Plamotion Hallowe'en Actor
●しあわせなゆめをみる
人が見るのは幸せな夢。
薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は、それを知っている。
人は想像する。
想像したものを形に変えることができる。それが『プラモーション・アクト』――『プラクト』の源にあるものである。
だから、静漓は自身の胸の内側から湧き上がる思いを形にすると決めたのだ。
それは彼女にとって、最も困難な道を往くものであった。けれど、それが正しい道であることを彼女は確信していたのだ。
「とても。とても大変だったけれど。なんとか形になったわ」
今日はハロウィン。
此処、アスリートアースにおいても同様にハロウィンイベントが各々のスポーツ競技において催されている。
そして、ある商店街もまたハロウィンカラーに染まり切っていた。
そんな中、『五月雨模型店』はさらに特別な催しが行われていた。
「つまり、どういうことだ?」
『アイン』と呼ばれる少女が首を傾げている。
彼女たちは『五月雨模型店』という『プラクト』チームで世界大会であるワールド・ビルディング・カップに参加しているのだ。
全開優勝者を打ち破るという快挙に今や彼女たちの注目度は跳ね上がっている。
「いや、というか静漓ねーちゃんの格好、綺麗すぎるだろ!」
「そう、ありがとう。『アイン』……でも、今日あなた達を招待したのは、『プラクト』の大会を開きたいと思ったからなの」
告げる静漓の姿はいつもよりもきらびやかなドレス姿であった。
ハロウィンの装いであろう。けれど、それ以上に彼女の雰囲気と相まって、なんとも瀟洒な雰囲気が漂っているのだ。とても悪戯しようとは思えない。
それほどまでに今の静漓の姿は見目麗しい姫君であったのだ。
「お、おお……え、大会?」
「そうよ。本当に大変だったの」
ごらんなさい、と静漓が手で示した先に在るのは『プラクト』フィールドであった。しかし、いつもと様子が違う。
「か、カボチャのオブジェクトがあんなに……!?」
「いや、まて! それどころかなんだあれは!? 悪魔の大行列!?」
「わ、わわわぁ……たくさんの幽霊たちがターゲットになっているんですか?」
他の『五月雨模型店』のメンバーたちも気が付く。
「参加者にはもれなくお菓子をプレゼント。そして、優勝者には、この『セラフィム』ぬいぐるみが贈られるわ」
そう、静漓が『五月雨模型店』の天頂とせっせかと用意していたのは『ハロウィン仕様のフィールド』であったのだ。
彼女の語る通り、とても大変な作業であった。
テクスチャーペイントをハロウィンカラーに塗り替えたり、小物をちまちまと作成したり、それどころかちゃんとハロウィンイベントとして成り立つようにオブジェクトがマーカーとして機能するように改造したり。
それはもう本当に本当に大変な作業であったのだ。
けれど、それは共にイベントに参加した子らに配るお菓子を選んでくれたグリモア猟兵と『五月雨模型店』の店長の強力があればこそ為し得ることのできたことだった。
そして、優勝賞品は目玉の『セラフィム』ぬいぐるみである。
それは『アイン』達が夢中になっているアニメ『憂国学徒兵』シリーズに出てくる主役ロボットの名前であり、デフォルメされたデザインのぬいぐるみは、限定品であったのだ。
「あと『アイン』、『ツヴァイ』、『フィーア』、あなた達にも似合うと思ってドレスを用意しているわ」
『ドライ』はこっちね、とカボチャのきぐるみを手渡す。
「ま、まじで!? 私に似合うかな……」
少し男勝りなところのある少女『アイン』は気後れしているようである。
「きっと似合うわ。私の見立ては完璧だと思うの」
「そ、そっかな! そうかもな! ありがとな、静漓ねーちゃん!」
照れ笑いをする『アイン』たち女子陣はきゃいきゃいしている。その様子を見て静漓は、いつもの変わらぬ表情のまま『ドライ』に手渡したカボチャきぐるみの頭を彼の頭に被せるのだ。
「『ドライ』、お姫様たちのエスコートをお願い」
「ああ、任された! だが、静漓お姉さん、一つ頼まれてはくれないだろうか!」
「なに?」
と言いつつも、静漓には心当たりが在ったのだ。
「あの子を、『フュンフ・ラーズグリーズ』を頼めるだろうか! どうにも前回のことを引け目に感じているようなんだ!」
そんなこと気にしなくたっていいのにな! と『ドライ』は笑う。
けれど、彼等にはどうにもできない問題であるのかもしれない。時間だけが解決してくれるかもしれないが、それではあまりにもハロウィンというイベントは短い。
少し離れた場所で、『フュンフ・ラーズグリーズ』は遠巻きにこちらを見ているばかりだったのを静漓は知る。
一歩踏み出す。
それだけで世界は色彩を変えることを知っている。
これが、しあわせなゆめであるというのなら。
静漓は想像する。
自分が行いたいと思ったイベントの成功を。
「誰だって自分の過ちからは目を背けたいもの。けれど」
自分のプラスチックホビーである『孤月』があった。そうだ。自分は遊びたかったのだ。
時に笑い、時に涙する。
そんな感情の発露をありありと見せる彼等の姿に彼女は心が打たれた。
共に遊びたいと願った。
その中には『フュンフ・ラーズグリーズ』も含まれているのだ。
「『フュンフ・ラーズグリーズ』」
「あ……」
見上げる星映す黒い瞳が揺れている。
そこにある感情を静漓は理解している。自分に彼等とともに遊ぶ資格なんてないと思っているのだろう。
否定することは簡単だ。
けれど、静漓は彼の前に立って手を差し出す。
もう片方の手には『孤月』の姿があった。
「想像し、想像を形にするのが『プラクト』の遊び方」
「うん……」
「だから、私は自分のやりたいことを――あなた『達』が楽しく遊べるようにしたかったの」
「でも、僕は、みんなに酷いことを言ったし、した。だから」
静漓は自ら一歩前に踏み出した。
怖気づく誰かの背中を押す言葉はない。けれど、心沈む誰かの手を取って引き上げる行為を彼女は知っているのだ。
言葉無くとも。
知識無くとも。
人の凍える心を解かすには、こうすればいいのだと、こんなに単純なことなのだと示して見せるように『フュンフ・ラーズグリーズ』の手を握る。
「きっと今日は平和な日よ、『フュンフ・ラーズグリーズ』。どうぞ楽しんで」
それが私の喜びで、あなたの喜びである。
すでにフィールドの中には『アイン』たちのプラスチックホビーが投入され、彼女たちが静漓たち二人を呼んでいる。
「なにしてんだよー! 早くやろーぜ!」
「優勝は私が頂きます」
「フハハハ! そうは行かないぞ!」
「わ、わわ、私も!」
彼等の笑顔を見やる。
確かに苦労も多かった。大変な思いをした。
でも、それは報われるのだ。
人がしあわせなゆめを見るように。静漓もまた得たのだ。自分のやりたいことを、そして、その報酬たる少女たちの笑顔を。
そして何よりも。
「さあ、『レッツ・アクト』よ」
そこには静漓の微笑みがあった。
ほんの僅かな笑み。けれど、それを見上げた『フュンフ・ラーズグリーズ』の瞳が今度こそ本当に星映すように潤む。
「うんっ!」
「泣き虫なのは、直さないといけないわね。あなたは強い子なのだから」
触れる頬と涙の暖かさは、決して寂しい気持ちではなく。
触れた静漓だけが知る。
きっと今夜、彼等が見る夢は、きっと――。
成功
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