●秋色散歩と本の海
グリードオーシャンのキラキラ煌めく青い海を臨みながら、一歩ずつ進むたびに。
さくりと鳴るのは、小気味の良い葉音。
そしてふたり仲良く並んで歩くその道を染めるのは、今の季節だけの特別な黄金色。
「銀杏の黄色がとても綺麗だね」
エアン・エルフォード(Windermere・f34543)は、ひらり舞っては積もる銀杏の落ち葉を眺めながら、改めて実感する。
――もうすっかり秋なんだな、と。
でもそう思うのは何も、眼前の景色の彩りだけではなくて。
ふいに隣でふわりと揺れるのは、緩やかに波打つ甘いローズブラウンの色。
頬をさらりと撫ぜ、妻の髪を攫うように揺らす、吹き抜けていく秋風も。
心なしか、少しひやりとした冷気を纏っているから。
「だいぶ涼しくなったな……もも、寒くない?」
そう一緒に歩く妻、モモカ・エルフォード(お昼ね羽根まくら・f34544)へと声を掛ければ。
きゅっとさらに手を握られる柔らかな感覚と、嬉しそうに向けられるロンドンブルートパーズの色。
「ありがとう、えあんさんの手があったかいから平気よ」
こうやって手と手を繋いでいれば、ちょっぴり風が冷たくても平気。
だって、じわりとお互いの体温が混ざり合って……心も身体も、あったかいから。
そんな温もりをほわりと感じつつ、気遣ってくれる優しい彼と一緒に、秋の柔らかな光を浴びながら。
お散歩がてら仲良く歩く、秋の道の先――視界にぱっと飛び込んできたのは、赤いレンガ作りの建物。
「あ、見えてきたわね! もも、図書館に来るの久しぶり」
そう弾む声で紡ぐモモカは、わくわく、思わず走り出しそうになる。
それは……ほんの数十分前に交わした会話。
――今日はお休み! でーとはどこに行こう?
――映画もいいけどたまには、おうちでのんびり読書とか?
ということで、目的地は眼前に見える、赤レンガの図書館。
そして到着した図書館の扉をわくわくそわり、心躍るままに、モモカが開けば。
エアンはふっと、青い瞳を柔く細める。
彼女が開けた扉の先を見て、感じて……好きだと、そう思ったから。
静かな空間と、図書館特有の本の匂いが。
そしてモモカも、キラキラと目を輝かせる。
「わあっ、本がいっぱい!」
こじんまりとしながらも、ぎっしりと本が詰まった棚に。
そんな小声で紡がれた妻の感嘆の言葉に、そうだね、と。
同じ様に密かに心の高揚を感じているエアンは、微笑み頷いてみせてから。
これから少しの間だけ、ふたりは別行動。
それぞれ好みの本を選ぶべく、お目当ての本棚を探して。
エアンが早速手にしてみるのは、小説を何冊か。
そしてモモカも数冊気になった本を抱えつつ、そんな旦那さまの手元の本をチラッ。
(「むむ……難しそうなご本!」)
でも……ももだって! なんて。
料理本やロマンス小説の上に、彼の選んだ小説と同じ著者の本を載せて、お揃いの真似っこを。
それからエアンは他の本を手に取って、パラパラ。
「へえ……専門書もあるのは珍しいな」
そう独り言のように呟きつつ、本のページを軽く捲ってから。
抱えていた本の上にもう一冊、それを追加で積んだ後。
一通り館内を回ってから、モモカの姿を探せば。
「もも、いい本は見つかった?」
妻の姿を見つけて、そう声を掛けるけれど。
うーんうーん、と一生懸命背伸びをしている姿に気付いて。
ふっと腕を伸ばして、はい、と。
取って渡してあげるのは、高いところにあった彼女のお目当ての本。
そして、ありがとう! とほわり笑むモモカが抱えている本をチラッと見て。
(「へえ、意外と色々借りているようだね」)
思ったよりも沢山の本を選んでいる彼女の様子に、そっとそう思うエアンであった。
●読書タイムと美味しい秋
お互い本を選び終わった後、また元来た秋色の道を辿って。
帰って来たふたりを迎えるのは、白い木の柵で囲まれた庭に咲いた、白薔薇や秋の季節を彩る花々。
そして、にゃーんと鳴いて甘えてくる、ふわふわの黒猫。
それから、沢山借りた本をどさりと置いて、一息ついた後。
ぽふりとふかふかのラグに座って――はじまるのは、読書タイム。
モモカが豆から挽いて丁寧に淹れた、良い香り漂わせる美味しいコーヒーをお供に。
ということで、エアンは早速、本の世界に浸りはじめて。
そんなラグの上で真剣にページを捲る彼の背中にそっと、ぽすん。
自分の背中を凭れるようにして、真似っこした本を、満を持して開くモモカ。
でも……ほわりと窓から降る秋の陽光と、あったかくて大きな彼の背中。
そして、彼とお揃いで手にした難しそうな本が揃えば。
ぱらり、ぺらり、数ページ捲るうちに――。
「………」
気が付いたら、こくこく、うとうと。
でも、はっとモモカは瞳を開いてから。
(「ね……寝ちゃってたの」)
そうっと背中越しに、彼の様子を窺ってちらちら。
……バレてない? かな? なんて。
本に夢中になっている姿を見れば、ちょっぴりホッと胸を撫でおろす。
いや――本に視線を落としたままで。
(「あー……これは、寝ているな」)
エアンはそう、ばっちり気付いていたのである。
背に凭れる温もりが次第に重くなったことに。
そして思わず、くすりと笑んでから、暫くそのままにしておいたのだけれど。
再び、笑み零してしまいそうになる。
ハッとした様子が背中越しに伝わってきたのが、面白くて。
けれど幸い、そう自分が思っていることは気付かれなかったようだから。
「えあんさん、ランチにしましょ?」
ずっと本を読んでいた体を装いつつ背中越しに声を掛けてきた彼女に、エアンは返す。
「うん、ちょうど腹が減ったと思っていたところだったよ」
気付かないフリしてそう笑みながら。
それからモモカが準備するお昼ごはんは、本を読みながら食べられるようにと。
ラップに包んだちいさなお結びと、サイコロ状にカットしてドレッシングで和えたサラダ、一口サイズの唐揚げ。
どれもフォークで刺して手を汚さず食べられるもの。
それを、バスケットに詰めれば。
「ラグの上でピクニックみたいね!」
「確かにピクニックのようだね」
そんな、手軽に食べられる工夫がされたバスケットを作ってくれたことがまた、エアンは嬉しくて。
本はひとまず脇に置いて、まずは唐揚げに手を伸ばす。
それから、ちょこっとずつ違うちいさなお結びたちをくるりと見回して。
「おむすびはどれも美味そうだね」
「お結びの具はね、黒ごまのが焼き鮭で。海苔が梅干し、白ごまが生タラコよ♪」
「まずは……焼き鮭から行ってみようかな」
エアンが最初に手に取ったのは、黒ごまのお結び。
だって、ちゃんと知っているから……これがももの一番のオススメだろう? って。
そして勿論、他の具のお結びももぐもぐ。
「定番の梅干しとタラコも美味い」
そんな、おうちピクニックのような美味しいごはんを楽しんでいれば、エアンはつい、こう思ってしまう。
……読書の秋は中断され、食欲の秋に移行した感がある、なんて。
でも、ふと考えてみれば。
「読書も食欲も……図書館までてくてく歩いて行ったから、もしかして運動の秋も?」
モモカはくすくすと笑っちゃう。
……秋の○○全部取りね? って。
それから彼と一緒にもぐもぐしながらも、モモカはそっと読む本をチェンジ。
(「ももには眠くなっちゃうくらい難しい内容だったの」)
またうとうとしちゃいそうだから、真似っこ本は諦めて。
ぱらりと開くのは、料理のレシピ本。
そして、ページを捲る手がふと止まって。
「あ! ねぇねぇ、えあんさん、このお肉料理美味しそうじゃない?」
「ん? どれ?」
その声にエアンも振り返り、開かれたページを覗き込めば。
「ももが今度作ってくれるの?」
さり気なくそう、リクエストを。
そんな彼の言葉に、モモカはふと冷蔵庫のお肉のストックを思い浮かべて。
「うん! じゃあ夕ご飯に作りましょうか」
今晩の夕食は、このお肉料理に決定!
そして早速リクエストが叶ったエアンは、柔く瞳を細めて。
「それは楽しみだな。肉料理はいつでも大歓迎だ」
やっぱりふたりの秋は美味しい、食欲の秋……?
でも、エアンは思うから。
(「こういう秋の一日を楽しむのもいいだろう」)
読書タイムの後は勿論、料理を作るのを手伝うつもり。
そしてモモカも、穏やかで和やかな休日おでーとの昼下がりに、ほっこり。
お外はひんやりしてきたけれど、もう少しだけそっと彼の背中に身を預ければ、ほわりとあったかくて。
ご機嫌に料理の本を眺めながら、モモカは改めて全身で感じる。
暖かな部屋で、大切な人と笑い合える――そんな秋のひとときの幸せを。
成功
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