【SecretTale】迫る悪意 Side:A
●手紙
記憶喪失となり保護されていた異世界の少女アルム・アルファード。
彼女はセクレト機関の休憩棟の一室に匿われていたのだが、1枚の手紙を残してその姿を消した。
手紙の内容は以下の通りとなる。
***
これを読んだ方へ
突然いなくなってしまい、本当に申し訳ありません。
ですが、私にはやらなければならないことがあります。
そのためにロルフさん、シェルムさんにお願いして外に出ます。
私がやらなければ、世界が滅ぶ。
誰かがそう言っていました。
だから、私はすぐにでもヴィル・アルミュールへ向かいます。
ジャックさん。
記憶のない私のことを気にかけてくれて、ありがとうございました。
私は自分のことを覚えてないので、お礼を言うしか出来ませんが……。
あなたの知っている「アルムさん」が戻ってくることを祈っていますね。
***
既にアルムは諜報部隊『オルドヌング』に所属する|調査人《エージェント》のロルフ・ディスプレシオとシェルム・シャッヘによって連れ出されている。
オルドヌングの管理を行っているヴォルフもこれには頭を抱えていたが、エルドレット曰く《|預言者《プロフェータ》》で見えていたそうなので想定内ではあった。
「マリアちゃんが今連絡取った。彼女がやりたいこと……それを探らせようじゃないか」
「でも、流石にあの2人だけだと何かあったときの対処が出来ねぇだろ」
「そこはまあ、他のメンバーをこっそりと配備させる。あの都市は学業には秀でているが、戦闘能力が無いからな」
「……わかった、そう通告しておくよ」
ヴォルフはオルドヌングに所属するメンバー――エーミールは現在体調不良で休暇となっているため、彼以外のメンバーに対しヴィル・アルミュールへ向かいように指示。
ロルフとシェルムから見えない範囲でアルムの護衛と調査を行うことになった。
●『やらなければならないこと』
「部外者なのはわかっている。でも、俺も参加させて欲しいんだ」
「……予想はしてましたけどねぇ……」
そんな中、ジャックは手紙を片手に燦斗に頭を下げていた。
自分の従姉妹、そして婚約者でもあるアルムを放ってはおけないからと、自ら調査隊に志願している。
幼い頃から彼女を想い、見守り続けてきた彼はどうしても自分も探したいと。
またジャックは『アルムがやるべきことがある』というのが引っかかっているそうだ。
彼女の生い立ちから生き様を知っている彼にとっては、この点がどうしても気になってしまうと。
「アイツは確かに色々と裏事情があるけどよ。……でも、やっぱり、俺に何も言わなかったのが変だと思って」
「ふーむ。しかし貴方だけでは……」
ジャックだけでもヴィル・アルミュールへ向かわせても良いそうだが、ある1つの問題のせいでジャック1人を行かせるわけにはいかなくなっていた。
それはジャック・アルファードがベルトア・ウル・アビスリンクそっくりである、という点。
セクレト機関の内部でも実際にジャックをベルトアと勘違いした者がいたため、ベルトアの故郷であるヴィル・アルミュールに向かえば大混乱間違いなしだろう。
「なので、猟兵の皆さんと共に行動してくださいね? あなた1人だと何が起こるかわかりませんから」
「ふむ……まあ、俺も知らないところに行くし、お前らと繋がりの強いヤツがいるなら助かる」
「では、猟兵の皆さんには私から…………」
私から話しましょう、と言おうとしたその時、燦斗の目の前に司令官システムからのメッセージウィンドウが現れる。
エルドレット直々に連絡が入ったようで、別の任務のために猟兵達を分けて欲しい、という話だそうだ。
「え、じゃあどうするんだよ」
「猟兵の皆さんに任務が2つ入ったからには仕方ありません。どちらかの応援に出向いてもらいましょう」
「ん、りょーかい。それじゃあ俺はこのまま向かうけど、いいよな?」
「はい。お気をつけて」
そう言って燦斗はジャックを見送り、すたすたと歩き出す。
……が、しばらくしてから彼はあることを思い出し、こう呟いた。
「いっけね。ヴィル・アルミュールって今通行許可証ないと入れないんだった」
――ということで。
猟兵達がいなければ、ジャックは絶対にヴィル・アルミュールに入ることが出来ないのだった。
御影イズミ
閲覧ありがとうございます、御影イズミです。
自作PBW「シークレット・テイル」のシナリオ、第七章。
今回は2作に分かれており、こちらは『アルムがやるべきことの調査』が主になります。
今回の注意点として、片方に参加するともう片方への参加は不可扱いとなります。
両シナリオでプレイングを送った場合、どちらかのみを採用とし片方は不採用と致しますのでご注意ください。
シークレットテイルHP:https://www.secret-tale.com/
場所は学業専門都市「ヴィル・アルミュール」。
一言で言えばビル群が立ち並ぶ都会です。
都市の上部は薄いガラスのような何かで覆われており、日中の眩しさを調節しています。
他にも様々な機能が働いていますが、それらはリプレイ中にて。
こちらのシナリオでの同行者は『ジャック・アルファード』。
彼はアルムを連れ戻すつもりはありません。
ただ、彼女の「やるべきこと」が気がかりでこの都市に行くことを決意しました。
彼にはまだ彼女の「やるべきこと」に見当がついていないため、まずはアルムを探し出すところから始まります。
皆様の素敵なプレイング、お待ち致しております。
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Mission-07
シナリオのクリア条件
アルムのやるべきことを探る。
ヴィル・アルミュール探索 フラグメント内容
POW:アルムを探し出し、彼女と行動を共にする
SPD:素早くアルムの行き先に目星をつけ、情報を探る
WIZ:オルドヌングのメンバーと共に行動する
******
「おいっ、入れねえってどういうことだよ!?」
ヴィル・アルミュールの門にて、ジャックが叫ぶ。
まさか、燦斗がうっかり忘れていたなんて誰が想像していただろう。
門番に食い止められてしまい足止めされるジャックがそこにいた。
通行許可証が必要な理由としては、昨今になって子供の行方不明事件が多くなっており、それを食い止めるためなのだそうだ。
セクレト機関への申し出は既に済んでいるため、こればかりは完全に燦斗のせいとしか言えない。
「あーーもーー! 早く来てくれよ、猟兵達ーーー!!」
******
「えーっと……」
キョロキョロと辺りを見渡すアルム。
ヴィル・アルミュールに来るのは初めてのはずだが、なんとなくの感覚で街の中を進んでいた。
その後ろをロルフ・ディスプレシオとシェルム・シャッヘの両名がゆっくりとついていく。
「アルムちゃん、どこ行きたいとかわかるん?」
「は、はい。ただ感覚的にぼんやりしてて、なんとも言えなくて……」
「そうかぁ。ほな、俺とシェルムはキミについてくだけやから、なんかあったら呼んで」
「はーい」
ロルフに促され、そのまま歩いていくアルム。
しかしヴィル・アルミュールのレストランエリアにたどり着くと、彼女の足がピタリと止まる。
「ん? どしたん、アルム」
アルムの足が止まったことに気づいたシェルムがひょっこりと彼女の顔を覗き込む。
彼女の視線はあちらこちらの店に向けられ、お腹は盛大な音を鳴らしていた。
「お腹が空きました……!!」
「あー……そういや俺らなんも食ってへんもんね」
「ほな一旦飯にしよか。ここの飯代ぐらいは貯金あるしな」
そう言って、彼女達は一旦食事タイムへと入る。
『やるべきこと』。その情報をまだ、見つけることがないままに。
秋月・那原
【なおはる】
【SPD】
少年(尚人)、ジャックと合流
あんな置き手紙の後だとジャックはアルムと顔合わせ難いだろうからこっそり尾行することを提案
ジャックに変装道具のマスクと鼻メガネを手渡し、俺はトレンチコートとつば広帽子を目深にかぶって牛乳とアンパンを片手に持つ
今の俺達ただのアルムの変態ストーカーだな~
まあアルムに見つかっても気まずいのはジャック独りだけなんで。ジャックがんばれ~
……実際ベルトアそっくりなんだから混乱を避けるためにも変装は必須だしな……
俺の勘だがクラーケンは陽動
敵の本命はアルムのような気がする
《情報収集》《追跡》《偵察》の技能でアルムの安全を第一に
つーか何やる気なんだ、アルムは?
日野・尚人
【なおはる】
都市へ向かう前に機関からアルムたちの情報。
あとは都市内にベルトア関連の住居や施設があればその情報と立入許可を貰うぞ。
許可が無くても必要なら忍び込むけどな♪(シーフ技能持ち)
秋月、ジャックと合流したら調査開始だ。
アルムの行先を推測するにも情報が足りな・・・って、俺まで不審者に含めるなよ!?
まあジャックは変装必須だけどさ。
ともあれこの都市絡みで胡散臭いっていうとベルトアとフェルゼンだろ?
その辺を中心に、他にも興味深い話があれば<コミュ力>で<情報収集>しつつアルムを<追跡>。
彼女に会って直接話を聞き・・・たいよなぁ、ジャック♪
あ、それとお前も知ってる事があるなら些細な事でも話しとけよ?
●Case.1 敵の本命
学業専門都市『ヴィル・アルミュール』の玄関口にて、秋月・那原(Big Cannon Freak・f30132)と日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)の2人がジャックと合流する。
ヴィル・アルミュールは現在通行許可証がなければ入ることも許されないため、3人分の通行許可証を那原が揃えて持ってきてくれていた。
「で、だ。流石に彼女に顔合わせづらいだろうと思って準備してきたんだ」
「ん……何をだ?」
「じゃーん」
那原は更に、変装用の衣装をいくつか見せる。ジャックにはマスクと鼻眼鏡、自分にはトレンチコートとつば広帽子とアンパンと牛乳、何故か尚人には変装道具はないが変質者の一員に加えられていた。
「なにせベルトアとそっくりなんだ、混乱を避けるためにも変装はh」
「ふんッ!!」
「ちょっ、鼻の部分取るなー!?」
流石にそんな眼鏡は受け取れんと言うように、ジャックは鼻眼鏡で最も大事な鼻の部分を引きちぎる。もともと彼は右腕の力が有り余ってる故、引きちぎるのは花を摘むように簡単なものだった。
ただの眼鏡とマスクを付けたジャックはそれでも不審者感満載だったが、ベルトアに気づかれないようにするにはこれで十分だろうということで、そのままヴィル・アルミュールへと突入する。
「で……アルムの行き先を推測するにも、情報が足りないよな」
「そーだな、少年の言う通りだ。それに……」
「それに?」
「なんつーか、これは俺の勘なんだが、クラーケンは陽動な気がするんだ」
「陽動か……確かに秋月の言う通りかもしれない」
今現在、マリネロの街ではクラーケンとの戦闘が行われている。異世界にしか存在しないはずの魔物がエルグランデにやってきた以上、何者かが手引したと考えるべきだろう。
だが、その目的は? そして何故クラーケンなのか? いくつも事情を考えても、その辺りに理由はない可能性が高いと那原は結論を出していた。
「じゃあ、そうなると……この都市絡みで胡散臭いと言えば、ベルトアとフェルゼンだろ?」
ヴィル・アルミュールはベルトアとフェルゼンの故郷という情報は既に広まっている。あとは何処に彼らの家があるかを探るだけ。アルムの監視を続けつつ、都市の人々に話を聞いて回った。
「……ん……?」
途中、ジャックが何度か後ろを振り向いては首を傾げる。
彼に話を聞いてみるが、後ろに誰かがいた、と首を傾げるだけでその正体にまでは追いついていないようだ。
●Case.2 アビスリンクの家
都市内を歩いて数十分、アルムはキョロキョロと辺りを見渡しては首を傾げ、ロルフとシェルムにしょんぼりとした表情を見せている。
まだ、自分の『やるべきこと』に見当がついていないのか、彼女達は困っている様子だ。
「どうする? このまま彼女に話を聞いておかなくていいか?」
尚人がジャックに向き直ると、ジャックの眉間のシワが深くなる。
ジャックはアルムがあんな手紙を置いてこの都市に来ている以上、自分に会ってもいいものなのか? と考えている様子だ。それは彼女も同じなのだろう。
「なんつーか、今出ても逃げられそうな気がするんだよな……」
「まあ、あんな手紙を置かれたんだしなぁ。……と、また動いた」
道行く通行人に不審者として見られないように動きつつ、アルムを追いかけた尚人と那原。
そのうちアルム達は住宅街エリアと小学部エリアの境目を通り始め、より一層辺りを注意深く確認するようになっていった。
しばらく尾行を続けると、アルムはここだ! というように指をさす様子が見える。
玄関口に書かれている表札は見えないのだが、ロルフとシェルムはお手上げと言った様子を見せている。
どうやらロルフでもシェルムでも介入することが出来ない家に到達したようで、しばらくその場に立ち尽くしていた彼女達は解決策を見つけようと別の場所へと走っていった。
「……この家、か?」
ジャックが見上げれば、そこそこの広い土地に立てられた屋敷が目に映る。
那原と尚人も同じように屋敷に目を向けるが、入れない、という様相は見当たらない。
しかしその表札を目にすることで、ロルフ達がお手上げした理由に判断をつけることが出来た。
「『Abysslink』……ここって、まさか」
「ベルトアの家ってこと……?!」
まさかのベルトア・ウル・アビスリンクの家に到達してしまった那原達。アルムの目的地がここであることがわかった以上、彼女の最後の行動は1つ。どうやって入るか悩んでいたのだろう。
尚人も那原もこれはチャンスだと考えた。ベルトアもまた何かの事情を抱えていることから先んじて内部を調べる事ができるんじゃないかと踏んだが、門に手を触れてみると鍵がかかっていて入れなかった。
「ありゃ、どうする?」
「鍵は機関の人が持ってるとかありそうだが」
「ああ、じゃあ俺が連絡いれてみるよ。那原と尚人はここで待って――」
ジャックがその場を離れようとしたその瞬間、空中に透明なウィンドウが現れる。
司令官システムからの連絡か? そう思われたが、どうやらこのウィンドウは家の内部から発信されているもののようだ。
『どちらさまでしょうか?』
その問いかけに対し答えたのは……ジャック。
この家に用がある。そう答えた彼に対し、画面の向こうの誰かはこう答えた。
『お待ちしておりました。ベルトア様の使いの者』と。
●Case.3 目的
「うわ……」
「すっ……げえ……」
アビスリンク家の中に通された那原と尚人とジャック。絢爛豪華な屋敷の中は塵1つ、汚れ1つない綺麗な状態を保っていた。
それもそのはずで、この家には執事が1人存在しており彼が全ての部屋を片付けているのだそうだ。
「申し遅れました。僕はマルクス・ウル・トイフェル。この家の執事長を務めております」
柔らかに挨拶をした執事長のマルクス。緩いくせっ毛の黒髪の合間から覗く、見る位置から変わる瞳の色がなんとも不気味ではあった。
それでも挨拶しない訳にはいかないだろうと、ジャックが前に出る。一瞬、自分の名前に詰まったのは……どの名前を言えば良いのか、と悩んだ故だ。
「これはどうも。俺は……ジャック・アルファード。こっちの2人は秋月那原と日野尚人だ」
「ええ、存じております。ベルトア様からのご連絡を頂いておりますので」
緩やかな笑みを浮かべたマルクス。どうやら彼はベルトアから手紙を受け取っており、ジャックやアルムと言った名前から猟兵達の名前についても知り尽くしているようだ。
彼はいつ、猟兵達が来るのかと待ち遠しくてついつい屋敷内をピカピカにするほど掃除をしており、ようやく来てくれたと嬉しそうな様子でいる。しまいには、応接室にお茶を持ってくるから待っていてくれなんて言う始末だ。
「ちょ、ちょっと、あの、俺たちは調査のためにここに来てて」
「調査……ですか? それはどのような……」
「あー……ちょっとまだわからないんだけどよ。さっき、アルムって子がこの家の前で止まっていたから」
「ふむ?」
何かを考える様子のマルクス。もしかして、と呟いた後に3人をとある部屋――書庫へと連れて行く。
書庫は薄暗く、それでいて湿気取りが行われているため中はひんやりしている。その代わり、部屋の隅々まで埋め尽くされた書物はエルグランデで販売されたありとあらゆる書籍や、ベルトアやオスカーが書いた論文などが保存されていた。
「ベルトア様から連絡を頂いたのですが、アルム様はこの書物を狙っているのではないか、と思われます」
ちょっと待っててくださいね、と声をかけてマルクスは梯子を使って天井付近の本棚から赤いハードカバーの本を取る。
それは今、ジャックが持っている『ゲートと呪術の関係性について』の本の表紙とそっくりだ。しかし厳重に鍵がかけられているのか、薄っすらと鍵の模様が浮かび上がっている。
「この模様って?」
「司令官システム側から厳重なプロテクトを掛けられています。そのためどんなに外部から刺激を与えても開けることは出来ませんし、読むことも出来ません」
「ん? それならアルムがこの本を取っても読めないんじゃないか?」
「そうですね。だから、僕もちょっと気になっているんですよね……」
外部からの刺激を受けることのない、厳重に鍵をかけられた赤い本。
それがアルムの目的だとしたら、彼女はどのように本を開くのか?
また新たな謎が芽生えては、考察要素が増えていく――。
●Case.4 お隣さん
「……と、もうこんな時間でしたか」
色々な考察要素を考える中、マルクスが時計を見てつぶやく。
どうやら彼はお隣の家の掃除も行っているようで、立ち上がって外へと向かおうとした。
「あ、俺も手伝います」
「おや、すみません。今日は大掛かりに掃除しなければならないので助かります」
ジャックが立ち上がったのを見て、那原と尚人も共に立ちお隣の家へとお邪魔した。
今日は草むしりがメインになるそうで、大量のごみ袋と軍手を用意し、いざ出発。
隣の家もアビスリンク家に負けないほどの広さを誇るが、少々雑草が生い茂りすぎておりボロボロなところが多く見える。
マルクス曰く、この家はベルトアとオスカーが出ていくよりも先に家の者達が自立して出ていったため、誰もいなくなってボロボロになっているのだそうだ。
「まあ、それでもこうして僕が手入れしていますけどね。彼らも、戻る家が必要でしょうし」
「えっと、この家って誰の……?」
さり気なく尚人がマルクスに聞いてみたところ、この家は『ヴェレット家』――フェルゼン、ルナールの実家だと言う。
それならここにも情報があるのかどうかと思って那原がドアを開けようとしたが、鍵が開かない。どうやら家の内部に入るには司令官システムより『マリアネラ・ヴェレット』の承諾がないと開かないようだ。
そのためマルクスも家の中はここ数年は掃除出来ていないそうで、汚れで曇っている窓ガラスを見ては恨めしそうな顔で外から窓ガラスを拭き上げていた。
「……なあ、もしかしてだけどさ」
こっそりと、マルクスの聞こえないところでジャックと那原に声をかけた尚人。
先程はアルムはアビスリンク家に用があると考察していたが、もしかしたらヴェレット家も本命なのではないか? と推察を立てた。
「その理由は?」
「まだ、彼女がはっきりとした目的を見つけてられないこと……かな? ジャック、些細なことでもいいから今のうちに共有出来ることがあったら言ってくれよな?」
「……記憶喪失以前のアルムの話でもいいなら」
「ああ、その辺は大事かもしれないな。理由付けが新たにできるかもしれない」
「って言ってもなぁ……」
ジャックは記憶喪失以前のアルムのことを思い出しつつ、ぽつぽつと話す。内容は……大体が惚気話ではあるが、それでも『アルム・アルファード』という人物がどんな人物なのかを知るには良い内容ではあった。
――王女という立場でありながら、全ての人々に愛されて、全てを愛した者。
――どんなときでも自分の意志を曲げること無く、ひたすらに突き進む。
――くじけず、迷わず。その精神性はジャックでさえも恐れるほど。
***************************************
・『アビスリンク家』『ヴェレット家周辺』の追加調査が可能になりました。
→マルクス・ウル・トイフェルという人物に話しかければ立ち入り調査が可能です。
→また、ヴェレット家内部に入るには司令官システムによる許可が必要となります。
→ただし現状、司令官システムは猟兵達との通話が不可です。
・アルムの目的が『封印された赤の書籍』か『ヴェレット家』のどちらかに絞られました。
→彼女と同行するプレイングの場合、どちらに行きたいかを提示する必要があります。
→なお両方の提示は可能ですが、ある理由により阻まれます。
・誰かがジャックを尾行中……?
***************************************
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●Case.? 幕間『誰かが見ている』
ヴィル・アルミュールの街を歩き、アビスリンク家やヴェレット邸に入るための手段を探している様子のアルム。
ロルフとシェルムにどうにか出来ないかと聞いてみたが、彼らは権限が少ない中級調査人のためツテを探して開けてもらう他無い。
アビスリンク家についてはオスカーがいれば入れるのだが、今回オスカーはお留守番中です。残念ながら。
「うーん。これやっぱエミさんに連絡いれる?」
タバコを片手に休憩するロルフ。元司令官補佐だったエーミールならもしかしたらなんとか出来るかも、と提案を上げてみたが、シェルムが止めた。彼は今体調不良で休んでいるからと。
「エミさん、今倒れてるやん。せやからやめたほうがええんちゃう?」
「うーん。ほなローからリアさんに連絡入れてもらう?」
オルドヌングのメンバーの1人、ローラント・シュタルク・ローゼンミュラー。彼は司令官補佐エミーリアにゾッコンラブな状態であり、時々彼女に向けて愛の言葉を叫んだりしている。
その縁あって、エミーリアはローラントと通話が繋げられる。……が、エミーリアは超級ど天然娘なのと、エーミール大好き症を発症しているためローラントの思いは一切伝わらない……。
「……アイツがキショなるからやめとこ?」
「……せやな……」
しかもローラントはエミーリアのことになると普段の倍速で話をするため、エミーリアの話題はオルドヌングでは言語道断。なので、手詰まりとなってしまった。
「……あれ……?」
ふと、アルムが足を止めて首を傾げる。
何かを見たのだろうか、何度か辺りを見渡しては首を傾げてロルフとシェルムを困惑させる。
「大丈夫? なんかあった?」
「あ、えっと……その、さっき言っていたエミさん? って方……」
「おお、エーミールな。それが?」
「…………休んでる、んですよね?」
今一度2人に確認を取るアルム。
エーミール・アーベントロートはここに来ておらず、セクレト機関の自室で休んでいることはロルフとシェルムも知っているし、そのことはアルムにも伝えている。
周囲を警戒してくれているオルドヌングのメンバーも――オスカーは故郷に来たくないという理由で来ていないが――エーミールがここにはいないことを知っている。
「……あの、あたしの見間違いかも知れないんですけど」
自分の見間違いの可能性、そして誰かと間違えてる可能性を添えて、アルムはロルフとシェルムに告げた。
――エーミールがここに来ているかもしれない、と。
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・アルムは誰かに尾行されているようです。
→その尾行している人物は「エーミール・アーベントロート」かも……?
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空桐・清導
SPD
「よう、ジャック。困っているみたいだな。オレも力になるぜ!
36世界以外の世界にも興味があるからな。」
これまでの物語には関与しなかったが、
風の噂を聞きつけてこの世界にやってきたヒーロー
「人捜しや情報収集も手慣れたもんだからな。任せてくれ!
さあ、人海戦術だ!いけ、ブレイズ・レギオン!」
≪カメラ!カメラ!カメラ!≫
頭がカメラになっている小型ロボが街中に散らばる
嫌に軽快に動き、パルクールもお手の物だ
テレビ型の頭を持つ統率ロボがアルムの場所を指し示す
「ふむふむ。あっちか!」
アルムに合流して自己紹介する
そして、街に散らばったロボット達の映像から
捜し物のヒントを出せないかと提案する
役に立てるなら本望だ
●Case.5 ヒーローとは遅れてやってくるもの
「……迷った……」
地図を片手に頭を抱えたジャック・アルファード。もともとヴィル・アルミュールは構造上迷いやすいとマルクスから聞いていたのだが、まさかここまで迷いやすいとは考えてもいなかったようだ。
いつもなら配下でありお供であるモルセーゴが空を飛んでくれるが、今回はセクレト機関でエルドレットが面倒を見ているため連れてきていない。
「……やっちまったぁ」
ホントこれからどうしよう。アルム探す前に自分が迷子じゃん。……なんて考えていたのもつかの間のことで。
「おーい、ジャック!」
「ん?」
声が上がった方に視線を向けてみれば、道の向こう側からやってきたのは空桐・清導(ブレイザイン・f28542)。ジャックの手伝いのために彼は燦斗を通じてここにやってきており、少々息を切らしながら合流する。
猟兵の活動地域である36の世界。その外の世界に当たるエルグランデはどんな世界なのか? 風の噂で聞きつけ、興味があったからこそ、彼はこの場所に駆けつけてくれたようだ。
「困っているみたいだったからな。オレも力になるぜ!」
「おー、助かる。早速で悪いんだけど人探し頼める?」
「そういえば誰かを探しに行ったって聞いたぞ。誰探してるんだ?」
「この子。俺の従姉妹なんだけどさ」
そう言ってジャックが見せてきたのはアルム・アルファードの写真。ラベンダー色の髪の毛を持ち、若草色の服を着こなした少女の姿がある。
特に今はセクレト機関に所属する|調査人《エージェント》2人が共にいるので、見つけさえ出来れば近づくことは容易だと言う。
「それなら丁度いいな。人捜しや情報収集はオレに任せろ!」
「助かるー。この世界、機械文明だらけでよくわからなくってよー」
「あー、じゃあ今から俺が出すのもジャックからしたらよくわからないかもな?」
そう言って清導はユーベルコード『|『炎勇機軍』行進《ブレイズ・レギオン》』を使い、大量の小型ロボットを呼び寄せる。頭がカメラとなっているそれらはヴィル・アルミュールの道を走り、時にはパルクールを駆使して人々の視界から外れるように情報収集を行った。
「……あれってなに?」
「ロボット。知らない?」
「しらない……」
「ありゃ。じゃあまあ、戻ってくるまでに簡単に説明しておこうか」
少々怯えたジャックに対し、ロボットやその他機械について語る清導。
機械というのはそんなに怖いものではないこと、慣れてきたら便利なこと、魔法と組み合わさったらもっと凄いだろうということを色々と語りつつ、ロボット達の帰還を待つ。
ちらほらとロボット達が戻り、いくつかの映像を見せてもらっていたジャック。
アルムに関する情報はまだ見つからないが、気になる映像を見つけていた。
「……エーミール……?」
ロボット達が捉えた映像の中にはいくつか、本来ならばここにいない人物――エーミール・アーベントロートの姿が映っている。
彼は今、体調不良でセクレト機関本部で休んでいるはずだが……?
「…………」
何か嫌な予感がする。そんな事を小さく呟いてから、アルムの映っていた映像を見つけ、ロボット達に案内してもらった。
●Case.6 行くべき場所
「うわっ、なんやねんコイツ! しっしっ!」
「わー! アルムだいじょぶかー!?」
「だ、大丈夫でーす!」
ロボット達がアルムを見つけた。それはまあ良い。
だが問題はこのロボット達がアルムと共に行動する|調査人《エージェント》ロルフ・ディスプレシオとシェルム・シャッヘには一切何も情報として伝わっていないこと。
彼らも猟兵として動いていたことがあるためユーベルコードの存在は知っているが、アルムを守るという使命を第一にしているため、そこまで頭が回らなかったようで。
「アルム!」
ロルフとシェルムの2人でレギオン達を追い払おうとしている中、ジャックと清導が他のロボット達の指示に従ってやってきた。
一瞬だけ、アルムは怒られる、と身体を強張らせたが……それよりも前に、ジャックはアルムに怪我がないかをチェックするため、全身をくまなく見て回った。
「あ、あの……」
「怪我はなし。ご飯は……ちゃんと食べたみたいだな。良し」
アルムの無事がわかると、一気にため息を吐き出したジャック。彼女が自分に内緒でいなくなったことから、何かあったかもしれないと心配していたようだが、それらは全て杞憂だったようだ。
清導とアルム、ロルフ、シェルムの4名はそれぞれで自己紹介を済ませると、簡単に今からやることを考える。と言っても、アルムに現在必要なのは『自分のやるべきことを探る』ことであり、はっきりとしないままにすることは出来ない。
これまでの情報――アルムがアビスリンク家、あるいはヴェレット家にある代物を探しているかどうかまではわかっているが、そこから先の情報はなにもない。故に、半ば手詰まりでもあった。
「んー……じゃあ、俺のロボット達の映像を見ながら考えてみるか?」
「だな。手がかりがあれば尚良し、無くてもロルフとシェルムが気づくだろ」
「俺らは護衛やねんから、あんま期待せんといてなぁ?」
「ほな隠れて作業する場所必要になるけど、何処行く? カフェ?」
「いや、それよりもいい場所がある」
そう言ってジャックは4人を連れて、再びアビスリンク家へと戻っていく。迷子になりそうだったが、ロルフとシェルムがいたので難なく戻ることに成功した。
アビスリンク家。
ここは元セクレト機関|研究員《エージェント》ベルトア・ウル・アビスリンクの実家。
ベルトアは今現在、30年前に起こった『箱庭研究』の事故によって行方不明となっているが、研究で作られた世界の中で存命中であり、彼はジャックをこの世界に派遣した。
そのためアビスリンク家の執事マルクス・ウル・トイフェルもまた事情を知る者であり、ジャックやセクレト機関、そして猟兵には協力的なのだ。
「おかえりなさい、ジャック様」
「すんません、会議できる場所とかありますか。出来ればえいぞう?を見れるところ」
「ああ、ではベルトア様の研究室にご案内します。軽食などをお持ちしますね」
「助かります」
部屋に案内してもらい、5人はベルトアの使っていた研究室へと入る。
と言っても、マルクス曰く元々ベルトアは言語学専門の研究者であり、ありとあらゆる世界の言語を取り寄せて研究していた。そのためベルトアの研究室もそこそこ本が集まっており、見渡せば見渡すほど頭がくらくらする。
しかしそんな中、アルムが首を傾げる。事前にジャックが見つけていた赤い本に反応しているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「まあ、とにかく今は映像を確認しよう。何かヒントが見つかるかもしれない」
「ですねぇ」
清導がロボットの映像をアルム達に見せるように広げ、街の隅々を探していく。
時にはロルフが、時にはシェルムが、時にはジャックが、時にはアルムが声を上げたが、アルムの『やるべきこと』には繋がりそうにもない。
どうしたもんかと頭を抱えたアルム達。同じように清導も映像をチェックしているが……。
「……あれ……?」
ふと、清導は映像と自分の記憶に差があることに気づく。
自分がジャックと行動していた時にはあったはずの二手に分かれていた道が塞がれていることに。
街の防護用のシステムなのか、それとも変動性なのかとこの街に詳しいマルクスに聞いてみるが、そんな機構は聞いたことがないとの返答が返ってくる。
「この街は『学業専門都市』ですからね。学業に関係ないことは全て排除されています」
「ということは、これって誰かが誰かを誘導するために使っている……よな」
――いったい、誰を誘導している?
その思考が結ばれた先、視線は自然とアルムに向いた清導。
再び映像を確認し、壁と街のマップと組み合わせてどんな経路を作られているかを地図に書き示していくと……。
「……この近辺に、向かうようになってる……」
地図が出来上がった先、壁を埋めて道を作ってみれば出来上がるのはアビスリンク家とヴェレット家のある住宅街エリアと小学部エリアの境目。
どう考えても、アルムの『やるべきこと』はこの近辺にある。
その答えがきっちりと指し示された。
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・誰かがヴィル・アルミュールの道を塞いでいるようです。
→この結果、アルムの『やるべきこと』はアビスリンク家かヴェレット家のどちらかに目的があるようです。
→アルムの行き先が『アビスリンク家』『ヴェレット家』に固定されました。
→プレイングに指定がなければ彼女は『アビスリンク家』に常駐します。
・エーミール・アーベントロートが街の中で目撃されています。
→彼との会話が可能になります。
→プレイングで指定があれば、彼と合流が可能になります。
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大成功
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エドワルダ・ウッドストック
アドリブ連携歓迎
状況はあまり飲み込めていませんが……人手が必要なのですね。
清導も協力しているようですし、これも人助けですわね。。
確か今は……アビスリンク家の研究室ですわね。
はじめまして、アルムさん。わたくしはエドワルダ・ウッドストック。
ジャックさんの知己の、猟兵です。
あなたが『やるべきこと』を為すために、助力いたしますわ。
面識を持ってから、ガーター騎士団を出撃させます。
不測の事態からアルムさんを守る人員として。そして、家の中のもの探しや聞き込みの人手として駆り出しますの。
様々な階梯のシカですが、きっと力になれるはずですわ。
この不思議な都市の勝手はわかりませんので、皆様に指示を仰ぎますわ。
●Case.7 不測の事態に備えて
「じゃあ俺、もう1回街を回ってみる」
そう言ってジャックは地図を片手にヴィル・アルミュールの街中へと繰り出したのだが、壁が析出しているのも原因となって彼はまたしても迷子へと成り果ててしまった。
もうアビスリンク家にいたほうが良いんじゃないかというロルフのツッコミを無視した結果がこの通り。……ではあるが、壁のお陰でアビスリンク家に戻ることだけは簡単に出来るので、そこからどうするかを悩んだ。
「ジャックさん、大丈夫ですか?」
「んお? おー、エドワルダじゃねぇか」
丁度帰ろうとしていたその時、ジャックはエドワルダ・ウッドストック(金雀枝の黒太子・f39970)と鉢合わせ。エドワルダは色々と事情を聞き及んでこの街に来たが、状況があまり飲み込めていなかったためジャックを探し続けていたようだ。
先にチームメイト――清導が来ていたから、自分も来てみた。そう告げたエドワルダだが、彼とはすれ違いになってしまったもので。
「人手が足りなかったから助かるよ。……あー、でも今から何しよう」
「では、一度アルムさんと顔合わせしても? 状況を確認するのもそうですが、アルムさんの様子もお伺いしたくて……」
「ん、わかった。俺も何も見つけられなかったし、一旦戻ろう」
こっちだ、と案内していくジャック。……時々道を間違えて引き返したりしていたのを、エドワルダは見逃さなかっただろう。
――アビスリンク家・ベルトアの研究室。
軽食を食べていたアルムはロルフやシェルムに色々な本を持ってきてもらって、中身を読んでいた。
言語学を主に研究していたベルトア・ウル・アビスリンク。彼の研究書物の中に、何か答えがあるような気がしてならないそうで。
「お、ジャックおかえり。……あれ、その人は?」
「ああ、猟兵になってる間に世話になってるチームメイトだ」
「はじめまして。わたくしはエドワルダ・ウッドストック。ジャックさんの知己の、猟兵です」
エドワルダは前に出て3人に自己紹介を済ませる。猟兵、という単語にはアルムだけが聞き覚えがなかったので彼女は首を傾げたが、ロルフとシェルムはよろしくとだけ返答する。彼らも、同じように猟兵としての仕事を行ったことがあるためだ。
「あなたの『やるべきこと』を為すため……わたくしも僅かではありますが、助力いたしますわ」
「ありがとうございます。……あ、じゃあ、お願いが……」
アルムはそういうと、この家にあるありったけの本を持ってきて欲しいと告げる。
先程から気になっている気配がこの家に存在しており、それを見つければもしかしたら『やるべきこと』も思い出せるかもしれないから、と。
「なるほど。でしたら、人手は多いほうが良さそうですわね」
そう呟いたエドワルダは執事長マルクスに声をかけてから少々広い部屋を借りて、ユーベルコード『|ガーター騎士団出撃!《ナイツ・オブ・ザ・ガーター》』を発動。ガーター騎士団が到着すると同時、同じ部屋にいるジャックの元へとテレポートする。
研究室でテレポートを行うと、部屋の狭さと本の多さで色々と大変なことになるからと配慮した結果、十全な人数の騎士団がアビスリンク家に到着。数名をアルムの護衛に回して、残りの騎士団メンバーは各自マルクスの指示に従いながら図書室や他の部屋の本を集めてはアルムのもとへ持っていった。
「……シカさんだあ」
本を読み進めながらも、アルムは騎士団の人々に目移りしていた。
36世界のうちの1つの世界に住まう獣人。ほぼ動物な階梯0から人の姿になれる階梯5、その中間の1から4までの様々なシカ達がアルムの手助けに入っている。
物珍しさからチラチラと視線を移しては、騎士団の人々とちょっぴり会話を始めるアルム。その様子はジャック曰く、元のアルムっぽさが垣間見えるそうだ。
●Case.8 赤い本の内容
アビスリンク家のすべての本をかき集めて、3時間ほど。既に夜の帳は降ろされ、街の明かりがぽつぽつと見え始めてきた。
だが……アルムが言う気配を見つけることは出来ていない。残されたのは誰も開くことが出来ない、司令官システムが厳重に鍵をかけた赤い本のみ。
「……ジャックさん、どうしますか?」
マルクスから託された鍵のエフェクトがついた赤い本を持ち、エドワルダはジャックに指示を仰ぐ。状況を知らないエドワルダが判断するよりは、ジャックが判断を下したほうが良いだろうと。
ガリガリと頭をかいて、どうするかを考えたジャック。悩みに悩んで、最後の一冊になったことを騎士団から聞いて……彼は決意する。
「見せなかったら見せなかったで、拗ねそうだからなぁ……」
「では、お渡ししましょう。開かないときはまた別の手段を考えましょう?」
「そうだな。……お前さんも、一応見届けてくれ」
「わたくしでよろしければ、ご一緒いたしますわ」
赤い本を片手に研究室へ入ったジャックとエドワルダ。既にあらかた片付いている研究室の中、この赤い本が最後の一冊だと告げてアルムに手渡した。
表面に薄っすらと鍵の模様が刻まれた不思議な本。司令官システム側から厳重なプロテクトをかけられ、誰にも開くことの出来ないものだったが……今、その鍵は解き放たれる。
まるで鍵穴にピッタリの鍵が収まったように、カチリ、といい音が鳴り響く。それと同時に糊付けされていたようにびっちり閉まっていた本はアルムの手の動きと同時に開くようになっており、中を確認することが出来た。
「……開きましたか」
小さな声がマルクスから聞こえる。シカの猟兵であるエドワルダだけが、その言葉を聞き取ることが出来ていた。
マルクスの声はまるで、開いてしまうことを恐れていたかのような声色。内容を知り得ている、あるいは、知りたくもないというような……そんな声色だった。
「……なんですか、これ……」
次にエドワルダの耳に届いたのは、アルムの怯えるような声。その声に反応したのはジャックも同じで、すぐに彼女を支えるように背後へと立った。
だが、ジャックの身体が一瞬だけ退いた。彼もまた赤い本の内容を目にしてしまったからか、恐怖の表情を浮かべている。
「っ……。エドワルダ、すぐにこれを情報として纏めてくれ」
「……ジャックさん、顔色が……いえ、承知しました。すぐにでも纏めますわね」
赤い本をアルムから取り上げ、ジャックはエドワルダに手渡して情報をまとめてもらう。
その本に書かれていたのは、『世界の敵』について。通称リベリオン・エネミーと呼ばれる存在について書き記されている。端的に言えば、エルグランデという世界そのものが敵だと認識した人物をリベリオン・エネミーと称するようで、自動的にこの本に名前と写真が記される様子。
本には執事長マルクスの名やベルトアの名前、そして丁度セクレト機関から敵として認定された男の名――フェルゼン・ガグ・ヴェレットの名も記されていた。
「……おや……?」
だが、エドワルダは見逃さなかった。
それ以降に記されている名前の中には……。
――エーミール・アーベントロートの本名も載っていたのだから。
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・赤い本が開かれ、世界の敵『リベリオン・エネミー』の存在が明らかになりました。
→エルグランデという世界そのものが敵として認定した人物のことを指します。
→現段階では赤い本にしか記載されないようです。
現段階でリベリオン・エネミーとして記されている人物名は以下の通り。
・マルクス・ウル・トイフェル・ザイゼ・ユーバーシャール
・ナターシャ・アールツト・アイゼンローゼ
・エーリッヒ・テュルキス・アーベントロート
・スヴェン・ロウ・ヴェレット
・フェルゼン・ガグ・ヴェレット
・エーミール・アメテュスト・アーベントロート
・ベルトア・ウル・アビスリンク
……なお、リベリオン・エネミーに認定されている理由は今はわかっておりません。
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大成功
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バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携歓迎
HAHAHA! 遅ればせながらエントリー!
マリネロでの対処を済ませた後、急いで合流するワタシデース!
UCによる機動力でマッハで駆け付けマシタ!
エミーリア殿と一緒に来れれば話は早かったかもしれマセンガ、あちらの事後処理も重要でありますからな!
という訳で事前に聞き及んでいる情報から、鍵となる方のピックアップに向かいマース!
すなわち、エーミール殿との合流デース!
ハーイ、エーミール殿! ちょっとよろしいデスカー!
彼の事情を聴きつつ情報共有を行って、状況判断!
想定ではアルム殿たちに合流して、ヴェレット家の調査に向かうことになりマスカナ?
しっかり『やるべきこと』を調べ上げマショー!
●Case.9 |世界の敵《リベリオン・エネミー》 エーミール・アーベントロート
一方、同時刻。
夜の帳が降りた学業専門都市ヴィル・アルミュールへとやってきたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)はある情報を聞きつけており、アルム達と合流する前に街の中を探索していた。
その情報とは、街の中に休暇中のエーミールがいる、という情報。
本来ならば彼はセクレト機関の自室で休んでいるはずでこの街にはいない。だというのに、他の仲間達が彼の姿を捉えた映像を確保しているため、彼が本当にエーミールなのかどうかを確認しなくてはならなくなった。
「…………」
薄ら暗い街の中、エーミールが石畳の道を歩く。
ぽつぽつと住人達によって照らされ、夜の街の姿が現れていくのがよくわかる。
自分が今何処にいるのか、誰が今何処にいるのか。暗闇に包まれて分かりづらかった全容が少しずつ晴れやかになってきた。
「ハーイ、エーミール殿! ちょっとよろしいデスカー!」
そんな彼の背後から声が聞こえる。最初は無視したままどんどん道を進んでいくが……もう一度名を呼ばれて、彼は振り返った。
当然、彼に声をかけたのはバルタン。いつものように、陽気な声で彼を呼んでいたが……振り返った彼の姿を見て、バルタンの表情が強張ってしまう。
「エーミール殿……その目は……」
普段の彼は色素が完全に抜け落ちた白の目だ。瞳孔も見えづらく、けれど柔らかな目をしていたのをバルタンは覚えている。
しかし今目の前にいるエーミール・アーベントロートという人物の目は……反転目。つまり、瞳孔以外が黒に染まりつつある状態となっている。まるで、人に非ずと言わんばかりに。
「……気にしないでいただけますか、バルタンさん。私は見つけなきゃならないんです、あるものを……」
「あるもの? それは……」
エーミールが見つけなければならないもの。それを問い詰めようとバルタンが前に出た瞬間、間に割って入ったウィンドウ――司令官システムからの言葉が1つ。
見慣れたウィンドウの色からそれがエルドレットからの言葉だと、バルタンもエーミールも動きを止めた。
だが、彼から与えられる言葉は……。
――エーミール・アメテュスト・アーベントロート。
――お前が|世界の敵《リベリオン・エネミー》だと認定されたよ。
――……残念なことにな。
――Eldolet Abendroth.
……あまりにも、タイミングが悪すぎた。
「……ふっ、ははっ! あっははははっ!」
その言葉を聞いたエーミールの表情は、大きく嘲るように笑い。
「世界の敵……とは……?!」
その言葉を聞いたバルタンの表情は、大きな焦りを見せていた。
世界の敵『リベリオン・エネミー』。
セクレト機関ではなく、エルグランデという世界そのものが敵だと認識した存在が認定される者達を指す。
ある本が開かれたことでリベリオン・エネミーの情報がセクレト機関に伝えられ、重大な案件だからとエーミールと対峙していたバルタンにも通達される事になったが……そのタイミングは最悪すぎた。
リベリオン・エネミーに認定された男、エーミール・アメテュスト・アーベントロート。まさに今目の前にいるのだから。
「じゃあ、私の用も無くなりましたね。彼女があの本を開いたのですから」
「本……? まさか、彼女とはアルム殿――」
そこまでバルタンが口にしたところで背後から小さな破裂音――銃声が聞こえ、瞬時にバルタンは身を翻して何かを避けた。
大地が小さく弾け、小石が飛び散ると同時に警報機が鳴り響く。銃弾の使用が確認されたという旨のアナウンスによって警備隊が呼ばれた。
そのドサクサに紛れエーミールは姿をくらましてしまう。司令官システムが彼の姿を捉えるために監視カメラを使ったが、彼の姿は見当たらない。
「何が起こっているのデショウ……」
証人として警備隊に情報を渡し、一旦はその場を去ったバルタン。
司令官システム側からの特別権限によって解放されたため、そのまま彼女はアビスリンク家へと向かう。
アルム達が無事なのかどうか。それを確認してほしいとエルドレットから懇願されたために。
●Case.10 もう1つのやるべきこと
アビスリンク家へ到達したバルタン。鍵がかかっていたが、内側からジャックが開けてくれたので難なく入ることが出来た。
……だが、リベリオン・エネミーを最初に見たアルムが執事長マルクスを見ると怯えてしまい、動ける状況ではなくなってしまった。それが今、大きな難題を生み出しているそうだ。
「アルム曰く、やるべきことの1つがこの本を開くことであるってのを思い出したそうだ。が、もう1つやらなきゃいけないんだけどー……」
「もしかして、お隣のヴェレット家デスカ?」
「そう。マリアネラさんから入る許可は出たんだけど、条件がマルクスと一緒にいることなんだわ」
マルクスもまた、リベリオン・エネミーの1人……その情報はきちんとバルタンにも届けられている。アルムが怖がって一緒にいられないと思うのも仕方のないことだろう。
「うーむ。では、アルム殿から話を聞いて我々だけで調査するのは?」
「やっぱりそうなるな。ロルフとシェルムにアルムを任せて、俺らで探そう」
アルムに事情を話し、バルタンは彼女の『やるべきこと』を聞く。
と言っても、断片的なことしか思い出せなかった彼女は『丸いもの』『星』『持って帰る』という単語だけをバルタンに引き渡した。
「丸いもの、星、持って帰る。……むむむ、色々と思い浮かびマスガ……」
「そうですよね……もうちょっと覚えていたら良かったんですけど……」
「大丈夫デース。ちゃんと見つけて、アルム殿のところにお持ちしマース!」
大船に乗ったつもりで任せて欲しい、と自分の胸を叩いたバルタン。その様子にアルムはホッとしたようで、小さく頭を下げてバルタンを見送った。
ヴェレット家は鍵がかかっていた。
けれど、マリアネラ・ヴェレットによってその許可を得ることが出来たため、中へ入れば……埃まみれの玄関がお目見え。
「う"わ"ァーー!? 地獄か何かですかこれはァーー!?」
あまりにも凄惨な状況にマルクスが酷い声の悲鳴を上げたが、今はそれどころではない。
アルムが言っていた丸いもので星に関係するものを探し当て、彼女に引き渡す必要があるが……それが何なのか見当がつかない。
そこで掃除を手伝いながら、マルクスに色々と詳細を聞いてみたバルタン。フェルゼンやルナールとは会話をしたことがある彼女だが、それだけでは答えを見つけられそうになかったからだ。
「……アルム様が持ち帰るものはおそらく、スヴェン様の作った『疑似天体』かもしれませんね。彼は宇宙そのものを調べていましたから」
ハタキをこれでもかと言わんばかりに素早く叩きながら話すマルクス。掃除できなくて恨めしそうにしていた彼は、今、ようやくその責務を果たすことが出来ているからか俊敏な動きを見せていた。
「疑似天体……確かに星に関係していマスネ。他には?」
「あとはキーゼル様が作った星座模型でしょうかね」
マルクスが小さく笑いながら、兄弟の部屋の前に立つ。
だがそれよりも、バルタンとジャックはマルクスが言ったある名前が引っかかっていた。
「キーゼル??」
「キーゼル殿とは?」
「おや?」
2人の素っ頓狂な声にマルクスは一瞬手を止めて同じように素っ頓狂な声を返した。その直後、彼は「もう会っているはずですよ」と伝えたが、2人はやはり誰なのかわからない。
とりあえずマルクスはゴミ出しついでに疑似天体と星座模型を部屋から持ってきた。未だに誰なのかを考える2人の前に2つを持ち込んでから、ああ、と何か納得するような声を上げた。
「キーゼル様は今、『エレティック・リュゼ・ルナール』と名乗っているんでした。皆様がわからないのも無理はありませんね」
「あー、ナルホド。それなら納得デスネ」
「ぜんっぜん繋がらねぇよ、それじゃあ」
エレティック・リュゼ・ルナール。本当の名は『キーゼル・ルナ・ヴェレット』。
ある提唱を唱えたその日から、彼は異端者となったとマルクスは語る。
――星座模型を作ったあの頃の彼はもう、何処にはいないのだと。
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・エーミールは明確な敵となりました。
→なお、『銃を使う』協力者がいる様子……?
→彼もまた姿をくらましてしまいました。
・アルムは『丸くて』『星に関係したもの』を持ち帰りたいそうですが……。
→星座模型と疑似天体が彼女に預けられます。
→なお彼女は『何処に持ち帰るのか』わかっていません。
・エレティック・リュゼ・ルナールの本名が明らかとなりました。
→フルネームはキーゼル・ルナ・ヴェレット。
→ある提唱を唱えた日から彼は名前を変えたそうです。
→その提唱は『ゲート構築と呪術について』の本と関わりがあるようです。
(シナリオ:Decision より抜粋)
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『迫る悪意 Side:A』 complete!
Next Stage →
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●Case.EX 裏切り者
ヴィル・アルミュールを少し離れた、森の中。
2人の男達が息を切らして、休憩していた。
1人は先程リベリオン・エネミーに認定された男、エーミール・アーベントロート。
そして、もう1人は……。
「……ありがとう、メルさん。俺から注意逸してくれて」
「……ええよ。エミさんのためやもん」
――コピーチルドレン計画 被検体No.3087。
――エリーアス・スマラクト・アーベントロート。
――現在の名は『メルヒオール・ツァーベル』。
「ほな、俺はこのままエルドレットのとこ戻るから」
「ああ、うん。気取られんようになぁ」
2人の男が、暗がりの中を別れる。
為すべきことを為すために。
大成功
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