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舞い降りし天使に酔う

#UDCアース #ノベル #猟兵達の秋祭り2023

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#猟兵達の秋祭り2023


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知花・飛鳥



一ノ瀬・帝




●才桜祭はひとり歩き
 私立才桜高校の文化祭当日。趣向を凝らした出し物が校内を彩って賑わう、年に一度のお祭り。
 旨そうな香りの屋台、やたら雑な壁新聞、もの凄く手が込んでいるお化け屋敷……テンションの振れ幅が大きいのは男子校ならではなのか、他校もこうなのか。一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)は一人で校内を散策していた。
(「去年はあまり見てなかったが、他学年の出し物もなかなか面白そうじゃないか」)
 休憩室と大きく黒板に書かれた解放された教室を覗き込み、あまりの雑さに笑いかける。
 そう。帝は今、一人でいる。折角のイベントだというのに、一人だ。一緒に見て回ろうと誘うつもりだった想い人は今はどこにいるやら。
 才桜祭準備が始まった頃、帝は「A組の出し物って決まったのか?」と、何気ない雑談の中で知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)に訊いたのだが。
「なんもない……」
「え? 聞こえなかった。なに、」

「うちのクラス、なんもせんから!!! ぜっったい!!! 来んといてや!!!!」

 才桜祭当日に教室に来たら絶交だと言われてしまっては、反故にするわけにはいかない。絶交されるより、一日我慢する方がマシだ。
 詮索無用と切り捨てられてしまい、いつにない迫力の飛鳥に気圧されてしまった。一体A組は何をしているのだろう。
(「飛鳥がいないとつまらないな」)
 こっそりと溜息を一つ。一年生の出し物を眺め、胡散臭さ全開の『占いの館』の販促ポスターの前で足を止めた。簡素なイーゼルを彩る『恋愛運アゲてアゲル』の薄ら寒さといやに禍々しい色使いは、逆張りのセンスの塊だ。帝の冷ややかな視線を受けて、客引きに出てきた一年生はたじろいでいるが、気にかけてやるような余裕は生憎とない。
 今日は何をして過ごそうか――吐息は深く重い。すれ違う在校生は嬉々と祭りを満喫している。
 まさか飛鳥にあんな風に拒絶されるとは思っていなかった――巡る後悔と悔悟に、今すぐ飛鳥の所へ行って謝ろうかと爪先を向けて、踵を返す。来るなと言われた以上行けない。飛鳥に拒否されたくない。堂々巡りの思考に『占い』の文字はひどく癪に障った。このモヤモヤを消せないくせに。八つ当たりに怒る肩に衝撃を受けたのは、そんな時だった。

「うわっ、すみませ……ひっ!」

 可憐な少女――否、聞き覚えのある声が悲鳴を上げる。帝が聞き間違えることはないが、いつもの見目と乖離している。
「……飛鳥?」
「ミカァ!?!?」
 やっぱり飛鳥だった。

 ◇

 チラシを配りながら、前を見ずに(照れて足早になって)歩いていたのが仇となった。
 今は一等会いたくない人に会ってしまった。こんな狭い校内で、今日だけ顔を合わさないということは不可能に近いのだが、きっと帝は叶えてくれると思っていた。
 今日だけで良かったのに。
 無理難題だと判り切っているのに、「来んといて」と突き放した――だから、彼は一年のフロアにいたのだ。飛鳥のお願いを叶えようとしてくれていた帝は、心底驚いている。
「なんで、そんな格好……え、っと、メイド?」
「見たらあかん! なんで?! なんでココにおんの!!」
 八つ当たりだ。こんなことを言ってはいけないことも判っている。全部忘れてくれ。今見たことを、夢として忘れてくれ。
「なんでって、今日はお前に教室来るなって言われたから……それより、その格好って?」
 律儀に応えてくれて、もう一度同じことを訊かれた。
 もはや誤魔化すことはできない。誤魔化すという次元を超えている。飛鳥は己の纏う服を見下ろした。
 絶望だった。
「いやっ、これは……あの……あああ、えっと、あ! 見て、ミカ! UFO!」
 窓の外を指さして叫ぶ。
 その声に怯んだ(決して指に釣られて振り返ったわけではない)帝から逃げ出さんと靴底がカツっと廊下を削ったけれど。
「待てって、飛鳥」
 帝の大きな手は、飛鳥の腕をしっかり掴んで離さない。
 揺れた|布《スカート》の予想外の動きに、飛鳥はやっぱり絶望した。

●見つけた天使に
 膝はスカートの裾に隠れている。決して短いわけではない丈のフレアは、白いエプロンと一緒に上品に揺れていて。なるほどペギー・カラーのフリルとスカートのそれは同じものか。
 肌が薄らと透けるほどに繊細なレースの靴下、美しく磨かれたローファーにと意外に手が込んでいる装いだ。
 誰がどう見てもクラシカルな「メイド」だと判る格好だ。
 飛鳥の淡い桜色の髪は、帝の知っている長さよりもうんと長いから、一瞬誰だか判らなかった。控えめな光沢のリボンがあざとさに拍車をかける。
 人懐っこい垂れ目を縁取る睫毛はマスカラでボリュームアップされて、上気する頬はチークでピンクに染め上げられている。艶めくリップは瑞々しく、男の劣情を煽るようで目に毒だった。
「……ミカ? 大丈夫か?」
 上目遣いに覗き込まれる。いつもよりくっきりとした双眼に心臓が痛い。
 心配されるのは、帝というよりも女装している飛鳥の方だろうに。彼を好奇の目で見ていく男どもも「かわいくね?」なんて噂しながら去っていく。
(「なんで、こんな、可愛い格好して……しかもチラシを配り歩いているとか、この姿で歩き回っていたのか、男子校を」)
 何をどうしたらこんな美少女になる。飛鳥の見え透いた嘘に付き合ってやれなかったくらい、聞きたいことが沢山ありすぎて混乱する。否、答えは単純。飛鳥をメイクアップしただけ。そうするとあら不思議、美少女の完成だ。
「にっ、|似合《にお》うとらんやろ? 俺もミカには敵わんけど身長あるし? 女の子みたいに細ないし? やのに、こんな格好」
 必死に捲し立てる飛鳥は、彼のクラスの出し物が『執事&メイド喫茶』であることと、それに決まった経緯を説明してくれて、漸う納得した。
 その間、目の前にいる――どこを切り取っても可愛いしかない飛鳥から目を離せずにいた。
 この姿を今まで独占していたらしいA組の連中が羨ましくも妬ましい。しかし奴らのゴリ押しがなければ、この天使は現れなかったわけで。感謝していいやら、恨んでいいやら。複雑すぎて名状し難い。
「……もぉ~~、こんな格好見られとうないから隠しといたのに!!」
「大丈夫だ飛鳥」
「なにが大丈夫なん? 笑えるて? おちゃめしてたらキツないか?」
 首を傾げれば、髪を束ねるリボンも揺れる。そんな些細なことにもときめいてしまった。
「違う、可愛い」
「………………へぁ?」
 言葉を失ってしまった飛鳥に、無問題だと肯きを一度。
「すごく似合っている。すごく可愛い。胸を張れ」
「ちょ、いや、そんっ」
 真っ赤になってわたわたとエプロンを掴んでみたり、帝の視線から逃げるように顔を背けてみたり、ついにはチラシで顔を隠してしまった。
 そんな――
「照れてる飛鳥も可愛い」
「はっ、ハズかしわ!! も……見んといて……!」
「イヤだ。よく見せて」
 女顔というわけでもない。やわい印象を抱かせる垂れ目ではあるが、見目で女性と間違えられることはない。
 それが、なかなかどうして。

「可愛い」

「~~っ! 男として全然嬉しゅうないんやけどそれ!」
 そういう括りを投げ捨てて、眼前の飛鳥は可憐で魅力的に照れて艶めいていた。
「なあ飛鳥。俺もここに行ってみたいんだけど」
「俺んとこにか!?」
「これ、食べたいんだが?」
 チラシに載せられているオススメの写真を指さして。
 言い淀んで唸った飛鳥に見上げられる。なにを言いたがっているのか、本当のところは判らないが、彼は唸り声から発破の一声に変える。
「…………めちゃめちゃにキュン❤️しまくったるわ」
(「なんだそれ、俺の心臓、壊れないよな」)
 やけくそ気味に破顔した飛鳥は、くるりと踵を返す。ふわりフレアが膨らんで――飛鳥の悲鳴がした。

●絆され酔って微笑んで
「お坊ちゃんが戻られたで」
 来慣れた教室だというのに、異様な雰囲気に賑わっていた。

「おかえりなさいませ」

「お……そういう?」
 |飛鳥《メイド》に問えば、莞爾として頷いた。
「すぐにお食事をお持ちします。掛けて待っとってください」
 抜けない関西弁が彼の最後の可愛い抵抗だ――たぶん。
 室内をそわりと見回してみて、気合の入り方にトクベツを感じ取る。
「一ノ瀬……見てみろ、ココ」
 まさかインスタント写真を販売しているなんて思わなかった。しかも、「メイドさんといっしょ!」なんて煽り文句まで書かれている。
「一枚500円だけどな、サービスしてやる」
 いやに馴れ馴れしい|執事長《委員長》は今更ながら、「おかえりなさいませ、お坊ちゃま」なんて茶化してみたり。

 運ばれてきたのは、チラシに載っていたオススメプレートそのもの。
 違うのは、オムライスに「❤ミカ❤」とケチャップで書かれていたこと。
「メイドさん特製プレートやで」
 照れながらも、最高の笑顔の「キュン❤」をもらって、きわめつけは「あーん」のオマケ。
(「味が判らない……」)
 それを凌駕するほどの飛鳥の可愛さが心を埋め尽くす。味を感じている余裕はない。視界を占める飛鳥で忙しい。
「では、お坊ちゃま、お写真を一枚」
 執事長がカメラを構える。焚かれたフラッシュの余韻が消えた瞬間、ぴたりと寄り添った飛鳥とのツーショットが吐き出された。
 小さな白いフィルムが色彩を浮き上がらせるまでの時間、飛鳥は帝の側に居て。
「そんなん撮って嬉しいか? 俺、いつも会えてるやん?」
「メイドのお前には、いつでも会えないだろ?」
「忘れよな、はよめに」
「それは難しい相談だな」
 ゆっくりと浮き上がってくる二人の姿を眺めながら、帝はオムライスを頬張る。
「うまいか、ミカ?」
「ああ、とっても」
「そら良かった」
 静かに交わされる言葉は、喧噪に溶けていく。

 才桜祭に突如として舞い降りた天使に給仕されて大変にご満悦の帝は、一枚の宝物を胸に仕舞った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月23日


挿絵イラスト