まっています。
まっています。
まちつづけます。
あの日から、ずっと待っています。
何時からか、雨が降り続けるこの場所で、待っています。
あなたにまた会える日か、
それともこの雨が止んで、青い空をまた見られるのが先でしょうか。
いつの日か、いつの日にか、きっとまた来てくれる事を待っています。
私を見てくれた、友達がまた来てくれる事を…。
●
「妖怪、もしくはUDC-Null…って知ってるかなぁー?」
のほほんとした酔っ払いがそう聞いてきた。
数秒待つが、それ以上説明は無いらしい。普通説明するものだと思うが…。
『妖怪、もしくはUDC-Null』。
詳細な説明をするのであれば長くなるので簡易的に説明するのなら、UDCアースでただの伝奇として語られる妖怪と、他世界であるカクリヨファンタズムの妖怪は同じものである。
UDCアースとカクリヨファンタズムはとても近くに存在している。
UDCアースに居た大半の妖怪がカクリヨファンタズムへ旅立ったのが現状である。
現在、UDCアースの猟兵以外の住民は妖怪を観測することが出来ない。
その結果、虚言として判断された元々UDC怪物だった物を、『UDC-Null』と呼ぶ。
「今回ねー、その子が見つかったの~。カクリヨファンタズムに行かずに残った子」
背景を考えずにその言葉だけで考えれば、「そうなのか」で終わる話だ。
が…UDCアース、妖怪と言うその事情を知っていればそれだけでは終われない。
UDCアースにおいて、人に忘れられた妖怪は飢えていき最終的に餓死してしまう。
「妖怪はねー、UDCアースではまともな食べ物が無いの~。だから粗悪な代替品のUDC怪物で紛らわすんだけど、食べ続けるとどんどん理性が無くなっちゃってくんだよねー。選択肢ないけど。けど、つまりはそこまでして残る理由があったってことだよねー」
ここまでで、事前説明として一区切りなのか酔っ払いは一息を入れた。
ここからが仕事の話なのだろう。
「今回のお仕事の最終目標は妖怪をカクリヨファンタズムに送ってあげる事。そ、別に妖怪を倒す必要はないんだー。骸魂に飲まれた状態って言えば、カクリヨファンタズムを知ってる人にはわかりやすいかなー? ま、叩けば治るって事だぁね。とは言えねー、それはあくまで最後で、先に近づいてくるUDC怪物をどーんして、その後に妖怪をおとなしくさせる必要があるの」
酔っ払いは酒を一口飲みながら、指をくるくると回して補足を付ける。
「妖怪自体、理性をほとんどなくしてて、留まり続けてる理由も忘れかけてるけれど、その理由を思い出せれば理性が少し戻るかもねー」
とは言え、補助的な話。無力化が出来れば理性は戻る。
「それで~送り出すのはねー、宴って言うけれど大掛かりな儀式や用意は必要ないよー。必要なのは楽しいっていう感情。そうすれば送られるから―」
邪魔な敵、妖怪、宴。
これが今回の仕事で猟兵が当たるべき事柄だろう。
「えーっとこれだけかな。それじゃあねー、行く人いるかなー?」
そう言って酔っ払いがグリモアを展開していく…。
が、思い出したように一言付け加えられた。
「あ、そうだ。場所。問題は無いけれどダムの底だから」
みしおりおしみ
あーい、寒い寒い寒い。
みしおりおしみです。
ゆーでーしーぬる。
一章集団戦。
二章ボス戦。
三章日常。
戦争なんてかんけーねー。
………スポーツもの書くのが苦手なだけです。はい。
第1章 集団戦
『くちなぜつづち』
|
POW : 秘神御業肉食回向
自身と自身の装備、【自身が捕食している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD : 風蛞蝓
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ : 悉皆人間如是功徳
自身の身体部位ひとつを【これまでに捕食した犠牲者】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
イラスト:オペラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
・
・・
・・・
細かな雨が体を濡らしていく感覚がした。
息苦しくない。水に包まれたような感覚も無い。
そうして、そっと目を開ければ、目の前に暗がりに浮かびあがる鳥居の影が見えた。
場所はダムの底だと言っていたからダムの淵に転送されてそこからダイブか、それとも直接水の中かと思ったがそうではなかったらしい。
とりあえず…そう思って首を巡らせ、そして足を動かせば、足元から水気を含んだ音がした。
足元の地面、踏めば水が溢れる程滲み、至る所に大きな水溜まりが出来ていた。
雨が降っているのだから……雨。そう、雨。
確か、今日のUDCアースの仕事の地域は雨ではなかったはずだ。
なら、ここは異空間だろうか?
鳥居へと手を伸ばし、その表面をなぞる。
木で出来た鳥居はざらりと、けれど水気を含み、柔らかく、脆く、その表面は崩れる様に地面に落ちた。
空を見上げ、目を凝らす。
ダムの底。
空からは一筋の光すら刺さず、雨が降り続ける。
暗い水面。
空を覆うのは厚い雲ではなく、深い水だ。
ここはダムの底。
ここは疾うに歴史に沈んだ場所だ。
●
水が滴る音だけの世界に異物の音が混じった。
遠くに、何か大きな物が落ちた様な音が幾つもした。
何か、引き摺る様な音がする。
がさがさと、ずるずると、泥の上を何かを引き摺る音が近づいてくる。
ちらりと神社の境内へ視線をやる。
そこには全体は見えないが、朽ちたその場所には似合わない藍の色が見えた。
自分の感覚もそう言っているのだから、神社に妖怪はいるのだろう。
なら、近づかせない様にしなければいけない。
異物が姿を晒す。
全長が5mはあろうかと言う、毛虫か蓑虫に鳥の足をつけたような気味の悪い怪物。
『くちなぜつづち』
それが何匹も神社へと向かってくる。
●
害獣駆除パート。
特にいう事は無いけれど、見た目のわりに素早いです。
儀水・芽亜
いくら待っても待ち人は現れず。それは辛いものです。もう終わりにして差し上げましょう。
どこへ行くのですか? あなた方の相手はこちらです。
「全力魔法」「範囲攻撃」深睡眠の「属性攻撃」「楽器演奏」「歌唱」でヒュプノヴォイス。『くちなぜつづち』達をまとめて眠らせましょう。
水の中の方が、音が伝わる速度は速いのですよ。
一通り眠ったら、竪琴をアリスランスに持ち替えて、急所らしきところを貫きましょう。
起きて反撃してくる個体を警戒して、「オーラ防御」を張っておきます。
十分「見切り」出来る程度ですね。噛みつき攻撃程度で私をどうにか出来などと、温いことを。
まあ、戦闘は無いに越したことはないのですけど。
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/|夢可有郷《ザナドゥ》・f35644)は雨滴の様に降る水滴に、緑の髪を湿らせながら罅割れ朽ちた道の上に立っていた。
そして、その視線の先に怪物は居た。
一、二、三…見えるだけ数えている間にも、微かに見える神社を中心に覆っている空間と水中を隔てている境から怪物が新たに顔を出し、姿を現していた。
そして、その全てが儀水を認識し、狙い向かってはこなかった。
向かって来ているのは儀水のおよそ正面に居る数匹のみ。
それ以外は儀水に気付いたとしても、より誘われる神社へと優先して進んで行った。
図体にしては細く、節くれだった鳥の足のような腕で地面を蹴り、その度に全身を覆う木の葉の様な物が擦れ、ざわざわと音が鳴る。
「どこへ行くのですか?」
儀水はただ、竪琴の弦に指を置いた。
怪物が、果実が砕け一部が剥がれた様な見た目の口部から舌をだらりと伸ばしながら迫る。一足で田んぼであった場所を越え、一跳びで数メートルの高さへと跳躍した。
「あなた方の相手はこちらです」
儀水が弦に指を掛け、弾く。
一音弾けば、怪物の歩みが遅れた。
さらに弾けば、走る怪物の身体が不安定に揺れ、もっと弾けば怪物の足から時おり力が抜けガクガクと揺れ、そして10小節程を弾き切れば、怪物は頭から地面に突っ込む様にその場所を抉りながら動きを止めた。
儀水に向かってきたものも、神社に向かっていたものも見えていた怪物全てが、等しく竪琴の音に引かれ眠りに落ちていた。
儀水は念を入れ、続けてさらに数フレーズ程弾き、それから竪琴をしまう。
「戦闘は無いに越したことはないですからね」
竪琴の代わりに今度はアリスランスをその手に持ち、眠りについた怪物の元へ近づく。
そして眠っている怪物の急所へ……急所、どこだろうか。
儀水はよくわからない怪物の体の構造に首を傾げるが、とりあえず口元近くを頭部だと判断して槍を突き刺す。
ついでに二、三度突き刺して次へ。
それを眠った怪物の数だけ繰り返す。
幸運な事に、途中で怪物が起きる様な事も無く眠った個体は処理することが出来た。
そして、儀水は神社の方へ目をやり呟く。
「いくら待っても待ち人は現れず。それは辛いものです。……もう終わりにして差し上げましょう」
大成功
🔵🔵🔵
雪・兼光
●SPD
…妖怪関連の案件か
一般人が巻き込まれる可能性もある
送り返そう
ダムにダイブするかと思ったがそんな心配は無いらしいな
先ずはUDCの駆除開始だ
…意外と素早いな
攻撃は2回攻撃と範囲攻撃と乱れ打ち
のユーベルコードで相手をまとめて攻撃
こっちに向かって風蛞蝓で飛びついてきたら、空中戦の要領で零距離射撃のユーベルコードで叩き落とすか
キャリーバッグでだまし討ちして殴って叩き落とす
頭は邪魔だから変異しても狂気耐性と落ち着きを使って頭をユーベルコードで弾く
姿を消すなら、自分の聴覚と第六感だよりにユーベルコードで撃つ
水辺近くだ相手が濡れてたら雷の属性攻撃もたして攻撃しておこう
悪いな、餌には用事はねぇんだよ
「ダムにダイブするかと思ったが……そんな心配は無かったか」
雪・兼光(ブラスターガンナー・f14765)は転送後、そこに水の冷たさが無く、空気がある事にほっと息を付いた。
その手にはガンスリングの付いたブラスターと…何が入っているのか不明だが、足元にはキャリーバッグがあった。
周囲へ視線をやり、最後に上へと視線をやり光の射さないそれを暫し見続ける。
そして、雪の頭に浮かぶのは…
「…妖怪関連の案件か」
誰からも認識されず、虚言として流され、見つけられる事の無い存在。
その感情も事情も推し量る事は出来ない。
けれど、確実な事は、
「一般人が巻き込まれる可能性もある。送り返そう」
それによって、UDC怪物が集まって来ているという事だ。
『くちなぜつづち』。
間違えようも無く、何かなかったとしても人間にとって脅威でしかない存在。
そして、能力からして既に事件として表面化していないだけで犠牲者を出している。
「先ずは…駆除開始だ」
そう呟いた瞬間、雪の腕が霞んだように見え…そしてそれと同時に空気の焦げる音が周囲に染みる様に拡がり、溶ける様に消えていった。
雪の腕は斜め上に突き出され、その手にはブラスターが握られていた。
その銃口の先で揺れる陽炎を払うように、雪の傍へ熱線痕が幾つも付けられた怪物が落下し、その体を崩し消えていった。
跳びかかっていた怪物へ瞬時にブラスターを向け、同時に熱線を叩き込んでいたのだ。
そして、仲間が死んだという事を理解しているのかいないのか、土を蹴立て、複数の影が向かって来ていた。
怪物は一歩で容易く数メートルを詰めて来た。あった筈の距離が数秒も持たずに縮められる。
けれど雪に焦る様子は無く、軽く下がりながらじっと怪物を注視していた。
正確に言うなら、怪物の足…そのその走るテンポを。
雪はふっと短く息を吐き、一瞬呼吸を止め、再びブラスターを連射した。
ブラスターの銃口から放たれた熱線が、ほぼ同時に複数伸び、そしてそのどれもが向かって来ていた何匹もの怪物の口から突き刺さり貫いた。
けれど、一匹が奇跡的な偶然か、それとも獣の直感か瞬間的に無理やり跳躍し熱線を体に掠らせながらも回避した。
さらに、怪物は足で空を掴み何度も加速し、雪の真上から口から落下する様に襲い掛かってきた。
このままブラスターで撃ったとしても衝突は免れない。万が一、倒せなければ飲み込まれる。そんな考える脳があるかは分からないが、そう雪へ突き付ける位置取りだ。
「…意外と素早いな」
だから、雪はブラスターを下ろし…代わりにキャリーバッグを叩き付けた。
まるでハンマーの様に全身で勢いを付け、振るわれた黒色のキャリーバッグが怪物の口の横へ激突し、そして重く鈍い音を響かせ撃ち飛ばした。
怪物はその勢いのまま地面にぶつかると、一度バウンドしそのまま数度転がり停止した。
怪物に脳震盪があるのかは分からないが、すぐに起き上がる事なく足が痙攣するように震えながらもゆっくりと開閉していた。
そこに、熱線が数発突き刺さる。
「悪いな、餌には用事はねぇんだよ」
雪のトドメだ。
大成功
🔵🔵🔵
佐倉・理仁
妖怪ねェ、ガキの頃は憧れたもんだが、今じゃ大して珍しくもないお友だちみたいなもんだもんなぁ。バケモンにならずに済むなら、俺もちょいと手ェ貸すぜ。
ダムの底? 俺ちょっと水中呼吸は出来ないッ……。仲間にやられるかと思っ あ、いや信じてマシタヨ?
なんかキモいのがいっぱい……あー、助けに行くやつもどんなんだか分からないから顔については言わないほうがいいか。とにかく蹴散らせばいいんだろ、そうら【地獄開き】だ、てめーら口から骸の海に送ってやるよ!『高速詠唱』
クソ悪趣味な技使いやがる!『多重詠唱、2回攻撃』で自身の周りに『降霊』、俺は逃げる! 手ェ貸すけど戦うのはあんましなッ
「ダムの底? 俺ちょっと水中呼吸は出来ないッ…――」
まるで不意打ちの如く最後の最後に付け足された『ダムの底』と言うワード。酔っ払いのあんちくしょうは制止の言葉を挟み込む暇も無く転送してくれた。
――――。
佐倉・理仁(死霊使い・f14517)は転送された後の数秒間、戦々恐々とした思いで目を強く閉じながら、肌で感じる感覚で周囲の状況を察しようと思っていた。
けれど、思っていた水の冷たさの感覚は襲ってはこなかった。
そっと目を開ければ雨は降っている物の水で満たされてはいない。
足も、地面にちゃんとついている。
「……ッ、はー。仲間にやられるかと思っ…あ、いや信じてマシタヨ?」
佐倉は、大きく息を吸いこんで止めていた息を溜息として長々と吐き出して、そして皮肉を言いかけたのはご愛敬。
ちょっと緊張で激しくなった動悸を押さえていると、遠くで影が蠢いた。
不出来な鼠。足の着いた蓑虫。口の付いた枯葉の山。
ひーふーみーとデカい塊が幾つも地面の泥を散らしながら佐倉の方へ…正確にはその背後の方にある神社へと向かって来ていた。
「なんかキモいのがいっぱい……あー」
怪物に対しとても素直な感想を言ってから、佐倉は何かに気付いたように視線を少し上へ動かし
「助けに行くやつもどんなんだか分からないから、顔については言わないほうがいいか」
そんな、それは今考える事なのかどうかわからない事を気にしていた。
「妖怪ねェ…」
河童に天狗にがしゃどくろ、ぬらりひょん。
小さい頃にはその存在に憧れた。未知に憧れる様に、夢を見る様に、空想に浸る様に。
そして大きくなって『空想』だと判って憧れは娯楽になった。
それが……今じゃ大して珍しくもないお友だちみたいになってしまった。
憧れたもの現実に居た。夢は本当だった。空想は実在した。
思えば随分とかつて持っていた常識が覆されたものだ。
良い方向に覆された。
「バケモンにならずに済むなら、俺もちょいと手ェ貸すぜ」
佐倉はその口元に笑みを作って、向かってくる怪物を見据える。
「だから、てめーら口から骸の海に送ってやるよ!」
佐倉の傍の影が液体の様に泡立ち、どろりと摘まみ上げる様に引きあがると何体もの黒く輝く剣を手にした不定形の剣士の集団へと形を変えた。
そしてそれらが動き出し、怪物を迎え撃つ。
剣を振るい、斬り付け、潰され、飲み込まれる。
剣士には怪物を一刀両断する様な力は無く、押されているように見えた。
剣士の剣では怪物の巨体に対応することが出来ない。
『剣士』では。
怪物から生物として同発声すればいいのか見当もつかないような、悲鳴じみた咆哮が幾つも響いてきた。
何が起こったのか遠目からでは分からない。けれど、近づけば一目で理解できた。
傷が、剣士の剣で付けられた裂傷が、まるで割り開く様に“内側から”抉じ開けられその内部を外気に晒していた。
佐倉の《地獄開き》。
召喚された剣士はそのUCにとっては触媒や起爆剤の様なものだ。
その本質は、剣士に付けられた傷が地獄の門と化し、内から割広げる事。
剣士が怪物に剣を振るい傷がつく。
怪物の傷からは紫がかった体液が溢れ…そして、唐突にごぼりと強く体液が零れると、傷跡から芋虫の様に細い指が伸びる。
それが、一本、二本、三本と数を増やしていき……それぞれの傷の淵を掴むと、力任せに押し開いた。
体液が撒き散らされ怪物が叫ぶ。
軽い傷だった物が、時間と共に体そのものを裂く傷へと化していく。
怪物がのたうち回る…が、怪物の身体がゾワりと鳥肌が立つように泡立った。
怪物が生理的反応? それとも断末魔の身震い。
違う。変化していた。
怪物の身体全体を覆う、枯葉の様な部位。
それが全て人間の顔に変わっていっていた。
「クソ悪趣味な技使いやがる!」
佐倉は思わず毒づいてしまった。
それもそうだ。変化した人の顔が、傷から伸びる指を食いちぎり貪っているのだから。
割られ、裂かれ、喰われ、喰らう。
人の顔なのに人からかけ離れているように見えてしまう。
怪物の表面で互いに喰らい合う地獄が生まれていた。
「クッソ、俺は逃げる! 手ェ貸すけど戦うのはあんましなッ」
佐倉はさらに剣士を呼び出し向かわせると、自分は距離を取り出した。
巻き込まれるのは御免なのだ。
そして、長々と叫喚が響く時間が続き、そしてそれが次第に数を減らしついには聞こえなくなった頃、佐倉は様子を見に近づき戻ってきた。
そこには元々気味が悪かったが、その原型すらも無くなった内外を裏返したような黒い肉塊が幾つか転がり、そして崩れる様に消えて行っていた。
大成功
🔵🔵🔵
イクシア・レイブラント
ポリスタキア、デコイドローンを展開して
[偵察、索敵、気配察知、情報収集、情報伝達]。
残存する敵性存在を確認。
鎧装騎兵イクシア、討滅を開始する。
翡翠色の光を宿して[存在感、注目を集める]をしつつ
[推力移動、滑空]で距離を詰める。
相手の多段ジャンプには、
[瞬間思考力、戦闘演算、空中機動]で対応し
【決戦武装、解放】。
大型フォースブレイドで[空中戦、武器巨大化、なぎ払い]。
逃亡個体がいれば
AFエクスターミネーターで[レーザー射撃、牽制攻撃、時間稼ぎ]。
追いついて片付ける。
酒井森・興和
ふむ
水底の時の止まった界隈、なのかねえ
現実感はないがなんだか羨ましい…
まあ今は過去の感傷にひたる時でもないな
…
あんな羽か松ぼっくりの化鳥じみたヤツをよくも喰えたものだ
この世界に留まる為に飢えと狂気に耐えすぎた妖怪もいい加減に解放されなくてはね
【悪路走破つかい目立たない】よう接近
なるべく近距離からUC行使
UCの鋼糸で【切断】や絡まり動き鈍ったヤツから鈍器の三砂を【怪力】で振り抜き【重量攻撃】
UC外したときの支援も【地形の利用】で活用しよう
足か犠牲者の顔を潰して機動を奪う
噛み付いてきたら三砂の柄を捻じ込み【早業でなぎ払い】回避したい
囲まれると食い散らかされそうだし【気配感知】で常に待避を心掛けよう
「ふむ、水底の時の止まった界隈…なのかねえ」
酒井森・興和(朱纏・f37018)は、暗く日の届かない頭上を見上げ呟いた。
細雨降る暗い世界。周囲に見える景色の影は、古び朽ちていたがどこか懐かしい様な感じもする形を作っていた。
「現実感はないが、なんだか羨ましい…。まあ、今は過去の感傷にひたる時でもないな」
酒井森はシルバーレインの出であり、鋏角衆である。
かつて、シルバーレインがシルバーレイン単独でその歴史が動いており、そしてその内の歴史の一つである土蜘蛛戦争。
酒井森はその戦争の結果、銀誓館へ降った。
その時の感情やなんかはその時の事、けれど確かな事として生活も何もかもが変わった事は確かだった。
そう、ふと遠い昔を思い出してしまった
その時、微かに空気を裂く音がした。
視線をそちらへ向ければこの空間としては似つかわしくない近未来的な白いドローンが飛んでいた。
元々あったとは思えないし、妖怪の使う物とは思えない。ならば、他の猟兵の道具に違いない。
「鎧装騎兵イクシア、討滅を開始する」
その予想を肯定するように声がした。
翠の光子を散らせ、微かに周囲を照らしながら白の機械鎧を身に纏ったイクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)が宙に浮いていた。
「ありがたいねぇ、時間が掛からずに済みそうだよ」
酒井森はその存在にそう思い、それから「にしても……」と遠くを見やり呆れたようについ呟いてしまう。
まだ離れているが、暗がりに影として倒すべき害獣が姿を現し始めていた。
枯葉に覆われた鳥なのか虫なのか分からない、元の世界で言えば地縛霊ゴーストの様な怨念情念が満ち満ちていそうな存在。
「あんな羽か松ぼっくりの化鳥じみたヤツをよくも喰えたものだ」
味などわかりたくも無いが、想像するだにマズそうだ。
「この世界に留まる為に、飢えと狂気に耐えすぎた妖怪も、いい加減に解放されなくてはね」
酒井森がゆるりと腕を上げる。その手には何も持っておらず、握る事さえされていない。
しかし、唐突に空を切る様に素早く振るえば、向こう姿形がよく見えるまでに接近していた怪物達が転ぶ様に動きを乱し、地面に転がり接近が止まった。
「そんな足で蜘蛛の巣に入るだなんて、死にに来るようなものだよ」
身をくねらせ怪物が藻掻く。
どれだけ藻掻こうと、“疾うに足が千切れて”いれば立って動く事は不可能であった。
酒井森が腕を空に揺らす。
その先から、視認する事は困難ではあるが鋼糸が伸びていた。
鋼糸は地形に蜘蛛の巣の様に絡み付き、そこに入り込んだ怪物の動きを阻害する。
藻掻けば藻掻く程、糸は怪物の身体に絡みつき、抵抗する動きすら停止させる。
そんな動かない敵など狙いやすい的以下でしかない。
「リミッター解除。決戦武装、ファイナル・モード」
イクシアが一気に飛び出し、空中でその手に握られる大型フォースブレイドを振りかぶる。
まだ動ける怪物が跳んで逃げようとするが、糸が絡まりつんのめり地面にぶつかる。
フォースブレイドの刀身が一息の力を込める、それだけで長大に、そして輝かしく力を増幅させ…一閃。
一瞬、翠の光の壁が作られ、それで終わっていた。
向かってくる影も動く影も居ない。
イクシアは念のために偵察用ロボットで走査はするものの生き残りは見つからなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『集真・哀』
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POW : 哀に染まりゆく今生/紺青
自身の【かつて愛した人の記憶】を代償に、【忘失の哀しみと希求で焦がれ狂う想い】を籠めた一撃を放つ。自分にとってかつて愛した人の記憶を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 一意専心・濃愛/濃藍
【自分の染めた布で刺繍の時間】を給仕している間、戦場にいる自分の染めた布で刺繍の時間を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 哀染め・留魂/留紺
【悲哀を呼び起こす、金魚型の生きた染料弾】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を自分しか歩けずじわじわ広がる藍沼に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:つかさ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「彩・碧霞」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
もう怪物の気配はしない。けれど、時間が経てばまた別の怪物が現れるかもしれない。
猟兵は神社へと歩みを進め、その境内の内へ足を踏み入れた。
そこは別世界だった。
いや、別段異空間へ足を踏み入れたなどでは無く、そう思わせる程に景色が違っていた。
朽ちて色を褪せさせ切った境内の外。
内も元々あったであろう神社などはそう境内の外側と変わらない。
けれど、周囲を埋め尽くすほどの藍の色に囲まれていた。
藍色のあじさい。
そして、奥の石段に彼女は座っていた。
アイを染める妖怪、集真・哀。
彼女の手元で藍の布地が、その手を動かす度に藍色の紫陽花に形を変えていっていた。
これら全て、造花なのだろう。
ふと、気配を感じたのか彼女が手を止め顔を上げた。
視線が猟兵を捉えるが、少しの間少しぼんやりとした様子で不思議そうに見つめられた。
そして、唐突に意識の焦点が戻ったように表情が浮かんだ。
「ああ、御同胞様方」
彼女は柔らかな笑みを浮かべて呼びかけて来た。
『御同胞様』、変な呼ばれ方だが敵意は感じられない様子であった。
「御同胞の様な方と以前に会ったのは………会ったのは…。いえ、何でもありません。気のせいです。気のせい、ええ…ここは最近は雨ばかりで、晴れた空が見えるといいのですけれど。ずっと、降って…ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、私は待ってて…待って? 誰? 友達。誰? けれど………………………私の思い人はもう忘れてしまった。私の事が見えた友達は、思い出せない…」
目に見える程に表情が抜け落ち、正常が崩れていく。
「また…来たんだ。なら、追い払わないと。うっとおしい怪物。気持ち悪い怪物。ここに入らないで来ないで汚さないで踏みつけないで邪魔をしないであぶないからこれなくなるからまっているんだからどうしてこないの」
彼女は、こちらを見ているようで見えていなかった。
存在を正確に認識できていない。
目の前にいる存在が時と共に変化し、狂気のままに認識している。
妖怪の同胞に、襲ってくる怪物に、誰かに。
彼女はこちらへと手を伸ばす。
けれど、それは決して手を取り合う為ではない。
携えた狂気が猟兵へ向けられる。
●
殴るもあり言葉もありのボス戦です。
ボスの状況はカクリヨファンタズム、骸魂に飲み込まれた状況と似ています。
なので、基本全力で殴っても死亡する事はありません。
また、狂っている為説得を行う場合は避けながらになります。
妖怪UC
POW:全周攻撃です。
SPD:状況次第。
WIZ:複数匹同時に飛ばします。空中も泳ぎます。
儀水・芽亜
初めまして、哀さん。猟兵の儀水芽亜と申します。
しばしお付き合い、いいですか?
「全力魔法」「結界術」「催眠術」でサイコフィールド。
念のため「オーラ防御」も張っておきます。
荒事はおやめください、哀さん。せっかくの紫陽花が零れてしまいます。
私も「裁縫」の心得はありますから、お手伝いさせてください。
使うのはこの裁断鋏ですが、これでも細かな作業は出来るんですよ。一緒にその布から紫陽花を作りましょう。
「郷愁を誘う」「コミュ力」で、ここで会うはずだった方のことを聞き出し思い出させます。大丈夫、私にはあなたがはっきり見えています。
彼女が夢うつつになれば、脇腹に裁断鋏を突き刺します。後で謝らせてもらいますね。
「――――、―――。―――――――。――――――――」
緑色の何かが鳴いている。
何かが周囲を覆ったけれどよくわからない。
何かが鳴きながら近づいてくる。
「――――、―――。」
私は手元の布に針を突き刺した。
●
「初めまして、哀さん。猟兵の儀水芽亜と申します。しばしお付き合い、いいですか?」
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、穏やかな声音で敵意を示さない様ににしながらゆっくりと近付いていった。
儀水は悟られない様にサイコフィールドを拡げ哀を睡魔に誘いながら、突然の相手の行動に備え自分の体にオーラを纏わせる。
哀は派手な行動を起こしてはいないが、その目と言葉から正気では無いのが明確であった。
「荒事はおやめください、哀さん。せっかくの紫陽花が零れてしまいます」
刺激しない様にゆっくりと近付く。
間違いなく攻撃はされるだろうが、睡魔に落とし隙を作り出す目的であれば、戦いになるまでに一秒でも時間を稼ぐ事が出来れば有利になれる。
「私も裁縫の心得はありますから、お手伝いさせて……」
そこまで口にした瞬間、体が不自然に停止した。
言葉が続かない。足が前へ出ない。腕が動かない。視線が動かせない。
停止した肉体の中で、ただ意識だけが肉体から乖離して得られる情報を矜持する事しかできない。
(雨が…)
幾つもの細かな雨滴が、その形もはっきりと観察できるほどの遅々とした速度で、視界の中を上から下へと降っていく。
哀が藍の布地に針を通し糸を引く。
それだけで、縫い留められたように体の自由が奪われた。
欠片も動かない訳ではない。微かに、誤差とすら思える程のスピードでゆっくりと体は動作していた。
けれど、それが何秒前の自分の意識が下した命令なのか判らない。
自由な意識が不自由な肉体と摩擦を起こす。
遅々とした呼吸を自覚する。隙間の空いた鼓動を知覚する。
それが意識に焦燥が生む。
(焦らないで、冷静に…)
異常とも思えるその生命活動も、肉体や周囲と纏めて遅延された結果に過ぎない。
ただ、正常に動く意識がそれを異常と認識してしまって、正常な活動から外れた場合を予測して意識の端が焦げつかせるだけだ。
呼吸だけを何とか繋ぐ。出来るだけ意識しない様に、肉体の肺を動かす機能のままに任せる様に。動かそうと意識すれば呼吸がズレ、破綻する。
じりじりと時間が経過する。
哀は黙々と手を動かし続ける。他者などいない様に。
どれほどの時間が経ったのか…数秒か、数時間か、肉体と意識で大きく時間の認識のずれが生まれた頃、儀水は唐突に体が自由になり、数歩よろめきながらも転ぶことは踏みとどまった。
「――っ」
思わず息を吐く。そして顔を上げれば、今まさに哀の頭がかくんと緩く揺れ、手が止まっていた。
「んん…」
睡魔が強く夢うつつになっている。
「ここで会うはずだった方は、どんな方でしたか?」
儀水は裁断鋏を取りだし、歩み寄りながら声を掛ける。
「会う…」
儀水へ、哀の視線がゆらゆらと寝ぼけた視線が向けられる。
「会う……私を、見てくれた子…。私が、見えた…話した…約束した…。ずっと…誰も…私が見えなかった……ずっと…」
雨に流れる涙は紛れた。けれど、声に涙が混じった。
「大丈夫、私にはあなたがはっきり見えています」
儀水はさらに一歩近づき、
「だから、あとで必ず謝らせてもらいます」
握られた裁断鋏をその脇腹に突き刺した。
刃が突き立った。
けれど、その手に肉を断つ感覚は返らずに、何かを削る様な感覚が返ってきた。
大成功
🔵🔵🔵
イクシア・レイブラント
アドリブ歓迎。
集真・哀とはどんな妖怪なのかしら?
通信システムからインターネットに接続して伝奇を[情報収集、情報分析]。
調査が完了次第、武器を持たずに彼女と会う。
もし、襲ってきても[瞬間思考力、戦闘演算、見切り]で回避、シールドビットで[盾受け]。
落ち着いて、集真・哀さん。
あなたを襲う怪物はもういないし、私も争うつもりはないの。
それより、忘れかけた思い出を一緒に振り返らない?
待っている人のことがわかるかもしれない。
攻撃の手を止めて同意してくれたなら【ステータスオープン!】。
過去の出来事や交友関係を一緒に確認しながら語り合う。
そういえばきれいな刺繍ね。
1つ欲しいくらいだけど、似合う色はあるかしら?
「集真・哀とはどんな妖怪なのかしら?」
有名な妖怪では無いのだろう。
イクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)はUDC組織のデータベースに横入りし、UDC-nullの資料を漁る。
とある地方のとある一地域の細々とした伝承で、少しだけその影が語られていた。
元は普通の藍染職人であり、思い人の刺繍職人がくれた何かを思い出すことが出来ない女性。人の哀しみを色や花として装いに集める妖怪。
情報は多くないが集められる物は集めた。
「じゃあ、行くよ」
イクシアは周囲に浮遊する盾を浮かべながら哀へと真っ直ぐ歩みを進めていく。
「あなたを襲う怪物はもういないし、私も争うつもりはないの。それより、忘れかけた思い出を一緒に振り返らない? 待っている人のことがわかるかもしれない」
武器も持たず、コミュニケーションを図る。
けれど、それは届いていない。
哀が手を動かすと、周囲ごとイクシアの身体がつっかえた様に停止した。
停止では無く遅延。ゆっくりと、惰性で流れる様に微かに動いていた。
意識のみがその遅延に取り残される…が、思考加速の極端な物と思えば対応できない事も無い。
戦闘用レプリカントの思考加速を応用し、遅延する身体に意識を同期させる。
これで相対的に見て、哀が加速した様な状態になるだけだ。
イクシアは数度、指を開閉して問題無く動く事を確認する。
「落ち着いて、集真・哀さん」
視線を哀へと戻し、話しかけた。
哀は、なぜイクシアが正常通りに動けているのか不思議なのか首を傾げている。
「なぜ?」
哀の姿がブレたと思った瞬間、イクシアの傍で衝撃音が響いた。
そして、視界の端でシールドビットが激しく回転しながら撥ね飛ばされていた。
イクシアの正面に、手を振り切った姿で哀が立っていた。
その姿勢からビンタしたと言うのは分かった。
それも、ダメだったから何となく駆け寄って、何となく掌を振った程度の慣れない動きだと言うのも分かる様な慣れて無さだった。
それが、UCの影響で加速し、狂っている影響なのかその威力が酷く重い。
けれど、それも一度きりだ。哀が刺繍をやめた事で影響が途切れ、相手との速度が同期する。
「ステータスオープン!」
そして、イクシアがそう言葉を発した瞬間、その網膜に哀の…伝承から外れた経験としての情報が羅列された。
分かっていた事だ。当たり前であったとも思う。
約束の相手は、当時はここに住んでいた子供二人。とうに死んでいる。
何か特別な言葉や出会いなど無く、ただ誰にも見つけられる事も会話する事も無かった時に、見つけてくれて、会話で来た。ただそれだけの出会い。
かつての思い人も、思い人に貰った刺繍も、既に忘れ、例えそれを教えられても実感としてそれを理解する事も無い。
彼女は今でも待っている。
だから、自分は見えていると示し続ける事にした。
「そういえばきれいな刺繍ね。1つ欲しいくらいだけど、似合う色はあるかしら?」
再び振り上げられた手を取り、話しかける。
数度、振り解こうと力が込められた。
けれど、次第にその力は弱くなり哀の瞳がイクシアを見た気がした。
「……だれ?」
猟兵を認識した。
大成功
🔵🔵🔵
雪・兼光
説得する必要がないのは嬉しいが、クセがある相手だな
さて、こっちはあれ(金魚型の生きた染料弾)をどう妨害するか、だな
アガレス、呼んでないのに右にいきなり居ないでくれ。そうだ。…染料弾の弾速を低下できないか?そうだな1/6ぐらい、弾速を下げてくれるか?
そうだな1秒ごとに俺の寿命を1秒ごと消費でどうだい?
ブラスターで範囲攻撃と乱れ打ちで染料弾を撃って蒸発させるその後は、2回攻撃の2回攻撃と乱れ打ちと属性攻撃で雷をつけてブラスターの攻撃を相手に当てる
相手の状況ではこっちに余裕がなくなるだろうから、スナイパー、2回攻撃のブラスターによる頭を部位破壊で攻撃
当てないと追い込まれるので落ち着きながら、確実に
「説得する必要がないのは嬉しいが、クセがある相手だな」
雪・兼光(ブラスターガンナー・f14765)は片手で頭を押さえながら呻き声を上げる妖怪を見やりながら呟いた。
ダメージを与えて倒せば正気に戻る。説得は狂気から僅かに正気を引き出し戦闘を有利に進める為の物だから、戦闘に集中すると言う選択も間違いではない。
「にしても…あれをどう妨害するか、だな」
宙を泳ぐ留紺の金魚。
それが何匹も何匹も、妖怪の周囲を巡るように泳ぎ増えていく。
「だれ……人間…? 違う、怪物 人? なに 私は…」
正気と狂気が鬩ぎ合う妖怪……。それとは別の視線が、雪の傍らから注がれているのがひしひしと感じられた。
「………アガレス」
雪が苦味を含んだ声でその悪魔の名前を呼ぶ。
「なぁに―?」
そこに、少女姿の悪魔・アガレスが楽し気な笑顔で雪を見上げていた。
「呼んでないのに右にいきなり居ないでくれ」
「それはぁ、私の叶えられる願いの範疇を越えてるわぁ~」
明らかに聞く気が無いという様子の返答だった。
雪はその返答に閉口してしまったが、思い直してアガレスに聞いた。
「そうだ。…染料弾の弾速を低下できないか? そうだな1/6ぐらい、弾速を下げてくれるか?」
アガレスは特に何か答える事も無く、何かを促す様に視線を送ってくる。
「ああ、そうだな…1秒ごとに俺の寿命を1秒ごと消費でどうだい?」
そう代償を提案すると、アガレスは得意げな顔で腕を回していた。
承諾したという事だろう。
「任せる。じゃあ、行ってくる」
雪は深呼吸して、それからブラスターを構え前へ進み出た。
(染料弾は全て撃ち落とす。そんで射線を開いて狙撃する)
「当てないと追い込まれる。落ち着きながら、確実に」
ざわりと、宙を泳ぐ金魚の動きが変わった。
妖怪の目が雪へ真っ直ぐに向く。
そして、妖怪の足元から一斉に染め上げる様に金魚が飛んだ。
矢のような速度で、加えて有機的な生物の動きでもって紺の軌跡が描かれる。
「……ふっ」
雪がブラスターを乱れ撃ち、次々に紺の金魚を貫き弾けさせ焼き尽くす。
次第に周囲の足元が藍に染まっていく。
数が多い…が、全て撃ち落とす必要はない。隙間が出来ればいい。
「外さない…」
コイン程度の大きさの隙間が生じれば、通せる。
微かな隙間、そこをブラスターの閃光が貫き、妖怪の頭部を撃ち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵
酒井森・興和
端から待つのは無意味と解る
でも
割り切れないよねえ
待って待って待ち過ぎて
狂ってそれを止められない
なんとも切ない事だ
どんな相手だったのか
少なくとも寿命や種族の異なる相手だったろう
僕は相手を待ったり見守ったりせず
蜘蛛族として狩り喰い殺す事で縁を閉じたけど
あなたは藍の紫陽花をひたすら紡ぎ
雨の中自分をすり減らしても待つのだね
同情してしまうな
想う娘や死んだ土蜘蛛の同胞が
待てば戻るなら…とね
見掛けは嫋やかな娘
でも狂った妖怪は大層強いと聞く
負傷は【覚悟】
【第六感と集中力】で直撃を避け被弾は飛斬帽を盾に【受け流し】ながら接近
鉄扇繰り【咄嗟の一撃でなぎ払い】怯ませるか隙を作る
【捨て身の一撃、急所突き】でUC攻撃
(端から待つのは無意味と解る)
蹴立てた水溜まりが跳ねる。それを作り出した、頭上高くに重く圧し掛かる物がなんであるか…考えればわかる。
この場所はどこかはグリモア猟兵が言っていた。
『ダムの底』。とうの昔に沈んだ村。
で、あれば…待つなどと言う約束は一体何時の話か。
約束と共に、その土地の名前がダムの水底に沈んだのは一体何年前の話か。
「でも…割り切れないよねえ」
弾丸の様に飛来する紺の金魚を飛斬帽で捌きながら、酒井森が零す。
約束なんてそんなものだ。
「待って待って待ち過ぎて、狂ってそれを止められない」
人と一線を隔てた長寿だからこそ、認められない。
「切ない事だねぇ」
相手は……少なくとも寿命や種族の異なる相手だったのだろう。
一年待って、二年待って、十年待って…そして何時かに来れないのだと気づいても、認められない。
認めたくない。
「僕は相手を待ったり見守ったりせず、蜘蛛族として狩り喰い殺す事で縁を閉じたけど…。あなたは藍の紫陽花をひたすら紡ぎ、雨の中自分をすり減らしても待つのだね」
周囲を囲む、数多の造花の紫陽花がただ揺れる。
酒井森と妖怪では種族としての価値観に隔たりがある。だから、同じ立場になればなんて考えるのは難しい。
蜘蛛は捕食者なのだ。誰かを待つ花ではない。
けれど、最後に狂った理由はなんとなく想像出来てしまう。
「同情してしまうな。想う娘や死んだ土蜘蛛の同胞が待てば戻るなら…とね」
待っていれば、待ち続けていれば偽れる。
いつか来る、まだ来ていないだけと自分自身を偽れる。
待ち人が来る…いつか、その日まで。
弾ける衝撃と手の痺れと共に、飛斬帽が手から飛ぶ。
「――。」
襲来する金魚を飛斬帽で斬って、受け、捌いていたが、連続する衝撃についに弾かれ飛ばされた。
「見掛けは嫋やかな娘。けれど…」
狂った妖怪は大層強い。
妖怪が両手を合わせる様に近づけると、その間に藍の光が瞬いた。
儚さすら感じさせる澄んだ冷たい瞬き。
けれどそれは、金魚の様な受け流せる生易しい技ではない。
なにも出来ずに受ければ間違いなく倒される。
酒井森は鉄扇引き抜き覚悟を決める。
そして、一瞬で藍が散る衝撃波が神社を覆う程に拡がり、そして音も無く消えていった。
…。
かぁんと、甲高い澄んだ音がした。
固い物同士がぶつかった固い音。
石畳の上を鉄扇が一度跳ね、そして横に倒れた。
酒井森が妖怪の正面に立ち、その指先が妖怪の喉を突いていた。
その姿には直前までには無かった疲労がその顔に浮かんでいた。
何をしたか、と言えば。衝撃波に対し、ダメージを負う覚悟で鉄扇でもって正面から叩き破り、力任せに接近する隙に変えたのだ。
妖怪から微かに亀裂が入る様な音がする。
突いた指先から感じる感触は、生身の肉体を打った時とは別で違和感を覚えるが、間違なく効果はあった。
その姿から、黒い靄が漏れる様に溢れ出す。
大成功
🔵🔵🔵
佐倉・理仁
記憶が無くなっても待ち続けて、ね。アンタのいつかは戻らないだろうけど、それでも、アンタはこれからを生きられると思うよ。
目ェ覚まさせてやんよ、御同胞
【ピアース】!(四肢が硬質化し鋭く尖る。背を突き破り無数の穿脚が伸びる) 他人の気持ちを弄くり回す、多分俺たちが今役に立つ
短期戦だ、アイツの領域が広がる前に一撃くれてやる
金魚玉を《骸の香》『呪詛、オーラ防御』で受け流し、先の蓑虫の影『降霊、残像』を呼び狙いを分散させて被弾も《覚悟の一撃》で飛び込む
その痛みは思い出と繋がる糸だ。
アンタの安らぎはどこにあった? よろこびは誰とあった?
その希望も絶望も、アンタだけの色なんだ、思い出せよ!
「ピアース!」
佐倉・理仁(死霊使い・f14517)が叫ぶとその姿が変質していく。
手足が先に行くにつれ鋭く尖り硬質化し、その背から蜘蛛の足の様な穿脚が突き破り伸び出た。
佐倉が持つUDCに、自らの身体を譲渡し変異を生じさせる力の一つ。
「他人の気持ちを弄くり回す、多分俺たちが今役に立つ」
その力は、記憶を編む蜘蛛。善悪正邪の感情に関わらず、喪失さえ幸せと縫い合わせる。
「短期戦だ」
相手が侍らせている藍の金魚はただの投射物じゃない。
足場に当たれば、その場所を向こうは自由にこっちは侵入できない藍沼に変えてしまう。無理に入ろうとすればどうなるかは……リスクでしかないか。
だからこっちが近づける早期に決着をつけるしかない。
しかし…
「多すぎっ」
数百どころの騒ぎじゃない金魚がすさまじい速度で突っ込んでくる。
幸いであるのは、妖怪もダメージの影響で正気が浮上し始めているのか、混乱の影響でただ目標目掛けて飛ばすだけで逃げ場を潰して追い込むような事をしてこないところだろうか。
とは言え、ある程度であれば呪詛防壁の【骸の香】で防げるが、あれに正面から突撃すればそれも長くは持たないし、恐らく質量と物量で押し返される。
なら、策が必要だ。
佐倉は数秒考え、結論を出した。
「道標」
短く言葉を口にし、同時に硬質化した指を打ち合わせ鳴らす。
すると、ぞろりと虚空から巨大な蓑虫の様な影…先の『くちなぜつづじ』の影が数体現れ、佐倉と妖怪の間に落ちて来た。
目標の分散狙いの囮か、壁としての時間稼ぎ……なのであれば、それは意味をなさなかった。
藍の金魚は一斉にくちなぜつづちの全身を面で潰す様に殺到すると、その巨体はまるで端から食い尽くされる様に形を失っていった。
そして、たったの数秒後にはその場には藍の沼だけが残されていた。
…。
佐倉の姿が消えていた。
藍の沼に沈んだ? 強制転移?
違う。
音も無く、妖怪の背後で何もない空中から佐倉の上半身が姿を現した。
「目ェ覚まさせてやんよ、御同胞!」
佐倉の刺突が妖怪の腹に突き刺さり、一瞬の反応で動かされた金魚の群れが佐倉へ叩き込まれた。
…。
……。
「その痛みは思い出と繋がる糸だ」
蹲る妖怪の傍に佐倉が立ち、そして近くには藍に染まり形を崩していく“もう一匹居た”くちなぜつづちが居た。
この蓑虫怪物にはとある能力がある。
『飲み込んだ物ごと自分の姿を透明にする』と言う物が。
佐倉がやった事は、数匹で目晦ましして、その間に一匹の中に入って接近し奇襲。
そういう物だった。
「アンタの安らぎはどこにあった? よろこびは誰とあった? その希望も絶望も、アンタだけの色なんだ、思い出せよ!」
妖怪の身体から黒い靄が溢れ出し消えていく。
それが喰らったUDCの汚染なのだろう。
「約束 約束 約束 約束 私は、待って、待って、まって…………まってた。
まってたよ」
嗚咽が聞こえた。
思いで括りの糸が、現実の痛みと見ない様にしていた心の痛みを結んだ。
心の痛みを知る。その痛みを実感する。
その痛みからは、目は背けられない。
どうしようもない現実は、どうしようもなく自覚していた現実は、止められない哀しみだけを運んできた。
「記憶が無くなっても待ち続けて…。アンタのいつかは戻らないだろうけど、それでも、アンタはこれからを生きられると思うよ」
その言葉が妖怪に聞こえているかは分からない。
けれど、もう猟兵が出来るのは送る事だけだろう。
その悲しみは本人にしか抱えられないだろうから。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『彼の地には螢の光有り』
|
POW : 一か所に留まってなんてもったいない。歩き回って、色んな景色を眺めながら。
SPD : 不意に気づいたよさげな場所。ここからなんて、どう? 手、貸そうか。
WIZ : ここは穴場。静かな場所で、物思いに耽りながらも悪くない。
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
妖怪が落ち着くまでに、暫く時間が掛かった。
猟兵達は少しの間そっとしておく為に離れていたが、嗚咽が聞こえなくなった頃に向こうから声をかけて来た。
未だすんすんと鼻をすすってはいるが、落ち着いたようだ。
「面倒事と、見苦しい姿をお見せしました…」
妖怪は、肩を落としながらすまなそうに頭を下げた。
そして、さらに縮こまりながら頼み事を口にした。
「重ねて、面倒事を頼むようですが手を貸してくださいませんか。私を妖怪の世界に送って欲しいのです。もう、この場所に居る意味はありませんから…」
その時、周囲にぽつぽつと小さな光がゆらゆらと、淡く点滅しながら浮遊し始めた。
小さな、弱い、蛍の様な光。
「方法はそう難しい事ではありません。楽しんでいただければ、それだけで…」
●
終章です。
送る方法はそのまま、楽しめばいいのです。
別段わーわーと必ず騒ぐ必要はなく、静かに楽しむでも問題ありません。
また、妖怪と絡むかどうかもお任せします。
儀水・芽亜
先程は正気に戻すためとはいえ、傷つけてしまい申し訳ありません。
これよりあなたを妖怪の世界へお送りします。
「歌唱」「楽器演奏」でヒーリングヴォイスを歌い、彼女の心身を整調させましょう。界渡りは短いとはいえ、世界の狭間を抜けていくわけですから、万全を期さなくては。
さあ、気楽に聴いていてくださいね。
リュックサックにお饅頭の類とお茶を詰めて持ち込んでいます。とりあえずは、その辺りからお腹に入れてください。とはいえ、妖怪の食べ物は自分に向けられる感情でしたよね。
大丈夫、ここにいる皆さんはあなたの事がちゃんと見えています。
さあ、旅立ちの準備はよろしいですか? 忘れ物の想い出はありませんね?
では、新世界へ。
「先程は正気に戻すためとはいえ、傷つけてしまい申し訳ありません」
「いえ…、よくは覚えていませんが私が暴れていたのですから。感謝しています」
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は先に言っていた通り丁寧に謝ると、哀は申し訳なさそうにしながら頭を下げた。
そうすると、儀水はそれでその話は終わりというように、リュックサックからお饅頭とお茶を取り出し並べ始めた。
哀は少しオドオドとしながら不思議そうな顔でそれを眺めていた。
「とりあえずは、その辺りからお腹に入れてください」
そう差し出しながら言って、哀が何か言う前に付け足す。
「とはいえ、妖怪の食べ物は自分に向けられる感情でしたよね。ここにいる皆さんは、あなたの事がちゃんと見えていますから」
儀水はそう、悪戯そうに笑った。
哀は目を丸くし驚き、それから嬉しそうな感情が拡がり、それからふと不思議そうな顔になった。
「そう言えば、貴女方って人なのですか? 人…っと言う感覚はするのですが」
哀がそう聞いてきた。なんとも不躾と言うか、言っているのが人であれば失礼にも程があるが、それは哀が妖怪故なのだろうと思う。
儀水はその質問の意図を数秒考え、思い至った。
哀は猟兵の存在を知らないのだろう。さらにはこちらがカクリヨファンタズムを知っている事も知らないし、戦争が起こった事も知らないのではないだろうか。
ある意味外界を知らない箱入り娘(?)であったのだから、そういう事もあるのだろう。
「もしかして、人はまた私達を…見ることが出来るようになったのですか?」
だから、猟兵を見てそう思ってしまう事も仕方ない。
「いいえ、哀さん…」
儀水は外の現状を、猟兵を、カクリヨファンタズムの事を話す。
哀がどの程度知っていないのかはわからないが、それでも度々その顔は驚く様に表情を変えていた。
「私が知っているのはこれくらいですね。私も記録で知っているだけですから」
「そう…ですか。ありがとうございます。世界は変わったようで、変わらなかったのですね」
「良い変化としては、妖怪の世界へ行ったとしても、また偶然会えるかもしれませんよ?」
聞き終わり、少しだけ落ち込んだ様子の哀に儀水がそう言うと、思ってもみなかった事の様で再び顔を上げる。
「え……あ、そうなんだ。そっか。そっかぁ」
そう言うと、伏せた顔の口元が緩んでいた。
人との縁はやはり無くしがたいのだろう。
「さて、それでは旅立ちの準備はよろしいですか? 忘れ物の想い出はありませんね?」
儀水は哀の様子を見るとそう言い、竪琴を取り出した。
「界渡りは短いとはいえ、心身を整調させましょう。万全を期さなくては」
儀水が竪琴を弾くと共に歌を歌う。
聞いたものを優しく癒す歌。
何の問題も無く無事に、新世界へ送る為の優しい歌を。
大成功
🔵🔵🔵
イクシア・レイブラント
【白百合】
楽しむ、といっても具体的にはどうしよう。とりあえず何人か呼んだ方がいいよね。
御星さん、ディアナさん。今からこっちに来てくれる?
相変わらず仲のいい2人ね。息もぴったり。
歌に、ぬいぐるみに、仕掛け鞄。突然始まる幻想的なミュージカル。
それを眺める|この人《妖怪さん》の手を取って。
じゃあ、踊ってみようか?
あなたはこれから多くの|妖怪《ヒト》と縁を結んでいくことになるはずだけど。
私たちもカクリヨの世界に行くことはできるから。
また、向こうでも会いましょう。
東・御星
【白百合】
イクシアから事態収拾の報を受けて後追いで
暴走していた妖怪の女性の元にディアナと一
緒に駆け付ける。
彼女が見せる蛍の光が奇麗ね、ディアナ。
彼女と手を繋ぎながらその様子を眺めて
いて、ふと。
私にも何かできることがあるのではない
か、と思い、仕掛け鞄を開放してみます。
まあ、何が出てくるのかは運次第なんだ
けど、何かいいものが出てこればいいな…。
彼女の想いは確かに息づいていると、
そう感じさせる何かが。
そうして、それが終わった後はイクシア
・ディアナと並んで彼女が新世界に旅立
つのを、カクリヨファンタズムに旅立つ
のを見送ります。
時の流れは無情とはいいつつも、確かに
新たな風を運んでくる。そう思っているから。
ディアナ・ランディール
【白百合】
事態収拾の報を受けた御星と共に、暴走していた
女性のヒトのもとに、駆けつけた。
悲しそうにすすり泣く女性のヒトの声がわずかに耳に届く
本当に…。この光は、淡くも美しいです、御星さま。
手をつなぐ彼女の手を軽く握り返し、
光がふわふわと浮かび、浮遊していくのを見つめる、
ヒトである女性がこの蛍のような光と楽し気に、
新世界へと旅立つのを心待ちにしたかのように…
私は少しでも楽しくなるように、
軽く深呼吸をしてから、歌を口ずさむ。
楽しくなるメロディーを…それに合わせて
ぬいぐるみを操り、メロディーに合わせ、
私や御星、イクシアも含めて輪になって踊る
光がその踊りにつられ三人とぬいぐるみ
の動きに合わせ、光も踊って
「楽しむ」
具体的にどうすればいいのだろうか。
イクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)は首を傾げてしまっていた。
自分には、盛り上げると言ったそういう方面の事を得意としていない事を自覚していた。
(とりあえず何人か呼んだ方がいいよね)
そう思考すると、イクシアはどこかに連絡をし始めた。
「御星さん、ディアナさん。今からこっちに来てくれる?」
……。
「わぁー」
「わぁ…」
感嘆が漏れた。
東・御星(紅塵の魔女・f41665)とディアナ・ランディール(ミレナリィドールの人形遣い・f41918)はイクシアに呼ばれ、降り立った瞬間に飛び込んできたその光景…無数の藍の灯火が揺れる光景に目を奪われた。
思わず御星は、ディアナの手を引いてその中へ駆けていく。
「――奇麗ね」
「本当に…。この光は、淡くも美しいです、御星さま」
ディアナはほんの少しだけ、御星と繋いだ手を強く握る。
御星はそれに視線で応え、そして思った。
自分にも何かできないか。
無論、妖怪をカクリヨへ送る方法がこの一時を楽しむ事であり、そして自分達が呼ばれたのは賑やかしの様なもの。
そしてそれは既に達成されてるのだろう。
だから、これは個人的な感謝。
この光景が見れた事への。
御星は仕掛け鞄を正面へと放り、機能を解放する。
(何か出てくればいいな。彼女の想いは確かに息づいていると、そう感じさせる何かが)
仕掛け鞄が閉じたままガタガタと揺れる。その中から何が出て来るかは運次第。
求める物が出て来るとは限らない。まして、求める物が何かすら分からないのなら尚更に。
ガタガタと震えていた鞄は唐突にぴたりと停止した。
そして、ゆっくりと鞄が開かれていき…金属を弾く、高く、細い音が響いた。
一音、二音、高さを変えテンポを刻み、音を響かせていく。
オルゴールだ。
御星はそっと視線を巡らせて妖怪を探し、その様子を窺った。
けれど、その顔には音色に興味は示せど、別段特別な反応を見る事は出来なかった。
(違った…のね)
そこまで強く期待していたわけではないが、それでも心の内に微かに落胆が沈んで来るのを感じた。
と、隣からオルゴールに合わせて歌が口ずさまれた。
見れば、ディアナのその唇から歌が紡がれていき、そして今度はディアナから手を引かれた。
手を引かれるままに体が引かれ、手を引かれるままに二人で輪を描く。
そして、その周りをディアナが操るぬいぐるみも踊る。
御星の落胆に気付いての事か、それとも音と景色に乗せられたのか。
それはあまり関係も無いし、笑いあう二人にとっても意味のない事だろう。
藍の小さな光に囲まれて踊る、ぬいぐるみと二人の幻想的なミュージカル。
…。
「相変わらず仲のいい2人ね。息もぴったり」
二人が踊る様子を見て、イクシアは呟いた。
二人を選んだのは間違いではなかったようだ。
イクシアは無表情ながら、自分の選択センスに少しの満足感を覚えていると妖怪が口を開いた。
「楽しそうですね」
口元に笑みを浮かべて、そしてどこか懐かしそうにしながら妖怪は、御星とディアナを眺めていた。
彼女が見た何時かのかつて…、その時の似た光景を想起しているのだろうか。
「そうね。歌に、ぬいぐるみに、仕掛け鞄…御伽噺の様ね」
イクシアはそう言いながら妖怪さん…集真・哀へ、手を差し伸べた。
「じゃあ、踊ってみようか?」
イクシアの誘いに、哀はその差し出された手とイクシアの感情の乏しい顔を数度視線を往復させると、そっと手を伸ばし乗せた。
「あなたは、これから多くの|妖怪《ヒト》と縁を結んでいくことになるはずだけど…」
哀は手を引かれ、光の舞う中へ足を踏み込む。
「私たちもカクリヨの世界に行くことはできるから」
踊る。振りも舞も無い踊り。かつてあったのかもしれない、子供が手を繋ぎ、周り、巡るだけの踊り。
「また、向こうでも会いましょう?」
そんな、約束を口にする。
「……約束、ですか?」
哀の視線が真っ直ぐにイクシアの目を見つめる。
その視線を、イクシアはまるで瞳の内まで覗き込まれている様な感覚を感じたが、
「ええ、約束ね」
臆するも窮するも、動じることなく簡潔に答えた。
哀はそれを聞くと一度だけ目を閉じ、それからはただ共に音に合わせ踊った。
…。
……。
「あれは…」
偶然、イクシアの視界が何かを捉えた。
イクシアは踊るのを止めると、その何かを捉えた場所…御星の仕掛け鞄、その内側の隅へと手を伸ばした。
他の三人も、気になったのか周りに集まり覗き込む。
イクシアの指で抓まれ現れたのは…布切れ。
ほつれ破れ、元の色も分からない程に色あせてその上で汚れに汚れた布切れ。
端的に言えばゴミだ。
「それ、私知らないよ」
仕掛け鞄の御星がそれを知らないと言う。
なら、元から入っていたのではないだろう。
解放時に出現したのだろうが……元がなんであったか分からない。
「これ、元は青色ですね。藍染じゃないけれど」
と、横から手が伸び布切れを攫って行った。
目を向ければ、哀は布を透かすように見ながらそう言った。
「ふぅん…これは?」
哀は御星に聞く。
言葉が足りなすぎるが、要はこれって何?or貴女の?orゴミ? といった所だろうか。
御星としては、仕掛け鞄解放で出現したものであれば、何らかの妖怪に関係するものかもしれず、ゴミと言う訳にも行かず
「えっと、私のではないね?」
何処か疑問符付きでそういう他なかった。
「そうなの? なら、青いし貰いますね」
妖怪特有の感性か、哀はそう言うと布切れを折りたたんで袖の中に仕舞ってしまった。
「ありがとうございます。楽しかったですよ」
哀は微笑んでそう言って、立ち上がった。
…。 …。
これは、その場の誰も…いや、この世の誰も知らない、もう誰も知る人がいない事だけれど、その布は元は四人の頭の遥か上、ダムの傍に立つ小さな社に備えられていたものだった。
その社に祀られた物とは無関係の元は、青い、不格好な、花の形に縫われた布花。
供えられたのはかつて昔。
時と共に、色は落ち、糸は解れ解け、その社の事を知る人も、その花だった物の事を知る人ももう居ない。
かつて果たせなかった約束の代償の花。
大成功
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佐倉・理仁
忘れ去られて消えゆく景色、か。ここは俺の住む所よりもずっと、骸の海に近いんだろうな……あー、いかんね、こういう場所は戦うにゃ都合いいけど一人で居ると陰気になる! ちっと妖怪の顔でも見てくるか。思いきりどついた気まずさは、お互い忘れた事にできんかね?
ま、二度会う事もないだろう。無遠慮に聞いてみたい事聞いてみっかな
よ、ご同胞。調子はどうよ?
なぁアンタってなんの妖怪って覚えときゃいいんだ? 金魚でいいのか、それが俺のイメージめちゃ強なんだが。マジビビったわ。
どんな悪さすんの?(失礼 やっぱさっきみたいに何でもかんでも真っ青にすんのか?
向こうの蜘蛛系の為に一応言っとくけど、俺は蜘蛛の妖怪じゃないからね
「忘れ去られて消えゆく景色、か。ここは俺の住む所よりもずっと、骸の海に近いんだろうな…」
骸の海を過去と言うのなら、朽ちていようと取り残され、過去を残しているこの場所は確かに骸の海に近いと言えるだろう。
佐倉・理仁(死霊使い・f14517)は、そんな景色に無数に舞う小さな光で幻想的まで足されて、より現実離れした光景を無言で眺め…
「あー、いかんね、こういう場所は戦うにゃ都合いいけど一人で居ると陰気になる!」
頭をがりがりと掻いて雰囲気に引かれる気分を切り替える。
病は気からとも言うし、UDCはなんだかんだで気分に左右される。
(ちっと妖怪の顔でも見てくるか。思いきりどついた気まずさは、お互い忘れた事にできんかね?)
とりあえず、行動する事にした。
まぁまぁまぁ、カクリヨファンタズムの妖怪と同じ性質であれば問題はないはずだ。
悪く思われている可能性は…
「ま、二度会う事もないだろう。無遠慮に聞いてみたい事聞いてみっかな」
思われていたら思われていたでそれまでかと考え直す。
一期一会…違うか。
嫌われたとしてもまぁいっか、と佐倉は思考のレールが切り替わった。
「よ、ご同胞。調子はどうよ?」
「え…ああ、蜘蛛の方。姿が少々変わっていて…」
妖怪は一瞬、話しかけてきたのが誰か分からなかったようで首を傾げたが、数度全身を見回してから気づいたように声を上げた。
その様子から見て特に悪感情は抱かれていない様に思う。
なのでもなんでもやる事に変わりはないが、スパッと聞いてみた。
「なぁアンタってなんの妖怪って覚えときゃいいんだ?」
気になっていた。パッと見る限り人であるが、とは言え有名どころでもぬらりひょんやら人の様な妖怪もいる。とは言えを重ねるが、化身の可能性もあるから見た目で判断するのも難しい。
「金魚でいいのか、それが俺のイメージめちゃ強なんだが。マジビビったわ」
金魚と言えば観賞用だが、あれはそんな可愛らしくない。UDCを食べ過ぎた副作用も多分にあるのだろうが、どうなのだろうが。
「何の妖怪、ですか? 人…私は元は藍染職人でしたね。この子は……友達?」
跳ねる様に傍らに現れた小さな藍の金魚を、指で擽りながら哀は言う。
「それに、なんと言いますか先程の様な暴力事は私は苦手ですので…二度同じ事は出来ないかと…」
つまり、やはりUDC食べ過ぎによる底上げが大きかったと言うことを言いたいのだろう。
逆説的に言えばそれが出来るようになる、ポテンシャルはあるという事なのだが。
「はーん、元はそうなんだ。ん? じゃあどんな悪さすんの? イメージ付かないな。やっぱさっきみたいに何でもかんでも真っ青にすんのか?」
「悪さって、私は悪戯っ子ではありませんよ」
妖怪は少々ふくれつつ羽衣を手に取り、その花の模様を示す。
「私がする事…と言うよりも気質でしょうか。人から哀しみを貰い、それをこうして花の形で集める事。それだけです」
種類としてはちょっとした手伝いをするものに近いのだろうか。
まぁとりあえず聞きたい事は聞けただろうか。
なので、最後に
「あ、そうだ。向こうの蜘蛛系の為に一応言っとくけど、俺は蜘蛛の妖怪じゃないからね」
それだけ言って去ってみた。
「え、え、え?」
妖怪の顔に?が幾つも浮かぶのは、人が妖怪を化かしたようで少々おかしく思ってしまった。
大成功
🔵🔵🔵
酒井森・興和
WIZ
こんばんは、お嬢さん?で良いのかな
泣けて少しはすっきりした…だろうか
待ち人を思い出せば
未練は残っても思い出に慰められる事もあろうし
妖怪の里で養生されますよう
向こうで平穏に過ごせるといいねえ
さて僕は水底で蛍送りをのんびり楽しむ
ここも昔は人里だったとか
山村1つ沈めて溜め池を造るなんてなあ…(空?水面を下から見上げて)
飛行機に高層ビル、宇宙行きのロケットとか言う乗り物
この世界でも銀雨世界でも人間達は700年の間に何でも出来るようになったのだねえ
僕ら来訪者はまだ人の世でも生きる術はある
でもあなた方取り残される妖怪というのを見ると
なんとも同情だけではない、もっと身に迫る思いがするよ
では、お元気で
「こんばんは、お嬢さん?で良いのかな」
「あ、私とは違う妖怪の蜘蛛の人」
酒井森・興和(朱纏・f37018)は妖怪に近寄り隣に立つと、そう声を掛けた。
「泣けて少しはすっきりした…だろうか」
「はい、もう大丈夫です。居ないと認めてしまえれば、諦め難くても受け入れられますから」
そう言うと妖怪は自身の胸に手を当て、大切な物を思うように笑みを浮かべた。
その様子なら大丈夫なのだろう。
約束は執着から思い出になった。
「待ち人を思い出せば、未練は残っても思い出に慰められる事もあろうし、妖怪の里で養生されますよう」
「ええ、ありがとうございます。向こうの事は何も知らないから、怖くもあり楽しみでもありますね」
そう楽し気にくすくすと笑う。
向こうに行けば、もう目の前に居る誰かに認識されないと言う事も無くなる。
そしてもう二度と、こちらの世界の土を踏む事は無い。
「向こうで平穏に過ごせるといいねえ」
酒井森は妖怪の状態を確認し終えると、それだけ言い残し去っていった。
酒井森の視界の内を、ゆっくりとゆったりと藍の蛍の様な光が舞う。
幾つもの柔らかな光が尾を引いて暗闇に線を描く。
冷たさを感じさせる光。
今、現在。こんな光景が見られる場所はどれだけ残っているのだろうか。
(昔は…)
酒井森は一人、光舞う中を歩きながら考えてしまった。
(山村1つ沈めて溜め池を造るなんてなあ…)
今居る場所も、かつては人が歩き、人の生活があった人里だった。
酒井森が見上げたその先に移るのは、空でも雨雲でもなく、暗く揺蕩う水面。
誰かが生きた、誰かの思い出の場所を圧し潰し、蓋をする様に暗い。
「飛行機に高層ビル、宇宙行きのロケットとか言う乗り物。この世界でも僕の世界でも、人間達は700年の間に何でも出来るようになったのだねえ…」
感慨深くなって、思わず息が漏れてしまう。
人が拡げていく世界に取り残されていくような感覚を時々感じていたが、今もまた同じ感覚を覚えてしまう。
ちょっと気を抜けば、数年どころか数か月であったものが消え、無かったものが増えて景色が変わる。
それでも…
「それでも、僕ら来訪者はまだ人の世でも生きる術はある。でもあなた方取り残される妖怪というのを見ると…なんとも同情だけではない、もっと身に迫る思いがするよ」
妖怪には、人の世に縋りつく術すらなった。
選択する権利も無く取り残されて。
だから、向こうではせめて幸いであれと、
「では、お元気で」
そう祈ろう。
振り向いたその先に、もう藍の色は無かった。
色褪せた境内に色を飾った花は一輪すらも無く消え、舞っている光も徐々にその数を減らしていった。
直に、この水底の空間を維持していた力も消え、圧し掛かっていた大量の水が落下してくるだろう。
残されていたもの全てを圧し潰して、跡形も残さずに歴史を浚っていく。
それが元からそうであったように。
大成功
🔵🔵🔵