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ふわり🎃ジャック・オー・ランタンは空を飛ぶ

#アリスラビリンス #ノベル #猟兵達のハロウィン2023

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#猟兵達のハロウィン2023


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シウム・ジョイグルミット





 この時期のアリスラビリンスはハロウィンの準備で大忙しだ。
「大農園で収穫したカボチャ持ってきたよ~」
 大きな共同調理場では窯が火の妖精を招き入れ、美味しそうな匂いを充満させている。
『たんぽぽーる気球の国』も連日続く準備盛り。
 そんな国にウサギ穴を通ってひょっこり、ふわふわとした歩みで現れるのはシウム・ジョイグルミット。
「やっほー。みんなー久しぶりー」
 のんびりとしたシウムの声を聞いた仲間達は「あっ」と顔を上げた。
「シウムさんだ!」
「ひさしぶりだね」
 嬉しそうに笑顔で迎える仲間達。
「ここもハロウィンの準備に賑わってるねー。これ、差し入れだよー」
 と、国々を巡るシウムが渡したのは各国のオーナメントが入った箱。
 スチパン風のリースや、歌う骨と楽器楽団、ハロウィンスイーツや心の鍵を模したオーナメントを受け取って「これ凄くない?」「可愛い! どこの国のだろう~」と愉快な仲間達はわいわいと燥いでいる。
「ありがとうシウムさん! 国一番のツリーに飾るねぇ!」
「国一番のツリーがあるんだね。今ならボクも見ることができるかな?」
 シウムが尋ねれば「まだ樹さん眠ってるけどね」「とっても大きいんだよぉ」と口々に教えてくれる仲間達。
 丘さんの下で眠っている大樹は、ハロウィンとクリスマスの時期に起きる存在らしい。
「丘さんの下……? そこって気球工場のある場所だよねー」
「そうそう。シウムさん覚えててくれたの?」
 彼女の言葉に嬉しいなぁとネコが微笑んだ。
「そろそろ起きてくる頃だろうから、見に行ってみる?」
「ぜひぜひー。気球工場の見学もお願いしたいな」
「ぜひぜひー」
 ネコはシウムの声を真似て答えた。

 過去に焦土となった森は復旧したのか、今は紅葉の彩に満ちていてシウムはこっそりと安堵する。
 こっちなの! と案内ウサギの声に、彼女は森に背を向けて駆けだした。丘は森とは逆方向にあるのだ。
 割れた丘さんを降っていくと、そこには気球の工場。鍛冶区画、縫製区画、気球の整備区画と分かれていて、壁側には無数のウサギ穴があった。鉄製の筒を抱えて出てくるウサギ達。
「地下通路? すごいねー」
 シウムが感嘆の声を上げる。案内ウサギはこっくりと頷いた。
「襲撃されたあと地下にもウサギ穴を作ったんだぁ」
 あの穴は燃料が採れる温泉郷に繋がっているんだよと説明される。
 その時、飛び立っていた気球から『目覚めのチャイム』が鳴り響き、かなり向こうの区画から大樹がわっさわさと起き上がる。
「うわぁすごいね! あれがツリーになる大樹さんなんだねー」
 大樹が動く壮大な景色にシウムが目を瞬かせながら言った。
「飾り付けるために、気球やロケットがいっぱい飛びそうだよー」
「あっ、シウムさん大当たり!」
「楽しそうだね。ボクもハロウィン準備に参加してもいいかな?」
 シウムの申し出に「「「大歓迎!」」と工場にいた仲間達も大喝采。
 国民が楽しみにしているハロウィン・パーティにシウムも参加決定だ。


「ねねねねー、ジャック・オー・ランタン柄の気球を飛ばしたら楽しそうだけど、どうかなー」
 シウムの提案に「楽しそう!」と縫製区画の仲間達が乗ってくる。
 大きな紙を広げて、デザインをどうするかの話し合い。
「オレンジ色の布は鉄板でしょ、目や口は黒い布を使う?」
「スケスケの布を使ったら、中の燃料で気球も輝きそうだね」
「わ、それランタンっぽいねー。いいんじゃない?」
 と、話し合いに参加するシウムもわくわくと同意を示す。
 オーソドックスなジャック・オー・ランタンの気球が複数と、それに魔女の帽子を被せるものと。
 素早く作業をする愉快な仲間達の中には魔女帽子の飾りつけを手伝うシウムの姿もある。星屑のようなガラスを縫い付けていく。
「ハロウィン、楽しみだねー」
「うん!!」
 何となく呟いた言葉に、一緒に縫い付け作業をしていた仔ネズミが明るい声を上げた。目を向ければあどけない笑顔。
 ハロウィンの料理、気球作り、ツリーの飾りつけ、そして国中をハロウィンカラーに染めていく大地や自然由来の仲間達。
 シウムのふわふわな垂れ耳に届く誰かの声や歌声、一丸にイベントに向かっていく皆はとても楽しそう。
「おねえちゃん、じゅんびも楽しいねぇ」
「そうだねー。お祭りの準備って、なんかいいよね」


 オレンジや薄紫に染まる空のマジックアワー。
 地上は墓地や茨に覆われ、建てられた退廃的な城、マーチを奏でる楽団の音色が空まで届く。
 気球に乗って、星々のように輝いている大地や煌びやかな大樹のツリーを眺めたり。
 住民達は思い思いにハロウィンを過ごす。
「あっ、あれ。ボクたちが作った気球じゃない?」
 ツリーの光に反射してキラキラ輝くはジャック・オー・ランタン気球の魔女帽子。見つけたシウムが指差せば同乗していた仔ネズミが燥いだ。
「おねえちゃん、やったねぇ!」
 魔女っ子仮装の仔ネズミは目を輝かせていた。
 そしてシウムの青い瞳も輝いたのち、にっこり笑顔の瞼に隠れる。
「星空みたいに輝いてるね」
 シウムの仮装はゴシックロリータなキョンシー。ドレスの裾や袖にたっぷりのフリルを重ねて、補褂にも可愛らしい紫のリボンがいっぱい。
 Snack timeは気球に持ち込んだスイーツにも負けず今日も甘い香りを放っている。
「シウムさーん、エリットちゃーん。キャラメルポップコーン食べるー?」
「食べるぅ!」
 隣で飛ぶ気球からの声に仔ネズミが即座に良いお返事。
 くすくすと笑ったシウムは「じゃあトレードだね」とマカロンを乗せた銀の皿を飛ばして、スイーツの交換っこだ。
 パンプキンや糖蜜タルト、ベリージャムを挟んだビスキュイ、キャラメルリンゴなど。気球群によって空は甘い匂いそして芳醇な紅茶の香りに満ちていた。

 ふわふわとハロウィンの空に浮く気球のジャック・オー・ランタンは、地上からでもよく見えるだろう。もちろん、ここ――空からも。
 気球を温める熱がランタンのように輝いている。
「ハッピーハロウィンー!」
 他の気球から届く挨拶にシウムも明るく応えて。
 たんぽぽーる気球の国のハロウィンを堪能するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年11月20日


挿絵イラスト