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P・K・K・K ~キラーたちの化かし合戦~

#ゴッドゲームオンライン

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#ゴッドゲームオンライン


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●ゴッドゲームオンライン
「なあなあ、知っているか?」
「またあんたが“|PK《プレイヤーキラー》”にやられた話か?」

 とある街の酒場の中、クエストボードの前でふたりの冒険者が会話をしていた。

「今回はちげーよ、“|PKK《プレイヤーキラーキラー》”ってやつが現われたらしいぜ」
「“ぷれいやーきらーきらー”? なんだ? そのふざけた名前」
「ふざけたもなにも、PKKは俺たちのような弱小プレイヤーの救世主みたいなもんだぜ!」
 |統制機構《コントロール》で人気のオンラインゲーム、“ゴッドゲームオンライン”には、PKと呼ばれる他のプレイヤーを積極的に殺すプレイヤーが存在していた。
 そんなPKを集団で囲み、追い詰める集団がPKKであると、ひとりは説明した。
 集団のリーダーは白いローブを着ており、追い詰めた先でこう告げながら天誅を下すという。

 “弱者を貶める汝に光の鉄槌を”……と。

「……本当に、そんなやつがいるのか」
 冗談半分に聞いていた相手は、その噂話に目を輝かせる。
 まるで、自身もPKの被害に遭い、その集団にすがりつこうとするように。

「ばからしい」

 離れていた場所から会話を聞いていた別の冒険者は、ポソリと呟いた。

「弱者を貶める? それが咎められるのなら、統制機構と同じじゃん」
 その冒険者は十代ほどの見た目をした少女。
 背中にある大剣を含めて、周りの冒険者よりも目立つ装備をしていた。
「自分の力で手に入れた力ぐらい、存分に発揮させてよ……」
 少しひとりごとが多かったことに気がついたのだろう。少女は自分の口に手を当てた。
 誰にも聞かれていないことを確認するように辺りを見渡していると、掲示板から男女が去って行くのを見て、少女は不機嫌な顔で掲示板の元へと向かった。

 掲示板に書かれた依頼書を見た瞬間、その不機嫌な顔を、次の獲物を見つけたような笑みへと変えた。

 次の獲物を見つけたのは彼女だけではない。
 少女の後ろ姿を見て、街から離れる人影のようなものがあった。

●グリモアスペース
「……お察しの方もいると思います。PKKを名乗る集団……彼らはプレイヤーと噂されているものの、“ゴッドゲームオンライン”におけるプレイヤーではありません。PKKの正体はバグプロトコル、つまりボクたちが認知するオブリビオンです」

 グリモアスペースの中でノキ・エスプレッソ(色を求めて走るレプリカント・f41050)は、自身の|愛車《ハイスピードバイク》に腰掛け、集まった猟兵たちに語る。
 彼女は猟兵として活動する中で、突然電子頭脳の中でノイズが走り、ゴッドゲームオンラインで起きる出来事を予知、目覚めたばかりのグリモアによる能力で猟兵たちを集めたのだ。
「先ほどのプレイヤーの噂に出ていた、PKKにやられたPK……彼は現実世界である統制機構で、|遺伝子番号《ジーンアカウント》を失いました」
 遺伝子番号は、統制機構において人として暮らせる権利書のようなもの。遺伝子番号を失うことは、人権を失うのと同意義であると言える。
 そんな事実を機械らしく淡々と語っていたノキだったが、ふと、自身の予知を振り返るように眉をひそめた。
「……ボクには、まだ人の複雑な感情のことはよくわかりません。他のプレイヤーを狙うことが迷惑行為であるのか、それを認めることもプレイヤーの自由を尊重することであるのか」
 ですが、と決意を固めるように、自身の手のひらにあるグリモアと呼ばれるエネルギー体を見る。
「この世界に必要であるプレイヤー、およびその人間の存在を消さんとするオブリビオンを、ボクは許すことができません。世界を渡るこの力を手に入れたのに、その世界の色を見ないまま滅び行くのを見ているわけにはいかない……」

 一瞬だけ、人間のような感情を持った表情を浮かべ、猟兵たちに顔を向ける。

「これがボクの、グリモア猟兵としての初めての依頼です……みなさん、力を貸してください」

 猟兵たちの反応を受け、ノキは安堵したような表情の後に、元の無表情に戻り作戦の提案を始めた。

 次に狙われるのは……先ほどの予知で出てきた冒険者の少女。
 彼女は初心者を手助けする経験者を装って近づき、自身がゲームを始めたころにはなかった初心者支援用の装備を手に入れようともくろむPKだった。
 そんなPKを、PKKも狙っているのが、現在の状況である。

「みなさんには、このゴッドゲームオンラインを始めて間もない初心者プレイヤーとして向かってもらいます」

 現在、初心者が多く集まっているのは、低難易度緊急クエストと呼ばれるもの。この緊急クエストは舞台となる草原が広く、かつグリモア猟兵としての経験が浅いノキではその草原の中のどこかまでしか予知できなかった。
 そこで、初心者プレイヤーとして緊急クエストに参加し、PKとそれを狙うPKKがやってくるのを待つ……それがノキの作戦だった。

「PKとPKKとの化かし合戦……それを制するのは、|PKKK《みなさん》です……!!」

 健闘を祈りますと告げ、猟兵たちを転送するノキの表情は、自信に満ちあふれた笑みを浮かべていた。


オロボ
 こんにちは、オロボと申します!
 今回、マスターとして初のシナリオとなりますので、よろしくお願いします!

 さて、今回のシナリオは最近追加された「ゴッドゲームオンライン」が舞台となります。
 目的は「PKKのリーダーであるバグプロトコルを倒す」こと。シナリオに登場する「PKの少女」の生死は問いませんが、生存させることで結末の後味はよくなることでしょう。

 第1章では、「緊急クエストに参加し、PKの少女をおびき寄せること」が目標の冒険シナリオです。
 舞台となる広い草原で、各々が緊急クエストに関連した行動を取ってもらいます。
 PKの少女は初心者プレイヤーを狙っているため、初心者らしい、かつ目立つような行動をすると効果的かも……?

 第2章、第3章はそれぞれPKKの手下、リーダーであるバグプロトコルとの戦闘シナリオです。
 その場でいるであろうPKの少女は他のプレイヤーを殺せる実力を持っています。低級のバグプロトコルなら簡単にはやられないでしょう。
 しかし、PKKも多数のPKを葬っているバグプロトコルです。PKKの実力には、なにか秘訣があるのかも……?
 PKKはPKの少女を優先的に狙うので、生かす場合には注意が必要ですね。

 それでは、キラーたちの化かし合戦の開幕です!
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第1章 冒険 『緊急クエスト!』

POW   :    緊急クエスト限定のモンスターと戦う

SPD   :    フィールド上に配置されたアイテムをかき集める

WIZ   :    時間制限つきの特殊な謎解きに挑む

イラスト:del

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「女の子のPK、か。彼女にもまた思想があるようだ。対話できるタイミングがあると良いのだが……」

 ノキによってゴッドゲームオンラインの世界へ転送されたムゲン・ワールド(愛に生きたナイトメア適合者・f36307)は、今回の依頼を改めて振り返りながら草原を歩いていた。
「しかし私はこの世界に本当に不慣れな初心者。ここは熟練者にキャリーしてもらいましょう」
 頼めますか、アレイスター君? と、ムゲンは隣を歩くプレイヤーにたずねる。
 その声に応えるように、アレイスター・フラメル(ネット弁慶の女好きキャスターDPS・f41810)は|とんがり帽子《エナン》の|鍔《ツバ》をつまんだ。
「任せたまえ、ムゲンさん。私がしっかりキャリーして差し上げよう」
 得意げに胸を張るアレイスターに、ムゲンは笑みを浮かべた。
 
 別の世界から生身で|出現《ログイン》したムゲンと、統制機構で暮らしながらこのゲームを遊んでいたアレイスター。
 ふたりはとある街でそれぞれが女性にナンパしていた時に知り合い、女好きという共通点から意気投合した仲であった。

「では……アレイスター君、背中に乗ってください」

 ふと、アレイスターが外していた目線をムゲンに戻すと、ムゲンの腰から下が4本足の白馬となっていた。上半身は人間のままであるその姿は、神話のケンタウロスを彷彿とさせる。彼のユーベルコード『ナイトメアビースト・ユニゾン』により、白馬型の来訪者種族「ナイトメア」と融合したのだ。
 いきなり姿が変わっていたことにアレイスターは1度目を見開くものの、全身を改めて観察すると関心するようにうなずいた。
「なるほど、では乗せてもらおう」
 アレイスターがその背中に飛び乗ったのを確認すると、ムゲンはその4本足で地面を蹴った。

 ぱから、ぱから、ぱから。

 蹄の音に合わせて、ムゲンの4本足は草原をかける。このスピードなら、広い草原であっても効率よく廻ることができそうだ。
「これは良いな。タンクがおらずともスピードで翻弄しながら、戦闘出来る」
 とんがり帽子を押さえながら、目的のPKを探そうとアレイスターは辺りを見渡す。

 ふと、アレイスターは武器のひとつである召喚士の杖を構える。
 それとともに、ムゲンはアレイスターが向いている方向へと進行方向を変えた。

 その方向に見えたのは、多数のゴブリンの群れ。
 バグプロトコルではなく、ゲームが用意したモンスターだ。だが、緊急クエストの対象であるモンスターと戦えば、このクエストに参加していることを周りに見せることができるだろう。
 
 ムゲンはゴブリンの群れにある程度の距離まで突進すると……地を蹴り跳躍し、ゴブリンの頭部を踏みつける!
 呆然と見上げる他のゴブリンたちに、紫色の球体……悪夢爆弾を放つ。
 追尾機能を持つ悪夢爆弾から逃れるはずもなく、喰らったゴブリンはその場に倒れ込み、悪夢に苦しみもだえる。
 そのゴブリンの腹の上に着地し、再び跳躍。さらに別の1体に悪夢爆弾を放ち、動けなくなった対象を踏み台にまた跳躍……空を舞いながら、ムゲンは踏み付けと悪魔爆弾でゴブリンたちを殲滅していく。

 そんなムゲンの目の前を、火の玉が通過した。
 杖を持ったゴブリンの魔術師の軍団が、ムゲンの跳躍では届かない場所にいた。魔術師たちにとって空中にいるムゲンは、絶好の的であろう。

 しかし、ムゲンは取り乱さなかった。
 その背中に乗るアレイスターが、既に杖の先端を魔術師たちへと向けていたのを知っていたからだ。

「この光の導く先に、出でよ、|重騎士の大剣《ヘビーウェイトソード》!」

 杖の先端の宝石が輝いたかと思うと、そこから一条の光線が放たれる。
 その光線は魔術師の1匹に当たるものの、なにも起こらない……かと思われた。
 瞬間、その1匹の前に、1双の小手が現われる。その小手の手にある大剣を、大きく振りかぶり……!

 魔術師を、切り伏せた!

 アレイスターのユーベルコード、『|即席召喚・重騎士の大剣《インスタントサモン・ヘビーウェイトソード》』によって召喚された、重騎士の一部位による斬撃だ。
 アレイスターは、次々と魔術師たちに向けて光線を放ち、重騎士の腕と大剣を召喚していく。
 召喚された大剣は踊り、1匹、また1匹と一刀両断する。
 
 ムゲンが地面に着地したころには……周辺のゴブリンは、皆地に伏していた。

「すごい……」
「あの人たち、あっという間に倒しちゃった……」

 その様子を見ていたのは、2人組の女性プレイヤーたち。
 身に纏っている装備は、シンプルながら計算されつくされた見た目の装備品……初心者プレイヤーに配られる装備だ。

 そんな彼女たちに、ムゲンとアレイスターはすぐさま近づく。

「可愛いお嬢さん、良ければ一緒に狩りでもどうですか?」
「もしや、タンクがいないのが心配ですか? ならご心配なく、私の召喚魔法はタンク役を担う重騎士を召喚出来ますから」

 ケンタウロス型のまま手を差し伸べるムゲンに、後ろに鎧を纏った重騎士を出してみせるアレイスター。
 いきなりのナンパに、初心者プレイヤーのふたりは困惑したように顔を合わせた。
※マスターより
 大変申し訳ございません。上記の断章は、リプレイの内容を謝って断章として公開してしまったものです。
 誤植申請フォームにて削除の申請を行いましたが、訂正は2月ほどになるかと思います。
 以下に改めてリプレイを投稿させていただきます。
ムゲン・ワールド
【アレイスター(f41810)と】

 女の子のPK、か。彼女にもまた思想があるようだ。
 対話できるタイミングがあると良いのだが……。

 しかし私はこの世界に本当に不慣れな初心者。ここは熟練者にキャリーしてもらいましょう。頼めますか、アレイスター君?

 では、UC発動。ケンタウロス型になります。アレイスター君、背中に乗ってください。
 草原は広い。このケンタウロスの姿を使って、可能な限り草原内を走り回る。

 緊急クエストのターゲットは踏み付けと悪夢爆弾で倒していくぞ。

 緊急クエストに参加している。可愛い女の子初心者PCがいたら、声をかけましょう。
「可愛いお嬢さん、良ければ一緒に狩りでもどうですか?」


アレイスター・フラメル
【ムゲン(f36307)と】

 任せたまえ、ムゲンさん。
 私がしっかりキャリーして差し上げよう。

※ムゲンとアレイスターはそれぞれある街で女の子をナンパしていたところを知り合い意気投合した仲

 なるほど、では乗せてもらおう。これは良いな。タンクがおらずともスピードで翻弄しながら、戦闘出来る。

 私も馬の上から魔法(UC)を発動し、遠くから攻撃してくるキャスター系MOBを迎撃しよう。

 可愛い女の子初心者PCがいたら、ムゲンと一緒にナンパだ。

「もしや、タンクがいないのが心配ですか? ならご心配なく、私の召喚魔法はタンク役を担う重騎士を召喚出来ますから」
 と言って簡単な【召喚術】を披露して見せる。
 



「女の子のPK、か。彼女にもまた思想があるようだ。対話できるタイミングがあると良いのだが……」

 ノキによってゴッドゲームオンラインの世界へ転送されたムゲン・ワールド(愛に生きたナイトメア適合者・f36307)は、今回の依頼を改めて振り返りながら草原を歩いていた。
「しかし私はこの世界に本当に不慣れな初心者。ここは熟練者にキャリーしてもらいましょう」
 頼めますか、アレイスター君? と、ムゲンは隣を歩くプレイヤーにたずねる。
 その声に応えるように、アレイスター・フラメル(ネット弁慶の女好きキャスターDPS・f41810)は|とんがり帽子《エナン》の|鍔《ツバ》をつまんだ。
「任せたまえ、ムゲンさん。私がしっかりキャリーして差し上げよう」
 得意げに胸を張るアレイスターに、ムゲンは笑みを浮かべた。
 
 別の世界から生身で|出現《ログイン》したムゲンと、統制機構で暮らしながらこのゲームを遊んでいたアレイスター。
 ふたりはとある街でそれぞれが女性にナンパしていた時に知り合い、女好きという共通点から意気投合した仲であった。

「では……アレイスター君、背中に乗ってください」

 ふと、アレイスターが外していた目線をムゲンに戻すと、ムゲンの腰から下が4本足の白馬となっていた。上半身は人間のままであるその姿は、神話のケンタウロスを彷彿とさせる。彼のユーベルコード『ナイトメアビースト・ユニゾン』により、白馬型の来訪者種族「ナイトメア」と融合したのだ。
 いきなり姿が変わっていたことにアレイスターは1度目を見開くものの、全身を改めて観察すると関心するようにうなずいた。
「なるほど、では乗せてもらおう」
 アレイスターがその背中に飛び乗ったのを確認すると、ムゲンはその4本足で地面を蹴った。

 ぱから、ぱから、ぱから。

 蹄の音に合わせて、ムゲンの4本足は草原をかける。このスピードなら、広い草原であっても効率よく廻ることができそうだ。
「これは良いな。タンクがおらずともスピードで翻弄しながら、戦闘出来る」
 とんがり帽子を押さえながら、目的のPKを探そうとアレイスターは辺りを見渡す。

 ふと、アレイスターは武器のひとつである召喚士の杖を構える。
 それとともに、ムゲンはアレイスターが向いている方向へと進行方向を変えた。

 その方向に見えたのは、多数のゴブリンの群れ。
 バグプロトコルではなく、ゲームが用意したモンスターだ。だが、緊急クエストの対象であるモンスターと戦えば、このクエストに参加していることを周りに見せることができるだろう。
 
 ムゲンはゴブリンの群れにある程度の距離まで突進すると……地を蹴り跳躍し、ゴブリンの頭部を踏みつける!
 呆然と見上げる他のゴブリンたちに、紫色の球体……悪夢爆弾を放つ。
 追尾機能を持つ悪夢爆弾から逃れるはずもなく、喰らったゴブリンはその場に倒れ込み、悪夢に苦しみもだえる。
 そのゴブリンの腹の上に着地し、再び跳躍。さらに別の1体に悪夢爆弾を放ち、動けなくなった対象を踏み台にまた跳躍……空を舞いながら、ムゲンは踏み付けと悪魔爆弾でゴブリンたちを殲滅していく。

 そんなムゲンの目の前を、火の玉が通過した。
 杖を持ったゴブリンの魔術師の軍団が、ムゲンの跳躍では届かない場所にいた。魔術師たちにとって空中にいるムゲンは、絶好の的であろう。

 しかし、ムゲンは取り乱さなかった。
 その背中に乗るアレイスターが、既に杖の先端を魔術師たちへと向けていたのを知っていたからだ。

「この光の導く先に、出でよ、|重騎士の大剣《ヘビーウェイトソード》!」

 杖の先端の宝石が輝いたかと思うと、そこから一条の光線が放たれる。
 その光線は魔術師の1匹に当たるものの、なにも起こらない……かと思われた。
 瞬間、その1匹の前に、1双の小手が現われる。その小手の手にある大剣を、大きく振りかぶり……!

 魔術師を、切り伏せた!

 アレイスターのユーベルコード、『|即席召喚・重騎士の大剣《インスタントサモン・ヘビーウェイトソード》』によって召喚された、重騎士の一部位による斬撃だ。
 アレイスターは、次々と魔術師たちに向けて光線を放ち、重騎士の腕と大剣を召喚していく。
 召喚された大剣は踊り、1匹、また1匹と一刀両断する。
 
 ムゲンが地面に着地したころには……周辺のゴブリンは、皆地に伏していた。

「すごい……」
「あの人たち、あっという間に倒しちゃった……」

 その様子を見ていたのは、2人組の女性プレイヤーたち。
 身に纏っている装備は、シンプルながら計算されつくされた見た目の装備品……初心者プレイヤーに配られる装備だ。

 そんな彼女たちに、ムゲンとアレイスターはすぐさま近づく。

「可愛いお嬢さん、良ければ一緒に狩りでもどうですか?」
「もしや、タンクがいないのが心配ですか? ならご心配なく、私の召喚魔法はタンク役を担う重騎士を召喚出来ますから」

 ケンタウロス型のまま手を差し伸べるムゲンに、後ろに鎧を纏った重騎士を出してみせるアレイスター。
 いきなりのナンパに、初心者プレイヤーのふたりは困惑したように顔を合わせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハーゲル・アポステル
「PKの女の子、ねえ……オレも女だし間違えられちゃったりして?」と思いつつ緊急クエストを受注、該当フィールドに移動します。
しかしフィールドに落ちているアイテムに興味を持ってしまい、「あ、面白そうなアイテムいっぱい落ちてるじゃーん、要らなかったら換金すればいいし集めとこ」とフィールドに落ちているアイテムを集めはじめます。
その際に、UC「バーチャル・ゴースト」を使用、フィールド上の動きが素早そうなエネミーに憑依し、エネミーの素早さを利用してフィールドを駆け回ります。
「よしよし、アイテムがっぽり、トリリオンもたっぷり、これで装備整えちゃうぞー!」と他にもいいアイテムがないか物色します。



 ムゲンとアレイスターがクエストに出発する少し前、ムゲンと同じく別世界から転送されたハーゲル・アポステル(バーチャルキャラクターのワールドハッカー・f37296)はクエストボードの前で緊急クエストの内容を確認していた。
 
 ――PKの女の子、ねえ……オレも女だし間違えられちゃったりして?

 もしも彼女の妄想が現実になった場合、PKKや恨みを持つプレイヤーから狙われるだろう。しかし、ハーゲルは不安を感じるどころか、自信に満ちあふれている表情を浮かべていた。

 クエストを受注し、草原に出たハーゲルはクエストを進めるために歩き出す。
「あ、面白そうなアイテムいっぱい落ちてるじゃーん」
 緊急クエストの舞台となる草原には、普段はなかなか手に入らないレアアイテムが至るところに配置されている。ハーゲルが足元から摘み取った花も、そのひとつ。
「要らなかったら換金すればいいし集めとこ」
 ハーゲルはそうつぶやきながら花を持ち物にしまうと、今度は近くにあった1本の木に生っているリンゴに、そして街道に落ちている石を拾う。
 フィールド上のアイテムを次々に回収していくハーゲルのその好奇心は、実験体として管理社会の研究所で育った過去の反動なのだろうか。
 
 そんなハーゲルの元に、うなり声を上げながら近づいてくる1匹の獣。
 草原のモンスターである、オオカミだ。
 
 オオカミに気づいたハーゲルは、なにか思いついたような笑みを浮かべた後、自身の姿を半透明に変化させる。
 
 任意の対象に憑依することができる、ハーゲルのユーベルコード『バーチャル・ゴースト』。オオカミに憑依することができれば、この草原も効率良く回れるだろう。
 無論、スピードで翻弄する野生のオオカミに触れることは、容易いことではない。
 触れようと伸ばす手をオオカミに回避されるが、それでもハーゲルは諦めずに奮闘し続け……時間はかかったものの、ついに、オオカミの尻尾に触れた!

 その瞬間、ハーゲルの姿が消えたと思うと、オオカミの背中から電子の翼が生えた。
 オオカミに憑依したハーゲルは草原を駆け回り、次々とアイテムを回収していく。
 
「よしよし、アイテムがっぽり、トリリオンもたっぷり、これで装備整えちゃうぞー!」

 ゲームの初心者らしくこの世界を楽しむハーゲルの声が、草原に響き渡った。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

リカルド・マスケラス
化かし合いなら狐の出番っすね
「クエストってこんな風にになっているんすね〜」
【霧影分身術】で作った肉体に本体の狐のお面をつけて草原を散策。分身には課金装備っぽいアイテムを装備している風の格好をさせる
「こう言うゲームっていうのは、序盤のアイテムやスキルが揃っていない状態の時にどれだけ楽できるように先行投資できるかで決まるんすよ。課金で時間を買うようなもんっすよ」
とか初心者ながら課金勢アピールで【挑発】。リアルの環境が良くないプレイヤーからはヘイトが溜まる発言
「んー、レベルが足りなくても装備で何とかなるっしょ」
と舐めプ発言をしてPKに狙われやすいよう、フラフラしておくっすよ



「化かし合いなら狐の出番っすね」

 緊急クエストに参加したプレイヤー、そして猟兵たちが草原を駆け回る中、リカルド・マスケラス(希望の|仮面《マスカレイド》・f12160)は草原を歩きながら軽口を叩いていた。
 彼の体は銀色に輝く鎧の一式を身に纏い、きらめやかな装飾が施された片手剣を腰に下げている。大量の|通貨《トリリオン》を払って入手できる装備とよく似ているが、本物ではない。リカルドのユーベルコード『忍法・|霧影分身術《ムエイブンシンジュツ》』で作った肉体に装備させた、いわゆる彼の分身である。
 肝心の本体は分身の頭の上につけている狐のお面。彼はいわゆるヒーローマスクと称されることの多い、意思を持つ仮面だ。

 そんなリカルドの装備を眺めて手を止めたのは、草原に生えた薬草を採取していたプレイヤーの男性。自身が装備している初心者用の装備とリカルドの装備を見比べ、ため息をつく。
 リカルドは1度足を止め、その初心者プレイヤーに向けて声をかけた。
 
「こう言うゲームっていうのは、序盤のアイテムやスキルが揃っていない状態の時にどれだけ楽できるように先行投資できるかで決まるんすよ。課金で時間を買うようなもんっすよ」

 実力で手に入れたと思い込んでいたことからの失望か、はたまた|統制機構《コントロール》での劣等感を刺激させられたのか。
 いずれにせよ、挑発としか受け取れられないリカルドの言葉は、初心者プレイヤーがその場に落ちていた石を掴む動機としては十分だった。
 飛んできた石が地面に落ちる様子を見て、さらに挑発するようにクスクスと笑うと、リカルドは再び歩き出した。
 
 もちろん、リカルドはただ無課金でゲームを遊ぶ者をあざ笑っているわけではない。これもPKをおびき寄せるための立派な作戦なのだ。
 “究極のオンラインゲーム”と謳れるこのゴッドゲームオンラインが、装備やレベルによるステータスの有無だけで強さが決まるとは思えない。プレイヤー自身の知識と経験こそが最強への道となることに気づいて初めて、初心者から卒業できるだろう。

「んー、レベルが足りなくても装備で何とかなるっしょ」

 そのことを理解して、あえてリカルドは発言する。
 戦闘を行う者たちを見て侮るような素振りを見せながら、ひとりで草原を歩く。

 端から見れば、課金装備で調子に乗っているだけのプレイヤースキルなき初心者。
 実力あるPKにとって、格好の的だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネリネ・リード
[POW]
アドリブも共闘もwelcome!

PK結構。最ッ高に楽しんでんじゃん。
PKK結構。賞金稼ぎRPは乙なもんさ。
正義の味方気取って|弱者《ソロのPK》を嬲る|卑怯者《多勢のPKK》はクソダセーけどな。
やるならせめて悪役ぶれってんだ。
まあ、オブリビオンにWABISABIなんて分かんねーか。

さてさて、こっちはこっちで初心者ぶらねーとな。
いやさ。実際このゲームじゃ、ずぶの素人なんだけどさ。
っと、コイツラが緊急クエの敵か。

とりあえず初心者の剣で斬ってみっか。


…。
……。
いやー、GGOにSF要素があって良かったわ。
やっぱ慣れねー剣振り回すよか、自前の義腕のがイイな。シックリくるな。
(勝負勘で立ち回る)



 リカルドが演じた無課金煽りと同じように、このゲームにおいてPKは迷惑行為だと認識するプレイヤーは多い。
 だが、本来のPKKも含めてその存在を受け入れている者もいる。

 ――PK結構。最ッ高に楽しんでんじゃん。PKK結構。賞金稼ぎRPは乙なもんさ。

 ネリネ・リード(THE RED・f20899)も、そのうちのひとり。

 ――正義の味方気取って|弱者《ソロのPK》を嬲る|卑怯者《多勢のPKK》はクソダセーけどな。やるならせめて悪役ぶれってんだ。
 
 その思いを秘めた鋭い眼光は、武力衝突によって自身の両腕と家族を失った過去からだろうか。巨大な義手で拳を握りしめ、彼女は草原へと足を踏み入れる。

「さてさて、こっちはこっちで初心者ぶらねーとな……いやさ。実際このゲームじゃ、ずぶの素人なんだけどさ。っと」
 ひとり呟くネリネだったが、現われた3匹のゴブリンを前に、すぐ手にしていた剣を構える。
「コイツラが緊急クエの敵か。とりあえず初心者の剣で斬ってみっか」
 ネリネは剣を構え、1匹に向かって振り下す……が、簡単に回避される。慣れないネリネの剣術に、ゴブリンたちは見くびるように笑い出した。
 
 その瞬間、1匹のゴブリンは宙を舞った。

「いやー、GGOにSF要素があって良かったわ。やっぱ慣れねー剣振り回すよか、自前の義腕のがイイな」

 シックリくるな。と、ネリネは剣を投げ捨て、先ほどアッパーを繰り出した自身の義手の指を動かす。この義手こそ、ネリネにとっての最大の武器である。
 吹っ飛ばされたゴブリンが地面に叩きつけられる様子を見て、他のゴブリンたちは距離を取ろうと走り出した。ネリネもすぐに追いかける。

 が、後ろに飛び退いた。

 2匹のゴブリンが持っていたのは、弓。ネリネの足元には矢が刺さっている。
 次々と飛んでくる矢に対し、ネリネは回避したり義手で防ぐものの、近づくタイミングを掴めずにいた。

 その時、刃の音が草原に響き渡る。

 ネリネとは別方向で、人影が大剣を構えている。その音にゴブリンたちが目を逸らしたところを、ネリネは逃さなかった。
 一気に距離を積め、その巨大な義手で2匹まとめて……草原の彼方へと吹っ飛ばした!

 戦闘を終え、一息つくネリネ。
「そこのキミ」
 そんな彼女に声をかけてきたのは、先ほど大剣でゴブリンの|注目《ヘイト》を惹きつけた人影。
「ひとりだと苦労するでしょ。よかったらパーティ組まない?」
 
 その人影は、ネリネに向かって手を差し伸べる。

 直後、大剣を振り下ろした!

苦戦 🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ラングスクイード』

POW   :    スクイッド・スロー
掴んだ対象を【烏賊】属性の【触腕】で投げ飛ばす。敵の攻撃時等、いかなる状態でも掴めば発動可能。
SPD   :    スクイード・スピン
自分の体を【墨を吐きながら高速回転】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【盲目】の状態異常を与える。
WIZ   :    スパイニー・テンタクル
対象の【胴体】を【棘の生えた触腕】で締め上げる。解除されるまで互いに行動不能&対象に【貫通】属性の継続ダメージ。

イラスト:滄。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 目の前の猟兵に向かって大剣を振り下ろす一瞬の間、少女はPKとしての快感に酔いしれる。

 レベルも足りない相手に奇襲するのは卑怯だ、過去にそう非難されたこともある。
 だが、彼女からすると甘えた言葉だ。非難する者のほとんどがレベルの低い弱者であることだって知っている。
 レベルもこのゲームで自分が積み上げてきた、実力の証。甘い考えを持つ弱者を襲い、装備を奪い、根性をたたき直すこと。それが、実力があっても幸せを掴めない超管理社会|統制機構《コントロール》での不満を晴らす、彼女にとって唯一の方法だった。
 
 その時、ふたりの間に黒い影が飛び出した!

「ッ!?」

 突然の出来事に、少女は思わずその手を止める。
 そして飛び出してきた影……黒いローブを着たなにかに大剣を向けた。

「なっ……なに……!?」

 少女は一瞬、噂のPKKだと考えた。
 しかし、脱ぎ捨てた黒いローブから現われたのは……イカのようなモンスター。見たことのないモンスターに、彼女は冷や汗をかく。
 
 知らないのも無理はない。猟兵たちが探していた、PKKに扮するバグプロトコルだ!

 バグプロトコル……ラングスクイードは、ローブを脱いだことで身軽になった触腕で襲いかかる! 少女はすぐに反応して、切り捨てる。
「……! こっちも!?」
 後ろから襲ってきた別のラングスクイードの攻撃を横に飛んでかわす。
 ふと少女が見渡すと、1匹、2匹、3匹……次々とラングスクイードがやってくる。目の前の猟兵を無視して!
「なんでアタシばっかりなの!!?」
 たまらず、少女はその場から離れた場所へと逃げ出した。

 草原の真ん中まで追いかけられ、少女は戦闘を再開する。
 それを見たプレイヤーも何人かいたが、わざわざ乱闘に近づこうとする者はいない。遠くから見ればイカのようなシルエットもよく見えないだろう。

 誰かが、遠くから眺めて呟いた。

 噂のPKKがPKに天誅を下そうと、取り囲んでいるんだ、と。
アレイスター・フラメル
【ムゲン(f36307)と】

 引き続きムゲンの背中に。
「お嬢さん、今助けるよ!」
 PKの女性に接近すると同時に即座にUC発動。【目立たない】技術を逆に利用し、目立たせ、召喚した重騎士にヘイトを取らせる。
 ムゲンが変身を解除したら、自分も飛び降りて、お嬢さんに会釈、
「ぐっ、こいつらの攻撃、貫通属性だ。ムゲン! 早く決めてくれ!」
「まだ時間がかかるのか!? ええい、お嬢さんのためだ」
 【各種召喚石】をさらに追加してUC発動。重騎士の数を増やす!

 ムゲンの交渉が成功したら、重騎士の一人に飛び乗り、【属性攻撃】を【高速詠唱】で攻撃

 もし万一背中から攻撃してくるようなら、重騎士が【シャドウパリィ】で対処


ムゲン・ワールド
【アレイスター(f41810)と】

 前章から引き続きの形態で【白銀の騎乗槍】で【ランスチャージ】&詠唱短めのUC発動で包囲網を崩し、お嬢さんに接近する。
 人間に戻って、UCを詠唱しつつ声をかける。
「やぁ、麗しいお嬢さん、苦しい状況のようだね。良ければ臨時でパーティを組まないかい?」
 こちらの様子は探られていたはず。ナンパして回っていたことも見られていた可能性は高い。違和感は覚えられにくいだろう。
「包囲網を一点突破で崩します。一緒にそこから逃げましょう」
 と【コミュ力】で【誘惑】【お誘い】
 包囲網の一角を崩せるほどの範囲になればUC発動。まとめて敵を眠らせる。
「今です!」
 女性の手を引き離脱。



「お嬢さん、今助けるよ!」
 
 包囲網の中へと突撃するのは、ケンタウロス姿のムゲン・ワールド(愛に生きたナイトメア適合者・f36307)とその背中に乗っているアレイスター・フラメル(ネット弁慶の女好きキャスターDPS・f41810)。先ほどのナンパの後、ローブで変装したラングスクイードが草原を横切るのを目撃し、後を追いかけて来たのだ。
 ムゲンは手にした“白銀の騎乗槍”を水平に構え、4本足の馬力による突進……ランスチャージで群れを蹴散らしていく。槍の位置よりも高く飛び上がってくる相手にもぬかりなく、小さな黒い球体を放ち、打ち落としていく。彼のユーベルコード『|優しき悪夢爆弾《アクムバクダン・フィーチャリング・ココア》』を短い詠唱で発動したものだ。
 PKの少女に接近すると、背中に乗っていたアレイスターが召喚石を取り出した。

「我が杖の召喚石を代償に、いでよ、我がタンク、堅牢なる重騎士よ!」

 その召喚石が消えるとともに、少女を囲むように重騎士型の召喚獣が3人現われ、剣を抜く。それぞれ違った外見を持った重騎士は、アレイスターやムゲンの服装と比べて華やかだ。
 先にこっちを片付けないと目標のPKにはたどり着けない。そう判断したのだろうか、ラングスクイードたちは攻撃をする意思を見せた重騎士へと狙いを変えた。
 
 ムゲンは少女の前で立ち止まり、『ナイトメアビースト・ユニゾン』を解除。人間の姿に戻るとすぐに次のユーベルコードを使うために詠唱を始めた。
 背中から降りたアレイスターは、頭のとんがり帽子を脱ぎ少女に会釈をしている。
「あ、あんたたちって……」
 2人の顔を見た少女は、思わず指を指した。
 
 この2人が初心者プレイヤーにナンパをしていたあの時、PKの少女は少し離れた位置から見ていた。本来はナンパ相手の初心者プレイヤーを狙おうとしたが、2人がナンパを始めたために話しかける機会を失い、別の獲物を探すために離れたのだ。
 
 覚えていて嬉しいよと言わんばかりに、ムゲンは少女の顔を見る。
「やぁ、麗しいお嬢さん、苦しい状況のようだね。良ければ臨時でパーティを組まないかい?」
 いきなりナンパをしてくるムゲンの行動は、1度ナンパを目撃したというのもあって違和感は感じない。
「……」
 だが、それ以上にPKである自分が誰かに助けてくれるという初めての状況に、少女は戸惑ってしまう。
 
 ガシャン、と鎧が倒れる音に少女は振り返る。すぐにアレイスターの声がムゲンに投げかけられた。
「ぐっ、こいつらの攻撃、貫通属性だ。ムゲン! 早く決めてくれ!」
 対象の胴体を棘の生えた触腕で締め上げるラングスクイードのユーベルコード『スパイニー・テンタクル』。貫通攻撃を持つこの攻撃に、騎士の鎧は役に立たなかった。
 
 すぐに、2人目の重騎士がその触腕の餌食となった。
「まだ時間がかかるのか!?」
 アレイスターの側には最後の1人がいたが、それは少女がPKとして奇襲をかけてきた際に|はじき返せる《シャドウパリィできる》ように残しているものだ。
 焦るアレイスターは持ち物から追加の召喚石を取り出すが、一瞬だけ躊躇する。この召喚石、1個200万|T《トリオン》の価値があり、先ほどの召喚で既に600万Tの出費が発生していた。
「ええい、お嬢さんのためだ」
 そんな事情を振り払うかのように首を振ると、今度は5個の召喚石を掲げ、5人の重騎士を召喚した。
 その様子を見ていた少女は、ようやく状況の整理がついた。
 
 ――この2人は、ホントにあたしを助けに来てくれた?

 少女はムゲンの顔を見る。
 誘惑するかのような表情のムゲンだが、仕込み杖を握る手は真剣そのものだ。
「包囲網を一点突破で崩します。一緒にそこから逃げましょう」
「……わかったわ」
 少女はムゲンの交渉に応じ、大剣を手に取った。

 未知のモンスターであろうとも、少女は他のプレイヤーを手にかけてきたPK。次々とその大剣で切り伏せていく。だが、それと同時に彼女は|人間《プレイヤー》でもある。長引く戦闘に集中力が落ちているのか、自衛で精一杯といった様子だ。裏を返せば、隙をついて2人を攻撃する余裕がない。
 そう判断したアレイスターは、PKに警戒して側に置いていた重騎士の1人に飛び乗る。そして、高速で詠唱した雷魔法を放ち、ラングスクイードを殲滅していく。

 やがて詠唱を終えたムゲンは、仕込み杖を群れの一角に向けた。
 
「ここあさんの悪夢を受けて学んだこの悪夢爆弾。受けてみるが良い」
 
 その杖の先端からは、巨大な黒い球体が出現、そして群れに向かって放たれる!

 それは、先ほど少女を助ける際に放った『優しき悪夢爆弾』が巨大化したもの。ムゲンがとある猟兵との鍛錬の末編み出した、対象を目覚めぬ優しい悪夢へと誘うこのユーベルコードには、詠唱時間に応じて範囲を拡大させる特徴があった。

 喰らったラングスクイードたちは眠りに落ち、この包囲網からの脱出口が開かれた!
 
「今です!」
 すぐにムゲンは少女の手を引き、ともに走り出す。
 その後を、アレイスターは騎乗している重騎士とともに追いかけた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ネリネ・リード
[POW]選択。喋りの体でプレ書くけど、アドリブ&アレンジ好きにしてくんな!

見ィつけた。
|PKK《オブリビオン》ちゃん、遊びましょ!

PKerちゃんに気ィ取られてるイカ野郎共に殴り込むぜ。
は、喧嘩のWABISABIも知らねェ奴らだとは思っちゃいたが、こんなツラしてっとはなあ!おい、誰かWASABI持って無えの?イカ刺しにして喰っちまおうぜ!

外野が五月蝿え?知ったこっちゃ無えな。
コイツらをぶっ潰すのがアタシの仕事。アタシが自分で選んで勝ち取ったアタシの生き方だ。文句のある奴ぁ掛かってきな!

さて、相手が触手で掴んでくるってんなら好都合。
自分から上に投げられる。位置エネルギー+義碗&UCで圧し潰す!



 ラングスクイードは再び群れをなし、PKの少女とその手を握るムゲンたちを追いかけている。
 すれ違った他のプレイヤーを、無視しながら。
 
「見ィつけた。|PKK《オブリビオン》ちゃん、遊びましょ!」

 そんな群れの後ろから殴りかかったのは、先ほどPKの少女に襲われかけたネリネ・リード(THE RED・f20899)。その巨大な義手で打ち込まれる拳は、1匹のみならず周りのラングスクイードも巻き込み、少女を追いかける隊列を崩していく。
 倒れているラングスクイードに近づき、ネリネはその一体の頭をわしづかみにした。
「は、喧嘩のWABISABIも知らねェ奴らだとは思っちゃいたが、こんなツラしてっとはなあ!」
 その顔をまじまじと見つめると、くるりと後ろを振り返る。

「おい、誰かWASABI持って無えの?イカ刺しにして喰っちまおうぜ!」

 そこにいたのは、先ほどまで傍観していたプレイヤーたち。
 彼らの冷たい目線、そして野次は、ラングスクイードではなくネリネに向かった。
「PKK様を離せ」
「PKの肩を持つ気か」
 彼らはラングスクイードとすれ違った時、PKKの正体が得体の知らないモンスターだったと理解した。だが、自分たちを無視するのを見て、PKの被害にあった自分たちの味方だと結論づけたのだ。
 
「あ゛?」
 そんな彼らを黙らせたのは、ネリネの鋭い眼光だった。
「そんなの知ったこっちゃ無えな。|PPK《コイツら》をぶっ潰すのがアタシの仕事。アタシが自分で選んで勝ち取ったアタシの生き方だ。文句のある奴ぁ掛かってきな!」

 そう叫ぶネリネの胴体に、触腕が巻かれる。

 彼女の後ろにいたのは……PKの少女を追いかけようと新たに現われた、ラングスクイードの群れ。その内の1体が彼女を拘束し、宙に持ち上げ振り回す。
 だが、当人であるネリネはまるで好都合と言わんばかりに、笑みを浮かべていた。

 空中に投げ出されたネリネは体をひねり、その巨大な右腕を空にかかげる。
 すると、その右腕の側に3mほどはある、宙に浮く機械の巨腕が現われた。ネリネの唯一にして絶対の自信を持つユーベルコード『|破砕の剛腕《ザ・スマッシャー》』だ。
「アタシの前に立ちふさがるなら……」
 それは、落下しながら振り下ろす右腕の動きと連動するかのように、共に地面にいるラングスクイードの群れに振り下ろされる!
「打ち砕く!」
 空中に投げ出された高さからの位置エネルギー、そして、己の生き方で突き進む意思も加え……!
 群れを押しつぶし、一掃した!

成功 🔵​🔵​🔴​


 ラングスクイードから逃げている少女は、ふと後ろを振り返った。

 先ほど自分が狙っていた人物が追いかけてくるラングスクイードを倒し、そのことで他のプレイヤーから非難を受けていた。
 その人物が自分を助けたことに疑問を感じながらも、非難を受けることは当然だろうと考えた。PKである自分はたくさんのプレイヤーから恨まれている。それを助けたのだから。

 だが、プレイヤーたちの中で本当に少女からPKの被害を受けていた者は、僅かだった。

 ネリネがラングスクイードに追いつく前の事。
 すれ違ったプレイヤーたちは得体の知れないモンスターに恐れを抱いていた。中には、噂になっている「人権剥奪事件」を思い出す者もいるだろう。そんな彼らには襲わず、ラングスクイードは悪質なPKだけを追いかけている。
 その様子に戸惑っている中、追いかけられているのがPKの少女であると気づいたプレイヤーが、前に彼女から装備を奪われたことを暴露した。それを聞いたプレイヤーたちはラングスクイードをPKKとして肯定し、ヒーローとして崇めることで安心していたのだ。
 
 人間は不安になると、特定の人間を攻撃してまで他の人間と同調するものなのだ。
 PKKを攻撃するネリネを、プレイヤーたちは自身の安心を守るために野次を飛ばしていたのだ。

 その後、鋭い眼光とともに放たれたネリネの言葉。
 それを聞いた者の中には自分の行動に複雑な感情を抱いた者もいた。
ハーゲル・アポステル
「うっわ、いっぱい出てきた」と言いながらもその顔は余裕であふれています。
「ギャラリーは多い方が燃えるし、ゲリラライブやっちゃうか!」
と、UC「コール・アンド・レスポンス」を発動、ゲリラライブを開始します。
「みんなー! オレのゲリラライブ、一緒に楽しまない?」
相手はエネミーであってもハーゲルのパフォーマンスに動きを止め、止めなかったエネミーも聞こえてくるライブでやる気が半減して攻撃の手が緩みます。
「やっぱりギャラリーがいっぱいいると楽しいね!」と歌い、踊り、エネミーたちを魅了していきます。
途中で攻撃してくるエネミーもやる気が半減しているためハーゲルのダンスに織り込んだキックで弾き飛ばします。



 ラングスクイードの群れを目撃したハーゲル・アポステル(バーチャルキャラクターのワールドハッカー・f37296)は、憑依したオオカミの体から抜け出した。

「うっわ、いっぱい出てきた」
 そう呟く彼女の表情は余裕そうな笑み。体は既にウォーミングアップの体勢に入っている。
「ギャラリーは多い方が燃えるし、ゲリラライブやっちゃうか!」
 追いかけらているPKの少女たちとすれ違いながら、ハーゲルはこちらに向かってくるラングスクイードの群れと対面する。
 そして最高の笑顔を見せ、人差し指で空を指した。

「みんなー! オレのゲリラライブ、一緒に楽しまない?」

 PKの少女を目指して走っていたラングスクイードたちは、その声を聞いて足を止めた。

「さあ! こっち見て踊って!」

 ハーゲルは草原の中を歌い、踊り始める。

 すると、先ほどまでPKの少女とそれを妨害する者だけを狙っていたラングスクイードが、なんとライブを盛り上げる観客のように触腕を振り回し、踊り始めたのである。

 ハーゲルのユーベルコード『コール・アンド・レスポンス』。
 耳に装着したインカムマイクによって効果を増幅されたそれにより、ハーゲルのパフォーマンスを見た者は魅了される。ハーゲルが「踊って」と命令すれば、たとえバグプロトコルであろうと攻撃の手を止め踊るのだ。
 無論、ハーゲルの声が届かない個体も存在する。踊るラングスクイードたちによってPKの少女を見失ったその個体たちは飛び上がり、その発生源となっているハーゲルに目掛けて触腕を伸ばす。

 が、ハーゲルの一蹴りによってあっさりと退場した。

 この『コール・アンド・レスポンス』のもうひとつの能力、それは命令を無視した者のやる気を半減するというものだった。魅了されていないラングスクイードは次々と飛んでくるが、跳躍が足りない彼らはハーゲルのダンスに混ぜ込んだ蹴りよって次々と飛んでいく。
 その様子ですら、観客の盛り上がりを加速させていくのだった。

 そして、魅了されたのはラングスクイードだけではない。

「おおっ! 今のキックかっこいい!」
「歌もいいわぁ! 盛り上がるー!」

 ネリネと一悶着あった、プレイヤーたちだった。
 ハーゲルのダンスに魅了された彼らは、今度こそ不安から解消されていた。誰かを攻撃するのではなく、楽しむことで。

「やっぱりギャラリーがいっぱいいると楽しいね!」

 盛り上がる観客を見て、ハーゲルの笑顔はさらに輝いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リカルド・マスケラス
「PKもPKKも無事釣れたみたいっすね」
剣を抜き、PKの少女を庇うように構える
「ここからは初心者ごっこは終わりっすね」
剣に炎を纏わせ【属性攻撃】【怪力】【なぎ払い】で一気に敵を|斬り払う《ブランディッシュ》
「デカすぎるイカは食材には向かないんすけど、こいつらはどうなんすかね?」

触腕で胴体を締め付けられたら
「残念。そこはダメージにならないっすよ」
分身を解除。すぐさま【進化分霊撃】の炎で作った分身(146LV分)に切り替え、敵の身を焼く。敵の数が多ければ、炎の分身を分裂させて焼き払いに行く

「騙すような形になってしまって悪かったすね、お嬢さん」
と、PKの少女は気にかけておくっすよ



「! 前から来た!?」

 後方からの群れは撒けたPKの少女たちだったが、その前方からは新たな群れが向かってきていた。
 このままでは、再び包囲されてしまうだろう。

「PKもPKKも無事釣れたみたいっすね」

 そんな少女たちの前に、呑気そうな声で人影が歩いてくる。
 リカルド・マスケラス(希望の|仮面《マスカレイド》・f12160)だ。
 
 剣を抜き、少女たちを庇うかのような構えを取る。
 すると、装飾で輝いていたその剣に炎が灯った。

「ここからは初心者ごっこは終わりっすね」

 向かってきたラングスクイードの群れに、リカルドは剣をなぎ払う!
 その怪力による勢いによって刀身に纏った炎は伸び、前方の群れが切り伏せられた。
「デカすぎるイカは食材には向かないんすけど、こいつらはどうなんすかね?」
 調子に乗るようなリカルドの表情に、少女の顔が険しくなる。

 とある初心者プレイヤーがリカルドに挑発されたことを、少女は本人の口から聞いていた。
 そのプレイヤーは少女に話し終えると、頭を冷やすためにさっさとクエストを中断して街に帰ってしまった。
 彼女にとって、リカルドは気にくわない対象であり、せっかくの獲物を逃がしてしまった元凶であるのだ。
 
 が、その直後。
「! 横ッ……!」
 横から現われたラングスクイードの触腕が、リカルドを拘束し……その胴体を、握りつぶした。
「……」
 防御力が高い課金装備のプレイヤーを、あっさりと葬った。
 気に入らない相手とはいえ、少女は骨を折られたように動かなくなった人影を見て、膝をついた。
 
「残念。そこはダメージにならないっすよ」

 その声とともに、彼の頭に付けていた……否、彼の本体が、頭から浮かび上がった。

 直後、掴んでいた体が人の形をした炎へと姿を変えた、ラングスクイードは堪らず手を離すものの、もう遅い。すぐに全身が炎に包まれ、その身を焼き尽くした。
 さらに現われた増援に、炎は再び人の形になり、分裂。群れを焼き払おうと飛びかかる!
 先ほどまでリカルドの本体が乗っていた分身は、彼のユーベルコード『忍法・|神火分霊撃《シンカブンレイゲキ》』で作った、人の姿に擬態ができる炎だったのだ。
 
 その時、草原に吹く風の強さが変わった。
 炎がかき消えるほどは強くない、だけど、燃え広がるには十分な風。

 ラングスクイードを包む炎が、さらに勢いを増したッ!

 リカルドはこのチャンスを逃さなかった。
 風の勢いを活用し、彼の操る炎は集まってきた群れを伝って燃え広がっていく!
 
 少女たちを囲む炎は、やがてひとつの道を開く。
 
「騙すような形になってしまって悪かったすね、お嬢さん」

 リカルドは少女を気にかける言葉をかけると、その道の先を面の角で指し示した。
 その先に見えるのは……街だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『データドレイナー』

POW   :    レベルドレイン
【先端を尖らせたデータドレイン触手】で近接攻撃し、与えたダメージに比例して対象の防御力と状態異常耐性も削減する。
SPD   :    ドレイナーファング
【触手で貫いた敵への食らいつき攻撃】で敵の肉片を捕食する。自身の身体部位ひとつが変異し、敵のユーベルコードひとつを使用可能になる。
WIZ   :    テンタクルスバインド
【データドレイン触手】を最大でレベルmまで伸ばして対象1体を捕縛し、【データドレイン】による汚染を与え続ける。

イラスト:朝梟

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵に手を引かれ、少女は街へ向かって走る。

 だが……彼女の胸の内では、まだ解消できない疑問が残っていた。
 その疑問を、少女は口に出す。

「どうして……あたしを助けてくれるの?」

 PKである自分を助ける理由。
 わざわざ自分に殺される恐れのある初心者を装い、そして、得体の知れないモンスターから自分を守ってくれる理由。

「あたしがみんなの装備奪ってるの、わかってるんでしょ?」
 
 ある者は自分の手を引いてまでも。
 ある者は莫大な出費を払っても。
 ある者はPKKを肯定する者たちから非難されても。
 ある者は他のプレイヤーたちを巻き込んでまでも。
 ある者は嫌われ者を演じてまでも。

「なのに、どうし――」
 
 そこまでして、自分を守る理由を。

 少女は、聞くことができなかった。

 手を引いていた猟兵が後ろを振り返ると、少女の姿が消えていた。


 
「……いたた」
 草原を走っていたはずの少女は、何者かに足が引っ張られる感触がした瞬間、草原の地下へと落とされていた。
 足をさすりながら持ち物からランタンを取り出し、辺りを見渡す。
「なに……この場所……」
 その場所は、壁の至る所に穴のある洞窟。まるで、何者かが掘ったような跡だった。
 見知らぬ場所に呆然とする少女は、ふと感じた気配に後ろを振り向く。

 白い芋虫が、丸呑みしようと巨大な口を開けていた。

「キャアッ!」
 少女がとっさに避けると、芋虫の口についていた赤い触手が少女の頬に触れた。
 かすり傷ですんだ少女は体勢を崩すものの、すぐに背中の大剣を取り出す。

 が。

「!?」

 1度大剣を構えたものの、バランスを崩して倒れ込んでしまう。
 まるで、急に大剣が重くなったかのように。

「うそっ、これって……!?」

 やがて、彼女はその場に座り込んだ。
 剣だけでなく、身につけている防具までもが重くなり、体を動かすことが出来なくなったのだ。

「……あ」

 その時、少女は気づいた。
 なぜ、得体の知れないモンスター相手に恐れを抱き、逃げ出していたのか。
 普通のモンスターに倒されても蘇ることができる、このゲームの中で。
 
「あ……あぁ……!」
 
 答えは、たった今少女が思い出した、PKKとは別の噂……“人権剥奪事件”。
 |統制機構《コントロール》を生きるのに必要な|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却してくる、バグプロトコルと呼ばれるモンスターの噂。

「ジャクシャ……ヲ……オトシ……メル……」

 おぞましい声を出すのは、巨大な芋虫型のバグプロトコル……データドレイナー。
 
「ナンジ……ニ……ヒカリ……ノ……」
「いや……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 今にも食らいつくさんとするその口を見上げて、少女はただ体を震わせることしかできなかった。

「テッツイ……ヲッ!」
「ごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさい……いやああああッッッッッ!!!」

 少女が落ちてきた小さな穴が、まもなく閉じようとしていた。
ネリネ・リード
アドリブ&アレンジ、あと共闘!
何でもイイぜ!

気に食わねえ

気に食わねえのさ
正義面して生き方押し付けてくる連中も
与えられるままに口開けて待ってるだけの連中も

そう言う人間にはなりたくねえ
そう言う人間でいたくねえ

拳だ

拳を握りしめる、たったそれだけの力があれば良い

目の前に壁が立ちはだかるってんなら、拳を打ちつけんのさ
何度も何度も。ぶち抜くまで何度でも。何度でもだ!

UC発動、ギミックへの吸気全開

さあ、やろうぜ
テメェの正義とアタシの拳、どっが硬えか比べようじゃねえか

無駄にデケェ敵がこっち狙って攻撃してくんだろ?
ならさ
敵も、敵の攻撃も、全部殴ってぶち抜いてやる!
真正面からブッ込むぜ!



「オオォッ!?」
「……?」

 思わず息を止め、目を伏せていた少女。
 自身が無事であることに驚き、見上げた先に見たものは――

「気に食わねえ」

 データドレイナーの口元に拳をたたき込む、ネリネだった。
 その口から生えていた赤い触手が、千切れ落ちていく。

「テ……テッツイ……ヲ」
「気に食わねえのさッ!」
 ネリネ・リード(THE RED・f20899)は、続け様に拳をたたき込んだ。
 周囲のラングスクイードを全滅させた後、彼女は少女たちの後を追いかけ、穴が閉じる前に間一髪飛び降りることができたのだ。
「正義面して生き方押し付けてくる連中も! 与えられるままに口開けて待ってるだけの連中も! そう言う人間にはなりたくねえ! そう言う人間でいたくねえッ!!」
 巨大な義手で殴り続けられ、反撃の隙を与えられないデータドレイナー。
 だが、黙って殴られていたわけではない。その口からは新たな触手が生えてきていた。

 データドレイナーのユーベルコード『レベルドレイン』。
 その赤い触手に触れた者はプレイヤーの強さであるレベルを奪う。少女はレベルを奪われたことにより装備のレベル制限に引っかかり、動けなくなったのだ。

 そんな相手にお構いなく、ネリネは拳をぶつけた。
 データドレイナーはよろめくものの、再生を完了した触手を尖らせネリネに向ける。
 
「どうやったら……そんなヤツと戦えるの……?」
 
 巨大な敵に立ち向かう意思を背負うネリネ。
 データドレイナーに恐怖を抱く少女は、その背中に向かって問う。

「拳だ」

 ネリネは、ニヤリと笑みを浮かべた。
 
「拳を握りしめる、たったそれだけの力があれば良い」
 ネリネのユーベルコード『|破砕の剛腕《ザ・スマッシャー》』によって機械の巨腕が召喚される。
「さあ、やろうぜ。テメェの正義とアタシの拳、どっちが硬えか比べようじゃねえか」
「……テッツイ……ヲッ!」
 
 迫り来る大きな口に、それよりも大きな機械の巨腕がめり込む。
 ネリネの人体と繋がっていないその巨腕は、触手からの汚染を受け付けない。
 
「目の前に壁が立ちはだかるってんなら、拳を打ちつけんのさ」

 ひるませたものの、崩れないその体勢に、もう1発。

「何度も……何度も……!」

 さらにネリネは、拳を打ち込んでいく……!

「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……ッ! ぶち抜くまで! 何度でも!」

 ついにデータドレイナーはのけぞった。
 そのガラ空きの胴体に……!
 
「何度でもだッ!」

 たたき込まれた拳は、データドレイナーを吹っ飛ばした!

成功 🔵​🔵​🔴​

ハーゲル・アポステル
「PKってもそりゃ色々理由はあるだろうからね……そんなのにお構いなく消そうとするバグプロトコルはこっちが消さなくちゃ!」
と、攻撃しようとするものの迫ってくる『レベルドレイン』が厄介なのでUC『リスナーの壁』を発動します。
リスナーの一部が盾になり、データドレインの触手の相手をして、他のリスナーは城を築き上げるのでその城の屋上に上がり、ライブでリスナーや他の猟兵を鼓舞していきます。
「みんな! 今は大変かもしれないけどきっと大丈夫! ほら、アンタも笑って! 楽しまなきゃ面白くないし!」
そう言いながらPKの少女も招き寄せ、戦っている猟兵を応援、そして少女を元気づけるための歌を披露します。



 壁にたたきつけられ地面へと落ちたデータドレイナーだが、まだ息絶えてはいなかった。
 離れた少女に睨み、赤い触手を尖らせている……!

「ジャクシャ……ヲ……オトシ……メル……ナンジ……ニ……」
「PKってもそりゃ色々理由はあるだろうからね……」

 後ろから聞こえた声に、少女は振り返る。

「そんなのにお構いなく消そうとするバグプロトコルはこっちが消さなくちゃ!」

 塞がれる前に穴へ飛び込むことができたのは、ネリネだけではない。
 少女たちの後ろから現われたハーゲル・アポステル(バーチャルキャラクターのワールドハッカー・f37296)は、データドレイナーに向かって走り出す。
「テッツイ……ヲッ!」
 近づいた瞬間、データドレイナーが噛みついてくる。そのデータドレイナーの攻撃をステップでかわすものの、今度は触手を伸ばして牽制し始め、ハーゲルはかわし続けることしかできない。

 だが、彼女は笑顔を崩さなかった。

「ほらほら、リスナーさん、可愛いハーゲルちゃんのピンチだよー!」

 彼女の熱狂的なリスナーを召喚するユーベルコード『リスナーの|壁《カベ》』。
 それを発動したハーゲルの前に現われたのは……彼女のゲリラライブに魅了された、プレイヤーたちだ!

 今やハーゲルのリスナーであるプレイヤーたち。
 そのうち盾や大剣を持った者たちがデータドレイナーへと突撃。迫り来る触手には盾や大剣で防ぎ、時にはハーゲルたちから離れるような位置へと誘導する。
 その間、他のプレイヤーは持ち物から素材を取り出していた。このゲームには、必要素材を消費して即座に建築するシステムが搭載されているのだ。
 それにより出来上がったのは……この地下空間の半分を占める大きさの城!
 すると、建築に関わったプレイヤーたちはハーゲルを持ち上げ、城へと投げる。そして……!

「……わあああああああ!!?」

 装備のレベル制限で動けなくなっている少女も、たくさんの人数で協力して投げ飛ばした!

「みんな! 今は大変かもしれないけどきっと大丈夫!」
 華麗に城壁の上へと着地したハーゲルは、データドレイナーと戦うプレイヤーたちを鼓舞する。
 同じく投げ飛ばされ、尻餅をついた少女はその光景を呆然と眺めていた。
「ほら、アンタも笑って! 楽しまなきゃ面白くないし!」
「……」
 他人に助けられ、励まされる。今まで経験したことのないこの出来事に彼女は戸惑い……そして、自然と笑みを浮かべていた。
 
 少女の笑顔を確認したハーゲルは、ゲリラライブ第2部の開催を宣言。
 戦うリスナーたちは、歓喜の声を上げた。

 その歌、その踊り、その笑顔。
 それはハーゲルのリスナーたちを、猟兵たちを、そして、少女を元気付けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リカルド・マスケラス
「諦めるのはまだ早いっすよ!」
穴に飛び込み、PK少女の頭へと装着する狐のお面
「君ならまだやり直せるっすよ!」
かつて悪事に加担し手を汚してきた自分も良平としてやり直すことができた。彼女だってできるはず
「ここを乗り越えるのに力を貸してほしいっす。具体的には自分に身を委ねて欲しいっす」
彼女に憑依できたら【怪力】で大剣の【なぎ払い】。敵の攻撃も
「そんなにこの子が憎いっすか? やらせないっすよ!」
【視力】を込めた【鏡魔眼の術】で相手の敵意を敵自身に返し、自身をデータドレインさせる。そして弱った装甲を【鎧砕き】【解体】で砕いて叩っ切る
「自分はみんなが笑顔になるのが見たいから戦うんすよ。君を含めてね」



「ナンジ……ニ……テッツイオォォッ!」

 プレイヤーたちに包囲され、翻弄され続けていたデータドレイナーが怒りを爆発させるかのように咆哮する。
 そして体を大きく動かし、その長い胴体でプレイヤーたちをなぎ払った!
「ッ!」
 ライブで鼓舞し続けるハーゲルの横で、少女は息をのんだ。
 自分を助けてくれた者たちが、自分のせいで|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却されようとしている。倒れているプレイヤーに触手を向けるデータドレイナーを見て、思わず少女は体を動かそうとした。
 だが、動けなかった。レベルを奪われた少女は、身に纏う高レベルの防具を動かせなかったのだ。
「……ッ」
 少女はPKとしての自分の行いを呪うことしかできなかった。

「諦めるのはまだ早いっすよ!」

 その声とともに、面だけの姿であるリカルド・マスケラス(希望の|仮面《マスカレイド》・f12160)が少女の元に飛んでくる。
「君ならまだやり直せるっすよ!」
「やり直……せる……?」
 少女がそう聞き返す間に、リカルドはその顔に自らを装着させた。

 猟兵としてはヒーローマスクとして認知されているリカルドだが、その過去はマスカレイドとして憑依した人間を殺戮者へと変えていた。そんな彼でも恩人と出会い、やがて猟兵として戦う力と意思を手に入れた。
 その目に映る少女と、過去の自分を重ね合わせたのだろうか。

「ここを乗り越えるのに力を貸してほしいっす。具体的には自分に身を委ねて欲しいっす」
「……」

 少女は動かそうとした体の力を緩める。その体にリカルドが憑依した。
 
 縛り付ける防具を本体の限界を超えた怪力で動かし、城から飛び降りる。
 そして床に落ちていた大剣を手に取り、少女とリカルドはデータドレイナーに向かって走り出した。
 
 プレイヤーのひとりに食らいつこうとしていたデータドレイナーが、狙いを本来の目的である少女に変える。
 触手が襲いかかるものの、それを少女は大剣でなぎ払っていく。
「テッツイヲォォッ!」
「そんなにこの子が憎いっすか? やらせないっすよ!」
 噛みつこうとするデータドレイナーに、リカルドは視線を飛ばす。
 
 するとデータドレイナーは途中で方向を変え、なんと自身の胴体に噛みついた!
 
 ユーベルコード『忍法・|鏡魔眼の術《キョウマガンノジュツ》』によって敵意を反射させられたのだ!
 自身をデータドレインしたことにより苦しみ、のたうちまわるデータドレイナー。その腹に、少女は大剣を振り下ろす!

 防御力の落ちている腹は、たやすく切断された。

 その時、少女は仮面の下から周りのプレイヤーを見た。
 彼らは少女たちの助太刀に安心するように、笑みを取り戻していた。

「自分はみんなが笑顔になるのが見たいから戦うんすよ。君を含めてね」

 リカルドは自身の戦う理由を、そのように語った。

成功 🔵​🔵​🔴​

デルタ・イレヴン
【香織様(f39889)と】

 お声掛け頂いたと思ったら、友人の予知した事件のお手伝いとは。是非是非協力致しましょう。
(香織様とは旅人仲間)

 通信機を持ち込み、香織様のP-38にしがみついて。
 香織様が穴を空けたら、飛び降りて地中へ

 敵を見つけて戦闘開始致します。
「お付き合い頂きましょう、3分間だけ」
 UCを重ねて使用。ショットガンとパイルバンカーを強化。
 ショットガンの反動でジャンプし攻撃を回避しつつ、レーザーと回し蹴りショットガンで牽制。
 3分ギリギリでパイルバンカーを打ち込み、
「今ですわ、香織様!」
 香織様に位置を送信。
 ショットガンで飛び退き
 後は残った右腕でP-38にしがみついて離脱。


風吹・香織
【イレヴンさん(f41145)と】

 友人の予知した仕事だ。遅れてしまったが、協力しようじゃないか。
 イレヴンさんを載せたまま、あえて敵の穴から離れた場所でUC発動。
 |地中貫通爆弾《バンカーバスター》で洞窟への穴を開く。

 イレヴンさんから通信を受けたら、再度UC発動。
 イレヴンさんから伝えられた場所へ|地中貫通爆弾《バンカーバスター》を投下。

 敵が怯んだ隙を見逃さず、二回目に開けた穴に突入。
 イレヴンさんを回収して、洞窟の中を飛び抜け、最初に開けた穴から離脱。

「イヤッフゥ! 見たか、私のテクニック! トンネルミッションもなんのその! ミッションコンプリート、|リターントゥベース《RTB》」



 腹を切断され、上半身と下半身に分かれたデータドレイナー。上半身だけでも立ち上がり、武器を構え直す少女とプレイヤー、猟兵たちを睨む。
 その時、突然プレイヤーたちの後ろで大きな爆音が響き渡った。
 
 数分前……地上では別の影が草原を横切っていた。

 空には、1機の飛行機。正式名称はP-38 ライトニング。
 「双胴の悪魔」の異名を持つ2つの胴体で構成されるこの双発機は、|統制機構《コントロール》の歴史の中でも見ることができる。中世ファンタジーだけでなく、プレイヤーたちが追加したSFやオカルト要素も見られるこのゲームでは、別に異様な光景ではない。

「お声掛け頂いたと思ったら、友人の予知した事件のお手伝いとは」

 飛行中であるP-38の主翼に、人がしがみついているのは異様な光景ではあるが。
 その人影、デルタ・イレヴン(真の主人を探し求める姉妹ドール・f41145)は銀髪を靡かせながらも涼しい顔で呟いていた。それに対して操縦席に座るパイロット……|風吹《かぜふき》・|香織《かおり》(怠惰な「双胴の悪魔」乗り・f39889)は「ああ」と答える。

「遅れてしまったが、協力しようじゃないか」

 普段は怠惰な彼女だが、予知したグリモア猟兵が友人だからなのか、いつもよりやる気のある口調だった。
 その様子にデルタが「是非」と微笑むと、P-38がなにかを投下した。

 その何か……|地中貫通爆弾《バンカーバスター》は巨大な爆音を立てて地面を貫通した。

 デルタと香織、互いに旅人仲間であるこのふたりも、ゴットゲームオンラインの世界にやって来た猟兵だ。
 一足先に出遅れた彼女たちだったが、穴に飛び降りる猟兵たちの目撃証言を緊急クエストの参加者から聞くことができ、その場所は把握していた。最も、先ほどの穴はあえて離れた位置に開けたのだが。
 香織のユーベルコード『|地中貫通爆弾投下《バンカーバスター・ドロップ》』によって開いた穴を確認すると、Pー38は旋回し来た道を戻る。
 再び穴を通過する直前、デルタは主翼から手を離し、穴へと飛び降りた。

 その穴の下で着地したデルタは、辺りを見渡し……プレイヤーたちとデータドレイナーを発見した。

「お付き合い頂きましょう、3分間だけ」
 
 彼らの元へ走り出しながら、デルタはユーベルコード『オーバーヒート・ドール』を発動させる。
 それに対してデータドレイナーはすぐに反応し、触手を伸ばす。が、デルタの両脚が突如変形、銃身が現われたかと思うと、そこから散弾が放たれ宙を舞った。
 触手を散弾によって切断させられたデータドレイナーに間髪入れず、デルタはショットガンに変形した足でその胴体に回し蹴り、さらに散弾をたたき込む。体から生えている触手に対してはルビーの宝石で出来た目からレーザーを発射してなぎ払った。
 デルタに気を取られている内に、少女たちプレイヤーも横から攻撃を加えていく。

 サイバーザナドゥで作られたミレナリィドールであるデルタ。その手足にはサイバーウェアが内蔵されている。その威力は『オーバーヒート・ドール』によって3倍まで高められ、足のショットガンは自身の体が宙に浮くほどの反動を生み出していた。
 その一方で、3分の強化が終わるとオーバーヒートによって強化していた部位が破壊されるという代償も存在する。しかし、その弱点についての対策を彼女|た《・》|ち《・》は既に考えていた。

 宣言から2分30秒経過。
 触手を伸ばすデータドレイナーに対してデルタは左腕を変形させ、顕わになったパイルバンカーをたたき込む!

「オオォォッ……!」
 
 のけぞるデータドレイナーを見て、デルタは予め持ち込んでいた通信機を取り出した。

「今で……ッ!」

 その通信機は、のけぞる直前に伸ばしていたデータドレイナーの触手によってはじき飛ばされる。
 彼女から離れた位置に通信機は宙を舞い、地面へと転がった。

 その位置に爆発が起こり、上空に穴が開く。

 やって来たのは……香織が操るPー38だ!

「!」

 だが、想定外の事態に香織は目を見開く。
「テッツイヲッ!」
 操縦席の窓からは、こちらに飛びかかるデータドレイナーの口が見えていた。
 
 本来ならデータドレイナーがひるんでいる間にデルタを回収し、すぐに最初の穴から脱出する手筈だった。
 だが……通信機をはじき飛ばさたことによって位置情報がズレてしまい、離れた位置に穴を空けてしまった。デルタの元へ向かう前に、データドレイナーがPー38に攻撃できるスキを与えてしまったのだ。

 それでも香織は取り乱さず、操縦桿を傾けた。

 Pー38は横に傾き、その腹はデータドレイナーの長い胴体を掠め……無事に攻撃を凌ぐことができた!

 すぐに姿勢を立て直したPー38は、最初に開けた穴へと向かって突き進む。するとデルタは、両足のショットガンを発砲し、再び宙を舞う。
 タイムリミットだ。オーバーヒートによって左手と両腕が小さな爆発を起こしていく。それにひるむことなく残った右手を伸ばした。

 右手はPー38の主翼をつかんだ。
 それを確認した香織はエンジンを全開、Pー38は猛スピードへ最初に開いた穴へと脱出した!

 再び襲いかかろうと追いかけていたデータドレイナーが、勢い余って壁に激突する。
 このチャンスを逃すわけにはいかない! プレイヤーたちはデータドレイナーに向かって走り出す!

「イヤッフゥ! 見たか、私のテクニック! トンネルミッションもなんのその! ミッションコンプリート、|リターントゥベース《RTB》」

 空へ飛び出したPー38の運転席で、はしゃぐ香織。
 それを見て、デルタは主翼にしがみついたままクスクスと笑っていた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ネリネ・リード
Hey!! ライブに仮面舞踏会に空爆?!随分とご機嫌じゃねえか!

(自身にとって邪魔なーー敵からの攻撃の軌道に対して死角を作りそうなプレイヤーや敵にやられそうになってるプレイヤーーーを後ろに殴り飛ばしつつーーPKになろうがお構いなくーー走って最前列を目指す)

お?ダイエットでもした?見違えたぜ。
(天井に大穴が開いて空気が流れるのを幸いと義腕とUCのギミックに空気を吸入し圧縮。殴ると同時に内部のハンマーも作動)

目の前に立ち塞がる壁。
ソイツは高ぇし分厚いし、まあ大抵1枚や2枚じゃ済まねえんだけどよ。
ぶち抜くんだよ、1枚1枚。全部ぶち抜くか、テメェがくたばるまで。
ソレがアタシの生き方だ。アンタはどうよ?



 壁でうずくまるデータドレイナーに走って行くプレイヤーたち。その士気は高まっていた。
 勝てる。未知のモンスターに、勝てる……と。

 その時、後列にいたプレイヤーたちが宙を舞った。

「Hey!! ライブに仮面舞踏会に空爆?! 随分とご機嫌じゃねえか!」

 ネリネ・リード(THE RED・f20899)が、その巨大な両腕で邪魔なプレイヤーたちを殴り飛ばしながらデータドレイナーへと向かっていたのだ!
 その行為はプレイヤーを攻撃するPKだろうか? 否、ネリネが殴り飛ばしていたプレイヤーのほとんどは、負傷しながらももうすぐ倒せると意気込んで無理に突撃しようとしていた者たち。このまま突っ込んでいたら、レベルドレインの餌食となっていただろう。

 一方、攻撃を加えようとする最前列のプレイヤーたちは、データドレイナーの胴体しか見ていなかった。その頭が、彼らの上まで伸び……口を開けていることに気づいていない。
 
 そのプレイヤーたちも、ネリネによって殴り飛ばされた!
 データドレイナーは地面の土にまたもや頭をぶつけ、すぐにネリネを睨む。

「お? ダイエットでもした? 見違えたぜ」
 上半身だけのデータドレイナーに対して挑発するネリネ。その横に、リカルドの面をつけた少女が立つ。
「あなたもね。なかなかいいPKじゃない?」
 PKの行為ではないと理解しつつ冗談を口にできるほど、戦意を取り戻していた少女。その様子にネリネは笑みを浮かべると、その義腕を構える。

 三度ユーベルコード『|破砕の剛腕《ザ・スマッシャー》』を発動、召喚された機械の巨腕と自身の義腕にある吸気口を開いた。吸い込まれる空気の勢いは、天井に空いた穴によって増していく。
「目の前に立ち塞がる壁。ソイツは高ぇし分厚いし、まあ大抵1枚や2枚じゃ済まねえんだけどよ」
 相手がこちらに攻撃を仕掛ける前にネリネは飛び上がり、上空から拳を突き出す!
 頭部に殴りつけたその拳の内部では、圧縮された大量の空気によって、シリンダ内のハンマーが打ち出されていた……!

「オオォブッ!?」

 その一撃は、少女の予想を超える威力を見せた。
 データドレイナーの頭を、地面に埋めたのだ!

 地面から抜けだそうともがくデータドレイナー。
 その胴体へと走ってきて、攻撃を加えたのは……先ほどネリネに吹っ飛ばされたプレイヤーたち! 今度はしっかり体勢を立て直した上で戻ってきたのだ!
「ぶち抜くんだよ、1枚1枚。全部ぶち抜くか、テメェがくたばるまで。ソレがアタシの生き方だ」
 アンタはどうよ、ともう1発加えようとするネリネに問われた少女は、大剣を構える。

「あたし? そうね……これから考えるッ!」
 
 胴体へ攻撃を食らい続け弱ったデータドレイナーの頭へ、大剣と拳が振り下ろされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ネリネと少女の一撃により、地面に埋もれた頭は大きな切り傷が出来ていた。
 それでもデータドレイナーは、抵抗するように体を動かす。だが、その動きは弱々しい。

「これで……終わらせるわよっ!」

 少女の声に応えるように、憑依しているリカルドの面に委ねていた体が動き出す。
 もう一度、大剣がデータドレイナーに向かって振り下ろされた!

「……ッ!?」

 振り下ろした大剣は、地面に刺さった。
 目の前にいたはずのデータドレイナーが姿を消した……いや、突如現われた穴へと落ちていき、すぐに穴が塞がったのだ。
「これ……もしかして|建築《クラフト》じゃないか!?」
 その光景を見た誰かが、そう口にした。

 プレイヤーからレベルを吸い取るデータドレインの能力……レベルドレイン。
 それは能力を奪い取るだけでなく、自分の物として扱うことができた。

 様々なスキルが実装されているこのゴッドゲームオンライン、そのスキルの中には、建築のシステムを強化するものも存在するだろう。
 地上で少女を落とし、自分から閉じた落とし穴……そしてこの地下空間も、データドレイナーがプレイヤーから奪ったスキルによるものだとしたら辻褄が合う。

 ふと、少女の視界に自身の足元が映った。
 
「ッ! しまっ――」

 もう遅かった。足元に開いた穴へと、少女は落ちる。
 その衝撃で、顔から面が外れてしまう。宙に浮いたリカルドはすぐに穴へ落ちる少女へと向かうが……!

 無情にも、穴は閉じた。
アレイスター・フラメル
【ムゲン(f36307)と】アドリブ・連携歓迎・ラストアタック希望

 馬鹿な、落とし穴だと……。くそ、穴が閉じる……。
 どうやら、今度は私が移動を手伝う番のようだぞ、ムゲン。
  UC発動。ムゲンと共に少女の元へ。既に彼女とは共闘済み。仲間と言って差し支えないはずだ。
「待たせたね、お嬢さん!」

 少女と合流した後は、ヘイトを取るのはムゲンに任せ、私は【召喚術】【属性攻撃】の【高速詠唱】でダメージを与えていく。

「さて、どうしてあなたを助けるのか、でしたね」
「えぇ、もちろん、麗しいお嬢さんを助ける、それは私達の共通するところ。もし、あなたが男性であれば、私達はここまで全力を尽くさなかったかも、それは否定出来ません」
「えぇ、我々がバグプロトコルと呼ぶ存在、オブリビオンを許さない、それが僕らだから」
「しかもバグプロトコルはあなたも憎む|統制機構《コントロール》から送り込まれているという噂さえある」

 会話が終わったら、少女の返答には関わらず、【全力魔法】の【召喚術】【属性攻撃】でトドメを刺しに行きます。


ムゲン・ワールド
【アレイスター(f41810)と】アドリブ連携歓迎・ラストアタック希望

 そんな、確かに手を握っていたのに!
 地下に自身の根城を持っていたとは、厄介な奴だ。だが、場所さえ分かったなら、後はこの元凶を叩くだけのこと。
 だが、どうやって追いかける。
 おぉ、君の魔法には助けられるな、アレイスター。

「待たせたね、お嬢さん!」
 動けないようだから、少女をお姫様抱っこして、即座にUC発動。
 全てを自身の立体映像へと変化させ、囮として使う。本体は【目立たない】ように。
 立体映像を貫いてきたら時限爆弾に変化させて口の中で爆発させる。

「それは勿論、君が麗しいお嬢さんだからですよ」
「ですがそれ以上に、我々には役目がある。オブリビオンを倒すという、ね」
「あなたの強さの証明、それを否定する気はありません。ですが、あなたさえ良ければ、今後は統制機構の送り込むバグプロトコルと戦うことでその強さを活かしませんか?」

 会話が終わったら、返答には関わらず、攻撃に紛れて、【リミッター解除】【貫通攻撃】の【不意打ち】でトドメ



 他の猟兵たちとともにその場にいたムゲン・ワールド(愛に生きたナイトメア適合者・f36307)も、穴があった場所を眺めることしかできなかった。
「くっ……どうやって追いかける……」
 そんな彼の横で、アレイスター・フラメル(ネット弁慶の女好きキャスターDPS・f41810)は杖を持つ手を突き出した。
「どうやら、今度は私が移動を手伝う番のようだぞ、ムゲン」
 アレイスターの足元に、魔法陣が展開されていた。
 ユーベルコード『|転移魔法《テレポート》』。それは、魔法陣の上に乗った者を、同じ世界にいる仲間の元へと転送するものだ。
 希望は一欠片も捨てていない表情のアレイスターを見て、ムゲンはフッと笑う。
 このゲームの経験者ではあるが、猟兵としては目覚めたばかりのアレイスター。様々な世界を渡り歩いてきたものの、この世界はまだ足を踏み入れたばかりのムゲン。
 同じ女好きという共通点だけで意気投合したふたりは、今や互いに背中を預けるほどの信頼感を抱いていた。
「君の魔法には助けられるな、アレイスター」
 ムゲンがその魔法陣の上に乗ると、ふたりの姿が消えた。

 その下には……さらに空間が広がっていた。
 そこで立っているデータドレイナーの口元で、少女は抵抗していた。リカルドの憑依が解除された今では、装備を動かす力はない。それでも、力を限界まで振り絞り、かみ砕こうとするデータドレイナーの歯を抑えていた。
 歯は、高レベルの防具をかみ砕くほどの力は持っていなかった。先ほど上の階層で自分自身にデータドレインしたこと、さらに他の猟兵やプレイヤーたちによって攻撃を加えられたことによって、弱っているのだ。地面に埋められたことによって損傷した赤い触手の再生も、手間取っている様子だ。
 だが、赤い触手の再生が今、完了した。
 その赤い触手で少女を刺せば、抵抗する少女の力を自分のものにできる。それを知ってもなお、少女は力を緩めなかった。

「「待たせたね、お嬢さん!」」

 その声とともに、無数の雷魔法がデータドレイナーを襲う。この空間へ転移してきたアレイスターの高速詠唱によるものだ。
 たまらず口から少女を解放すると、その少女の元へムゲンが走る。倒れそうになる少女を|お姫様抱っこ《横抱き》で持ち上げ、データドレイナーから逃げ出した!
「テッツイ……ッ!」
 少女を抱えるムゲンを、データドレイナーは追いかけ……そして、追いついた!!
「テッツイ……テッツイオオッ!」
 大きな雄叫びを上げて、データドレイナーはふたりに触手を伸ばした。
 
 瞬間、ふたりは爆発した。
 
「オオオオオオオオッ!!?」

 データドレイナーが攻撃したのは、ムゲンと少女ではない。ムゲンのユーベルコード『|変幻自在悪夢《ナイトメア・イリュージョン》』で作った、自在に姿を変える実体化した悪夢。ふたりの姿をしたその悪夢は触手に貫かれた瞬間、時限爆弾へと変化したのだ。
 爆発をくらったデータドレイナーだか、すぐにふたりの姿を発見し、飛びかかる……が、それも悪夢。時限爆弾へと変化し爆破する。
 もはや学習する暇もなくなったのか、データドレイナーは次々と現われる悪夢に自ら突進し、爆撃を喰らっていた。さらにその後ろからダメ押しにと、アレイスターが召喚した重騎士による斬撃を加えていく。

 まるで、化かされていることに気づいていないように。

 その様子を、ムゲンに抱きかかえられていた少女は離れた位置から眺めていた。
「さて、どうしてあなたを助けるのか、でしたね」
 アレイスターがとんがり帽子を被り直しながらふたりの元にやって来た。かつて、少女が口にしていた疑問。その答えを伝えるために。
「それは勿論、君が麗しいお嬢さんだからですよ」
 ムゲンが、誘惑するような表情で少女をのぞき込む。
「えぇ、もちろん、麗しいお嬢さんを助ける、それは私達の共通するところ。もし、あなたが男性であれば、私達はここまで全力を尽くさなかったかも、それは否定出来ません」
 それに便乗するようにアレイスターが口説く。その様子に、思わず少女は笑ってしまう。

 ですが、とムゲンはやさしく少女を床に下ろす。

「それ以上に、我々には役目がある。オブリビオンを倒すという、ね」
「えぇ、我々がバグプロトコルと呼ぶ存在、オブリビオンを許さない、それが僕らだから」

 ムゲンとアレイスターは、少女に背を向ける。
 データドレイナーがこちらを見つけ、向かって来ていたからだ。
 
「しかもバグプロトコルはあなたも憎む|統制機構《コントロール》から送り込まれているという噂さえある」
「……!!」
 
 杖を構えたアレイスターの声に、少女は目を見開く。

「あなたの強さの証明、それを否定する気はありません。ですが、あなたさえ良ければ、今後は統制機構の送り込むバグプロトコルと戦うことでその強さを活かしませんか?」

 ムゲンはそう告げると、仕込み杖を構えてバグプロトコルへ突進した。
 
 彼とともに飛び出したのは、アレイスターの召喚した重騎士たち、そして雷魔法。
 全力で打ち出されたそれらはデータドレイナーの赤い触手によって貫かれ、はじかれる。が、次第に押されていき、やがて攻撃を食らうようになっていく。

 アレイスターの攻撃に気を取られてるデータドレイナー。その頭の下へとムゲンは潜り込む。
 仕込み杖の鞘を外し、その喉へ目掛けて突き立てた!

 リミッターを解除したムゲンの腕力によって突き立てられたその刃は、歪な人語を出していた声帯ごと貫通した。

「オガッ……! ガ……オオッ……!? ォ……」

 赤い触手を伸ばすデータドレイナー。
 だが、その触手は少女に届くこともなく、その体とともに床へと崩れ落ち、動くことはなかった。



 その後、アレイスターの転移魔法によって上の階層へと戻ることができた少女たち。そこで少女は他のプレイヤーの協力もあって、高レベルの装備を外し体の自由を取り戻した。
 香織が開けた穴から救助にやってきた別のプレイヤーがロープを下ろす。地下にいるプレイヤー、そして猟兵たちは地上へと帰って行った。

 草原の中、仰向けになった少女は夕焼けを眺めながら、既に去って行った猟兵たちに思いをはせる。
 他のプレイヤーを騙し、装備を奪い取るPK行為をしてきた自分を、命をかけてまで守ってくれた彼ら。その理由は、様々だった。
 ……自分にも、戦う理由はあるのだろうか? レベルを奪われ、もはや初心者同然のレベルまで落ちた自分に。

 “バグプロトコルはあなたも憎む|統制機構《コントロール》から送り込まれているという噂さえある”
 “あなたさえ良ければ、今後は統制機構の送り込むバグプロトコルと戦うことでその強さを活かしませんか?”

 アレイスターとムゲンの言葉を思い出した少女。その瞳に映る夕焼けは、燃えていた。

「……罪滅ぼしなんて……しないわよ。誰かに言われて改心するなんて、命令されているみたい。統制機構と同じじゃん」

 少女は、猟兵ではない。猟兵たちが猟兵と呼ばれていることすらも知らない。
 だから、彼らのように他の世界へ向かうことはできない。

 それでも、少女は拳を握った。

 PKであった過去も、どうでもいい。まだ、やり直せるのだから。

 地下で聞いた音楽のビートを刻みながら、爆発しようとする思いを抱える。

 たとえ壁に囲まれることがあっても、突き進むだろう。時には誰かの手を引きながら。

 まるで本物の世界のようにプレイヤーたちを化かす、ゴットゲームオンライン。
 その世界で少女は、猟兵たちのような存在に化けてやると、誓った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年12月05日


挿絵イラスト