南蛮王門を過ぎて衆を聚め、韓大将兵を興して兇を行う
●韓信との決戦
UDCアースで広く愛される『三国志演義』は、中国三国時代の出来事を面白おかしく脚色した通俗小説であって、史書ではない。ゆえに当然、その記述には史実に準じない創作が多く含まれる。
諸葛亮の南蛮征伐の下りは、その際たるものだろう。蜀の南方を制圧しようと考えた諸葛亮は、密林広がる地へと軍を進め、朶思大王、木鹿大王といった南蛮の有力者たちを次々に撃破していき、最終的に南蛮を統治していた孟獲を心服させるに至る……といった筋なのだが、九割方は史実にかすってもない創作である。奇怪な文化風俗はおよそ想像の産物だし、登場人物の大半は実在しない。
では、三国時代によく似た封神武侠界の歴史においては、どうか。
「いつぞやの大戦で、実際に兀突骨と戦ったって人も多いだろうけど……」
ショートヘアに包まれた頭をわしゃわしゃとかきつつ、大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)が言う。
「あの世界だと、UDCアースでいうところの南蛮の大王とか将軍として登場する連中は、史上に強大な魔獣として名を残しているらしいな」
つまり、実在していたということである。
これまで、それら魔獣の群れは次元の渦である南蛮門ごと封印され、人界に干渉できないようになっていた。だが、恐るべき戦力を持つ彼らに、韓信が戦力として目を付けたのだという。
「韓信の狙いは、南蛮王の軍勢を率いて一気に人界を攻め落とすこと……いや正確にいえば、儀式魔術で『封人台』をどっか別の世界のオブリビオン・フォーミュラの元へ送るまでの時間稼ぎだ。魔獣は、一体一体が兀突骨とほぼ同程度の強さを持ってる。前にあたしらが兀突骨と戦ったときは神農っていう下駄があったから、まあアレよりゃ多少何とかなる相手かもしれんが……」
朱毘は首を横に振った。
「もし南蛮王の群れが完全に解放されたとしたら、その後に何がどう転ぼうがこっちの勝ち目はない。だから、解放が停滞している今のうちに、韓信を叩くしかないんだ。デッドラインは……十二月の二十七日だ」
十二月二十七日までに二十度、韓信を撃破する。これが、韓信との最終決戦に勝つ条件となる。この戦いは、その二十の中の一戦になるわけだ。
まず猟兵の標的となるのは、南蛮門への経路を塞いでいる巨大な魔獣である。その名を木鹿大王。韓信から神器【ユグドラシルブレイド】の力を与えられており、他の南蛮魔獣から頭一つ抜けた戦闘力を持つ。
これを撃破した後、南蛮門から出ようとしている魔獣らを押し返すことになる。殲滅はまず不可能ながら、捨て置くわけにもいかないので、押し返す程度のことはしなくてはならない。
最後に、韓信自身との戦いである。単体戦闘力もさることながら、彼の本領は軍勢を指揮しての兵略だ。
「韓信は……南蛮軍の力を借りた影響でもあんのかね? 虎の大軍勢を率いてる。こっちを見つけ次第必ず先手を取ってくる上、ユーベルコードとは別に包囲殲滅攻撃を仕掛けてくる」
軍勢は個々が集団オブリビオン相当の強さがある上、韓信の用兵によってその実力は十二分に発揮される。
いかに猟兵が超常の力を持つとはいえ、真正面から工夫なくユーベルコードをぶつけるだけではビクともすまい。この構えを撃ち破るためには、何かしらの作戦、策略は必須となる。
「まあ……『こいつは強敵だ』なんて敵は、これまでだっていくらでも戦ってきただろう。そして、勝ってきた。今回だって、きっと勝てる。信じてるよ」
朱毘はそう言って、パチリと指を鳴らす。
途端に彼女の背後に、淡い空色の姿見めいた空間の捻れ――即ち、決戦の地へとつながるワープゲートが、開かれた。
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良です。
このシナリオは、封神武侠界を舞台にした決戦シナリオです。これと同種の決戦シナリオを合計「20回」成功すれば、韓信大将軍の計画を阻止し、人仙を封印できるという『封人台』が他世界のオブリビオン・フォーミュラの手に渡るのを防げます。
ただし、タイムリミットは「12月29日」までです。
第一章は、神器【ユグドラシルブレイド】の力を得たボスオブリビオンとの戦いです。
神器【ユグドラシルブレイド】は、オブリビオンがいずれかのユーベルコードを使うたびに、追加で「木剣(疑似ユグドラシルブレイド)による高威力の近接攻撃」を放つという効果があります。必殺の効果はありませんが、強力です。
第二章は、南蛮門からあふれてきそうな南蛮王(超強力な魔獣)の軍勢を押し返すターンです。全てを打ち倒す必要はありません(というか、まず不可能)が、門の奥へと軍勢を押しやらないと、人界が滅んでしまいます。何とか頑張ってください。
第三章は、韓信との決戦です。個人の武勇にせよ軍を率いた戦術にせよ、極めて高い能力を持った強敵ですので、無策で突撃しても思ったような戦果は期待できないと思ってください。
韓信は、必ず先制してユーベルコードを使ってきます。このユーベルコードの先制行動に対する対策を盛り込んだプレイングには、ボーナスが付きます。
さらに、ユーベルコードとは別に、集団オブリビオンの『虎』の大軍勢による包囲攻撃を仕掛けてきます。虎については、どんなユーベルコードを使うというのはそこまで気にしなくて構いません。普通に、爪とか牙とかでうりゃーっと攻撃してくるやべー猛獣だと認識できていれば大丈夫でしょう。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『🌗南蛮魔獣『木鹿大王』』
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POW : 魔獣合一
【大地から生み出した植物魔獣】と合体し、攻撃力を増加する【呪術咆哮】と、レベルm以内の敵を自動追尾する【毒蛇弾】と、火への耐性が高い【蔓の鎧】が使用可能になる。
SPD : 魔獣生誕
【自身が踏み締めた大地】から、戦場全体に「敵味方を識別する【超巨大な毒蛇の大群】」を放ち、ダメージと【麻痺】、解毒不可能な【猛毒】の状態異常を与える。
WIZ : 魔獣大嵐
自身が【大地を踏み締めて】いる間、レベルm半径内の対象全てに【吹き荒れる狂風と大地から生まれる植物魔獣】によるダメージか【鐘の音と共に吹き荒ぶ魔風】による治癒を与え続ける。
イラスト:政斗
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「煙草・火花」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
徳川・家光
溢れ出る植物魔獣をかき分けても、神器ユグドラシルブレイドが飛んでくる……本体に近づく事すら難しい難敵ですね。ですが朱毘殿が仰る通り、これまでも僕達は勝利してきました。故に、今回も愚直に勝利を目指します!
僕の攻め手は「天河大濁流」! 鎚曇斬剣から水の濁流を放ち、植物魔獣達を押し流します! そして自身の周囲に濁流の壁を作り、ユグドラシルブレイドの攻撃を上方からのみに集中させて、もう一方の手の刀「大天狗正宗」で弾きやすい状態とし、肉迫して本体を斬り結びます。魔風による回復は続くでしょうが、僕の役目は後続が戦いやすい環境を整える事。「時間稼ぎはお前達だけの専売特許ではない、という訳さ」
瑠璃・やどり
韓信と配下戦の助っ人に来たよ!
やっぱり考えるより行動だよね!
戦場では元気に走り回って、ハンマー「双喜」を振り回して攻撃!
ふっとんじゃえーーー!!!!
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人狼の白虎拳士 × 降魔拳伝承者
普段の口調は「快活(私、~君、なの、よ、なんだね、なの?)」
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。アドリブ・連携歓迎。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●南蛮の巨象
ゴオオ――オオオォォォ――!!
咆吼を上げたのは、深い緑色の巨影――密林を圧縮して形成したような肌肉を持つ、巨大な象である。
木鹿大王。UDCアースの三国志演義においては、騎馬のように象にまたがり、妖術をもって風を操り、猛獣や毒蛇の軍勢を従えて蜀軍を苦しめたという、魔将とでもいうべき人物である。
だが封神武侠界においては、南蛮王の一たる彼は、彼自身が巨象のごとき風体の魔獣であるらしい。
その咆吼は、いわゆる単なる動物としての象のものと比べ、似ているようでいて全く違う。そもそも生物の発する声の範疇から外れ、暴風の巨木を振るわせる音、猛炎の鋼鉄を焦がす音、恐怖を覚えた大地が慟哭する音のごとくにも聞こえた。
そんな呪わしい咆吼を押し返すように、瑠璃・やどり(チャイナウルフガール・f03550)が走る。その右肩には、彼女自身と大差ない体積があるであろう、巨大な金色のハンマー『双喜』が担がれている。そんな代物が軽かろうはずがないが、彼女の足はそれをまるで感じさせぬほどに速い。
「いっくよー! でぇやぁぁっ!」
弾丸のような跳躍。
同時に振り回されたハンマーが彗星のごとき軌跡を描きつつ、木鹿大王の顔面目がけて奔った。
ゴオオオン!
炸裂音――だけでは、ない。そこには一際強く響いた木鹿大王の咆吼も混じっている。
ハンマーに打たれる寸前、木鹿大王もまた鋭く踏み込みつつ頭突きを放ってきた。
「――っ!?」
圧力凄まじく、やどりが押し返される。
さらに、宙で姿勢を崩している彼女目がけ、木鹿大王の胴体から数十本の蔦めいた何かが飛び出した。ただしそれらが蔦ではないのは、紅玉色の双眸と双牙を備えた口を見れば瞬時にわかる。木鹿大王の呪力をもって生み出された、毒蛇の魔弾だ。
それらがやどりを包囲しつつ殺到する――寸前。
「天の水甕よ、我が敵を飲み込め!」
裂帛の勢いで叫声が割り込む。さらに同時、水神の鉄拳がフックでも放ったかのような横殴りの濁流が、やどりの周囲を薙ぎ払うようにして毒蛇の群れを一掃する。
「わ……っと」
やどりが身を捻って着地すると、そのすぐ横に徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)がいた。左手には逆手で両刃剣を、右手には太刀を握っている。先の濁流は、家光の両手剣より生まれているものだった。
「大丈夫ですか? 僕の【天河大濁流(テンガダイダクリュウ)】なら、植物魔獣くらいは押し流せるみたい……だけど」
土色の濁流は、逆巻く大水の壁を作り、やどりと家光とを守護する結界めいた様相となっている。そんな水の防壁に、木鹿大王は踏みしめた大地から次々と植物魔獣――木をより合わせたような体を持つ黒豹、葉っぱを幾重にも重ねたような大鷲、等々――が次々に間断なく襲い掛かるものの、水流の勢い凄まじく突破することは敵わない。
しかし、ならば猟兵の側から木鹿大王に攻勢を仕掛けられるかといえば、それもなかなか容易ではない。防壁から一歩でも出れば、魔風や植物魔獣による飽和攻撃が待ち構えているのだから。
「これは難敵……って、おっと!」
水流逆巻く結界の上、猟兵たちの頭上から木製のバスタードソードのような物――ユグドラシルブレイドが降ってきた。
家光はその切っ先に太刀を添わせるよう振るって受け流す。ぎょぅん! と、ねじくれた音を伴い、木剣が明後日の方へと弾き飛ばされた。
強力な一撃だ。万一真正面から刃をかち合わせたら、必ず押し負けるであろうほどに。それでも、水の防壁のおかげで攻撃のベクトルが絞られているので、対処自体はそう難しくもない、といった手応えである。
ただ。
「これってば……ジリ貧じゃない!?」
やどりが叫ぶ。
その間にも、次から次にユグドラシルブレイドが降ってきている。家光と同様、やどりもユグドラシルブレイドに力負けしないよう、器用にハンマーを振るって弾き飛ばして直撃を避けた。
家光にせよやどりにせよ、危なげなく木鹿大王の攻勢を凌げてはいる。それでも、反撃の糸口がつかめぬままに時間を浪費するようなことになれば、そもそもの目的が時間稼ぎである敵方の思う壺だろう。
「粘り強く時間切れを待つ気か? いや、だとしても粘っこさは奴らの専売特許ではない!」
家光は奥歯が折れんばかりに食いしばりつつ、濁流の防壁を維持したまま、木鹿大王へ向けてじりじりと前進した。
――――!?
木鹿大王の咆吼に、わずかに焦りの気配が混じったように聞こえる。木鹿大王にしても、家光の放つ濁流に拮抗するためには植物魔獣を繰り出す手を緩めるわけにいかず、そもそも南蛮門を守るために自在に動けないのは彼の方だ。必然、彼我の間合いはじりじりと詰まることになる。
「僕はこの状態を維持するので手一杯ですが……何とか一撃でも、お願いします!」
「わかったよ! 今度こそ――!」
やどりは逆巻く濁流を足場に駆け上がっていった。
速い。そして高い。今度は、木鹿大王の頭突きでは届かないほどの高さであり、角度である。
――――!
「ふっとんじゃえーっ! 跳! 打! 壊! 散ッ!」
とっさには動けなかった木鹿大王の頭頂に、落雷めいた金色ハンマーの一閃が炸裂する。下向きに頭を吹っ飛ばされた木鹿大王は顎を地面にしたたかに打ち付け、巨大な亀裂とクレーターを生み出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィオレッタ・エーデルシュタイン
他の猟兵たちと協力して戦うわね。
最初は敵から十分に離れたところで[目立たないよう]に[迷彩]衣装をまとって隠れながら弓を用意。
そして戦闘開始と同時に弓を構えてユーベルコード【ヤヌスの矢】
「我は放つ、友には癒しを、敵には滅びを」
戦場全体の味方を治癒しつつ、敵ボスを含めて毒蛇も植物魔獣もまとめて魔法の矢の雨で制圧射撃の連射をするわ。
あまり敵が近づいてくるようなら一度射撃位置を変えて、また繰り返し。
「主役はお任せするわね」
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
まったく、勝ちの目がほぼ無いからって厄介な嫌がらせをしてくれるねえ。
まあ、どうにかするとしようか。
さて、狂風と植物魔獣とユグドラシルブレイドか。
脚の爪で地面を掴んで風に飛ばされないよう耐えながら、植物魔獣を斧と電撃で倒していこうか。
ユグドラシルブレイドの攻撃は地面から足を離してわざと吹き飛ばされて避ければいいかな。
そうして戦いながらたまに地面をぶっ叩いて地割れを仕込んでいくよ。
植物魔獣が生えればそこも地割れが出来るだろうしね。
地割れを仕込み終わったら【地裂崩槌】で崩落を起こして木鹿大王を落とすよ。
落ちてる間は大地を踏みしめてないから大嵐も止まるかな。
悪いけど、邪魔なんでそこをどいてもらうよ。
劉・涼鈴
いよいよ国士無双と決戦だ!
まずは木鹿大王! お前をやっつける!
孔明にやられた火計をメタってきたな!
そんなら直接ぶっ叩く!!
【ダッシュ】で突撃ー!!
蛇が出てきたら覇王方天戟をポール代わりに棒高跳びの要領で【ジャンプ】!
【功夫】の身のこなしで戟を振り回して蛇の頭をぶっ叩く! どりゃー!
蛇の頭を【踏みつけ】、踏み台にしてさらに【ジャンプ】!
向かって来る木剣の腹に向かって軽気功(軽業・気功法・覇気)で加速した【劉家奥義・鷹爪嵐迅脚】!! どっせい!
蹴りの反動で木鹿大王向かってもっかい【ジャンプ】!
羽毛のように軽く! 猛禽のように鋭く!
全力全開! 【怪力】で戟を脳天に叩き込んでやる!! うおー!!
●風よりも苛烈なる
「主役はお任せするわね」
「……へ?」
不意打ちのようなヴィオレッタ・エーデルシュタイン(幸福証明・f03706)の言葉に面食らって、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は振り返った。
しかし、その時にはすでにヴィオレッタの姿は見えなくなっていた。迷彩衣装を纏ってその場を離れていたからである。
「うーん、主役って言われても……」
ペトは頬をかいた。
要は、弓矢を得手とするヴィオレッタは距離を取って潜み、援護射撃に徹するということだろう。そして、戦いの花形とでもいうべき直接の殴り合いは任せた、と。
「どうしたの?」
ペトのすぐ横。大振りな方天戟を肩に担ぎ上げつつ、劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)がキョトンと首を傾げる。
「いや、まあ、どうってほどのことはないよ。前衛を任されたってだけ」
「へえ、そうなんだ。私はいつも前衛だから、どんと来いだ!」
力強く胸を叩き、涼鈴が快活に言う。
まあ、それでいえばペトも最初から前衛で戦う気でいたわけだから、結局することは変わらないわけだ。
「なるほど……それじゃ、やるとするか」
巨竜の顎のごとき大斧を構えつつ、向き直る。小山のような巨体を見せつけるようにして立つ、木鹿大王へと。
ドッ! と木鹿大王の前足が地面を踏みしめると同時、石を投げ入れられた湖面のごとくに、土肌に波紋が広がった。
その蠢動に呼応するように、数十本の極太の突起が大地を突き破るようにして出現した。一瞬、蔦に覆われた巨木のようにも見えるが、それは鮮やかな緑色の鱗をもつ大蛇である。当然、その先端には体躯に相応の巨大な蛇の頭部があり、猟兵を品定めでもするようにギョロリとした双眸を向けてきている。
蛇に関する知識がある者であれば、その頬が外に張り出すような三角形のシルエットをした頭部から、クサリヘビ系の毒蛇を連想するだろう。まあ、あれほど巨大な顎でガブリとやられれば、毒があろうとなかろうとひとたまりもあるまいが。
しかし、そんな大毒蛇の群れを前にしたとて、ペトや涼鈴が怯む道理はない。
「どりゃー!」
踏みしめる都度に地面に穴が開きそうな勢いで、涼鈴が駆ける。その様を見やった大毒蛇が三匹ほど、くわっと牙を剥き出しにして身をたわめた。
次の刹那、大毒蛇らはミサイルよろしく涼鈴目がけて襲い掛かる――が。
同じ刹那、天より無数に降り注いだ無数の光の矢によって、頭といわず眼球といわず首といわず背といわず、散々に刺し貫かれた。
『――!?』
声もなく倒れていく大毒蛇たち。
「大した腕だね」
涼鈴の真後ろを追うように走っていたペトが、感嘆の声を上げた。
矢は、ヴィオレッタの放った【ヤヌスの矢】である。どこへどうやって隠れているやらわからないが、とにかく発射点を悟らせないようにしつつ、天からひっきりなしに矢の雨を降らせている。
巨体の割には動きの素早い大毒蛇だが、戦場全体を叩き続ける矢嵐にさらされ続けている有様では、その戦闘力を十全に発揮するなど不可能だ。
ゴオオ――オオォォ――!
咆吼を上げる木鹿大王の顔、血の色に似た四つの目が怒りに燃えたような光を放つ。
さらに木鹿大王は前足を大きく振り上げ、コンガの演奏でもするかのように大地を乱打し始める。
「……っ、来るよ!」
ペトが叫ぶのと、同時。
ゴオオオォォォオオオォォォ!
木鹿大王を中心に、放射状に凄まじい烈風が巻き起こる。高い突破力を誇る涼鈴やペトでさえ、足を止めてしまわずにいられないほどに。
「う、わ――!?」
「……っ!」
よろめきそうになる涼鈴を、ペトが背を抱き留めるようにして支える。ペトの両足は猛禽類のような形状に変容しており、地面をがっちりとつかんで風に抗っている。
だが、足の止まってしまったところへ木鹿大王が鼻を振り上げつつ突進してくる。鼻の先には、巨大な木剣――ユグドラシルブレイドが握られている。
「うっ……」
「やっば――!」
ユグドラシルブレイドが打ち下ろされるより先、ペトと涼鈴は後方に跳んだ。吹き荒れる烈風に乗ってしまうような格好になり、大きく速く距離が取られる。
轟音を伴い、地面に大きな亀裂が刻まれる。その威力の一撃を喰らわずに済んだのは幸いではあったものの、良いような悪いような状況だった。せっかく突撃した分を風に押し戻され、こちらの刃の届かぬ間合いに戻ってしまった。
周囲を見回すと、もう何度目になるやら、大毒蛇の群れが生み出されて猟兵たちを取り囲まんとしている。さらには、蔓で編んでこしらえたような狼、サボテンを肉として形成されたような熊といった植物魔獣の群れも、蛇の隙間を埋めるように生み出されている。
「……厄介だね」
ペトがつぶやく。
ヴィオレッタの矢による手厚い援護射撃を受けているので、正直なところ、大毒蛇や植物魔獣の群れについてはかなり楽に戦えている。だが、やはり本丸の木鹿大王が堅い。
「どう崩したものかな」
「どうもこうも!」
フンッと鼻息荒く、涼鈴が言う。
「がーっと突っ込んでどーんとぶっ叩くしかないよ!」
「……まあ、それはその通りなんだけど」
真理ではある。風が吹こうがユグドラシルブレイドが降ろうが、突破する。木鹿大王に刃を届かせるには、そうするしかないのだ。
「……よし。それじゃ、もう一度行ってみようか」
「おー!」
ペトと涼鈴が駆け出す。今度は、ペトが前に出た。
周囲の植物魔獣への注意は最小限でいい。大毒蛇に獣の群れが混じるようになったところで、ヴィオレッタによる矢の弾幕にさらされているそれらは、さしたる脅威たり得ない。 ゴオオオォォォオオオォォォ!
「――っ!」
再び、狂乱する魔風が吹いて猟兵らに襲い掛かる。だが、今度はペトの猛禽の爪持つ足が大地をつかみつつなおも前へと走り、ペトを風防として涼鈴もぴったり真後ろを駆ける。
――――!
彼我の距離が零となる寸前、ドン! と地面を叩いた木鹿大王の眼前に二体の大毒蛇が生み出され、壁を成す。
「ええい……!」
ペトが歯がみする――が、壁が生まれたことで烈風が弱まったように感じられたその機を逃がさず、ペトの背後にあった涼鈴が方天戟を地面に叩きつけつつ大きく跳躍した。
「どっせい!」
速く、高い。一瞬にして大毒蛇の頭上を越さんかというばかりに。
そんな涼鈴を逃すまいと、大毒蛇は顎を開いて襲い掛かる――否、襲い掛かろうとしたのだろう。しかし、ヴィオレッタの矢が一瞬早く飛来するなり、毒蛇の上顎と下あごを縫い止めてしまう。
『!?』
その刹那、大毒蛇は涼鈴にとって脅威から単なる足場と成り下がる。大毒蛇の頭を蹴って木鹿大王の頭上に出た。
出たところで、やはりというべきだろうか、木鹿大王は巨大ユグドラシルブレイドを備えた鼻を絶好のタイミングで振り回し、涼鈴を叩きのめそうとしているしているところだった。
しかし、それ以上に絶好のタイミングで、ペトがゴリラのごとくに変異させた両拳を地面に叩きつけていた。
「やっと実を結ぶ――崩れろ!」
【地裂崩槌(コラプション・ハンマー)】が大地を揺らす。大毒蛇が地面を突き破った際、木鹿大王がユグドラシルブレイドを叩きつけた際、亀裂はいくらでも刻まれており、ゆえにペトが木鹿大王の足元を崩壊させるなど簡単だった。
――――!?
ユグドラシルブレイドを振ること敵わず、木鹿大王が地面の崩落に巻き込まれて転倒する。
完全に隙をさらした木鹿大王に、獲物を定めた隼よろしく涼鈴が迫る。
「全力全開! うお-!」
涼鈴は方天戟の石突に爪先を添え、超速度の【劉家奥義・鷹爪嵐迅脚】を放った。
刹那、稲妻のごとくに撃ち出された方天戟が木鹿大王の額に炸裂し、断ち割り、さらに涼鈴の足に押し込められて柄がスッポリと木鹿大王に埋まるまでに貫き進む。
――――!!
木鹿大王の咆吼が、大気と大地を震わせる。
しかし、それは魔風を招くでもなく、新たな植物魔獣を生み出すでもない。燃えていた四つの目からも光が消え、木の虚のごとくに昏くなった。
「……終わったようですね」
ひょこりと姿を現して、ヴィオレッタが言う。一瞬たりと休まず矢を放ち続けていたはずだが、その表情は涼しいものだった。
「まあ……終わったというか、まだ始まったばかりって感じだけどね」
肩をすくめ、ペトは言う。
「本当、面倒な嫌がらせしてくるもんだよ、あの大将軍とやらは」
「でも、木鹿大王はやっつけられたんだ。国士無双との戦いまでもうすぐだよ!」
涼鈴の宣言は、覇気に満ちたものだった。
そう、あと一歩。あと一歩で韓信に刃を届かせるところまで、今、猟兵たちは至っているのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『『南蛮王』を撃退せよ』
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POW : 苛烈に攻め立て、南蛮王の軍勢を後退させる
SPD : 超強大な魔獣の僅かな隙や弱点を突く
WIZ : 計略で敵の動きを誘導する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●南蛮王
全身を囲む七つの首を生やした獅子――それは、孟獲と名乗った。
炎の体を持つ巨大な鷲――それは、祝融と名乗った。
岩のような体と剛刀のような角を持つ水牛――それは、忙牙長と名乗った。
背中に紅石色の棘をびっしり生えそろわせた大蜥蜴――それは、帯来洞主と名乗った。
次元の渦たる南蛮門から、強大な魔獣たちが顔を覗かせている。五できかず十できかず、ひしめき合っている。
別に特別に優れた洞察力のない者が見たとしても、思うだろう。これらが解放されてしまったら、この世が終わると。
猟兵が見たなら、思うだろう。この魔獣らを押し返すことができるのは、己らをおいて他にはいないと。
ヴィオレッタ・エーデルシュタイン
他の猟兵と協力して行動するわね。
「あらあら、狭いところにひしめき合ってるわね」
なので例によって距離をとって弓を構えてユーベルコード【撃ち貫く奔流】を初手で発動。
[貫通攻撃][制圧射撃]付きの矢を三倍速で門に打ち込む。
「密集しているなんて嬉しくなるじゃない?」
一矢で二兎どころじゃ無いわね。
攻撃がこちらに向いてきたら見切りつつ目立たない所へ位置変更。
そしてまた射撃。
これの繰り返しで、可能な限り敵を削るわね。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
まったく、そんなデカい図体でギュウギュウに集まってこなくてもいいだろうに。
王だの長だの名乗るなら、列に並ぶくらいの知恵を見せられないのかい。
さて、これだけ数が居るとそれぞれに対策するのは難しいし、
ここはシンプルに腕力でどうにかしようか。
【如意伸躯】で魔獣たちと組み合えるサイズまで巨大化して、
出てこようとしてる魔獣に体当たりをぶちかましたらそのまま掴んで力任せに押し返すよ。
重さもユーベルコードで変えられるから、体重差で押し負けることは無いしね。
アンタらみたいなデカブツこっち側じゃ放し飼いに出来ないんでね。
もと居た場所に帰ってもらうよ!
劉・涼鈴
一体でも大変だったのに、怪獣の大軍勢だ!
【怪力】で覇王方天戟をぶん回して突撃!!
【気功法】で全身に【覇気】を巡らせて、身体は鋼鉄より硬く、羽毛より軽く!
【野生の勘】で【見切って】、【ダッシュ】や【ジャンプ】に【スライディング】で距離を詰めて、戟を叩き込む!!(重量攻撃)
ぅおりゃー!!
お前が孟獲か! ならこっちは蚩尤だ!!
極まった【功夫】の体捌きで猛攻を掻い潜る!
低い姿勢で戟を【薙ぎ払って】足払い、【体勢を崩させる】!
一瞬の隙も見逃さない! 【気合い】を入れた全力全開フルパワー!
【劉家奥義・蚩尤激甚脚】をぶちかましてぶっ飛ばす!!!
どりゃー!!
●猛き獣ども
パッと見てパッと目が留まるのは、爪やら牙やらの剣呑な輝きよりは、むしろいくつもの目玉が蠢く様だろう。それらは目が炯々と光りつつ、南蛮門の外の様子をうかがっているのだ。
それら眼差しに宿っているのは、殺気や敵意といったものとは、また性質が違う。もっと純粋な、もっと端的な、ただ単に外界の情報を仕入れるために目を使っているというだけの、無感情なものだ。
そんな気配の魔獣らが、南蛮門狭しとでもいいたげに、顔を寄せ合って突き出しているのである。威圧感よりは、不気味さを感じると称した方が適切だろうか。
「大軍勢だ! 一体が相手でも大変だったのに!」
劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)は抗議するように怒鳴った。
まあ文句の一つや二つ言いたくなるのも当然だろう。かつての大戦で猟兵の心胆を寒からしめた兀突骨はもちろん、今し方戦った木鹿大王も恐るべき強敵だった。それらとほぼ同等の戦闘力と思しき魔獣が、群れをなすほどの数を揃えているのだ。
グリモアベースでも「殲滅は恐らく不可能だから、そのつもりで」といった注意を受けたが、注意がなかったとしてもこの状況を見れば同じ考えに至っていたかもしれない。
「そんなデカい図体でギュウギュウに集まってこなくてもいいだろうに」
うっすらと嘆息しつつ、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)はぼやいた。
「王だの長だの名乗っておいて、列に並ぶ程度の知恵もないのかい」
「あら。あんな風に窮屈なところでひしめき合ってくれてる方がありがたいわ」
微笑を浮かべつつ、ヴィオレッタ・エーデルシュタイン(幸福証明・f03706)は膝立ちで弓を構える。
「――二兎を追う者は一兎をも得ず、なんて言わせないわよ」
魔獣の群れ目がけて矢が放たれる。矢に刻まれた呪印が青白く輝き、尾を引く光がほうき星めいた軌跡を生み出す。
密集した魔獣らには回避するような余裕などない。超常の貫通力を与えられた一矢は、帯来洞主の眼球を削ぎ、忙牙長の角を砕き、祝融の足首を射抜いた。
ギ、ァァァァァァ――――!!
天地をつんざく絶叫が、魔獣の群れから上がる。
「へえ、凄いね」
ペトが感心すると、ヴィオレッタは次の矢を構えつつ、わずかに肩をすくめた。
「密集してくれてるなら、私には好都合――だけど、【撃ち貫く奔流(フラッシュフロッド・カレント)】が一番性能を発揮するのは、私が足を止めている間」
「つまり、壁が欲しいわけだね」
ペトは、ドン、と地面を力強く踏みしめた。
「いいとも。不得意じゃない」
「前衛なら任せろー! うぉー!」
涼鈴もまた豪快に方天戟を振り回しつつ魔獣らへと突進していった。
ペトの両足が変貌する。ずんぐりと太く頑強な、カバのものに似た形に。
一見鈍重そうだが、それは超重量を支え、かつ高速で前進するのに適した脚である。【如意伸躯(ヴァリアブル・フィジーク)】により魔獣に劣らぬ体格と体重を得るならば、それを支えつつぶち当たるにはそういった脚が必要になる。
「アンタらみたいなデカブツ――!」
軽自動車ほどの太さにまで肥大化させた熊の腕を振りかぶり、ペトは魔獣らに向かって怒鳴る。
「こっちじゃ面倒見れないんだよ!」
ばきっ! という炸裂音を伴って、忙牙長の顎下に掌打がぶちかまされた。
巌のごとき水牛の姿を持つ忙牙長は、見た目通りの突進力がある。真正面からの力相撲を挑むのは、本来ならばこの上ない悪手だ。しかし、超重量を得たペトの突進であれば、多少なりと押し負けずに踏ん張ることは可能だ。
そして今この状況であれば、少しの間でも拮抗が生まれさえすれば充分だった。
「疾く来たりて貫け――」
後ろに控えたヴィオレッタが矢を放つ。ペトの足の隙間を縫いつつ飛翔した一矢は忙牙長の右前足を貫き、右後足に突き立った。
必然、忙牙長の突進の威力は半分以下となる。こうなってしまえば脅威たり得ない。ペトは地面を蹴立て、一気に押し込んでいく。
と、押し合いをする両者を無視するように、その頭上を炎の大鳥――祝融が飛び越していった。
「あ、まず――」
焦るペトを置き去りに、祝融は一直線にヴィオレッタに襲い掛からんとする。
「あら……」
しかし。
「ぅおりゃー!」
対空ミサイルよろしく超速度で跳躍した涼鈴が、すくい上げるように方天戟を振るって月牙を祝融の左翼に打ち当てた。
――――!?
祝融は大きく体を傾げさせ、横滑りのようにして地面へ激突した。
「お前は祝融か! お前が火の神の末裔なら、こっちは戦いの神、蚩尤だ!」
蚩尤――古代中国史において、あらゆる武器を発明したとされる兵主神であり、黄帝に反乱を起こして敗死したという悪神でもある。
その荒ぶる戦神の力を宿し、絶大な破壊力を発揮するのが【劉家奥義・蚩尤激甚脚(リュウケオウギ・シユウゲキジンキャク)】だという。
祝融が再び飛び立たんと翼を広げたところに、涼鈴は一直線にダッシュする。その身自体が刃と化したように軽やかに鋭く躍り、右翼に方天戟の一閃。
「ぶっ潰れろ!」
ごっ! と鈍い音が響き、飛び立ち損ねた祝融がつんのめる。その次の刹那、戟の勢いそのままに祝融の顔面目がけて胴回し回転蹴りが叩き込まれた。ドライバーで叩かれたゴルフボールよろしく、祝融が吹っ飛ぶ。
「流石……っと!?」
押し込められた忙牙長と入れ替わるように、多頭の獅子――孟獲がペトへと襲い掛かる。体格や膂力は水牛ほどでないが、七縦七擒の故事を反映したかのような多頭の牙が、両手両足に首までもを一度に狙ってくることの恐るべきたるや。
しかし、牙がペトに触れるより前に、ヴィオレッタは神速の矢を放っていたし、涼鈴は身を返していた。
「やらせませんよ」
「どりゃー!」
きゅどっ!
空気が擦れて焦げるような音と同時、ペトの脇腹を掠めるように飛んだヴィオレッタの矢が、孟獲の頭三つにいっぺんに穴を穿つ。
さらに、勢いの殺された孟獲の足元を、横殴りにした涼鈴の方天戟の一撃がすくい上げた。
孟獲がけつまずいたように転がったところを逃さず、ペトはそのたてがみをわしづかみにする。
「さあ――帰ってもらうよ!」
ぐんと剛腕が唸り、ボーリングの球を放るがごとくに孟獲をぶん投げる。
それにより、魔獣らはごちゃついたような格好で南蛮門の奥へと転がっていった。
と、吹っ飛ばされていた祝融が一体だけ取り残された形になった。
――……!
「まだ続けるつもり?」
つがえた矢を向けつつ、ヴィオレッタが恫喝する。涼鈴も方天戟の切っ先を向け、ペトも巨躯を維持したまま身構える。
後続の魔獣が引っ込んでしまった上、猟兵たちも健在である様子を一瞥すると、ふらふらとよろめきつつ己も南蛮門の奥へと逃げていった。
「……やれやれ、何とかなったね」
大きく息を吐き、ペトは言う。群れ成す魔獣を見たときはどうなることやらと思ったが、取り敢えず何とかなったようだ。
「後はいよいよ、国士無双との決戦だ!」
「そうね……ひょっとしたら、魔獣の群れより面倒なのかもしれないけど」
涼鈴とヴィオレッタは視線を移ろわせた。
次なる決戦の場所――落とすべき本丸は、すぐそこにある。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『韓信大将軍』
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POW : 楽浪郡勇士集結
レベル×1体の【神器で武装した楽浪郡の勇士(異世界人)】を召喚する。[神器で武装した楽浪郡の勇士(異世界人)]は【他世界】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD : 南蛮魔獣集結
自身の【召喚した、南蛮界の魔獣の軍勢】に【背水の陣】を宿し、攻撃力と吹き飛ばし力を最大9倍まで強化する(敗北や死の危機に比例する)。
WIZ : 三国武将集結
【偉大なる三国時代の武将達】の霊を召喚する。これは【生前に得意とした武器】や【韓信大将軍に与えられた『神器』】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:瑞木いとせ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヴィオレッタ・エーデルシュタイン
他の猟兵たちと協力して戦うわね。
軍勢に目を奪われがちだけど将を討てばこちらの勝ちよ。
まず先制攻撃は気づかれないこと。
こちらを徹底的に[目立たない]ように[迷彩]衣装で隠れる。
それでも攻撃されるのなら[第六感]で敵の攻撃を感知し、[結界術]+[オーラ防御]の複合防御障壁で凌ぐ。
後は敵勢力が届くまでに集中、ユーベルコード【千里眼撃ち】で韓信を狙い撃ち。
[スナイパー]+[誘導弾]+[貫通攻撃]で無理やり急所に当ててあげる。
「逃がさないわよ」
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
また随分と数を揃えたもんだ。
つくづく面倒な奴だねえ。
さて、虎の大軍と神器を持った勇士ね。
虎は爪と牙しかないから必ず寄ってくるし、
思いっきり斧を振り回してなぎ払って衝撃波で吹き飛ばそうか。
勇士に向かってまとめて吹き飛ばせば寄ってくる相手の足止めと飛び道具の盾にもなるし。
先手を防いだら【飛衝放撃】でまた寄ってきた虎を掴んでどんどんぶん投げて攻撃するよ。
とりあえず陣形を崩すように投げていって、韓信には手が空いたらかな。
大軍だし投げる虎が尽きることはないだろうけど、
寄ってこなくなったら普通に石とかを投げようか。
これ以上面倒事を増やされたくないんでね。
ここで終わりにしてもらうよ。
●将を射んとせば
「えらい数だね……つくづく面倒なことしてくれる奴だよ、韓信ってのは」
周囲を一望し、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)はげんなりと嘆息した。
数でいえば、南蛮門の魔獣など比較にならないほどおびただしい。それだけの虎が、韓信の指揮の下で動いている。獣とは思えない、えらく人間的、軍隊的な整列のやり方でずらりと並んでいるので、違和感も凄まじい。
間違いないのは、そんな猛獣の大軍――大群でなく、大軍――がこれから軍略の天才の号令に従って猟兵を襲撃してくるという事実が、そう、つくづく面倒だということだ。
「軍勢に目を奪われがちだけど、将さえ討てればこちらの勝ちよ」
ヴィオレッタ・エーデルシュタイン(幸福証明・f03706)は、事も無げに言い放った。
「自信があるようだね」
ペトの視線を受け、ヴィオレッタは微笑を返した。
「弓でも銃でも、狙って撃てるなら必ず当ててみせるわよ。狙って撃てるなら」
「狙って撃てるには、壁が必要なんじゃないかい?」
「そうね。当たり」
ヴィオレッタはヒラリと手を振って――そして、その手が見えなくなる。迷彩効果の施された衣装によって、カメレオンよろしく姿を風景に溶かしてしまったからだ。
「……そんなに頑丈な壁に見えるかねぇ」
巨骨の戦斧を振りかぶりつつ、虎の軍勢と対峙したペトはぼやいた。
「集結せよ、楽浪郡の勇士よ!」
韓信が号令すると、彼の背後の空間に黒い渦が巻き起こった。
そしてその渦の中から、ツルリとした材質のボディスーツに身を包んだ人影が数名ほど出現した。封神武侠界では珍しいデザインだが、猟兵を筆頭に多少なり異世界の知識を持つ者ならば、それらがサイバーザナドゥのニンジャであろうと当たりを付けることはできよう。なおよく見れば、彼らの足にEP風火輪が備えられているのもわかる。
「攻めよ!」
どっ! と、土砂崩れでも起きたような地響きとともに、大軍勢がペトへと殺到する。前、左右、さらに風火輪の炎の竜巻で頭上も塞いでくるという周到さでもって。
(大人数が動くとなったら、普通もう少しノロマか、足並みが乱れるもんだろうに!)
文句を言う暇はなく、ペトは衝撃波を纏わせた巨斧を薙ぎ払った。
爪を振り上げた虎たちの足元に爆発するような風圧が発生し、上方向へと吹っ飛ばした。必然、虎たちはペトの頭上に迫っていた炎の竜巻にぶち当たり、ペトを黒焦げにするはずだった猛熱をその身で受け止めてしまう羽目になる。
これで先制は凌げた。
「次は――」
ペトは巨斧を足元に投げ、炎に包まれた哀れな虎たちに片手ずつでつかみ上げる。ペトの手は握力に優れた猛禽のそれへ変化しており、文字通りの鷲づかみの格好だ。
「飛んでけ!」
虎をつかんだ格好から独楽のようにスピンし、【飛衝放撃(キャスト・アウェイ)】で投げ飛ばす。狙うは風火輪を利して上空にあるニンジャたちだ。
集団オブリビオンといえど、虎の体は小さくない。しかし、ペトの膂力はそれを砲弾並みの速度でかっ飛ばすことを可能にした。機動力が自慢のニンジャたちながら、予想外だったのだろう、虎の直撃を受けて吹っ飛んだ。
「さあ、どんどんやってやろうか!」
ペトはさらに虎をつかんでは投げ、つかんでは投げる。凶猛なる爪や牙の連撃をかわしながらの作業としては困難もいいところだが、だからといって疲れた何だと泣き言を言って動きを鈍らせてしまえば、一瞬にしてボロ雑巾になってしまうだろう。
「韓信は手が空いたらってつもりだったけど……」
そんな暇はなさげであって、ならばそれはヴィオレッタに丸投げすればいいだろう。
壁といって、常に背中側にヴィオレッタがいるよういという立ち回りは不可能だ。なぜなら、充分に距離を取りつつ迷彩によって戦場に溶けてしまったヴィオレッタなど、どっち方向のどこにいるやらペトにも把握できていないからだ。
とまれ、ヴィオレッタは【千里眼撃ち】――見えている者を撃ち抜くユーベルコードを活かすために、距離は離れてはいるものの韓信を視認し続けでいる。
(流石に、脇に常に虎を置いて守備を固めてはいるわね。邪魔だけど……でも、見えてないわけじゃないなら、問題ないはず)
音を漏らさず、影さえ映さず。
神速の矢は放たれた。戦場にひしめく百を超える虎の目のどれもそれを認められず、韓信の脇を守る虎も、韓信自身にさえ反応を許さぬほどの一矢――かと、思われたが。
どぎゃっ! と。
韓信の眉間に鏃が至るより先に、矢軸が叩き落とされた。どこからともなく一瞬にして韓信の眼前に出現した、巨大なスズメバチによって。
「感謝するぞ、南蛮魔獣の楊鋒よ」
言って、韓信はキッと眼差しをヴィオレッタのいる方へと向けた。
「姿こそ見えぬが、矢が飛来した方角はわかった。皆よ、突撃せよ! 決して逃がすな!」
号令一下、虎の軍勢と巨大スズメバチの楊鋒、それから名前のわからない馬っぽい魔獣やら熊っぽい魔獣やらが雪崩を打つ。
危機に瀕したヴィオレッタの肌が粟立つ。が、同時に彼女の目は冷静に韓信を捕捉し続け、ゆえに適切に状況を理解する。彼を守っていた邪魔な虎や南蛮魔獣も離れている。
「逃がさない――は、こっちの台詞よ」
距離を取ったおかげで、猶予はある。ヴィオレッタは再び、三たびと矢を放った。
「ぬ!?」
韓信は背負った巨刀を抜き打ちに振るい、眉間を狙った二の矢を弾く。が、胸を狙った三の矢を防ぐ暇はなかった。
どっ! と甲冑を貫通しつつ、矢は心臓へと突き立った――かに見えたが、その寸前で止まったようだった。
ヴィオレッタの矢は超常であったが、韓信もやはり超常中の超常。一撃で絶命してくれるほど気前の良い手合いではなかったらしい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニノン・トラゲット(サポート)
『容赦なんてしませんから!』
『アレ、試してみちゃいますね!』
未知とロマンとお祭りごとを愛してやまない、アルダワ魔法学園のいち学生です。
学生かつ魔法使いではありますが、どちらかと言えば猪突猛進でちょっと脳筋っぽいタイプ、「まとめてぶっ飛ばせばなんとかなります!」の心で広範囲への攻撃魔法を好んでぶっ放します。
一人称はひらがな表記の「わたし」、口調は誰に対しても「です、ます、ですよね?」といった感じのあまり堅苦しくない丁寧語です。
基本的にはいつも前向きで、ネガティブなことやセンチメンタルっぽいことはあまり口にしません。
その他の部分はマスターさんにお任せします!
●龍よりもなお
呂布といえば方天画戟、関羽といえば青龍偃月刀という風に、三国志の著名な武将たちには、紐付けてイメージされる武器というものがあるパターンがある。しかし、それらのほとんどは演義や京劇などの後世の創作物で設定されたものであり、三国時代当時はそれらの武器はそもそも存在しなかった――というのが、UDCアースの歴史における常識である。
では、封神武侠界ではどうか。
「来たれ、三国時代の英傑らよ!」
韓信の呼び声に応じ、昏く捻れた空間から明光鎧姿の武将が四人、ぞろぞろと出現して地に降り立つ。
一人は蛇のような波形の刃を持つ矛を持っている。一人は長剣ほどの長さの円柱状の鉄棒を持っている。一人は刀身が幅広な薙刀を持っている。一人は両手に一本ずつ刀を持っている。
見る者が見れば、孫堅四天王という単語を思い付けるだろうか。程普、黄蓋、韓当、祖茂の四将が演義の上で得意としていたのが、それらの武器だ。
「むむむ……強そうなのが出てきましたね」
ニノン・トラゲット(ケットシーの精霊術士・f02473)が身構えているところに、四将がそれぞれの得物を構えて突進してくる。
「うわ!」
ケットシーの俊敏さでもって、ニノンは地面を転がるように突進を避ける。
ニノンの影を追うように、蛇矛の刃が地を割り、鉄鞭が穴を穿ち、大刀が空を斬り、双刀が宙を裂く。
息つく暇もなく襲い掛かる白刃の乱打から逃げながら、ニノンは振り返ってエレメンタルロッドを掲げた。
「この……やられっぱなしでいると思わないでください!」
エレメンタルロッドから金色の雷撃が弾け、螺旋を描いて暴嵐と化す。荒ぶる雷の嵐はそのまま四将を呑み込もうとする。
だが、四将は、その体の周囲に紫色の煙を纏っていた。煙はそれぞれが一本の大縄、いや、一匹の龍のような形を作っている。韓信によって与えられた神器【紫煙龍】である。猟兵のユーベルコードを喰らって防ぐ力を持つ。
「いっ!?」
四将を呑もうとした雷は、逆に紫煙龍に喰われ、削られ、呑まれていく。
「いや……だったら、まとめて吹っ飛ばすまで!」
杖頭の十字架が輝きを増す。雷撃に烈風が混じり、氷塊が混じり、嵐はさらに強く逆巻き、荒れ狂った。制御の困難な【エレメンタル・ファンタジア】だが、ニノンは技量ギリギリまでに威力を上げた。
その猛威は紫煙龍の限界を上回った。煙の体は千々に散らされ、さらに余勢が暴風となって四将を叩く。四将は得物を振るう余裕もなく、足を踏ん張る力もなく、吹き飛ばされる。
「何、だと――!?」
その様を見た韓信が目を見開いた。
「次はあなたの番です、韓信!」
杖を韓信に突きつけ、ニノンは怒鳴った。
成功
🔵🔵🔴
劉・涼鈴
来たぞ韓信! 決戦だ!
移動の間に中華まん食べて【エネルギー充填】! 【元気】回復!
漲る【覇気】は今も健在!
異世界の勇士と虎の群れだ!
多数(集団戦術)を相手にするのは【功夫】の基本想定!
止まることのない流れるような動きで次々にぶちのめす!
韓信はあの城壁の向こう側だな! ぶっ壊す!(地形破壊)
【怪力】で【劉家奥義・狂熊覇陣撃】!
うおおおおおおおッ!!
ブチ砕いた城壁から【ダッシュ】で突入!
劉家拳伝承者、劉・涼鈴参上!! 勝負だ! 国士無双!!
覇王方天戟で大剣と真っ向から打ち合う!
【野生の勘】と【心眼】で【見切って】、【気合い】と【根性】で【限界突破】!
おらおらおらおらァ!! 無双の名はいただくぞッ!
イングリット・イングラム
軍勢による包囲殲滅攻撃。
虎の大軍勢は法力で飛翔することで避けることができる筈。
しかし、神器で武装した異世界人は全くの未知。
その動きを見極め、致命傷を負わないように法力で攻撃を逸らし、剣で受け流します。
耐えることができたならば、こちらの番です。
韓信大将軍。貴方はこれだけの軍勢を縦横無尽に動かす戦術の天才。
ですが、私はその戦術を戦闘でもって打ち破りましょう。
貴方達全員に決闘を申し込みます。
UCを発動。
敵と同数に分身し、それぞれが敵の至近に転移。
先程見せてもらった動きを読み、死のルーンの力を込めた剣で攻撃します。
南蛮の魔物達の騒乱すらも囮とする貴方の企み。
貴方の天運ごと、骸の海に還します。
●国士無双
どがしゃん! と金属同士のこすれて落ちる音を伴って、超重量が地面を揺らした。
鋼鉄の角材を組み合わせて少々アンバランスな人型にしたような、身の丈五メートルほどのロボット数十体が、一度に着地したからだ。それぞれ右肩には長距離砲らしきロングバレルの砲台、左肩には箱形のミサイルポッド、右手にはガトリングガン、左手にはグレネードランチャーらしき大筒――と、全身に重火器を備えている。
クロムキャバリアのオブリビオンマシンだ。
「むぐー! もぐもぐもごもご!」
体に不似合いなほど大きな方天戟を振り回し、劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)が怒鳴る――が、肉まんを詰め込んでリスよろしく頬を膨らませているため、その言葉は判然としない。
「ゆっくり食べてからしゃべって……いや、そんな暇はないですね」
涼鈴の横に立つイングリット・イングラム(剣士・f35779)が、目をすぼめつつ言う。
「来ます」
豪雨が地面を叩き、濁流となってあらゆる存在を押し流そうとするような、そんな低く重い音が響きつつうねりつつ二人に迫ってくる。
大軍勢を成す虎が地を蹴立てて突撃してくる音であり、オブリビオンマシンが武装の全てから火を吐いている音である。
「これは……」
イングリットは眉間にしわを寄せた。
オブリビオンマシンの砲撃の弾幕は、直接猟兵たちを狙ったものではない。彼女らの頭上、何もない空間を通過するだけのものである。
無意味な攻撃ではない。虎への同士討ちを防ぐためでもあるだろうが、一番は、空中を弾幕で埋めることで虎から逃げ場を奪う目的なのだ。
飛んでしまえば、近接攻撃の手段しか持たぬ虎などいくら数があろうが脅威にならないはずだった。そんな陣形の穴を、韓信の采配が塞いだのである。
「あの弾幕に身を投じるよりは、虎を相手した方が、か……」
「多数の相手は功夫の基本!」
イングリットは法力のこめられた直剣を縦横無尽に振るった。剣閃はさながら隙なき結界めいたものを形成し、全周より襲い掛かる虎の爪を弾き返し、押し返す。
一方の涼鈴は超絶の足さばきをもっての対抗である。虎の濁流に対して柔和なる流水さながら、爪撃の隙間を縫い、牙撃の脇をすり抜け、捉えられることもつかまれることもなく駆けずり回る。
「仕留め損なったか」
戦場を眺めつつ、韓信は淡く嘆息した。まあ、初手だけでどうにかできると本気で思うほど、目算の甘い将でもあるまいが。
「韓信大将軍、先制は凌ぎましたよ――天才の戦術を、戦闘で打ち破りましょう。全員に決闘を申し込みます!」
イングリットが叫ぶと同時、彼女の周囲にある虎の眼前に、イングリットの分身が音もなく出現した。
【決闘】は敵と同じ数の分身を生み出せるユーベルコードである。数に勝る虎の軍勢といえど、単体で見れば集団オブリビオン相当、いわば雑兵である。イングリットの分身を用いた一人一殺戦法をもってすれば押し返せないではない。
「せやぁっ!」
イングリットの分身が一斉に剣を振るう。凶猛なる虎の爪牙とルーンで強化された刃とがかみ合い、火花を散らす。
しかし拮抗していたのはわずかの間だった。イングリットの剣は虎の爪を断ち、牙を砕き、肉を斬り裂いていった。
そして、そうやって切り拓かれた血路を涼鈴が走って行く。
「勇士たちよ、阻め!」
韓信の号令に一刹那すら遅れることなく。
彼に迫ろうとしていた涼鈴の眼前に、オブリビオンマシンの群れがひしめき合って城壁のごとき陣形をこしらえる。そして、ガトリングガンとグレネードランチャーによる弾雨と爆撃の嵐を見舞ってきた。
「うおおおおッ!」
蛇行しつつグレネードの直撃をかわし、弾丸を方天撃の刃で弾き返す。それで無傷で済むはずもないところ、それでも涼鈴は前進を止めない。
その身一つが覇気を纏った破城槌と化したように、【劉家奥義・狂熊覇陣撃】を宿した方天戟の剛なる斬撃がオブリビオンマシンの壁に炸裂し、巨大な爆炎と衝撃波を生み出して突破口をこじ開ける。
「――う、お!?」
爆風の余波が届くのを、韓信は巨刀を盾にして防ぐ。
そこへ、全速力で駆けた涼鈴の方天戟が一閃する。
「勝負だ韓信! 国士無双の名はもらうぞッ!」
ごぎん!
巨刀をへし折らんばかりの猛撃が轟音を弾けさせ、韓信の体を後方へと押しやる。
摩擦した足裏で地面に深い溝をこしらえつつ、しかし、韓信は怯懦の気配を微塵も見せない。
「私が国士無双と呼ばれるのは、人にそう称されたからだ。自称するものでもなければ、ましてや私を倒したところで奪えるものでもない」
涼鈴に向かって言い放ち、同時に横薙ぎに巨刀を振るう。涼鈴の一撃に勝るとも劣らぬ斬閃が、方天戟の柄に衝撃を加えた。
「いっ……!」
ジンと涼鈴の手が痺れたところ、両脇から生き残りのオブリビオンマシンが迫っていた。射線の都合上同士討ちになりそうな位置にあるのも辞さず、ガトリングガンを向ける。
――が、その瞬間、オブリビオンマシンたの眼前にイングリットの分身が捨て身めいて駆け寄り、剣を一閃させてアームを断ち斬った。
「もう来ただと!?」
韓信が瞠目した刹那、彼のすぐ側にもイングリットの分身が出現していた。
「南蛮王らによる騒乱をも囮にした貴方の企み、天運ごと骸の海へと還します!」
「ぐっ――」
イングリットの直剣の刺突。韓信は巨刀を引き戻して防ごうとするも弾きそこね、腹を貫かれる。
そこへ、体勢を立て直した涼鈴が再び迫る。
「叩き潰す!」
渾身の方天戟の一撃に、もはや巨刀を振るう余力もない韓信は何ができる道理もなく、肩から脇の下にかけてを両断された。
「……見事だ」
言葉とともに多量の血を吐き出しつつ、韓信はうっすらと笑みを浮かべた。
その血が、また両断された体が地面に落ちることはなく、宙にあるうちに灰のごとくとなって消えていく。
かくして韓信は骸の海に還り、この戦場における猟兵の勝利が決まったのである。
大成功
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