ブラーフマナは百の年月を歌うか
ジュディス・ホーゼンフェルト
シナリオ『憂うはエースの憔悴』終了後に温泉に入るノベルをお願いします。
アドリブ改変文字数その他諸々の詳細はお任せします。
差し支えなければナイアルテさんや神機の申し子達その他誰かが出演なさってもよろしいかと思われます。
●つまり?
シーヴァスリーとビバ・テルメの休戦交渉の後、ジュディスはビバ・テルメに訪れていました。
目的は温泉です。
「は〜生き返るわ〜」
ジュディスは思いました。
シーヴァスリーはゲリラ部隊の処刑よりも海岸よりもプラントよりも、この温泉を確保するべきではなかったのかと。
「ビバ・テルメに温泉有り。アナスタシア聖下にも報告しなきゃね〜」
などと寛いでいると誰かが入ってくる気配がします。
「でっけぇ温泉ですわ〜!泳ぎ放題ですわ〜!」
響き渡る黄色い声にジュディスはファッ!?ってなりました。
この声には聞き覚えがあります。
そう言えば交渉の場でピンクのアホ姫が温泉温泉騒いでいたような。
「メサイア!温泉はプールではないのですよ!」
また聞き覚えのある声がしました。
ジュディスはバーラント機械教国連合という国の教皇様にお仕えしている執行官です。
エルネイジェ王国とバーラントは古くから仲が悪く戦争ばかりしていました。
ですがここはアーレス大陸の外なので争いを持ち込みたくはありません。
更に教皇様からは『我が神命無くば、イェーガーへの手出しは許さぬ。今はまだイェーガーの力を見定める時であるが故に』と厳命されています。
しかしこちらが手を出さなくとも狂戦士のソフィアと邪魔者はチェストして進むメサイアが手を出さないとは限りません。
なので接触を避けていました。
「見つかる前に上がろっと」
ジュディスは脱出を試みます。
「ぶっは〜!ですわ〜!」
ですが突如目の前にメサイアが浮上してきました。
「メサイア!いい加減に……あら?貴女は……」
後ろにはソフィアが現れました。
「ん?あなた確か休戦交渉の場に居たわよね?」
更に水之江も現れました。
「私は知らないのだわ……」
メルヴィナも現れました。
「ハロー、アタシはハロウィンの魔女ダヨー」
ジュディスは取り敢えず誤魔化します。
「まだ泳ぎ足りませんわ〜!」
「メサイア!お控えなさい!」
ソフィアはメサイアを追って去ってしまいました。
メルヴィナは静かに温泉に浸かっています。
ジュディスは事なきを得ました。
「うちの製品はお気に召した?」
と思ったら水之江に話し掛けられてファッ!?ってなりました。
「製品?」
「あなたが乗ってたダークイーグル、あれうちで開発した機体よ?」
「そうなの?まー、それなり?」
「それは良かった。でもあの機体を卸してる所ってまだ極僅かなのよねぇ。ひょっとしてあなたバーラント出身?」
ジュディスはビクッてなりました。
メルヴィナもちょっと反応しました。
「さ、さあ?アタシはフリーの傭兵だからサ!よく分かんないナー!」
「そうなの?ならどうやって手に入れたのかしら?」
「それはほら、転売ヤーから買ったとか?」
しどろもどろになるジュディスに水之江は「ふーん」みたいに反応しました。
「いやー!長湯し過ぎてのぼせちゃった!アタシお先に失礼しますんで!」
嫌な予感がしたジュディスは退散します。
「やっぱり彼女ってバーラントの執行官だったのかしら?」
残された水之江は呟きました。
「そうなのだわ?」
メルヴィナはそれをしっかり聞いていました。
だいたいこんな感じでお願いします!
全部この通りじゃなきゃダメとかそんな事はありませんの執筆し易い形で執筆されて頂けると幸いです。
メサイア・エルネイジェ
以下は執筆時にネタに困った時の材料程度に扱ってください。
● バーラント機械教皇庁三等執行官ってなんぞや?
アナスタシアというバーラントで一番偉い教皇様にお仕えしている人達です。
ジュディスは三等級の執行官なので役職としては下っ端です。
●執行官って具体的に何するの?
教皇様に代わって見たり聞いたり話したり粛清したりするのが主な業務です。
要は雑用です。
シーヴァスリーとビバ・テルメの一件では、両国の脅威度の調査の為に訪れました。
猟兵も調査対象です。
●バーラント機械教国連合って?
アーレス大陸中央を支配している国家連合です。
バーラント機械教皇庁が最高意思決定機関を担っています。
巨神アーレスを崇めるアーレス教を国教に掲げ、武力によって支配圏を拡大しています。
しかし国土が広がり過ぎて内乱や軍閥の暴走等が起きています。
それらの鎮圧や粛清も執行官の役割です。
●アーレスって?
闘争を司る巨神の一体です。
アーレス大陸を拓いたとも大陸の守護神とも言われています。
アーレス教は同大陸で最も信者が多い宗教です。
●バーラントって何がしたいの?
アーレス大陸の再統一を目指しています。
バーラント曰く、元々アーレス大陸はアーレス教国という一つの国の元に統一されていたそうです。
なのでバーラントは我々がしているのは侵略ではなく開放であると主張しています。
●大陸外には侵攻しないの?
バーラントはアーレス大陸の守護者を自称しています。
アーレス大陸外の国や勢力に対しては基本的に保守的で専守防衛に勤めています。
暴走した軍閥が大陸外への侵攻を企てる事もありますが執行官に粛清されます。
●じゃあなんで大陸外の国を調べてるの?
侵略を受けた際の対処法の検討材料を得るためです。
特に巨神を危険視しています。
●なんで巨神を危険視するの?
大昔に大陸外から巨神の大侵攻を受けて大陸全土が滅んでしまったからです。
進撃の巨神です。
また、ただでさえ馬鹿強い猟兵の手に巨神が渡る事を非常に危惧しています。
機械教皇アナスタシアは、猟兵と大陸外の巨神の組み合わせがアーレス大陸に入り込む事を非常に嫌がっています。
桐嶋・水之江
以下は執筆時にネタに困った時の材料程度に扱ってください。
●水之江はジュディスの正体に気付いてたの?
察しは付いていましたが確証はありません。
バーラントと不仲なソフィアとメサイアの前だったので黙っていました。
●水之江とバーラントの関係って?
水之江はアーレス大陸で猟兵斡旋のビジネスを展開しています。
なのでアーレス大陸に出入りしている猟兵を大体把握しています。
その情報をバーラント機械教皇庁に渡しています。
バーラント機械教皇庁は猟兵の情報を欲しています。
特にアーレス大陸内のどこで活動しているかの情報を欲しています。
引き換えに自社の製品や生産権利を買い取って貰っています。
ジュディスが乗っていたダークイーグルはその一環でバーラント機械教皇庁に提供したものです。
ソフィア・エルネイジェ
●何人合わせ?
ジュディス
ソフィア
メルヴィナ
メサイア
水之江
以上5名です
同背後軍団の合わせなので文字数配分や扱いの公平性等は気にしないでください。
メルヴィナ・エルネイジェ
以下は執筆時にネタに困った時の材料程度に扱ってください。
●メルヴィナが何故ここに?
以前海に沈んだセラフィム・シックスが心配になったのでやってきました。
来たはいいけど既に全て終わった後でした。
「間に合ったとしても私に出来る事は無かったのだわ……」
なので温泉に入って帰ります。
●心境は?
休戦交渉の結果、制海権が取られたと聞いてシーヴァスリーの目的はセラフィム・シックスだと確信しています。
「それはそれとして、いい湯なのだわ」
騒がしいメサイアとソフィアの事はもう気にしない事にしています。
●ビバノンノ
はぁ~。
息が漏れる。それは疲労という体の澱が溶けていくような心地よさに身を任せるが故に出た反射的な吐息であった。
湯気煙る夜空の天蓋の下、ジュディス・ホーゼンフェルト(バーラント機械教皇庁三等執行官・f41589)は愉悦めいた声を上げて背を伸ばす。
暖かなお湯は体を温めるだけではなかった。
玉のお肌は戦いの疲労を癒やすために温泉の成分を貪欲に吸収している。
そう、彼女は疲れ切っていた。
もう本当に疲れ切っていた。
それをおくびにも出せないのは、彼女がクロムキャバリアのバーラント機械教国連合の執行官であるからだ。
でもまあ、今はただの湯治客だ。
だから、細かいことは言いっこなしだ。
「は~生き返るわ~」
本当に大変だったのだ。
小国家『ビバ・テルメ』と『第三帝国シーヴァスリー』の休戦協定。
これ自体は別段己が何かをするつもりはなかった。
成り行きとは言え『第三帝国シーヴァスリー』側の傭兵として達振る舞わなければならなかったことは、この際仕方ないことだ。
そもそも、この地方に彼女がやってきたのは、バーラント機械教国連合がこの地におけるイェーガー……己もまた覚醒した猟兵たちの動向を知るためである。
この地は嘗て『憂国学徒兵』と呼ばれる小国家『グリプ5』の前身たる存在がいた。
『ハイランダー』――『超越者』とも呼ばれた彼等。
最初の8人。
総じて『ハイランダー・ナイン』と呼ぶ彼は、戦乱によって記録が多く喪われているとは言え、今もなお周辺国家に影響を与えている。
敵からは『悪魔』と呼ばれ、味方からは『救世主』と呼ばれた国父『フュンフ・エイル』をはじめとして、傑物があの時代、一箇所に集まりすぎていたということ事態が異常なのだ。
そして、彼が駆った青いキャバリア『熾盛』。
百年前の時代に於いても、その働きは一騎当千と呼ぶには生温い。単騎で軍団すら壊滅させ、あの巨人たちの『サスナー第一帝国』すら滅ぼしたのだから。
「……あ~でも~……」
ジュディスはそんなことを考えながら、しかし、思考が別の事柄に染まっていくのを感じていた。
そう、温泉の効能である。
正直に行ってたまらん。
めちゃくちゃ良い。
温泉。これが『ビバ・テルメ』。多くの人々が集まってくるのは当初、彼女には不可解なことであったが、漸くわかったのだ。
これだ。
この温泉だ。人を虜にして止まぬ温泉。
「『ビバ・テルメ』に温泉有り。『アナスタシア聖下』にも報告しなきゃね~」
いや、本当に、とジュディスは肩まで温泉に使って蕩けたような顔をしてしまう。頬が緩む。いやいや、執行官としていつだって、厳粛なる雰囲気をはなっていなければならないとは思うけれど、無理だ。
これは無理ってもんである。
「『第三帝国シーヴァスリー』は見誤ったわね。ゲリラ部隊の処刑よりも海岸よりもプラントよりも、この温泉を確保うべきだったでしょ~」
アタシならそうするけどな~と、とっぷり温泉に骨抜きにされているジュディス。
このまま半月ほど此処にとどまって温泉宿でのんびりするのも悪くはないな、と彼女は思い始めていた。
温泉の魔力、此処に極まれりである。
「あ~このまま温泉の効能と魅力を聖下にお伝えするだけでよくないかしら~……」
放恣佚楽とはこのことである。
しかし、彼女の温泉生活の幕開けは、彼女自身の使命感や『アナスタシア聖下』への忠誠心によって阻まれたのではなく。
突如として温泉の女湯に響いた黄色い声によって、幕開けの前にエンドロールへと突っ走ったのである。
「でっけぇ温泉ですわ~!」
げ、とジュディスは思った。
思わずそんな声が漏れてしまったのは、この主に覚えがあったからである。
「泳ぎ放題ですわ~!」
その声と共にお湯が盛大に跳ねる音が響いた。
湯気に煙る此処では姿形はうっすらとしたシルエットでしかわからない。誠に残念なことである。力不足であることを此処に詫びたい。
それはもう湯気の向こうは桃源郷である。あ、髪の色的な意味ではなく。。
こう、その、ほら、あれである!
スペースシップワールド、スペースオペラワールドの何処かに存在しているであろう悪魔|塔《ルーク》星で頻繁に起こってそうな、トラブル的なあれそれ的な意味で、である。
口惜しい限りである。
「いや、そういうのはいいよね、今!?」
ジュディスは誰にツッコミを入れたのかわからないが、しかし己の今の状況が非常にまずいことを理解していた。
この黄色い声。
とってもアホの子っぽい声。
聞き間違えるわけがない。
バーラント機械教国連合と犬猿の仲とも言える『エルネイジェ王国』のアホ姫にして暴走機関車ならぬ暴走機竜。通った後に残っているのは破壊とストゼロの痕しかないとまで称されるメサイア・エルネイジェ(暴竜皇女・f34656)の声であると知っているからである。
二国間の休戦協定の折にも確認したから間違いない。
だが、アホの子メサイアだけならなんとでもなる。
適当に、ささーとお湯から上がって、「お先に失礼」とかなんとかしゃなりしゃなり行けば誤魔化せる! 行ける!
だが、ジュディスは思わず呻いた。
「メサイア! 温泉はプールではないのですよ!」
ソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)が温泉にプールのように飛び込んだ末妹を叱り飛ばす声が響いた。
「げえっ、ソフィア・エルネイジェ」
でーでーん。
世が世なら赤兎馬乗ってそう。理性在る狂戦士。『エルネイジェ王国』の聖槍。そう、ソフィアである。
厄介が過ぎる。
そう、ソフィアの恐ろしさは末妹であるメサイアに勝る圧倒的な武力を有しながら、しかし彼女のように何処かぷっつんしていないところにある。いや、ぷっつんしているけど。テ形に対しては苛烈極まりなく。
戦術という領域に於いては、最も警戒しなければならい存在である。
気が付かれる。
姿を認められては、まずい。
ジュディスは逃げなければ、と思った。
そう、『アナスタシア聖下』はおっしゃられたのだ。
『我が神命なくば、イェーガーへの手出しは許さぬ。今はまだイェーガーの力を見定める時であるが故に』
その厳命を忘れるわけがない。
己自身も猟兵として覚醒しているからわかる。メサイア、ソフィアはあの場にいた事からも猟兵であることが確定している。
ならばこそ、己との接触は不用意なものである。
「いや~! ソフィアお姉様、お裸で尻叩きはダメージ大きいのですわ~! 直に、直には~ああああ~っ!?」
「うわ、めちゃくちゃ良い音してる……ってそれどころじゃないっ!」
ジュディスは見つかる前に上がろうと脱出を試みる。
まごまごしていては、確実に逃げ遅れてしまう。自分の身分がまだ割れてはいないにしても、長居すればボロが出ないとも限らない。
「ぶっは~! ですわ~!」
「ッ!?」
だが、次の瞬間にジュディスの目の前に表れたのはピンクの濡れオバケならぬピンクの暴走特急機関車メサイアの顔であった。
そう、彼女はソフィアの尻叩きを逃れて温泉の中を潜水してジュディスの前に表れていたのである。
ちなみにであるが、ふたりとも大変に素晴らしいプロポーションをしておられる。
映像でお見せできないのが本当に。
あ、うそうそ。いまのうそ。ちょっとしたシリアスの前の清涼剤ですやん。たまにはこういうね、ほら、緩急? って必要だと思うんスよ。
温泉回ってある。
今回がそれである。
「メサイア! いい加減に……あら? 貴女は……」
メサイアを追ってソフィアも湯気の向こうから現れる。お見事なプロポーションである。やっぱり見えてるよね? え、見えてない? 心の眼でよろしくです。
「ん? あなた確か休戦交渉の場に居たわよね?」
さらに背後から現れるのは、桐嶋技研の所長にして天災博士こと、桐嶋・水之江(機巧の魔女・f15226)、38歳である。38ぃ!? 二度見したくなるほどの若々しさである。え、マジで?
「あら? 私また何かやっちゃった?」
謎のポーズと光である。
はえ~すっごい。じゃない。いい加減戻したい。シリアスに。
「私は知らないのだわ……」
さらに遅れてやってくるのは艷やかな黒髪と物憂げに下がった眦の美女。
そう、我らが『エルネイジェ王国』の第ニ皇女、メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)殿下である。
麗しの黒髪に隠れちゃいるが、これまた素晴らしいお体である。
そんな見事な美女たちに湯気と共に囲まれたジュディスは、正直生きた心地がしない。
敵対国の皇女が三人揃った上に、あの桐嶋技研の所長が己を囲んでいるのだ。
正直に言って絶体絶命である。なら、そこ変わって欲しい。
……っていやいや、違う違う。そんな場合じゃあない!
ジュディスは頭をフル回転させた。この場を切り抜けるための方策を、方便を! 間違っても己がバーラント機械教国連合の執行官であることがバレてはならない。
「ハロー、アタシはハロウィンの魔女ダヨー」
フル回転させた頭から飛び出したジュディスの言葉は、二番煎じであった。
此処は温泉なので、浮かれたハロウィン衣装なんて身に纏っていない。よしんば在ったとしてもバスタオルである。いや、湯船にバスタオルをつけては汚れるので『ビバ・テルメ』ではご遠慮いただいている。
となれば、装備しているのは湯気と謎の光だけである。
苦しかった。
めちゃくちゃに苦しい言い訳だった。
しかし、それ以上にメサイアは空気読まないし、読めないし、読む気なんてそもそもないし、お空気? それは美味しいんですの? ストゼロの方がよろしくなくて? くらいのことを言う彼女が頷く。
「なるほどですわ~! おトリック・オア・おトリートというものでしたわね~! ですが、ハロウィンの季節にはもうちょっと早いのですわ~! というわけで、とうっ!」
ざっぱんと彼女は温泉をバタフライで泳ぎ去っていく。
飛ぶお湯の飛沫と湯気。
「メサイア! お控えなさい! ここは貸し切りではないのですよ! 他のご利用者の方がいらっしゃるのならば、泳いではなりません! その前に貴女、かけ湯もしていないでしょう!!」
最大の脅威、ソフィアはメサイアにかかりっきりである。
生きた心地がしなかったが、しかし、首の皮一枚で繋がった。手繰り寄せたのである、未来を!
そう、ソフィアは此方が手を出さなくても突っ込んでくる狂戦士である。彼女が時限式爆弾だけど、時間通りに炸裂するとは限らない爆弾であるチェスト狂いのメサイアにかかりきりなのである。
この好機を逃すわけにはいかない。
幸いにしてメルヴィナは姉と妹のやり取りがいつものことなのか、ゆっくりと温泉に使って暖かさを堪能している。
「いける……! 今なら」
ジュディスは逃げようとした。今ならば、何の波風も立てずに温泉から出られる。
だが、足が動かない。
「なん、だと……?」
そう、温泉から体が上がることを拒否しているのである。
まさかの此処に来ての罠! 圧倒的……! 罠……!
そう、温泉は一度浸かった者を早々に逃さない。一度味わってしまえば至福の時。体を温泉から立ち上がらせたはいいが、秋風に体が冷えてしまったのだ。
この状態でもう一度温泉に身を浸せば、どうなるか。
わかっている。
絶対気持ちいいやつである。負ける。負けちゃう。こんなの絶対無理。
「まあまあ、もう少しゆっくりしていったら? 体冷えちゃうでしょ」
そう言って水之江が微笑んでいる。
一見すると優しいお姉さんである。だが、ジュディスは彼女がどういう人間なのか知っている。
そう、彼女はアーレス大陸で猟兵斡旋のビジネスを展開しているフィクサーである。
この地域にジュディスがやってきたのも、彼女からもたらされた情報を得たからだ。
『巨神』――それこそが『アナスタシア聖下』が警戒する一因である。
聖下はアーレス大陸の再統一を目指している。
何故、それを望むのかなど言うまでもない。
『アーレス教国として大陸を統べ、偽りの先導者たちから開放を。我らこそがアーレスの守護者なのだから』
そう、それがバーラント機械教国連合の目的。
しかし、『巨神』だけは座視できない。
かつて、大陸外からの『巨神』の大侵攻を受けて大陸全土が滅んだ伝説が今も残っているからである。
クロムキャバリアの各地で『巨神』の目覚めが確認され、時にはイェーガー……猟兵がこれを従えることもあるというのならば『アナスタシア聖下』が、これを警戒するのは当然であろう。
言ってしまえば、『巨神』に対するアレルギーである。
「で、うちの製品はお気に召した?」
だが、そこに水之江が畳み掛ける。
そう、彼女はフィクサーである。
情報も売るし、キャバリアだって売る。
売れるものはなんだって売る。商機を逃さないのが彼女である。
「製品?」
ジュディスはすっとぼけた。いや、内心では『ファッ!?』となっていることこの上ないが。
「なんのこと?」
「お姫様たちには聞こえていないから安心していいわよ? あなたが乗っていた『ダークイーグル』、あれうちで開発した機体よ?」
「そうなの?」
ジュディスの言葉は少なかった。
繕うために言葉を弄すれば、水之江は確実に、その隙を突いて綻びに変えてしまう。ならばこそ、彼女は多くを語ることをこそ控えなければならなかった。
「まー、それなり?」
「それは良かった。でも、あの機体を卸してる所ってまだ極僅かなのよねぇ」
水之江が首を傾げる。
あーこれはおかしいわねー? なんでかしらねー?
この、とジュディスは思った。
だが、まだである。決定的なことは何一つこぼしていない。このまま、惚けて流してしまえば……。
「バーラント、だけなのよねぇ」
びく、とジュディスは肩を震わせる。
やられた、と思った。水之江は敢えて己に機体の感想を求めた。彼女のことだ、手広く商売をしているだろうから、当然あの機体『ダークイーグル』もまた他国にも売っているだろうと思ったのだ。
だが、水之江はそこまで考えなしではなかった。
情報とは確かに重要だ。
だが、その情報を如何にして得るかなど言うまでもない。大本を彼女が握っているのだ。コントロールすることなど容易。
何処の国に何をどれだけ。
たったそれだけでも真実を手繰り寄せることができる。
「さ、さあ? アタシはフリーの傭兵だからサ! よくわかんないナー!」
思わずカタコトになってしまう。
また墓穴を掘った。フリーであることを協調しすぎた。機体を降ろす数を限定している以上、あの機体の特異性は、その性能ではなく、限られた場所に限られた数しか存在しておらず、把握しているのは水之江しかいないということに在る。
つまり。
「そうなの?」
ぶわ、とジュディスは体は秋風に冷えているのに汗が噴出する。
「て、転売ヤーから買ったとか?」
苦しすぎる。
だが、水之江はあまり興味がないようだった。
ふーん、と気のない返事をしていた。本来の彼女であるのならば、転売ヤー死すべし。慈悲はない! くらいのことはやりそうだった。
いや、言葉にしなくても、己のシノギの領分で勝手をしようとする者を粛々と制していくことくらいは指一つでする。
それが出来るだけのネットワークとコネクション、そして資金を彼女は有しているのだ。
だからこそ、ジュディスはなりふりかまっていられなかった。
メサイアとソフィアの追い掛けっ子はまだ続いているのか、なんか怒声が響いている。
「メサイア!」
「ひぃん! おしりが割れてしまいますわ~!」
「元から割れているでしょう!」
「平和なのだわ……」
メルヴィナはそんな二人の様子に特に気にした様子もなく温泉に吐息を漏らしている。
今しかないとジュディスは思った。
「いやー! 長湯し過ぎてのぼせちゃった! アタシお先に失礼しますんで!」
これ以上はダメだ。
この場に居られないと彼女は水之江が二の句を告げる前に温泉から飛び出していく。
その様子、背中をみやり水之江は首を傾げる。
「やっぱり彼女ってバーラントの執行官だったのかしら?」
「そうなのだわ?」
水之江には確証が持てていた。
だが、此処には敵対する小国家『エルネイジェ王国』の姫君が三人もいるのだ。不仲たる小国家の関係者がいることをわざわざ喧伝しなくてもいいと思ったのだ。
それ以上に自分のビジネスに障るし。
だが、メルヴィナはしっかりと耳にしていたようで首を傾げている。
「さあ、どうかしら? 私の勘違いかもしれないし」
なんて、フォローを入れる程度にはまだまだバーラント機械教国連合には商機がある。切り捨てるには早い。
「そうなのだわ? それはそれとして、いい湯なのだわ」
メルヴィナは興味を失ったように温泉の湯を手のひらで掬う。
すくい上げたお湯に星光が瞬いている。
彼女がわざわざ此処に足を運んだのは、気がかりなことが一つあったからだ。
「『あの子』はまだゆっくり眠れているのかしら……」
『ビバ・テルメ』の沿岸部、湾内から表出した氷山に埋まっていた『巨神』、『セラフィム・シックス』。
恐らく『第三帝国シーヴァスリー』が譲歩してまで制海権に執着していたのは、確実に『セラフィム・シックス』のためであろうと彼女は確信していた。
あの『セラフィム・シックス』が『第三帝国シーヴァスリー』の手に渡ろうとも。
「『あの子』が乗り手を選ぶとは思えないのだわ」
それにバーラント機械教国連合の動きも気になる。
あの『アーレス』と呼ばれる『巨神』を崇めるアーレス教を国教として掲げる国。機竜を崇める己たちの『エルネイジェ王国』とは戦端を拓いてはいるものの、専守防衛を旨としている。
だが、国土が広がりすぎたせいで近年、内覧や軍閥の暴走が見受けられているらしい、ということはメルヴィナも聞き及んでいる。
そのための鎮圧や粛清に執行官が他国や領域に踏み込んでいるらしいということが、ジュディスの存在によってメルヴィナの中のバーラント観を補強する。
「でも、その『巨神』って海の中なんでしょ?」
「そうなのだわ。でも、制海権を得た『第三帝国シーヴァスリー』が何を目論んでいるかなんて、これだけの情報があればわかることなのだわ」
でも、とメルヴィナは眦を下げる。
間に合ったとて、今回のように自分に出来ることは無かった、と。
手のひらのお湯が溢れて落ちる。
世の流れはいつだって人間という個人を押し流してしまうものだ。
機竜の搭乗者として認められたメルヴィナでさえそうなのだ。抗うことのできぬ時流というものがある。
大いなる力を持つのならば、それに抗うこともできるのかもしれない。
けれど、例外なく時の流れは力の強弱に関係なく人を押し流していく。過去に。今という時を未来に運ぶために。
「……ままならないのだわ。『あの子』が安らかに眠ることを願っても、祈っても……戦乱は確実に力たる『巨神』を求めるのだわ」
「駆るのが人ならそういうこともあるでしょうよ。まあ、人のことは人がなんとかするでしょう。世界の事は私達猟兵の領分ってことよ」
メルヴィナの憂いに水之江は笑って応える。
あっけらかんとした、さっぱりとした考え方であった。けれど、それもまた真実だろう。
彼女はその言葉に微笑むではなく、温泉の齎す安らぎにこそ笑む。
争いしかない世界であったとしても。
それでも此処には確かに平穏があるのだから――。
●兆し
「ひぃん、ひんひん。ソフィアお姉様のお尻叩きはしんどいのですわ~! ストゼロ飲んでないとやってられないのですわ~」
メサイアは涙目になりながらソフィアから逃れるままに『ビバ・テルメ』の温泉宿の部屋へと逃げていった。
その背中をソフィアは見送り、温泉宿の浴衣に着替えてマッサージチェアに腰掛ける。
「まったく……いつまでたっても」
メサイアのお転婆は直らない。
戴冠式を無事に終えたのに、一難去ってまた一難。いや、一難どころじゃないのであるが、まあ、総じて一難ということにしておこう。
そうした方がソフィアは精神衛生上良い、と思うことにしていた。
「……んっ」
しかし、それにしたって『ビバ・テルメ』は素晴らしい。
温泉観光によって栄えたのもわかる。温泉の効能。そして風呂上がりの一杯に、マッサージチェア。激務に負われる彼女の体がほぐされていくのをソフィアは感じていた。
あまりの心地よさに皇女らしからぬ声が出そうになったが、しかしソフィは噛み殺した。
彼女がそうしたのは別に皇女として常に律すべきからである、という狂気じみた理性によって、ではない。
もちろん、それもあるだろう。
だが、彼女には待ち人がいたのだ。
「……皇女殿下」
「もう、おやめください。此処では猟兵としてのソフィアですから」
彼女の足元に膝をついて頭を垂れる仮面の男の姿を認めて、ソフィアは笑む。
彼のことをソフィアは知っている。
この『ビバ・テルメ』とソフィアを結びつけた遠因たる男。嘗ては『第三帝国シーヴァスリー』の将にして『エース』であった『クィンタブル』であった。
ソフィアの言葉に彼は恭しく頭を垂れたまま頭を振る。
「いえ、私にとっては皇女殿下に変わりなく」
「お固いですわね。そんなに凝り固まっていては……」
また、同じ過ちを犯す、と言外にソフィアは柔らかく言う。
そう、『第三帝国シーヴァスリー』と『ビバ・テルメ』とが今回休戦協定を行うに至った経緯にこそ、彼の存在が関与していた。
専守防衛を徹していた『ビバ・テルメ』が、その上層部である『神機の申し子』たちに無断でゲリラ部隊として『第三帝国シーヴァスリー』に打撃を与えた事件。
そのゲリラ部隊の主導を行っていたのが『クィンタブル』だった。
彼の存在無くば、ゲリラ部隊はまともに戦えなかっただろう。そういう意味では将としての器は十分過ぎた。
だが、彼は猟兵ではない。
オブリビオンマシンの蠢動を感じ取ることができずに、裏で糸引く黒幕に良いように利用されてしまったのだ。
その事を恥じるようにして、彼は己の顔を仮面で隠しているのだ。
「本来ならば、皇女殿下にお目通りできる身ではございません。ですが、仮面にてご無礼をご容赦頂きたく」
「あなた程の『エース』が、そうまでして私に会いたいとおっしゃられたのです。火急のことと思いますが……」
もっと、雰囲気があっていいのではないかとソフィアは振動するマッサージチェアから体おを越して頭を垂れる『クィンタブル』を見やる。
「人払いはできています」
「は……お知らせしたきことがございます」
「申しなさい。『巨神』の件でしょうか。それともバーラント?」
「……『第三帝国シーヴァスリー』の首席『ノイン』について、です」
彼は休戦協定の折に『ノイン』のことを知らない、と言っていた。つまり、『ノイン』は彼が『シーヴァスリー』から離れた後に台頭した人材であることを示している。
だが、今、彼の口から『ノイン』の名が出たということは。
「なにかわかりましたか」
「……小国家『グリプ5』の前身……『憂国学徒兵』のことは」
「聞き及んでおります。百年前の折に『インドラ』、『ヴリトラ』、『リヴァイアサン』が観測していることからもこの地において重要視される存在であることは」
「百年前の資料に名が存在していました。『ノイン』――脳無き巨人……プラントより稀に生産されるジャイアントキャバリアの素体となる存在として」
「名前だけ、でしょう? どうして、そこに行き着くのです」
「私が『シーヴァスリー』に属していた折に『グリプ5』へと一度、拐かそうとした幼子たちがおりました」
『クィンタブル』が直接関わっていたことではないが、しかし、他の部隊が『憂国学徒兵』を名乗る『グリプ5』の過激派集団と結託し、ある幼子たちを誘拐して『シーヴァスリー』へと亡命しようとしていた事件があった。
それは猟兵達によって未遂に終わったのだが、しかし、その事件の陰で密かに持ち出されたものが在る。
「……上層部はそれを『ノイン』因子と呼んでいました。恐らく」
「『ノイン』も『神機の申し子』と同様の、存在であると?」
『神機の申し子』達は『ビバ・テルメ』の前身、『フォン・リィゥ共和国』で生み出されたアンサーヒューマンたちである。
『エイル』因子を用いて試験管の中で生み出された存在。
それと同様の存在が『第三帝国シーヴァスリー』にも居るのだとしたら。
「百年前から続く因果とでも言うのでしょうか」
「判然とはいたしませんが、可能性は高いかと」
「いえ、よく知らせてくださいました。感謝を。それとも恩赦を求めますか」
その言葉に『クィンタブル』は頭を振る。
もはや己は、この小国家のために骨身を尽くすと決めた身である。求めるは許しでもなければ、報奨でもない。
ソフィアは目の前の愚直にも己を律する男が最早道を違えることはないだろうと確信する。
マッサージチェアから立ち上がりソフィアは居住まいを正す。
「ならば、励みなさいませ。これは皇女としての私ではなく、ただのソフィアとしての私からの」
「ご命令とあらば」
「いいえ、お願い、です」
ソフィアはそう微笑んで仮面かぶる『クィンタブル』の頭を撫でる。
それは騎士に対する洗礼ではなかった。
けれど、己の罪を自覚し精算し、しかし、それが永劫に果たされることがないと知りながらも邁進する者へと向けた祝福だった。
「励みなさい。多くの人のためにあるようにと貴方自身が願ったのなら」
その姿がいつしか、多くの見知らぬ誰かのためになるのだとソフィアは優しく微笑み、『クィンタブル』の忠誠と敬愛を受け取るのだった――。
成功
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