少女は目を開けた。
映るのは真っ暗な部屋の天井。
音が聞こえた気がした。
ベットの上で緩慢に目だけを動かし、視線を彷徨わせる。
電気なんて随分と前に点ける事はやめた。
カーテンも閉め切ったまま開ける事もやめている。
それでも、今が深夜くらいだと言う事は分かった。
日が隙間から漏れて来ていれば食べ物が運ばれてきた可能性があったが、深夜ならその可能性も無いと回らない頭で考える。
なら、ただの気のせい。
そう思って、目を閉じる。
その閉じようとした瞼の隙間に、影が映った。
「外へ………行きましょう」
●
「さむぅなってあっためたお酒がおいしい時期になったねぇ~~~」
なんて言ってる割になんでこの酔っ払いは手に持ってるのが缶ビールなのだろう。
缶ビールを温めたとかそんな訳ないとは思うが。
「こーんかーいはー、と言うか今回も? 禁足地っちー」
禁足地。一般的に言われるものではなく、猟兵の中で使われるその定義は、UDCアース…UDC組織で使われているそれだ。
その定義とは、一定範囲、一定領域の内でUDCが異常増殖を果たし対策を放棄せざる負えなくなった場所の事である。
UDC組織の出来る事は、ただ一般人への隠蔽を幾つも重ねる事のみである。
と言う物なのだが…。
「今回の禁足地の発生はねぇ~、発生からさほど時間たってないーつまり初期ー? まぁそれでも増殖のスピードが速くて禁足地の発生は止められないと思うけどー」
はーーと吐いた溜息にケプと音が混じったのは聞かなかった事に。
酔っ払いは怠そうにしながらも少し真面目な顔をすると続ける。
「場所は住宅地にある二階建ての民家。とは言え、突入した職員から送られた通信では家の部屋そのものが増殖と接続が幾つも成されてて異空間だって。例えで言えば、職員が部屋を進んでいたら突然床が抜けた。それで落ちる…と思ったら、垂直に立ってるその壁に引き寄せられて少し転がっただけで止まったんだって。立ち上がってよく見ればその場所は床。ようは、部屋に垂直に他の部屋が接続されていて、その床に立っていたって訳。そんな感じのが続いてるらしいよ」
新手の忍者屋敷…とは違うか。とは言え、例え話以外にも扉を開けて踏み込んだら上に落ちたり横へ落ちたりと言った事もあるかもしれない。
「で、禁足地が発生しただけなら猟兵だってどうにかできる可能性は低いんだから案内しない訳で、救助対象…が、さっき話に出た突入した職員さんたち」
職員が救助対象。それも禁足地に踏み込んだ結果の。禁足地指定が突入した後であったのか、それとも禁足地級と分かっていたが突入しなければならなかったのか…。
「今回のその場所ってねー、元々隠蔽工作が施されてた場所なんだー。異常が起きたけれど、起きた以上の発生が抑えられていた場所。今回のはその抑えられていた要因がなくなった結果拡がって、突入した職員はその要因を無くならない様にするために突入していたんだよねー」
何か歯に物が挟まったような言い方だ。言い方が奇妙と言うべきか。
「隠蔽される原因となった異常は、その家で夫婦が狂って全身の骨を捻じ曲げて死んだ事。異常を抑えられていた要因はその夫婦の子供の女の子。年齢的には高校生くらいかな? その子を家から連れ出そうとすると空間が現実から乖離し始めたんだって。それで組織はその家を女の子ごと隔離することにした。入る分には問題ないから食料やら運んだりある程度の要望は聞こうとしたみたいだけれどね」
猟兵が思う事は様々だったが、それならばどうして今の状況になっているのだろうか。
少女が居た所で関係が無くなったのか。
「職員の一人がねー、UDC施設からオブジェクト持ち出して、その家行って女の子連れ出して逃げた。現状行方不明だけど家の中にはもういない。救助対象の職員はそれを止めようとした結果だねー」
………。
「まぁそっちの方の事情は猟兵には関係ないねー。だからやる事は単純、突っ込んで邪魔者は倒して、助けて、戻って来るだけ。」
なんとまぁ、事情を省略して言葉だけ聞くなら簡単そうな事か。
「ああ、そうだ。あくまで救助者優先で、これは『出来るだけ』って前置きするけれど、発生してるUDCはバンバン倒してほしいかなー。外でUDC職員が禁足地レベルを抑える為の封印を構築してるけれど、完全放置だと外に溢れるから溢れ出さないようにね。それも時間稼ぎでしかないけれど」
……もしかして、かなりギリギリな状況なのではないだろうか。
「大変だと思うけれど頑張ってー? あーそれとー、気になる人もいるだろうから言うけれど―、行方不明の女の子とそれを連れ出した職員はねー、特に見つける必要はないけれど、見つけようと思うならそれなりの方法が必要なんじゃないかなー。未だUDC組織が見つけられてないんだからねー。それと助けた職員達も、さすがに廃人間際だからそっちのケアも必要だからねー」
酔っ払いは言い忘れが無いか頭の中を探る様に口元に手を当て、無いかなーと判断すると猟兵達へと顔を向けた。
「それじゃ、行く人―」
みしおりおしみ
はぁい! 禁足地! でも変則的ではないか? まぁやる事は変わらないからいいんじゃないかな! みしおりおしみだよ!
なんか長々なオープニングだけれどやる事は単純。
職員探して、邪魔なのを蹴散らしながら出口まで行って、それからメンタルケア。
単純ですね!
一章は冒険。狂った構造の家を探し回って救助者を見つける章だねー。
二章は集団戦。異空間化してるから火力を気にする必要なし! でも職員を忘れないようにね!
三章は日常。ねっこ!
第1章 冒険
『××しないとでられない空間』
|
POW : 物理的解決を目指す
SPD : できることがないか模索する
WIZ : 賢さを生かして解決を目指す
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
グリモアによって送られた場所は慌ただしさに満ちていた。
住宅地という事もあり、一般人が近づかないようにするための呪術、魔術的な隠蔽や風聞の流布による隠蔽の為に職員がそこかしこに行きかっていた。
そして、当の家の周囲にも複数の職員が作業をしており、猟兵を認めると挨拶するほどの余裕は無いのか目礼だけで作業へと意識を集中させていった。
覚悟を決めて玄関を開ける……と思ったが、その前にその家の外観に目が行ってしまった。
組織によって一般人には目が向かない様に、意識されないような何らかな細工は施されているのだろうが、全ての窓に外から鉄格子が後付けされているのはどうしようもなく異様さを感じさせた。
視線を正面に戻し、意識を再度切り替え扉のノブへ手を伸ばす。
●
1章です。
まだUDCは見えませんが家の中はカオスです。
一部屋一部屋の広さは一般的な家庭の規格ですが、別の場所に続く扉や窓の向こうに既存の部屋が矢鱈滅多らに適当に接続されている為、空間の限度は不明です。
場所によっては天井や床にも扉や窓が付き続いている為に方向も容易く見失いかねません。なお重力の方向は床基準の様です。
やる事は精神やられた職員を見つける事です。
ティオレンシア・シーディア
…あー…
同情か憐憫か正義感か、ともかく拗らせた馬鹿がやらかした、と。そいつも何らかのUDCの影響下なのかもしれないけれど…そこは今考えても仕方ないかしらねぇ。
とりあえず、ミッドナイトレースに○騎乗して空中浮遊しながら進んでいきましょうか。扉を開けたら天井近くから真っ逆さまだの一歩踏み出したら|脳天砕き《ブレーンバスター》だのは御免だものねぇ。
あとは|ラド《探索》と|虚空蔵菩薩印《技芸向上》で探知能力を底上げして●要殺を起動、流紋のセンサー類も動員して探しましょ。
それと、どういう方向で精神やられてるかだけど…
躁状態なら|イサ《鎮静》、鬱状態なら|カノ《活力》あたりで緩和できないかしらねぇ?
「……あー」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)が経緯を聞いた時についつい口からそんな声が漏れてしまった。
原因を作った職員が何を思ってそうしたのかは想像に難くない。
同情か憐憫か正義感か、ともかく拗らせた馬鹿がやらかした…と、そんな事だろうとティオレンシアは思った。
それか、何かしらの理由があるのだとすれば、行方を眩ませた職員は何らかのUDCの影響下なのかもしれない。
(けれど…そこは今考えても仕方ないかしらねぇ)
今、居ない物を考えた所で仕方が無いし、優先するべきは目の前の事。
「さて、いきましょうか」
思考を切り替えティオレンシアはそう呟き玄関を開けた。
小さく鉄の擦れる音を鳴らしながら扉が開く。
明かりはついておらず暗い。
闇を透かして見えるのは、どこにでもある様な当たり前の玄関だった。
並んだ靴、下駄箱、それぞれの部屋に続く扉、二階へ続く階段。
ただ、それらに積もった埃と、突入した職員の物であろう廊下に付けられた靴跡が当たり前の日常の風景ではない事を示していた。
たしか、扉を開けたら天井近くから真っ逆さまだの、一歩踏み出したら|脳天砕き《ブレーンバスター》だなんて可能性があるんだったのよねぇ」
そんな事は御免ねぇ…なんて心の中で思いながらティオレンシアは浮遊するバイク、ミッドナイトレースを玄関の中へと引きいれる。
これに乗ってしがみ付いていれば少なくとも落ちる事は無いだろう。
少々手狭であったり、重力方向の変化でのバランスを保つなどはその時々、きっとすぐに慣れる。
「あとは…」
両の手を合わせながら指を曲げ、形を作りながら目を閉じ、己の目を内へ向ける。
虚空蔵菩薩印を形作り、知恵を授かる。
「んー、あと色々動員しときましょ」
手指で空中にRADを描きながら。片手でゴーグル状の装置を頭に取り付け、そのディスプレイを目元まで下げる。
「流紋も万全。用心するに越したことはないものねぇ」
装置の側面を指で小さく叩くと準備を終えたのか、ゆっくりと進みだした。
突入した職員の足跡は階段へ続いている。
少し狭く思いながらも階段に沿うように進ませ、踊り場にまで到着しその先を見上げた。
「あらぁ…」
その先に、一階が続いていた。
正確に言うならば、階段が捩れる様に壁から天井に続き、その先に上下逆さの一階が存在していた。
一階と二階の境界を境に歪んでいるのだろうか。
まぁ、捩れているだけなら、ただ感覚的に違和感を覚えるだけで落ちる事も無いのだから困る事も無い。
が、足跡が散っていた。荒れていたり、途切れていたり。
なにがあったかは分からないが、構わずバイクを進ませ逆さの一階へと進み、足跡の内の一つが続く扉を開ける。
埃の積もったリビング。足跡はその部屋を調べたような動きも無く別の扉へと続いている。
バイクを進ませ、ノブを回し扉をあけ放つ。
続いていたはずの足跡が部屋に入った一歩だけを残して途切れていた。
「……」
ティオレンシアは視線を横にずらし壁を見る。
その次に、上へと向ける。
視線を向けた少し先に、大きく擦れて埃が拭われた痕跡があった。
「攫われたとかじゃなく、そういうことねぇ」
天井…もとい上下逆の床に積もった埃に残された痕跡を、流紋が人が勢いよく転がった痕跡だと示していた。
この先は重力が上下逆になる。そしてここに入った職員はそれによって受け身は取ったものの上に落ちたのだろう。
流紋の検知からして、それでもすぐに立ち上がり動いているのだから中々に動き慣れてはいるのだろう。
ティオレンシアはそのまま重力方向に気を付けながら足跡を追っていく。
部屋を幾つか抜け、扉を潜っていく。
何となく、職員が逃げていると言うのは分かる。流紋もそう判断している。
なのだが、争ったり反撃したような跡も無く、追跡者の足跡などの痕跡も無い。
浮いているのだろうか?
そんな事を思索しながら開けた幾つ目かの扉、その先に人が転がっていた。
全身を装備で固めた人物が、ソファにぶつかったのかそれらを蹴散らしたように乱れさせた中に俯せに倒れていた。
ピクリとも動かない…が、意識がある事は分かる。
時計すら電池が切れた音が希薄な空間に、ぶつぶつと、ずるずると、ざらざらと、途切れのない微かな声が職員の口から漏れ聞こえていた。
「ふぅん」
ティオレンシアが軽く視線を振るが、流紋は特に異常を検知する事は無い。
なので、職員の傍まで近づき引き起こした。
その最中、流紋が負傷を検知した。
職員の身体、装備の都合見た目では分かりにくいが、その指の数本がグネグネに折れていると診断された。
「|くねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくね《くねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくね》」
そうぼそぼそと呟き続ける職員に、バイクの後ろに乗せるついでに鎮静のルーンを掛けて応急処置とする。
「さて、と」
行きはよいよい帰りはこわい。
帰路の始まりだ。
大成功
🔵🔵🔵
黒江・式子
(諸々のシワ寄せが高確率で自分の部署にも来る)
……吐きそうです(胃痛)
大きな大きな溜息と共に、足元の影を爪先でトントン
UC発動
足元から這い延びる影の茨が、壁も床も天井も関係なく拡がっていきます
途中途中で適当な物陰を経由できればかなり長く延ばせますので、私自身は玄関口で待機します
そもそもの御両親の変死の原因ですとか、隔離措置が成立していた間の状況、やらかしてくれた職員と持ち出されたオブジェクトの詳細等々、その辺りの情報の引き継ぎをさせてほしい所ですね
手近な職員さんにお話を伺いましょう
(何にせよ、少女と職員の捜索も|UDC組織《自分達》の仕事になる)
(もう一つ溜息をつく)
玄関の前、黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)の目はすでに死んでいた。
事件の原因が、顔や名前を知っているか知らないが同じ職員。
それで起こった事がよりによって重度案件の禁足地レベル。
さらにはUDCオブジェクトの持ち出し。
「――うぅ…」
胃がきりきりと痛くなってきた。
間違いなくシワ寄せが自分の部署にも来る。
オブジェクト管理の確認? 職員の思想チェック?
事件に関わったのなら報告書?
実地で安定しているかの確認もある?
どうであれ間違いなく書類は増える。
ついでに黒江はUDC職員と猟兵の二足の草鞋でもあるのだ。
通常の職員では危険な内部状況の調査とそれの纏めも黒江の仕事になるだろう。
(実地で活動して、事後処理して、帰ったら書類で忙殺?)
いったい寝られるのはいつになるだろうか。
ここに来る前にも書類に向き合っていたのだが…。
「――うぇ…」
……吐きそうです。
先を想像しただけで目の前が暗くなって、疲れが先取りで圧し掛かって来た様な気がした。ストレスが内臓に響く。
「あ、あの大丈夫ですか? 顔色が悪いですが、無理はなさらない方が…」
そばを通りかかった職員の一人が心配そうに声を掛けてきた。
「え、あぁ大丈夫です。大丈夫です」
黒江は少し驚きながら、とりあえず笑顔を作ってそう答えた。
(そんなに顔に出ていましたか…)
そんな事を思いながらのとりあえずの誤魔化しの笑顔であったが、実際はその笑顔を見た職員になおさら不安にさせる様な死んだ笑いだったのは黒江に知るよしも無かった。
「――……はぁぁーーー」
黒江は大きなため息を付くながら、足元の自分の影をとんとんと爪先で叩いた。
「さあ、仕事ですよ」
黒江の影がぞわりと波打つ。
そして、手を伸ばす様にゆっくりと影の茨が床を、壁を、天井を這い、玄関の隙間に潜り込み内部へと侵入した。
(影に任せてしまいましょう。決して…決して、後の事を思って動きたくなくなった訳じゃありません。ええ、本当です)
それに…。
振り返ると、先ほど声を掛けてきた職員がまだそこにおり、家の中に伸びた黒江の影を少しの憧れと畏敬の混じった視線ではえーと眺めていた。
「あの、すみません。確認したいことがあるのですけど…」
「え、あ、はい。なんでありましょう!」
聞いておく、と言うよりも把握しておきたい事がある。
あのグリモア猟兵は何と言うか、猟兵がするべき仕事以外は説明を省くきらいがある。
しかし黒江はUDC職員でもあるのだ。
「今回の事に関連してる情報が知りたいんです」
「関連してる情報…分かりました。少々お待ちください」
そう言うと、職員は小走りで一旦離れると、タブレットを持って戻ってきた。
「それでは、まずはどういった事を?」
「そうですね…。まずは異常の始まりとして、この家に住んでいた御夫婦が変死した…と言うその原因などは?」
「夫婦の変死についてですか…。まず、UDCが今回のケースについて初めて異常を認識したのは二年前になります。悲鳴を聞いたという近所の通報が警察に入り、その後の警察無線を傍受した結果、その内容からUDCが異常を認識する事になりました。
一般人への対応については省きまして…。死体の状況ですが、最終的な死因は窒息死ですが、それ自体が起こった要因は首を180度以上捩った事による物です。その他にも、多数の骨折、あらゆる関節の脱落による出血等があったと記録されています。そう言った負傷の原因ですが…手足も含め全身を勢いよく振り回した事によるものと推測されています」
ここまでは死因だ。とは言え、聞きはしたが死んだ原因については…。
「そうなってしまった原因は、発狂した事により……と言う他は無いようです。当時、職員が踏み込んだ時点で現場に異常は見られず、同様に現場に居た警察官等にも精神的な異常は見られず、どのような異常が発生し発狂に至ったのかは分かっていません」
「……」
黒江は顎に細い指を当てながら内容を反復する。
怪死としては無くはない。そして実質情報が無い事もよくある事。
「ただ、通報に至った理由が悲鳴という事からもわかる通り、夫婦のお嬢さんが第一発見者で異常現象とは別に精神に負担が掛かっていたそうです」
それは必要な情報であれど、あまり嬉しくはない情報だった。
何より次に聞きたいことに繋がる。
「なら、隔離措置が為されていた間はどのような状況だったんですか? その少女を含めて」
「そうですね。まず気になっていると思いますから前提として、お嬢さんの記憶は消去等操作が為されていません。初めは記憶処理を施す予定だったそうですが、知っての通り隔離措置となった為、その措置を確実とするために記憶処理を施さないと決まったようです。記憶処理をすれば理由もわからず、気付けば親もいない状況で家に監禁と言う状況に陥る為、逃走への関の前、黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)の目はすでに死んでいた。
事件の原因が、顔や名前を知っているか知らないが同じ職員。
それで起こった事がよりによって重度案件の禁足地レベル。
さらにはUDCオブジェクトの持ち出し。
「――うぅ…」
胃がきりきりと痛くなってきた。
間違いなくシワ寄せが自分の部署にも来る。
オブジェクト管理の確認? 職員の思想チェック?
事件に関わったのなら報告書?
実地で安定しているかの確認もある?
どうであれ間違いなく書類は増える。
ついでに黒江はUDC職員と猟兵の二足の草鞋でもあるのだ。
通常の職員では危険な内部状況の調査とそれの纏めも黒江の仕事になるだろう。
(実地で活動して、事後処理して、帰ったら書類で忙殺?)
いったい寝られるのはいつになるだろうか。
ここに来る前にも書類に向き合っていたのだが…。
「――うぇ…」
……吐きそうです。
先を想像しただけで目の前が暗くなって、疲れが先取りで圧し掛かって来た様な気がした。ストレスが内臓に響く。
「あ、あの大丈夫ですか? 顔色が悪いですが、無理はなさらない方が…」
そばを通りかかった職員の一人が心配そうに声を掛けてきた。
「え、あぁ大丈夫です。大丈夫です」
黒江は少し驚きながら、とりあえず笑顔を作ってそう答えた。
(そんなに顔に出ていましたか…)
そんな事を思いながらのとりあえずの誤魔化しの笑顔であったが、実際はその笑顔を見た職員になおさら不安にさせる様な死んだ笑いだったのは黒江に知るよしも無かった。
「――……はぁぁーーー」
黒江は大きなため息を付くながら、足元の自分の影をとんとんと爪先で叩いた。
「さあ、仕事ですよ」
黒江の影がぞわりと波打つ。
そして、手を伸ばす様にゆっくりと影の茨が床を、壁を、天井を這い、玄関の隙間に潜り込み内部へと侵入した。
(影に任せてしまいましょう。決して…決して、後の事を思って動きたくなくなった訳じゃありません。ええ、本当です)
それに…。
振り返ると、先ほど声を掛けてきた職員がまだそこにおり、家の中に伸びた黒江の影を少しの憧れと畏敬の混じった視線ではえーと眺めていた。
「あの、すみません。確認したいことがあるのですけど…」
「え、あ、はい。なんでありましょう!」
聞いておく、と言うよりも把握しておきたい事がある。
あのグリモア猟兵は何と言うか、猟兵がするべき仕事以外は説明を省くきらいがある。
しかし黒江はUDC職員でもあるのだ。
「今回の事に関連してる情報が知りたいんです」
「関連してる情報…分かりました。少々お待ちください」
そう言うと、職員は小走りで一旦離れると、タブレットを持って戻ってきた。
「それでは、まずはどういった事を?」
「そうですね…。まずは異常の始まりとして、この家に住んでいた御夫婦が変死した…と言うその原因などは?」
「夫婦の変死についてですか…。まず、UDCが今回のケースについて初めて異常を認識したのは二年前になります。悲鳴を聞いたという近所の通報が警察に入り、その後の警察無線を傍受した結果、その内容からUDCが異常を認識する事になりました。
一般人への対応については省きまして…。死体の状況ですが、最終的な死因は窒息死ですが、それ自体が起こった要因は首を180度以上捩った事による物です。その他にも、多数の骨折、あらゆる関節の脱落による出血等があったと記録されています。そう言った負傷の原因ですが…手足も含め全身を勢いよく振り回した事によるものと推測されています」
ここまでは死因だ。とは言え、聞きはしたが死んだ原因については…。
「そうなってしまった原因は、発狂した事により……と言う他は無いようです。当時、職員が踏み込んだ時点で現場に異常は見られず、同様に現場に居た警察官等にも精神的な異常は見られず、どのような異常が発生し発狂に至ったのかは分かっていません」
「……」
黒江は顎に細い指を当てながら内容を反復する。
怪死としては無くはない。そして実質情報が無い事もよくある事。
「ただ、通報に至った理由が悲鳴という事からもわかる通り、夫婦のお嬢さんが第一発見者で異常現象とは別に精神に負担が掛かっていたそうです」
それは必要な情報であれど、あまり嬉しくはない情報だった。
何より次に聞きたいことに繋がる。
「なら、隔離措置が為されていた間はどのような状況だったんですか? その少女を含めて」
「そうですね。まず気になっていると思いますから前提として、お嬢さんの記憶は消去等操作が為されていません。初めは記憶処理を施す予定だったそうですが、知っての通り隔離措置となった為、その措置を確実とするために記憶処理を施さないと決まったようです。記憶処理をすれば理由もわからず、唐突に親も戻らない家に監禁と言う状況に陥る為、逃走への精神作用が強く働くと考えられました。で、あれば異常への認知、精神の摩耗を利用しそのまま隔離する事に決定したようです」
つまりは、両親が異常死した家に、死体を片付けられたとはいえそのまま詰め込まれていたという事だ。二年間も。
「一応、形代の類や縁切り等様々な方法を試したようですが効果は無かったようですね」
結果、実質見捨てた状況になった。
「それで、隔離措置中の状況ですが、お嬢さんが外へ向かわない限り異常は起きない為、きわめて一般的な家屋と同様の状況です。
外への移動、連れ出しを行おうとすれば…ここでは現実の乖離、現象としてはっきりしたものでは空間の歪曲や拡大とのことです」
それは絶賛直面中ですねー…と黒江は伸び続ける影の感覚を確かめながら小さく頷いた。伸びる影はどれ一つとして行き詰まる事なく伸びており、さらに言えばすでに10倍以上の枝分かれを繰り返しており留まる事を知らない。
「それじゃあ…、隔離されていた少女を連れ出した職員と、さらにその人が持ち出したオブジェクトの詳細なんかは情報出せますか?」
「あーー。はい、職員の名前は神来社・果希(からいと・はてき)。このケースとの関りは、初期からの関わった内の一人の様です。とは言え、主任クラスではなく一般職員レベルではあります。先程の説明の内にもありましたが、お嬢さんの状況を解決しようと様々な方法を提案した人物でもあります。そして、オブジェクトの方ですが、形状はランタンのような形。効果としては、自身の存在の不在化…とあります。所持者は常に存在がうすくなり、ランプの灯が付いている間は所有物も含め視認、接触、探知も出来なくなるそうです」
職員はやはり思うところは同じようで、どこかやるせないような気配を漂わせていた。
黒江としては、とにかく持ち出したオブジェクトも含めとにかく手間がかかるという事しかなかった。
「何にせよ、少女と職員の捜索もUDC組織の仕事になりますね」
そう呟き、また一つ溜息をつく。
…。
(あれ、もしかしてこの捜索も私やらないと駄目ですか? そうですねやるんですよね)
黒江は脳内スケジュールにタスクを詰め込み夢の世界に逃げたくなっていた。
「あ、突入した職員二名発見しました」
伸びた影の先に触れたそれに気付き報告すれば、職員は目を丸くして驚いていた。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
うっわぁ……
ものすっごく手ぇ出したかないんだけど。
そりゃ確かにアタシらもいつもはサポート受けてるけどさぁ、UDC組織の身内の恥を何とかしろってのはさぁ!
チクショウやれるだけやってやらぁ!
ひとまず突入したら、中の職員の精神活動をテレパスで探査してみるよ。
流石にそれだけで最短路を組めるなんて考えちゃいないよ、そのままリンクを繋いだまま適当な部屋へ移動する。
そうすりゃなんとなくの方角とかが変わったりで空間の繋がりなんかの『情報収集』をする助けにもなるだろ!
……リアルタイムで変化してるかもしれない?言うなー!
テレパスの目的はも一つ。職員達を『鼓舞』して精神の疲弊を防ぐ為さ。
「うっわぁ……ものすっごく手ぇ出したかないんだけど」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は思わず思った事をそのまま口に出してしまった。
どう考えても内輪の話だ。とは言え、人災と考えるべきなのだろう。
グリモアからも求められていたのは猟兵としての責務のみであったのだから。
「UDC組織の身内の恥を何とかしろってのはさぁ! そりゃ確かにアタシらもいつもはサポート受けてるけどさぁ…」
それでも愚痴は出てしまうのだろう。
例えて言うのであれば、警察が盗みを働く、法の番人が法を犯す…そう言った事柄を見聞きした時の感覚と同じようなものだろう。
やるせない。何故。
しかし、どう言ったところで目の前で進行している事は彼らの許容限界を超えているのだ。
「チクショウやれるだけやってやらぁ!」
そう割り切って動くしかないのだ。
数宮は家の中へと突入した。
そして一先ずテレパスでの精神探知を行ってみた。
相手に意識かそれに似たような物があれば、位置をある程度探る事の出来る便利な能力だ。
今回の場合であれば、対象が人なのだから言うべくも無し。
位置も把握する事も出来、グリモア猟兵も言っていたがその精神が大きく正常から乱れているという事も理解できた。
が、数宮は面倒に遭遇したかのようにその眉間に皴を寄せた。
「流石に…これだけで最短路を組めるなんて考えちゃいなかったけど」
位置を正確に掴めた。掴めたが…その場所が当たり前の場所にあり過ぎた。
方向と距離からして、当たり前の家の構造の、平常で普通の家の間取りで存在する部屋の位置に。
要は、掴んだ位置情報に一切の異常による距離や空間の歪みが見えないのだ。
これは間違いなくおかしい。
いや、現実として考えるのであれば正確なのだ。
しかしこの場所は、曰く構造の増殖と接続が発生している異空間なのだ。
正しい情報が返るという事が明らかな異常であるのだ。
「思った以上に面倒かもしれないねぇ」
苦笑いするほかない。
適当に移動し、テレパスの何となくの方向の変化から空間の繋がりやら正解の道を判断できるかもしれないと考えていたが、それが通用するのかが不安になってきたのだ。
最も最悪な想像は…
「……リアルタイムで変化してるかもしれない? 言うなー!」
数宮は思わず自分で言って自分で否定してしまった。
叫ばなければやっていられないのだ。その場合の対処は死ぬほど面倒なのだ。
とは言え、当たって砕けろだ。もう突っ込むしかない。
・
・・
・・・
「大丈夫ー。あー、ダメそうだねぇ。膝突き合わせてじっくりやれば落ち着かせられるけど、今やる事じゃないだろうし…」
数宮は、部屋の隅で丸まるようにして倒れていた職員を見つけていた。
テレパスは部屋を移動する度に、距離が近づいたか遠のいたかだけは正確に機能していた為、幾つかの部屋を、時に進む先を別の部屋に変更しながら探る様に進み職員に近づいて行き、そして見つけたのだ。
数宮は職員の頬を軽く叩き反応を確かめたが、意識はあるが正気は無かった。
今のところ意思の疎通もへったくれもなさそうだ。
とは言え、暴れる事も無さそうである。
「さってと、あとはこれを連れ帰るんだけど…」
数宮は来た方向を振り返る。
そう、この仕事は簡単なお使いではないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『『都市伝説』くねくね』
|
POW : アナタも「くねくね」
【自分を視界に捉え、疑問】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【クネクネした物体】から、高命中力の【相手の身体に侵入して、発芽する自分の種】を飛ばす。
SPD : ワタシも「くねくね」
【自分と同じユーベルコードを使用する分身体】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : キミも「くねくね」
【自分の身体をクネクネさせる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【目標に、その眼前に自身をワープさせて触手】で攻撃する。
イラスト:天之十市
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
かたり、と音がした。
かさり、と音がした。
まるで周囲で一斉に虫が目覚めでもしたように、細やかな、けれど確かな存在感を頭に満たす音が部屋を圧迫するほどに這い出してきた。
隙間から、影から、一斉に細く白い枝のような、指の様な物が伸びる。
それを目にしただけで、頭の内側を羽毛で撫でられるような感覚に襲われた。
気味が悪いが些細な感覚だ。
とは言え、それも今だけだ。その感覚は次第に根を張る様に脳の奥まで伸びていくだろう。
何より、それはあくまで視認しているだけで生じる副次的な物でしかない。
それらは獲物を積極的に捕えようともするし、より強く狂気に捕えようともする。
身をねじらせ、身をよじらせ、ゆらゆらと、くねくねと揺れ続ける。
既に向こうの壁も見えない程に溢れ、逃げ場も隠れ場も一瞬にして消えた。
UDC職員が狂気に抵抗できるとは言え、ある程度でしかない。
帰らなければいけない。
●
撤退戦です。
どうにかして切り開いていきましょう。
グリモア猟兵の依頼としては、ある程度数を減らしてほしいとはありますが可能な限りでしかありません。
叢雲・凪
(アドリブ・連携 歓迎)
『イヤッー!!!』
盛大なカラテシャウトと共にドアを蹴り飛ばし眼前のくねくね1体に強襲!(属性攻撃+ダッシュ+忍び足+目立たない)
軽やかにコマめいた高速回転着地をすると同時にアイサツ
『ドーモ ジンライ… フォックスです』(礼儀作法+威圧+覇気を用いたアイサツ 仮面の眼部が激しく赤熱放電。
アイサツをしつつもくねくねに対しては呪詛耐性・狂気耐性を用いて奥ゆかしさを保つ。
『見過ごせなかった。勝手ながら助太刀させてもらおう』
腕組みしつつ仮面の奥でニヤリ。その間も手近なくねくねに対して決断的カラテ(ダッシュ+リミッター解除+属性攻撃)で攻撃。
オブジェクトを持ちだした職員が少女を連れ出した気持ちは分からなくもない…。同情か 同調か… もはや知る術はない。 ならば今はただ…
カラテあるのみ!!
『魑魅魍魎… 有象無象か… ならば!!』
UC:迅雷を発動。足止めできれば十分だ。超高速でくねくね群を攻撃。
救助対象と他の猟兵の活路を開くのに徹しよう。
黒江・式子
ティオレンシア・シーディア (f04145)さん、数宮・多喜 (f03004)さんを援護します
胃薬服用して仕事再開
影の茨を、床に相当する面にだけ残してUC発動
職員の体に茨を巻きつけて影法師を形作ります
人型になった茨の中に取り込まれたような状態ですね
そのまま影を辿り戻ってきてください
途中の敵は他の影法師達で影を絡め取って足止めを
他の猟兵さんが見つけた職員も私が護送しましょう
私は戦闘面では大して役に立てません
この程度では組織の信頼回復に足りないでしょうが、せめて皆さんのサポートをさせて頂きます
……念の為、種とか枝とか厄介な物を植えられてないか、職員さん達の体に茨を這わせて確認しておきましょう
数宮・多喜
【連携前提】
【アドリブ改変大歓迎】
まずは駆け落ち二人の捜索方針をUDC組織に提案だ、「突然人が現れた」噂を辿ってみとくれ。
抗体・キャリアー・本体……どれにしても碌な目が見えねぇかんな!?
こっちの打開は……警戒の為にテレパスは切らさない、職員の避難誘導には必要だろうからね……って退避を手助けしてくれてる?
ありがてぇ、だったらアタシは怪物どもの数をできる限り減らして脱出する!
全滅までは望まないさ、『マヒ攻撃』を織り交ぜた『電撃』の『衝撃波』を周囲にまき散らし『範囲攻撃』で押していくよ。
そうして動きを鈍らせながら退路を開き、周囲の静電を高めていく。
これなら【超感覚領域】の展開も間に合うだろうさ。
ティオレンシア・シーディア
【連携前提】
う、っわ…
うざったいのもそうだけど、コレ突破して職員サン連れ出すとなるとちょぉっとしんどい…?
――渡りに船とはまさにこのことねぇ。共闘要請、ありがたくお受けするわぁ。
…ってことで、職員サンのカバーリングはお任せして。連中蹴散らしながら帰りましょうか。
引き続きミッドナイトレースに○騎乗して|結界《エオロー》で○オーラ防御を展開、●虐殺・滅尽と黙殺・砲列を同時起動。疑問考察善後策諸々全部意図的に後回しにしてとにかく火力バラ撒きつつ出口まで突っ走るわよぉ。
ここまでのルートは記録済みだし、黒江サンの誘導もある。操縦はマルガリータに任せてあたしは連中ブッ散らすのに集中しましょ。
「UDCが活性化しました」
家の中へ伸ばした影の感覚に、黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)が声を発した。
影から伝わる気配。
(気持ち悪い…)
蠢き、蠢き、蠢き、蠢き、蠢く。
一瞬たりとも、一片たりとも停滞が無く、犇めき絡まり変わり続ける。
その実感を希釈した気配だけの感覚が、そう言った存在に耐性があるはずの黒江にすら怖気を走らせた。
ここからが正念場。
黒江は胃薬を口に入れると水なしで飲み込む。
そして、ついさっき頭の中で繋がった声を頼りに影を……。
動かした視界の端に、白色が見えた。
飛ぶ白紙、焼かれた白骨、死人の指先。
湧き上がる不吉な感覚に頬を汗が伝った。
白い腕が、玄関の隙間から一斉に ぞろりと 腕を 伸ばす。
湧き上がる危機感に叫んだ。何よりも、背後に居る職員が危険だ。
「UDCの漏出を確認っ!」
「イィィィィィイヤァァァアアアァアアッッッ!!!」
|猿叫《カラテシャウト》と、扉が本来開かない内側に蹴り開けられた轟音でその叫びは上書きされ掻き消えてしまった。
「………え?」
黒江も、そして周囲に居た職員も呆気にとられ動きを止める視線の先で、壊れた扉がゆっくりと反動で閉まった。
「……」
起きた事態が理解できぬまま、隙間から伸びていた白い腕は引っ込んでいた。
●
「ドーモ ジンライ… フォックスです」
叢雲・凪(|断罪の黒き雷《ジンライ・フォックス》・f27072)は決断的空中蹴撃の勢いのまま突入し、空中を高速回転、そして静かに着地すると同時に両手を合わせアイサツを終えていた。
仮面の左眼部が赤光に放電し、怪しく輝く。
しかし、相手は挨拶を返さない。この存在に奥ゆかしさは皆無!
蹴り開けられた扉に巻き込まれ飛ばされたクネクネは、構わずに一斉にその腕を目の前の獲物に伸ばす。
「見過ごせなかった。勝手ながら助太刀させてもらう」
ジンライ・フォックスは退くない。退く場所など無いのだ。
故に踏み込む。一歩踏み込み、手指を揃えそれを刀とし…一閃。
自身と相手の境界の様に振るった一文字の一閃は、真っ直ぐにその線上にあった白い腕を断ち割った。
そして、僅か刹那の間をおいて雷音と共に黒雷が奔り、その周囲の白い腕を焼き飛ばした。
(オブジェクトを持ちだした職員が少女を連れ出した気持ちは分からなくもない…。同情か、同調か…。もはや知る術はない。ならば今はただ…)
ジンライ・フォックスはヒーローだ。
ただ、救おうとしたというその行動のみを抜き出せば、理解できないと言う訳ではない。
けれどそれにどんな理由があるのか、どんな感情があったのか…それは分からない。
ジンライ・フォックスは人の心がわかる様なエスパーではないのだ。
出来るのはそう、ただ…
「カラテあるのみ!!」
目の前の災厄を断じる。
それがある限り、救われた側の救われたと言う事の価値が下がる。
足で地面をしっかりと掴む。
そして、そしてその体重と力を指先に集中させ、跳ぶ。
「魑魅魍魎、有象無象…ならば!!」
一瞬で玄関内を黒雷の拳撃が占領した。
ジンライ・フォックス。
その名にも有されるUC『迅雷』。
その姿は迅雷の如き高速機動でもって多重に分身し、その制圧は連なる数部屋にまで及んでいた。
仮面の下、ジンライ・フォックスは笑う。
これが退避してくる猟兵達の活路となる。
●
「えっと……大丈夫そう、ですか」
黒江は少し首を傾げる様にしながらも、UDCが外へ漏れ出てくる気配が無くなった事を認めると、意識を切り替え、やろうとしていた事を再開した。
「こちらUDCエージェント兼猟兵、黒江式子です。要救助者の護送、援護します」
頭の中に繋がった感覚、それは他の猟兵の能力であるテレパス。
それに意識を向け言葉を作った。
●
「ありがてぇ、だったらアタシは怪物どもの数をできる限り減らして脱出する!」
テレパス能力の当人、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は頭に届いた声と、進んできた道から伸びてくる影の茨を目にするとそう喜色を浮かべた。
こう言うのはなんではあるが、テレパスで繋がっておらずそれが味方の物と知らなければ、その影の茨も異常の内の一つと思ったかもしれない。
(あー…)
………鎧の様な目的なのだろうが、正気を失っている職員の身体に巻き付き覆っていく光景はやはりどう見ても異常の内の一種だ。
知らなければ職員抱えて逃げてた。
「ま、状況の打開って部分には安心感が出たね。なら、押していくよ」
数宮の両の手の間にサイキックエナジーの電光が光り、それを引き千切る様に解き放てば一気に周囲へと電撃の衝撃波が撒き散らされた。
本来の威力としては敵の動きを鈍らせる程度の物であるが、近くに居たクネクネはそれだけで焦げ、姿を崩し消滅していった。
しかし、数の脅威だ。
衝撃波は最前列のみが壁となりその後ろには通らず、その数も消滅した数の数十倍を優に超える。
「全滅までは望まないさ…」
白い腕は次々に壁の様に距離を縮めて来るが、数宮は構わず衝撃波を放ち続ける。
手を止めるという選択肢が無いと言うのもあるが、その時間稼ぎが必要なのだ。
「アタシに目を向けたのがアンタの運の尽きさ!」
瞬間、周囲を瞬くような断続する光が覆いつくし、そして途切れない。
「は、思った以上に目に悪いねっ」
光の性質は、数宮が先程から使っていたサイキックエナジーの電光と変わらない。
ただ、それが部屋のあらゆる場所から同時に発生し、連続している。
その絡繰りは、数宮のUC『超感覚領域』。
それは相手の敵意をキーにして死角から電撃が撃つと言う物。
クネクネに明確な敵意があるかは定かではないが、本能的、衝動的、生理的であれ襲ってくる意志があるのならあるのだろう。電撃もそれを証明している。
ともあれ、見えているクネクネは全て向かってきており、そして数が数であり巻き添えも多く取りこぼしは無いだろう。
「とは言え、援護があったのはホント助かったねぇ」
迎撃は完璧ではあるが、しかし実質雷雨の中に居る様な状況になってしまった。
そして、気を抜いていいと言う訳でもない。
時々、クネクネが瞬きの間に距離を詰め電撃に貫かれている。
迎撃と、『種』の植え付けが同時に起こる可能性もあった。
「慎重に帰ろうか…」
数宮は瞬く電光の点滅に目を細めながら、影の茨の導を戻っていく。
●
「う、っわ…。うざったいのもそうだけど、コレ突破して職員サン連れ出すとなるとちょぉっとしんどい…?」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は思わずと言ったように、うんざりとした調子でそう口にした。
相手の加害が物理的な攻撃よりも、精神的な影響が主と言うのが面倒だ。
救助している職員も一応…意識がある状態であるのもそれに拍車をかける。
(気絶させちゃった方が楽かしらぁ………あらぁ?)
頭の中に声が届いた。
数宮のテレパスで中継された黒江の援護の申し出であった。
便利な能力もある…と心の端で思いながら、
「――渡りに船とはまさにこのことねぇ。共闘要請、ありがたくお受けするわぁ」
そう答えた。
これで職員の事を気にする事なく突破に集中できる。
「…って、ことで連中蹴散らしながら帰りましょうか」
ティオレンシアはミッドナイトレースに搭乗すると、エオローの結界を展開する。
「それじゃ……疑問考察善後策全部諸々後回しにしてとにかく出口まで突っ走るわよぉ」
魔術文字が周囲に一斉に展開すると、連続し圧する雨の様な魔術弾幕が一斉に放たれた。
虐殺・滅尽と黙殺・砲列の同時併用による連打。
伸ばされるクネクネの白い腕と体、そして種子が次々と撃ち抜かれ削れ消えていく。
「操縦はお願いねぇマルガリータ」
完全に操縦はAIに任せる。出口までのルートは完全に記録済みであり、何よりいつの間にか影の茨によりルートが出来上がっていた。
丁寧な事に重力方面…床面を選んで展開されている。
「ブッ散らしやすいわね」
加速の勢いを感じると共に、弾雨の勢いも加速した。
●
「他のところの影法師は大丈夫そうですね」
影法師…救助者を影で覆った物は上手くいっている。
現状、物理的精神的両面において被害は影の中に入り込んでいない。
「とは言え、この程度では組織の信頼回復に足りないでしょうが、せめて皆さんのサポートをしませんとね」
黒江は他の猟兵の場所の影法師は、その猟兵自身に戦闘能力がある為、自走能力を付け邪魔にならないようにしたが、自分が担当するものは単純な繭状にした。
と言うのも、影法師自体に殲滅力が無いためだ。
ただ影法師が動くのに任せれば、影の茨で対処したとしても対処しきれずすぐにクネクネに纏わりつかれ移動する事すら困難になるだろう。
故に、最短最速を選んだ。
ミスすれば同様にクネクネに捕まり動けなくなる。が、結果は同じなら挑戦あるのみだ。
黒江は救助者を発見し、影の茨でミイラの様に巻くと同時に一気に引き戻す。
多少荒く引いてぶつけたとしても衝撃は茨に吸収されるため大丈夫…だとする。
クネクネが伸ばす腕を茨で遮り、絡め取り、道を開け全力で出口へ滑走させる。
「…っ」
それでもその茨を潜り抜け取りつかれるが、対処している暇は無い。
それを剥がそうとすれば妨害の手が減る。
一匹二匹であれば影の力任せに引いてしまえばいい。
そして、玄関まであと二部屋程に辿り着いた時、黒い雷光が纏わりついていたクネクネを引き裂き、消し飛ばした。
「職員を救助、三名! 対応班お願いします!」
黒江は玄関から三つの繭を背後へ勢いのまま引き出し声を放てば、白衣を着た職員が駆け寄り運んでいく。
そして、その後すぐに数宮とティオレンシアと共に二名の救助者が脱出してきた。
一応、黒江がクネクネの種が埋め込まれていないか影の茨で確認した後に職員へ受け渡す。
最後に内部で大きな雷音を響かせた後、一瞬でジンライ・フォックスが玄関前に出現した。
これで救助活動は終わり、職員が急ぎ玄関を封鎖し始めた。
猟兵が少し離れ、家へと視線を向ければ…窓に白い影が映り、ゆっくりと引いて行くように消えていった。
これで、ここも今後は禁足地の一つとして管理される。
「ああそうだ。駆け落ち二人の捜索方針の提案だけれど、『突然人が現れた』噂を辿ってみたらどうだい? まぁ、抗体・キャリアー・本体……そんなだったら碌な目が見えねぇかんな⁉」
そう、正念場は終わった。
けれど、まだグリモア猟兵からのお願い事は残っているのだ。
記憶消去しても精神半壊状態の職員をどうかするも他のなんにしても、猟兵が動こうと思う事はあるのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『猫カフェで猫をかわいがろう!』
|
POW : 猫を撫でて可愛がります
SPD : 猫と道具で遊んで可愛がります
WIZ : 猫におやつを与えて可愛がります
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
さぁエピローグ、もしくは事後処理だろうか。
とりあえず半廃人まで持ち直した職員達のメンタルケアだが…それは別に猟兵がする必要はないんじゃないかなどと言われそうだが業務内なのだ。
で、その為に用意された場所が……猫カフェだなどうみても。
closedの看板が掛けられ、外から内が覗けないようになっていたが中には明かりがついており、猫がそこかしこに自由にしていた。
恐らくは、UDC組織が運営している場所なのだろう。
仕事後の一息に、呆けている職員に猫を積みながら軽い食事をするのも悪くないだろう。
なんだかんだ救助したのもエージェントなのだ。猫を積んでおけば治るさ。
何か他にしたいことがあっても、職員達が止める事も無いだろう。
●
第三章。
猫を積み積みしたりする章。
適当に職員を猫で囲んでミステリーサークルしましょう。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
参ったねぇ……
『情報収集』してもらうにもメンタルケアが最優先っぽいね?
なら仕方ねぇ、『コミュ力』で盛り立てながらこの場を利用させてもらうほかないよな。
ほーら猫ちゃんだ、カワイイカワイイ。
アメショにシャムネコ、こっちは三毛猫……ん?オス?ヤベェなレアじゃん。
血統書がついてない雑種でも可愛い子はカワイイからねぇ、猫じゃらしを振ったりボールを転がしたりで遊ぶ猫たちを一緒に眺めようじゃないのさ。
ほら、どんどん尊みが上がってくるだろ?
それが元気の源さ、きっと。
みんなのメンタルが少しでもマシになったなら、おしごと再開と行こうじゃないか。
まずは捜索班の編成からかねぇ……?
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
はー…とりあえずは、一段落ねぇ。(猫じゃらしぺしぺし)
流石にあれだけうじゃうじゃいられるとちょぉっと精神的にしんどかったわねぇ…(猫を抱えてみょーんと伸ばす)
というかあたしお悩み相談レベルならまだしもカウンセリングとかは専門外なんだけど。(膝に乗っけてナデナデ)
…とりあえず、猫ちゃんたちまとわりつかせとけばいいかしらぁ?(にくきうふにふに)
(ほぼ脳死で猫を構っている)
実際問題、これからどうするにせよ範囲が広すぎて現状あたしはこれ以上手の出しようないのよねぇ。
ま、あたしが請けられるかは別として何かしらの進展があればまた何かしら依頼来るでしょ。
「はー…とりあえずは、一段落ねぇ」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は大きく肩を回し、息を付いた。
肩肘を張る必要のなくなったその目の前には…、平和なある意味の混沌が展開されていた。
なーなーにーにー鳴く猫がいる。静かに毛繕いする猫がいる。
人慣れしている者は呆けている職員の上に乗っていたり、そんな事を思っている間にティオレンシアの足を体で撫でる様に猫が歩いて行った。
「ほーら猫ちゃんだ、カワイイカワイイ」
そんな中で数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)が、手近な猫を両手で持ち上げては職員に積んで行っていた。
猫自体、嫌がる様なそぶりも無くされるがままに乗せられていた。
曰く、それでよくなるとの事だが本当だろうか。よく分からない。
「あたしお悩み相談レベルならまだしもカウンセリングとかは専門外だしねぇ」
セラピーとかそんなものも聞くし。
とりあえず、自分も乗せてみようとティオレンシアが近くに居た猫へ手を伸ばし、
「おぉ…伸びるわねぇ」
持ち上げれば胴がみょーんと伸びた。
思った以上に伸びた事に軽く驚きつつ、猫を職員に乗せるのではなくそのまま自分に膝に乗せ撫で始めた。
「にしても、参ったねぇ……。情報収集してもらうにもメンタルケアが最優先っぽいね?」
「実際問題、これからどうするにせよ範囲が広すぎて現状あたしはこれ以上手の出しようないのよねぇ」
数宮とティオレンシア、細かい事を言わずとも通じる話題。
現状行方の分からない二人の事。仕事外の話ではあるが、気にならないと言えば嘘になる。
とは言え、こちらを放置する訳にもいかず、職員の協力があった方が効率的とも考える。
数宮はアメショにシャムネコと感心しながら積みつつ、三毛猫がオスだった事に驚いたりしながら猫たちと遊び、職員の心の尊みを増幅させてメンタル改善を促していた。
「血統書がついてない雑種でも可愛い子はカワイイねぇ」
組織御用達…と言うか運営の猫喫茶なだけはあるのだろう。
これも常日頃から職員のメンタルケアに利用されているだけあり、世話も行き届いているのが毛並みでわかる。
(お偉いさんの趣味じゃないかねぇ…)
なんて、所々頭に過るのは気にしてはいけない。
…
「…とりあえず、猫ちゃんたちまとわりつかせとけばいいかしらぁ?」
そうティオレンシアは口にするものの、猫の肉球をふにふにと握る手が離せなかった。
これが猫の魔力…なんて頭で思ってみるが、軽い強がりなのは自分で分かっている為すぐに苦笑が漏れた。
(流石にあれだけうじゃうじゃいられると、ちょぉっと精神的にしんどかったわねぇ…)
ちょっと徹夜明け程度の気怠い疲れがあった。
UDC職員が聞けば遠い目をされそうだが、思考の回転が鈍っているのは確かなのだ。
と、唐突に猫が肩に飛びのり頬に額を擦りつけてくる。
(あらぁ…?)
一瞬驚いたが、その感触に微笑んでしまう。
もしかしたら喫茶猫と言う職業柄(?)疲れている気配などが分かるのかもしれない。
職員のケア同様、今は猟兵も癒されていい時間なのだ。
「まずは捜索班の編成からかねぇ……?」
「ま、あたし達が請けられるかは別として、何かしらの進展があればまた何かしら依頼来るでしょ。それか、すぐにでも解決しちゃう鼻の良い子がいるか、ね」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ウルル・マーナガルム
【追跡者】
(猫カフェで待ち合わせ)
キミがクロエさん?
ボクはウルル・マーナガルム
応援要請を聞いてきたよ
出来れば直ぐにでも出発したいけど……大丈夫?
そのオブジェクトを持ってったって事は、それ以外に追っ手を振り切る手段が無いんじゃないかな?
近くに居ても分からないってだけで、臭いとか指紋とか足跡とかの痕跡は残るでしょ?
時間が経てばお腹も空くし服も汚れる
逃避行が長引けば長引く程、そー言う寄り道をしてるハズ
そこに『突然人が現れた』噂を合わせれば追跡には十分
ホログラムで隠したワイヤーに引っかかると音が鳴る仕掛けみたいな、罠を張って追い込む事だってできるよ
誰かが匿ってるんでもなければ、だけど
黒江・式子
【追跡者】
(猫カフェで待ち合わせ)
……(無心で猫吸い)
……あ、はい、私です(姿勢を正すが毛まみれ)
大丈夫です、行きましょうか
(心中で血涙を流す)
(現在の調査状況を共有)
……さすがに|本職《プロ》ですね
外部協力者の有無……
それも今回の捜索でハッキリすれば良いのですが
私の聞き込みと合わせて、ウルルさんが移動パターンの予測を立てたら、それに合わせ先回りして複数の罠を張ってもらいます
罠の周辺には影の茨を這わせて自然に人払いを
オブジェクトの効果なら、影に引っかからず素通りする事でしょう
あとは罠が起動した瞬間に茨を立ち上らせ、罠ごと取り巻いて物理的に閉じ込める、と言う算段です
すぅぅぅぅうーーー――――――――…………はぁぁぁぁぁ~~~~~………。
猫カフェの一角でふかーくふかーく息を吸って、そして吐く呼吸音がした。
その発生源は人ではあるのだが、顔が見えない。
とは言え、別に顔が無い人間と言う訳ではない。
その人物がソファで仰向けになっており、その顔の上に橋を渡す様に猫が乗っかっていると言うだけだ。
ついでに他にも数匹体に乗っていたり、足元に寄り添っている。
比率で言えば三分の一埋もれといった所だろうか。
すぅぅぅぅぅうぅぅぅうーーーーー…はぁぁ~~~~~。
再び呼吸音が聞こえたが異様に長い…が、別に苦しいからと言う訳ではない。
だって自由な手はその間もお腹の上に乗っている猫の頭を撫でたり、顎を搔いたり、肉球を堪能したりしているのだから。
まぁ、何をしているのかと言えば俗に言う“猫吸い”と言う物だ。
きっとこの謎の人物は、よほどストレスで胃を痛めたのだろうなー。
と、そんな事をしていると元気な声が猫カフェに入ってきた。
「応援要請を聞いてきたよ! えーっと……」
やってきたその人物、ウルル・マーナガルム(死神の後継者ヴァルキュリア・f33219)は、猫カフェの中をきょろきょろと見渡し目当ての人物を探す。
しかし、ぱっと見渡しても目当ての人物が見つけられず、首を傾げながらカフェの中を少し歩いていると、猫で顔が隠れている謎の人物が目に入った。
すぅぅぅぅぅーーはああぁぁぁーーーー
(…この人は一体何をやってるんだろう)
真顔でそう思ったがとりあえず声をかける事にした。
「キミがクロエさん?」
多分。と頭の中で付けていると謎の人物は猫を撫でる手をぴたりと止め、顔に乗っている猫を半分どけると視線だけ出してウルルの存在を確認した。
謎の人物、もとい黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)の視線とウルルの視線が合う。
「……」
「……」
数秒の沈黙。そして、
「えっとキミがクロエさん? 出来れば直ぐにでも出発したいけど……大丈夫?」
そうウルルが聞くと、黒江は何事も無かったように体を起こし、そして立ち上がる。
「……あ、はい。私です。大丈夫です。行きましょうか」
猫の毛だらけであった。
それに平常心を装っているが、黒江の視線がウルルを見ようとしているが磁石の様に猫へ向いては戻されていた。
「大丈夫です」
そう言って黒江は率先して猫カフェから出るが、その心中は…
(。。。。。。。。。。。。。)
無言で血涙を流していた。さようなら貴重な心の癒し。
●
黒江はまず捜索対象で今現在分かっている事をウルルに共有した。
とは言え、共有すると言ってもその情報は少ない。
当たり前だが黒江自身調査する暇は無かったし、この地区のUDCの職員も現場班の多くが今回の事件に関わっていた為、そちらの調査は進んでいない。
あるのは黒江も職員から聞いた事前情報のみ。
けれど、少ない情報から偵察部隊に所属するウルルは考察を重ねる。
「持ち出したオブジェクトの性質からして、それ以外に追っ手を振り切る手段が無いんじゃないかな? その想定している追っ手が異常か職員か、そのどちらもだったのかは分からないけど。兎も角、本人に瞬間移動とか空を飛ぶとかそう言った特殊な能力は無いんじゃないかな」
UDC職員の身体能力に、事務員的な職員か現場職員で上下の振れ幅が大きそうではあるがそれでも出来る事は少ないだろう。なら、特殊な能力となるが…それを持っている人材は極めて稀なのだ。
だから、確率としては持ち出したオブジェクト頼りである可能性が高い。
「それから、オブジェクトの能力は少し曖昧だけれど、何か食べたり、踏んだり、触ったりした痕跡は残ると思うんだよね。あくまで受動的な影響を阻害するだけで、能動的な影響は付く…と思う。じゃないと扉開けられないし、梯子登れないからね」
けれど、とウルルは少し面倒そうな表情をしながら「オブジェクトの影響で痕跡が消さりたり、時間経たないと痕跡に気付けないとかそんな話は無いみたいだけれど、可能性としては気を付けといた方がいいかもね…」と付け加える。
ウルルはそれほど時間を掛ける気は無いが、掛かったとしてもUDC組織も動き出す為、時間の問題でもあるだろう。
ある可能性、
「誰かが匿ってるんでもなければ、だけど」
それを除けばの話ではあるが。
黒江は頷きながらそこまで聞き終えると、
「……さすがに|本職《プロ》ですね」
そう呟いた。
「外部協力者の有無……。それも今回の捜索でハッキリすれば良いのですが」
(居ない方が仕事減るので楽なのですが…)
表に出さないがそんな事を思ってしまう。
●
その人は言った。
これは大人の責任だから。
その人は言った。
これで誰も君に責任を見ない。
その人は笑った気がした。
これで君は閉じ込められる理由は無くなった。
…
夜が明け、日が昇っている。
黒江とウルルは事件の起きた家からさほど離れていない場所に立っていた。
もともと何かの事務所の様な物であったのか、看板の外された空き家の前はひっそりとそこにあった。
「えっと、ここ…でしょうか」
「……多分」
距離としては500mも離れていない。
そしてウルルが犬型の偵察機・ハティとその子機、黒江が影の茨を駆使したが得られた痕跡は非常に曖昧で数も少なかった。
発見できなかったとしても、無かったとしても、異様に少なかった。
その為、ここと判断したのも多分や恐らく…他と比較して確率が高いと言うそのくらいの物であった。
確証が持てない…が、多分ここそんな感覚がある。
二人は扉を開け、警戒しながらも中へと侵入する。
あの家と同じ埃を積もらせた光景。
けれど、えた感覚は別物だった。
あの家は、家具も何も生活をそのままに時を止めた怖さ。
この場所は、何もないただのどこにでもある廃墟だった。
視線を下ろせば埃の積もったそこに、二つの足跡があった。
それを追い、二人は一つの部屋に入った。
元は幾つか仕事机が置いてあっただろう広い部屋。
窓から日が射して舞う埃がよく見えた。
そこに居た。
けれど一人だけ。
一人の少女が壁際に座っていた。
傍らに火の灯っていないランプを置いて。
「職員は…」
「居ないみたい。それか見えないだけかな」
この場所を出た跡は無い。とは言え、とりあえず少女の保護とランプの回収を優先した。
ウルルが少女に声をかけ、黒江がランプを回収する。
「えっと、君が■■ちゃんだよね?」
声をかけ、手を伸ばし乗せた肩は思った以上に肉が薄く驚いた。
気づき上げた、日に当たらず肌の白い顔を確認し、本人だと分かった。
「こっちのランプも持ち去られたものですね」
とりあえず、持ち去られたものは全て戻ってきた…でいいのだろうか。
「君を連れ出した…………人が、どこに行ったか知らない?」
黒江が質問しようとして、その途中で名前が思い浮かばない事に言葉を詰めたが最後まで言い切る。
少女はどこかぼーっとした表情で、
「……ェ…。…ァ…。い、なく、なった?」
首を傾げながら、久しぶりに喋ったようにそう言った。
黒江がランプを再び確認するが、やはりそこには既に火は灯っていない。
周囲を改めて探るが何も出ない。
一人見つける事は出来なかったが、一人と一つは見つけることが出来た。
●
その人は言っていた。
子供の理屈でも構わない。
それで、そう言って誰かが救われる事を、救う事を否定されるのなら、
大人の理屈に、大人である価値がない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
叢雲・凪
POW
※ アドリブ・連携歓迎
※ 終始仮面無し 私服姿
「これが… 猫カフェ!!」
ヒーローズアースにもあったが、実際に入るのは初めてだ。
というのも オフの状態でも漏れ出すボクの『カラテオーラ』(覇気)に生命の危機を感じて小動物は逃げるか吠えるんだよなぁ…
「あ やっぱり このお店でも… ん?」
こんなオシャレなお店に不釣り合いなほどふてぶてしい猫が一匹…。おおよそ『可愛さ』とかけ離れた目つきの悪い不細工な顔にぽっちゃりとしたおデブな体形…。申し訳程度に猫アピールをしているのか【に”ゃ”あ”】とおっさんのようなダミ声で鳴いている。
「ボクが怖くないのかい?」
ジーっと見つめつつ抱き上げよう。
(か… かわいい!!) 中におっさんが入っているんじゃないかというノソノソした動きで されるがままの猫に感動…!
そんなかんな、シリアスな雰囲気は置いておいて日常…。
純粋に、連れてこられた猫カフェをキラキラした目で見渡す人物がいた。
「これが…猫カフェ!!」
叢雲・凪(|断罪の黒き雷《ジンライ・フォックス》・f27072)は戦っていた時とは違い私服であり、その素顔を晒して少女然とした笑顔が咲かせていた。
なお、その姿を見たUDC職員の頭の中で、叢雲・凪とジンライ・フォックスがすぐにイコールで繋がった物の数は半分を割り、そして理解した瞬間に驚愕と言う衝撃を受けなかった者は皆無であった。
そんな余談は置いておいて、叢雲・凪がこんなにも表情を表に出すのにも理由がある。
叢雲・凪が居た故郷はヒーローズアースであり、無論猫カフェの様な系統のお店はあった…あったが、入る機会が無かった。
興味が無かったわけではない。どちらかと言えば興味はあった。
窓から中を覗いてみた事もある。
けれど猫カフェ自体出会う機会が少なくもあり、叢雲・凪自身が自分の特性と言うか特徴の様な物を理解していた為足が進まなかったのだ。
叢雲・凪は平時であっても修練の賜物であるのか、|気迫や威圧感《カラテオーラ》が漏れ出してしまっており小動物は警戒するか怯えてしまうのだ。
間違いなく動物嫌われ体質どころのレベルじゃない。
そんな事もあって、言い訳の様な物付きで連れて来られるような機会が無ければ足を踏み入れる事も…なかったんじゃないかなぁ。
とはいえ、大まかな結果だけ言えば叢雲・凪の予想していた通りになった。
周囲から潮が引く様に猫が離れていった。そして距離をとった場所で観察する様に見つめてくる。
「あ、やっぱりこのお店でも……ん?」
仕方なしと隅の方にある椅子に座った時、肩を何かが背後からぽすりと…いや結構強めにパシリと叩いた。
振り向いたそこに、棚の物陰に隠れる様に一匹の猫がいた。
なんと言うかずっしりとした体形の、そしてふてぶてしさ溢れる顔をした猫。
面倒そうと言うか、なんだーおめーとでも言いたそうな半目と数秒目が合う。
「えっと、ボクが怖くないのかい?」
思わず聞いてしまった。伝わるはずもないのに。
けれど偶然かはたまた理解しているのか、猫は「に”ゃ”ぁ”」と可愛さや媚びなど微塵も無い鳴き声で答えた。
叢雲・凪はそっと手を伸ばしてみるが、猫は逃げる素振りを見せない。
そっと両手を潜らせ持ち上げて、膝に乗せる。
(か…、かわいい!!)
しなやかさや小動物感とは少々離れた猫ではあるが、叢雲・凪にはそんな事は無関係であった。
膝の上でノソノソと座り心地の良いように体勢を変える感触も、なんだかんだ手触りの良い毛並みも、素晴らしい経験なのだから。
叢雲・凪はそうして楽しい時間を過ごしたのであった。
大成功
🔵🔵🔵