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【SecretTale】迫る悪意 Side:R

#シークレット・テイル

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#シークレット・テイル


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●マリネロの街に近づく厄災
 記憶喪失となり、保護されていたアルム・アルファードがセクレト機関から脱走した時と同時刻。
 マリネロの街では西方諸島で集められた素材を運び出す作業が行われていた。
 食料。鉱石。薬草。道具。嗜好品。ありとあらゆる物品をセクレト機関へと運び出していく。

 また運び出しの手伝いの中には、街の先生とも呼ばれている男エレティック・リュゼ・ルナールもいる。
 彼はある事情からセクレト機関に向かうことになったようで、乗り込むついでだからと手伝ってくれていた。

「先生、帰ってくる時期とかわかるかい?」
「ふむ。まあ、軽い用事だからすぐには帰ってくるだろう。それよりも……」

 ちらりとルナールが視線を海に向け、思案を重ねていく。

 本来、セクレト機関に呼ばれた者はエルドレットが作り出す簡易ゲートでの移動が基本となっている。
 しかし今回はエルドレットがある事情からルナールに船に乗り込んで欲しいと連絡があり、少々疑問に思いはしたが|恩人でもある《・・・・・・》エルドレットの頼みを無碍に出来なかったため、ルナールは船に乗り込むことを決めた。

「……《|預言者《プロフェータ》》による未来が見えた、と見たほうが良いか。戦いは苦手なんだがなぁ」

 はあ、と大きなため息を吐きだしたルナール。彼は既に、この後に起こりうる事態を想定しているようで、荷物の配置等を調節するように船員に指示を出した。
 船員は彼の意図を汲み、指示通りの配置と船員の配備、さらにはあまり使われない武器の支給なども手伝ってくれていた。

「助かる。ではそろそろ……」

 準備を済ませたところで船を出そうとしたところで、突如警報音が鳴り響く。
 司令官システムによる警告と、街に備え付けられた大鐘の音。それら2つがまぜこぜに人々の耳に届けられ、恐怖を煽り立てる。

「っ、なんだあれ!?」

 船員の1人が広大な海を指差し、悲鳴を上げる。
 海の中から巨大な触手が伸びた途端に悲鳴を上げた船員が海の中へと引きずり込まれて、叩きつけられてしまう。
 触手に応戦しようとする船員たちもまた、別の触手によって叩き落されて海の中へと落ちてしまった。

 1つ、また1つと巨大な触手が海から伸びてくる。
 その正体に気づいたルナールは残った船員達を船から上がるように指示をして、魔物の正体を叫ぶ。

「クラーケン……異世界の魔物だ!!」


●迷い込んだ魔物
「リアちゃん、戦闘員の数大丈夫そう?」
「飛行ユニットの数的に、少し難しそうですの。猟兵の皆様にお力を借りないと……」
「そっかぁ……ってなると、ちょいとリヒの方から借りなきゃダメだな」

 セクレト機関の司令官室では戦闘員への指示出し、加えてクラーケンの情報収集が行われていた。
 エミーリアから直々に戦闘員に指示を出しているが、海上戦闘において使用出来る飛行ユニットの数が修理前だったこともあって足りないという状況が起きていた。
 本来なら材料運搬後に行う予定だったそうで、その点に関しては技術部担当はしっかりヴォルフから叱られていた。

「どうしましょう、お父様。リアも出向いたほうがよいでしょうか?」
「んー、頼めるかい? 現地に《|賢者《ヴァイゼ》》で支援して欲しい」
「任せろーですの! ヴォルフさん、ここは任せたですの!」

 そう言ってエミーリアはヘッドセットを外し、近くにあった小瓶の束を片手に司令官室を出ていく。
 その様子を見ていたヴォルフは小さくため息をついて、頭をかいた。

「……なんで俺を残した?」
「ちょいとね。クラーケンの情報獲得ついでに、探ってほしいことがあって」
「探ってほしいこと、ね……」

 戦闘員ならばエミーリアよりもヴォルフが適任だということはエルドレットが一番よく知っている。
 けれどこのクラーケンとの戦いにエミーリアを出したのは、それなりの理由があるのだろう。

 ――その理由について、今は2人だけの秘密となった。


御影イズミ
 閲覧ありがとうございます、御影イズミです。
 自作PBW「シークレット・テイル」のシナリオ、第七章。
 今回は2作に分かれており、こちらは『クラーケン退治』が主になります。

 今回の注意点として、片方に参加するともう片方への参加は不可扱いとなります。
 両シナリオでプレイングを送った場合、どちらかのみを採用とし片方は不採用と致しますのでご注意ください。

 シークレットテイルHP:https://www.secret-tale.com/

 場所は西方諸島の港「マリネロ」。
 食材や薬草をセクレト機関に送り届けようとしたのですが、海上には異世界生物の『クラーケン』が住み着いてしまいました。
 そのため討伐部隊が組まれることとなったのですが、何分セクレト機関は海上戦場に慣れていない者が多いため急遽猟兵達にヘルプが届けられました。

 戦場は海上。戦闘部隊数名と共に船に乗り戦うことになります。
 海は巨大なクラーケンが足をバタバタさせているため大荒れとなっており、船はガンガン揺れています。
 一部戦闘員は空中行動が出来るユニットを使用しており、猟兵達にも貸すことができます。

 こちらのシナリオでの同行者は『エレティック・リュゼ・ルナール』と『エミーリア・アーベントロート』。

 エミーリアは機関側から派遣された司令官補佐であり、彼女を通じてクラーケンの情報が届けられています。
 彼女は毒針での戦いを主としており、近距離・遠距離どちらの対応も出来るため町の人々を守る役割を持ちます。
 他、所持しているコントラ・ソールについては公式ページ→その他→NPC設定→協力者より確認出来ます。

 ルナールはマリネロの港側から派遣された謎の人物ですが、エルドレット曰く通常の戦闘員よりは強いそうです。
 能力に関しては現在は秘匿されていますが、断章にて彼の戦う様子が確認できます。

 皆様の素敵なプレイング、お待ち致しております。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Mission-07
 シナリオのクリア条件
 クラーケンを倒す。

 異世界の魔物『クラーケン』 フラグメント内容
 POW:伸ばした触手で相手を掴み、海へ叩きつける
 SPD:伸ばした触手で相手を叩きつけ、自分の体を守る
 WIZ:船を掴み、投げつける


 ******


「チッ。視線を合わせるとこちらに向かってくるか……!」

 入港している船を次々に飛び越えながら、クラーケンに視線を合わせようとするルナール。
 彼の赤い瞳は海の底で地上を狙っている魔物に向けられるが、その視線を受け取ればクラーケンは触手をルナールに向けて叩きつけていく。

「私の眼に気づいているのか? 貴様。ただのイカの分際で頭は回るようだな」

 様々な考察を口にしながらも、ルナールは自分の持つ力――魔眼の中でもポピュラーな《|観察眼《ディサーニング》》をクラーケンに向けていた。

 ルナールの持つ魔眼・《|観察眼《ディサーニング》》は視線を合わせた存在の『違和感』を見つける力を持つ。
 異世界の魔物であるクラーケンが何故この場にいるのか、誰かに操られているかどうかをチェックしようとしていたが、視界を合わせようとする度に触手を向けられるものだから観察する暇もない。

「ったく。貴様がこの眼の効果を知っているせいで、私はもう、答えにたどり着いてしまったぞ?」

 黒狐の面を取り外しつつ、ルナールは呟く。
 ――彼はクラーケンをこの世界に連れ込んだ犯人が誰なのか、いち早く理解してしまったようだ。


 ******


「こ、これは……!?」

 マリネロの街に辿り着いたエミーリアは港の惨上に一瞬だけ身を震わせた。
 クラーケンによる一撃が船を次々に破壊しているのだろう、木っ端がその辺りに散らばっている。
 ルナールがどうにか街に被害が出ないように立ち回っている結果だが、衝撃波だけで街にも被害が広がっている様子だ。

「と、とにかく。急ぎ、ルナールさんの援護に入るですの! 非戦闘員は街の人々の避難と救助を!」

 エミーリアの指示に従い、戦闘員はルナールの援護のために飛行ユニットを使用。空を飛び、触手の動きを誘導することを目的とした。
 一方で非戦闘員は衝撃波によって崩れた瓦礫から人々を救助し始める。殆どは海の男達によって救出されているが、まだ瓦礫の下に閉じ込められている人も多いようだ。

「これはかなり厄介な相手になりそうですの……!」

 エミーリア自身も焦っているが、己の持つコントラ・ソール《|賢者《ヴァイゼ》》で冷静に状況判断を下しては適時命令を下していく。
 ――人数的に不利な状況をどう覆すか。それをしっかりと計算していく。
黒木・摩那
クラーケンというとイカの魔物でしたか。
イカというと新鮮なものなら刺し身にイカそうめん、鮮度が厳しかったら、焼き物ですかね。
でも大きいのは味も大雑把とも聞きますし。食べられない種なのかな?

セレクトからの依頼は了解しました。
ボード『アキレウス』で現地に急行します。

現地に到着したら、イカ釣りですね!
ヨーヨー『エクリプス』でイカの足を絡めます。
そこからUC【獅子剛力】を発動。
クラーケンを釣り上げて、大車輪で水切りして、海に叩きつけます。

脚を2本ばかりもらって、タコにクラスチェンジさせますよ。
標本あったほうが解析も楽でしょうからね。



●Case.1 叩きつけられたらイカだって痛い

「チッ、やはり戦闘員だけでは難しいか……!」
 海の中から触手を伸ばすクラーケンによって次々とセクレト機関の戦闘員達がなぎ倒されていく。
 異世界の魔物への対処に関して幾分かの教育は積んであるが、ここまで器用に触手を動かすタイプを相手取るのは初めてのようで。
 コントラ・ソール《|観察眼《ディサーニング》》を使おうと再び視線を向けたルナールだったが、戦闘員を庇いながらの使用は危険すぎると判断して一旦使用を中断。隙が生まれるのを待っていた。

 そんな中、海を見ていたエミーリアがセクレト機関側の島から何かがやってくるのを見つける。
 船と思われたが、よくよく見てみればそれは船の形はしていない。ただ、ボードの上に人が――マジカルボード『アキレウス』の上に黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が乗って海を走っているだけである。
「摩那さん!」
 ぱあ、と顔を明るくしたエミーリアは一部の戦闘員に指示を出し、コントラ・ソール《|光明《クリダート》》を使って光の柱として作り出して、更に細かな位置を伝える。
「なるほど、そこに大物のイカがいるんですね!」
 ここに来るまでにクラーケンについて考えていた摩那。
 鮮度が良ければ刺身にイカそうめん。鮮度が悪ければタレを付けた焼き物だったり唐揚げだったり。とにかく食べれるのかどうかがちょっぴり気になっていた。
 しかし近づけば近づくほど、その大きさは摩那の想像を超えている。軽く触手で払うだけで数人の人間を簡単に吹き飛ばせるほどの巨大な触手は、身体の大きさをも示しているようなものだ。
「大きいのは味が大雑把とも聞きますし……食べれるのかな?」
「アレを食べようとお思いで!?」
 摩那の呟きに反応したのはルナール。異世界の魔物を食すことが可能なのはルナールも知っているが、ここまで大きいものも食べるのかと思わず反応せずにはいられなかったようだ。
 そして摩那の呟きに反応したのは何もルナールだけではない。海中に身を潜めているクラーケンにも、声こそは届いてはいないが食べられそうな雰囲気だけは感じ取っている様子。

 触手を向ける先を戦闘員から海上をアキレウスで走る摩那へと変更させ、巻き付けて叩きつけようとするクラーケン。片方の触手だけでは捕まえられないと判断したのか、2つの触手を同時に使って摩那に掴みかかろうとしていた。
「そうして伸ばしてくれたことに感謝します……よっと!」
 ユーベルコード『|獅子剛力《ラ・フォルス》』を使い、触手に向けて超合金ヨーヨー『エクリプス』を絡め取った摩那。そこからアキレウスの出力を上昇させ、空に向かって飛び上がると同時に巨大クラーケンを釣り上げて海中から引きずり出していく。
「それっ!」
 ぶんぶんと振り回し、大車輪。回転力を生かして水切りを行い、中の水がすっかり抜けきったところで思いっきり海へと叩きつけた。
 海に叩きつけられる音が鈍く響く。水と物体がぶつかる音にしてはあまりにも硬く、飛び込む音にしては張りが高い音。叩きつける速度と面積が広すぎる影響で液体が壁のようになってしまい、クラーケンに程よい衝撃を与えてくれていた。


●Case.2 入れ知恵の主

「さて、ついでに脚を2本ばかりもらって、と」
 さっくりとクラーケンから脚を2本奪った摩那。切り離されても尚うねうねと動く脚は戦闘員達と協力し、大地に縫い付けられていく。
「よし、これなら《|観察眼《ディサーニング》》も……!」
 ルナールの視線が海の底へと落ちていくクラーケンに向けられる。
 先程とは違い、ほんの僅かな秒数だけでも視線を合わせることでクラーケンからいくつかの情報を手に入れることができたようだ。
 だが……ルナールにとって、その情報は|自分の答えに正解が出てしまった《・・・・・・・・・・・・・・・》ことになるわけで。
「っ……フェルゼン……やっぱり、お前か!」
「えっ?」
 ルナールの口から出てきたのは、セクレト機関高位研究員であるフェルゼン・ガグ・ヴェレットの名前。
 何故ルナールから彼の名前が出てきたのか。それを摩那は問いかけた。

 まず、ルナールはフェルゼンがクラーケンを連れてきた主だと断定した。
 それにはいくつかの考察要素が浮かんでいたが、やはり決定打となったのはルナールの持つ《|観察眼《ディサーニング》》をクラーケンが知っていることが影響しているという。
「この眼は私以外だと家族だけしか知らないものなのでね。クラーケンはおろか、外部の者が知る方法が無いのだ」
「家族……」
 ふと、摩那は別の仲間から得ていた情報――フェルゼン自身が『ルナールが双子の弟だ』と語っていたことに気づいた。
 しかしそれなら両親や妹も入るのではないか? と考えていたが、ルナールはそれはないと告げた。
「私の家族……母様は既に鬼籍に入っているし、父様と妹のマリアネラは司令官システムと繋がっているため、異世界に行くことは出来ない」
「じゃあ、実際に出歩けるご家族は……フェルゼンさんだけ?」
「うむ。司令官システムにいる父様とマリィは、そもそも身体があったとしても異世界に行けば動けないからね」
「あ……」
 そういえば、と思い出したのは摩那自身が燦斗に向けて『別世界のエルドレット説』を唱えたときのこと。
 あの時燦斗は語っていた。エルドレットは今いるエルグランデから離れればその身体機能を使うことは出来ず、ただの鉄の塊になってしまうことを。
 それはエルドレット以外の司令官システムにいる者が身体を得たとしても同じ。彼の父や妹が仮に同じように身体を手に入れたとしても、同じように身体との繋がりが絶たれて動けなくなってしまうのだ。

「でも、そうなるとこれまでの事件って」
 摩那はこれまでの事件――|侵略者《インベーダー》の強襲事件が全てフェルゼンの仕業になるのかどうかを思い浮かべる。
 考えてみれば怪しい要素はいくつもあるが、全てをフェルゼンが仕組んだかどうかまでを確定させることは出来ない。
「……先生に聞いてみないと分からないが、ほとんどが……」
 そこまでルナールが言葉を紡いだところで、海中から大きな泡がごぼりと溢れて生命活動が始まった証拠を見せつける。
 海中に沈んだはずのクラーケンが、抜けた水を補給する代わりに空気を追い出して今再び動き出したようだ。
「あれだけの傷を食らってもまだ……?!」
「いや、違う! あれは……」
 もう一度視線を向けた時、摩那にもルナールにも見えた輝き。
 キラキラと反射する海の光とはまた違う輝きが、クラーケンの身体を包み込んでいる。

 ――それは治療型コントラ・ソールが発動した証だと、エミーリアが叫んだ。



***************************************

 ・NPC『フェルゼン・ガグ・ヴェレット』がクラーケンを連れ込んだ主だと判明しました。
  →以後、プレイングに記載があれば彼を戦場に呼び込むことが出来ます。
  →プレイングに理由を乗せなければ、彼は姿を見せることはありません。

 ・クラーケンは治療型コントラ・ソールを所持しているようです。
  →成功数が上限に到達するまで、何度でも復活します。

***************************************

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルタン・ノーヴェ
お待たせしマシタ、ルナール殿、エミーリア殿!
救援要請受諾、ワタシも戦線に参加しマース!

ほう……これがクラーケン!
大きさといいコントラ・ソールといい、捕獲できれば良い食糧になりそうデスガ……!
……フェルゼン殿にまた連れてきてもらえばヨシッ!
今は排除するべく攻撃を続けマショー!

滑走靴による空中機動で応戦! 猟書家メリーの力を行使しマース!
「骸式兵装展開、朱の番!」
肉体が治療されて復活するなら相手のメンタルを削りマース!
海中から伸びた触手に目掛けて、木阿弥大津波!

さてと。もしもし、エルドレット殿!
斯様にルナール殿が申しておりマスガ……どのように判断いたしマスカ?
フェルゼン殿を探すか、呼び出しマスカ?



●Case.3 食糧となり得るか、クラーケン

「治療型コントラ・ソールは聞いてないぞ! まああのフェルゼンが連れ込んだならそのぐらいやるとは思ってたけどなぁ!!」
 クラーケンに向けてぎゃいぎゃいと叱りつけるルナール。大技を叩き込まれて沈んだはずのクラーケンが復活する瞬間を目の当たりにしたせいか、半ば八つ当たりに近い勢いでクラーケンの脚を蹴り落としている。
 ――《|観察眼《ディサーニング》》による調査は一旦中止と判断したのだろう。彼は他のコントラ・ソールを使うこと無く、蹴りだけでクラーケンの脚を退却させている。
「ルナールさん、後ろ!!」
 エミーリアの声にわずかに反応が遅れたルナール。ガードの構えを取ったものの、彼の身体は大きく吹き飛ばされて宙を舞う。
 しかし彼は何かのコントラ・ソールを使用して体勢を立て直し、まだ形を残したままの船に飛び移って事なきを得た。
「流石に何度も復活される相手だと、戦闘員の消耗が厳しいな……」
 ルナールはちらりと共に戦うセクレト機関の戦闘員達を見やる。
 彼らの使う飛行ユニットのエネルギー消耗を考えれば、彼らと共に戦い続けるのも大変だが……。

「お待たせしマシタ、ルナール殿、エミーリア殿!」
 そんな折に駆けつけたのは、バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)。陸海空対応型滑走靴を使って海の上を走り、クラーケンの脚に一発蹴りを入れてルナール達に合流した。
「バルタンさん! 助かったですのー!」
「救援か!? 話は早い、ヤツの脚を街に向けないように誘導してくれ!」
 素早くルナールの指示を聞き届けたバルタンは滑走靴ですいすいと滑りつつ、クラーケンを誘導。街から離れるとルナールやエミーリアとの協力体制が敷けないため、ほどよい距離を保ちつつ視線を誘導させた。
 クラーケンは不思議な海渡りの人間を見つけ、ちんぷんかんぷんだ。人間が海の上に立てることはない、というのは知識として持っているのだろう、脚で何度も何度もバルタンを捕まえようとしていた。
「うーむ、大きさといい、使ったコントラ・ソールといい、捕獲できれば良い食糧になりそうデスガ……」
「アレを食べようとお思いで!!??」
 本日2度目の同じセリフがルナールから飛んでくる。そりゃそうだ、クラーケンを食糧になんて言い出したのはこれが2度目なのだから。
 しかしバルタンはそんなツッコミを気にすること無く、冗談だと笑っておいた。
「まあ、フェルゼン殿にまた連れてきてもらえばヨシッ!」
「うちの兄をなんだとお思いで???」
「異世界から食糧(仮)を連れてくる変人……?」
「エミーリア嬢!?」
 まさかのエミーリアも乗ってくるものだから、ルナールのツッコミが絶えない。もういっそのこと、本当に食べてしまっても良いんじゃないか? とルナールの頭の中には浮かんでいた……。

「さて、何度も復活すると言うのなら! ――骸式兵装展開、朱の番!」
 滑空靴で器用に走りながら、ユーベルコード『|模倣様式・木阿弥大津波《イミテーションスタイル・バーミリオン》』を発動。メイド姿が波しぶきの後ろに隠れたかと思えば、赤い海賊服のバルタン――エルグランデの外の世界で侵略活動を行っていた猟書家『メリー・バーミリオン』の姿が現れた。
「肉体が治療されて復活するのなら、メンタルを削りマース!」
 気合を込め、ファルシオン風サムライソードを一振りすると大津波がクラーケンに向けて襲いかかる。大津波はクラーケンを飲み込んだかと思えば、身体には傷1つついていない。
 その代わり、クラーケンの脚の動きが少しずつ止まっていくのが伺える。この戦いに対するやる気が大津波に飲まれる度にどんどん削がれているようで、完全にやる気が0になった時にはずぶずぶと海の底へと沈んでいくのが見えた。
「ついでにリアの毒を喰らえーですのー!」
 爪の先から流れる液体を小瓶の中に詰め、海へと投げ込んだエミーリア。彼女は毒を操るコントラ・ソールを使うため、追撃の毒をクラーケンへと流し込んでいく。
 身体を傷つけられないというのなら、精神を。まさにその通りに作用したためか、これ以上の攻撃は無意味だとバルタンはファルシオンを収めた。


●Case.4 呼びかけ

 クラーケンの動きを止めたことでルナールと会話する機会が出来たバルタンはルナールから情報をもらう。
 家族しか知らない《|観察眼《ディサーニング》》の対策を知っており、かつ、異世界へ移動できる者……フェルゼンの仕業であり、呼び出すのは今しかないだろうと。
「ふーむ……エミーリア殿、エルドレット殿にお繋ぎすることは出来マス?」
「あ、はい。少々お待ち下さいですの」
 フェルゼンに対する判断を今、自分達が下す訳にはいかない。そう判断したバルタンは1度、セクレト機関総司令官エルドレットに向けて連絡を入れる。
 ところが、向こうは今慌ただしい様子だ。現れたウィンドウの文字がいつもより乱雑で、誤字を乱発している様子がちらほらと見えた。
「ルナール殿が斯様に申しておりマスガ……どのように判断しマスカ?」


 ――悪い、いまそれどころjない!
 ――フェルゼンの奴の行方がわからんくなた!
 ――今、ヴォルフに探させってrt!
 ――Eldolet Abendroth.


「むむ?? 行方がわからない……どういうことデショウ?」
「おかしいですの。お父様達から逃げられる方法は無いというのに……」
「というか先生、誤字がすごい。そのぐらい向こうも慌ててるということか」
 フェルゼンの行方不明の報はエミーリアとルナールの頭も悩ませる。
 というのも、司令官システムから逃れる方法はごく僅かに限られており、特定の手順を踏んだり世界から脱出しない限りは必ず司令官システムに捕捉される。
 しかしフェルゼンが行方不明となって以後ゲートが開いたという情報もなければ、何らかのコントラ・ソールが使われた形跡もないというのだから、より一層2人は頭を悩ませた。

 しかしバルタンはこの港に来たときから、妙な違和感に気づいていた。
 まるで誰かに見張られているかのような感覚。薄幕の向こう側からクラーケンという存在やルナール達を見張るような、そんな視線が感じ取れる。
「……まさか……?」
 その言葉に対し、ルナールはなにかに気づく。
 もしかしたら、フェルゼンはずっと《|妨害《サボタージュ》》のコントラ・ソールを使い続けているのかもしれないと。

 その言葉に反応するように、クラーケンに異変が起こる。
 今度は、治療型のコントラ・ソールではなく……操作型コントラ・ソールが使われたとエミーリアが反応した。


***************************************

 ・フェルゼンが行方不明となっているようです。
 →司令官システムでも捉えることが出来ない状態となりました。
 →プレイングで呼ばれない限り、出てくる様子はありません。

 ・クラーケンは精神を破壊しても蘇ります。
 →何処からか精神操作を行われているようです。

***************************************

大成功 🔵​🔵​🔵​

唯嗣・たから
フェルゼンさん、たからと遊ぼ。って言ったら、来てくれる、かなぁ…?
クラーケンさん、連れてきた理由、知りたい。聞いたら、教えてくれる、かなぁ…?

どんな理由であれ、ひとまずクラーケンさん、倒さないと。
ええっと、ユニット借りて。たから、GOー。こういう経験、ないから、うまく使えるかは、ちょっとわからない…。

…しょ、食材にするのがブーム…だったら、ごめんなさい。
ええっと、たから、UCでちょっと腐らせちゃう。暴れる足は、からくり糸や、青龍刀で切断。食べちゃうぞ!って言ったら、ちょっとは怯んでくれるかな…。

…これ終わったら、イカ飯、食べたいな…パエリア、とかでも、いいなぁ…美味しそう、だし…(真顔)



●Case.5 クラーケンを討伐!

「エミーリアさん、ルナールさん! たから、助けに来た!」
 次にマリネロの街にやってきたのは、唯嗣・たから(忌来迎・f35900)。楽しく回った街がボロボロに崩されていると聞いて、居ても立ってもいられずに駆けつけてくれた。
 今もなお、クラーケンは脚を伸ばしてブンブン振り回し、戦闘員やルナールに向けて攻撃を仕掛けている。何度倒しても蘇ってくる相手に対し、そろそろ限界が近いようだ。
「すまん、たから殿! 交代してくれないだろうか!」
「わかった! ええと、でも、たから、お空飛べなくて……」
「でしたら、こちらの飛行ユニットをどうぞですの! 充電が心もとないですが……」
「うまく使えるか、ちょっとわからないけど……がんばる!」
 リュックサック型の飛行ユニットを借りたたからは使い方を軽く教わり、いざクラーケン退治へ。

 大きく脚を振り回すクラーケンは飛行ユニットを使っていた戦闘員を次々に叩きつけ、その衝撃で街を破壊していく。まるで空を飛び交う虫を追い払うかのように。
 それは同じく飛行ユニットを使うたからも例外ではなく、勢いよく叩きつけようと必死に脚を伸ばして、振り回し続けている様子が伺える。
「あわわ。当たったら、すっごく、危ない!」
「クラーケンはこれまでのダメージのせいで、怒り心頭ですのー! たからさん、お気をつけてー!」」
 コントラ・ソール《|賢者《ヴァイゼ》》によって引き出された戦闘知識を用いて、エミーリアは各自に指示を出していく。その途中でたからにも指示を入れつつ、戦闘員の救助を行っていた。
 そんな彼女からたからへ与えられた知識は『脚を封じればしばらくは回復に回る』という、至極単純な知識。クラーケンが使っている回復型コントラ・ソールが判明していないが、胴体を攻撃されたときよりは長く回復に時間がかかっていたそうだ。
「ええっと、それなら、脚をちょっと腐らせちゃう。……しょ、食材にするのがブームだったら、ごめんなさい」
「いや、別に食材にしなくていいからね!? 別にブームでもなんでも無いよ!?」
 これまで手伝ってくれた者達がクラーケンを食材にしそうになっていた流れを断ち切ってしまうことに少々心苦しさを覚えていたたから。しかしそこはきっちりと、ルナールが否定を入れておいた。食べたいならちゃんと倒してからにしなさい、とも。

 そんなやり取りをしている合間にも、クラーケンの脚はたからに向けて振り回される。
 幾人かの戦闘員もユニットを使って回避行動に専念していたが、一部のユニットからは充電不足の通知音が鳴り響いていてそろそろ危険領域に差し迫っている。
「えっと、えっと、じゃあ、えい!」
 流石にこのままでは全滅だと悟ったたからはユーベルコード『凌遅腐敗ノ刑』を執行。海の表面を駆け回り、地獄の底に眠る怨霊達に空からの光を浴びせて呼び起こす。
 明かりを受けた怨霊達は、何事かと手を伸ばしては光を振り払おうとしている。
 早く光を遮らなくては。早く屋根を作らなくては。そのためには、邪魔なその脚をどうにかしなくては。
 そんな思いが一気に積もり積もって、クラーケンの足を掴んで腐らせていく。
「これで……」
 腐敗臭が辺りに漂うが、潮風が全てを押し流すため街に被害は及ばない。代わりに海が少々汚れてしまったが、それは仕方ないとルナールが言う。
 どろどろに溶けた脚がばちゃん、ばちゃん、と海の中へ落ちると同時に、クラーケンは伸ばしていた残りの脚をもう一度たからへ伸ばしたのだが……。
「……食べちゃうぞー!」
 がおー、と両手を広げ、クラーケンに可愛らしい威嚇を放ったたから。その勢いは子供なのであまり怖くはないのだが、如何せん、これまで本当に切り落とされたり美味しそうと言われたりだったので、クラーケンは怖くなってしまって脚を引っ込めてしまう。
 本当に食べられてしまったらどうしようか? なんて表情が暗い海の底に見えた気もするが、たからにそれが見えたかどうかまではわからない。空の光は海に乱反射するため、一瞬のうちにしか見えないものだ。
「……これ終わったら、イカ飯、食べたいな……パエリア、とかでも、いいなぁ……」
 色々と考えるたから。そのうち、飛行ユニットの充電不足の通知音が鳴り響いたため、一旦エミーリアとルナールのもとへと戻ることに。


●Case.6 目的

「さて……しばらくクラーケンは回復中だ。目下、やるべきことはフェルゼンを探すことでもあるが」
 司令官システムに色々と問いかけているルナール。マリアネラ・ヴェレットからの返答もあったが、やはりフェルゼンはシステム側では捉えられなくなっているそうだ。
 それならと、たからは何かを閃いた。とてとてとエミーリアやルナールから離れ、誰もいない波止場の隅っこで大声を上げる。
「……フェルゼンさん、遊ぼーっ!」
 子供が遊びたい友達に向けて叫ぶように、フェルゼンに声をかけるたから。本当にそれで来る……とは考え難かったが、それでも、これまで優しくしてくれたフェルゼンならばと少し期待を胸に叫んでいた。

 叫んで、しばらく海を眺めていたたから。やっぱり来ないのだろうか、と諦めていた彼女は一旦帰ろうと振り返る。
 その瞬間、風が撒き起こった。突風に思わず目を瞑ってしまったたからの前には、2人の男性がいた。
「え……?」
 たからは一瞬だけ、判断がつかなかった。自分の目の前にいる2人――フェルゼン・ガグ・ヴェレットともう一人の男が似ていたものだから。
 けれど、彼らが口を開けばその判断はすぐにつけられた。もう一人の男――スヴェン・ロウ・ヴェレットは、フェルゼンのことを『オレの子』と呼んだからだ。
「……参ったな。オレの身体のテストプレイが、実の息子との対面とは」
 大きくため息を付いたスヴェンはたからに視線を向ける。エルドレットに『たからちゃんを守るように!』と言いつけられているそうで、一歩たりとも、たからの前から避けようとはしない。
 自分の息子が何をやっているのか。何を考えて、ここにいるのか。それを見定めるというように。

 一方のフェルゼンは……涼しい顔して、2人を見下している。その姿はまさに|侵略者《インベーダー》とも呼べるような姿にも見えた。
 しかし、それでもたからは怖気づくことはない。これまで優しくしてくれた彼ならば、きっと答えてくれるだろうと信じて、1つだけ問いかけた。
「……フェルゼンさん、どうして、クラーケンさんを、街に連れてきたの?」
 ――クラーケンをマリネロの街へ連れてきた理由。
 その理由の答えによっては、彼が敵対者となるかどうか判断がつけられる。願わくば、彼には否定してほしかったところだ。
 けれど……その幻想は打ち砕かれる。ただ一言、彼が冷たく言い放っただけで。

「ルナが機関に合流されたら、侵略が思うように進まないのでね」

 その言葉を告げると同時に彼は複数のコントラ・ソールを起動し、クラーケンの回復増長と周囲への攻撃を同時に行った。
 スヴェンが咄嗟にたからを庇ってくれたため、彼女に被害はない。その身体は多大なダメージを負っているが、与えられた任務を全うできたことに少々喜びの様子を見せている。
 だが……スヴェンはフェルゼンからダメージを受けたことで|ある異常《・・・・》に気づき、それをたからへと告げた。


 ――フェルゼン・ガグ・ヴェレット。
 ――彼は、コントラ・ソールを5つ以上使用していると。


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 ・NPC『フェルゼン・ガグ・ヴェレット』の所持コントラ・ソールが公開されます。
 →公式ページ→その他→NPC設定から確認することが可能です。
 →なお、彼は5つ以上使用していることが確認されています。

 ・クラーケン投入の目的が明かされました。
 →フェルゼン曰く『ルナールが機関に合流されると侵略が思うように進まなくなる』そうです。

 ・NPC『スヴェン・ロウ・ヴェレット』が合流しました。
 →以後、彼と共に戦うことが可能です。
 →彼は機械の身体なので、自由に空を飛べますし、コントラ・ソールも自由に使えます。
 →使用できるコントラ・ソールはNPC『エルドレット・アーベントロート』と同じです。

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大成功 🔵​🔵​🔵​


●Case.? 幕間『ありえない状態』

 同時刻、セクレト機関の司令官室ではフェルゼンのあり得ざる状態に司令官システムが大混乱となっていた。
 あらゆる脳の繋がったシステムと言えど、前代未聞の『常人のコントラ・ソール複数使用』ともなれば状況把握から始めなければならない。

 何故常人がコントラ・ソールを6つ以上使えているのか?
 それは複製されたものかどうか?
 複製されたとしたら誰から複製されたのか?
 いつ、どのタイミングでフェルゼンはコントラ・ソールを6つ以上確保したのか?

『ぐあああーー! 考えることが多すぎて脳がパンクしそう!!』
 司令官システムの1人、ナターシャ・アイゼンローゼが叫ぶ。
 彼は身体を持たないので、ヴォルフとエルドレットの前にウィンドウを出して文字を羅列するぐらいしか出来ないが、文字の大きさや形でその苛立ちははっきりとわかる。
『っつーか何!? アイツ、いつからあんな芸当出来るようになってたんだよ!?』
「知らねーよ、今それをヴォルフに調べさせてっから待ってろって」
「残れって言った意味がよーくわかったよ。リアちゃん、調べ物苦手だもんな……」
 大きなため息をついてキーボードを叩いているヴォルフ。戦闘員の彼ではなくエミーリアがマリネロの街に出撃した理由は、ヴォルフの方が調査力が優れているからだとエルドレットは言う。

 エミーリアは《|無尽蔵の生命《アンフィニ》》研究によって改造されたコピーチルドレン故に、一部能力が欠けてしまっている。
 調査力は一般の調査人に負けることはないのだが、多数の調べ物ともなれば今のナターシャのように脳がパンクしてしまう可能性も否めない。
『こうなることを《|預言者《プロフェータ》》で予見していたのか?』
 ナターシャがそう問いかけても、エルドレットは軽く笑って『勘』とだけ答える。天性のひらめきだけでエミーリアとヴォルフの立ち回りを決定させているのだから、この司令官、なかなか侮れない。


 しばらくしてから、ヴォルフの調査の手が止まった。
 彼が探っていたある情報――フェルゼン・ガグ・ヴェレットの健康診断結果一覧がお目見えすると同時、ある項目に指を添わせて確認していく。
「……ドレット。お前の言う通りかもしれねェぞ」
 大きなため息を付いて、椅子の背もたれに身体を預けたヴォルフ。既にエルドレットから推測を聞かされていた彼はそれを裏付ける根拠になりうる証拠を見つけ、頭を抱えた。
「何年前から?」
「……ピッタリとは言い切れねえが、32年前。その頃からアイツの体内にあるソール物質が減り始めている」
 ソール物質とは、エルグランデで生まれた者が持つコントラ・ソールを使うための物質。未だに謎も多いが、この物質があることでコントラ・ソールが安定すると研究結果が出ているが、反面、少なくなりすぎるとエルグランデという世界の空気に耐えきれずに死ぬと噂されている。

 いつだったか、ヴォルフとフェルゼンは食事を共にしたことがあった。そのとき、フェルゼンは『貧血気味故にソール物質が低減していると指摘を受けた』と答えており、ヴォルフ自身もそんなものなのか、と考えていた。
 ……けれど、よくよく考えればそれはおかしいのだ。
 ソール物質はコントラ・ソールを使うための物質と言えど、体内から減り続けることは無い。常時コントラ・ソールを放っているなら減り続けることはあるだろうが、それも身体の調節機能によって止められる。
「ってことは、アイツは今もコントラ・ソールを使ってるってことになる……よな?」
「そうなる。けどデータベース調べても、そんなコントラ・ソールは無くってな。今、俺たちもお手上げ」
『お手上げ~』
 エルドレットもナターシャも、お手上げの状態をヴォルフに見せる。万能なシステムと言われても、そこに無いなら無いですねの状態なので、フェルゼンの現在の状態について知ることは出来ないのだ。

『まあでも、フェルゼンのソール物質の低減については猟兵さん達に知らせておくべきだろう』
「だな。スヴェンとリアちゃんを通じて伝えておこう」
『ああ、俺がやっとくからエルはもうちょい調べ物しときな。……まだ、何かあるんだろう?』
「鋭いねぇ、ナタ」
 小さく笑ったエルドレット。長年の付き合いがあるからこそ、何も言わなくても解ってくれる相棒のようなナターシャが、今は心強くて助かるものだ。

「……ゼンが俺と同じ紅を使い始めた時期を、|見に行かないと《・・・・・・・》な」



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 ・ソール物質についての情報が公開されました。
 その他→世界設定に新たに「ソール物質」が追加されます。
 簡単に言うと『エルグランデの人々がコントラ・ソールを使うときに使うもの』です。
 これが少なくなると、死に至るという噂も……。

 ・フェルゼンのソール物質が極端に少ないことが情報として届けられます。

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響納・リズ
お体、辛くはありませんか? 私はそれがとても心配なのです。
フェルゼン様……。あの、夏の日のことを覚えていらっしゃいますか?
私はもう一度、あのときと同じように、あなたと過ごしたい、そう願ってます。
止まっていただけませんか?
たとえ、全てを分かり合えなくとも、寄り添うことはできると、私は信じております。
どうしてもというのなら、この身を犠牲にしても……この桜の舞いを超えてくださいませ。ですが、そのときは……この杖を持って、あなたと戦うことを選びましょう。……できれば、それは避けたいものですが。

もう一度、あの素敵愛らしいにゃんだふるプリン、ご一緒に食べに行きませんか? 私はいつでもお待ちしていますわ。



●Case.7 桜吹雪の向こう側

 暫くの間、スヴェンとフェルゼンによる争いが続いた。
 フェルゼンが複数のコントラ・ソールを使ってルナールやマリネロの街を襲えば、スヴェンが同じように複数のコントラ・ソールを使ってそれらを防御する。
「まったく、聞き分けの悪い子だな、あなたは」
「ハッ、誰のしつけのせいだとお思いで?」
 嫌味を言いながら、コントラ・ソール《|火炎《フラム》》と《|突風《ラファール》》を組み合わせた一撃を周囲に放つフェルゼン。
 大きなため息をつきながら、コントラ・ソール《|創造主《クリエイター》》で壁を作ってそれを凌ぐスヴェン。
 どちらも力を弱めること無く、一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 そんな攻防の最中、ひらりと1枚の花びらがフェルゼンとスヴェンの間を通り過ぎる。
 1秒にも満たない、瞬きの間にフェルゼンの視界が桜吹雪に覆われてしまった。
 いったい、誰がそんな事を? それを考える前に、エミーリアがある人物を連れてきていた。
「……フェルゼン様」
「……キミは」
 エミーリアが連れてきたのは、フェルゼンと夏のひとときを過ごした人物――響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)。桜吹雪の壁越しに、彼女はフェルゼンへと語りかけていた。
「お話は全て、エミーリアさんからお伺いしましたわ」
「…………」
「お体、辛くはありませんか? 私はそれがとても心配なのです」
 今も続く、フェルゼンのソール物質の低減。全て無くなってしまえば死に至ると噂される物質が無くなるということは、身体にも多大な影響が出ているはずだと考えたリズ。
 その考えあって、ユーベルコード『|サクラサク花の舞い《サクラノイヤシヲアナタヘ》』を使い、フェルゼンを無理矢理眠らせて休ませようという心を持って、彼の前に立っていた。

「フェルゼン様、あの夏の日のことを覚えていらっしゃいますか?」
「……キミとマリネロの街を練り歩いた日か。ああ、よく覚えているとも」
 眠る様子のないフェルゼンに対し、リズは夏の出来事を思い出すように語る。
 水着を選んだリズはあれもこれもと選んで、最終的にどれにしようかと迷っていた。どれもこれも可愛いものだから、どれも着たいと思うほどに。
 それを制したのがフェルゼン。最初に選んだ水着のほうが可愛らしいと声をかけて、彼女の優柔不断な部分を抑え込んだのは記憶に新しい。
 更には弟であるルナ――ルナールが紹介してくれた店まで、フェルゼンは連れて行ってくれた。その時に食べたプリンは今でも忘れられない。
 スヴェンもルナールもエミーリアも、それは知らなんだ、という表情を浮かべているが気にせず彼女は続けた。
「もう一度、あの素敵な愛らしいにゃんだふるプリン……ご一緒に、食べに行きませんか?」
「…………」
「だから、どうか」
 止まって頂けませんか? その一言を発しようとした矢先、クラーケンが動き出す。
 既に大ダメージを負っているクラーケンは何かに操られるかのように脚を振り回し、街を、そして桜吹雪に覆われたフェルゼンを叩こうとする。
 だがそれを食い止めたのはスヴェンとルナールの2人。今、フェルゼンを食い止められるのはリズしかいないと判断したようで、彼らはそれぞれコントラ・ソールを使ってクラーケンの脚を封じる。
「レディ、すまないが息子を頼む。あなたの言葉なら、きっとあの子に届くはず」
「私と父様でヤツを食い止める! その間にフェルゼンを頼んだ!」
 桜吹雪の向こう側にいるフェルゼンを止める。
 それが、リズに課せられた使命となった。


●Case.8 |侵略者《インベーダー》 フェルゼン・ガグ・ヴェレット

「……フェルゼン様」
 しきりに飛び交う桜吹雪は今、うっすらと彼の姿を映し出す程度に降り注いでいる。
 この桜吹雪は眠りを与え、負傷を癒やす力を持つ。リズがフェルゼンを指定しない限りは彼が眠ることはなく、乗り越えた先にはリズが待ち構えているだけ。
「……私は、」
 小さく深呼吸をして、言葉を整えようと小さく目をつぶったリズ。今でも、あの夏の光景が脳裏に浮かぶのはまだ彼を信じているからだ。
 クラーケンをマリネロの街に送りルナールの機関合流の妨害を目論んだとはいえ、彼には何か理由があるはずだ、と。
「たとえ、全て分かり合えなくとも……寄り添うことは出来ると、私は信じております」
「寄り添う……ね。それは、この姿を見てもそう言えるかな?」
「それは、どういう……」
 桜吹雪の向こう側から、フェルゼンが近づいてくる音が聞こえる。彼は無理矢理にでもこの桜吹雪を突破しようとしているのか、あるいは、コントラ・ソールを使って突破しようとしているのか。いずれにせよ、眠りの力を使われていない今、桜吹雪は簡単に突破できてしまう。
 フェルゼンの表情は桜吹雪によって遮られて、見ることは出来ない。しかし優雅に桜吹雪の中を歩み進めるその姿からわかるのは、彼は自信持ってこの桜吹雪を突破しようとしている。
「……どうしても、と言うのなら」
 こともなげに前へ進むフェルゼンに対し、リズは強く握りしめたルナティック・クリスタを持って対抗すると宣言。桜吹雪を乗り越えたその一瞬こそが、勝負の分かれ目だと。
「出来れば……出来れば、それは避けたいものですが……」
「避けられぬ運命というものが、今ここに集約している。違うかね?」
「っ、それは……」
「ならば、運命を受け入れたほうが楽になるぞ。――|侵略者《インベーダー》となった男と戦う、と」
 嘲笑い、桜吹雪を通り抜けるフェルゼン。流石に近づかれてはまずいと思ったリズは、桜吹雪の使用指定をフェルゼンへ向ける。
 これで彼が眠って、終わってくれれば良いのだがと考えたのも束の間のこと。桜吹雪の波の中から、リズに向けて鋭い刃が飛んできた。
「っ!?」
 思わず飛んできた刃をルナティック・クリスタで弾き飛ばしたリズ。はたき落とされた刃はそのままリズの足元へ落ちると、音もなく砂となって崩れて消え去る。
 しかし、そちらに視線を奪われた一瞬のこと。フェルゼンは桜吹雪を通り抜けて、リズの前へとやってきた。

「っ……フェルゼン、様……」
 目の前にやってきたのは間違いなく、フェルゼン・ガグ・ヴェレットその人だ。リズもそれはよく解っている。
 けれど、今リズの前にいるフェルゼンは……普段髪の毛で隠していた右眼を曝け出して立っている。
 ――赤と緑と白の重瞳の眼。人が持つには不気味な右眼がそこにはある。
「その……眼は……」
 リズは彼の重瞳の眼があまりにも人から逸脱したものだったからか、文字通り目が離せなくなった。不気味ではあるが、その眼にも何か意味があるかもしれないから少しでも情報を集めたい、と。
 けれどその願い虚しく、彼はある一言を呟いてからリズの隣を通り過ぎていく。
「――《■■》コントラ・ソール《|時間操作《クロノスタシス》》」
 《|時間操作《クロノスタシス》》は使用者が指定した者や空間の時間を操作するためのコントラ・ソール。使える者はこのエルグランデにも数少なく、司令官システムにも登録されているものだ。
 だが、フェルゼンがそれを使えたかと言えばそうではない。現に、《|時間操作《クロノスタシス》》を使えることに血縁者であるスヴェンもルナールも驚きの表情を見せていたからだ。
 自分の時間を歪め、その場から姿を消したフェルゼン。クラーケンさえも捨てて離脱することを選んだのだろう、彼は以後姿を見せることはなかった。

「……フェルゼン様……今、なんと……」
 フェルゼンがコントラ・ソールの名を呟く前に、何かを付け加えていたことに気づいたリズ。
 けれどそれがどんな意味を持っているかまでは彼女にはわからない。
「……レディ」
 クラーケンを討伐し終えたスヴェンがリズに近づく。彼の表情は目の下のクマが物語っており、スヴェン自身も理解が出来ていない状態のようだ。
 しかし状況を整理するには、周囲の環境が悪すぎる。一旦リズや他の者達の状態を確認し、街の様子を確認してからフェルゼンのことについて話し合うことになるとスヴェンは言い切った。それが司令官システム側が導き出した答えとも。
「……はい。そうですわね」
 止められなかった。それだけがリズの心に重くのしかかるが、何より今は、フェルゼンの身体が心配だ。
 彼は今も何処かで、体内から無くなれば死に至るというソール物質を減らし続けながら生きている。その事実は揺らぎ無いのだから。

「……あなたが来てくれて、良かった。本当にありがとう」
 港から空を見上げ、礼を述べるスヴェン。
 フェルゼンを心配してくれる人がいるというのは、親として嬉しいものだと呟いて……彼はマリネロの街の被害状況を確認しに向かった。




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 ・『フェルゼン・ガグ・ヴェレット』がセクレト機関の敵と認定されました。

 ・フェルゼンの右眼は『赤・緑・白の重瞳』であることが分かります。

 ・どうやらフェルゼンはコントラ・ソールを使う前に何かを呟く様子……?
 →現時点では何を呟いているのかはわかりません。

 ・シナリオが完結となりましたので、このシナリオに参加された方々も『Side:A』に合流可能となります。
 →時系列は少し経った形になります。

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  『迫る悪意 Side:R』 complete!

     Next Stage →

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大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年12月07日


挿絵イラスト