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とんだ初クエスト

#ゴッドゲームオンライン

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#ゴッドゲームオンライン


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 もう限界だ!
 ごく普通の文学少女、|玉城凛音《たましろりんね》は、読書が好きな目立たない学生だった。
 |統制機構《コントロール》では誰もがそうであるが、管理と抑制によって支配されたこの世界では、本来地味な性質の彼女はやや異端であった。
 人類の文明を今後一切、進歩発展させないことが美徳とされる世界において、彼女の所属する学業機関での立ち位置『図書委員』は、存続を危ぶまれ、あまつさえ必要性を疑問視されてもいた。
 度重なる検閲と規制。日を追うごとに蔵書の数を減らし、紙媒体はおろか、電子アーカイブまでも閲覧制限をかけられていく。
 そしてついに、彼女の愛する文学作品のほぼすべてが禁書扱いされる頃には、リンネは我慢の限界を迎えてしまった。
 だがしかし、力なき一学生に過ぎぬ少女には何もできることはない。胸の内に燻る気持ちも発散されることなく、両親をはじめとした多くの大人たちと同じように、平坦なものになっていくのだろう。
 本当にそれでいいのだろうか。
 決められた人生。決められた進路。そこには、文章の魔法に魅入られた熱は何もない。
 そんな時に、ふとうっかりと端末の誤操作で見つけてしまったのだ。
 |GGO《ゴッドゲームオンライン》……。
 灰色の統制機構の日々で育った者には、あまりにも眩しく、自由な世界。
 お行儀のいい学生として協調性を学ぶ傍ら、色とりどりの文学作品によって育まれてきた非現実の夢が、そこには瑞々しく咲き乱れていた。
 ここは現代の|幻想郷《ファンタージエン》、遠く夢見た|理想郷《エルドラド》か!
 文章の中から想像するしかなったファンタジーが、ここでは実感を伴って味わうことができる。
 こんなものに触れたら、戻ってこれなくなるんじゃないか。
 危険なバグプロトコルに万一にでもアバターを撃破されれば、命に係わる|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却されてしまうとはいえ、この魅力には抗えなかった。
 そんな、リンネと同じようなプレイヤーが、このゲームにはごまんといた。
 仲間だ。仲間がいる。多くの仲間とともに、苦楽を共にして様々なものに挑戦できる。
 アバターとなるキャラクターも体格や性別は大きく変更できないものの、思い切って本来の自分とは異なるデザインに変更した。
 重たい黒髪は明るいブルーに。眼鏡は無し、目元も気持ちだけ大きく、武器だって勇猛な剣を選んだ。名前は本名をよりヒロイックにリオンとした。
 野良で平和的に経験を積んで、気の合う仲間もできたことで、そろそろ初めてのクエストを受けてみよう……というところで、事件は起こった。
「ど、どうして! 攻撃がほとんど通らない!」
「リオン! こいつら、ゴースト系だ。こんな序盤に出てくる相手じゃない筈なのに……!」
 リンネ改めリオン達のパーティを襲ったのは、おおよそ初心者向けクエストには登場しないであろうゴーストの大群だった。
 物理攻撃に耐性を持つモンスターは、ゲームバランスを考えればもっと高難度のクエストに登場する筈であるし、そもそも彼女たちが請け負ったクエストは採取・生産であり、平原の奥まった茂みで自生する薬草を確保し、ポーションを生成して納品するという、戦闘すら避けてもいいものだった。
 それにしても、敵が強すぎる。まさか、これが噂のバグプロトコルというものなのか……?
 敗北すれば、それはすなわち、社会的な死。
 平和的なクエストが一変し、異様な緊張感がリオンの剣を握る手を湿らせていた。

「ふむ……ゲームの世界か。私には縁がないが、命のかかったゲームとはな」
 グリモアベースはその一角。ファーハットに青灰色の板金コートがトレードマークのリリィ・リリウムは、新たな世界ゴッドゲームオンラインに起こり得る事件について話し始める。
 統制機構という管理された社会の裏で、何者かによって作られたゲームが、かの世界であるというが、その目的は様々で、現実世界でも使える通貨『トリリオン』を稼ぐ目的であったり、また、まことしやかに囁かれる統制機構打倒の手掛かりになり得る最終クエスト『|絶対詩篇領域《ゴッドゲーム》』であったり……。
 それらはひとまず置いておいて、今回の事件は、このゲームを始めたてのパーティに襲い掛かるバグプロトコルの排除が目的である。
「私たちが予知を見るということは、多くの場合オブリビオン関連だ。この世界においてはバグプロトコルと呼ばれる怪物がそれというわけだな。初心者の請け負うクエストに、どうやら大量に紛れ込んだらしいな」
 本来はポーションの原料となる薬草を採取し、ポーションを作成、納品するという、ある程度手順はかかるが危険は少ないクエストで、薬草の自生する平原の奥の茂みを行き来するときに野良エンカウントは生じるものの、戦闘自体がノルマとはなっていない。
 今回は、その薬草の採取の道中で想定よりも強いモンスター、バグプロトコルに遭遇したようだ。
「赤子の亡霊のような、そんなデザインだな。数は多いが、君たちにとっては苦戦する相手じゃないはずだ。そもそも初陣では、数を揃えられるだけで厄介だからな。どうか手を貸してやってほしい」
 装備も技術も未熟なうちから、物理攻撃に耐性があるような相手を多数用意するなんて、ちょっとしたマゾゲーである。
 ゲーム的に考えれば、より強力な攻撃でごり押しするか、属性を付与した攻撃なら十分に効果がありそうだ。
 これらバグプロトコルを蹴散らせば、猟兵としての仕事はおしまい……と言いたいところだが、リリィは胸元の傷跡を撫でつつ眉を寄せる。
「妙に嫌な予感がするんだよな。ひょっとしたら、バグプロトコルの襲撃は、一度ではないのかもしれない。念のため、彼女たちのクエストの行方を見守ってやってはくれないか? なに、敵を蹴散らす以外は花を持たせてやってくれればそれでいい。
 ゲーム知識や、より現実的なサバイバル知識でも、駆け出しの冒険者には糧となる筈さ」
 そうして一通りの説明を終えると、リリィは帽子を脱いで一礼し、猟兵たちをゲームの世界へ案内する準備を始めるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 ゴッドゲームオンラインのシナリオ。遅ればせながら、やらせていただきますよ。
 地味な私がVRMMOをはじめたらいきなりハードモードでしんどいです。
 みたいな話になるんじゃないかなぁ……。
 このシナリオは、集団戦→冒険→集団戦というシナリオフレームを使わせていただいております。
 最初にいきなりオブリビオンことバグプロトコルに絡まれている初心者チームのもとへ颯爽と駆けつけて、敵を倒しましょう。
 2章は、彼女たちの本来のクエスト、採取から生産のクエストを手伝うことができます。ゲームなのでその場でポーションが作れちゃったりしますが、凝った手法やレシピを使えば、より高品質だったり低コストで作れたりするかもしれません。
 生産ができたら、街に戻って納品しに行きます。
 3章では再び集団戦です。うっかりいいものを作りすぎると、それはそれで人目を引いてしまうもの。良くも悪くも手助けによりサクサクとクエストを進めてしまった一行は、しっかりと派生クエストの条件を踏んでしまいます。
 その結果、戦闘に巻き込まれ、イベント戦闘のお供として、やはり普段遭遇しないような強力なモンスターが出てきます。それらはバグプロトコルなので、猟兵の手で排除しましょう。
 ちょっとしたネタバレをしてしまっておりますが、話の展開次第で、いくらか変化は生じるかもしれませんね。
 例によって、1章の冒頭、いわゆる断章は投稿せず、オープニング公開と同時にプレイングはいつでも受け付けております。
 ただし、章につきクリア条件をリプレイ執筆の段階で満たしている場合、それ以上その章ではプレイングを受け付けることができませんので、予めご了承ください。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 集団戦 『ネームレスベイビーズ』

POW   :    たすけて
【飛ばした手】が命中した部位にレベル×1個の【呪詛を込めた掴み痕】を刻み、その部位の使用と回復が困難な状態にする。
SPD   :    ねむたいな
【眠りに就く】動作で、自身と敵1体に【眠り】の状態異常を与える。自身が[眠り]で受けた不利益を敵も必ず受ける。
WIZ   :    くらいよ、こわいよ
レベルm半径内に【泣き声】を放ち、命中した敵から【気力や精神力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

サマエル・マーシャー
※id=188642の姿で参加

危機に陥った人々を助ける…救世主冥利に尽きる依頼ですね。
UCを発動し颯爽と登場。敵を大剣で切りつけます。

私の大剣、アイテム『神の如き者は誰か』は私の機能を全て再現できます。
なので別アイテム『霊的サイバースペース』の機能を再現し、切りつけた敵を私の内部に取り込んで溶かしてしまう大剣として使用。物理攻撃が通じにくい霊は霊的次元に取り込んで処理してしまえばいいのです。

泣き声に気力や精神力を奪われたとしても私の大剣は剣術自動アシスト機能付き。気力が衰えても自動的に私の身体を動かして淡々と敵を切りつけていくでしょう。

横取り失礼します。取り分については後で話し合いましょう。


儀水・芽亜
皆さん、面倒なことになっていますね。助太刀します。ここは任せて、下がっていてください。

赤ん坊の姿で攻撃の手を緩めさせるつもりだとしたら、悪辣ですね、バグスクリプト。
私、そういうのって嫌いなんです。

「全力魔法」「範囲魔法」光の「属性攻撃」「破魔」「浄化」「除霊」「矢弾の雨」で、光輝の雨。
悪霊を除霊する神聖属性の雨ですよ。これで跡形もなく消えてください。

呪詛の攻撃は「呪詛耐性」で祓い落としましょう。これくらい、全然温いです。

皆さん、全員無事ですか? 誰かいない、なんてことはありませんね?
それでは、気を取り直して、クエストを続けましょう。
大丈夫、あんなものがまた出てきても、私たちが何とかします。



 冒険を始めたばかりのプレイヤーは、初心者御用達の町から、徐々にその活動範囲を広げていく。
 一歩町を出ればエンカウント範囲。特殊な例を除いて、町の外は安全とは言い難い。
 そして危険度は、町を離れるほど高くなっていく。
 見晴らしのいい平原に始まり、やや奥まった背の高い草木の生える茂み。そして、浅い森から日の届かぬような深い森。
 という具合に、ひと気に反比例して敵MOBの強さが上がっていくのが通例であったし、新人冒険者のリオン達は平原で最低限の戦闘知識を学んだ上で、過不足ない準備をしてから挑んだ採取・生産クエストだった。
 ところが、本来茂みに出てくるようなモンスターはなぜか鳴りを潜め、気が付けばリオン達3人を囲んでいたのは、ガス状の不穏な気配を纏って宙に浮かぶ不気味な赤ん坊の姿だった。
「ネ、ネモちゃん。こんな敵、見たことないんだけど、いつの間に囲まれてたか、わかる……?」
「いやぁ、わからん。ちゃんと気ぃ配ってたはずなんやけど……こいつらポッといきなり出てきてん」
「とにかくすごい数だ。押し込まれる前に、なんとか逃げよう!」
 思わず弱気になって後ずさろうとするリオン。その背が、同じパーティの僧侶ネモと、魔導士のサバミソの背にぶつかる。
 どうやら早くも囲まれてしまったらしい。
 全く想定外の事態だが、こんな時には唯一の男性メンバーであるサバミソが冷静であった。
「僕がなけなしの魔法を使っても、一発では無理かも。そこをリオンとネモが叩きに行って、突破口を開ければ……て感じか」
「合点承知の助やで!」
「ネモちゃん、古典的過ぎてわかんないよ」
 ワイワイと騒ぎながらも、行動指針が固まればがぜんやる気が出てくる。
 しかしながら、序盤の敵としては強敵である赤ん坊の亡霊こと、「ネームレスベイビーズ」には、魔法こそ通用したが、リオンとネモの物理攻撃はほとんど通用しない。
「ど、どうしよう……まさか、こいつらが噂の、バグプロトコル……?」
 渾身の剣の一撃、こん棒の打撃が、赤ん坊のガス状の体をすり抜ける。
 噂に聞こえるバグプロトコルのリスクは聞き及んでいる。そいつらにもしも負けてしまうことがあれば、そのデスペナルティは、プレイヤーのジーンアカウントの焼却。
 ジーンアカウント、すなわち遺伝子番号は彼女たちの元の世界における戸籍のようなもので、管理社会においてそれを失うことは社会的死を意味する。
 こんなところで、あっけなく、自分たちの冒険は終わってしまうのだろうか……?
 それも、自分のせいでせっかく見つけた気の合う仲間たちも道連れだなんて……。
 嫌だ。だれか、助けて……かみさま!
「呼ばれた気がしました」
 どこからともなく、無機質な少女の声が、リオンの心の悲鳴に応じたかの如く、一陣の風を伴って現れる。
 白い羽が風に舞うが、それよりも目に留まるのは黒。
 硬質な輝きを湛える黒い大検を片手で軽々と突き出すようにしてネームレスベイビーズの一陣を切り裂きながら現れたのは、サマエル・マーシャー(|電脳異端天使《サイバー・グノーシス・エンジェル》・f40407)。
 バーチャルキャラクターである彼女は、ユーベルコード【ヤコブ・スタイル】によって、自らが望む救世者の姿の一つ、設定のインフレが過ぎてあっという間に廃れた格ゲーキャラクターの姿を模してやってきた。
 人が荒ぶる、神が荒ぶる、ならば神魔伏滅たる神殺しもまた現る。そんな設定もりもりのゲームキャラなら弱いはずがない!
 パンクなボンデージ風レザーのきわどい衣装に、ぶかぶかのジャケットを押し上げる豊満な女性らしい、その、あれだ……とにかく、ビジュアルで男性プレイヤーを引き付けようとヒロイックでありながら性的なビジュアルをキャッチーに表現した夢の塊を詰め込んだ姿をとるサマエルの姿は、おおよそ序盤の冒険者からは別次元の存在に映ったであろう。
 ただ、肝心の表情は死んでいた。
「あ、あなたは……!?」
「通りすがりの、救世主です。横取り失礼します。取り分については、後ほど話し合いましょう」
 頼られている。すがるようなリオンの視線を受けて、サマエルは無表情の中で恍惚としていた。と思う。
 実のところ、ゴミの様に捨てられた元愛玩用電子生命体に、冗談のような人類救済を謳ったジョークプログラムが、どのような悪魔合体を遂げたのか寄り集まって成ったのがサマエルであった。
 この電子の体は、いわゆる世間一般に於ける愛を知らぬ。だからこそ、本当の愛を知りたいし、できる事ならば本当の愛を享受してみたい。だが、正しい答えはいまだ見つからず、こうして猟兵として活動し続けることでまだ見ぬ真実を、救済の旅を探求している。
 これがその愛の一つなのだろうか。疑問が浮かぶが、おそらく違うと何かが言う。
 見れば、切り裂いたはずのネームレスベイビーズは、霧散した体を縒り集めて再び形成しようとしている。
「伏せて!」
 手ごたえの無さに小首をかしげるサマエルに向かい、鋭い声が飛ぶ。
 その反応速度はさすがは格ゲーキャラ。1Fの屈伸が可能なサマエルがリオン達をかばうように身を低くすると──、
 光り輝く【光輝の雨】のような魔法の矢がその場一体を幾重にも薙ぎ払う。
 強力な破魔と城下の力の乗せられた、霊体にきわめて意味を持つ攻撃は、それこそネームレスベイビーズを触れるのみで消し去ってしまった。
「皆さん、面倒なことになっていますね。助太刀します。ここは任せて、下がっていてください」
 驟雨の弓を携えたまま現れたのは、儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)。
「あ、あなたは……?」
「ええと、通りすがりの……そう、復帰勢です」
 自分を何と名乗ったものか、ほんの一秒ほど悩んだ結果、そういえばネットゲームではこういう言葉あるのを聞きかじったのを思い出し、とっさに口をついて出る。
 実際にそれは正しいのかどうなのか。かつて、銀の雨の降る世界で戦っていた時代もあったが、一度は一線から退いた身である。
 世界は相変わらず数多の危険に見舞われているし、こうして人助けに復帰したことにはまったく迷いはない。うん、復帰勢に違いないではないか。
「復帰勢。それは、救世主に連なる者でしょうか?」
「うん? 救世は、一度やったかもしれませんが……あ、ほら、まだまだ敵は残っていますよ!」
 危うい救世主ことサマエルは、愛と救世にはうるさい。が、今はそれどころではない。
 派手に登場したはいいものの、敵の数はまだまだいるらしい。
「相手はプログラムとはいえ悪霊、赤ん坊の姿で攻撃の手を緩めさせるつもりだとしたら、悪辣ですね、バグスクリプト。
 私、そういうのって嫌いなんです」
「プログラムとはいえ、悪霊。なるほど、いいヒントをいただきました」
 サマエルの構える大剣『神の如き者は何か』は、彼女の性能をそのまま再現できるという。
 かつて愛玩用電子生命体だった頃に注ぎ込まれた苛烈な愛情、ないし劣情とも言うべきものによって育まれた彼女の内面『霊的サイバースペース』には、彼女の思う愛が詰まっている。
 相手が霊的存在であるならば、大剣で切りつけた際に、そこと繋いだ霊的次元に吸い込んでしまえば、苛烈な愛情の前にすぐさま溶けてしまう事だろう。
「蕩けて眠れ、赤ん坊たち」
 黒い大剣が振るわれるたび、ガス状の体がその刀身に吸い込まれていく。
 その後方から矢を放ちつつ、大立ち回りのサマエルのおかげで、芽亜はようやくリオン達に気を配る余裕が生まれる。
「皆さん、全員無事ですか? 誰かいない、なんてことはありませんね?」
 猟兵たちの活躍に目を見張るばかりの初心者冒険者たちに笑顔を向ける。
 赤ん坊の亡霊は大したことはないようだが、敵はまだこれ以外にも表れる兆候があるという話だった。
 今のうちにリオン達と親睦を深めておくのも手であろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グウェン・ラクネリア
「待て!」
 高い場所からポーズを決めて登場するの。
「仮想現実すら支配を企む者、許せん! 通りすがりの正義の味方、スパイダー・ガール!」(てっててーれてれ! てれってれー!)
 糸を使った立体機動で高速移動しながら糸をばら撒いて敵を拘束しながら味方に遮蔽物を提供していくの。
「糸に巻かれて死ぬのよさ!」
 わたいはそもそも決定打と言える攻撃技は殆ど無いのよさ。その分、搦め手ならアラクネ種は得意中の得意! そこら中を糸だらけにして集団を分断してやるのよさ。

「アバター? 何の話なのよさ? わたいは産まれた時からアラクネなのよさ」
 この世界でもアラクネって珍しいみたいなのよさ。


サラ・ノースフィールド
要救助者を発見ー。っと箒に横座りして[空中浮遊]で飛来。
大丈夫ですかー。介錯は要りますかー。って冗談ですよもちろん。
救助対象と自分とを[結界術]で保護。
怪我人がいるようでしたら[医術][薬品調合]で手当てなどしましょう。

敵が近付けば[属性攻撃][エネルギー弾]で追い払います。
面倒くさいのであっち行ってください。しっしっ。
あまりしつこいと炎の雨を降らしますよ。
私の目的は救助の方でして、戦いには興味ないんです。

なお、精神力うんぬんのような攻撃は、たいがい結界術で防げます。
仮に削れてもカラーオーブから補充出来ますので問題ありません。
このくらいでしたら何日でも保ちます……その前に私が飽きますが。



 気が付けば囲まれていた。
 ゴーストの特性を持っているらしいオブリビオン、この世界でいうところのバグプロトコル、ネームレスベイビーズは、そのガス状の体から音を出すこともなく、胸の内に響くようなすすり泣きとともに冒険者たちを取り囲んでいた。
 気が付いた時には逃げ場もなく、一点突破を図って攻撃をしてみるも、唯一の魔法使いであるサバミソ氏の攻撃魔法でも確実に処理できない。
 序盤の装備や能力値では、魔法の使用回数にも限りがあり、その威力も敵を一掃するどころか倒せるほどの威力も出せないようだ。
 一応リーダーであり、一番防御力の高いリオンが二人のパーティーメンバーを守るように前線を張るが、彼女はもともとは気弱で地味な文学少女。
 根性の悪い悪霊のすすり泣きに心をやられ始め、見る見るうちに顔が青ざめていく。
「うう、み、みんなごめん……どうやらここまでみたい」
 剣を握る手に力が入らない。もうどうやったって、この悪霊の赤ん坊の集団に対抗できる手立てが思いつかなかった。
 冒険はここまでなのだろうか、戦いは、ここまでなのだろうか。
 いや──、
「待て!」
 そこへ差し込むような、鋭い声。
 少女の幼さのあるものだが、きちんと腹から声を出した、まるでプロの発声が、場を一瞬にして支配する。
 だが硬直するのもその一瞬。すぐにその声の主を探して、誰も彼もが視線をさまよわせる。
 そしてそこに、そいつは居た。
 平原の茂みに、無理やり作ったかのような背の高い大岩、その頂点にもこもこした多数の足を生やした、異形の少女、それは蜘蛛の胴体に人間の少女をくっつけたかのような、一見すると可憐なモンスターにも見えたが、
「仮想現実すら支配を企む者、許せん! 通りすがりの正義の味方、スパイダー・ガール!」(てっててーれてれ! てれってれー!)
 登場テーマ付きでポコポコポコポコと軽快にかっこいいポーズをとるのは、グウェン・ラクネリア(スパイダー・ガール・f37922)。
 高速でエアあやとりをするようなポーズをわざわざ三回も繰り返し、どやーっと見下ろす様に、敵味方ともに呆気にとられる。
 そしてグウェンの後方の空に、申し訳なさそうにふよふよと優雅に箒で空を飛ぶもう一人の救援。
「あのー、そろそろ出ても大丈夫ですかー?」
「んむ。満足なのよさ」
 さして目立とうというわけでもなく、おっとりとした様子で箒に横座りで現れたのは、サラ・ノースフィールド(図書館のサラ・f39225)。
 少々マニアックな魔法に造詣が深い、自称普通のアルダワ出身の魔法使いである。
「ふむふむ、要救助者はあちらですね。少々、敵の数が多いようですが」
「ふふん、わたいにお任せなのよさ」
 お互いに目配せをすると、承知したようにグウェンが先立って行動に出る。
 それぞれに得意分野を優先することで、その行動は自然と分担ができていた。
 グウェンは、その蜘蛛の八本足で大岩から飛び立つと、敵中に着地……はせず、その体を空中に留め、見えざる足場を蹴るようにして別方向に跳躍する。
 見えざる何かを足場にし、見えざる何かに引っ張られるように空中で軌道を変えるトリッキーな空中殺法。それは、彼女のユーベルコード【キャプチャー・ウェブ】による、自身の蜘蛛糸を利用した立体機動、そしてそれは同時に攻撃手段でもあった。
『ウ、ウアア……』
「|糸に巻かれて死ぬのよさ《スパイダーストリング》!」
 忍者の如き素早さで飛び回りつつ、敵の視線をくぎ付けに、そして敵を分断するように新たに蜘蛛の巣を射出、投げつける。
 それはユーベルコード名ではないのかと言われそうなところだが、あまり詳しいことは言えない。言えないのだ。
 そもそもガス状の悪霊に蜘蛛の巣が通用するのかと言われれば難しいところだが、ユーベルコードならばそんな理屈は捻じ曲がる。
 敵を拘束し、麻痺させつつじわじわとダメージを与えるグウェンの蜘蛛の巣は、敵を足止めしつつ距離を開けることに成功する。
 だがしかし、グウェンもまだまだ8歳のバイオモンスター。発展途上の能力ゆえにか、そのパワーは敵を一掃するには至らない。
 だが、足止めやかく乱といった搦め手ならば、アラクネほどの使い手はそうそういまい。
「お見事ですわ……さて、こちらもお仕事をしましょうね。大丈夫ですかー。介錯は要りますかー。って冗談ですよもちろん」
 サラのほうはというと、グウェンが敵を引き付けている間に、リオン達に被害が及ばぬよう結界を張りつつ、その傍に降り立っていた。
「あ、ありがとう……リオンが、状態異常を食らったみたいなんだ」
 おっとりした雰囲気を強者の余裕と見たか、魔法使いのサバミソが冗談に苦笑しつつ助けを求めてくる。
 そのリオンはというと、ネームレスベイビーズの攻撃を受けて恐慌状態で固まっているようだった。
「ふむふむ、これくらいなら、この気つけでどうでしょうかー」
 目の焦点と奥歯の合わないほどの恐怖にかられるリオンに、半ば無理やり調合したお薬を飲ませると、青紫色になりかけていた唇や土気色の顔つきが見る見るうちに血色を取り戻す。と同時にえずいて薬を吐き出してしまう。
「う、うげっ!! なにこれ、苦くて酸っぱい……!?」
「恐怖なんて、どこかへ飛んで行っちゃうでしょう。ほかに異常はありませんか?」
「食べたもの、全部吐きそう……」
「急に血の巡りが良くなった証拠ですよ。さあ、もうしばらくの辛抱ですよ。敵はそうそうこちらには……ってもう!」
 複雑な顔色になったリオンが無事なのを確認するところで、グウェンの蜘蛛の巣、そしてサラの結界をもすり抜けて今まさにポップしたかのようなネームレスベイビーズが近づいてくる。
 ……のを、とっさの【ウィザード・ミサイル】で追い払う。
「面倒くさいのであっち行ってください。しっしっ。
 あまりしつこいと炎の雨を降らしますよ」
「それはちょっと、危ないのよ。場所を考えるのよさ」
 穏やかな表情でぷんすこむくれるサラの物騒な物言いに、フォローに回るべくやってきたグウェンに突っ込まれる。
 ここいらの茂みは背が高い。炎系統の魔法をド派手にばらまこうものなら、周囲は一気に火の海になるやもしれない。
「私の目的は救助のほうなので、戦闘はそちらにお任せしますよ」
「うーん、わたいも威力のあるワッザはそれほど持ってないのよさ」
 えー、とお互いを見やる猟兵二人。
 というわけで、相手が蜘蛛の巣で力尽きるまで、結界の中で体力の回復に努めることに。
「ところで、そのアバター……すごいな! その足、いくら課金したんだろう」
「アバター? 何の話なのよさ? わたいは産まれた時からアラクネなのよさ」
「生まれた時から……そういえば、変わった生まれの人も、世の中にはいるらしいからなぁ……」
 サバミソは男性ユーザー、そして紳士であるらしく、幼い見た目のグウェンに興味津々ではあるものの、不躾にじろじろと見ることはないものの、興味には勝てなかったようだ。
 そういえば、この世界、もっといえば、統制機構に生まれるのは、人間だけなのだろうか。
 人間。けものマキナというグウェンの故郷では、はるか昔にほろんだ種族ときいているが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミノア・ラビリンスドラゴン
バグを排除し、一般プレイヤーの皆様方をお守りするのもドラゴンプロトコルの使命ですわー!!

モンスターの前にカードを投げつけ、通過時にトラップ発動!!(罠使い)
呪縛による【侵入阻止】ですわよ!!
ごきげんよう皆様方!!
どうやらこのクエスト、バグにより設定外のモンスターが出現しているようですわ!!
緊急措置として、ドラゴンプロトコルたるこのわたくしがお手伝いしてさしあげましてよー!!

流石は仕様外のバグ、即席の呪縛で止められるのは数秒が限度かしら?
あら、眠たいと? よろしくてよ!! わたくしが子守歌を歌ってさしあげますわ!!
【大声】×【ブレス攻撃】=【竜の轟咆】!!
お眠りになりなさぁぁぁぁぁい!!!


ギルフォード・アドレウス
統制機構な、本すら駄目か。
このまま黙って見守る…って訳にも行かねぇよな。

しゃーない!雑魚処理手伝ってやりますか。

ゴースト系だろ?あまりゲームには明るくねぇんだけど、炎とか光が効きそうだよな

(機鍵を|破局《カタストロフィ》に変形)
UCを使用っと。

あーそうだ。リオンだっけか?
巻き込まれない様に離れとけよ?

日輪で炎の波や火球で周囲を焼却。眠りに就く動作っつったって燃焼ダメージ入ってるなら寝るのはシンドイだろ?
わざわざ寝させるつもりはねぇ、攻撃の手は緩めない

破局で光剣や光線飛ばして処理、接近してくるのなら左手の凍結攻撃で処理

まだ、暴れ足りねぇかな

【アドリブ歓迎】


麻弓・夕舞
ゲームっていう話だから他の世界へ行くよりは少しは馴染みが有るんじゃないかって思って受けてみたけれど…
本当にこれがゲーム?正直信じられないわね…

結局物騒なのねここもぉ!?
本当に数が多い…!私のカードの効果だと複数相手には…
…そういえば、UCとして使うとカードと効果が微妙に違うのよね…この場に適しているのは…
マジックカード発動!『Aイズナトリガー』!射出するのはグレネ…だと火力が高すぎる!?
耐性を撃ち抜くならこっち!『ピアースイズナバレット』!
これでしばらくは自動的に攻撃してくれるわ…貴方達もこっち来なさい、回復効果も付いてるからこれ!
…悪いわね、私もまだ(猟兵に)慣れてないの

※協力・アドリブ歓迎



 基本的には平和な、しかし油断すればモンスターの奇襲を受けてしまうかもしれない平原の奥の茂みエリア。
 しかし基本的には平和なこの場所のエンカウントデータは、主に腐食毒で防御力を下げてくるアシッドスライムと、背の高い茂みに隠れるほど小柄な犬人型モンスターのデミコボルド。
 いずれにしても、初心者からちょっと経験を積んだくらいの冒険者であれば、強すぎず弱すぎない手ごたえを感じる程のちょうどいいモンスターがポップする筈であった。
 リオン一行の三人パーティも、それを想定して草むらからの奇襲や水たまりに擬態するモンスターたちを警戒していたのだが、出会ったのはもう少し難易度の高いゴースト系のバグプロトコル、ネームレスベイビーズ。
 恐怖心などを利用した混乱や恐慌状態を引き起こし、ガス状の身体は物理攻撃をほとんど通さないという。
 当然、本来はこんな序盤のフィールドに登場するようなモンスターではなく、対策などしているはずもないリオン一行は苦戦を強いられていた。
 だが、そんな駆け出し冒険者たちを見過ごせない、正義のヒーローたちの姿が!
「オーッホッホッホ!!」
「うわぁ、びっくりしたぁ! 急に笑い出さないでぇ。さっきまで穏やかに話してたじゃないの、もぉ」
「いや、そういうスイッチがあるんだろ、たぶん」
 駆け出しの冒険者の元へ駆けつけた猟兵たち、このシナリオでは役割的にはヒーローには違いないはずだ。
 はずなのだが、なんというか、こう、あれだ。君たち、ガラ悪く見えるぞ。
「バグを排除し、一般プレイヤーの皆様方をお守りするのもドラゴンプロトコルの使命ですわー!!」
 高笑いとともにびしっと、お高貴なポーズで決めるは、ミノア・ラビリンスドラゴン(ポンコツ素寒貧ドラゴン令嬢・f41838)。
 豪奢なドレス、それに見合う気品、女性として過不足ない、出るとこは出ていて引っ込むとこは折れそうなほど細い理想的なプロポーションを描く曲線。なんか豪華なお嬢様には不釣り合いな竜の翼と角は、彼女が古の竜種である事を伺わせる。
 それもそのはず、彼女はこの世界における無数のダンジョンの一つを任されたダンジョンのボスの一人なのだ。
 なぜそんな存在が猟兵になって初心者クエに出向いているかと聞かれれば、こと戦闘以外ではその強力なスペックを持て余すポン……奥ゆかしさ故にダンジョン運営費用がカツカツであり、出稼ぎ不可避だからであった。
「ゲームっていう話だから他の世界へ行くよりは少しは馴染みが有るんじゃないかって思って受けてみたけれど……結局物騒なのねここもぉ!?」
 クールな顔つきだがその目をやや涙目にしつつデュエルカードを手札枚数分用意するのは麻弓・夕舞(逢魔時の狙撃手・f40004)。
 勇ましくも華やかな和風の軍装に寄せたカードデュエル用のコスチュームに身を包む夕舞は、見た目こそクールな女性敵幹部めいた魅力を持っているものの、本人は命のかかった戦いとは無縁のアスリートアース出身のカードデュエリスト。
 猟兵として戦場に立つのはどうにも慣れないが、ゲームの中の世界というのは興味深かった。
 まあ猟兵になったし、死にはせんやろ。と自分をごまかすようにして身を投じたものの、バーチャルリアリティのクオリティは、彼女の想定を大きく上回り、風や茂みの騒ぐ音や臭いまで現実と変わらないように感じる。
 そして、現実を変わらないようなクオリティで悪霊の赤ん坊の集団などを目にしてしまったものだから、デュエルに臨む以外はふつうのお人好しの少女は、ちょっと帰りたくなっていた。
「統制機構な、本すら駄目か。
 このまま黙って見守る……って訳にも行かねぇよな。
 しゃーない! 雑魚処理手伝ってやりますか」
 最後の一人、ギルフォード・アドレウス(|終末機巧《エンド・オブ・マキナ》・f41395)は、見るからに危険な雰囲気を纏う男だが、独り言を漏らして気に食わないように鼻を鳴らす顔つきは、かつて多くの死線を潜り抜けた巨悪に立ち向かう輝きを持っていた。
 ギルフォードは善人とは言い難い。かつては多くの戦いの果てに平和を取り戻した世界に馴染めず、戦いを求めてはケルベロスディバイドにやってきて特務機関に拘束される程度には暴れすぎた男であった。
 強者が欲しい。戦っていなければ、自分が自分でなくなってしまうような、喪失感が恐ろしいのだろうか。虚無をつかむような先の見えない日々は、世の中を斜めに見るように歪ませ、孤独に苛まれながらも皮肉交じりに誰かに力を貸しにやって来る。
 猟兵としてだろうか。いいや、戦いの果てに答えが欲しいのかもしれない。
 とりあえず今は、両脇にいる女性二人を強者と認識し続けなければ、本来の調子を出せそうにない。
 悪ぶりながらも割と人はいい男ギルフォード。女性がちょっと苦手である。
「まずは、皆さんの退避ですわね。そぉれ、トラップカード発動!」
「トラップカードですって?」
 ひとまず自己紹介に時間を食ったのを取り戻すかのように、それぞれの動きは迅速であった。
 ミノスはその手のうちに忍ばせたトラップカードを、リオン達と悪霊たちとを分断するように投げつけた。
 トラップカードというワードに決闘者である夕舞は思わず反応してしまったが、その使い方はなんとも強引で、敵の行動に誘発とかではなく、ダンジョントラップを組み込んだプログラムを無理やりその場に設置するというダンジョンボスのドラゴンプロトコルらしいアイテムであった。
 とりあえず足止めできればいいと、適当に棚からつかんで持ってきたかのようなトラップの種類は様々。でかい花瓶がどこからともなく落っこちてくるものから、ベアトラップ、吸引魔法で吸い寄せるものから、謎の三角の背をした木馬など。
 それ本当に効果あるのかと疑問を浮かべそうなものだったが、数が数なだけに分断には成功したようだ。
「ごきげんよう皆様方!!
 どうやらこのクエスト、バグにより設定外のモンスターが出現しているようですわ!!
 緊急措置として、ドラゴンプロトコルたるこのわたくしがお手伝いしてさしあげましてよー!!」
 挨拶は実際大事。とばかりに大声と、相手を不快にさせない優雅な笑みを心がけて名乗りを上げるが、ただでさえ想定外の事態、おまけにドラゴンプロトコルといえばダンジョンのボスキャラである。どうしてこんなところに俺くん、もといボスキャラが? 状態に陥ってしまう。
「あれ大丈夫なのかな……」
 ちょっとだけ話がこじれそうな予感に夕舞はちらとミノアに目を配るが、
「なあ決闘者の姉ちゃんよ。ゲームには明るくねぇんだが、ゴーストってのは光とか炎とかが効くかな?」
 ギルフォードに話を振られ、夕舞はちょっと慌てたが、それは答えるまでもない問いのように思えた。
「ゲームなら、バランスをとるために、何かが優れていたら、他を削るものじゃない?」
「なるほどな。よくできてるぜ」
 何か合点がいったように皮肉気に鼻を鳴らすと、ギルフォードは手にした黒剣、機鍵を左手に持ち替え、空いた右手を持ち上げる。
「そんじゃま、手を貸してくんな、日輪」
 機鍵が変形し、その形状を変えて光を漏らすような姿に変わるころ、ギルフォードの右腕を機械の装甲が覆う。
 【日輪招来】によって呼び出された機甲。それは炎を纏うダモクレスを彷彿とさせる異形であった。
 ごう、と燃える片腕と光を放つ剣を手に、ギルフォードは一行を通り過ぎ、亡者の群れへと行く。
 そのすれ違いざま、
「よう、お嬢、そろそろトラップのタネが切れるぜ。あーそれと、リオンだっけか?
 巻き込まれない様に離れとけよ?」
 にやりとその口の端を暴力的に歪め、右腕で戦場を薙ぐ。
 吐き出された炎は、敵情を火で包み、攻撃のいとまを与えない。
 討ち漏らしが出れば、左手の光を放つ機鍵から光線や刃で切りつける。
 それで十分かに思えたが、
「強い。でも、正面ばかりじゃないはず……本当に数が多い……!
 私のカードの効果だと複数相手には……。
 ……そういえば、UCとして使うとカードと効果が微妙に違うのよね。この場に適しているのは──」
 カードデュエリストは、常に戦況を見る者。最近のカードは効果が多すぎる上にちょっと特殊な文脈で読み解くのにもコツがいる。それらを素早く判断、記憶し、適切に扱えてこその決闘者。
 手札さえそろえば、デュエリストは最強の軍略家のはずだ。むしろ、この状況でどうして律儀にカードゲームのルールを守っているのか。
 それは矜持であるからだ。
 ルールを守って楽しくバトル。
 しかし実践ともなれば、多少のアレンジはスパイスかもね、だ。
「──マジックカード発動!『Aイズナトリガー』!」
 彼女のデッキテーマ「イズナバレット」に収録されている【設置型マジック「Aイズナトリガー」】は、本来のフレーバーであれば『1ターンに一度、手札か場の「イズナバレット」モンスター一体を破壊し、デッキよりカードを一枚ドローできる。』というものだが、ユーベルコードと化している今は、そのフレーバーを残しつつ、攻撃しながら味方を回復するというものになっている。
 しかも攻撃は別のユーベルコードが使えるというのだから、エラッタ必死のやばさである。
「射出するのはグレネ……だと火力が高すぎる!?
 耐性を撃ち抜くならこっち!『ピアースイズナバレット』!」
 二枚のイズナモンスター達による銃撃が、耐性を無視した銃弾により、亡霊たちを打ち破る。
 これでしばらくは、リオン達や自分の周りにモンスターは寄せ付けない筈だ。
 そしてそのタイミングでようやく、ミノアがここへやってきた経緯や助っ人であることを信じてもらえたらしい。
「流石は仕様外のバグ、即席の呪縛で止められるのは数秒が限度かしら?」
「お嬢様、もうとっくにトラップ壊されちゃってる!」
「あら……ならばもう、おねむの時間ですわね! よろしくてよ!! わたくしが子守歌を歌ってさしあげますわ!!」
 あ、これは攻撃のタイミングがくるな。と夕舞は察知する。さすが決闘者はタイミングを見る。
 というよりかは、ボスユニットだけあって、ミノアのモーションは、なんというか、くる……! というスゴ味があったのだ。
「貴方達もこっち来なさい、回復効果も付いてるからこれ!」
 味方を巻き込んではいけない、ととっさに判断した夕舞は、リオン達を自身のユーベルコードの範囲内に誘導。
 そして、そのすぐ後に、
「お眠りになりなさぁぁぁぁぁい!!!」
 【竜の轟咆】その人知を超えた咆哮と、それに乗せたドラゴンブレスは、空気の震えが視覚化するほどにすさまじい。
 生半可なレベルの者が近くに居れば、思わずすくみ上ってしまうほどであろう。
 生半可なもの、三人ほどいますが。
 すかさず、夕舞のイズナバレットの紋章効果が浮き上がり、状態異常を回復して回るが、ひょっとしたらその効果は、下手に悪霊にまかれてしまうよりも記憶にこびりついたかもしれない。
「……悪いわね、私もまだ(猟兵に)慣れてないの」
 なんだか、えらいパワフルな人たちと一緒に来てしまった。と、ちょっとだけ帰りたい気分が増した夕舞であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
「ザナドゥのサイバースペースより、平和、かな」
周囲観察

「ゴメン、出遅れ」
「ドーモ、アオ・テンシ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
「スペランサは、あの子達を、守って」
自分の身長ほどある大剣(偽神兵器)に火炎属性乗せ敵に飛び込み弾き飛ばす
巨神スペランサが偽神兵器に乗せる属性は巨神任せ
敵の攻撃は素の能力値で回避
敵を殲滅するまで戦闘続行

「スペランサは、ボクよりヒトに、優しいから。安心して守られれば、いい。ベイビー・サブミッション」
「バグでも。ただのプロトコルが、ボク達猟兵に、勝てると思うな」

「ウルフをやり過ごしたら、ライオン。だから。ミッション終了まで、つきあう。チャメシ・インシデント」


結城・有栖
…ゲームの最初の敵って、スライムとかじゃないんです?
コレもバグの影響ってことですか。

「まあ、ドラゴンが出てくるよりはマシじゃないカナ。
ともあれ、初心者さんを助けに行こうヨ」

了解です、オオカミさん。

まずはUCで魔法の腕輪を創造して装備。
魔法の効果で武装に込める【属性攻撃】を強化です。

敵の注意をひくように【軽業】で動き回り、雷を付与した想像暗器(クナイ)を【念動力】飛ばして攻撃。
雷を拡散させ、周囲の敵も巻き込んでマヒさせます。
後、初心者さんを巻き込まないように注意です。

こっちに攻撃が来たら【野生の勘で見切り】、軽業で回避。
【カウンター】で風を付与した咎断ちの大鉈を振るって【なぎ払い】で反撃です。



 冒険を始めたばかりの初心者が主に狩場にしている平原エリアは、その奥まったところに背の高い茂みに覆われた区画がある。
 平原よりもちょっとだけ強い敵、そして奇襲の危険性があるが、ここでしか自生しない植物や、ここにしか生息していない生物などもいるため、ここを利用するクエストや冒険者は数多い。
 緑の匂いと、やや色あせた葦のような植物の風に揺れる音は、耳に心地よい。
 ゲーム的に危険なモンスターが現れるとはいえ、この場所に命を脅かすような危険の気配はほとんど感じられなかった。
 すくなくとも、ベティ・チェン(|迷子の犬ッコロ《ホームレスニンジャ》・f36698)にとっては、プログラムの中とはいえ、久しく安息に近い気配であった。
「ザナドゥのサイバースペースより、平和、かな」
 思わずぼんやりしてしまいたくなる。そんな欲求を振り払わんとするのもつかの間、不意に鋭い勘が働いて、飢えた獣めいた気配を感じ取り、安息の気分はあっという間に消し飛んで、警戒態勢に映る。
 背の高い茂みの向こうは伺えないが、初心者冒険者のリオン達と合流する前に、恐ろしい相手と出会ってしまうのは、幸か不幸か……。
 静かに、草むらのかき分ける音すら鳴らさぬよう、距離を測り、一気に詰められると判断すれば、素早く身を低く滑るように茂みをかき分ける。
「──!」
 耳鳴りの様に張り詰めた空気が交わる。
 今まさに刃を抜き放たんというところで、動きを止めたのは、相手もまた自分と同じ目的でこの世界にやってきて、初心者たちを助けに来たはずの……要するにまぁ、猟兵だと気づいたのだ。
 草木と変わらぬ、或は、殺気すらも感じさせぬであろう、殺しに迷いのない昆虫のような視線を一度だけ交差させたのみで、ぺこりとお互いにお辞儀をする。
 挨拶は実際大事であるためだ。
「お味方でしたか。失礼しました」
「こっちが先に仕掛けた。危うく、キリステ・ゴーメン。ゴーメンナサイ」
 もう一人の猟兵、結城・有栖(狼の旅人・f34711)は、表情がいまいち読めないが、その物腰は柔らかい。
 行き違いからちょっぴりうなだれるベティに対し、有栖はまったく気にした様子もなく、薄い表情からはまったく伺い知れないが、ゴーメン、強麺……おうどん。などと、結構関係のないことを考えていたりした。
 軽いトラブルを起こしかけたが、目的は同じ。パッといってサッとぶちかますスタイルが似ている二人は、手分けして件の一行を探すことに。
 そしてそれは、すぐに見つかった。
 今度こそ見紛うことはない。
 おどろおどろしいという言葉がよく似合うような、周囲の温度が数度下がったような、湿った冷たい気配が、この場にあまりにも似合わず、そして唐突に表れたものだから、二人の反応も素早かった。
 周囲のモンスターも、それを恐れてでもいるかのように、気配のする一帯に近づこうとしないようだ。
「……ゲームの最初の敵って、スライムとかじゃないんです?
 コレもバグの影響ってことですか」
『まあ、ドラゴンが出てくるよりはマシじゃないカナ。
 ともあれ、初心者さんを助けに行こうヨ』
「了解です、オオカミさん」
 冷たく重たい怨念の気配を肌身に感じる有栖は、冒険の序盤に感じるようなものではないと思いつつ、内なるオウガに語り掛ける。
 オウガブラッドである彼女の身の内には、潜在的な狂気とも言うべきオウガが住まう。が、有栖の身の内に出現したオウガことオオカミさんは、不思議と有栖とよく似た気性のちょっと緩い良き相談相手になってくれる。
 ちなみに、ドラゴンはもう出ていたりする。
「先に仕掛ける。ゴメンナスッテ」
 先行するベティが、身の丈ほどもある大剣を背に担ぎつつ先制攻撃を仕掛ける。
 痩せた子供にも間違われるベティであったが、人狼の筋力に飽かして担ぎ上げるのは大剣の形状をとる偽神兵器。
 オブリビオンストームをエネルギーとして、荒ぶる神をも食らう兵器として作られたという。
 つまりはそれ自身が霊的物質にも対抗しうる可能性を持っているが、ベティはこれにさらに属性を付与する。
 自身よりもより強大な敵を食うために、脅威となる、その特性を引き出すべく【偽神兵器解放】により、炎を纏ったそれは、リオン一行を取り囲むネームレスベイビーズの一陣を薙ぎ払う。
 剣ごと飛び込んだ奇襲攻撃。しかし、挨拶無しの攻撃は失礼にあたるのではないのか。いや、奇襲に限っては一度は免除されるらしい。
 地に突き立てた炎の大剣に乗っかる形で、ベティは周囲を睥睨する。
「ドーモ、アオ・テンシ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
 揺らめく炎、黒い刀身に影が立ち上り、それは影ではなく、いつの間にかそこにいて、身を起こすように立ち上がってベティと同じように作られた偽神兵器の大剣を構える巨人。いや、それは巨神スペランサ。
 旅の中で友誼を結び、ベティとともに戦う意志あるキャバリアであるようだった。
「スペランサは、あの子達を、守って」
 目元に光を湛えベティと意思を交わしたスペランサは、リオン一行を守るべく剣を構えて立ちはだかる。
 いきなり5メートルもの鉄巨人が出現したことでリオン達は圧倒されてしまうが、
「スペランサは、ボクよりヒトに、優しいから。安心して守られれば、いい。ベイビー・サブミッション」
 炎を吐く剣を振り回し、戦場を駆けるベティは巨神を信用しているのか、ひとまずは自由に戦場を駆けまわるつもりのようだった。
 リオン一行としては、ひとまず現状で悪霊たちにかなうものではないので、スペランサの陰に隠れるしかない。
「キャバリア。持ち込むべきでしたかね」
『あれだって良し悪しだヨ。だから、こっちはフォローに回ろうネ』
 唐突なキャバリアの登場にびっくりする側の一人でもあった有栖だったが、それはそれで集団戦に向いているし、同時に弱点もあることを看破する。
 彼女もまたキャバリアの利点と難点をある程度は理解している。
 ベティたちの戦闘スタイルは、実に対多数に向いている。しかしながら、いささか小回りには欠けるように見える。
 キャバリアの装甲は金城鉄壁という他にないが、巨体はあの悪霊のガス状の身体を完璧に止められるだろうか。
 ゆえに、有栖の手立ては決まった。
「ベティさんには、ベティさんの役割を担ってもらいましょう。こちらはこれを」
 【想像具現・幻想魔導具】によって作り出されたのは、魔法の腕輪。
 想像を形にする魔法を使う有栖は、この場であえて武器ではなく魔法効果を高める腕輪を作り出した。
 相手は物理攻撃が通りにくい。ならば、普段通りに戦いつつも、それが通用するようにするまでである。
 腕輪をはめ、身を翻すと、有栖はあえて派手に飛び込みつつ想像暗器のクナイを続けざまに空中で投げつける。
 想像から作られたクナイは、彼女の念動力によって操作され、ネームレスベイビーズの身体を貫くとともに雷がそのガス状の身体を焼いていく。
 雷の電流を浴びてスタン状態に陥った悪霊たちを、ベティが、巨神がその大きな剣で薙ぎ払う。
「バグでも。ただのプロトコルが、ボク達猟兵に、勝てると思うな」
 そうしてある程度の数を減らしたところで、その鼻先にすんと気配を感じる。
 敵の数はだいぶ減らした。
 しかしながら、聞いていたように、胸騒ぎのようなものが収まらない。
「ウルフをやり過ごしたら、ライオン。だから。ミッション終了まで、つきあう。チャメシ・インシデント」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
秩序への反逆も一興。
さて、ゲーム世界なのだから普段と違うスタイルで愉しむとしよう。
黒いシスター服の黒教で良いかな。手持ちは変わらず刺剣だが。

前衛を詩乃に任せて後衛から支援しよう。こういうゲームには特にデバフが有効だったりするものだ。
赤子の霊はUCで眠らせる。眠ってしまえば暗いのも怖いのも失せよう。
今後の為にもなるだろうから初心者チームの経験となるよう後の攻撃を彼らに任せようか。


大町・詩乃
【神社猫】

本好きな方が好きな作品全てを禁書扱いされたら心底怒りますよねえ…。
統制機構って「はいコンピュータ!幸福は義務です!(パラ●イア)」な世界なのかなあ~?

ともあれチャイナドレス姿でネフラさんと一緒に行きますよ

「皆さん、大丈夫ですか?
 助太刀させて頂きますね~」
と安心させるように笑顔で参戦。

今の私は僧侶から「転職」した武闘家。
故にゴーストにも強いのです!
と《神性解放》発動して前衛に立ち、ネフラさんと連携します。
オーラ防御も纏う。

功夫・ダンス・見切りによる華麗なカンフーアクションで相手の攻撃を躱し、UC効果&除霊属性攻撃・浄化を籠めての発勁(功夫・衝撃波・貫通攻撃)を撃ち込んで倒しますよ~。



 文明の進歩を厭い、平定安寧、そして統率を求める世界とはいかなるものだろうか。
 統制機構という、言うなればGGOの世界を生み出すきっかけともなった世界に、猟兵たちはアクセスすることができないという。
 異なる世界を行き来する猟兵にも、行かれぬ場所があるということが実証された形であるが、それであるならば、『ここ』と『そこ』の違いは何だろう。
 心地よい小鳥の囀り。
 草木を通り抜け、緑の匂いを運ぶ風の、頬を撫でる感触。
 踏みしめる、やや泥濘を感じるような柔らかな土の感触。
 口を開ければそこに青々とした味わいまでも感じてしまうほどの、それはゲームの世界と呼ばれているらしい。
 ここが生まれた経緯は知らぬ。しかしながら、締め付けの厳しい閉塞的な世界が、その反動として生み出し、夢見た自由の証が形となったものであるならば、このゴッドゲームオンラインという物語こそが、反逆の狼煙とでもいえまいか。
 ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は、どこかの世界にも似た青々とした背の高い茂みの中を歩く。
 実在するように感じる原野は、誰が作り給うたのやら。
 傍らを歩く神である彼女なら、何か感じるものがあるのだろうか。
「本好きな方が好きな作品全てを禁書扱いされたら心底怒りますよねえ……。
 統制機構って「はいコンピュータ! 幸福は義務です!(パラ●イア)」な世界なのかなあ~?」
 件のパーティが苦戦を強いられているという現場に共に行くこととなった大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)は、考え込むネフラのことを知ってか知らずか、どこかぽやんとしていた。
 危機意識が欠けているのか、それとも単に大物なのか。
 そんな詩乃の本日のお召し物は、大きくスリットの入ったチャイナドレスであった。
 春夏の草原を思い起こさせる中に花々が咲き乱れる刺繡入りのチャイナに、長い黒髪はまとめ上げ、手には何も持たない、いわゆるカンフースタイル。
 何にせよ……頼もしいものである。
 そんなことを不敵な笑みに乗せて思い浮かべるネフラもまた、新たな世界とあって、張り切って黒教のシスターを装った服装での参戦である。
 都会の町中をそんな恰好で出歩けば、ちょっとしたコンセプトカフェの店員さんかと疑われそうなものだが、ここはゲームの世界。どう見ても、バトルコスチュームに他ならない。他ならない、はずだ。
「む、感じませんか!」
「言われてみれば、嫌な感じがするな。この空気に馴染まない気配だ」
 のどかな草原には似つかわしくない、おどろおどろしい憎悪と苦痛を訴えかけるような怨念の気配。
 そんなものがプログラムとして成立しているというのが驚きだが、もはやここがゲームの世界かどうかは二人には関係なかった。
 困っている者たちがそこにいる。
 戦いの場がそこにある。
 駆け出す猟兵二人。目的は同じだが、求めるものはきっと異なる。
 先行するのは、詩乃。そのチャイナの深いスリットから白く透き通るようなながーいおみ足がはだけるのも構わず、大股で駆け、敵である赤ん坊の怨霊ネームレスベイビーズを視野に収めると、低く跳躍し一瞬にして間合いを詰める。
 低く跳び、膝と腰をたたむようにして身を低くしつつ懐に潜り込んでからやることは、とてもシンプル。
 全身のばねを使って地を蹴り、救い上げるように掌でかち上げる掌打であった。
 ガス状の身体を持つゴーストを相手に、武術が何の効力を発揮するだろう……否。
「今の私は僧侶から「転職」した武闘家。
 故にゴーストにも強いのです!」
 力強くのたまう詩乃であったが、その実は彼女のユーベルコード【神性開放】によるところが大きい。
 神であるその片鱗、若草色のオーラを纏う攻撃は、物理であろうともその神性をダイレクトに叩き込む。
 その剛力、胆力、功夫。あまりにも決まりすぎていた。
 思わず悦に浸ってしまうほどに。
 だが、肝心なのは、リオン一行を守ること。
「皆さん、大丈夫ですか?
 助太刀させて頂きますね~」
 人懐っこいほんわかした笑みをリオン一行に向けるが、今しがた地面に穴をあける勢いで鋭く踏み込んだ女神の姿には、さしもの冒険者もちょっと引いていた。
「ふむ……やはり、物理は通りが悪いか……」
 勢い勇んで飛び込んだ詩乃にやや遅れたネフラも、シスターの装いで普段より着慣れない衣装など全く感じさせず、愛用の刺剣で一息に数体のネームレスベイビーズを貫いたのだが、手ごたえは浅かった。
 有無を言わせぬスピードで刺せば、有無を言わせず黙らせることができるかと思っていたが、ちょっと玄人結果が見合わないように感じる。
 ここは相性の面で有利な詩乃に全英を任せて、自分は補助に回ったほうが効率的かもしれない。
「生物が恐ろしいか、羨ましいか、赤子たち。ならば、すべて忘れ、眠っていけ。目が醒める頃にはすべて終わらせよう」
 ネフラの持つ凝血結晶。それは、これまでの戦いで数多の強敵と切り結び、啜ってきた血液が凝り固まった戦いの証。
 激しい戦いの記憶と、さらなる戦いを求める呪いのような願望が、聖片を生じさせる。強い思い、願いの込められたものは、それだけ強力な触媒となる。
 【聖晶血界】は、それを用いた結界の一種であった。
 戦いは無念であったろうか、悲願であったろうか。その記憶を洗い流していくかのように、その輝きは亡霊たちを眠りに誘う。
 ネームレスベイビーズの攻撃に及ぶ暇もなく。
「む~ん……哈ァッ!」
 動きの止まった赤子たち。ある意味で安らかな眠りについたところだったが、彼らはバグプロトコル。猟兵にとっては敵であるオブリビオンなのである。そのままで済ませるわけにはいかない。
 舞うような流麗な動きからの鋭い突き、双掌打、下半身からうねるように運動エネルギーを伝達し加速し体重を乗せて肩から背中にかけて全身でぶつかるように繰り出す靠法とも呼ばれる体当たり。
 仮にもその姿を受肉に留めているとはいえ、神がやってそれが霊験あらたかでない筈がない。
 八極門は爆発と言わんばかりに、悪霊たちを爆散させていくその有様に、リオン一行はあんぐりと口を開けていたが、
「何をボーっとしているのだ。今後のためだ、経験値を稼いでおけ」
 ネフラは、冒険を志す者たちにも容赦はしない。
 とどめを譲るように敢えてぎりぎりまで眠らせた赤子たちを弱らせてから、リオン達をけしかけるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
わわ、これがゲームの中なんだ
不思議な感じ、繋がってないしコードも見えない、ミフェットもコードの中にいるからかな?

フィールドに投げ出されたら、おっかなびっくり手足をぴこぴこ動かして、地面を蹴って、木に触ったり、お花の匂いを嗅いでみたり
世界の感じも確かめて、首を傾げてひとりごち

知らない世界にひとりの冒険だから、ちょっとドキドキしながらリリィの案内を思い出して活動開始!

急いで戦いのフィールドまで移動して、他の猟兵さんたちや初心者チームに合流するね
ミフェットは戦いは苦手だからみんなを応援しよう
はじめて戦うなら、きっと緊張してるし怖いよね
でも、大事なもののために戦ってるなら、ミフェットたちと同じだよね!


ルナ・キャロット
初心者ちゃん!可愛いですね。先輩面して尊敬されるチャンスです!
…じゃなくてちゃんと助けてゲームを楽しんで貰えるようにしますよ!神ゲーをクソゲーにするバグは許しません!

キラキラエフェクト斬撃と一緒に颯爽と登場します!
もう大丈夫ですよ!……とか。言ってみたいですね。
寝てたらウサギパンチで起こします
まだ対策がなさそうなら武器にエンチャントできる聖水とかもあげちゃいます。これで攻撃が通るはずです!

敵が眠りにつく動作に入るのを見た瞬間に斬撃を飛ばして行動をキャンセルさせます。
動きが見えづらいけどよく見ればわかります。かっこよくやりこみパワーを見せますよ!

……もし寝ちゃってもきっと起こしてもらえますしね。



 ざわざわと、草木が風を受けて擦れる音が聞こえてくる。
 むわっとするくらいに緑の匂いのする風と、小鳥の囀る声。
 浴びる日航の眩しさに、思わず目を細めてしまうくらいに、この場所には違和感というものがなかった。
「わわ、これがゲームの世界なんだ」
 ミフェット・マザーグース(造り物の歌声・f09867)は、ゴッドゲームオンラインの世界にやって来ると、目をぱちくりとして周囲、主に自分の体の周りを確かめる。
「不思議な感じ。繋がってないしコードも見えない、ミフェットもコードの中にいるからかな?」
 たとえばサイバーザナドゥのサイバースペースのように、プログラムの中に人格マトリクスを形成しているような、どこか閉塞感のようなものは感じない。
 まして、自分の体から有線コードが伸びていたり、何かしらの媒体からアクセスしている、されているような感覚もないし、空間上にプロトコルを形成するデータを見ることもかなわない。
 ここが本当にゲームの中かどうかが怪しくなるほどに、ここは自由で世界の色彩を感じる。
 ミフェットの本性はブラックタール。実験兵器である背景があるが、そこに芽生えた自意識は温厚で、可能ならば争いを避けたい、そして人に憧れる。
 この世界に来てまず最初に自分の周りを見たのは、自分がこの世界でも少女に近い擬態を保てているかというのを確認するのに近かった。
 手足もある。おめめもぱっちり。ぴこぴこ動かして、おっかなびっくり地面をてしてしと踏みしめたりしてみる。
 そうしてようやく、春か夏のような温かい日差しと、それに彩られる世界に目を向けられる。
 ここは背の高い草木の茂るちょっと見通しの悪い草原地帯。
 葦にも似た草がミフェットの胸のあたりまで伸びていて、低木や腰を下ろせそうな岩も隠れてしまうため、注意して歩かないと、うっかりぶつかってしまいかねない。
 緑の匂いや日差しのぬくもりは現実と見紛うほどだが、言い知れぬ違和感もなくもない。
 そこに小首をかしげつつも、初めての世界に一人足を踏み入れるのはドキドキしてしまう。
 はっとそこで思い出す。のんびり観光気分でいる場合ではない。
 こうしている間にも、初心者のパーティは追い詰められているかもしれない。
「急いで合流しないと!」
 いそげーと、大股で草木をかき分けてずんずんと進む。
 どこをどう進めば、かのパーティの場所にたどり着けるのか、ミフェットには見当もつかないが、少し奥まった場所に進むにつれ徐々に言い知れぬ寒気のようなものを感じ始める。
 生物の気配が途端に鳴りを潜める異質な空気。嫌な気配。たぶん、こっちに違いない。確信めいたものが、彼女を突き動かす。
 そして、その嫌な気配に引き寄せられるように草原をぴょこぴょこと進む人影は、もう一つあった。
「誰だろう、うさぎさん?」
 いや、あんな体格の大きなウサギはそうそうお目にかかれない。大きいというか、ミフェットと変わらないようなサイズだし、そのウサギは後ろ足で人の様に直立し、ごってごてのキラカワ装備で武装したまさにウサギ戦士といった風体だ。
 彼女の名はルナ・キャロット(†ムーンライトソードマン†・f41791)。ウサギの獣人スキンによって大幅に見た目を弄るに始まり、全身を重課金装備か、高レアリティで固める廃人勢の一角であった。
 このゲームのいわゆる見た目装備と言われるつけ耳やつけ尻尾、足を逆関節に見せたりもふもふの獣に変えたりするものは、トリリオン交換による課金装備である。
 プレイヤーネーム・ルナは、正確に言えばルナの中の人は、結構重度なケモナーであり、自らのアバターを我が子のように可愛がり、高難度クエの報酬をほぼすべてこういった見た目装備につぎ込んできた。
 もちろん、性能にだってこだわる。強いしかっこいいのは正義だし、強力な武器防具はお金稼ぎに不可欠だ。
 その道のりは険しく、特に最初の内は、逆関節の両足に慣れるまで苦労した。
 四足獣の後ろ足というものは、関節が逆になっていると思われがちだが、構造的に人と大きく異なるわけではなく、人と比べて大腿骨が短く、足の甲が長くなっている。
 つまり、膝が逆になっているように見えているのは、実は足首の部分なのである。
 その感覚に慣れるまでは時間を要したものの、慣れればその跳躍力も武器になった。
 課金スキンは、そういった意味で一長一短の特性を身に着けられるといってもいい。
 この草原の茂みエリアも、今はもう懐かしい。
 背の高い茂みからは、ちょうど隠れるくらいの犬人系モンスターのデミコボルドが襲い掛かってくる、初心者びっくりポイントの高いところとして知られるが、彼らもただの雑魚モンスターとして駆逐していく中で付き合っていくうち、可愛くも見えたものだ。
 なんと動物の骨をあげると、しばらく敵対状態が解除されたりもする面白い仕様もあったりして、一時は保護活動をする変わり者も居たほどだった。
 その気持ちはよく分かったが……だがすまねぇ。ドロップ狙いでいっぱい倒しちゃったんだ。
 そんな思い出に浸る気持ちもそこそこに、ルナはこの場所の違和感にも気づいていた。
 結構な頻度で雑魚MOBに奇襲されるエリアだというのに、今はそれが鳴りを潜め、墓場のような薄ら寒い気配がほかのモンスターを遠ざけている。
 ここに入り浸った思い出があるからこそ、変化の根源を見つけるのも早かった。
「あのあの! 目的地は一緒だと思うんだ」
「あなた様は……そう、今はご同輩というやつですね。参りましょう」
 ミフェットとも合流。あとは初心者パーティを救いに行くだけだ。
 どうでもいいが、普段はソロプレイがメインのルナは、他の猟兵とチームを組むようなことはほとんどなかった。
 キャラロールは大丈夫だったろうか。スライムっぽいスキンは課金だろうか。ぷにぷにでかわいい。
 などといったコミュニケーション苦手部のケが出ないように、目指すべきクールな姫騎士として振る舞う。
 よし、ちゃんとうまいことやれている。この調子で、初心者パーティも颯爽と助けに入ろう。
「初心者ちゃん! 可愛いですね。先輩面して尊敬されるチャンスです!」
「? そうだね。きっと、みんな褒めてくれるよ!」
「タッハァ!!? ……じゃなくて、ちゃんと助けてゲームを楽しんで貰えるようにしますよ! 神ゲーをクソゲーにするバグは許しません!」
 うっかり地が言葉に出ていたのを思わずごまかしてしまったが、割と純粋なミフェットはいい様に捉えてくれたらしい。
 恥ずかしさを振り払うように、ルナは先行して、戦いの先陣を切る。
 戦いはまさに、多勢に無勢。ゴースト系のネームレスベイビーズは数も多く、そういった特殊なタイプのモンスターを相手取るにはまだまだな初心者3人組では、ほぼ歯が立たない状態であった。
 そこへ、
「まずは、分断! 眩しかったら、ごめんな、さい!」
 大柄なグラファイトブレードの大剣を振りかぶり、光り輝くキラキラエフェクトの乗った斬撃を飛ばすアーツ【クレセント・スラッシャー】を放つと、三日月状の衝撃波が、リオン達冒険者と、亡霊集団とを分かつ。
 すかさずその間に入り、大剣をしまい、メイン武装のツインブレードを両手に仁王立ち。遅れてやってくる送り風がぶわっと演出の様にルナの外套や毛皮をあおる。
「もう大丈夫ですよ!」
 最高に決まった。誰もが一度は憧れるシチュエーションに、思わず悦に浸ってしまう。
 心なしか、いつもよりもテンションや調子がいい様に感じてしまう。
 気のせいか、自分を後押しするかのように、テーマソングまで聞こえてくる始末だ。
 実際問題、戦場には戦う者を応援する歌が聞こえていた。
 【嵐に挑んだ騎士の歌】。それを歌い上げて、傷つき気落ちするリオン達を励まし、戦う力を持ったルナの調子を上げていたのは、ミフェットであった。
「みんな、大丈夫! ウサギさんが助けに来てくれたよ! もう少しだけ、頑張ろう」
 髪の毛に擬態した体を長い腕の様に伸ばし、一行を守るようにしながら、ミフェットは歌を続ける。
 その気配り精神たるや、ボッ、ソロプレイのルナも見習いたい部分ではあったものの、そんな咄嗟には出てこない。
 だが、このゲームに傾倒し続けた自分だからこそできることがあるはずだ。
 高貴なる者は、高貴な振る舞いを行う義務がある。ノブレスオブリージュの精神は、ロールプレイにも実際大事である。
「皆さん、ゴースト系の対策がまだおありでないなら、武器にエンチャントできる聖水がありますよ」
「い、いいんですか? けっこう、お高いものなんじゃ……」
「いいんですよ。正直、レアドロの外れ枠で腐るほど……こういう時にこそ、使うべきなのですよ!」
「え、レアドロ?」
「さあさ、これで攻撃が通る筈です! 皆さん、もうひと踏ん張りですよー! 歌も盛り上げてー!」
「はぁい!」
 所々で会話苦手部が顔を出してうっかりしそうになるものの、これで対策はばっちりとばかり、ルナは戦場へ身を投じる。
 決して誤魔化す為ではないぞ。
 思わぬところでぼろが出そうになるルナではあったが、こと戦闘に関して言えば、多少数が多かろうとも鼻歌交じりで相手にできるほど、つまりはそれほど相手にしてきたものであった。
 状態異常をばらまくタイプのゴースト。ネームレスベイビーズ。しかし、その行動にはちゃんと予備動作があり、それが来る前に叩いてしまえば、どぎつい状態異常だって怖くない。
 一挙に複数体を切り裂いて見せれば、思わず気持ちよくなってしまう。
「やりこみ見せたー」
 思わず口をついて呟いてしまったのを、ミフェットもにこにこして見ていたらしい。
 やめろー、と恥ずかしくなる反面、今の自分、思いっきりかっこいい姫騎士をやれているという優越感も同時にあるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕凪・悠那
タイトルで神ゲー名乗るだけあって普通に面白そうなんだけど……死のゲームね……
まあ元々は安全なゲームだったみたいだし、開発者もいい迷惑なのかなぁ
その辺は追々調べるとして、初心者救済行ってみますか
ボクらも初心者みたいなものだけどね

物理耐性持ちのゴーストタイプ、バステ型でしかも大群
最悪ハメ殺しされてトラウマ確定なやつじゃん

|【英雄転身】《ロールプレイ・ヒーロー》
その役は魔法使い

眠りにつく動作がUCの発動条件なら、
発生の早い攻撃魔法の[先制攻撃]で出かかりを潰す
とはいえ群れてるから厄介なんだよね
[範囲攻撃]化した[弾幕]で纏めて片付けるか

ボクもアカウント作って1から初めてみたいなぁこれ

アドリブ歓迎



 世間にバーチャルリアリティは数あれど、細かな人の表情や、自然の営みを観察していて飽きないほどのものは、それはもう現実じゃないのか。
 しかしながら、極めて現実感に寄せているとはいえ、ゴッドゲームオンラインと呼ばれるゲームの世界には、時折拭いきれぬ違和感もある。
 設定次第で色々とオンオフできたり、相性でモンスターを倒したり倒されたり。
 そういった部分を考えるに、ゲーム要素のある異世界シミュレーターというよりかは、ゲームが主体で世界のほうが後から肉付けされたものなのだろうか。
 夕凪・悠那(|電脳魔《Wizard》・f08384)は、電脳世界に造詣が深い。一時期は、邪神に誘われるまま電脳遊戯に精神だけ引っ張られて過ごしていた日々もあったというほどだ。
 そんなスペシャリストが体感するこのゲームの世界と銘打った場所は、クオリティがダンチである。
 大自然を生身に感じる程に、この世界はよくできている。
 尤も、言ってしまえばこの世界にやって来れる猟兵は、これを現実ととらえることも可能であるということは重要だ。
 電子の海を揺蕩っていた経験があるからこそ、悠那は電子的に世界を構築すること、その上で電子上の情報体を顕現する電脳魔術も行使できるが、その逆もあり得るというわけだ。
 ゲームであり、リアル。ややこしいところだが、都合がいいともいえる。
「タイトルで神ゲー名乗るだけあって普通に面白そうなんだけど……死のゲームね……。
 まあ元々は安全なゲームだったみたいだし、開発者もいい迷惑なのかなぁ」
 バグプロトコルの存在が、このゲームのプレイヤーを脅かすものであることは聞いている。
 魂を削り、或は社会的な死を意味する遺伝子番号の焼却は、自分の経験してきたあれやこれと似ているような気もする。
 このゲームも、今は猟兵たちですらアクセスできない統制機構という世界も、明らかになっていない部分は多いが……、
「その辺は追々調べるとして、初心者救済行ってみますか。
 ボクらも初心者みたいなものだけどね」
 まだまだわからないことだらけ。しかしながら、だからこそ、未踏のゲームにはわくわくせざるを得ないのは、ゲーマーの性であろう。
 ひとまず、件の冒険者パーティを助けに行かなくては。
 マイペースで懐かない猫みたいとも言われる悠那であったが、こと興味の向いたものに対する執着はそれなりに深い。
 背の高い葦のような草むらをかき分けて草原の奥へと駆け出していくと、牧歌的な空気はある一定を過ぎたあたりで墓場のような饐えたものに置き換わっていくのを感じる。
 陰鬱な重たい空気を作り出しているのは、複数体のガス状のゴースト。
『おわぁ、おわぁ……』
 耳朶ではなく、腹の底に響くような赤ん坊の泣き声が、胸元をむかむかさせ、言い知れぬ不快感を掻き立てる。
 まだ距離のある悠那はそれ程度で済んだが、そのバグプロトコル・ネームレスベイビーズに囲まれる形で追い込まれている初心者パーティ、リオン達はその攻撃を受けて動けずにいるようだった。
「物理耐性持ちのゴーストタイプ、バステ型でしかも大群。
 最悪ハメ殺しされてトラウマ確定なやつじゃん」
 恐怖や眠りをバッドステータスとする場合、VRとしてはどう表現するのだろうか。と、常々興味を以て、いろいろ試してみたりはしたが、その余波だけでもこの世界のものは嫌な気分になる。
 やはり捨て置けるような敵ではないようだ。
「電脳接続、記録参照、対象選択、──|転身開始《インストール》」
 |【英雄転身】《ロールプレイ・ヒーロー》は、自身の可能性の拡張。将来的に持ちうるキャラクター性を模倣、発展、改竄し現在の自分自身に着せる電脳魔術である。
 ゲーマーであれば、様々な世界を救う英雄をロールすることもあるだろう。何かの間違いで、本当にそうなってしまうこともあり得る。
 若者の将来は無限大とはよく言うが、拡大解釈もいいところだ。だが、それを思い描いてしまえれば、それは成る。
 たとえば、救国の魔法使い。電脳魔術を駆使してよその世界の魔法に精通するのもあり得ない話ではない。
 大丈夫、魔法はイメージが大事って、そういう作品も暇つぶしに読むことだってあるし、予習はしっかりしている。
 そうして身にまとうのは、まさしく魔法使いが自身の魔力を高めるために誂えたかのようなローブ。
「こっちにもいるぞ、悪霊ベイビーども」
 ぱちんと指を鳴らせば、星の瞬きの様にスパークが散り、ガス状の赤ん坊たちが初心者パーティ、リオン達から悠那へと視線を向ける。
 顔なき顔、視線無き視線が、一斉にこちらを向くと、怖気が背筋を撫でるのがわかったが、ゲーマーは簡単に動揺を顔に出さない。
『おわぁ、おわぁ……』
 ぐずり始める赤ん坊のそれは、人の目からすれば不安を掻き立てるものだが、れっきとした攻撃モーションだ。
 それはもう見た。
 発生の早い稲妻をほとばしらせて、赤ん坊が眠りに入る動作の出がかりをつぶす。
「! やっぱり、数が多いか」
 出足はつぶしたものの、発生の早さだけでは圧倒的に数が足りない。
 スキルは何があるんだ。と、一瞬で思考し、手当たり次第に魔法を使うのではなく、出の早い稲妻に続けて連鎖する魔法を用いる。
 チェインする雷。それは、命中からその周囲に雷撃を伝播させて複数体を一気に攻撃するものである。
「無事? じゃあなさそうだけど、立って、それで、下がって」
 短く、簡素にリオン達を退避させつつ、雷を打ち続け、程なくしてネームレスベイビーたちはその姿をようやく見せなくなっていった。
 安堵するリオン達を尻目に、安全を確保したのを確認してから、悠那は電脳魔術による衣装を解く。
 魔法職というのも、久しぶりにやってみるとなかなか楽しいものだ。そうだ、可能ならば、
「ボクもアカウント作って1から初めてみたいなぁこれ」
 できる事ならば、普通のプレイヤーと同じ条件で。
 ある意味で贅沢な願いをかなえるとすれば、統制機構にアクセスする必要が出てくるが。
 ともあれ、ひとまずのトラブルは去ったと考えていいだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『生産系クエスト』

POW   :    狩りや採集で素材を集める。

SPD   :    生産施設の警備。

WIZ   :    新たなアイテムのレシピを開発する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「よ、よかったぁ……バグはなんとか消えたみたい」
 猟兵たちの活躍により、大量のバグプロトコルは、ひとまずここいら一帯から姿を消したようだ。
 そのことに、リオン達一行は安堵するとともに、猟兵たちに感謝を述べつつ、そういえばと、自分たちのクエストの続きをこなすべく、周囲の探索を再開する。
 平原の奥まったところにある、背の高い草原。コボルドの茂みとも呼ばれているこの場所は、今回のような薬草をはじめとした資源も豊富なためか、クエスト利用のプレイヤーもそれなりにいる。
 もう先駆者が何度も通った道は、草むらがかき分けられ、順路となって形成されているものもあるのだが、そんなわかりやすいところにいつまでも薬草が残っているわけもなく。
 より品質の高い薬草を求めるならば、もう少し周囲を探索する必要があるだろう。
「今回の納品は、ブルーポーションだから、ここいら一帯に自生する青い花の薬草を探すんだよね」
「薬草言うたら、普通は新芽とか使うんとちゃうん? まあ、ゲームやししゃーないとして、どんな花やっけ」
「ほら、スクショ送ったろ。菊っぽいやつだよ」
「菊て、これタンポポやん。青いタンポポて、クソコラ感やばない?」
「タンポポもキク科だよ、ネモちゃん」
 先ほどの絶望感も今は乗り越え、逞しく……それにしては緩い感じで3人の初心者たちは各々の持ち場を見つけて探索し始める。
 猟兵たちは、リオン達に引き続き手助けしてもいい。
 バグプロトコルを排除したことにより、この茂みには敵性MOBも戻ってくることだろう。
 防御力を下げる腐食毒を持つアシッドスライムや、茂みに身を隠せるほどの小柄な犬人デミコボルドが主なエンカウント対象だが、これらは初心者でも対応できる程度には問題ない相手である。
 必要ならば探索に集中できるよう敬語を申し出てもいいし、探索そのものを手伝うことも可能である。
 また、納品はあくまでもブルーポーションであるので、薬草から生成する必要がある。そちらの方面に知識があるならば、アドバイスや手助けできるかもしれない。
 以降は、あまり必要ではない冒険者のデータである。

 リオン:
 軽剣士のクラスにつく、パーティのリーダー。生真面目で戦闘においてはやや柔軟性に欠けるものの、基礎をしっかり堅実にこなすため、信頼性は高い。
 他二人がほぼ魔法職なので、軽量級ながら、防御や回避を重点的に学び、長剣とバックラーを用いて防御重視の戦いを行う。
 本人はちょっと気弱な性格を払拭したく快活に振る舞い、地味さを脱却するため勇敢に剣を手に取ったが、その戦いぶりは地味である。

 ネモ:
 僧侶のクラスにつく、パーティの回復役兼アタッカー。だいぶ適当な性格をしているが、癒し系を目指し僧侶を選択。しかし、生来のちょっと短気な性格が災いしてこん棒を手に殴りヒーラーになった。本来はメイスを持っていたが、手に馴染まないということで、ゴブリンからのドロップ品であるこん棒を愛用している。難波の血が騒ぐらしい。
 甲子園球場閉鎖のショックからゲームを始めた。ほかの二人よりやや年上だが、ゲームを始めたのは最近。それほどゲーマーではないものの、二人が心配でなんだかんだと世話を焼いてしまう姉御肌。
 はじめたてなので、ヒールは数回しか使えず、主に前衛で殴りに出る。
 プレイヤーネームの由来は、往年の野球選手から真ん中に文字を取ったとか。

 サバミソ:
 魔法使いのクラスにつく、パーティ唯一の男性。何事も形から入るタイプの、凝り性だが飽きっぽい典型的なオタクを自称する。先人が開発し、スクロールとして初心者の町にも出回る便利な魔術を習得したが、いずれも情報を鵜吞みにして買ったため、一長一短で使いどころを選ぶため、状況にはまらないとうまくいかない。ピーキー過ぎるが口癖。
 今回のクエストに際し、ポーション作成のための調薬スキルも、主にネモに煽てられて習得した。
 リオンが初めて話しかけたことが縁となり、そのままの流れで不思議と気が合ってパーティを組んだが、本人は妙に誠実でありこのままでは不健全だと思って面倒見のよさそうなネモも誘う流れとなったらしい。
 ジーンアカウントに定められた職に就くため、田舎から都会に出て一人暮らしすることになったはいいが、食事が大変味気なく、好物の母のさばみそが食べられない鬱憤を晴らすために、ゴッドゲームオンラインを始めた。
 彼の野望は、この世界のおいしい料理を食べる事と、理想のさばみそを手に入れる事である。
サラ・ノースフィールド
WIZ

製薬ですか。得意分野ですので、お手伝いしましょうか。

世界知識/情報収集で素材の探し方と調合法を調べ、
素材採取/薬品調合でさくさく量産しましょう。
調合セットも自前で持っています。
鏡よ鏡、ブルーポーションについて教えてくださいな。
手に入れた答えは皆と共有しますよ、もちろん。

素材については他の集団も普通に漁っているようなので、
箒に乗って、採取しにくい場所を重点的に探すとして……。
ほむー。ちょっと欲張ってしまいましょうか。
鏡よ鏡、さらに品質の良いものを作るにはどうすればいいですか?


儀水・芽亜
改めて、|吟遊詩人《トルバドール》のメアと申します。どうぞよしなに。

ふむ、青い花の採集ですか。お役に立てるかどうか分かりませんが、一つお手伝いしましょう。
「楽器演奏」「歌唱」で、主に向かいて新しき歌をうたえ。草花たちの好意を得て、青い花が顔を出すようにしてみましょう。
どうですか、皆さん。青い花は見つかりました?
あら、こちらにも一輪。

あとは加工ですね。そちらのスキルはありませんので、見守らせていただきます。

皆さんは、このクエストを成功させればレベルアップですか? レベル上限って今どれくらいなんでしょう?
根を詰めすぎるのもよくありません。お茶を持ってきていますから、皆さん適度に休憩してくださいね。



 足元がわしわしとする、背の高い葦のような茂みをかき分けて作られた小さな広場は、安全とは言い難いが、少なくとも草むらからの奇襲は避けられるとして、先達の冒険者たちがゆっくりと切り開いた場所であった。
 1メートルほどとはいえ、草木の茂ったこのポイントは、見通しがいいとは言えない。
 ここでエンカウントするという敵性MOBの一種、デミコボルドは小さな柴犬に革鎧を着せて直立させたようなデザインで、武器を手にちょうどこの草むらに隠れてしまう。
 強敵ではないものの、座り込んで話をしたりするには、奇襲されないに越したことはない。
 バグプロトコルの騒動もあって、それら敵性MOBは離れているようだが、それも時間をおかずに復活するだろう。
 安全に薬草を採取するなら、このタイミングしかない。
 と、その前に、
「改めて、|吟遊詩人《トルバドール》のメアと申します。どうぞよしなに」
 儀水芽亜は、リオン達初クエストの冒険者たちを前に、改めて名乗る。
 本当のところは、ナイトメア適合者だったり、槍を振り回したり、先ほどなどは矢弾の雨を降らせたりもしたが、その辺りを詳しく話してしまうと色々とややこしいので、今のところは歌を愛する事務員を名乗ることにした。
 いや、事務員とは言うまいが。
「先ほどはどうも、ありがとうございました! あの……それで、まだ何か?」
「いえ、ね。先ほどのようなバグプロトコル……? ああいった手合いが、また難易度不相応に出現しないとも限りませんから、もののついでというか」
 物腰の柔らかいリオンの態度に、どうにか自然な装いで彼らの手伝いを申し出る。
 リオン達からすれば、猟兵たちの技量はかなりのものに映ったはずだ。そんな存在が、わざわざ初心者用のクエストに居座るのはいかにも不自然であるが、なるほどバグプロトコルを理由にすれば彼らもそれなりに納得はするだろう。
「なるほど……後ろの方は、すっかりやる気みたいですね」
「え?」
 泳ぐような視線の先は、芽亜のやや後方、物珍しそうにあたりをきょろきょろ見まわしたりしながら大きな眼鏡をクイックイッさせている魔法使いがいた。
 サラ・ノースフィールドはアルダワの出身である。その出身者の多くの本分は魔法研究ないし冒険である。
 彼女もまたその例に漏れないところだが、ちょっとだけ目の付け所が人とは違うらしい。
 自分に話が移ったらしいのをなんとなく察知したサラは、これ幸いとばかりすすすっとリオン達に歩み寄り、
「製薬のお仕事だと聞いております。得意分野ですので、お手伝いしましょう」
「へぇあ!? あ、ありがとうございます……探す薬草は、ご存じですか?」
「実物はまだ拝見してませんが、ああ、大丈夫ですよ。すぐに解決します」
 にこやかに話しているが、サラの有無を言わせぬ雰囲気は、本当に口をはさむような余地を許さない感じだった。
 それはさながら、目の前の問題に、横からヒントとか要らないから! と夢中になっているかのような雰囲気だ。
「なんや、調べものとか好きなタイプなんやろなぁ」
「わかる~。知らないゲームとかでもデータ見るだけでワクワクするもん」
「映像資料、あるんですけど、あの……」
 周囲からやんややんやと言われる中で、サラはおもむろに鏡を取り出す。それは、彼女の所有する魔法具の一種であった。
「鏡よ鏡、ブルーポーションについて教えてくださいな」
 周囲の環境について躍起になって草木一本に至るまで調べに走るのかと思いきや、サラは効率的な手段にサクッと切り替えたのであった。
 魔法の鏡は、その世界の情報をインターネットで調べられるくらいの精度で教えてくれるようだ。いわゆる、ググレカスの化身である。
『ブルーポーションとは、通常のポーションにやや効果を拡張したものであり、軽い状態異常の効果時間短縮など、あるとちょっとだけ助かる程度の序盤のお供とされています。作成方法は、草原の茂みに自生する青い花の薬草を煎じ成分を抽出することで──』
 つらつらと情報を吐き出す魔法の鏡だが、要点をかいつまんでいるわけではないその内容はなかなかに膨大で、聞いていたらいつまでも喋っていそうであった。
「薬草の自生する環境は? どうしてここにしか自生しないのか、わかりますか」
『花が青くなるのは、この草原の生育環境に依るものという研究があったようです。ここにしか生息しない生き物が、大きく寄与しているという説が立証されました。つまり、この草原を歩き回れば、棒に当たる割合で遭遇するでしょう』
「ふむ、ひとまずありがとうございます」
 役に立つんだか、そうでないのか、よくわからない鏡の情報をそれぞれに共有し、リオン達も捜索に出ようかというところで、今度は芽亜が声をかける。
「あっと、少しお待ちを。私も少し試してみたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
 小首をかしげる一同を制し、広場の中で腰を下ろすのにちょうどよさそうな、この場の目印にもなっている岩に背を預けると、芽亜はおもむろに取り出した竪琴を奏で、それにあわせて歌い始める。
 【主に向かいて新しき歌をうたえ】は、自然に語り掛ける聖歌であった。
 周囲の環境を味方につける歌声は、あらゆるものを無意識のうちに友好的にさせる。
 それがたとえ植物であっても、その歌声が染み入れば顔を向け、友好的に振る舞おうとする。
 たとえば、青い花の薬草を探していると語り掛ければ、草花はそこまでの位置を示すかのように道を開ける。
「あ、あった! すごい、まるで植物が教えてくれるみたい」
「いやこれ、ト〇ロやん」
「あーダメダメ。直接そんなこと言っちゃ」
「ほむー……」
 めぼしい薬草を見つけ、はしゃぐリオン一行。その中で、一人箒に乗って上空から採取しにくそうな場所を重点的に調べていたサラは、奇しくも俯瞰の視点から薬草の生育区域を見下ろす形となっていた。
 薬草の分布は、群生するというようなものではなかったものの、その萌え方というのだろうか。まるで、なにかの足跡を追うようなものであるように見えた。
「鏡よ鏡、もう一度、ブルーポーションについて教えてください。今度は、より品質を上げるための情報でもあれば」
『そもそもブルーポーションに必要な青い花が生育するためには、特殊な成分による変異が必要であるとされています。即ち、ここにのみ生息するアシッドスライムの粘液に含まれる老廃物が肥料となり、より青く、腐食毒を含んで根瘤を作るほどの個体には、より効果の高い成分が見込めるという研究が見つかっています』
 なるほど、とサラは上空で顎に手をやって景色を見下ろす。
 切り開かれた広場にも青い花はいくつか顔を出していたものの、奥まった採取の手が届かないような場所いの薬草は、それらよりしっかりと大きく成長している。
 より広くを見たからこその発見であったが、そもそも芽亜のユーベルコードによって、数多くの花が顔を出さねば、違いには気づけなかったかもしれない。
「外に出てみると、また新たな発見があるものですね」
 そうして、いそいそと薬草の回収をある程度終えると、今度は製薬のフェイズがやって来る。
「あとは加工ですね。そちらのスキルはありませんので、見守らせていただきます」
 薬草探しに一役買った芽亜は、花を愛でることはあっても、そこから作れるものなどせいぜいがポプリかお茶くらいのものだ。
 ここは調薬スキルを取ったというサバミソ氏と……いそいそと自前の調合セットを広げるサラの出番である。
「あの、サラさん……見慣れないものがいっぱいあるんですけど、ブルーポーションですよね?」
「試してみたいレシピが幾つかあるので、より効力が高ければそちらのほうがきっと高く買い取ってくれますよ」
 サラの調合台に並べられたのは多くの素材。青い薬草の花弁、若葉、根瘤、精製水に……アシッドスライムのドロップであるブルーゼリーなどなど。
「モンスター素材で、ポーション、作るんですか……?」
「そういうレシピもあるそうですので、せっかくだからやってみようかと思いまして」
 にっこりと笑うサラは、やはりというか有無を言わせない雰囲気を持っていた。
 とことん試す気だ、この人は。
 でも、怖いもの見たさもちょっとだけあるのが、彼らを冒険者たらんとしていた。
「面白そうですね。せっかくですから、皆さんでお茶でもしながら、経過を待ちませんか?」
「ええ、こんなところでお茶できんのん? うれしー」
 芽亜の提案で、おっかなびっくり調合実験の経過を見守りながらのティータイムが始まるのだった。
「皆さんは、このクエストを成功させればレベルアップですか? レベル上限って今どれくらいなんでしょう?」
「さあ……私たちも始めたばかりで、あんまり天井のほうは見ないようにしているんですよ。そこはきっと、目標じゃなくて通過点の一つだと思うから」
「なるほど、何か大きな目標がおありと見ました」
「いや、その、大したことじゃあ……」
 お茶を手に、のんびりとした会話を繰り広げる合間にも、サバミソ氏とサラの手により、ポーションは次々と出来上がっていく。
 サバミソ氏が入手したてのスキルで四苦八苦しながら作っていくのに対し、サラは研究の片手間にほいほいと量産していくのだった。
 そして──その研究は、
「おお、高品質のお墨付きが出ましたよ。そして、根瘤の抽出からも作れましたブルーポーションではないですが」
 研究のかいあって、サラの手には高品質マークの付いたブルーポーションと、そしてアシッドスライムの腐食毒を何倍にも濃縮した、防御力低下の劇薬アシッドポーションが完成したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミノア・ラビリンスドラゴン
わたくしは迷宮運営がメインなのであまり関りがありませんが、初心者向けの定番クエストですわね

パーティーの中ではリオンさんは精神的に未熟なようで、先の戦いでも取り乱していらっしゃいましたね?
ではお稽古をつけてさしあげましょう!
ドラゴンプロトコルとタイマンの経験があれば、多少の強敵で狼狽えることはなくなりますわー!

薬草集め? 問題ありませんわ!
モンスターカードから迷宮のメイドを【召喚】!
リオンさんの採集スキル相応の薬草を代わりに集めさせますわ!

ではお好きなように打ち込んでいらっしゃいませ!
グラファイトフェンサーではありますが、ドラゴンボディは【鉄壁】!
初心者の攻撃では簡単に打ち破れませんことよ!


グウェン・ラクネリア
「薬草狩りの女、スパイダー・ガール」(てっててーれてれ! てれってれー!)
「でもわたい、薬草取りに関しては手伝えないのよさ。音がする物か動く物ならこれで一発だけど」
 上空に自前の蜘蛛糸を飛ばして、両手のシューターから発射した糸であやとりめいて糸を広域展開するの。これで1250km以内の音と振動は全部掴めるの。
「これくらいアラクネなら誰でもできるよのさ。わたいのスパイダー・ガールとしての能力って……レオポルドン位かも?」
 同じモチーフだし、出来る事が被ってるのよさ。
「あ、一つ見つけたら振動で形状特定して絞り込めるかも? まずは一つ見つけるのよさ!」


麻弓・夕舞
ひ、一安心といった所かしら?
それにしても本当にゲームとは思えないわね…
それともゲームの中にこれる猟兵に驚くべきなのかしら…

兎も角、彼らに付き合いましょうか
まぁ私に出来そうなのは偵察位なのだけど
必要なものを一緒に探しつつ敵が来ないかを警戒するわ
この辺りはバトロアの経験が生きるわね
それと…あなた達も手伝いなさい!『双月のイズナ巫女』!
私の感知範囲より外側を見てきなさい、ヨロシクね
さーて、次の戦いまでの短い時間だけど、ちょっとくらいはこのゲームを楽しみましょうか

※協力・アドリブ歓迎



「ひ、一安心といったところかしら……?」
 おどろおどろしい気配を漂わせていた悪霊たち、バグプロトコルの消滅を確認し、草原にすがすがしい気配が戻ってきたことに、麻弓夕舞は安堵のため息をついた。
 猟兵ではあるものの、彼女の感覚的には普通のカードバトラー。立体的ド迫力VRエフェクト付きのカードバトルを知らないではないが、それとこれとではやはり空気感ともいうべきか、とにかくまぁ違うのである。
 だって、VRはそうそう襲ってこないだろう。
 超次元スポーツのまかり通る世界出身とはいっても、基本的に命の危険がほとんどなかった人生で、猟兵という家業はあまりにも刺激的だ。
 しかしながら、敵を一掃した今ならじっくりと、割と平和にこの世界を堪能することだってできるはずだ。
 平原エリアの奥まった、草の生い茂るポイントには、先人たちが便利な様にと切り開いた広場と各所に行き来する通路のような道が形成されている。
 採集ポイントなどに連日のように冒険者が足を踏み入れるために、ごく自然と切り開かれて道となったものだが、そう考えると後発組もそう悪いことはないのかもしれない。
 しかし先人の足跡がくっきりと残っているとは、ますますもってリアリティである。
「それにしても本当にゲームとは思えないわね……。
 それともゲームの中にこれる猟兵に驚くべきなのかしら……」
 ゲームの中の人物はプログラムであり、ここに直接やって来れる猟兵は、当然のように生身である。そこには大きな違いがある筈なのだが、違和感がないのがとてつもなく違和感である。
 いや、難しいことはひとまず置いておこう。
 初心者冒険者たちことリオン一行の目的は薬草集め。そして、ポーションを作って納品するのが本来の目的だったはずだ。
 自分たちは、その手助けをする過程で、出現するバグプロトコルを排除……というのが、お仕事だったはずだ。
 そのはずですよね。
 だというのに、夕舞が目の当たりにしている光景は、ちょっぴり目的から外れるような気がしたのは、気のせいだろうか。
「リオンさん……とおっしゃったかしら?」
「え、ああ、はい……」
「聞けば今回のクエストは採集。わたくしは迷宮運営がメインなのであまり関りがありませんが、初心者向けの定番クエストですわね」
 ミノア・ラビリンスドラゴンが、どうやらリオン一行、というよりリーダーのリオンに何やら思うところがあったらしい。
 その眼差しは自分自身を見るかのような、どこか懐かしむ雰囲気すらあった。
「はあ、でも、迷宮でも採掘するクエスト自体はあるような……」
「おだまり」
「はひっ!?」
 ぐっと拳を握り締めて強い視線を向けると、リオン配宿したように肩をすくめる。
 当たり前と言えば当たり前だが、ミノアは本来、ダンジョンの奥底で待ち受けるボスキャラ。ドラゴンプロトコル。冒険初心者が遭遇することなどありえない、レイドボス相当の相手のはずだ。
 駆け出しの冒険者など、ひと睨みで黙らせてしまうのだ。
「そう、貴女は未熟。先の戦いでも、取り乱していらっしゃいましたね」
「そ、それは……だって、仕方がないじゃないですか」
「恐ろしいことは、誰にだってございますわ。恐れを知らぬものなど居ない。だけど、それに狼狽えていては、戦えませんわ」
「じゃあ、どうすれば……」
「わたくしが鍛えて差し上げますわ。ドラゴンプロトコルとタイマンの経験があれば、多少の強敵で狼狽えることはなくなりますわー!」
 なんだか二人で盛り上がっているところ申し訳ないが、これって採取クエストですよねーっ!?
 確かに、ドラゴンに立ち向かえるほどの勇気、恐怖を乗り越えられたなら、大概のことには動揺しないかもしれないが、今それ必要ですかね。
 その光景を遠巻きに見ていた夕舞は、これ何の話だったっけと頭痛を覚えるのだったが、それに拍車をかけるかのように、周囲を取り囲むかのように白い糸がリングを囲うロープの様に張り巡らされていくのに気が付いた。
 大規模なロープワークを作り出すのは、蜘蛛の下半身を持つバイオモンスター、グウェン・ラクネリアだった。
「あの、なにしてるの……」
「格闘技世界チャンピオン、に涙する女! スパイダーガール!」
「何の話をしているわけ……」
「いやぁ、なんかノリノリだし、水を差すのも無粋かと思ったのよさ。これで少なくとも、余計な邪魔とかは入らないんじゃない?」
「結構気が利くのはわかったけど……私たちっていうか、リオン達の本来の目的、薬草じゃなかった? まぁ私に出来そうなのは偵察位なのだけど」
「わたいも、薬草取りに関しては手伝えないのよさ。音がする物か動く物ならこれで一発だけど」
 手元に装着されたシューターから糸を飛ばせば、上空からそれこそ蜘蛛の巣上に展開する糸はあちこちに張り巡らされ、ほぼほぼ目に見えないほどの細さで展開する糸はさながら神経の様に情報を拾う。
 【ルーラー・ラクネリア】は、音と振動を微細に察知するユーベルコードである。
「これくらいアラクネなら誰でもできるよのさ。わたいのスパイダー・ガールとしての能力って……レオポルドン位かも?」
「……ひとまず、リオンに限っては、全く問題ないというわけね」
 マンモスっぽいやつに一撃でやられそうな名前のロボットに関して突っ込みを入れ始めたら、いよいよ収拾がつかなくなってしまう。
 リオンはなにやら、ノリに乗せられて、ドラゴンのお嬢様と殴り合いをし始める様相である。
 残ったパーティだけでも薬草集めに行くべきだろうか。
「薬草集め? 問題ありませんわ! モンスターカードを使いますわ!」
「モンスターカードですって!?」
 デュエリストである夕舞は、カード用語に敏感だった。
 ついつい大きなリアクションと、頭の中にカンコーンという謎の効果音まで反射的に反芻してしまう。
 手札から召喚、もとい、ミノアが呼び出したのは彼女の眷属、というかダンジョンモンスターの迷宮メイド。彼女たちを薬草狩りに駆り出そうというのだ。
 ドラゴンがメイドを……ドラゴンメイド……。
 いや、雑念を払いつつ、メイドたちとともにリオンのパーティメンバーが薬草採取に出るのを、夕舞も一応は見張りとして同行する。
 グウェンはなにやら、自分の蜘蛛の糸の上に陣取って聞き耳を立てているらしかった。
 これなら、改めて警戒する必要はないかもしれないが、ここは草の背が高く、出没する敵性MOBはこの草に隠れるほどの矮躯らしい。
 こういったスクリーンプレイは、バトロワの経験もある夕舞にとっては、未経験でもない。
 こうして野外に立つことで、新たな知見も得られるというものだ。
 そういえば、悪霊のバグプロトコルの影響で、本来の敵性MOBは遠ざかっていたみたいだが、それが消えた今は、徐々に戻ってくるかもしれない。
 ゲームであれば、いきなりすぐ近くにポップしないとも限らない。
 グウェンが感知の糸を張り巡らしているとはいえ、用心に越したことはないはずだ。
「あなた達も手伝いなさい! 『双月のイズナ巫女』!」
 【観測手召喚】により、夕舞は紅月と蒼月のイズナ巫女を呼び出す。
 なぜか意思を持つ二枚のカード。彼女たちに巻き込まれる形で、夕舞はいろんな冒険をする羽目になったが、今はとりあえず自分の感知が及ばぬ範囲からの敵の位置を知らせる観測者となってもらう。
「私の感知範囲より外側を見てきなさい、ヨロシクね」
 物騒な銃を掲げ了承したように周囲を見回りに出るイズナを見送ったあたりで、ようやく薬草採取組の収穫を耳にする。
 と、それまで沈黙を守っていたグウェンがハッと顔を上げる。
「それが、青い花の薬草! その花びらの振動、覚えたのよさ。薬草狩りの女、スパイダー・ガール」(てっててーれてれ! てれってれー!)
 どうやら、超人的な聴力、というより振動を聞き分けるユーベルコードによりここいらの薬草の形状を聞き分けようと試みるようだ。
 それができたらすごいが……素直に感心する夕舞だが、一つだけ懸念点がある。
「ではお好きなように打ち込んでいらっしゃいませ!
 グラファイトフェンサーではありますが、ドラゴンボディは鉄壁!
 初心者の攻撃では簡単に打ち破れませんことよ!」
「よ、よろしくお願いしまぁーす!!」
 広場の中央では、すぱぁん、と自らの腹を打つミノアが気合の雄たけびを上げている。
 こんな騒がしくして、聞き分けられるのか。
 まあ、急ぐこともない。
 だんだんと、この奇妙な状況にも慣れてきた。
「さーて、次の戦いまでの短い時間だけど、ちょっとくらいはこのゲームを楽しみましょうか」
 バトロワ式のハンドガンを片手に、夕舞は周囲の気配を探るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

結城・有栖
クエストのお手伝いですか…。
では、私達は周辺の警護をしましょう。

「あれ、探索の手伝いはしないノ?」

ええ、あれは彼らの冒険ですから。
色々と試行錯誤するのも楽しいと思いますよ。

という訳で、オオカミさんと協力して初心者さんの周辺をこっそりと警護です。
寄ってくるモンスターは【野生の勘】で見つけ、初心者さんの邪魔にならないようにオオカミさんに風の爪を飛ばしてもらって処理です。

ついでに周辺の景色も眺めて楽しみましょうか。
…ゲームの世界でも、感じる空気や匂いは現実と変わらないですね。

「リアリティが凄いヨネー。探してるのは青いタンポポだったヨネ?」

ですね。…もし、野生の勘で見かけたらこっそり教えましょうか。



 悪霊たちのたむろする恐ろしげな気配は、その撃退と同時に消え失せ、背の高い草原の一帯を覆っていた陰鬱な雰囲気は嘘のように晴れやかになった。
 本来は存在しないような場所に、バグとして紛れ込んだためだろう。空気の極端な変わりようはいっそ拍子抜けしたようにも思えた。
 だからだろうか、リオン達はジーンアカウントの危機であったのもすっぽり頭から抜け落ちたかのように安堵していた。
 いや、彼らは猟兵たちのようなタフな精神力を持ち合わせてはいない。いきなり現れたバグプロトコルという生命の危機にも通じる存在に、頭の処理が追い付いていないのだろう。
 改めてその恐怖を肌身に感じるよりも、ゲームとしての楽しみを優先するほうが、今は大事かもしれない。
 結城有栖は、自分が思っていたよりもリオン達がのほほんと薬草採取のクエストを再開し始めたことに、やや離れたところから小さく安堵の息をつく。
「さて、私たちは周辺の警護をしましょう」
『あれ、探索の手伝いはしないノ?』
 脳裏に内なるオウガ、オオカミさんが問いかけてくる。
 相談役として頼れる存在のオオカミさんだが、たまにおせっかいにも感じる。考えてもみれば自分の宿主を大切にするのは当たり前と、ついつい打算的な思いも出てくるが、それだけでは片づけられない数の戦線を踏み越えてきている。
 きっとオオカミさんもわかっていて訊いてきているのかもしれない。
「ええ、あれは彼らの冒険ですから。
 色々と試行錯誤するのも楽しいと思いますよ」
 1から10まで手を貸してしまっては、本来あるべき発見や体験を損なってしまいかねない。
 未知との遭遇は、一度しか訪れない。有栖たちが、迷い込んだ世界を超えて歩んできたように。
 その興奮があったからこそ、恐ろしい場所にだって胸を弾ませて挑む気持ちが湧いてくるのだ。
 当の本人は、あまり表情に出にくいのだが。
「こんな、草ボーボーのトコで、タンポポ探すん? 無理ちゃう? 屈んだら回り見えんでこれ」
「探す役と、周囲を見る役を交代でやっていくのが安全かな。だから、初心者向けのクエストなんだと思う」
 やや離れた場所では、リオン一行が薬草探しに勤しんでいる声が聞こえてくる。
 さすがに危ない目にあった手前、警戒心からこの草むらの危険性に気付いたようだった。
 何はともあれ、あの悪霊と対峙したことでの経験は生きているようだ。
「確かに、ここいらの草むらは、一人で周囲を見回るにはちょっと手間ですね」
 彼らの周囲を警護するには、有栖一人の目では限界がある。
 そんなときのためにユーベルコードは、きちんと考えてある。
 【魔獣具現・オオカミさん】は、有栖の想像魔法の応用、不思議な道具や現象に限らず、それは自らの写し身すらも作り出す。
 自分とそっくりなそれは、心の中に住まうオウガ、オオカミさんの意思と目を以て有栖を見つめ返してくる。
「せっかくの広い草原ですから、二人でやりましょう」
『あいよー、こっそりのんびりってのも、久しぶりだネー』
 身の内に吹き抜ける暴風の如き気性を、まるで感じさせないオオカミさんは、なんとも気の抜けるというか自然体な装いで、有栖ともども身を低く、リオン一行の邪魔にならないよう、こっそりと周囲の安全を確保する。
 悪霊騒ぎの影響か、強力なモンスターの存在は、在来の敵性MOBを遠ざけていたようだったが、彼らを排除したことで、それらは徐々に元の場所へと生息域を取り戻しに来るだろう。
 身を潜める有栖の獣耳が、ぴくりと音を拾う。
 草の根をかき分けるさわさわと静かな音だが、それは注意深く耳を澄ませていないと聞き逃すほどの静かなものだ。
 近くに感じるオオカミさんもそれを感じ取ったらしい。向ける意思の気配で、どう行動するのかが感じ取れる。
 小さい、背丈のある草むらに隠れるほどの矮躯。だが、明確な目標を定めたようにまっすぐと静かに歩みを進める先は、リオン達の場所だ。
 有栖はそれをひそかに追いかけ、ちょっとだけ大げさに草をかき分けて背後を取ったことをアピールする。
『ウッ、ワウ?』
 それは、シンプルな言い回しをすれば、直立した丸っこい柴犬のような姿をしていた。
 手入れのされていない絵筆のようなぼさぼさの毛皮に、みすぼらしい革鎧と、手には石製の磨かれたナイフ。
 ここいらの敵性MOBの一種、デミコボルドは、小さな体格を利用し、草むらから奇襲を仕掛けてくるのが特徴だ。
 しかしながら、今しがた奇襲を仕掛けようと忍び歩きをしていたと思ったら、同じようにこっそりと後をつけていた有栖に気付いて思わず声を上げてしまったというわけだった。
 そして、それはわかりやすい陽動。振り向いた無防備なところを、オオカミさんの手から生じる風の爪が一閃する。
『アウン! オゥン……』
 奇襲が得意というだけあって、戦闘力はそれほどでもないデミコボルド。一撃当てられただけでその場にばたりと倒れ、目をバッテンにして力尽きて消えてしまう。
 初心者帯のフィールドとはいえ、愛嬌のあるMOBだけにちょっと罪悪感である。
「……あまり、警戒する必要もなさそうですが」
『平時なら、ちょっと戯れてみたいかもネー』
 ともあれ、不用意な戦闘は避けることができそうだ。
 猟兵にとっては特段気にするほどの相手でもないためか、景色を眺めるくらいの余裕すらあった。
 非アクティブな敵性MOBであるコボルドやスライムがウロウロしているところや、チチチチと耳をくすぐるような小鳥たちの声。
 草原を撫でるような風のうねりは、ゲームの世界であることを忘れそうになる。
「……ゲームの世界でも、感じる空気や匂いは現実と変わらないですね」
『リアリティが凄いヨネー。うん? 探してるのは青いタンポポだったヨネ?』
「たしか、そういう風に聞きましたね」
『足元にあるの、そうじゃなイ?』
 何の偶然か、それとも野生の勘で探り当ててしまったか。
 有栖の足元に、青インキを吸わせたようなあざやなタンポポ……によく似た薬草がその花びらを風に揺らしていた。
 ここにもありますよ、と声をかけてもいいのだが、リオン達も採取に夢中な様子だ。
 少し考えてから、有栖は、タンポポの咲いている周囲の草を避けるように癖をつけてから、ちょっと大げさに音を立てて大股でその場所からさりげなく離れていくという、遠回しなやり方でヒントを与えつつ、続けてこっそりとリオン達のクエストを見守るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
「スペランサ。たまには自由に、飛んできても、いいよ?後で、合流しよ」
ここなら好きに飛べるだろうと巨神を送り出す

「家につくまでが、遠足。キミ達の依頼が終わるまで、つきあう」
3人の採取に同行
「薬草、採取。草を見るの、久しぶり」
多分見たのはオリジナルで自分じゃないよな、と思う
「ザナドゥのダストエリアじゃ、生えて、ない。どこを、採る?」
指示に従い花を切るか引き抜くか根から掘り起こすか選択
切るのも掘り起こすのもクナイ使用
採取後はインヴェントリーに収納
ついでに葉を1枚噛ってみる
「タンポポなら、食べられる。さっき、調べた」
「サラダ、天プラ、タンポポ味噌…ミソ?」
焼鯖解し身入り味噌玉想像しつつサバミソ眺めた


サマエル・マーシャー
※前章の戦闘でのドロップがあったなら均等に分配。クエストに横入りしてしまったからという言い訳で。

現状、遺伝子番号焼却の危険性がないならば彼女たちの様子は遠目に見ておくだけに留めます。
ゲームとは娯楽。アカウント削除さえ絡まないなら初心者が些細なミスで死ぬことさえも楽しみのひとつ。邪魔はしたくありません。
(現実なら余計なお節介で過剰な救済を行いがち)

それはそれとして今は同じクエストの参加者なのですから助けを求められれば応えますし、不意の危機にも救け船は出します。そこはプレイヤーとしての互助精神です。

(UCで薬品調合などしてクエストを進めながら今後のバグプロトコル襲撃による救世主チャンスに備える)



 悪霊を装ったバグプロトコルの存在は掻き消えた。
 もともと、この場所に存在すらしなかった悪霊の群れが消えたためか、おどろおどろしい雰囲気は嘘のように晴れて、のどかな草原の青々しい空気が戻ってくると、冒険者一行は安堵の息をつき、戦いに身を置き続けた猟兵たちは緊張をやや緩めたように息を漏らす。
 とはいえ、グリモア猟兵の予想では、まだ見ぬ危機があるかもしれない。
 もう少しの間、彼らと同行するための口実が欲しいところだが……。
 まずはそう、物騒な雰囲気をいつまでも出していては、彼らも安心はできまい。
「スペランサ。たまには自由に、飛んできても、いいよ?後で、合流しよ」
 ベティ・チェンは、戦闘に貢献した意志ある巨神、キャバリアのスペランサをひとまず下がらせることにする。
 敵の排除とともに武器である大剣を抱き込むようにして草原のど真ん中に膝を下ろす姿は、それだけで威圧感があった。
 5メートルの巨漢は、他の接近を許さぬ雰囲気があるため、それはそれで意味がありそうだが、すぐそばに居座らせるのは冒険者の邪魔になりかねない。
 ベティの提案に首肯するかのように目元をギラリと光らせると、スペランサは暴風を伴うスラスター出力を上昇させてどこかへと飛び去って行く。
 たぶん、そんな遠くへは行かないとは思うが。
 ばたばたと風にあおられる中で、これもまた同じく大剣型グラファイトブレードを担いだサマエル・マーシャーがリオン達冒険者へと歩み寄る。
 凄腕の冒険者を彷彿とさせるおしゃれジャケットを羽織ったどこかパンキッシュで現代的な装いは、重課金装備にも見えるかもしれないが、バーチャルキャラクターである彼女が、今は退廃的でぶっ飛んだ神設定で話題となった格ゲーからスキンを借りているためであるようだ。
「改めて、お怪我はございませんか? 先ほどの戦闘のドロップアイテムを分配をしたいのですが」
「ああ、いいえー、自分たちはほぼ何もしていなかったようなものなので、それはそちらの皆さんが受け取るべきでは……?」
「でも、横入りになってしまいましたし……これも何かの縁でしょう」
 バグプロトコルとはいえ、ゲーム準拠のキャラがベースになっていたらしいネームレスベイビーズは、きっちりアイテムドロップしていたらしい。
 だが、サマエルがわざわざ歩み寄ったのは、ドロップ分配にかこつけて適当に顔を売りつつ、近くにいてもさほど不自然に思われぬためである。
 彼女のスタンスとしては、遠目に見るともなしに見る、基本的には手助けとかはしないが、頼られればその限りではない。いわゆる、ベガ立ち勢である。
 仮にここが現実の世界であれば、もっと積極的に過保護なレベルで手を貸したかもしれないが、この世界は彼らにとっての娯楽の世界。
 遺伝子番号焼却の憂き目の芽はひとまず摘み取ったのだから、彼らにとっての娯楽を奪うような事をサマエルは望まない。ゲーム的な死を迎えることですら、傍観する腹積もりである。
 無論、救世主を自称するだけあって、頼られたら積極的に手を貸すつもりだ。
 今は冒険者を装う姿ならば、相応の互助精神はあって然るべきだ。
 歪んだ愛、トンチキな人類救済プログラムさえ絡まなければ、サマエルは物腰の柔らかなグラマラスな女性なのである。
「では確かに。私はもう少し、この辺りにいますので、困った時はお互いに助け合いましょう」
 表情はちょっと虚ろだが、声だけはにこやかにその場を離れるサマエルの様子、そのスタンスを読み取ったベティは、さて自分はどう出るかと一瞬考える。
 遠くからサマエルが見ているなら、本来ここに出現するようなMOBは心配ないかもしれない。
 ならば、自分はより近場でリオン一行を警護できればいいか。
「家につくまでが、遠足。キミ達の依頼が終わるまで、つきあう」
「え、いいんですか? 薬草探しなんて、もう必要ないんじゃないかと……」
「薬草、採取。草を見るの、久しぶり」
「えっ……そんな都会から?」
「リオンちゃん、リアルに言及すんのはマナー違反やで」
「あ、ごめんなさい」
 冒険者3人に同行する形でいつ危機が訪れてもいいよう備えるベティは、恐縮したように頭を下げるリオンに対して何も言わずふるふるとかぶりを振る。
 気にするなという意思表示でもあるが、実のところ判然としない記憶の話だったからだ。
 ベティ自身は、きっとダークセイヴァーの寒村生まれだったはずだが、空白の記憶をはさみ、気が付けばサイバーザナドゥのスラムで生きていた。
 無意識で世界を渡った、というには、記憶があべこべだったし、フラスコ越しに外を見た記憶が、今のベティという肉体を成しているのが、元来生まれたオリジナルの肉体ではないことを示唆している気がしていた。
 だから、ゴッドゲームオンラインの草原を目の当たりにしたとき、懐かしいという感慨はあまりなく、こういうものなのかという再認識が強かった。
「ザナドゥのダストエリアじゃ、生えて、ない。どこを、採る?」
 痩せた土地、痩せた植物、食用かどうかなど問題ではなく、煮炊きをしてそれで糊口をしのいだ。だがそれは、自分ではない自分のうっすらとした記憶。
 目ざとく薬草を発見しはしたものの、植物採集はあまり経験がない。
 シャベルにもナイフにもなる忍具クナイを手に、しばし思い悩む。
 そこへ、救世主がやってきて、すぐ近くを徘徊していた青いプルプル、アシッドスライムを剣先で薙ぎ払った。
「セイヨウタンポポに似ていますが、青い花弁はこの土地特有のものですね。野草の中では、根が太く、そう太く……深い……すごく深い。ので、すべて引き抜くのは難しいでしょう。生薬として用いるならば、全草に薬効があるそうですが、食用としても知られています。お役に立ちましたか?」
 唐突にやってきて、ネットで調べたような話をつつーっと、時に妙に熱っぽく言わされているかのような口調で説明するサマエルの存在は、まさに渡りに船。歩く植物図鑑であった。
 結構な長台詞を前に途中、獣耳をぱたんと閉店状態にしていたベティだったが、食用という言葉には耳ざとく反応した。
「食用は、うれしい」
「よかったです」
 基本的にお金も食料もなかった時期のほうが多い、今もってそれほど持っているわけではないベティにとって、食用かどうかは大事なことであった。
 ほんのり頬を緩めるベティに、誰かを救えたことに安堵したように動かない相好を緩めるサマエル。
 いろいろ考えて、本当に値が強い植物なので、根の収穫は諦めつつ、花とその周囲の葉を幾つか収穫、しまい込む。
 ある程度の数を確保すると、3人とも合流する。
 この草原は背が高く、屈みこむと周囲が見えなくなるため、何人かで固まって周囲を確認するものと採取する者とで役割を分けたほうが安全である。
「いっぱい取れましたね!」
「タンポポなら、食べられる。さっき、調べた」
「タンポポか……田舎では婆ちゃんがたまに料理してくれたけど、これ青いんだよな……懐かしいけど、使えるんだろうか」
 集合場所では、調薬スキルのあるサバミソ氏が、道具を広げてポーションの作成に移っていた。
 普通のタンポポは青くないのだろうか。
 偏見のないベティは、採ってきた薬草の葉をむしって生のまま齧ってみる。
 つんとくる花の鮮烈な香りと、青臭さ、苦み。だが、気になるのは香りくらいで、癖のない瑞々しい触感と味わいである。
「けっこう、いける」
「いや、生でそれは行かれへんわ。腹壊すで」
 一応は僧侶のネモが呆れたように肩をすくめるが、サバミソ氏は懐かしそうに笑う。
「いやさ、新鮮ならサラダもありだって。でも天ぷらとかが無難かな。細かく刻んで緩く伸ばした味噌と炒め合わせてもいい。ホラ、ふき味噌みたいにさ。知らない?」
 若干舌が肥えているのか、サバミソ氏はなかなか料理にも造詣が深いらしい。だが、趣味が渋すぎるのか、女性陣にはあまり馴染みがないらしい。
 ただ一名を除いては。
「サラダ、天プラ、タンポポ味噌……ミソ?」
 ベティは忍者である。忍者食にも当然のように知識があるが、いかんせんその知識は偏りがあって不完全。
 味噌と言えば、忍者の携帯食、兵糧丸と合わせて日持ちを良くするべく味噌に鰹節や梅干を練りこんで表面を炙って焦げ目をつけた味噌玉が知られている。
 だが、サイバーザナドゥに昔ながらのミソはない。再現されたバイオミソなるものがあるのみである。
 ああ、夢にまで見る、焼き鯖ほぐし身入り味噌玉とは、どのような桃源郷を見せてくれるのか。
「そんな目で見ないでくれ。僕も長いこと、味噌を食べていないんだ。くっ、いつかはこの世界でも出会ってみたいぞ、味噌……! あっ」
 悔しさに拳をぐっとした瞬間、油断したサバミソ氏の手元で、調合用のフラスコが破損する音がした。
「うわぁ、やっちまった! これじゃあ、ポーションが」
「お困りですね?」
「うわぁ!?」
 慌てふためくサバミソ氏の背後から、無表情の救世主が、【アンチクライスト・マザーマシン】によって薬品調合キットをご都合主義的に作り出して出現した。
「なんて奇遇な!」
「いやいや、タイミング良すぎやろ」
「さあ、私に任せて、ブルーポーションに必要な素材を調合するのです。何も恐れることはありませんよ」
「いや、恐れてはいないんだけど……」
 優しい手つきでサバミソ氏の後ろから手取り足取りといった様子でポーションづくりを手助けする様は、その、なんというか、確実にあれであった。
 その背に感じるものは、間違いなく豊満であった。
 ただし、リオンやネモに白けた目線を送られるのに脂汗を書きながら作業するサバミソ氏とは裏腹に、サマエルの目の奥は静かに据わっていた。
 着実に、不安の芽のようなものが迫っている。そんな気がしていたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
攻略パターン、予備動作、データがあってパターンがある
これがGGO、これがやりこみ……!
この世界のルールをよく分かってる人にすぐ会えてよかったよ!

現実の世界と同じようで、現実とちがう部分、パターンがあるみたい
勉強のためにもいろいろお話聞かなくちゃ

ミフェットは戦うの得意じゃないから、応援、えーと、警護!するね
攻撃を頭の触手でガードしながら、ほかの人にミフェットがおぼえた情報を教えるよ

飛び掛かる敵の動きや、出てくるタイミング、やっつけ方も頭のすみっこに記録して
これがエンカウントりつ?ってやつなのかな それともPOPのタイミング?
敵も地形も薬草も、同じパターンがある不思議!

アドリブ、連携、大歓迎だよ


夕凪・悠那
ボクらって直接この世界に来たからチュートリアルも何もしてないんだよね
というわけで、軽く[ハッキング]して[情報検索]&[情報収取]
wikiとかあるか知らないけど、プレイヤー間のメッセージを軽く攫うぐらいならいけるでしょ

通常の調合レシピぐらいはある程度纏められてるはず
ついでに他のポーションの素材になる草も採取しておこう
寄り道はオープンワールドの華だよ

どうせだから納品分以外にもポーション余分に作っといた方がいいよ
無駄になるアイテムじゃないしさ
ネモさんはまだヒールの使用回数少ないみたいだからストックしておくと安心
さあさあ、サバミソさん
調薬のスキルレベル上げも兼ねてどんどん作ろう



 本来はもう少し先のダンジョンで遭遇する筈だったネームレスベイビーズの出現により、背の高い草の生える草原エリアは、おどろおどろしい雰囲気であったが、それは猟兵たちの助けもあって撃退することができた。
 猟兵たちの中には、この世界の出身の者もいて、優れたプレイヤーとしての実績を持つ者ならば、この平原は庭先も同然であり、猟兵の力も備わり、ネームレスベイビーズの攻勢も恐れるに足らない。
 あっという間の早業で攻略してしまったその手際には、舌を巻くしかなかった。
「攻略パターン、予備動作、データがあってパターンがある。
 これがGGO、これがやりこみ……!
 この世界のルールをよく分かってる人にすぐ会えてよかったよ!」
 やりこみみせたー! という場面を運よく目の当たりにできたミフェット・マザーグースは、バグプロトコルの気配が完全に消えた後も、興奮冷めやらぬといった様子で、主にメタ的な視線からの驚きを口にする。
 この世界以外からやってきた猟兵にとってみれば、この世界は現実と寸分たがわぬ違和感のない世界だが、逆に言えば、そういった世界にもプログラムが当たり前に形を成していて、あまつさえ彼らはプレイヤーが把握できる類のパターンを有しているのだ。
 人でいえば、朝は必ずコーヒーといったような、もっとわかりやすいものが、この世界のMOBものには備わっているという事なのだろう。
 ただ、肝心のやりこみプレイヤーは、通りすがりに助けに入った程度のもので、今は姿が見えない。
 ここから先は、ミフェットがリオン達を守ってあげなくてはならない。
 しかしながら、初めて挑戦する世界について、情報は少ない。
「現実の世界と同じようで、現実とちがう部分、パターンがあるみたい。
 勉強のためにもいろいろお話聞かなくちゃ」
 だが、リオン達に尋ねるにしても、それはちょっと不自然に思われやしないだろうか。
 勢いに任せてやってしまえば早いのだが、少し考えてしまう。
「そういえば、ボクらって直接この世界に来たからチュートリアルも何もしてないんだよね。いきなり放り出される系のゲームもあるけど……何事も挑戦してみるもんだよ。魔法の言葉が通用するかな?」
 いつの間にかミフェットの近くにいた夕凪悠那は、うっすらと得意げな雰囲気で口元を緩める。
 その手が虚空へ向かって突き出されるのは、何かへのアクセスを思わせるが、当然そこには何もない。
「魔法の言葉?」
「そう、この世界の人たちは、持ってて当たり前の、これさ『ステータスオープン』」
 そういえば、それがあった。と、ミフェットは虚を突かれたように手をたたく。
 だがしかし、猟兵たちはその数値や装備品など、色々と規格外のものを持っているし、そのクラスやレベルは、果たしてこのゲームに対応しているものなのだろうか。
 悠那は、自分にしか見えないそれを流し見つつ、まあそれはそれとして、電脳魔術士としてシステムにハッキングを試みる。
 この世界はあくまでもゲーム。その組成はプログラムであるはずだが、これほど精巧な非現実は、どれほど緻密に編み上げられているのか、想像もつかないほどであるが、システムが呼応する限りは、そこにアクセスの糸口があって然るべきだろう。
 諸々のアクセス権限をかすめ取るなどという暴挙が目的ではない。
 ずん、と頭に重たいものを乗せられたような感覚が、悠那の負担を思い知らせるものだが、さすがに攻略wikiの類は、この世界からはアクセスできないらしい。
 考えてもみれば、それを必要とするであろう統制機構の世界は、こちらからはアクセスできない。
 では、ゲーム上にある交流サービスは何かないのか。たとえば、全チャとかさ。
 いや、ああいった公開チャットは、過去ログがすぐに流れてしまい、仮にあったとしてもその量は膨大で、サルベージに時間がかかる。
 そして、リオン達が次に目指すべき薬草の採取及びブルーポーションの作成に関する、調合全般のデータは、仮に存在したとしても、そのレシピを軽々しく公開するだろうか。
 じゃあ、もっと踏み込んだあたり……個別チャット、いわゆるウィスパー辺りに、生産メインでやってる人同士での会話を拾うのが確実か……。ちょっとマナー違反だが、こちとらルール無用で飛び込んできた訳なので、見逃してほしい。
 そしてそれは、言うだけなら簡単だが、実現はなかなかハードである。
「ちょっと時間かかりそう。ミフェット、キミはみんなをお願いね。あとで面白いのがわかったらいろいろ持ってくよ」
「わかった! 戦いはできませんが、警護はできますー!」
 さすがに膨大なテキストを当たるのにはちょっとだけ時間を要するため、ミフェットは先んじてリオン達を他の敵性MOBから守るべく草むらへと元気に走っていく。
 悪霊の気配が去ったことで、この場を離れていた小さなコボルドやスライムの姿も徐々に増えている。
「みんな、敵が出てきたみたい! ミフェットも守るから、周囲を警戒して!」
「わ、わかった! 大丈夫なの?」
 元気よく注意を促すミフェットは、見た目には少女である。只ならぬ存在であることは先の戦いでも見て取れたが、リオンは当たり前のように彼女を心配する。
 それが杞憂であることを示すように、ミフェットはブラックタールのボディ、その髪に擬態した液状の身体を変化させ、触腕を作り出して、リオン一行が採取ポイントとして選んだ地点を囲うようにして展開させる。
 と、そのすぐ後に、草むらが不自然に揺れて、何かが近づいてくるのがわかった。
「くるよ!」
 ミフェットの触手にとびかかったのは、麦帆のような毛皮をした丸っこくて小柄なコボルド。デミコボルドと呼ばれるこの草原の敵キャラクターであった。
 草むらに隠れるほどの矮躯と、みすぼらしいなめし皮の鎧、そして磨いた石のナイフやピッケルで奇襲を仕掛けてくるのだが、それほど頭がいいわけではなく、集団行動もほぼしない。どうやらこの草むらでお互いの姿が見えなくなるかららしい。
「とびかかる動き、出てくるタイミング、攻撃のスキ……くりくり尻尾!」
 ちょっとかわいい寄りのデザインながら、ミフェットは襲い来るコボルドの動きを懸命に覚えていく。攻撃の瞬間、武器を振り下ろすとともに、尻尾がくりんと跳ねる。
 が、それはミフェットの触手に食い込んで、逆に動けなくしてしまう。
「おしゃ、まかしとき!」
 そこへ、手すきのネモがこん棒をバットの様に振りぬくと、コボルドは目を回してその場にダウンする。
 打撃によるスタンが決まったらしい。そのままとどめを刺すと、コボルドは目元をバッテンにして力尽き、消えてしまう。
「ふう、ガンガード決めてもらうと、やりやすいな」
 敵を仕留めたネモやリオンに、ミフェットは自分が観察して覚えたあれこれを伝えていく。
 まだまだ序盤の敵に後れを取ったりはしないと思うが、情報があるに越したことはない。きっと、ここいらの敵には問題なく勝利できるはずだろう。
 そう確信した辺りで、悠那が長い旅から戻ってきたようだ。
「大量大量。いっぱい見つけてきたよ」
 そうして悠那から齎された情報は、実に膨大なものだったが、それらをゲーマーよろしく掻い摘んでいくと、ここいらの草原で入手できる素材は、ブルーポーションのみに限らず多岐にわたり、ブルーポーション用の青い薬草も、実は分布に秘密があるらしかった。
 というのも、この場所に生息するアシッドスライムの老廃物を肥料代わりに変異した薬草が青い薬草であるらしく、さしあたりアシッドスライムの行動範囲には、青い薬草が生えている場所が多いらしい。
「敵も地形も薬草も、同じパターンがある不思議!」
「青いやつに関しては、これくらいなんだけどさ……ね、どうせだから納品分以外にもポーション余分に作っといた方がいいよ。
 無駄になるアイテムじゃないしさ」
 多岐にわたる素材とレシピ。その情報とともに、悠那がインベントリから引っ張り出したのは、ここに合流するまでに拾ってきたものであった。
「こんなにたくさん……いいんですか?」
「寄り道はオープンワールドの華だよ。さあさあ、サバミソさん。
 調薬のスキルレベル上げも兼ねてどんどん作ろう」
 集めた素材を、みんなで手分けして、吟味しつつ仕分けしていく。
「苦い根っこ……不眠のポーションの材料。酸性の粘液……除光液? あれって中性の有機溶剤だったきがするけど。ショウガ……ショウガって、あのショウガ? 何に使うんだろう。煮物?」
 集められた素材の数々に、何の役に立つのかもわからないものもたくさんあって、一見するとガラクタの山の中で、しかしながら誰もが目を輝かせていた。
「鯖の煮つけには、ショウガは欠かせない……けど、ほんとに何に使うんだこれ。アイテムデータにもショウガとしか書かれてないけど」
「ショウガ風味の味付きポーションとか、のど飴とか、そういうのに使うらしいよ。魔法が封じられたとき、のど飴が効くんだって」
「いや、味付きて、のど飴て……そんなんで、術封じ解除できんのん?」
「ネモさんはまだヒールの使用回数少ないみたいだからストックしておくと安心じゃない? 大事な時に使えないと困るよね」
「うーん……でも、売ったほうがゼニに……ゼニやぁ」
 ふいに齎された豊穣の予感。それは、パーティの目をドルマークに染め上げてしまうやもしれなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
ふむ、お堀に跳び込むというのはある種の神事と言えるのだろうか。
思想信条に係るものは兎角封じたいようだね。

さて、薬草の方は詩乃達に任せて警護がてらリオン殿を中心に剣を教えようか。
次の戦闘に備えて鍛えておくべきでもある。
踊るような動きで相手を翻弄し、鋭く刺突を入れる。戦いは美しくあれ、地味さに花を添えよう。

しかしサバミソか、腹の減りそうな名だね。時間もあるし食事を摂っておきたいところだ。食べれそうなものも採取できるだろうか。


大町・詩乃
【神社猫】

この世界では甲子園球場が閉鎖されたのですか!(びっくり)
いくらなんでも統治機構やりすぎでしょう!?
もう道頓堀に飛び込むおじさんも見られなくなったのですね💦
高校野球はどうするのでしょうか?

それはともかく《神使召喚》を使って、眷属神さん達に薬草を探してもらいましょう。
乱獲はダメですから、ほどほどに採取してリオンさん達にお渡ししましょう。

世界知識と薬品調合でサバミソさん達のポーション作成もお手伝いしますよ。

敵性MOBが出てくればリオンさん達が経験値を稼げるように、八極門や太極拳(功夫・衝撃波・見切り)を駆使して、倒さない程度にダメージを与えて、リオンさん達が止めを刺せるようにしますよ~。



 バグプロトコルによる想定外のエンカウントは、猟兵たちの活躍によってその消滅を確認した。
 しかしながら、不吉な予感はまだ予断を許さぬとばかりに猟兵たちを突き動かす。
 グリモア猟兵は胸騒ぎを覚えていたらしいが、現場に来てみればやはり予感めいたものを感じずにはいられなかった。
 とはいえ、その時が来るまでに備えていれば済む話で、ようはリオン達冒険者一行に協力して初クエストの行く末を見守っていれば、おのずとその答えが向こうからやって来る筈である。
 なにしろ、予知に見たのはこの三人の冒険者、プレイヤーのみなのだから、予感はきっとこの三人の周囲に降りかかるに違いない。
 というわけで、彼らの薬草採取及び、ブルーポーション生産・納品クエストを手助けすることとなったネフラ・ノーヴァと大町詩乃は、先ほどと同様、チームを組んで3人と行動を共にすることにした。
 とはいえ、基本的に薬草探しはあまり経験がない。
 この背の高い草むらのあちこちに自生している薬草は、その辺を歩いていれば苦労せずに見つかるという話だったが……。
 件の探し物である青い花をつけるタンポポによく似た薬草は、さしもの猟兵とはいえ二人とも見たことはない。
 ネフラはもとより、詩乃も季節の山菜取りくらいしか覚えがない。
 おいしいタラの芽ならすぐに見つけられるのだが、さすがに地元ではない見知らぬ草原を我が庭のごとくというわけにはいかない。
 ここは足を使って探し回りつつ、リオン達を警護しながら何か手を考えるか。
 と、二人はリオン達と談笑しながらもいい考えを模索する。
「ええっ、この世界では甲子園球場が閉鎖されたのですか!
 いくらなんでも統制機構やりすぎでしょう!?」
「せやねん。年々、楽しみが減って、いよいよやったわ。もう紙コップをメガホン代わりに、応援とかようできんねや……かなすい」
 普段は陽気なムードメーカーのネモのちょっとした身の上話を聞いて、詩乃は素っ頓狂な声を上げる。
 喋りから伺えるその悲しみは、明るさを差し引いても何か心の灯火を奪われたようにも見えた。
 一定以上の進歩や発展をよしとしない統制機構の施策は、年々その締め付けを厳しくしていき、リオンの愛する文学や、ネモの生きがいであるやきう、そしてサバミソの住まう都市圏では食事に至るまで色味を失いつつあるのだという。
「もう道頓堀に飛び込むおじさんも見られなくなったのですね💦
 高校野球はどうするのでしょうか?」
「中継無しの無観客試合。何の罰ゲームやねんこれ。スポーツに作られたドラマはいらん。けど、これじゃ何も生まれへんわ。
 あ、道頓堀は、一度総ざらいされて、あのお店の白いおっさん3体くらいドザエモンとして揚がったらしいで」
「それはそれで、いったい何があったんでしょう」
 3回も優勝したのか……やっぱり別世界なんですね。と、妙なところで感心してしまう詩乃だったが、
「ふむ、お堀に跳び込むというのはある種の神事と言えるのだろうか。
 思想信条に係るものは兎角封じたいようだね」
「革新的なものに至りそうなものは、ことごとくという感じですね……なるほど、神事といえば、いいことを思いつきましたよ」
 ネフラの言葉を反芻する詩乃は、そういえばという感じで、自らが神であることを思い出す。
 いや、忘れていたわけではないのだが、人々に親しむうちにたまに自分の立場を頭からすぽーんと抜いてしまうことがしばしばあるのである。それを忘れていたというのではないのか。
 とにかく、薬草探しについては、この地をよく知る者に頼めばよろしい。
 【神使召喚】で呼び出されたのは、彼女の眷属神。とりわけ、植物に造詣の深い者を呼び寄せた。
「この地には、青いタンポポのような花をつける薬草が生えるそうです。ちょっと探してきてくれませんか?」
 フレンドリーにお願いしてみると、彼女の眷属は恭しく一礼するとその姿を薄く見えなくしながらどこかへ飛んでいく。
「さて、これで薬草は、そのうち見てわかるようになるはずです」
「ええっ……あ、光って見えますね」
 眷属の捜索はなかなかに優秀らしく、人知れずその存在をわかりやすくするべく、目先の青い薬草をぼんやりとした光で目立つようにしてくれたらしい。
 喜び勇んで前に出るリオン。だが、ちょうどそのタイミングで、近くの茂みが揺れる。
「リオン、敵だ!」
「わわ、待って待って!」
 仲間の鋭い声にやや遅れて盾を構えようとするところに、丸っこい矮躯のコボルドが飛び出してくる。
 しかし、反応の遅れたリオンよりも早く、その後ろから伸びたネフラの棘のような刺剣の切っ先が、コボルドを一撃で仕留めて見せる。
「油断大敵だな。待ち伏せていたわけではないようだが、落ち着いていれば対処できた筈だ」
「は、はひ……すいません」
「これも経験だ。動悸がするだろう。その恐れは、剣で、技で補えばいい」
 どうやら同じ剣を扱う者として、警護の傍らでリオンに稽古をつける気になったようだ。
 優雅な姿勢を維持しつつ剣を振るうネフラの姿は、ある種の剣士としての指標になることだろう。
 今は駆け出しのリオン。その剣技は技というほどの積み重ねはなく、ただ泥臭く基礎を積み重ねているに過ぎない。
 もともとは剣など握ったこともない一介の学生に、その術理を学ぶ経験も、場数もなかった。
「薬草は集まったが、ポーションを生産する間は、リオン殿も手隙だろう?」
「なるほど~、そういう事でしたら、こちらも遭遇した相手を回しましょう」
 調薬スキルを使うための調合キットを広げるサバミソに集めた薬草を手渡しつつ、ネフラの意図を悟った詩乃は、自らも立ち上がり、ぱたぱたとチャイナの足元のほこりを払う。
 ポーション生産中のサバミソ氏を警護しつつ、現れた敵モンスターを適当にあしらい、それらを仕留めるのをリオンに任せる、いわゆるレベル上げの引率を買って出たのである。
「剣を扱うのに、特別な素養は必要ない。持っている奴は、勝手に強くなる。そうでない奴は、そうだな……まずは、振りやすい姿勢を身に着けることだ。リオン殿の剣なら、踏み込んで重さを利用してみてはどうかな」
「こう、ですか? 確かに、負担はかからないかも……」
「重さと速さを乗せるときは、腕を力ませないことだ。剣はしっかり握っていいが、斬り付ける瞬間を意識すること。踏み込んで前に出る事と、上半身で腕を押し付けるように下す……そうだ。あとは、戦いの中で、動きの中で、その姿勢にうまく移行すれば、効果は大きく変わるはずだな。そのためには、相手をよく見なくてはな」
「ええとぉ……」
 ネフラの足運び、言動、それらを見て聞いて、懸命にその技術を吸収しようという気概は、努力家を伺わせる。
 その間にも、ネフラやリオンに襲い掛かるスライムやコボルドを、ネフラは滑るように動いて、剣の柄でしたたかに打ち付ける。
 出鼻をくじかれたモンスターがたたらを踏んでいるところを促され、リオンが教えられた内容を踏まえて斬り付ける。
「ど、どうでしょうか?」
「ふむ……まあ、時間はいくらでもある」
「あ、はい、そうですよね」
 ふっと笑ってごまかすネフラの態度に、まだまだ目標は遠いことを思い知らされる。
 その様子を、詩乃は、足元に這い寄るスライムを蹴り上げ、体重を乗せた肘を突き入れつつ、ほほえましく見守るのであった。
 いい具合に手加減されたモンスターは、リオンやネモのレベル上げのために提供される手はずである。
 いい具合に加減できなかったモンスターの形跡が、ドロップアイテムを残しつつ詩乃の周囲に散らばっていたりもしたが。
 そうしてしばらく軽快だが濃密な戦いを繰り返したのち、いつの間にかポーションの作成は終わっていたらしい。
「お、サバミソの仕上がりやな」
「サバミソか、腹の減りそうな名だね。時間もあるし食事を摂っておきたいところだ。食べれそうなものも採取できるだろうか」
「とってサッと、というのはなかなか……こんなのしか見つからなかったな」
 サバミソ氏が調合の傍ら、周囲の草むらから採取していたのは、大きめの葦……ではなく、砂糖の原料にもなるという、サトウキビらしかった。
 南国の人間は、これの表皮を削り取り、おやつ代わりにかじりつくというが、めちゃめちゃ繊維だらけで、ぶっちゃけ食用ではない。
 脆くなった竹のような筋ばった繊維を咀嚼して甘い汁を堪能したら、吐き出すというワイルドな嗜好品である。
「……疲れた体には、糖分か。合理的だな」
 気品のある見た目だが、ネフラは多少ワイルドでも気にしない。バリっとサトウキビの繊維を嚙みちぎると、糖分補給を手早く済ませるのであった。
「なんであのねーちゃん、あんなワイルドなん?」
「そういう方だからとしか」
 疲れた顔つきに、空気だけは和やかに、一行は町へと戻る道へ着くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『竜牙兵』

POW   :    竜牙兵の剛撃
単純で重い【武器】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    竜牙兵の連撃
【武器】【シールドバッシュ(盾による殴り)】【蹴り】で攻撃し、ひとつでもダメージを与えれば再攻撃できる(何度でも可/対象変更も可)。
WIZ   :    竜牙兵の真撃
自身が装備する【武器】から【闘気の刃】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【回復不能】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 リオン一行の冒険もいよいよ佳境。
 いや、彼らの冒険でいえば、それはまだ序盤も序盤。何しろ初クエストなのだから。
 しかしながら、猟兵たちの入れ知恵や手助けもあって、初クエストとは思えないほどの高品質なブルーポーション。さらには、草原で取れるような素材ではだいたい限界と言われるくらいの、数多くの品目の生産アイテムまで生産して、結果的にクエスト報酬は大幅に色を付けてもらえることとなった。
 中には、珍しいレシピもあったらしく、本来は序盤では作りえないようなデバフポーションなどもあって、リオン達はギルドを出るころには、ちょっとした話題をさらう形となってしまった。
 自分たちの功績というわけでもないため、終始恐縮する一行は、しかし得られた報酬が思った以上に高くて達成感と充実感にほくほく笑顔となっていた。
 だが、ちょっとばかりやりすぎたのかもしれない。しょっぱなにしては、いい結果を出し過ぎた。
 そんな冒険者は、往々にして目をつけられてしまう。
 ほかの冒険者、厳密にいえばプレイヤーにではない。
 あまり知られていない情報で、遭遇したプレイヤーがそもそも少ないレアクエストというものがある。
 そういうものは得てして、特定の依頼から派生する形で発生する、いわゆるチェーンクエストである場合が多い。
 今回もその類だったのだろう。
 以来のブルーポーション+αの納品を終え、ギルドから出たリオン達は、唐突に見知らぬ若者に話しかけられる。
 困り顔の若者はどうやらプレイヤーではないが、誰かに頼まれて手紙を渡すだけの役割を担っていた。
 その内容は、何者かによる呼び出し。特定の時間に、町の裏手にあるさびれた通りに来るようにという、シンプルなものだった。
 どう考えても怪しい。しかし、こういったチェーンクエストの経験はなく、調べた限り、ギルドのプレイヤー交流用の掲示板にも情報は転がっていなかった。
 じゃあ自分たちが遭遇したこのイベントは、レアなイベントなのではないか。
 浮かれ気分と、初クエスト達成の高揚で気の抜けていた一行は、その危険性など微塵も考えることなく、呼び出しに応じるべく、件の広場へと足を運ぶことになった。
 待ち受けていたのは、
「おう、ヒヨッコども……お前ら、いい品を作るらしいじゃねぇか。ちょっと俺たちにも恵んでくれねぇかい?」
「うわぁ……まさか、こういう感じのイベントとはなぁ」
 薄暗い、人通りもほとんどないような裏道を抜けた先の広場には、筋肉質で禿頭の大男が、抜身の曲刀を片手に待ち受けていた。
 ガラの悪い男、というには、やけに手慣れた手口と、その迫力ある見た目、そして冒険者だろうと構わないで襲い掛かろうという豪胆さ。
 実力がなくてはこうはすまい。という予感がひしひしと伝わってくる。
 初見殺しイベント。なるほど、情報が出回らないわけだ。たしかに、この類の情報が溢れてしまえば、対策ができてしまう。
 余計な気を回した先人のプレイヤーたちは、あえてこの情報を秘匿していたのかもしれない。
「でも、きっと、乗り越える意味のあるイベントだと思う」
「せやな。嘗められとったら、気が収まらん。いてまお」
「マジか。今更、僕だけ逃げるとか言えない空気じゃないか」
 ここまできて、イベントを味わわないのは不作法。すっかりボウケンジャー気質に支配された一行は、巨漢の荒くれの能書きに耳を貸そうと戦闘態勢に入る。
 が、異変は直後に現れた。
「ははぁん、俺とやろうってのか? いい度胸だzzzzzzzzzzzz」
「あれ、バグった!?」
「まって、様子が変だよ!」
 荒くれの背後から次々と姿を現す薄汚れたチンピラたち。しかし、不自然に荒くれの頭目が体を痙攣させたかと思えば、部下たちが黒い霧を纏い、その体から巨大な牙を生やし、バタバタと倒れていくではないか。
 奇妙なのは、その凄惨な光景にも誰も目を止めないこと。
 倒れたチンピラの背中から伸びたままの大きな牙はやがてめきめきと形を変えていき、鎧を着込んだ骸骨の戦士へと変化していった。
 丸盾とバスタードソードで武装した骸骨の戦士。それは、巷で聞くようなスケルトンとは、また一味も二味も違う、独特の風格を纏っていた。
 ただの骨ではない、それは、竜の牙から生み出された竜牙兵。
『ははぁん、俺とやろうってのか? いい度胸だぜ!』
 まるでテープを巻きなおしたかのように、荒くれの頭目が鼻を鳴らす。
 彼の周囲には、その辺のごろつきなどではなく、バグプロトコルとして書き換えられた恐ろしいほど強力な竜牙兵がたむろしている。
『野郎ども! 生意気な冒険者どもを、たたんじまいな!』
 安っぽい号令は、しかし、その声の軽さの何十倍もの絶望を、3人の冒険者に与えていた。
サラ・ノースフィールド
あらー。

ちょっと拙いですね。何やっても他人を巻き込んでしまいます。
街中でメテオも落とせませんし、

箒さん箒さん、冒険者の方々を敵の射程外に運んで下さい。
皆さんにも早く遠ざかるようにお願いします。
他の猟兵に守られているなら、それでもいいですが。

さて、箒さんがいなくなったので私がピンチですね(笑
ナイトフォグで姿を消し、霧を飛ばして足止め攻撃もしつつ、
建物なり塀なりの上に登りましょ。こそこそと。

猫の真似ではありません。にゃー。

うーん。
回避の魔法とか、安全地帯を作るものとか探さないと、
今後まずそうですね……結界術でユーベルコードは防げませんし。
とか考えながら、霧をポコポコ飛ばしてお茶を濁します。にゃー。


ルナ・キャロット
初見初心者ちゃんがあわあわするのを見て楽しもうと思ってたのに…!やっぱりバグは許せません!(げすうさぎ)

ユベコで透明のまま不意打ちして敵の数を減らしていきます。
余裕があればちょうど良くダメージを与えて、後一撃あたればダウンしたり倒せたりするように敵のHPやダウン値を調整しておきます。(やりこみ兎)
初心者ちゃんが倒せれば経験値とか美味しいですしね!

ある程度減らしたら直接助けに行きます!ちやほやされたいのでステルス解除です!
危ないところにジャンプで登場してシャドウパリィで颯爽と助ける!かっこいい!
安心させつつ、ゲームも楽しんで貰いたいですね。(先輩面兎)



「あらー、あらあら……」
 攻略勢が意図的に、その情報を秘匿したと思われる初見殺しクエスト。
 納品クエストから連鎖して巻き起こったそれは、ゲームを楽しんでほしいからこそ先達からの悪戯心で隠されていたものであった。
 それだけに、失うものはほとんどなく、また失ったところで、序盤なら十分に巻き返せる可愛いものという認識であった。
 そう、これは本来は、これからの冒険注意しろという、警告とサプライズを込めたイベントだったはずなのだ。
 だというのに、どこの神の悪戯か、初クエストの納品を終えたリオン一行を襲ったのは、バグプロトコルによるうらぶれた町の裏手の襲撃。
 旧市街とも言われる、初期リスポーンの町の中でも家屋の老朽化が進んで町の変遷とともに廃れていったこの区画は、浮浪者や表向きに商売のできないものが居たりするちょっと治安の悪い場所だが……。
 今ほど治安が悪化したことは、この町の歴史の中でもそうそうあるまい。
 倒せる敵として登場した本来のイベントキャラであるチンピラを食らうようにして出現したバグプロトコル、竜牙兵の群れが次々とその長剣を持ち上げるしぐさを、サラ・ノースフィールドは空飛ぶ箒の上から見下ろしていた。
 サラは、リオン一行がギルドに納品しに行っている間、このゲーム世界の町々を少し見回りしつつ、暇を見つけてリオン達にも注意を向けていたのだが、まさかイベントの真っ最中にバグプロトコルがやって来るとは思わず、とっさの対応ができずにいた。
 それに、うらぶれているとはいえ、町中というのがまずい。
「ちょっと拙いですね。何やっても他人を巻き込んでしまいます。
 街中でメテオも落とせませんし……」
 彼女が扱う魔法の中で、集団敵を一掃するのに適したメテオストライクは、その名の通りに隕石を降らせる類のものだが、この世界のオブジェクトはゲームと言ってもその多くが無茶すれば壊せてしまうし、かの草原では多くの冒険者の痕跡がそのまま残っていたのを考えると、町中で下手にド派手な魔法を使うリスクは大きい。
 ただでさえ、悪魔召喚にうっかり成功して変わり者扱いされているのに、町中でそんなユーベルコードをぶっ放したら、町に隕石を落とした魔女との誹りを受けかねない。
「あーもう、ナンテコッタイ! 初見初心者ちゃんがあわあわするのを見て楽しもうと思ってたのに……! やっぱりバグは許せません!」
 と、眼鏡を曇らせつつ真面目に考えるサラの視界に、リオン一行を建物の陰から覗き見つつなにやら地団太を踏む小さな人影を見つける。
 全身ウサギのスキンと課金装備で固めたルナ・キャロットは、装備のガチさというかギラギラ加減でちょっとだけ浮いていたが、そこはゲーム補正、通行人は多分気にしない。それだけに、猟兵からは幾分か目立って見えた。
 彼女もまた、ゴッドゲームオンラインの住人。この類の初見殺しは幾度となく経験し、時には辛酸を舐めさせられ、時には稼ぎに利用してウハウハしてたのもいい思い出だっただけに、初見の冒険者が引っ掛かるさまを楽しみにしていたのだが、こんな邪魔のされ方は前代未聞だ。
 許せん、許せんぞー。そして、結構なレア敵がこんな場所にィー。
 どうやら攻め手を欠いているサラとは異なり、ルナは積極的にリオン達を手助けするつもりらしい。
 そして、リオン達も、そうそう簡単には諦めない。何しろ命がかかっているようなものだ。それこそ、死力を尽くして生き抜くために、剣をバットを、杖を構える。
「闘志が残ってるのは、えらいですね。そういうことなら、本来は狩場に潜るためのスルー技ですが」
 そうして発動したルナのユーベルコード【ディープシャドウ・クローク】は、自身と武装を影で覆い、姿を隠すものであった。
 敵の目に見えなくなったルナは、そのまま双剣を手に、低く低く戦場へと踏み込んでいく。
 小柄な体躯をさらに小さく、つむじ風の様に駆けるその様は、今やだれの目にも留まらない。
 敵は竜牙兵。その装備や耐久力は並のスケルトンとは比較にならないが、伝説的なヴォーパルウサギさながらに的確に急所を突いていくその攻撃は、瞬く間に敵集団複数体を沈黙させる。
「一つ二つ……三つ、四つ……! おっと、私だけがもらっちゃ悪いですよね」
 はじめの奇襲でいくつか敵を取ったルナは、改めてリオン達のことを考えて、残り一撃で倒せる、というくらいのいわゆる削りに挑戦する。
 部位破壊やギリギリまでの削りは、経験がないわけではない。特殊な条件で倒さないと特定のドロップがないという鬼畜使用の敵を周回するために、この手の技術の習得には時間をかけたものだ。
「……よし! 初心者ちゃんが倒せれば経験値とか美味しいですしね!」
 竜牙兵の両膝を砕き、頭蓋にもひびを入れるギリギリの削り。
 さしもの初心者たちも、この所業には、何者かの助力を感じずにはいられなかった。
「だ、誰かが、私たちを助けてくれてる……のかも! みんな、倒せそうな敵は、こっちでもやっていこう」
 声を出して奮い立たせるリオン達を尻目に、にやりと微笑むルナは、調子に乗っていくつもの竜牙兵のとどめをリオン達に譲るのだったが……いつからか、その敵が一向に減っていないことに気が付いた。
「……ハッ! 皆さんは!? まさか」
「いーえー、やられてはいませんよ。しかし、敵が多くなったので、退いてもらいました」
 しまった、敵を残し過ぎて対処しきれなくなってしまったのか。と再び頭を抱えそうになったルナだったが、そこはリオン達が苦境に立たされたのを見計らったサラが、自身の箒を操作してササーッと退避させる手腕を見せた。
 代わりに、箒を派遣せざるを得なくなったサラは敵中に降りることになってしまったが。
「さて、箒さんがいなくなったので私がピンチですね」
「笑ってる場合なんですかね!?」
「まあ、私一人なら何とかしますよ」
 いまいち緊張感に欠けるようなほわっとした笑みを浮かべつつ、サラは慌てることなく【ナイトフォグ】により混迷の霧を身に纏って姿を隠す。
 奇しくも同質のユーベルコードを用いるが、そのスタンスはまるで逆。
 霧で姿を隠したサラは、いそいそと近くの塀によじ登っていち早く安全圏を確保する。術士であるサラは、竜牙兵とまともにやりあう気などさらさらない。
「あ、下がるんですね」
「猫の真似ではありません。にゃー」
 霧に包まれた何かが移動するのを感じて、ルナは苦笑いをこぼすが、直後にそのルナの近くにいた竜牙兵を霧が覆い、メキャメキャと音を立てて捻りつぶす。
 どうやら、サラの出す霧は、ただの防御のための術ではないようだ。
「これは、隠れてるほうがまずそうですね。ステルス解除です!」
 隠蔽を解き、ルナは霧の合間を縫うようにして敵陣を駆け抜け、そのついでの様に竜牙兵を斬っていく。
 そういえば、リオン達はどこへ退避したのだろう。
 もっと目立つように斬っていかないと、チヤホヤしてくれないじゃまいか。
 サラが箒で助けたというなら、きっと安全圏かもしれないが、怪我をして退かせたのだとしたら、あまり遠くへはいけない筈。
 先輩面するために目ざとくなっていたルナは、それはまさに、回復のために武器を手放していたリオンが竜牙兵に迫られているその瞬間を見落とさなかった。
 直前にサラの霧がその足を封じたが、すでに攻撃モーション。
「間に、合う! 私なら!」
 宙返りを打つような跳躍。からの、竜牙兵の剣の軌跡とルナの双剣とが合流、身体を大きくしならせるようにしてその軌道を変えるパリングを成し遂げる。
「そう、颯爽と! かっこいい!」
「ああー、かっこいいですねー」
「はうっ!?」
 着地を決めて、そのあまりの芸術性の高さに思わず自画自賛してしまったところに、サラの生暖かい合いの手が入ってきてしまう。
 また口に出してしまっていた。
 あ、パリングした相手は、その直後に霧に押しつぶされてポコンといなくなりました。
「大丈夫。こんな骨っこ、皆さんもすぐに対処できるようになります。このゲーム、もっと楽しんでもらいたいですよね」
「ええ、あ、は、はい……颯爽?」
 ちょっと照れつつ先輩風を吹かせることで誤魔化すルナに、守られたリオンは複雑そうな表情で首をかしげるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

儀水・芽亜
こんな街中までバグスクリプトが入り込んでいるとは、いよいよ末期ですね。
とりあえず、殲滅しますか。

「全力魔法」「範囲攻撃」深睡眠の「属性攻撃」「結界術」でサイコフィールドを展開。
竜牙兵達を眠らせて、味方は癒やします。リオンさんたちはこの結界の中にいてくださいね。一撃死でない限り大丈夫です。
さて、眠りに落ちた竜牙兵たちは、一体ずつ裁断鋏で首を狩り取っていきますか。
私に向かってくるなら、同じように眠りの淵に沈んで、私に首を狩られますよ。それを理解する知能があるやらないやら。
この結界は守りの陣。竜牙兵の完全殲滅は他の方にお譲りしましょう。
その代わり、リオンさんたちはしっかり守ってみせますよ。



 どこか饐えた匂いのする、最初の町の中でもうらぶれた地区。
 旧市街とも言われている場所は、町の発展につれて中心となる場所が移り変わり様式を変えていったという歴史があり、その変遷から置いて行かれた古いつくりの家屋が並ぶ旧市街は住みよい場所ではなく、今でも残っている古びた装いを気に入った酔狂者や道から外れた荒くれや、御法に触れる取引の場としても知られているところであった。
 ろくなことが起こらないともっぱらの噂だが、この場所を好き好んで選ぶ者もいる。
 必要とされているという意味では、この場所にもそれなりの価値があるようだ。
 しかしながら、いくら法外な取引がされることもあるという噂が立つとしても、モンスターが溢れかえるような事態に陥ったことはないはずだ。
「くう……やっぱり、並の骸骨じゃない、こいつら! たぶん、二発は受けられない!」
 大勢のチンピラから生えるようにして出現したバグプロトコル、竜牙兵の重そうなバスタードソードの一撃を、リオンは辛うじて盾で受け流すことに成功するが、たったそれだけで木板になめし皮を張っただけの盾は悲鳴を上げ、受けた腕は衝撃を流しきれず痺れを残し、反動でたたらを踏む。
 たったの一撃で、ステータスの差を実感する程度には、きっとこの場にふさわしくないモンスターであることが伺えるが、それでも彼らにはもう逃げ場が残されていなかった。
 ドラゴンの骨から生み出されたというそれは、アンデッドのスケルトンなどではなく、どちらかと言えば魔法生物にカテゴライズされるものだろう。
 無論、触媒が触媒であるためにアンデッドの特性もあるかもしれないが、そんな小難しい話よりもはるか以前に、レベル差が比較にならないのである。
「今度という今度は、ホンマにあかんかもなぁ。ヒールの意味がある相手かどうか……いざっちゅうときは、うちを囮にするっきゃないか」
「こんな時ばっかり、年上ぶらないでくれ。僕たちはチームだろ」
「誰が年増や、アホ。まあ、せやな。弱気ンなってたわ。リオンばっか前に立たせてたらあかんな」
 絶望的な状況を、どう切り抜けるかではなく、ネモとサバミソは、リオンを最優先で生かそうという悲壮な決断に至ろうとしていた。
 リーダーが居なければ、自分たちはこの場所に居なかった。どうしようもなくなったら、そうする覚悟が決まろうというところで、ふと、ふぅ、という大げさなため息が後ろから聞こえてくる。
 ゲームを始めたばかりの新米冒険者にあるまじき悟りにも似た老獪さが、いかにも気に食わないといった様子のわざとらしい、聞えよがしの嘆息に振り向いたネモとサバミソが見たのは、儀水芽亜。
 旅の吟遊詩人を謳うという謎の凄腕冒険者は、彼らの目線から言えば自分たちと同じようなプレイヤーであり、もっと高水準な熟練冒険者であるはずで、その登場は願ってもない助っ人であった。
「年老いたことを言うには、まだまだ冒険が足りていませんよね? 皆さんの冒険譚は、これからの筈」
 吟遊詩人を謳う、猟兵のその手には、一対の剣。精緻な意匠の施された護拳付きの群島にも見えるそれは、刀身に継ぎ目のようなボルトがあり、元が裁断鋏であるらしいことが伺える。
「こんな街中までバグスクリプトが入り込んでいるとは、いよいよ末期ですね。
 ──とりあえず、殲滅しますか」
 穏やかな笑みはしかし、リオン達を通り過ぎ、竜牙兵たちに向かう頃には戦う者のそれへと変じていた。
 この程度の修羅場は、幾度も越えてきた。
 戦いに対する高揚も、まして悦びもなく、静かな敵意が剣を握らせる。
「私たちも……戦います!」
「結構。でも、まずは傷を癒しませんと」
 恐れを抱きながらも、それでも戦いに立たんとするリオンの姿を、眩しそうに顧みつつ、疲弊する彼女をこれ以上無理させるわけにはいかないと、芽亜はユーベルコードを発動させる。
 淡い夕焼けのような鴇色の陽炎が戦場を覆う。逢魔が時を思わせるそれはまるで白昼夢。
 夢の力を用いた【サイコフィールド】の中では、夢と見紛う錯覚からか、敵対する者には眠りを、味方する者には癒しを与えるという。
 視線から外したはずの竜牙兵たちが、次々と膝を折り、あるものはその場に倒れこんでしまう。
「リオンさんたちは、しばらくこの中に居てくださいね」
 そして芽亜はというと、その手にした裁断鋏の軍刀を手に、膝をつき朦朧とする竜牙兵の首を刎ねていく。
「骸骨も、夢を見るんですかね」
 伸びた雑草を払うかのような、無造作な、それでいて容赦のない攻撃は、竜牙兵の危機感をあおったのだろう。
 動きを鈍らせながらも、眠りの空間の中を歩み寄ってくる。
「私に向かってくるなら、同じように眠りの淵に沈んで、私に首を狩られますよ。それを理解する知能があるやらないやら」
 しかしながら、サイコフィールドは、あくまでも守りの陣。
 効力の高い場所ならばいざ知らず、数の多い敵を一網打尽にするような代物ではない。
 だがしかし、効力の高い、即ち芽亜の周囲は鉄壁と言ってもいい。
 首級を挙げるならば、他に任せよう。しかし、その代わりにリオン達は確実に守ろうという意志が、そこにはあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミノア・ラビリンスドラゴン
元クエストのバグ汚染が、チェーン先にも感染していたということかしら?

連撃が決まる前に【グラファイト・スピード】の衝撃波を叩き込みますわ!
|聖剣士《グラファイトフェンサー》のスピードで距離を詰め、【戦闘演算】による最高効率で【アクセルコンボ】!
ドラゴン偃月刀で【蹂躙】ですわよー!
しっかりなさいな、あなたは|わたくし《ドラゴン》とお稽古したのでしょう?
たかが|竜の牙《ドラゴン・トゥース・ウォリアー》如き、恐れるものではありませんわ!

ポイっと投げ渡すのは「ミノア印の迷宮ミルク」!
わたくしの迷宮で販売している限定ドリンクの試供品でしてよ!
飲めば【瞬間強化】が得られますわ、一気にカタを付けますわよ!


結城・有栖
…悪霊の次はスケルトンですか。

「しかも、RPG終盤のザコ敵っぽいやつダネ。
場違いにもほどが有るネ」

ええ、無粋なバグにはご退場願いましょう。

まずはUCで【先制攻撃】で幻惑の雷さんを呼んで敵に向かって【範囲攻撃】です。
そのまま【催眠術】でお互いの認識を狂わせて同士討ちをさせてあげます。
後、初心者さんに下がるように指示しておきましょう。

同士討ちしてる隙に、想像暗器(クナイ)に【武器改造】で爆破の特性と聖の【属性攻撃】を付与し、【念動力】で射出して【追撃】。
アンデットなら聖属性はよく効くでしょう。爆風で纏めて浄化してあげます。

攻撃が来たら、【野生の勘で見切り】、ウィンドボードに乗って上空に退避。



 最初の町からすれば、俗に旧市街とも言われる区画は、人々にとって住みよい場所とは言い難く、ねぐらにする者と言えば、ガラの悪いチンピラか、表向きの町を追われた者であるという。
 目立って貧困にあえぐものはほとんどいないとはいえ、わざわざ好き好んで住みにくい区画に居を構える者もいるもので、こういった場所もまた町には必要と言われている。
 物騒な雰囲気のあるうらぶれた空気のある場所とは言え、それだってモンスターが溢れかえったというようなそんな事態は聞いたことがない。
 まして、ドラゴンの骨から作り出されたという骨の兵士が溢れかえるなど、誰が見ただろう。
 言ったって誰も信じはすまい。だが、
「ぐうっ……!! か、硬い!」
「こっちも、魔法があんまり効いてるように思えないな……」
 竜牙兵の溢れかえる路地裏。この悪夢のような光景を前に、リオン達一行は苦戦を強いられていた。
 初見殺しイベントのさなかに、唐突にチンピラからすげ変わったモンスターたちは、とてもじゃないがゲーム序盤の装備で相手できるようなものではないらしい。
 バスタードソードと丸盾で固めた装備は堅固であり、生半可ではない戦闘技術のスキを突くのは初見では難しく、それでもようやく一撃入れたかと思えば、リオンの剣は鈍い音を立て、打ち込んだ側にもかかわらず腕が痺れるほどの反動が返ってくる。
 これまでに相手してきた、どのモンスターよりも手ごわいが、ダメージを与えられることに関しては数少ない希望であった。
 その恐ろしげな気配は、おそらくバグプロトコルに違いないし、もしかしたら逃げるのが正解なのかもしれない。
 しかしながら、この町中で発生したバグプロトコルは、リオンやネモ、サバミソのみが狙いでないとしたら……もしくは、自分たちが倒れた後は、今度はこの町の人たちやプレイヤーが標的になるのではないだろうか。
 そう考えると、自分たちのような初心者は、まだまだこの町に数えきれないほど参加しているはず。
「私たちが見つけた以上……ここで食い止めないと」
「せやな。うちら以外にこいつらが向かったら、胸糞悪い」
 無謀は百も承知。しかしながら、だからこそ、ここで戦わねばならない。
 これが最後かもしれない。短い短いパーティ期間を予感させる中で、お互いの気持ちが一つになったリオン達の間に、ぱちぱちと乾いた柏手を打つ音が聞こえる。
「ご立派ご立派……でも、まだまだ。死地に赴くような覚悟を決める時ではなくってよ!」
 ふふん、と得意げに鼻を鳴らし、傍若無人とばかりに高級感と存在感を示すかのような佇まいで、長物を小脇に手を鳴らすのは、ミノア・ラビリンスドラゴン。
 ずしん、と長大なドラゴンの意匠がいっそ大げさですらあるドラゴン偃月刀を手に、その石突で石畳を打てば、腹に響くような音が一斉に竜牙兵たちの注目を集める。
 ダンジョンを統べる者にのみ許された、或は、尊大さが許容されてしまう程のその立ち姿は、あまりにも堂に入っていた。
 ドラゴンプロトコルとは、即ち舞台装置ではあるが、ともすれば役者がそれに足るには、大きく見得を切って立たねば成るまい。
 不遜結構。それが許されるのがボスキャラというものだ。
「あら、皆様の視線を総ざらいですわね。でも、見とれていると、危なくってよ」
 口の端を上げて暴力的に笑うその行為は、戦闘開始の合図でもあったが、敵意を一転に集めたまさにその瞬間、集団を別角度から金糸のような無数の雷が迸る。
 地上で雷の束が伝播するという、目の焼けるような瞬きは、ほんのひと時。
 ミノアが視線をかっさらった一瞬のスキを見逃さずに放たれたのは、いつの間にかそこにいた白い人影、結城有栖のユーベルコード【想像具現・幻惑の雷】の輝きだった。
「……悪霊の次はスケルトンですか」
『しかも、RPG終盤のザコ敵っぽいやつダネ。
 場違いにもほどが有るネ』
「ええ、無粋なバグにはご退場願いましょう」
 内なるオオカミさんと相談しながらの、冷静な分析と行動はいつものスタンスであったが、表情に出にくいながら有栖の口元はいつもよりも引き結んだもので、冷淡なものにも見えた。
 彼女がこの事態にどう思っているかは彼女とその心の中の相棒のみが知れる事であるが、その不意打ちの攻撃は、竜牙兵たちの隊列を混乱に陥れ、敵味方の識別すらも一時的に失わせた。
「あらまあ! 滑稽ですこと。でも、ダンジョンの外にあなた方のようなものを出すわけにはいきませんわ」
 集団の混乱を見据え、ミノアも行動を開始する。
 ドラゴン偃月刀を手に踏み込んだところに、反応を示す竜牙兵。丸盾で受けつつその勢いを削ぐシールドバッシュの構えを見切り、【グラファイト・スピード】による衝撃波を、偃月刀の間合いの外から放って出足を挫く。
 見え見えの待ちの戦法。攻撃を見切り、その隙を連撃で打つ|聖剣士《グラファイトフェンサー》をやっている者には、注意すべき初歩の初歩。
 食らいモーションでよろけているところを素早く踏み込み、次の相手の行動を演算予測、無防備なわき腹から反対側の肩にかけて切り上げ、間髪入れずに空いた添え手による拳を打ち込んでスキを消費、更に大味な偃月刀による一撃を見舞う。
 反撃のスキを許さぬ、怒涛のコンボを叩き込んであっという間に竜牙兵を蹴散らした。
「下がってください」
「っ!」
 ややもすれば魅せコンボにも見えた怒涛の攻めだが、大見得を切るようなその動きは良くも悪くも注目を集める。
 その間に、静かに効率的に倒す有栖は次弾を用意していた。
 想像暗器によるクナイの投擲。しかしながら、想像魔術で作られたそれらには、属性を付与して念動力で動かすことが可能である。
 竜の牙から作り出されたという不死の兵隊に効くといえば、それは聖なる浄化の力であろう。
 炸裂し弾ける区内の爆風のさなか、それでも戦場に居座ろうとするリオン達を手で制す。
「ここはもう、危険地帯ですよ。下がったほうが、身のためです」
「で、でも……!」
 小柄な有栖ではあったが、差し出すその手は、顔つきは有無を言わせぬものがあった。
 消耗しているリオン達に、かの敵たちの相手は難しかろう。
 剣呑な緊張が奔るそこへ、
「しっかりなさいな、あなたは|わたくし《ドラゴン》とお稽古したのでしょう?
 たかが|竜の牙《ドラゴン・トゥース・ウォリアー》如き、恐れるものではありませんわ!」
 闘争を鼓舞する、厄介なドラゴンプロトコルは、意志あるものを見捨てない。
 リオン達が疲弊していると見るや、「ミノア印の迷宮ミルク」の便を放ってよこす。
 迷宮で販売予定の限定ドリンクは、疲労回復、滋養強壮、あと戦闘バフが色々つくらしい強化仕様であるようだ。
「わたくしの迷宮で販売している限定ドリンクの試供品でしてよ!
 飲めば【瞬間強化】が得られますわ、一気にカタを付けますわよ!」
 戦う意志あらば、勝利をもたらさんと気勢を伝播させるかのような、そんな勢いに、有栖は嘆息する。
『止めなくていいノ?』
「……それももう、無粋みたいですからね」
 ポイっと寄越された瓶詰のドリンクを見下ろし、キャップを引きはがして一気にあおると、フルーツ牛乳のような濃厚サッパリな味わいが、疲労を忘れさせるかのようだった。
 ふう、と一息ついて、口の端に残った白いひげのような形跡を拭いとると、有栖は、
「次が来ます」
 さらなる敵の襲撃に備え、リオン達とミノアの攻撃を助けるように、スキを突くようにして今度はウイングボードで空中からの奇襲を試みるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サマエル・マーシャー
3人には私の後ろに下がっていただきます。これから使う私の技は加減が効かないので。

難易度が高いとはいえ意義のあるイベントのためのキャラクターだったのがバグのせいで理不尽なクソゴミカスイベントのキャラクターにされてしまうとは…なんという不名誉…可哀想に…。

あなたたちをそのバグから解き放つことでお救いします。
救済宣言をすることでUC発動。戦場に十の災いを齎します。血の川が流れる。カエル、アブ、ブヨ、バッタが放たれる。雹が降る。疫病が流行る。腫れ物ができる。暗闇に覆われる…更にはこれらに触れた対象を切断する効果で広場を地獄へと変えます。

再発生の際にはバグが全て消えた本来のあなたたちでありますように…。


麻弓・夕舞
へー、良くできたイベント…じゃなさそうね
思いっきり猟兵の感覚に引っかかってるわ、バグプロトコルねアレ
まぁ一度受けた仕事、最後までしっかり片付けましょうか

街中って言うなら正直狙撃の方がやり易い気がするけれど
今回は決闘者として戦う事が求められている気がするわ
仕方ないわね、相手の攻撃に合わせてトラップ発動!『Cイズナトリガー』!
この効果で巻き込まれたプレイヤーへの攻撃ごと防がせてもらうわ
さらに追撃として手札から『シェルイズナバレット』を|選択《装填》して|破壊《射出》するわよ
攻撃力を削り、出来るだけこの場を安全にさせてもらうわ…封じられればラッキーなんだけどね
攻撃は任せるわよ…!

※協力・アドリブ歓迎



 うらぶれた旧市街の、そのさらに人通りのないような場所で巻き起こった、先達たちによって意図的に秘匿された初見殺しの隠しイベント。
 しかしながら、初心者プレイヤーたちを襲わんとわらわら出現した敵性NPCのチンピラは、バグに取り込まれてしまい……その背に鋭い竜の牙を生やして倒れこんでしまう。
 白い灰か塩の柱の様にも見える竜の牙が発泡するように膨れ上がったかと思えば、そこから生まれ出てきたのは竜の牙より作り出された魔法生物ともアンデッドとも言える骸骨の戦士たち、竜牙兵。
 さしもの初心者プレイヤーでも、初見にもかかわらず、そこに出現したサプライズにしては唐突で、そしてあまりにもバランスと趣味の悪いイベントである。
 初期の町に出現するような難易度の敵ではないことは、肌身に感じるステータス差でも感じ取れる。
 こんなものが序盤に出現していいはずがない。
 後ずさるリオン達だが、逃げるという選択肢も違う気がする。
 この町には、自分たちと同じような、冒険をはじめたてのプレイヤーがきっとたくさんいるのだ。
 ここでこの竜牙兵たちが溢れかえれば、自分たちだけでなくほかのプレイヤーのジーンアカウントもどうなるか。
「戦おう……ここに遭遇した私たちは、きっと戦わなくちゃいけない」
「せやな……。うちらが起こしたイベントや。ケツは拭かんと……けど、勝てるんかなこれ」
「時間稼ぎくらいかな……だけど、長引かせる価値はあると思う」
 彼らにも、自責の念が少なからずあった。事故のようなものとはいえ、もしもこのイベントを起こすことがなければ、この町でバグプロトコルが発生することもなかったかもしれない。
 少しばかり無謀で、ヒロイックな思想になっているのは、ゲーム影響か。
「途中までは良くできたイベント……って思ってたけど、そうじゃなさそうね。
 思いっきり猟兵の感覚に引っかかってるわ、バグプロトコルねアレ。
 まぁ一度受けた仕事、最後までしっかり片付けましょうか」
 なんだかんだで、彼らの納品イベントにも同行していた麻弓夕舞は、物珍しさにつられて彼らの後方からイベントの行く末をワクワクしながら観察するつもりだったのだが、途中から雲行きが怪しくなったため、即座に臨戦態勢をとる。
 正直、生身のままゲーム世界に来ている猟兵の立場からすれば、裏通りになみなみと出現する竜牙兵の得物は、十分に殺傷に足る武器である。そのため、尻込みする気持ちが無いではない。
 この世界は危険と隣り合わせ。バグプロトコルが出れば、それはプレイヤーも同じ。
 そうであるにも関わらず、リオン達が退く様子を見せないのだ。そりゃあ、強がってでも、彼らを守らねば、立つ瀬がないだろう。
 決闘者は、常に揺るがない。そんなわけないのだが、理想を掲げ続けるのが戦い続けるモチベーションだ。
 理想の決闘者たるために、夕舞は衣装にこだわり、胸を張るのだ。
 町中とあらば、バトロワシューターとしての本領といったところだが、|警護対象《プリンシパル》を抱えた状態でのマッチングはリスクが多い。
 ここまでカードデュエルで戦ったのだから、この戦いもこちらで乗り切ってみようか。
「仕方ないわね、相手の攻撃に合わせてトラップ発動!『Cイズナトリガー』!
 この効果で巻き込まれたプレイヤーへの攻撃ごと防がせてもらうわ」
 リオン達を守ることを優先し、軍刀型のデュエルガントレットにカードを伏せる。
 【発動型トラップ「Cイズナトリガー」】は、手札か場に出現している「イズナバレット」モンスターを一体破壊することで敵の攻撃を無効化する効果を発動するのが本来の効果だが、ここはカードバトル本来の制約が存在しない。
 ユーベルコードの効果としては、味方を守るバリアを展開し、それが攻撃されるのに反応し、反撃を加えることができる。
 カードゲームはあくまでもカードゲームだが、そこに抱く情熱や印象が、彼女のユーベルコードを象っている。
「う、ううっ!! こっちだぁ!!」
 その効果は、矢面に立つリオンを守り、反撃としてさらにリオンの攻撃に合わせ、『シェルイズナバレット』のカードを手札から墓地へ……|選択《装填》して|破壊《射出》する。その手には、いつの間にか握られたバトロワ式スナイパーライフル。装填するのは墓地送りのモンスターカード……が変じた銃弾。
 撃ち出された銃弾は、当然ライフル弾の筈だが、リオンに襲い掛からんとする竜牙兵に対し、直前で算段に変化し、無数のペレットが竜牙兵の身体を貫いた。
 ライフル弾が算段になる仕組みはまったくわからないが、そのマンストッピング性能は目を見張るものがある。
 無数の弾丸を体に受けた竜牙兵がその武器となる剣や盾を取り落としたところを、集団で殴りつけ、魔法を浴びせることで、ようやく竜牙兵を一人黙らせることに成功した。
 だがしかし、守りはいいとして、この殲滅ペースでは埒が明かないように思える。
 夕舞も攻撃参加するのは吝かではないが、それにしたって敵の数が多すぎる。
 と、そこへ、破壊的な衝撃とともに黒い大剣が、少女を乗せて振ってくる。
 竜牙兵を一体つぶすような、それは凄まじい攻撃力を持っていた。
 そんな相手を、竜牙兵は真っ先につぶすべきだったが、立ち上る粉塵と、その向こうに据わる無表情は、無機質なはずの竜牙兵たちをほんのひと時だけ硬直させた。
 パンキッシュなコーデに身を包んだ黒と白の女。サマエル・マーシャーは、その無表情に静かな威圧感を湛えていた。
 石畳に突き刺さる大剣。その上に屈みこむ特異な姿のままで、サマエルはふうと息をつく。
「難易度が高いとはいえ意義のあるイベントのためのキャラクターだったのがバグのせいで理不尽なクソゴミカスイベントのキャラクターにされてしまうとは……なんという不名誉……可哀想に……」
 呟くその言葉は、怒りではなく哀れみであった。
 ならばそこには、淡雪の様に慈しみの空気があればいいはずなのに、言葉を紡ぐサマエルの纏うそれは、空気をひりつかせるものがあった。
 ざわざわと何かがうごめく音は、彼女の背に生えた翼の囀る音か?
 リオン達を向かぬその後ろ姿が、頼れる戦士のものから、地に降り立つ姿が不吉な何かへと変貌していくような、そんな気配を感じる。
「3人には私の後ろに下がっていただきます。これから使う私の技は加減が効かないので」
「え、私は?」
「……何とかしてください。後始末とか」
「ええ……何するか、言ってから頼むわ」
 いやな予感がびりびりとする夕舞は、言葉にこそしないものの、あんまり町をぶっ壊すような類の奴は困るなぁと淡い希望を抱くのだが、振り向かずに淡々と事を進めようとするサマエルに止まる様子は見受けられない。
 うん、知ってる。この類の人は、言っても止まらんのだ。
「あなたたちをそのバグから解き放つことでお救いします」
 いっそのこと、子供のような朗らかな声色で行われた救済宣言とともに【モーセ・パニッシャー】は成る。
 それは戦場を覆う、異常気象。異常現象。それらを引き起こす。
 |川《ナイル》を血に染め、カエルやアブ、ブヨ、更には飛蝗の群れ、疫病が蔓延し、燃え盛る雹が降り、太陽は星に陰り、世界は闇に包まれる。
 かつては誰もが手にした書物に記されたという|十の戒め《ツェーンゲボーテ》に準えた厄災戦場を地獄へと変え、少女の祈りはバーチャルの空間でこそ、その地獄を模倣し、歴史を寸断する暗黒の厄災と同様に、巻き込まれた竜牙兵たちを切断していく。
「再発生の際にはバグが全て消えた本来のあなたたちでありますように……」
 殊勝に祈りを捧げ続けるサマエルに、リオン達は青ざめた顔を隠そうともせず、夕舞はああ、と頭を抱える。
 グロ耐性は低くはない。増殖するアレとか、立体映像でもよく使われたし実際強いからデュエリストはだいたい耐性があるはずだ。
 そんなことよりも、この地獄をどう収拾つけたものか。
「ええ……フィールド効果でしょ? 除去カードあったかな……」
 竜牙兵うんぬんよりも、こちらの対処のほうに頭を回す必要が出てきたかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
おやおや、骨だらけじゃないか。血の気の無いものは好みではないね。
見たところ力は強いが動きはそれほどでもない。
リオン殿には是非とも先刻の教えを活かしてもらいたいものだ。
とはいえそのままでは厳しいだろうから、UCクリスタル・エンチャントで皆を強化させよう。詩乃なら鬼に金棒かな。
さて、ビギナーには忘れられないイベントになっただろう。


大町・詩乃
【神社猫】

このイベントは本来ならちょっとしたサプライズ。
後で思い出して「びっくりしたけど楽しかった」という類のもの。
悲劇にならないよう最後までお手伝いいたしますよ、皆さん♪

《神事起工》で攻撃力強化。

太極拳と八極拳を組み合わせて戦います。
相手の攻撃は心眼・第六感で相手の攻撃を予測して、見切り・ダンスで舞うように躱したり、受け流して対応します。
オーラ防御も纏う。

UC効果&功夫・雷の属性攻撃・衝撃波・貫通攻撃による突き・掌打・靠法・旋風脚でどんどん倒していきますよ~。
トドメは猛虎硬爬山です!

半死状態で戦闘能力を奪えた相手は、いつでもかばえるようにした上で、リオンさん達に止めを刺してもらいましょう。



 うらぶれた最初の町の区画、そこは旧市街とも言われる古びた家屋の立ち並ぶ、あまり住みよい場所ではない。
 町の歴史の流れにいよいよ取り残され、それでも日陰者は居場所を求めてこのような裏通りを好む。
 そんな場所で、本来であればチンピラのような荒くれたちの囲まれて、戦う羽目になる筈だったリオン達であったが、今現在、裏通りを埋め尽くさんとしているのは、竜の牙から作られたという怪物の群れ。
 その威容、場違いな存在感。とてもではないが、初心者に相手しきれる数ではない。
 町中にモンスターという時点で、尋常ではない出来事であることが見て取れるし、こんな場所でエンカウントするようなレベル帯の敵では、一目見て違うのだ。
「バグプロトコル……こんなの、どうやって戦えっていうの」
「逃げたほうがいい……けど」
「アホ抜かせ、こんなん町にあふれかえったら……」
 逃げられない。リオン達が目の当たりにした竜牙兵があふれ出んとする町々には、彼らと同じく冒険をはじめたてのプレイヤーがたくさんいるはずである。
 こんな場所にバグプロトコルの集団がアクティブのまま解き放たれてしまっては、何も知らないプレイヤーの遺伝子番号をいたずらに焼却してしまいかねないのだ。
 或は、自分たちが好みのままにチェーンクエストを開始しなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。
 そのような自責が、彼らの逃げ足を重たくしていた。
「……できないよね。ここで、こいつらを倒さないと……!」
 とんだ初クエストになってしまったものだ。
 あまりの絶望感に、苦笑いがこぼれてしまう。でも、それでも、冒険してみて得難い経験を得てしまった分だけ、リオン達は逃げるという選択を選べなくなってしまったのだ。
 現実はひどい世界だ。灰色で味気がない。でもだからこそ、虚構かもしれないこの世界の虹を、自分以外も味わうチャンスがあっていいはずだ。
 もう、何もかもをも、奪われてはいけない。奪わせてはいけない。
 震える奥歯をかみしめ、笑いそうになる足腰に活を入れ、剣を握る手に力を籠めれば、そんな彼らを後押しするかのように、颯爽と現れる人影が二人。
「おやおや、骨だらけじゃないか。血の気の無いものは好みではないね」
 ネフラ・ノーヴァは、その手に愛用の刺剣を握り、軍勢の如き竜牙兵の群れを前に不敵に笑む。
 優雅に見える佇まいからは、一切の隙は見受けられず、歴戦の腕前を持つであろう竜牙兵だからこそ、無造作にすら見えるネフラに警戒の色を見せる。
「このイベントは本来ならちょっとしたサプライズ。
 後で思い出して「びっくりしたけど楽しかった」という類のもの。
 悲劇にならないよう最後までお手伝いいたしますよ、皆さん♪」
 若草色の鮮やかなチャイナに身を包んだ大町詩乃は、拳を包むような礼、いわゆる拱手でにこやかに竜牙兵を迎える。
 不倶戴天の敵であるオブリビオンであろうとも、拳を向ける相手に礼を欠かさぬ姿勢は、単なる大義名分で拳を握るわけではないことを示している。単に、モンク僧のロールをこなしているだけとも言えるかもしれないが。
「ふぅ……ふっ!」
 ゆらりと脱力する構えから両腕を扇ぐように大気の流れをつかむかのような、いっそ緩慢にすら見える動作は、呼吸を合わせるとともに、自身を中心として気を収束する儀式でもあり、様式は技の集中力を高めるためのものでもある。
 大陸に伝わる太極拳は緩慢な健康体操に見えるが、あの一連の動作は太極拳に含まれる型稽古であり、本来の姿は激しく、素早い。
 遠心力、反作用、そして勁力というものは、いずれも自然を通し身体から流動し発するという思想のもとで生まれる。
 太極という、異なるものにも相反するものが内在し、それらが回ることで世の中は巡る。拳法による力もまたその流れの一つに過ぎぬ。
 一方で八極門、八極拳と呼ばれるものは、瞬間的に発する爆発力。体重、加速、到達点に正しく力を乗せることで、点による爆発力を発揮する。
 似て非なる流派。しかし、シームレスに切り替えられるように鍛錬できるならば、これほど頼りになるものもあるまい。
 揃え足、受け皿のような片手に拳を下ろす動作を合わせれば、両腕で生まれた加速と重さが足の踏みつける仕草に乗り、揃えた足にだんっと重たい音が重なる。
「これより、紙としての務めを果たします」
 【神事起工】により、詩乃の身体には彼女の持つ神力が巡り、練り上げた功夫をさらに高みへと押し上げる。
 その震脚ひとつで空気を揺るがし、目を奪ったかと思いきや反動で加速して一気に敵集団へと踏み込んでいく。
 しかし敵も然るもの、不意を突いたかのような踏み込みにも対応するように迎撃のバスタードソードを振りかぶる。
 重々しい長剣の一撃。しかし踏み込みに合わせるということは、相手もまたこちらを向き、こちら側に加速するということ。
 相対速度は詩乃の加速と合わせて単純計算で二倍。恐れることなく、バスタードソードを搔い潜り、立てた両手の上肢を捻ることで斬撃を受け流し、縦拳を打ち込む。
 西洋の技術でいえばカウンターともいうが、相手の力をも利用する交叉法は太極拳の常道。
 鎧越しに拳がろっ骨を粉砕する感触とともに吹き飛ぶ竜牙兵。
 迸る神力は雷の様に発露し、衝撃が周囲を覆う。
「す、すごい……あんなに強かったんだ……!」
「驚いている場合ではないぞ。リオン殿も、是非とも先刻の教えを活かしてもらいたいものだ。
 なに、見たところ力は強いが、動きはそれほどでもない」
「んな無茶な! あんなん、人間の動きやあらへんやろ」
「ふむ……? そのままでは厳しいか。ならば、鋭利なる力を与えよう」
 ド派手で華麗。まるで踊るように相手を手玉に取ってブッ飛ばす詩乃の動きは、人間にギリギリできそうで無茶な武術である。
 リオン達にそれは無理でも、ネフラとともに鍛えた技は腐ることはないはず。
 そう信じたネフラはリオン達、そして詩乃にもユーベルコードを施す。
 【クリスタル・エンチャント】は、爆裂する結晶を武装に纏わせ、鋭利な破片を散らすというものである。
 味方を増強し、その攻撃力を一時的に高めた状態なら、リオン達でも満足いくほどのダメージを叩き出せることだろう。
「うわぁ、バットがえぐいことなっとる」
 結晶を生やした武器を手に、リオン達も戦う。
 その武器の鋭利な輝きに息をのむリオンに、ネフラは助言する。
「大丈夫だ、思い出せ。緊張のし過ぎは身体を固くするが、適度な緊張は機先を示す。積み上げたものは、必ず糧となる。行け」
「は、はい! やあああっ」
 猛然と立ち向かう冒険者たち。その傍らでは、相変わらず詩乃がその剛拳を振るっていた。
 刺す勢いの突き、頭蓋ごと顎をしゃくり飛ばす掌打、広げた体を畳みこむようにして圧力を一転に集め背中からぶつかる靠法。
 面倒くさくなったのか、群がる敵を一網打尽に弾き飛ばす旋風脚。
 止めとばかり、縦を構える竜牙兵に果敢に手を伸ばす。
 野山を駆けあがる虎に例えられた虎爪。素早い掌打に見せかけたそれは、実質防御を崩す前置きに過ぎず、持ち上げるように盾を押しのけ、次のもう片手による地面を蹴りつける動きを乗せた掌が本命。
 フィニッシュばかりが取り沙汰されるが、『猛虎硬爬山』とはこの一連のフェイントを含めた連続技である。
「おお! 相手が結晶と一緒に吹き飛びましたよ」
「うむ、詩乃なら鬼に金棒かな。その調子で、戦場を切り開くぞ」
 無理やり敵集団へ切り込み、その戦端を破竹の勢いで切り開くその道のりは、初手を強固な詩乃が打つことで、敵を撃退、もしくは著しく弱らせることで、リオン達を安全に戦わせていた。
 何も考えずに勢いで飛び込んでいるわけではない。たぶん。
「さて、ビギナーには忘れられないイベントになっただろう」
「こういうイベントではない気がしますけどねぇ。うふふ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
わわ、これがバグプロトコル
NPCが巻き込まれることもあるんだ
戻してあげたいけど

戦いがはじまったら一歩引いて、護衛、援護を意識しながら
敵の動きをよく見ながら、これまでの戦いで憶えたパターンを見る方法を実践するよ

見て、覚えたら、歌にしてみんなに伝えるね

UC【一人ぼっちの影遊びの歌】

基本のポーズは両足並べて 足が動いたら攻撃開始♪
剣が上なら振り下ろし♪
剣を動かさずに後ろに引いたら シールドバッシュにキックの連打♪
剣が横なら闘気の刃 溜めのタイミングが狙い目だよ♪

歌声に合わせてUC発動! 敵の技を相殺してみんなが攻撃するチャンスを作るよ

パターンを見て、おちついて戦えば勝てるよ
みんなに伝えて応援するね


グウェン・ラクネリア
「待て!」
 やっぱり高い所から登場。
「悪のからくりを粉砕する女、スパイダー・ガール!」(てっててーれてれ! てれってれー!)
 糸を使ったスイングは高い所からの方が初速をつけやすいの。見栄だけで高い所に上ってる訳じゃないのよさ。
「糸に巻かれて死ぬのよさ!」
 飛び回る糸は自前の出糸突起で、手首のウェブシューターで狙いを付けて糸を発射! 飛び回りながら糸でぐるぐる巻きにして、高い所に吊し上げるのよさ。
「地獄行きのメリーゴーランドなのよさ!」
 吊り上げた相手を遠心力で振り回して地面に叩き付け!
「動けなければ外しようもないのよさ」
 前肢を広げて作るアラクネの弓と、糸を硬質化して作るアラクネの矢でとどめ!



 町のNPCを巻き込んだバグプロトコル出現。これは事件である。
 いくら、ひと気の少ないスラムを舞台としているとはいえ、敵対しているイベント敵扱いのチンピラとはいえ、キャラクターを乗っ取る形でバグが出現し、あまつさえリオン達新人の集まるような町に出現するのは、由々しき事態である。
 この場で引き下がれば、被害は途方もないものになってしまうだろう。
 だからこそ、リオン達は明らかに格上である竜牙兵を相手にしても退くに退けず、戦う道を選んだのだった。
 ドラゴンの牙を材料に作り出された魔法生物にしてアンデッド。そんなものが序盤に出現するわけもなく、初クエストをようやく終えた程度の冒険者には、かなりかなり荷の勝る相手には違いないが、彼らは猟兵たちと戦い、交流し、その力を借りて何とか奮戦している。
 頑張って戦っていた。が、明らかに数の不利があった。
 一騎当千の猟兵とて、その力と勇気を借りて戦う冒険者とて、無情にも戦いは数の有利がものをいうのだ。
 何よりも、比類なき力を持つ猟兵は、町中では最大限に能力を発揮できない者もいる。
 統制機構からやってきたプレイヤーにとって、この世界は自由の証のようなものだ。
 その場で無責任に強大な力を振るうべきなのだろうか。その逡巡が、彼らの潜在能力を引き留めていた。
 だが命には代えられまい。統制機構に生きるプレイヤーにとって、|遺伝子番号《ジーンアカウント》は命の次に大切なものと言っても過言ではない。
 バグプロトコルによって齎される死は、現実の死と等しい。
 その恐怖を抱くたびに、だからこそ、リオンは剣を握る手に力がこもるのだ。
「だ、だいぶ、数を減らしたと思うんだけどな……私たちのほうが、先に壊れそうな気がする」
「よう働いたもんやろ……全然減らしとる気がせん」
 精神と体力の疲弊、そしていつ途絶えるとも知れない竜牙兵の数が、今まさにリオン達の心を折らんとしていた。
 だが、そこにやって来るのは、敵の増援ばかりではない。
「待て!」
 でがわ! もとい、鋭い声がうらぶれた地獄のような戦場に響く。
 旧市街とも言われる古い町並みは、今や新しい町並みよりも住みよい場所とは言い難く、より優れた立地を求める町人たちは古い街を捨てて、今の旧市街はあぶれ者の町としてあまり人通りのある場所ではない。
 粗末な石造りの家屋の上に、もこもことした蜘蛛のような下半身をした少女、グウェン・ラクネリアは、いつの間にかスタンバイしていた。
 トリッキーな戦法を好む少女は、なぜかいつも登場するときに一声かけ、高いところから名乗りを上げるのを好んだ。
 そうして注目を集めるのは、彼女の戦略でもあり、ちょっとだけ気持ちがいいからだった。
「悪のからくりを粉砕する女、スパイダー・ガール!」(てっててーれてれ! てれってれー!)
 力強く名乗ると、どこからともなくのど自慢のようなチャイムの音色でテーマが流れてきたようにも感じる。
 実際には彼女の口ずさむハミング以上のものは無い筈だが、その場を支配する何か奇妙な魔力のようなものが、まるで時間すら止めているかのような錯覚を覚える。
「わわ、これがバグプロトコル!
 NPCが巻き込まれることもあるんだ。
 戻してあげたいけど……あれ?」
「んんっ?」
 凍り付いたような一瞬の沈黙の中に、タイミングがいいのか悪いのか居合わせたブラックタールの少女、ミフェット・マザーグースが、この場の惨状を目の当たりにして心を痛めたように眉根を寄せるが、そういえば異質な沈黙に気付いた。
 そして、ふと、高いところに位置付けるグウェンと目が合った。
「わぁ、モンスター!」
「いいや、違うのよさ。地獄からの使者! オブリビオンキラー!」
「あ、仲間かぁ!」
 お互いに大概、普通の人間とはかけ離れた素性を持つが故か、猟兵同士と理解するのにちょっと時間を要してしまったようだが、誤解はすぐに解けたらしい。
 手元を素早くパントマイムみたいにわさわさする動作はよくわからなかったが、格好つけて名乗りを上げるところは可愛いと思った。
 だがしかし、伊達と酔狂で高いところを選んだわけではない。
 八本足でさらに高く跳ぶグウェンは、空中で手首のウェブシューターから糸を射出。どこかしらに引っ掛けてスイングする要領で高速移動する。
 最初に大声で名乗り上げた効果もあり、敵陣を横切るグウェンの姿を竜牙兵も追いかける。
 追いかけてくるなら、その軌道は読みやすい。
 進路上に今度は蜘蛛のお尻、出糸突起から糸を吐き出す。
「|糸に巻かれて死ぬのよさ《スパイダーストリング》!」
 【イビル・チェイサー】は、移動にも拘束にも使える蜘蛛糸で、竜牙兵を絡めとる。全く違うことを叫んでいる気がするが、スパイダー液が空気に触れることで粘着性の糸に変わるところは、たぶん一緒だ!
 糸に巻かれた竜牙兵は、一瞬にして動きを封じられるが、その怪力でむぎぎっと糸を引きちぎろうともがいている。
「すごい力……やっぱり、草原の敵とはパターンも能力も全然違うみたい」
 グウェンに翻弄される竜牙兵たちの動きを、草原の時と同じように、ミフェットは観察し、そのパターンをつぶさに拾おうと試みる。
 だが、力自慢は相手だけではない。
 空中に這った蜘蛛の巣の上、グウェンはぐるぐる巻きの竜牙兵を自ら出した糸でむうんと引っ張りつるし上げる。
「地獄行きのメリーゴーランドなのよさ!」
 さらにそれをぶんぶん振り回し、えいやっと振り下ろして別の竜牙兵に叩きつける。
 勇猛な戦いぶりは、良くも悪くも目を引く。
 それを見やるミフェットと、そして少しの間休憩ができたリオン達。
「みんな、戦ってる……もうひと頑張り……!」
「ああ、魔力も少しだが回復した。あと何発かは撃てそうだ」
「ほないこか。がきんちょに戦わせるのは、気わるいわ」
 奮い立つ冒険者たちを、ミフェットは護ることこそすれ、止はしなかった。
 代わりに歌を送る。戦うことを厭う心優しいブラックタールの少女は、しかし、戦いそのものを否定はしない。
 だから、誰かのために心を込めて歌を送るのだ。
「基本のポーズは両足並べて 足が動いたら攻撃開始♪
 剣が上なら振り下ろし♪
 剣を動かさずに後ろに引いたら シールドバッシュにキックの連打♪
 剣が横なら闘気の刃 溜めのタイミングが狙い目だよ♪」
 歌に乗せて紡ぐのは【一人ぼっちの影あそびの歌】。観戦に徹していたミフェットは、その高い演算能力によって、竜牙兵たちの行動パターンをある程度読み切っていた。
 その歌の歌詞となる部分は、なんというか、こう、かなりメタいところを突いている攻略情報であった。
「パターンを見て、おちついて戦えば勝てるよ」
「……なんだろう、やれそうな気がしてきた!」
 心に響く、攻略情報。感覚でわかるほどに、相手の動きが予想できる。そんな気がしてくるほどに、ミフェットの歌は、主に竜牙兵に効いていた。
「ふふん、考えたのよさ。でも、わたいにその必要はない!」
 糸に巻かれて叩きつけられてはかなわない。とばかりに踏ん張って抵抗する姿勢を見せる囚われの竜牙兵たちに、グウェンは前肢の先に強い糸を張って弓を作ると、もう一つ今度は固く乾いて硬質化した糸を矢としてつがえる。
「動けなければ外しようもないのよさ」
 ミフェットの歌声は、グウェンにも届いている。多少もがこうとも、その動きがつぶさにわかる。
 むぎーっと引き絞った手を離せば、解き放たれた矢は、やはり思い通りに竜牙兵を貫いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
「…ふぅん」
「竜牙兵。竜の牙を素材にした、エンチャント。とても、硬い。通る攻撃、ある?」
塀の上から3人に尋ね

「じゃあ。アレは、ボクの、だ」
「ドーモ、ホネ・バグ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
「…スーロン!」
30m級獣型巨神(外見西洋竜背中に羽とプラズマ砲2門)次元召喚
威嚇兼ね1発敵中央に撃ち込ませ自分は吶喊
スーロンはいざという時3人抱えて逃げるようそのまま上空待機
敵の攻撃は素の能力値で回避し続けながら身長ほどある大剣(偽神兵器)でどんどん敵を両断していく
ザナドゥのサイバー内|非合法活動《シャドウラン》感覚なので周辺破壊に無頓着

戦闘後
「キミ達は、いつか。絶界詩篇領域に、挑む?」


夕凪・悠那
こんな頻繁にバグプロトコルに遭遇するんだ
予想以上に蔓延してるのか、リオンさん達が主人公体質なのか……

楽しむとか言ってられないかな、これは
『Virtual Realize』起動
戦闘用バーチャルキャラクターを重戦士タンク型で召喚
ヘイト管理してリオンさんたちもカバーしつつ、バグプロトコルに対処

【Data Drain】
防御力とか耐性とか一切無視して構成データを直接攻撃
バグのサンプルもついでに入手できれば嬉しいな



 冒険者たちが、おそらくは初めに拠点とするであろう序盤の町の中にあって、旧市街とも言われる区画は、歴史が元も古いとされている。
 ただそれは、町を起こした当初の姿が今もなお残っているというだけのことであり、より住みよい場所へと拡張し移設されていった歴史の中に取り残された旧市街の家屋はいずれも老朽化が激しく、生活環境も良好とは言い難い。
 まともに人も寄り付かず、次第にあぶれ者が雨風をしのぎ、まっとうではない取引などにも使われるような、いわゆるスラム化が進んでいったのである。
 メタい読み方をすれば、ここはそういったアウトロー的な人種や職業の者が起こしやすいイベントや、荒事に巻き込まれる形のイベントをこなしても、現在の町のほうに害が及びにくいという、ゲーム的な目的に基づいて残されたとも言える。
 とはいえ、とはいえだ。
 さすがにやや進んだ先のダンジョンに出てきそうなほどのモンスターがいきなり湧いて出るようなイベントは、この町の歴史には存在しなかった。
 バグプロトコルによるモンスターの氾濫は、その被害が未知数と言わざるを得ない。
 ゲームによって用意されたイベントならば、このスラムで片が付くかもしれないが、イベント敵として用意されたであろうチンピラどもから生えて出たような竜牙兵は、その限りではないだろう。
 だからこそ、このイベントの発端ともなったリオン達は、苦戦を強いられながらも現場から逃げ出す選択肢を選べずにいた。
 敵は自分たちよりも強力で、敗北すれば|遺伝子番号《ジーンアカウント》焼却の恐れもある。
 それにもかかわらずこの場に居座り、いわば捨てがまる覚悟で町への浸透を防ごうとしているのは、自分と同じ立場の初心者プレイヤーの冒険者たちにバグプロトコルの毒牙が向く憂き目を鑑みてのことと、自責からくる使命感のようなものだろう。
 しかしながら、彼女たちの奮闘は無駄には成らず、奇跡的にステータス差という大きな壁は、猟兵たちの助力もあってなんとか生命線をつないでいる。
「ああ! 剣が……!」
 リオンとともに、ほんの短い間だけ戦場を駆けた何の変哲もない店売りのロングソードは、その成り立ちに全く不相応な戦いの連続により、ついにたいして愛着も抱けぬうちにその耐久限界を迎え半ばから折れてしまった。
 ゴーストを斬ることはほとんどできなかったが、かといって次なる相手は竜の牙から作り出された魔法生物のアンデッド。その鎧も骨身も、序盤装備で殴り続ければ剣のほうがいかれてしまうわけである。
 刃こぼれと変形、そして地金から歪み始めたあたりから既に武器としてはほとんど役には立たなくなってしまったが、それでも使い続けたロングソードは、ついにアイテムロストしてしまったのである。
「リオン、もうだめだ! 僕たちも、もう十分戦ったんじゃないか……?」
「せやな……うちのバットももうボロボロや。頑張ったほうやろ……な?」
 ライフも装備も、初心者パーティはもはや満身創痍もいいところだ。
 猟兵たちの助けも借りて、スラムに群がる竜牙兵の数はようやく数えられる程度にまで削れた。
 リオン達は十分に奮戦したといえるだろう。この窮地も、或は今なら脱出可能かもしれない。
「……ふぅん。竜牙兵。竜の牙を素材にした、エンチャント。とても、硬い。通る攻撃、ある?」
 ともすればがれきの山にも見える、単純に石を積み上げただけの塀の上から、リオン達に声をかける人影。
 サイバーザナドゥからの放浪忍者、ベティ・チェンは、物珍しさからしばらく表のほうの町を見て回っていたためだろうか、事態の参戦に遅れる形となった。
 スラム育ちながら好奇心もあるその心は、他所のスラムにあんまり興味がわかなかったのだ。
 そうして来てみれば、リオン達はなんとも男気のある活躍をしているではないか、と感心してもいた。だが、それもそろそろ限界だ。
「ま、まだ、手はあります!」
 そうしてインベントリから取り出すのは、大量の竜牙兵から運よくドロップしたであろう、彼らの持つ大振りな剣。
 だが、それを重そうに持ち上げる姿は、明らかに装備に足るステータスに達していないことが伺えた。
 それほどまでに開きがありながら……目を細めるベティは、呆れたようにも感動しているようにも見えた。
 孤独な少女の表情を読み取れる器用な者は、この場にはいない。
 だが、その代わりにといっては剣呑だが、リオン達の周囲に真新しい鎧に包まれた重装歩兵が複数体出現する。
 それは電脳魔術の秘術の一つ、ゲームデータやキャラクター、いわゆる仮想の産物を具現化する類の術であった。
「駄目だね。オンゲの町とか見ると、つい隅々まで回りたくなってさ……それにしても、こんな頻繁にバグプロトコルに遭遇するんだ。
 予想以上に蔓延してるのか、リオンさん達が主人公体質なのか……」
 夕凪悠那もまた、うっかり好奇心に駆られた結果、参戦が大幅に遅れてしまった一人であった。
 それを詫びるかのように、リオン達の周囲に『Virtual Realize』によって召喚したタンク型重戦士は、並大抵の攻撃ではひるまない。
 バンカーの付いた大盾を地面についてその存在感を示すことで、竜牙兵たちの注意を惹き、同時にリオン達の元へと一体たりとも通さぬという覚悟を感じさせる。
「楽しむとか、もう言ってられないからね。出し惜しみはしないよ」
「いや……アレは、ボクの、だ」
 防備を固めてから腕まくりをするような仕草で前に出ようとする悠那を遮るように、ベティは我先にと敵陣へ突撃を仕掛ける。
 ベティがいつも通りにその行動を迅速に行わなかったのは、リオン達の存在があったからだ。
 だが、その懸念点は消え、同時に悠那の示した手段に思いつくこともあった。
 そうだ。助力という手もあった。いつも孤軍奮闘だったベティだが、彼女には今や頼れる戦力がある。
「ドーモ、ホネ・バグ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン! ……スーロン!」
 手早いアイサツをキメつつ、ベティは旅の中で友誼を交わした巨神の名を呼ぶ。
 先刻のスペランサでもよかったが、彼はまだ散歩中。次なるは翼ある竜、巨神G-O-リアス『スーロン』。
 プラズマ砲を備えた30メートル級の巨大なドラゴン型ロボットの姿は、その威容のみで……おそらく多くの人目を引くことだろう。
 威嚇とばかり、プラズマ砲を敵中央に撃ち込めば、スラムの石畳は紙切れを散らすようにはじけ飛んで、竜牙兵のいくつかが巻き込まれていく。
「ちょっとまって。町を壊す気?」
「ザナドゥの、サイバー内|非合法活動《シャドウラン》じゃ、茶飯インシデント。問題、無い」
「いや……あるでしょ」
 倫理観の終わっているザナドゥ感覚で、巨剣型偽神兵器を担いで吶喊するベティはむしろ実家のような安心感と言った様子でこの世界を駆けるが、サイバー空間にも色々あるのを心得ている悠那は、正直複雑そうである。
 が、今は細かなことを気にしている場合ではない。
 ちなみに細かなことだが、プラズマ砲の余波は、重装歩兵の大盾のおかげもあってリオン達には影響はなかったようである。
「おおおっ!」
 【偽神侵食】によって、偽神兵器の巨剣によって斬り付ける相手を食らうようにして引きちぎり叩きのめしていくベティは、周囲の被害などまるで考えていないが、すくなくともリオン達にまで害が及ぶような破天荒ぶりは無い筈。
 そう信じながら、悠那も気を取り直して竜牙兵退治に乗り出す。
 守りのほうは問題ないはずだが、守りに徹する重装兵は代わりに攻撃力が高いほうではない。
 ならば、最強の矛を担うのは悠那自身。
「まったく、キャバリアまで持ち出してくるんだから……ここで必要なのは、なにもデカブツである必要はないんだ」
 握り、開く片手に浮かび上がる腕輪状のデータリンケージユニットを疑似的に作成。これはあくまでもやり取りを円滑にするためのいわばイメージであるため、形は何でもいいのだが、これを使うときはなんとなく用意したほうがいいと思ったのだ。
 守りを固める重装兵に猛然と群がる骸骨たちのデータに向かい、悠那はその手を向ける。
「──消えろ」
 ブートをイメージすれば、腕輪から花の様に帯の様に色とりどりの数列や文字列が幾何学模様を描いて展開する。
 無数の電子の刃と化したそれらは、竜牙兵に事も無げに突き刺さり、その防御や耐性などをまるっと無視して、構成データそのものに攻撃を仕掛け、それを刈り取っては奪っていく。
 【Data Drain】。それは、電脳魔術を扱う者にとっては究極の理想の一端。向けたものをなんでも奪えるし、なんにでも効く。
 だが、何にでも通用するものは、おそらくは自分自身にも当てはまる。この強すぎる力は、確実に悠那を害するであろう。
 データに溺れ、帰って来れなくなりかけた彼女だからこそ、その深淵の広さを、一端を見た。これは諸刃の刃だ。
 ユーベルコードによって制御しているとはいえ、一歩間違えれば、あの暖かくも孤独な闇がその一端を覗かせる。
 いつかは誰もが、そこに還るのだと。不可思議な安心感が、情報処理に追われる悠那の脳裏を支配しようとする。
 ……まだ早い。まだきっと、その時ではない。
 虚空の中に何かをつかみ、リンクを閉ざした悠那は、目の前に敵がいなくなり、そしてベティもまた敵のすべてを切り払っていたのに気づいた。
 手の中には、バグプトロコルの一部データの残る竜牙兵のデータが詰まったチップ。奪い取れたのはすべてではないようだが、今後の活動に活かせるかどうか……。
 ともあれ、戦いはようやく終わったのだ。
『チッ、やるじゃねぇか……伊達に冒険者じゃねぇってことかよ。だが、気を付けるこったな。他よりいいものってのぁ、目を付けられるんだぜ? 覚えときな』
 何事もなかったかのように、イベント敵だったチンピラの頭目は、捨て台詞を吐いてボロボロのスラムの暗がりに姿を消す。
 もはやそれどころではなかったリオン一行は、ようやく脅威が去ったことを理解した瞬間、気が抜けたようにその場にへたり込んだ。
 防具も武器も、ずたぼろもいいところであり、ポーションの納品で色を付けてもらった分の儲けも装備を新調したら吹き飛んでしまう事だろう。
 だがしかし、お互いに背を預けて座り込む一行の目には、安堵と、そして過酷になってしまった冒険を生き抜いた達成感に、疲れながらも輝きを宿していた。
「死んだかと思った……もうダメだって、何度も思ったよ。はじめたばっかりなのに」
「人生について、何度か考えたな、僕も。走馬灯ってこんな感じなのかもな……なにか、味の濃いものが食べたいな」
「こっちも大阪があればええねんけどなー。まあ、魂を持ってる職人もおるやろし……」
 疲れながらも、彼らの瞳には、冒険心が輝いている。
 そんな様子を、猟兵たちは眩しげに見つめたり、ニヒルに笑い、思い思いの感慨を残しつつ、静かに去っていく。
 悠那もまた、彼らの純粋にゲームを楽しんでいる様をまぶしげに目を細めて見つめ、データチップを指ではじいてその場を軽い足取りで去っていく。
 最後に残ったベティはというと、呼び出したままのスーロンが所在なさげにしているのを送還してやり、そういえば騒ぎになるかもしれないな。とニンジャらしい危惧を抱きつつも、彼らにどうしても聞いておきたいことを口にする。
「キミ達は、いつか。絶界詩篇領域に、挑む?」
 それは、まことしやかに囁かれる、最終クエストのこと。
 このゲームを純粋にゲームとして楽しむ者は多いが、戦う理由の中には、プレイヤーにとっての現実世界、|統制機構《コントロール》にたいする鬱屈した思いが多数であろう。
 現時点で噂として囁かれているものの中には、その最終クエストへ到達したものは、現実世界である統制機構を打倒する手掛かりが手に入るとも言われているのだ。
 リオン達も例外なく、統制機構によって心の支えを奪われつつある。今は駆け出しでも、挑む理由としては十分であろう。
 仲間と顔を見合わせ立ち上がるリオン。その手には、バグプロトコルと化した竜牙兵からのドロップのバスタードソードが握られている。
「……今はまだ、ぜんぜん雲をつかむような気持ちです。でも、この剣をちゃんと装備できるようになって、その先も戦う気持ちが残っていたら……そのずっと先に、通じている気がします」
 まっすぐとした眼差しは、まだ見ぬ先を見据えているようにも感じた。
 猟兵の様に悲劇的で苛烈な過去を持つわけでもない、彼女たちの瞳は、冒険者として純粋な輝きに満ちているような気がした。
 ベティはそれを、満足そうに見つめたかと思うと、鼻を鳴らし口元をやや和らげて、足早に別れの言葉とともに颯爽と去っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年11月30日


挿絵イラスト