1
金毛狐と煌月蝕

#シルバーレイン #ノベル #猟兵達の秋祭り2023

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#シルバーレイン
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の秋祭り2023


0



虹目・カイ




 にこりと、金毛の狐がわらった。
 すると最初に消え失せたのは、指であった。
 まるでむしゃりと、目の前の狐に食われたかのように。
 いや、実際に食われたのだ。
 虹目・カイ(未来は虹色・f36455)にはそうわかったし、何処か諦めのようなものも感じていた。
 だって、私は――。

 何故、此処に居るのかはわからない。
 けれど、目が覚めてわかったのは、薄暗い場所に閉じ込められているということ。
 何処かの寂れた神社の本殿の様であり、畳六程度の狭い場所であること。
 そして――己の姿が、地味な色彩の人間の、年相応の姿に戻っていて。
 金縛りに遭っているのか、正座したまま一切身動き取れないこと、である。
 それと、もうひとつ。
 ふとナニモノかの気配を感じて顔を上げれば、目の前にソレはいた。
 黒の瞳に映っているのはそう、金毛の狐。
 
 にこり、にこり、にこり――。
 狐がにこりと笑うごとに食われていく身体の部位。
 最初は指、それから手。指は1本ずつ、掌は右から左と順であったのに。
 さらに次の脚は、指や甲や踵、左右一気に食われて。
 またにこり、太腿から下の脚が全て消え失せる。
 そう、段々食われる範囲が大きくなっているのだ。
 恐怖を感じないと言えば嘘になるが、消えた部位には痛みも出血もない。
 その代わりか全く声は出ないから、叫びも喚きもできなくて。
 それに――解りきっていると、諦めのような感情に陥っていた。
 もしかしたら、自分の状況を知れば……なんて、一瞬だけ過ぎる顔もあったが。
 でも、そんなことはないと、解りきっているのだ。
 もう助けは来ないし、助かりっこないということを。
 だからただ、ソレがにこりとわらって、食われていくばかり。
 次々と食われていって……最後に残ったのは、金毛の狐を見つめる黒の眼球だけ。
 そして……にこり。
 さいごに映ったのは、わらった狐ではなく、山吹色をしたアカシアの――。

 目が覚めたのは、黄色の残影を残した視界が暗転したその時であった。
 食われたはずの部位は何ともなく、勿論、わらう狐の姿だって見当たらない。
 いや、けれども。
「……|正夢《 ゆめ 》か」
 そう――でも確かに、食われたのだと。
 そんな感覚がどうしても拭えずに、カイはふるりと微か身をふるわせる。
 だって、知られたくはないけれど、恐れてもいるから――完全に『自分』が『自分』ではなくなるということを。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月16日


挿絵イラスト