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【ジャパニア】友よ、今宵は天上の護り手に大輪の花を

#クロムキャバリア #ノベル #猟兵達の秋祭り2023 #科学小国家ジャパニア #古代神機皇国ジャパニア #神機

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カシム・ディーン



防人・拓也



アルジェン・カーム




 ――クロムキャバリア・科学小国家ジャパニアのキタカント地方、ネオグンマー。
 ここはキャバリアの武装開発と政治の中枢を担う特別軍事科学研究機関『M.A.K.E』の施設が存在する。

 防人・拓也はカシム・ディーンとアルジェン・カームと共に『M.A.K.E』の施設の一画……格納庫に集結していた。
 その目的は、先日の巨神の眠る遺跡から神聖ブリオン教国を退けた際に回収した、オブリビオンマシンこと護城神機『ミネルヴァ』のコアを修復するためである。
 既にカシムの相棒であるメルシーがクリスタルめいたミネルヴァのコアを、ユーベルコードの情報解析機構「叡智の神」で解析中だ。
「……どうですか、いけそうですか?」
 拓也の言葉に、メルシーは目から出たビームをコアへ照射しながら告げた。
「うん! どうやら心も……ミネルヴァちゃんの魂も維持されてる! これならいけるよ!」
「よかったー! じゃあ、ミネルヴァは復活できるんだね!」
 アルジェンの相棒であるプルートーは、纏ったメイド服の裾を翻しながらその場ではしゃぐ。
「本当ですか!? その状態から復元が出来るものなのですね。やはり神機はやはり他の巨神とは一線を画すのでしょうか?」
 目を丸くして驚くのは、拓也の所持する巨神ことアイリスだ。今は他の神機同様、人型に変身して此方もメイド服を纏っている。
 アルジェンも破壊された神機が復元できると聞いて、安堵の表情を浮かべている。
「猟兵とは……素晴らしいですね。……倒すべき相手の|終焉《エンディング》をも破壊してみせるのですから。その想いを猟兵の方々は抱いていると思うと……僕はとても嬉しいです。僕は……当時のエンドブレイカー達は、それはできなかった事だから」
 アルジェンはかつて、マスカレイド化した市民をなくなく撃破せざるを得なかった。
 だが例外とはえ、猟兵はオブリビオンを使役したり、現世へ復帰させてしまえる可能性を秘めている。
 歴戦のエンドブレイカーであるアルジェンからしたら、そんなことは奇跡に等しい現象であった。
 プルートーも目尻に涙を浮かべる相棒の様子に、同調して切ない気持ちになってゆく。
「アルジェン……」
 これにアルジェンは相棒を心配させまいと、瞼をこすると笑顔を見せた。
「ええ、だからこそ……ぷっさん、貴方の力を……貸してくださいね? 遠慮はいりませんから、僕の魔力を持っていってください」
 アルジェンの覚悟を推し量ったプルートーは、大きく、そして力強く頷く。
「任せてよアルジェン! もうボクはカクリョファンタズムの時とは違うよ!」
 カクリヨファンタズムで経験したプルートーの不甲斐ない記憶。もうあんな醜態をさらすわけにはいかない。今度こそ、ミネルヴァ復活という自身のジンクスを打ち破るため、アルジェンと繋がっている魔力回路からプルートーは魔力を吸い上げてゆく。
 準備が出来るまでの間、拓也はコアクリスタルが色とりどりに発色するさまを眺めて声をかける。
「……どうやら、ミネルヴァもいつでも問題ないそうです。今はホッとしているようですね」
「マスター、ミネルヴァ様が言っている事が分かるのですか? 私でも分からないのに……」
 再び驚くアイリス。
 拓也は少し小首を傾げながら彼女へ言葉を返した。 
「巨神同士とはいえ、アイリスは分からないとなると……まぁ、何となくです。回収した後も光の色で感情を表していましたから」
「というか、マスターはよくミネルヴァ様の感情を読み取ることが出来ましたね?」
「まぁ、発色パターンと此方の言葉の因果関係を少しずつ読み解いたのですよ。勝手にアイリスがコアクリスタルを持ち込むから、どうしたものかと独り言を呟いていた時に様々な発色を確認できました。ちなみに、肯定の意思があるときは緑に光ります」
 その言葉通り、コアクリスタルは緑色の輝きを放っていた。

 コアクリスタルに宿った自我や感情が無事であると確認した猟兵達は、次の段階へ進む。
 それはパーツの改修作業であった。
 しかし、オブリビオンマシンとしてのミネルヴァの機体は、先の戦闘で爆発四散し破片も残っていないだろう。
 ならばどうすればいいか?
 これにカシムは妙案をメルシーへ授けた。
「メルシー、オブリビオンマシンになる前……つまり、オリジナルのミネルヴァはジャパニアで壊されたんだよな?」
「うん? 300年前の|神滅戦争《ラグナロク》で確かに、ミネルヴァちゃんは生死不明扱いになってたけど……あ、そういう事だね☆」
「ああ……ジャパニアの遺跡はまだ残っている……そして、メルシーはその遺跡の由来を知っている……つまり、手付かずの遺跡で、ミネルヴァが生死不明になった古戦場周辺に、まだパーツが残ってるかもしれねー……。だから…今から向かって探し出せ、っておいっ! 何しやがんだてめモゴォォッ!?」
 突如、カシムはメルシーに押し倒されてしまう。
 メルシーは白金色の巨大な液体金属状のスライムに変形すると、カシムを呑み込んでもぞもぞ動き出し始めた。
「ラジャったよご主人サマ♥ そうなると、もうアレの出番だね❤ メルシー幼女祭りに必要な魔力、ご主人サマから搾り取っちゃうぞ♥ そーれっ❤ 出しちゃえ❤ 出しちゃえ❤」
「チクショメーッ! アーッ!!!」
 賢者の石状態のメルシーがダイレクトにカシムの感度を3000倍まで高めて魔力を搾り取ってゆく。
 カシムは白目を向いたままメルシーの中でビクビクッと痙攣した後、ペッと白金スライムから排出されてしまった。
「メルシー様……! なんて大胆な……! もうこれって、その……きゃあ……!」
 アイリスは顔を真っ赤にして両手で顔を覆ってしまうが、しっかりと搾取行為の一部始終を指の隙間から覗いていた。
「はっ! つまり、私も魔力補給という名目ならば合法的にマスターを……!」
「アイリス、補給面を危惧するのでしたら今度、私が省エネ術式を施してあげます。魔力消費量が現在の10分の1になるので便利ですよ」
「マスターの心遣いは嬉しいですが、そういう事じゃないんです……!」
 そんなやり取りの最中、巨大な白金スライムから、うじゃうじゃと幼女メルシー達が出現して格納庫から飛び出してゆく。
「「ひゃっはー☆」」
 これにより、ジャパニアの各種で数万規模の幼女軍団が各地で目撃されて騒動になるのだが、それはまた別の話である。

 5時間後、メルシー幼女軍団が帰投してきた。
「結局、ジャパニア全土を駆け巡ってきたぞ☆」
「メルシーの記憶の中の景色と現実が変わりすぎてて苦労したよ!」
 そう言いながらも、発掘された神機の各パーツは今だ新品同様。
 神の名を冠する神機のパーツは魔力で守られていたためか、何処も損傷がなかったらしい。
「まぁ……十分な数だが、やはり完全とはいくわけねーよな……」
「ご主人サマ、大丈夫?」
 5時間連続で2000万人以上のメルシー分身体へ魔力供給をし続けたカシムは、カラカラに干乾びて今にも昇天しそうだ。
 しかし、まだ倒れるわけにはいかなかった。
「流石にきちーが……まだ……ミネルヴァの浄化が残ってるだろーが。ここは、踏ん張らねーとだよなぁ?」
 パーツの組み立ては後回しにできるが、コアクリスタルの骸の海の汚染は放置したら手遅れになりかねない。
 故に、猟兵達はお互いのユーベルコードでコアクリスタルの浄化を試み始めた。
「では、最初に私がコアクリスタルに残っている邪念を浄化します」
 拓也が右手にグラント・サイコゼロフレームを持ち、コアクリスタルに向けながらユーベルコード『全てを癒す奇跡の極光』を発動させた。サイコゼロフレームから溢れ出す優しい緑色の光がコアクリスタルを包み込んでいく。
 その間、拓也は静かに両目を閉じて精神を研ぎ澄ます。
「起こしてみせるさ。俺の命を懸けて、誰かを救う奇跡というものを……!」
 拓也の精神はサイコゼロフレームの緑光を介してコアクリスタルへ浸透し、真っ暗な闇の中を深く深く潜っていく。
 深海の海を彷彿させるような、無限に広がる暗黒空間。その中で拓也が遠い奥底で見たのは、ひとりの少女がどす黒いヘドロのような粘液の塊に拘束されている光景だった。
 恐らく、あの黒い粘液が骸の海なのだろうか。
 ゆっくりと、しかし着実に少女はその黒い粘液に呑み込まれていった。
「見つけた……! 待ってろ、今、助ける!」
 精神体の拓也は少女へ手を伸ばし、サイキックの緑光で照らし出す。
 だが、あと一歩、指先が掠りそうな距離が届かない。
 そこへ飛び込んできたのはカシムの精神体、そしてアルジェンの相棒プルートーだ。
「外典帝竜眼『ブックドミネーター』……発動! ミネルヴァの機体部分を骸の海から引きずり出す!!」
「ミネルヴァ……! ボクはあの時よりも、もっと胸を張れるようになったよ……冥皇としての権能! 今こそ示す! 冥府を渡り、今、再び再誕せよ!」
 カシムがユーベルコードで『オブリビオンとしてのミネルヴァ』を召喚し、それを鋳型にプルートーが生と死を反転させ、ミネルヴァの過去の在りし日を現在に降臨させる。
 形を失った神機は再び魂の入れ物を用意されたことで、急速に奥底から急浮上してゆく。
「さあ! この手を掴んでください!」
 必死に伸ばした拓也の手を、黒いヘドロ塗れの細い指先が掴み取る。
 次の瞬間、拓也が叫ぶ。
「確かに君のやってきた事は許されない事かもしれない。だが、このままだとその罪すら償う事すら出来ないぞ! 俺も手伝ってやる! だから……この手を掴め、ミネルヴァ!!」
 それでも、黒いヘドロが彼女の意思を阻害するように纏わりつく。
 故に、拓也は大胆な方策を試みた。
「アイリス! コアクリスタルに浄化の雷を!」
「えっ! そんなアドリブ聞いてませんけど!? でも、マスターのオーダーは成し遂げます!」
 アイリスが外から電撃をコアクリスタルへ放射すると、それが精神世界の中で少女からヘドロを引き剥がしていった。
 途端、光が広がっていき、それは猟兵達を空間ごとコアクリスタルを飲み込んでいった。

 猟兵達が目を開けると、そこには完全に浄化されて七色の輝きを更に増したコアクリスタルがあった。
「浄化完了です。皆さん、お疲れ様でした」
 サイコフレームをしまう拓也は、安堵の声を漏らした。
 こうして、骸の海から魂をサルベージされたミネルヴァのコアクリスタルは、己の本来姿を取り戻すべく、散在された各パーツへ次々と合体を果たす。ものの10秒足らずで、先の戦闘で相まみえた白銀の大盾を構えた神機が、目の前に降臨したのだ。
「やった! これで……ミネルヴァは生きてた頃に戻った……!」
「ぷっさん、お疲れ様ですよ?」
 アルジェンの労いの言葉に、プルートーは照れくさそうに彼の胸元に額を擦り付けた。
 だが、カシムはぜーはーと肩で息を切りながらも、最後の仕上げに取り掛かる。
「いや、まだだろ……? ぷっさんが鋳型を顕現させてくれたとはいえ、パーツが足りてねぇ……だから……最後の一仕事だこの野郎ー! ユーベルコード……対病根絶機構『医術の神の子』発動! 145秒かけてコアと機体の復元を行う! うおおおおおっ!」
 メルシーの身体から治療用ナノマシンが放出され、有機物・無機物関係なく、あらゆる傷病や穢れを取り除いてゆく。
 そして、145秒後……。
「これ、で……完、了……だな……流石にちと、疲れ、たぞ、バッキャローが……」
「ごごごごご主人サマー!? 待ってて! 余った魔力を口移しで返すから! むちゅー❤」
 前のめりに崩れ落ちるカシムに、容赦なくメルシーは『人工呼吸』で蘇生を試みた。
 拓也はカシムの酷い有様に、思わず合掌してしまう。
「カシムさん……ありがとうございました。アイリスは真似しないように。マスターの命令です」
「ギクッ! あ、あはは、流石に魔力を口移しで移動できるわけ、ないじゃないですか~!」
 アイリスは引きつった笑顔で取り繕っていたが、その視線はメルシーの蹂躙行為に釘付けだった。
 そんな中、ふと凛々しい女性の声が格納庫に響いた。

「タクヤ殿、我が身を蘇らせていただき、誠に感謝致します」

 そこには、紫毛を一本の長い三つ編みした髪型が特徴的な、鎧を纏った女乙女が跪いていた。
「改めて名乗りを上げる事をお許しください。我が名は護城神機『ミネルヴァ』。キャバリアグレイヴ『エリクトニオス』と梟型索敵ユニット『グラウクス』を携えし護国の騎士です」
「顔を上げてください」
 拓也はミネルヴァに面を上げるように促したのち、その翡翠色の瞳を見詰めて告げた。
「無事に復活して良かったです。さて、貴方のこれからの事ですが……カシムさん又はアルジェンさんについて行くか、ジャパニアに留まるか等の選択肢があるのですが……どうしますか?」
 これにミネルヴァは即答した。
「叡智皇と宰相殿の元へは戻れません。私は300年前の戦争では逆賊でしたので。故に、これよりはタクヤ殿を君主として仕官を所望します」
「あ、やっぱり私の所に来るんですね……はぁ……」
 拓也はどうもロボ系美少女に何故かモテるらしい。
 アイリスはニヤニヤしながら彼の耳元へ囁いた。
「……鎧を着ているから分かりにくいですが、どうやらミネルヴァ様“も”スタイルが良さそうですよ、マスター」
「アイリス、そういう余計な情報は要りません」
 これにミネルヴァがおずおずと進言した。
「わ、我が君の命であれば、この身、夜伽の覚悟も出来ております!」
「きぃっ、この泥棒猫ォ!! マスターの正妻は、このアイリスですよ!」
「二人とも落ち着きなさい……! あと夜伽も妻も、私に必要ないですよ」
「ごはっ」
 精神的ダメージで膝から崩れ落ちるアイリスを無視して、拓也がミネルヴァへ声をかける。
「ミネルヴァ。これは私からの提案なのですが、せっかく復活した事ですし、心機一転の意味を込めて新しい名前を付けようと思うのですが、如何でしょうか?」
「むしろ恐悦至極に存じます。我が君から名を賜れるなんて感激です!」
「では……『ルイーズ』という名前を付けましょう。意味はフランス語で栄光の戦士。戦士である貴方に相応しい名前だと思います」
「ルイーズ……はい! たった今から、この身は我が君の騎士、ルイーズです!」
 槍を掲げて笑顔を零す、ルイーズ。
 メルシーもプルートーも、転生したルイーズを祝福した。
「だけどルイーズちゃんかー☆ 因みにメルシーのフランス語の意味は……☆」
「ありがとう……だろ?」
 顔を紅潮させたカシムがそっぽ向いた。

 と、ここでアイリスが提案してきた。
「それではマスター、泥棒猫……もといルイーズの復活祝いとして、皆様と一緒にジャパニア観光へ行きましょうか。丁度、秋祭りも開催されているみたいです。……マスターはいい加減、休息を取ってくださいね?」
 釘を刺された拓也は思わず苦笑い。
「そうですね。私もここ最近、仕事や面倒事ばかりでしたからね……。少しぐらい、羽を休めましょうか」
 彼らは新たな仲間を加え、秋祭りへ出向いていった。

 祭囃子に猟兵達は心が躍る。
「ふふ……いくつになっても、こういう祭りは楽しいものです」
「アルジェンー! チョコバナナばっか食べてないで、フランクフルト美味しいよー!」
 プルートーがこれ見よがしにフランクフルトを買い込んで猟兵達へ差し出す。
「えへへー☆ ミネルヴァちゃん、じゃなかった、ルイーズちゃんとこうしてお祭りが出来るようになるとは思わなかったぞ☆」
 メルシーもルイーズにクレープを奢ってあげてご満悦の様子。
 ルイーズもこれに穏やかな表情で首肯した。
 昔は敵同士だった間柄も、300年後には良き隣人。
 何がどう転ぶか分からないものである。
 その頃、カシムは失った魔力を屋台メシで補給していた。
「イカ焼き! タコ焼き! りんご飴! ジョーシュー名物焼きまんじゅう! おらフランクフルト寄越せ、ぷっさん! アルジェン! ホルモン焼き買ってこい! カネは出す!」
 暴食の大罪と化したカシムはひたすら食べ物を胃に押し込んでいった。
 半ばカオスな状況の中で、拓也はルイーズの手を取って人混みの中をエスコートしてゆく。
「さぁ、行きましょう。メルシーさんやプルートーさんが色々とはしゃいでますが、きっと楽しい事になりますよ。これからよろしくお願いしますね、ルイーズ」
「……はい、我が君」
 ルイーズは目を細めて満面の笑みを浮かべた。
「きぃぃぃっ! 羨ましいです……!」
 拓也とルイーズの後ろを三歩下がって、メイド服のアイリスが恨めしそうに見詰めながら付いてゆく。
 対して拓也は心中穏やかではない。
(やれやれ……守るべき相手が増えてしまった。いつ犬死するか分からない身だというのに……)
 自己肯定力の低い拓也は、戦場の一兵卒として『明日は我が身』という刹那的な生き方を自覚している。
 だが、これでは重荷になって死ぬに死ねなくなってしまうのではないか?
 身軽な方なままで、よかったのではないか?
 一瞬、そんな考えが拓也の脳裏に過った。

「そういや、ミネルヴァって本質的にどういう奴なんだ?」
 カシムの興味本位の質問に、かつての臣下をメルシーが評した。
「ミネルヴァちゃん? 戦神なんだけど、基本的には戦術戦略を駆使しつつ防衛戦が得意な子だよ☆ ユピテル様の娘の一機でもあるね☆ ただ根っこは……やっぱり脳筋だぞ☆ 神滅戦争では、先日の戦いみたいに島みたいな大きさの岩石ぶん投げて、数多の巨神を押し潰してたぞ☆」
「神機シリーズは脳筋ばっかかよ!?」
 呆れるカシムにメルシーは目を逸らす。
「あはは、国防特化の機体は多かったからね☆ それでも政治運営とかも強かったりするぞ☆」
「つまり、おめーよりはアホじゃないのか、なら問題ねーだろ」
「ご主人サマってばナチュラル無礼☆ 不敬罪だぞ☆」
「今は僕が立場上だろーが!」
 カシムに鼻フックの刑に処せられるメルシーが嬌声を上げて分からされる。
 ルイーズは300年前と変わらない元君主に、苦笑いを浮かべていた。
 プルートーもかつてのルイーズのひととなりを語り始める。
「基本的には神機シリーズの中では真面目な方だったかな? 不思議とディア姐さんとも仲良くてね。ただ恋愛とかは基本的には奥手だったよ! あと義にも厚いよ、ってそれは既に証明されたよね! それと戦神……軍神といった方がいいかな? 守りに特化したタイプで、スパルタでもあったよ。それでも人気が高くて……特に彼女が目にかけた戦士達の中でも、特に強かった人達はそれぞれ星座にちなんだ名前を与えられた『聖勇士』と呼ばれて大人気だったねー?」
 アルジェンはなるほどと小さく頷くと、良い主従関係を築き上げている拓也とルイーズのコンビに目を細めた。
「まさに戦士の神だったのですね。ふふ……にしても、拓也さんは人気者の様子……。ルイーズさんの加入で、あの方の支えとなるといいですよね」
「あっ! 見て! 花火だよ!」
 突然プルートーが夜空を指差すと、ちょうどスターマインが開始した瞬間だった。
 連続で大玉小玉の数々の花火が夜空へ打ち上がり、暗黒の空を一面咲き誇ってゆく。
「うわぁ、きれいだね!」
「ええ、とても」
 アルジェンはニコニコしながら、そっと拓也へ近付いてゆく。
「拓也さん……」
 その目を見詰めて、アルジェンは告げた。
「今、エンドブレイカーの能力で貴方を見ました。しかし僕には、貴方の|終焉《エンディング》は見えませんでした。それはきっと、貴方はこれから先、どんな窮地も乗り越えてゆく……悲劇や不条理に抗う力を持っているという事です。だから……捨て鉢にならずに生きてください。貴方には今、それを願ってくれるおふたりがいるのですから」
 唐突なアルジェンの忠告に、拓也は唖然として口を開けてしまう。
 アルジェンは申し訳なさそうに目元を提げると、自嘲しながら呟いた。
「ふふ……年上相手に説教臭い事を言ってしまいましたね。申し訳ありません。ですが、どうか心の片隅にでも残してくれると幸いです」
 拓也は小難しい顔をして、黙りこくってしまった。
 ここでカシムが拓也の首に腕を回して話しかけてきた。
「おい拓也ー? なに暗ぇー顔してんだ? そんな辛気臭い顔してっと……カシムさんが掬い上げた金魚を生きたまま鼻の穴へ突っ込むぞ?」
「掬いたてピッチピチだぞ☆」
「いやどんな拷問ですか、それ!? うわ生臭っ!」
「我が君への無礼は、たとえ叡智皇とその契約者様といえど見過ごせません」
「お? こっちだってご主人サマ守るためなら300年前の決着を付けてもいいんだぞオラ☆」
「ああもう、滅茶苦茶ですよー! やめてくださーい!!」
 カシムのちょっかいにメルシーが便乗し、拓也を守らんとルイーズが過剰反応、場を収めようと結局アイリスが仲裁せざるを得なくなってしまった。
「ふふ……賑やかですね? こういった日常が、これからも続くといいですね?」
「うん! あっ! アルジェン! でっかいのが打ち上がったよ!」
 アルジェンとプルートーの声で、全員が夜空を見上げて大輪の花火を見届けた。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
 はしゃぐ猟兵達。
 その中で、拓也はルイーズの手を握り、そっと呟く。
「……いつか、貴女達が私の事を忘れても、幸せでいてくれれば、私はそれで良いのです」
「それは、どういう意味でしょうか?」
 拓也の言葉の真意を測りかねるルイーズが問い返す。
 しかし、拓也はすぐに頭を振ると、再び打ち上がった大玉花火が咲き誇る瞬間を眺めた。
「いえ、独り言ですので、忘れてください」
「……忘れません、今日のことは」
 ルイーズが言葉を紡ぐ。
「我が君の施しを、忘れるはずがありません。私は我が君の騎士、ルイーズ。それは、今日の出来事無くして名乗れませんので」
「私は貴女より先に死にますよ、人間ですから」
 拓也が吐き捨てるように言えば、ルイーズは決断的に即答する。
「その時は、私も必ずお供致しましょう」
「馬鹿な事を言わないでください。独り言だと言ったじゃないですか」
 拓也は言葉を漏らすたびに、心の中で何かがざわつく感覚を覚える。
 それがまだ何なのかは、彼は理解出来ずにいた……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年11月15日


挿絵イラスト