1
君の日常を恋願う

#UDCアース #ノベル

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#ノベル


0



一ノ瀬・帝





 二十四節季が立冬を示す頃。
 ついこの間までは夏の名残が暑かった気がしていたのに。過ごしやすい気候はあっという間に過ぎていき、街を歩く一ノ瀬・帝が吐いた息は淡く白んで風に溶けていった。

 日本の季節商戦の移り変わりはめぐるましく、ハロウィンが終わればあっという間に街はクリスマスを見据えた商品やその予約に取って代わられる。
 そんな日本人にとってはお馴染みの景色の街を、帝は一人漫ろ歩く。目的は街を彩るクリスマス商品かと言われればそうでもなく、かといって全く関係がないわけでもない。今日はクリスマスイヴである12月24日に誕生日を迎える大切な幼馴染、飛鳥への誕生日プレゼントを探しに来たのだ。
 気が早いとは帝自身も思うのだが、迷いすぎてギリギリになるのもいやだった。時間は有限。下見くらい早めにしておくのは悪くはないはずだ。プレゼントの大体のイメージが固まれば良し。良いものが見つかればそのまま購入したっていい。

 一先ず大型の雑貨店ならばよい案も浮かぶだろうと足を踏み入れれれば、当然のようにクリスマスグッズのコーナーが正面を飾っていた。
「さて……」
 何から選んだものか。まだ具体的に何を贈るかは決まっていない。
「きっとあいつなら何でも喜んで受け取ってくれるだろうが。却って悩むな……」
 帝の眉間に皺が寄った。「何でもいい」程選択に迷うものはない。選択に具体的な指針がないからだ。どんなものを贈っても喜んでくれるのはいいが、同時に贈る側のセンスも試されている気がするのは帝だけではないだろう。
 ぐるりと店内を見渡し、結局何となしに眼前のクリスマス商品に目を向ける。オーナメントやクリスマスツリーは元より、クリスマスをモチーフとした美容グッズや小物、食器はどれも煌びやかだ。クリスマスに贈るギフトも充実していて、品数も豊富に揃っている。
 男性に贈るクリスマスギフトとしては、マフラーや手袋が定番のようだ。他にも財布や文具、スマホのアクセサリーなども多い。しっかりとした実用品もあれば、くすりと笑いを浮かべてもらえそうな面白グッズもあって選ぶ楽しさもある。
 時期的にはクリスマスらしいプレゼントもいいかもしれない。そう思って手を伸ばそうとして、
(……いやしかし、そういうプレゼントは貰い尽くされているだろうか……?)
 ――そんな考えがふと過って止めた。
 飛鳥は社交的で快活な性格、友人も多い。クリスマスと同日の誕生日ともあれば、当然クリスマスにちなんだ誕生日プレゼントもたくさん貰ってきただろう。今更目新しさはないかもしれないし、もしかしたらクリスマスと誕生日を一緒くたに祝うようなプレゼントはちょっぴり寂しいと思うかもしれない。――いや、そんな素振りは見た事がないけれども。
 かといって、これから迎える冬に使ってもらえそうなマフラーや手袋にも手を伸ばす気にはなれなかった。鮮やかな色合いのマフラーや温かそうな手袋は確かに目を惹いたし、季節柄の贈り物として力を入れているのであろう陳列は良いものが沢山並んでいるのだが。どうしてか、ひとつの季節にだけ使うような期間限定のものではない方がいい気がした。
(……いや違うな。俺がそれじゃ嫌なんだ)
 そっと瞑目して、心の中で自分の考えを否定した。
 使える季節が限られているものは、時期が過ぎれば仕舞いこんでしまって次の年まで使われることはない。それを少し寂しいと思うのは、帝自身の我儘だと解っている。解っているけれど。
 ……そう、出来るのなら。帝が贈ったものが飛鳥の日常に当たり前にあると嬉しいと思った。今はまだ帝の一方的な想いがあるだけで、付き合うどころか告白だってしていないただの「幼馴染」だけれど。
 飛鳥の日常に居たいと思った。誕生日に贈ったプレゼントが当たり前に飛鳥の日々に在って、当たり前に飛鳥が手に取るような。そんな何気ないものがいい。そう思ったら、帝の足は自然と食器や日用雑貨のコーナーへと向かっていた。

 日用品で贈り物と考えると、最初に思い浮かんだのは食器だった。金額的にも手頃で受け取る相手にも重すぎない。マグカップは年中使えるだろうし、箸や皿なども好みのものを使えば食事も楽しくなるだろうか。
「ペアマグ、夫婦茶碗……物凄く惹かれるが、まだ付き合ってもないしな……」
 どうしても目を惹かれてしまうつがいの食器に、いやいやと首を振る。いくら幼馴染で親友だとしても、付き合ってもないのにペアは流石に重い。これは未来の楽しみに取っておくことにしよう。それに、どうせペアを選ぶならば二人で選んだものがいいなんて。存外欲深な自分を自覚して苦笑いを零しながら、帝は更に歩を進める。
 隣はキッチングッズのコーナーだ。デザイン性の高い調理器具や、匠の逸品と言えるような刃物。調理を楽にしてくれるちょっとした便利グッズやエプロンがずらりと並んでいる。
「ふむ……家事を任されることがよくあるらしいし、キッチングッズやエプロンなんかもありだろうか」
 口に出してみたら、案外悪くないような気がした。
 キッチングッズは日常的に使うし、彼の助けにもなるのではないだろうか。そしてあわよくば、高校を卒業して結ばれて同棲して、帝の為にそれを使ってくれたら最高なのだが……今はちょっと、その願望は置いておくとして。
 とはいえ帝はキッチングッズには然程詳しくはない。包丁やまな板などの調理器具も、出来れば飛鳥の希望に合わせてあげた方がいい気がすれば、どれに手を伸ばしていいかわからない。普段ほとんど表情が変わらない帝だったが、今回ばかりはほんのりと眉が下がる。
 せっかくいい案を思い付いたと思ったのに。悩まし気に彷徨った視線が、留まる場所を探して品々を流し見ていく。その流れがふと止まった。

 飛燕だ。紺碧の空を一直線に飛んでいく一羽の燕の白いシルエット。
 その真っすぐさと迷わずに飛ぶ鳥の姿に彼を見た。

 驚きに瞬くと、それはあるエプロンの柄であったことに気づく。インディゴブルーのデニム生地にワンポイントで白い燕のシルエットだけが描かれたシンプルな柄だ。値段もエプロンにしては少々張るが、高校生が買えない範囲のものでもない。
 彼の桜のような髪色にも映えるだろうし、シンプルであるからこそあまり好き嫌いに左右されずに身に着けやすいのではないだろうか。
「……これがいいな」
 眼鏡の奥、切れ長の射干玉の瞳がそっと細まった。
 エプロンを手に取ると、帝はそれ以上悩むこともなく真っすぐに会計に向かう。クリスマス用のラッピングを勧められたが、敢えて断って誕生日プレゼントとして包んでもらった。
 すっかりと鞄に収まってしまえる包みを大切に仕舞って、帝は満足そうに帰路につく。飛鳥の誕生日まではまだ日があるけれど、それまでそわそわとする心をひた隠しにして過ごす自分が想像出来て内心で笑った。

 贈り物を選んでいて気が付いたことがある。
 俺は、飛鳥の特別になりたいと望む心と同じくらい、飛鳥の日常になりたいのだということ。
 あいつの日常に当たり前に俺が居て、あいつの特別として隣に居るのが俺でありたい。それがあいつにとっても当たり前になってほしい。
 聖夜の奇跡なんて信じるようなガラじゃないけれど。もし、あいつの誕生日までにその勇気が育ったら。
 この誕生日プレゼントに、そんな我儘な願いを託してもいいか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年11月07日


挿絵イラスト