夜空には月が綺麗に浮かび、吹き抜ける秋の風はひやりと涼しくて。
耳を澄ませば、賑やかな祭囃子とリンと風情ある虫の声。
そう、今宵は絶好の、秋の夜長のお出掛け日和。
此処ケルベロスディバイドは、多くの都市部は「決戦都市」に改造されているけれど。
今回足を運んだ場所は都市部から外れていて、空気も澄んでいて長閑で。
排気ガスを出すような無粋なものなどもないため、川崎・五十鈴(エコテロリストエルフ・f41042)はちょっぴりご機嫌であった。
いや、空気が綺麗ということも勿論だけれど。
(「友達とお祭り……もしかしたら初めての体験かも」)
今日は何せ、初めて友達との秋祭りにやって来たのだから。
幼少期に両親を失い施設暮らしであった五十鈴には、友達という存在がそもそもいなかった。むしろ、施設では異種族ということで虐められて。ケルベロスとして活動を始めてからは任務と環境保護活動で忙しかったから。
五十鈴がこうやって純粋に遊びに行くこと自体、珍しくて。友達とは初めてのこと。
そんな五十鈴とともに秋祭りにやってきた、セイレイン・サンタマリア(○o。.戦場の水天使.。o○・f40790)も。
「わーい! お祭りだ!」
実は、ウィングキャットとして人生……猫生・初の縁日で。
祭囃子や屋台の灯りが近づく度に、わくわくそわそわしちゃうし。
あれもこれも興味があるし、色々なものを食べたいし沢山遊びたい……そんな気持ちが抑えられなくて。
いざ、会場へとやって来れば、逸る気持ちのままに。
自前の小さな羽をぱたぱた、気になる屋台へとうきうき一直線!
五十鈴も、並ぶ屋台へとくるり視線を巡らせていたのだけれど。
「って! セイレイン! 迷子に――」
ぴやっと、瞬く間に飛んで行ったセイレインに気付いて、慌てて声をかけたものの。
「もういない……小さくて飛べるやつに単独行動取られると人込みじゃ追いつけないね……」
時すでに遅し、友達の姿は人波の中に消えてしまう。
でも、小さくてあちこち飛び回れるセイレインを急いで今追うことは、五十鈴は諦めて。
(「まあいいや。流石に祭りから勝手に帰ったりはしないだろうし歩き回ってればそのうち見つかるはず」)
とりあえず、秋祭り会場を巡ってみることに。
そして、セイレインが真っ先に向かった屋台は。
「ズルはしないよ! 金魚さん、真剣勝負だっ!」
もふもふな尻尾もゆらり、気合いも十分に。
きりっとポイを握って挑むのは、そう――金魚すくい!
いや、セイレインには水を自由に操って水球を作れる能力があるから。
水の中を泳ぐ金魚を捕まえること自体は、正直簡単にできるのだけれど。
宣言した通り、今回は金魚さんとガチンコ勝負!
じいとポイとお椀を握って真剣に、水槽をすいっと泳いでいる金魚さんに狙いを定めて……いざ、ポイをしゅっ!
上手くとらえた……かと思いきや。
「あっ! やぶれちゃったー!?」
水の重みもあって、あえなくゲットならず。
けれど一度だけで諦める気など勿論なく、ポイのおかわりを貰って。
失敗を踏まえつつ、二回目……は、一度目よりはうまく掬えたのに、お椀に上手く入らなくてまたまたゲットならず。
そして、三回目――。
「やったー! 成功だあ~!」
悪戦苦闘しながらも、まさに三度目の正直で金魚ゲットです!
しかも、他の金魚よりも大きい金魚をゲットできて。
「ふぅ掬えた、可愛いね~! なんて名前にしようかな? 金魚だから、金八、金田一……」
入れてもらった袋の中を泳ぐ金魚をじいと見つめながら、色々考えた結果。
「立派な大きさだから、金太郎にしよう!」
――命名・金太郎!
そして、そこでやっとセイレインは気が付く。
「あっ、そういえばどこ行っちゃったのー!?」
一緒に来たはずの五十鈴の姿がなくて、迷子になってしまっていることに。
そんな、セイレインが金魚と真剣勝負をしている間に。
五十鈴は、澄んだ秋風に青の髪を揺らしながら、食べ物屋台を巡って。
「りんご飴の屋台ね……」
まずはふらりと立ち寄った屋台で、ちょっぴり欲張って。
買ったのは、真っ赤なりんご飴をふたつ。
それから、お祭り定番のチョコバナナの屋台を眺めていた五十鈴は、ふと顔を上げて。
「……あ、セイレイン」
思った通り、実際食べ物屋台をふたちも回れば、案の定すぐに見つかるセイレイン。
金太郎を持ちながら軽く一匹迷子になっていたセイレインも、すぐに気付いて。
ホッとしたように飛んできた彼の手にあるものへと五十鈴は目を向けながら。
「なんか既に金魚すくってる……あ、りんご飴食べる?」
二本買っていたりんご飴のうちの一本を差し出し、譲ってあげて。
「粉物屋台で、味の濃い食べ物でも食べよう」
甘いりんご飴とは違った、塩分を過剰に摂取できる粉物で、お腹を満たす提案を五十鈴がすれば。
「どれもこれも美味しそうだあ~!」
頭掻いて即、食べ物の屋台に目移りするセイレイン。
そして買ってみたのは、香ばしいソースの匂いが食欲をそそる、ころりとまあるいタコ焼き!
セイレインは、五十鈴から貰ったりんご飴を美味しそうに食べながらも、タコ焼きもひとつ。
そんな、うきうきと口にしようとする様子に、五十鈴はハッとして。
「あ、セイレイン! 丸ごと頬張ったら危険――」
「はふっはふっ!! あふっ!! ……うぅ~、火傷したぁー」
声をかけたけれど……やはりちょっぴり遅くて。
はふはふと熱さに悶える彼に、ジュースも買って手渡す。
それから、五十鈴と一緒に改めて、少し冷めたたこ焼きを一口ずつそろりと食べてみれば。
「なーんだ、美味しいじゃんたこ焼き!」
ほどほどの熱さのタコ焼きは、とても美味です!
そしてお腹も満たされれば、五十鈴が足を向けてみたのは、射的の屋台。
すちゃりと銃を構えて引き金を引けば――ぽこんっ、ぽこぽこっ、こてんっ、どさどさっ。
狙った商品に百発百中!? あれもこれも、まとめてゲット!
いえ、たとえガンスリンガーの技術で大人げなく撃ち抜いたって、当たりは当たりなのです、ええ。
そして戦利品をいっぱい抱えながらも。
「そう言えば、この秋祭りって花火の打ち上げとかってあったりする?」
……あるなら見に行きたいかも、って。
五十鈴が口にすれば、勿論セイレインも、花火があるなら見に行きたい! と。
はしゃぐように視線を巡らせてみれば……どうやら、丁度これから始まるみたい。
ということで、特等席のちょっと上空で花火を見ることにしたセイレインだけれど。
「あ、後ろの人見えないかな?」
そう気づいて、すぐに五十鈴の肩へと肩車式にちょこんと乗っからせて貰うことにして。
「いいねえ花火……綺麗だぁ~……あ! でかくて豪華なの来たよ!」
「打ち上げ花火、すごい迫力」
綺麗な星月夜の空に咲く大輪の華を、ふたり一緒に存分に堪能して。
「ボクの水に慣れた方が金太郎も過ごしやすくなるからね!」
よく分からない理屈だけど、セイレインお手製水球は原獣的な魔法の力が籠っているから……もしかしたらファミリアか何かに変化するのかもしれない?
花火の余韻を味わいながらの帰り道、セイレインはそう金太郎を自分の能力で作った水球に移して。
五十鈴も射的で手に入れたもふもふぬいぐるみを抱えながら、もう少しだけ堪能することにする。
友達と一緒の、楽しい秋の夜長を。
成功
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