黄昏のライスメキア
●モミジ狩り
秋の季節は少しは、少しアンニュイな気持ちになる。
これから冬になっていくのだから、その感情も間違ったものではないだろうと思う。
冬は生命にとって暗黒の季節だ。
実りは少なく、春の訪れを耐え忍ぶしかない。
とは言え、次世代ゴーストである自分にとっては凍える冬こそが共とするものであったのかもしれない。けれど、今は違う。
ゴーストもまた生命と共生することができる。
共に路を歩む事ができる。
だから、自分は――遠野・路子(悪路王の娘・f37031)は、此処に居るのだ。
乱舞するように紅葉が彼女の周囲を取り巻いている。
彼女が手にした七支刀が煌めく度に、紅葉が切り裂かれていた。ともすれば、それは演舞めいた美しさを示すものであった。けれど、些か事情が異なるようだった。
「待って。ミコ、顔を出さない」
路子は己の完全武装の鎧の中から顔を出したミニチュア視肉を片手で抑えて、迫る紅葉を刃で切り裂く。
もしも、彼女を知る者……そう、例えば『銀誓館学園』の能力者などが見たのならば、彼女は一体何をやっているんだと思ったことだろう。
そもそも路子もなんか違うな、と思っていたのだ。
同級生たちが語る『紅葉狩り』、先生が語る秋の行楽。
どれもが己の知るものとは異なっているように思えていたのだ。けれど、特別それに言及したことはなかった。
なぜなら、これは自らの使命であるからだ。
『紅葉狩り』が?
そう上級生の銀鈴・花は不思議そうな顔をしていた。
あれはきっと自分の知るものとは異なることを予想させるには十分な表情だったはずだ。
「君は君の使命を果たすと良い。どれだけそれが君の周囲と乖離するものであったとしても、それは君だけの路であるのだから」
教諭である『皐月・エイル』の言葉を思い出す。
彼は自分を眩しいものを見るような目で見ていた。
「行くよ、ミコ。顔を出さないでね」
路子の瞳がユーベルコードに輝く。
一体全体どういうことなのか。
そう、『紅葉狩り』とは文字通りの言葉である。
彼女が今相対しているのは紅葉のゴースト。そんなゴーストがいるのかと今まで真面目な雰囲気は説明に酔って一気に瓦解したことだろう。
いやいや、違う違う。
ちゃんと真面目な話なのである。
秋とは収穫の季節でもあるが、同時に冬へと向かう黄昏の季節でもある。
生命が動きを鈍らせるのならば、それを駆逐せんとしたゴーストが活性化するのもまた道理であったのかもしれない。
故に次世代ゴーストである路子が、秋に発生する大量の紅葉のゴーストを撃退する使命を帯びていたのだ! ほら真面目だった!
「天より至れ、幾千の星よ」
彼女の指先が天を示す。
その一点は光を明滅させ、次の瞬間、分裂と加速を繰り返す光の矢となって全方位から路子を取り囲んだ紅葉ゴーストの体を一瞬で貫くのだ。
それは、天より至る白き幾千の星(ソラヨリイタルシロキイクセンノホシ)。
路子は一瞬で多数の紅葉ゴーストを撃退してみせた。
だが、彼女はまだ終わっていないことを知る。
そう、毎年のことなのだ。ここからが本番だと言っても良い。去年は天候のせいもあってか、紅葉が遅れていた。そのため、幾度かに分けて紅葉ゴーストを撃退したので楽だったのだ。
けれど、今年は違う。
大量の紅葉ゴーストが発生しており、強大になっている。
「やっぱり、今年は一味違うね」
目の前で紅葉ゴーストが合わさり、巨人めいた姿へと変貌する。赤い巨人。その咆哮が轟いた瞬間、路子は瞳をユーベルコードに輝かせる。
思い出す。
教諭『皐月・エイル』の言葉を。
私の路。
使命と共にあること。人と共に在ること。
そのために自分が成さねばならぬこと。
煌めく瞳でもって路子は、手にした蒼銀の宝石を砕く。
瞬間、響くは歌声。
「ゴースト。我等は『生きて』いる。『生命』ならずとも今を歩む|『魂』《いのち》がある!」
それは歌だった。
生命でなくても歌うことができる。
生命賛歌は今も歌えるか。いや、今も歌えなくても、自分だけの路があるように。
「心魂賛歌(タマシイアルイハイノチヲタタエルウタ)は歌えているか。うん、歌えているよ。私は、今も。これからも。きっと歌い続ける」
彼女の手にした詠唱銀の槍が投擲される。
それは紅葉満ちる空を切り裂き、彼女に迫る赤い巨人の核を一撃で貫く。
目の前で紅葉ゴーストたちが砕けていくのを路子は見つめる。
はらり、と風に揺れるように。
「今年も頑張った。ミコ、美味しいモノ食べて帰ろう?」
息を整えて路子はもと来た道を戻る。
目の前には自分だけの路がある。
なら、それでいいじゃないかと思うのだ。誰にも否定できない。誰にも照らすことのできない路が私だけの前にある。
それが誇らしい――。
成功
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