンを表紙にすらすらと走らせる。
ああ、そうか。
作品も救った、ことになるのか。スミが蘇らなければ、この作品も世に出ることはなかったから。
「よし! これでいいかな?」
「あ、ありがとう……! それで、今夜は流星群だったらしいな」
「ああ、見事なものだったな!」
「あのひと……えっと、悪魔を見送った夜も星が綺麗で……」
「悪魔君の!? ……っと」
「?」
ジゼルがある程度予感していた通り、スミは興奮気味に食いついてきた――が。
それ以上は何も言わずに座り直し、どこか優しげな眼差しでジゼルを見ていた。
その意味はよく解らなかったが……何にせよ少し落ち着いたらしいので。
「先生は猫は好きか? 少し猫達と遊んでいかないか?」
「ああ、折角の猫カフェーだからな! 私などではなかなかお目にかかれない品種もいることだし、観察してみるのもよさそうだ」
腹ごしらえも済ませて、猫達の待つスペースへ。
今夜は充実した時間が過ごせそうだ。
大成功
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八坂・詩織
グリモア猟兵の虹目・カイさん(f36455)をお誘い
紅茶を取って猫スペースへ。
カイさんは猫はお好きですか?私は好きですよ。家でキジ猫の雄を飼ってるんです。そろそろシニアに差し掛かるのにまだまだやんちゃで…なんでも玩具にしちゃうんです、スリッパとか。
でも可愛いから許しちゃうんですよね、なんてちょっとうちの子話が過ぎましたね…
せっかくですし少し遊んでいきましょうか。
近くに来てくれた子(どの子が来るかはおまかせ)を撫でたり猫じゃらしで遊んだり。膝に乗ってきてくれたりしたら最高ですね。
もふもふの毛並って癒やされますよね…
(…カイさんの尻尾ももふもふですよね、ちょっと触ってみたい…けど触っていいものか)
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「カイさんは猫はお好きですか?」
紅茶を零さないよう気をつけて腰を下ろしながら、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は虹目・カイへとそう問いかけて。
「私は好きですよ。家でキジ猫の雄を飼ってるんです。そろそろシニアに差し掛かるのにまだまだやんちゃで……なんでも玩具にしちゃうんです、スリッパとか」
「まあ。老いてますます盛んでございますね」
「そうなんですよ。でも可愛いから許しちゃうんですよね……」
猫は好きだし、我が子ともなれば可愛さもひとしおというもの。
その可愛さを是非カイにも伝えたかった、のだが。
「なんて、ちょっとうちの子話が過ぎましたね……」
退屈させてしまったかな、なんてカイを見遣れば。
「いえいえ、寧ろそういった話は是非とももっとお聞きしたいところで……こほん」
さてはこの人平静を装っているが相当な猫好きだな?
ともあれ、気分を害していないようでよかったと詩織は安堵しつつ。
「せっかくですし少し遊んでいきましょうか」
「そうですね。おやつをいただいてきましたので、待ってみましょうか」
カイに猫用おやつを分けて貰って、猫達が興味を示すのを待つ。すると詩織の元にはちょこちょこした動きでマンチカンがやって来た。カイの元にも黒猫が寄ってきている。
おやつをあげて、そっと撫でたり猫じゃらしで遊んだり。すっかり詩織に懐いたらしいマンチカンがよじよじと膝に登ってくるものだから、ほっこり癒されつつ顎の下を撫でてあげた。
「もふもふの毛並って癒やされますよね……」
「ええ、本当に。猫はよいものですね……」
カイも平素より幾分か緩んだ様子で黒猫を撫でている。
……そう言えば。
(「……カイさんの尻尾ももふもふですよね」)
今は耳も尾もしまって、人間の女性と変わらぬ姿をしているが。カイは妖狐であり、特に豊かな金色の尻尾は触り心地がよさそうだった。
(「ちょっと触ってみたい……けど触っていいものか」)
……今度ちょっと交渉してみようか、なんて。
詩織はそんなことを考えつつも、お手手がお留守ですよとでも言いたげに手に絡みついてくるマンチカンの求めに応じて、その身体を撫でて過ごすのだった。
大成功
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