にこりと、金毛の狐がわらった。
すると最初に消え失せたのは、指であった。
まるでむしゃりと、目の前の狐に食われたかのように。
いや、実際に食われたのだ。
虹目・カイ(未来は虹色・f36455)にはそうわかったし、何処か諦めのようなものも感じていた。
だって、私は――。
何故、此処に居るのかはわからない。
けれど、目が覚めてわかったのは、薄暗い場所に閉じ込められているということ。
何処かの寂れた神社の本殿の様であり、畳六程度の狭い場所であること。
そして――己の姿が、地味な色彩の人間の、年相応の姿に戻っていて。
金縛りに遭っているのか、正座したまま一切身動き取れないこと、である。
それと、もうひとつ。
ふとナニモノかの気配を感じて顔を上げれば、目の前にソレはいた。
黒の瞳に映っているのはそう、金毛の狐。
にこり、にこり、にこり――。
狐がにこりと笑うごとに食われていく身体の部位。
最初は指、それから手。指は1本ずつ、掌は右から左と順であったのに。
さらに次の脚は、指や甲や踵、左右一気に食われて。
またにこり、太腿から下の脚が全て消え失せる。
そう、段々食われる範囲が大きくなっているのだ。
恐怖を感じないと言えば嘘になるが、消えた部位には痛みも出血もない。
その代わりか全く声は出ないから、叫びも喚きもできなくて。
それに――解りきっていると、諦めのような感情に陥っていた。
もしかしたら、自分の状況を知れば……なんて、一瞬だけ過ぎる顔もあったが。
でも、そんなことはないと、解りきっているのだ。
もう助けは来ないし、助かりっこないということを。
だからただ、ソレがにこりとわらって、食われていくばかり。
次々と食われていって……最後に残ったのは、金毛の狐を見つめる黒の眼球だけ。
そして……にこり。
さいごに映ったのは、わらった狐ではなく、山吹色をしたアカシアの――。
目が覚めたのは、黄色の残影を残した視界が暗転したその時であった。
食われたはずの部位は何ともなく、勿論、わらう狐の姿だって見当たらない。
いや、けれども。
「……|正夢《 ゆめ 》か」
そう――でも確かに、食われたのだと。
そんな感覚がどうしても拭えずに、カイはふるりと微か身をふるわせる。
だって、知られたくはないけれど、恐れてもいるから――完全に『自分』が『自分』ではなくなるということを。
成功
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