浴衣縁日、美味し愉し秋祭り
さらりと吹き抜ける秋風に乗って聞こえてくるのは、賑やかな祭囃子と人々の声。
そして緩やかな坂道を上った先――朱の鳥居を皆で潜れば。
長く伸びた参道に並ぶのは、どれも心躍る様々な露店。
そう……今日は、神社の秋祭り。
メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)は、そわそわしっぱなし。
だって、とても気になっていたから。
(「皆はどんな浴衣なの、かしら」)
そんなメノンが纏うのは、爽やかなグリーンに紫の花模様、フリルがあしらわれた、パーラーメイド風の浴衣。
そして、折角だし、と。秋吉・シェスカ(バビロンを探して・f09634)の装いも、椿柄咲く浴衣姿。
さらにメノンがちらりと見るのは……彼女の頭の上。
そこには、小さな子猫のレインが一緒だから。
そんなレインも尻尾をゆらり、落ち着きがない様子で。
「食べ盛りだし、屋台のいい匂いにそわそわしてるみたいね」
秋風が運ぶ美味しそうな匂いに、お耳をぴこり。
そして、友人達と共にやって来た霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)も。
今宵纏うのは同じく、グレーの生地に麻の葉模様の浴衣。
とはいえ、神社に足を踏み入れれば、思ってしまう。
「毎度のことだけどヒーローズアースを知って以降、神様が身近になった分なんだか変な気分だなぁ」
……ま、UDCアースに蔓延る邪教団連中が邪神に祈ってるよりかは遥かにマシだけども、なんて。
人々で賑わう雑踏の中、まずは神社の神様にご挨拶を。
メノンはふたりと共に、作法に則り参拝してから。
拝殿の前に立てば、お待ちかねの……?
(「――これからも皆と一緒に過ごせますように」)
神様へお願い事タイム!
それからふたりを見て、そっと紡ぐ。
「えと、ワタシのお願い事はヒミツ」
そしてシェスカは、願い事、ねぇ……と独り言ちつつも。
メノンとは逆に、気にすることなく願う事を口にする。
「「私の発明がもっと世界の権威を得る」とか? 研究費用に困らないくらいにはなりたいしね」
そんな彼女の願いに、素朴な疑問を持つメノン。
「シェスカちゃんのお願い事の、研究費ってどのくらいかかるの」
「研究に幾らかかるって?」
そしてシェスカは、フフフ、と楽し気に笑み零し、こう続ける。
「それは勿論、あればあるほど知識欲が満たされていくものよ」
知識欲を満たすにはやはり、先立つものが必要です。
永一もふたりの会話を耳にしつつ、一緒にとりあえず並んで。
「さて、俺も祈るとするかなぁ」
とはいえ、ヒーローズアースの事は関係なくても。
(「元々神に祈る事なんか無いんだけども形くらいはねぇ?」)
でも、それっぽく振舞う事は得意だから。
形式に倣ってみせつつ、永一もふたりの会話に続く。
「ああ、俺は「愉しい日々を過ごせますように」ってとこだよ」
そんな彼の言葉に、頷きながらも微笑んで紡ぐメノン。
……うんうん同じね、と。
いや、お願い事はヒミツ、のはずなのだけれど。
(「メノンの願い事はやっぱり可愛らしい内容として……」)
そうちらりとメノンを見た後、シェスカは永一へと視線を移して。
「永一のは予想外に殊勝なことを言うわね」
……他意はないのよね? なんて続けるも。
大きく頷いて返す永一。
「他意? 勿論無いとも!」
だって、一応本当ではあるから。
(「そう、良い意味でも悪い意味でも「愉しい日々」なら構わないってワケさぁ」)
それに、祈ってみせて叶うなら、儲けものである。
そして神様に挨拶を済ませれば、メノンが見つけたのは。
「おみくじとか、引いたりしてみる?」
神社の定番、おみくじ。
「おみくじかぁ。一つの指標にもなるし引いてみようじゃあないか」
「おみくじか。折角だし私も引いてみようかしら」
永一に続いて、シェスカもおみくじへと目を向けてから。
「秋に引いたら今年中の運勢を示してくれるんだったっけ?」
早速ひとつ、引いてみれば。
「……こういうのは科学的じゃないしね」
そっとなかったかのように折りたたむ。
すっとぼけて閉じたのは、結果が凶だったからなんて……神様とだけのヒミツ。
そして同じく、永一もおみくじを見て、何だかイマイチな表情。
それはやはり芳しくない結果……ではなくて。
「いやぁ、微妙な奴が出たなぁ。半端過ぎて反応に困るねぇ」
永一が引いたのは、末吉。
幸運でも、話のネタにするほど悪くもない、愉しくはない結果だから。
それからメノンもドキドキ、おみくじを引いてみれば。
ぱっと笑顔でふたりに結果を見せる。
「みて、永一さんとお揃い……!」
同じ末吉でも、そうお揃いに喜ぶメノンは、とても嬉しそう。
それから、シェスカの頭の上のレインもお待ちかね。
参道に並ぶ、祭り屋台巡りへ。
色々な食べ物や珍しいもの、楽しそうな店が沢山あるのだけれど。
メノンはこう、ふたりへと告げる。
「えと、あんず飴が食べてみたくて……」
その視線の先には、割りばしに刺さった水飴に包まれた果実が並ぶ屋台。
それからメノンは、そろりと続ける。
「実は……来る途中でチェックをしていたの」
何だか食いしん坊のようで、ちょっぴり恥ずかし気に。
でもそんな彼女の申し出に、永一とシェスカも頷いて。
「あんず飴良いじゃあないか。俺も一つ買うとするさぁ」
「あんず飴……そうね、私もお腹が空いてきたし小腹に入れましょうか」
皆で足を向けたあんず飴の店で、ひとつずつ購入する。
そして、メノンは気合を入れて。
「ルーレットを回して当たったら、もう1本もらえるの?」
えいっとルーレットに挑戦してみるも。
「ハズレちゃった……」
結果は、あえなくハズレ。
それでも、一緒に貰った最中の皮の上に乗せたあんず飴をはむり。
口を寄せてみれば、にこにこに。
「でも、水飴が甘くて、大きなスモモが甘酸っぱくて美味しいのよ」
「……うん、甘酸っぱくておいしいわ。糖分を摂ると頭の回転が良くなるものよ」
研究にも糖分は大事。シェスカも口の中に広がる甘さに瞳を細めて。
ふと、ルーレットを回して見た永一は首を傾けてみせる。
「ん? 当たりかい?」
「わあ、当たり! スゴイのよ!」
その当たりが本当に運が良かったからなのか、それとも……なのか。
それも、神様のみぞ知る……?
けれどさり気なく、さっとあんず飴の露店から離れて。
「おっとあっちのカニ串もいいなぁ」
永一が次に目を向けるのは、食欲をそそる香りがする店。
「シェスカちゃんと永一さんは何か他に気になるお店は、ある? カニ串?」
「イカ焼き、カニ串……あっちも海鮮のいい香りがするわね」
メノンとシェスカも、彼の視線や言葉と良い香りにつられて、目を向ければ。
シェスカの頭の上で、てしてしっ。
「……レイン、なに、イカ焼きが気になるの?」
レインの熱烈なアピールが。
というわけで、それならそっちも買いましょうか、と。
シェスカはレイン用にイカ焼きも購入することにして。
「まあ、レインはイカ焼きを食べられるの?」
メノンはぱちりと瞳を瞬かせるも、目の前のイカ焼きを改めて見つめれば。
「でも確かに、お醤油の香ばしい匂いは食欲をそそるものね」
レインがそわそわお強請りするのも、こくりと納得。
それからシェスカは、メノンへとこう続ける。
「メノン、レインにあげてみる?」
その言葉に、ぱっと瞳を輝かせて。
「いいの? ん、あげてみたいの」
レインへとワクワク、メノンは買ったイカ焼きを差し出してみる。
そんなレインにイカ焼きをあげるメノンも、メノンからイカ焼きを貰うレインも、ご機嫌だけれど。
永一もカニ串片手に、満足気。
その大きさが、割と大きいから……? いいえ。
「ほぼ100%カニカマというせこさで値段だけは一丁前のカニっていう馬鹿にしてる感じが気に入ったんでねぇ」
大きさはそれなりではあるが、やはり醤油風味にしただけの所詮カニカマで。
「いやぁ割高。そして程々に美味しい」
だが、それがいかにも祭りっぽくて、愉快で良いのである。
そして、おなかもお祭りグルメ感も満たされれば。
「射的……何かいい景品があるのかしら」
シェスカがふと足を向けるのは、景品が並ぶ射的の露店。
「射的?」
「粒子加速器とか言わないからせめてノートパソコンや著名人の著書……ないか」
メノンもきょとりと首を傾けつつ、一緒に覗いてみて。
さすがにシェスカの知的好奇心や研究心を満たすような景品こそないけれど。
「そうねぇ、お菓子くらいなら狙ってみてもいいかな」
射的に挑戦、狙うは比較的倒しやすそうに見えるお菓子箱。
そして狙いを定めて、ぐっと引き金をひくも。
「……うーんこれ銃身曲がってるんじゃないの?」
お菓子箱どころか、あらぬ方向へ飛んでいく弾。
「そんなことない? おかしいわね……」
そしてもう一回挑戦してみるも、またもや明後日の方向へ。
いえ、クールに見えて何気に負けず嫌いなシェスカだが、研究以外はからきしであるため、その腕前はお察しである。
それから、ぶつぶつと言いつつも、射撃手交代。
「永一も、男として少しはいいところ見せてみたら」
「射的かい? まぁ銃はそれなり使い慣れてるからねぇ。外したりはしないさぁ」
「永一さんは上手そう、何を狙うの?」
シェスカに変わって銃を手にする永一に、メノンはキラキラ期待の眼差し。
「せっかくだしあのぬいぐるみでも見栄張って狙ってみるよ」
狙うはそう、一番大きな目玉景品の、クマのぬいぐるみ!
それを聞いた露店の店主は、がんばってくださいねぇなんて言いつつ、何だかとてもにこにこ。
だって、普通に考えればコルク銃程度で、狙う大きなクマのぬいぐるみなんて落とせるわけはないのだから。
(「あれは見せ景品ってだけだし」)
それが、永一にはよくわかっているのだけれど。
でもそれはあくまで、馬鹿正直にコルク銃の威力だけで景品を狙う場合の話。
永一は宣言通り、大きなぬいぐるみへと狙いを定め、銃を構えて。
(「とはいえ猟兵にそんな常識は通用しないってねぇ……」)
コルク銃にほんのちょっぴり、そっと乗せる――「撃った対象の重量と摩擦力を盗む」力を。
そして、満を持して引き金をひけば。
「……!?」
「当てるだけっと……。ほぅらこんなものさぁ」
――びしっ、こてんっ。
「わあ、一発であんなに大きいぬいぐるみを落としちゃうなんてスゴイのよ!」
見事、クマのぬいぐるみを射止めれば。
メノンも歓び声を上げて、パチパチ拍手!
それから、ゲットしたクマさんを受け取りつつ……チラリ。
店主の表情を見れば、思わず笑ってしまいそうになる。
だって、まさか獲られるだなんて思ってもいなかったのだろう。
(「……動揺を頑張って隠している」)
その様子に、永一は満足気に瞳を細める――実に面白い、って。
いや、なんなら全部景品を掻っ攫ってやっても、盗人として楽しそうではあるのだけれど。
「むぅ、初めてだけれど……せっかくだからワタシも射的に挑戦してみよう、かしら?」
「おや、メノンもやるのかい? 勢いに乗ってファイトさぁ!」
あえてそうはせず、メノンの挑戦を応援することに。
勿論、内心ハラハラしている店主の顔色を観察して愉しみながら。
「射的の銃は思ったよりも重いの。コルクを詰めるのも結構チカラがいるのね」
「メノン、大丈夫?」
「照準は、これ?」
シェスカにやり方を教えて貰いながらも、よいしょっとメノンは銃を構えてみて。
しゃきんといざ狙うのは、キャラメルの箱!
……でも。
「やっぱり、難しい……」
頑張って狙ってみるも、全部ハズレ。
心なしかホッとしているような店主を見れば、永一はますます可笑しくて。
「……取れたら甘いものをシェスカちゃんにあげたかったのだけれど、残念なの」
「いやぁ、シェスカもメノンも惜しかったねぇ。やはり銃を扱いなれてないと難しいかもだ」
しゅんとしている友人を励ましつつも、軽快に続ける。
「シェスカならきっと来年までに「射的くん」なる屋台の射的を上手くやるロボとか開発してくれそうな気がするよ」
これまでも、バーベキュー用の「焼肉くん」などの発明品を作ってきた彼女へと、「射的くん」の開発も期待……?
そうなれば、ますます店主の顔が青ざめそうである。
いや、永一は今、非常に満足していた。
(「こうして俺と違ってまともに射的するシェスカやメノンのお陰でイカサマとはバレなさそうだねぇ」)
イカサマがバレそうにない大成功だとこともだけれど。
でもそうは言っても、こうも分かっていて。
(「ぬいぐるみ1つ取られようがぼろ儲けだろうしこれでフェアってもんだろうさぁ」)
それがまた、祭りっぽくて愉しいのである。
そして最後に、ラボで待っている皆にもお土産を。
メノンはふわふわ綿あめを、シェスカはたこせんやラムネを適当に買い込んで。
「俺もラボのメンバーへのお土産にポップコーンとか買っておくかなぁ。冷めても美味しいしねぇ」
「うん、皆へのお裾分けはこれくらいでいいでしょう」
シェスカに戦利品を持たせられても文句一つなく、当然のように荷物持ちに甘んじる永一。
「ふふ、いっぱい楽しめたの。今夜はお付き合いしてくれて、ありがとうなのよ」
「いやぁなに、俺も愉しめたし二人には感謝だよ」
「私もなんだかんだ楽しめたわ」
そして礼を告げたメノンは、ふたりの言葉に笑んでから。
シェスカの頭上でお腹いっぱい、にゃぁご、とひと鳴きするレインにも瞳細めて。
秋祭りの余韻に浸りつつ、ふたりと共にゆるりと坂を下っていく――またステキな思い出ができたの、って。
成功
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