『うち』が終わる時
|遺伝子番号《ジーンアカウント》。
当時十三歳だったうちの『人生』は、たった数桁の番号によって決められていた。
進学も、就職も、全てが|統制機構《コントロール》の作った設計図通り。
結婚だって、許可がなければ好きな相手と結ばれることもできない。
「でも学校や進路は自分で決めたいよ!」
って言っても、うち一人じゃあどうにもならない。
おそらくあのゲームに出会うまでのうちは、『生きている』実感が無かった。
「これが……ゴッドゲームオンラインなのかな?」
今噂になっている、謎のオンラインゲーム。
誰が作ったのかは不明で、なぜか統制機構に管理されてない。
そんなゲームに、うちはログインに成功した。
「……弓道、前から興味があったんだよね」
選択したジョブは遠距離職。
こうしてうちはゲームプレイヤーの一人になった。
●
「これがうちのとっておき! ……皆今だよ!」
『おっけー!』
うちが氷刻矢雨の月矢を放ち、敵を凍らせて動きを封じる。
すかさず他のプレイヤー達が一斉に攻撃すると、敵は消滅する。
このゲームを始めてからしばらく過ぎ、うちは所謂レイドボスとも戦えるようになっていた。
「やった〜! 皆お疲れ様!」
『うん、お疲れ様でした〜!』
ボスを倒して一安心の皆と、互いの健闘を称え合う。
リアルでは接点のない人とも、ここでは戦友。設計図通りの人生に飽き飽きしている仲間。
うちらは、いつものようにレベルアップの報告やドロップアイテムの確認をしようとして。
――その時、1人のプレイヤーが『突然消えた』。
「え……あっ?」
ログアウトしたんじゃない。倒された。
虚空から突然現れた、見たことのないモンスターに。
それは、鰹の頭部以外は鎧を着けた騎士の姿をしていた。
突然の出来事に頭がフリーズしているうちに、そいつは次々と黒い光を放ち――それに包まれたプレイヤーは、全員消えた。
『ぐっ……この!』
なんとか黒い光を掻い潜った廃人プレイヤーが斬りかかる。
でも、そのモンスターは一瞬で背後に回り込み、黒い光を浴びせて彼のことも消滅させる。
さっきのボス戦に参加したプレイヤーだと、彼が一番強かったのに。
噂に聞いたことがある。バグプロトコルという怪物の話。
そいつに倒されてしまったプレイヤーは、現実で遺伝子番号を失うって。
それが何を意味するのか、この世に知らない人はいない。
「ひっ……み、皆逃げて……!」
うちはとてつもない恐怖に襲われながらも、皆の時間を稼ぐ為に矢を放った。
でも、バグプロトコルにはほとんど効いてない様子で、うちに手を向けてきた。
「あっ……い、嫌」
バグプロトコルの口が「Delete」と喋るのを聞いた。
それを最後に、うちは意識を失った。
●
「えっ……あれ? く……首輪? うちにそんな趣味はな……きゃあぁぁぁぁ! 何でうち服着てないの?!」
次に目が覚めた時、うちは首輪以外は何も着けていない格好だった。
ここは現実だ。でも自分の家じゃない。知らない施設で、知らない人から、自分の立場を知らされる。
「そんな……うちが奴隷?」
バグプロトコルの噂は本当だった。
遺伝子番号の喪失は「ヒト」から「モノ」になるということ。
今のうちには最低限の人権すらなかった。
「……や、やめ」
手足を機械に固定されて、身体検査と告げられる。
恥ずかしさよりも恐怖が勝って、うちは叫んだ。
「嫌ぁぁぁぁ! だれ、か……助けてぇぇぇぇ!」
その叫びは、誰にも届かなかった。
●
そこは、どこかの施設という事しか分からなかった。
そこではひたすら最低限の休みと食事しか無く、何かを組み立てる作業をしていた。
「ゆ、許して下さい……ぎゃあぁぁぁぁ!」
疲労で集中力が切れ、部品を落として割ってしまう。
罰として首輪から電流が流れ、うちは悲鳴を上げる。
(……このまま一生死ぬまで働き続けるのかな?)
痺れる身体に鞭を打ち作業を続ける。
じゃないとまた電流を流されるから。
ただ恐怖と痛みに耐えるだけの日々に、絶望していたその時――。
「……ゅう!」
変な声が聞こえて、首元からパキンと音がした。
「えっ? 首輪が壊れた?!」
その直後、目の前に突然変な『裂け目』が現れて――。
「えっ……きゃあぁぁぁぁ!」
うちや他に働かされていた人達は、この『裂け目』に吸い込まれていった。
●
『この子は……?』『とりあえずDIVIDEに連れて帰ろう……!』
『裂け目』の向こうにあったのは、ゲームとも違う別の世界。
うちを最初に見つけ、保護してくれたのは、後にうちを養子にしてくれる夫婦だった。
こうしてうちは、統制機構からケルベロスディバイドの世界へ迷い込んだ。
「あはははは……はあ〜! やっぱり世の中って……クソじゃないですかあぁぁぁぁ!」
その日、謎の声がケルベロスディバイドの世界に響き渡ったというけど――これは、うちと関係ないのかな?
成功
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