秋も深まってきたとはいえ、昼間はまだ暖かい。浴衣を着た祭りの参加者たちに紛れて浴衣姿のリプスはスルスルと人混みを避け歩いていく。
元々は作物の収穫を祝う祭りだったそうだが、今はすっかり並ぶ屋台が主役という有り様だがそれもまたよしとカロンと下駄を鳴らした。祭りなのだから、楽しい方がいい。
「こういうのは、楽しんだほうが吉っすからね!」
適当に買った串焼きを手にぶらぶらと屋台を物色する。甘い香りのするカルメ焼きや炭火で焼かれた魚、その場でハサミを使って鳥を作る飴細工など種類は様々だ。
飴細工を手に目を輝かせる子供を横目に食べ終わった串をぶらつかせながら、次はあれよりもう少し食べやすそうな甘いものでも買おうかときょろきょろと周りを見渡す。このあたりは酒のつまみになるようなものの方が多そうだ。
「おう兄ちゃん、一杯どうだ?」
「ん?俺っすか?」
すっかり出来上がっている酔客に声をかけられて立ち止まった。まだ見て回りたい出店はたくさんある。ここで酒で腹を膨らませるのもなんだか勿体ないと手をかざして遠慮した。
「今はまだいいっす」
「兄ちゃんウワバミみたいな顔してるのになぁ!」
「ん?俺は人間っすよ?」
「あっはっは!そりゃそうだ!」
不思議な顔をするリプスの言葉を冗談だと思ったのか、酔っぱらいたちは楽しげに笑うだけで深く考えることはなかった。
もしも考えたところで、目の前にいるのが本当は人間ではないなんて夢にも思わないだろう。わかってしまったところでリプスは同じように自分は人間だと言うだけではあるのだが。
「お、綿あめもいいっすね!」
熱された砂糖の香りが辺りに漂い空気が少し香ばしい。綿あめの方は口にするとスッと溶けて甘さだけが残るのに、祭りの雰囲気の中だ妙に美味しいような気がした。
「りんご飴、うーん……りんご飴一つ!」
綿あめもりんご飴も手に持って歩くとなんとも祭りらしい気分になる。ひとくち齧ってみると中のりんごが酸っぱくて、甘いものを続けて食べた口にはなんとも嬉しい。
みんなここで祀られている神様のことなんて考えてはいないかもしれないが、こうやって実ったものを食べて酒を飲んで楽しく過ごしているのを見れるなら嫌な気持ちにはならないのではないだろうか。
「おまつりするなら、こういう方が楽しいっすもんね」
遠くから神輿の掛け声が聞こえてくる。それを見るためにリプスは声の方に足を向けた。
成功
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