Trick or justice!!!
UDCアースのとある山中にひっそりと佇む店、喫茶【スノウホワイト】。
ここには、様々な猟兵がふらりと立ち寄っていくらしい。
これはそんな喫茶店での、とあるハロウィンの夜のお話――。
ドンドンドン!!
「……何だ?」
一階の扉は普通に開放してあるのだが、妙に強いノック音がする。嫌な予感がした若きオーナー、藤崎美雪は、少々遠い目をしつつ「開いているぞ」と一声かけた。
「美雪様、はっぴーはろうぃんですわ!!トリック・オア・ジャスティス!!!」
バーン!と扉を開放した赤ずきん姿の女が、凄まじい勢いで店内に押し入ってくる。よく見ると、グリモア猟兵の御堂茜であった。尤も美雪が知っているのは変な城の城主としての姿であって、予知をしている所は見たことがないが。
「……トリックオアジャスティス?」
「ええ!お菓子をくださらないと成敗致しますわよ!!」
「全てが間違っているぞ」
美雪は容赦なくハリセンでツッコミを入れた。
「はっ、そうでしたわ! 成敗してしまっては非・正義ッ!!」
もういちいちつっこんでいては接客する体力が尽きる気がする。美雪が大人しく飴を渡し、メニュー表を取りに向かうと、茜は意外と普通にカウンター席へ座った。
ほんの五席しかない、木製の素朴な家具が目立つ喫茶店だ。今日はハロウィンという事で、カウンターの隅にちいさなジャック・オー・ランタンが置かれていた。皿やカップの色にも橙や紫がまじり、ひっそりとハロウィン仕様だ。
「ともかく、よく来てくれた。本日のお勧めはハロウィン限定のメニューとなっているぞ」
「限定ですの!?」
美雪がメニュー表をさしだすと、途端に茜の瞳もきらきらと輝く。パンプキンケーキとパンプキンラテは、この日のために美雪が心をこめて用意した特別メニューだ。
普段提供している軽食やドリンク類も一応頼めるのだが、そこは乙女。季節限定には弱い。選ばないわけないのである。
「勿論!限定メニューで勝負ですッ!!」
「承知した」
語尾が若干気にはなるが、美雪もどこか嬉しそうにキッチンへ入っていく。仕込んでおいたケーキを切り分け、ハロウィンらしく蜘蛛の巣の飾りとおばけのピックを刺した。
スパイスが隠し味の暖かいパンプキンラテには、この日のために練習した南瓜のラテアートを慎重に描く。ハロウィンに山奥まで訪れてくれたお客さんの笑顔のため、精一杯のおもてなしを――店主としての心意気だ。
「お待たせした。ゆっくり召し上がってくれ」
「まあ、お化け様に南瓜様! 可愛らしいですわ! それでは早速いただきます!」
ケーキを口に運べば、しっとりとした食感と優しい甘さが幸せを届けてくれる。山の夜は少々冷えるが、ジンジャーの利いたパンプキンラテでほっこり身体も暖まり、賑やかな一日の中、心安らぐ空間がここにある。
「ごちそうさまでした、大変美味しかったですわ! ささ、美雪様もどうぞ!御堂の菓子を受け取ってくださいませ!!」
「うん……? か、感謝する。では有難く頂戴しよう」
見送りに外へ出た美雪は、『ミドウ城銘菓・ジャスティスまんじゅう(南瓜味)』と書かれた箱を受け取った。やっぱり思う。茜さんは、ハロウィンという行事を盛大に勘違いしているのではないかと――。
「では御堂、次の対戦に向かいますので!さらばですッ!!」
どうやってここまで来たのだろうと気になってはいたが。
御堂茜は赤ずきん姿のまま、宇宙バイクを飛ばして山道を走り去っていった。
「ええー……」
ツッコミも間に合わないスピード感。
「せめて馬形態にしろ!」
ようやく出た言葉はそれであった。
不思議なハロウィンの客が、また誰か扉を叩くかもしれない。
成功
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