バルタンのメガリス回収作戦! ~魔弾タスラム~
●前日譚:占いの|縁《よすが》にて。
シルバーレインのとある街角にて、小規模のフリーマーケットが開かれていた。
使わなくなった雑貨や古い家具、何のために集めたのかわからないキャラクターグッズがぞろぞろと並ぶ中に、それはあった。
おおよそ50cmの、ハンドボールほどの大きさのコンクリート製に思われる、ただの丸い石。
表面には無秩序に紋様が刻印されており芸術品とは言い難く、漬物石としては丸すぎて置きづらい微妙な困りものだろう。
それに、通りすがった青年が目を付けた。
「ふーん、石、か。今週のラッキーアイテムだったっけ……」
その青年は曰く付きの代物を好み、こうした青空市場で縁のある物品を物色する趣味があった。
たまたまテレビで聞いた占いの結果と合致した代物が目に留まり、値段も百円と手軽であったために青年はそれを手に入れた。
「お。良い感じの握り心地じゃねぇか」
彼は、知らなかった。
その石はメガリスという強大な力を秘めた古代の遺産であり、ひとたび投げればたいていの防壁を貫く魔弾であることを。
その力を所有者に発揮させるべく争いを引き寄せ、力の代償として投擲する度に敵を打ち倒し、目標を破壊する快感を持ち主に植え付け、加虐心を育む曰く付きのものだということを。
彼―――|桜庭《さくらば》・|楼美夫《ろみお》は、この先に降りかかる争いの日々を知る由もなく、上機嫌で魔弾『タスラム』を手に帰路に着くのだった。
●招集:メガリス回収要請!
「ハーイ、エブリワン! ちょっとしたミッションを発令しマース!
お時間があれば、ご協力くだサーイ!」
グリモア猟兵バルタン・ノーヴェがプラカードを掲げて、猟兵たちに協力を要請している。
普段と異なりプロジェクターは用意されておらず、机の上に和洋中の様々なお菓子が並べられている。
どうやら、オブリビオンとの戦いはないようだ。
「今回は、メガリスの回収を依頼させていただきマース!
目標は某市にて確認された、魔弾『タスラム』!
投擲すればほとんどの装甲や防壁、結界を貫通して標的に命中するという概念を付与された石のボールであります!
一種の防御無視効果を有するこのメガリスでありますが、その威力を振るわせるために持ち主を争いの渦中に引き込むという性質と、破壊力による高揚感を増幅させて持ち主の人格を暴力的に傾けさせるという厄介な代償があるのデース!」
猟兵であれば、戦いに引き寄せられるのは問題はないだろう。
代償となる精神への影響も、強い心を保てば耐えられ……そもそも使わなければ問題はないだろう。
だが、一般人が保有するにはあまりに攻撃的であり、危険なメガリスだ。
「現在、この『タスラム』は桜庭・ロミオという方が所持しておりマース!
予知によると間もなくストリートファイトに巻き込まれて『タスラム』を用いる様子が確認されマシタ!
そこで、喧嘩を収めるとか乱入して止めるとかして、ロミオ殿が『タスラム』を投げる前に穏便に鎮圧してくだサーイ!」
幸いにして、その場に居合わせるのは一般人だけだという。
猟兵の能力であれば、傷つけることなく収拾を付けたり、喧嘩を止めることはできるだろう。
「その後はロミオ殿から『タスラム』を譲り受ける交渉となりマスガ、事前の調査によりロミオ殿は甘味が好物とのこと!
なので、和・洋・中の甘いお菓子を用意したので、こちらで買収してくだサーイ!」
バルタンは事前に料理していたお菓子の用途を告げた。賄賂である。
量はあるため、猟兵たちのお土産として持ち帰ってもらっても構わない。
「回収した『タスラム』の処遇に関してはこちらで保管するつもりデスガ、欲しい方がおられるならばその方の所属している旅団で管理する形でお譲りいたしマース!
持ち帰り希望者が複数名おられたら……まー、じゃんけんで?」
何はともあれメガリスを回収することが大事なのであって、その後の処遇に関しては臨機応変ということだ。
バルタンとしても協力してくれた方が持って行ってくれるなら管理が楽になるというものであろう。
「それでは、激しいバトルも無いはずなので、よろしくお願いしマース!」
猟兵たちにお菓子を捧げつつ、バルタンはグリモアを起動してゲートを開く。
その先では、『タスラム』を手にしたロミオが路上の喧嘩に巻き込まれようとしている……。
リバーソン
こんにちは。リバーソンです。
マスターとして皆様に喜んでいただけるよう、つとめさせていただきます。
今回の舞台はシルバーレイン。とある街中で偶発的にメガリス『タスラム』を入手した青年から、『タスラム』を穏便に回収することが目的です。
一般人同士で争いが発生しますが、未然に食い止めることは可能です。
死傷者が出ない範囲であれば、乱闘に混ざって叩きのめしても構いません。
プレイングボーナスは、とくにありません。
第一章:『タスラム』による影響で路上にて喧嘩が行われます。
その喧嘩に『タスラム』の持ち主である桜庭・ロミオが巻き込まれそうになっております。
メガリスの力を振るう前に喧嘩を収めたり、取り押さえたり、鎮圧したりしてください。
第二章:喧嘩を収めた後、ロミオから『タスラム』を回収します。
バルタンの用意した甘味や、猟兵たちで用意したお菓子を提供すれば、ロミオは快く『タスラム』を手放してくれるでしょう。
せっかくなので、帰還する前にお菓子を堪能してください。
また、シナリオクリア後に『タスラム』の持ち帰りを希望する方は、第二章のプレイング文章冒頭に「@」を記載してください。
その人が所属する旅団が管理するという形で、『タスラム』を持ち帰ってもらって構いません。(『タスラム』のアイテム化・ユーベルコード化はお客様が自由に設定し作成してくださって構いません)
希望者が複数名おられた場合、バルタン・ノーヴェの日記帳にてダイスを振り、一番出目の小さかった方にお持ち帰りしてもらいます。(00は100として扱います)
オープニング公開後、断章を公開します。
プレイングの受付期間はタグにてお知らせいたします。
皆様、よろしくお願いいたします。
登場人物:|桜庭《さくらば》・|楼美夫《ろみお》。人間の男性、高校生。
占いやオカルトが好きで、曰く付きな物品を集める趣味がある好奇心旺盛な若者。
……今回メガリスを手にしたのは偶然なのだろうか……?
第1章 冒険
『喧嘩大乱闘』
|
POW : 喧嘩に乱入して、収めてしまう。
SPD : 速さを生かして、喧嘩をすり抜ける。
WIZ : 人だかりを利用して、誘導する。
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●断章:アンラッキーアイテムでしたね。
「ん? ……なんだ? 喧嘩か?」
桜庭・|楼美夫《ロミオ》が手に入れた石の手触りを感じながら道を歩いていると、喧騒が聞こえてくる。
行く手を阻むように、真昼間の往来にもかかわらず酔っぱらった男たちが喧嘩をしているようだ。
通行人が制止するよう割って入ったり、警察に通報している様子が見て取れる。
「おいおい、迷惑な奴らだな……」
ロミオは眉をひそめて迂回路に入る。
好奇心はあれど、進んで揉め事に近づこうとは思わないようだ。
心中で苛立ちを零しつつ変えた道の先では……血気盛んな不良学生の集団が取っ組み合いをしていた。
「えー……? いつからこんなに治安悪くなったんだよ、ここ」
面倒に思いながら、ロミオは空いた手で頭を掻き、静かに踵を返す。
遠回りにはなるが学生たちの抗争の渦中を横切るよりはマシだと、喧嘩に巻き込まれないよう道を引き返そうとして……。
ラーメン屋から出てきた客たちが殴り合う様子を目の当たりにした。
酔いが回っているのか、支離滅裂な暴言を吐き合っている。
ロミオは喧嘩に挟まれた形になった。
「どうなってんだよこりゃ……うおっ!?」
「おめぇもビールは飲めねぇってのかぁ!」
ラッキーアイテムのはずの石を握りしめるロミオに、招き猫の置物を武器として振り回す男性が向かってくる。
咄嗟に身を避けたロミオだが、完全に喧嘩の渦中に飲み込まれてしまった。
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺は関係ない、ってオイ!?」
「酒のおれがぁ! 酌を飲めねぇってのかぁ!」
乱闘の中で身を護るために慌てて動き回るロミオ。
このままでは逃げる間もなく、やむを得ずこぶしを……そして、握ったままの石を振るってしまうことになるだろう。
ロミオが握ったまま石が……メガリスである魔弾『タスラム』が、刻まれた紋様を怪しく発光させる。
まるで、所有者に敵を破壊する悦楽を味合わせることができると喜んでいるかのように……。
ニクロム・チタノ
争いを誘発する魔弾とかたちが悪いメガリスだね
そんな危ないモノは圧政を生むだけだよ、このままにはしておけないね
まずはケンカしている人達をどうにかしないとね?
反抗の竜チタノよ降り立て
この辺りはボクの重力領域だよ、重力は重くするだけじゃない無重力にして体を軽くして浮かすことも出来るんだよ
ふわふわ浮いてちゃまともに体を動かせないでしょ?
うわーこんな状態なのにまだ怒鳴りあってるよ・・・
ロミオさんもとんだアンラッキーアイテムを手に入れちゃったみたいだね
早くロミオさんからメガリスを回収しないとね
フリル・インレアン
ふえ?私のふええ石もメガリスなんじゃないかって、そんな訳ないじゃないですか、アヒルさん。
これをずっと持ち続けていますけど、大きな幸運なんてありませんでしたよ。
そんなことよりあの喧嘩を早く止めましょう。
ここは恋?物語がいいでしょうか。
雨降って地固まると言いますし、案外仲良しさんになるかもしれませんよ。
……ふええ、喧嘩が収まっても、なんで私がお酌して回らないといけないんですか?
雨降って地固まったから、酒を交わすのは当たり前って、私は関係ないじゃないですか。
ふえ?私がロミオさんより先に不幸の渦中に飛び込んだのだからしょうがないって、そんなぁ。
ブリュンヒルデ・ブラウアメル
全く、メガリスというのも厄介だな
UCで致死致傷を負うというエンディングを見つけ、それを破壊
我の鍛えた肉体で暴徒達を鎮圧していくぞ
酔っ払いには遠当てを
不良学生には背負投を
ラーメン屋の客にはハイキックで脳震盪を
招き猫を振るう酔っぱらいには招き猫を保護するように後ろ回し蹴りを
スカートを気にせず立ち回り、鎮圧していく
それが終わったらロミオに接触
災難だったな、しかしこういう言葉もある…神秘使いは神秘使いと惹かれ合う
銀誓館学園という鎌倉の学校法人を聞いたことは無いか?
いや何、惹かれていると思ってな…
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
状況柄「売った側」の正体が気になる面も有りますが。
まずは対処から、ですねぇ。
聞こえて来る内容が既に支離滅裂ですし、言葉で止めるのは難しそうですぅ。
状況柄時間の余裕も無さそうですから、纏めて対処しましょうかぁ。
【皎翼紈】を発動、『祭器の衣』として現地に居てもおかしくない雰囲気の衣装を着用し、目立たない程度に地面から浮きつつ『覇』を放射しますねぇ。
喧嘩中の方々は極めて高い確率で「非能力者」、仮に「能力者」が混ざっていても、猟兵やオブリビオン程の力は無い以上、『覇』の効果で意識を奪えるでしょう。
『世界結界』の関係上、表向きは「酔いが回った」等ということになるのではないかとぉ。
雁帰・二三夫
「バロールの魔眼を射抜いたかもしれない石弾、でしたか。厨ニ心が揺さぶられるいい名前です。わたくし大好きです」
おっさん、にやにやした
「是非触ってみたいし投げてみたいです…行かねば!」
「タスラムへの興味が勝ってウキウキ来てしまいましたが…ここは鉄火場でしたね」
おっさん、渋面になった
「亀の甲より年の功、無駄に年食った訳じゃないと証明しなくては…」
「ラブ&ピース、仲良く休みましょう、皆さん」
何度もアルカイックスマイル浮かべ周囲を眠らせたら、本人達の衣服剥ぎ取りその衣服で縛り上げ拘束
ロミオ含め周囲全員眠らせ拘束するまで何度も続行
「これで落ち着いて話し合い…出来るといいですよね」
おっさん、目を逸らせた
●メガリス回収作戦、開始。
「バロールの魔眼を射抜いたかもしれない石弾、でしたか。
厨ニ心が揺さぶられるいい名前です。わたくし大好きです」
グリモアベースにて。キャンプ好きの猟兵である、知る人ぞ知るバトロワシューター。
雁帰・二三夫(引きこもりたい住所不定季節労働者・f37982)はゴーグルに隠された瞳を輝かせて笑顔で参加を表明した。
「是非触ってみたいし投げてみたいです……行かねば!」
『タスラム』を回収するついでに試用でもするつもりなのだろうか、二三夫はにやにやと笑みを浮かべてゲートを潜った。
そして現場で頬をひきつらせた。
そこでは、酔っ払いと正義感と不良学生と酔っ払いと酔っ払いによる喧嘩が行われているからだ。
「タスラムへの興味が勝ってウキウキ来てしまいましたが……ここは鉄火場でしたね。
うーん……おっと、他の方も到着されましたね」
二三夫は、一般人同士の乱闘を目の当たりにして渋面になった。
どうしたものかと思案していると、その傍に事態解決のため次々と猟兵たちが転移して来る。
「争いを誘発する魔弾とかたちが悪いメガリスだね。
そんな危ないモノは圧政を生むだけだよ、このままにはしておけないね」
反抗の竜チタノに選ばれて反抗者になり、数多くの戦いを経て成長を続ける若き猟兵。
ニクロム・チタノ(反抗者・f32208)は眼前で行われている乱闘の元凶である『タスラム』を握るロミオを探して視線を巡らせている。
「まずはケンカしている人達をどうにかしないとね?」
「ぐわっ!」
「ふえ? 私のふええ石もメガリスなんじゃないかって、そんな訳ないじゃないですか、アヒルさん」
フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)は現着すると同行するガジェット『アヒルさん』に指摘され、自身の持つ『ふええ石』がメガリスではないかという疑問を否定した。
『ふええ石』はただ、持ち主に艱難辛苦を呼び込む不思議な石なのである。
「これをずっと持ち続けていますけど、大きな幸運なんてありませんでしたよ」
「……ぐわっ」
……『ふええ石』はただ、持ち主に艱難辛苦を呼び込む不思議な石なのである。
「そんなことよりあの喧嘩を早く止めましょう」
「ああ。全く、メガリスというのも厄介だな」
フリルの言葉に同意するのは、若くしてエンドブレイカー世界にある一つの都市国家の元首となった、たたき上げの騎士。
ブリュンヒルデ・ブラウアメル(蒼翼羽剣ブラウグラムの元首『剣帝』・f38903)だ。
そして、童顔且つ小柄ながら桁違いに発育の良い体型の美しい少女。
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)も駆け付けて、この騒動を鎮圧するための猟兵は勢ぞろいとなった。
「聞こえて来る内容が既に支離滅裂ですし、言葉で止めるのは難しそうですぅ。
状況柄時間の余裕も無さそうですから、纏めて対処しましょうかぁ」
「それでは亀の甲より年の功、無駄に年食った訳じゃないと証明しなくては……」
集まった若い少女たちの前に立たねばと、大人として先陣を切るのは二三夫であった。
二三夫は乱闘している者たちに近づき、菩薩のような|口元にのみ微笑《アルカイックスマイル》を浮かべる。
「ラブ&ピース、仲良く休みましょう、皆さん」
《戦士(笑)の休息(センシワライノキュウソク)》。
それは、二三夫の笑顔を浴びせられた対象を眠らせる範囲攻撃ユーベルコードだ。
睡眠中は対象の負傷が回復するため、アフターケアもばっちりである。
酔っ払いも学生も、二三夫の笑顔が直撃する端からその場に崩れ落ちていく。
「な、おい、大丈夫か……?」「お? 寝落ちかぁ? チャンスぅ!」
笑顔の範囲外にいたため、眠ることなく倒れた人を心配する学生や、それを好機と捉えて跳びかかる酔っ払い。
様々な反応を見せる生き残りだが、彼らの手足が横たわる人々に届くことなかった。
喧嘩をしていた者たちはいっせいにふわりと浮かび上がり、現場にいた一般人たちに向けて局地的な大雨が降り注ぐ。
「な、なにぃ!?」「う、浮いてる!?」「はぁ!? ほわぁ!? はわぁぁぁ!?」
「反抗の竜チタノよ降り立て」
「雨、止みませんね」
突然の雨に濡れながら空中に漂うことになったのは、ニクロムとフリルが同時に行使したユーベルコードによるものだ。
《絶対反抗領域(アブソリュートニクロム)》と《突然の大雨と雨宿りが齎す恋?物語(ウォーターハザード)》。
水晶の涙を降らせる事で辺り一帯をニクロムの操る重力領域と同じ環境へと変化するユーベルコードと、突然の大雨を降らせる事で戦場全体が雨が止むまで行動を一時中断せざるを得ない状況にするユーベルコード。
二つの環境改変系ユーベルコードによる相乗効果である。
「ラブ&ピース、いい言葉ですね。……ここは恋? 物語がいいでしょうか。
雨降って地固まると言いますし、案外仲良しさんになるかもしれませんよ」
「ふわふわ浮いてちゃまともに体を動かせないでしょ?」
「た、たす、たすけて! おかあちゃあん!」「ごめんなさいごめんなさぁぁぁい!」
重力は重くするだけではない。無重力にして身体を軽くすることで、浮かして無力化することもできるのだ。
突然の大雨から逃れようとしても、身体が浮いていてはまともに動くこともできない。
頭に血が上っていた幾人かは大雨で頭が冷えたのか、狼狽して泣き喚いている。
《戦士(笑)の休息》で安らかな眠りについた者たちも、ふわふわと浮いて安全だ。
「大丈夫ですよ、ゆっくりおやすみください」
「ころさないでっ!? すやぁ……」
「よし。では次の方」
「タスケテッ! ふごぉ……」
そうして空中を漂いパニックに陥った者に、二三夫は近づいてく。
アルカイックスマイルを向けて、一人一人静かにしていく。
二三夫は無重力空間でも軽やかな動きで飛び回り、念のために彼らの上着を剥ぎ取って近くの電信柱や窓の柵に結んで飛んでいかないよう保護と拘束を済ませていく。
「飛んでる、飛んでる! これがおれの力だぁ!」 ※違います。
「ハッハァ! 宇宙までぶっとばしてやるぜぇ!」 ※無理です。
そんな中、アルコールを摂取していた大人たちの何人かは、この状態になってもまだ元気に暴れていた。
雨に濡れた顔が赤いままの酔っ払いが、電信柱や店の壁を使って四次元機動の喧嘩を続行する。
足が浮いているのでこぶしに力は入っていないが、招き猫を振り回したり掴みかかったりと危険なことに変わりはない。
「うわーこんな状態なのにまだ怒鳴りあってるよ……」
「暴徒であれば、武力で鎮めるしかあるまい」
「一旦落ち着いてもらいましょうかぁ。行きますねぇ」
ニクロムがあきれた様子で見つめている中、暴れている者たちを制圧するべくブリュンヒルデとるこるが動いた。
「終焉を破壊せよ、我が蒼き翼!
我が終焉破壊の基礎を罪深き刃とする事を以て、その終焉に終焉を!」
ブリュンヒルデが行使したのは、《蒼翼の終焉破壊・終焉破壊の基礎たる我が瞳(ブラウアフリューゲル・イェソドアイズ)》。
『|終焉《エンディング》』を破壊する事で対象の攻撃を予想し、回避するというユーベルコードだ。
ブリュンヒルデは対象を問わず致死・致傷を負うというエンディングを見つけ出し、それを破壊していく。
喧嘩によって大きなダメージが起こる『終焉』を砕き、無重力の中を翼をはためかせて暴徒たちを鎮圧していく。
「とぅ! せいっ! てやっ!」
「あでっ!?」「ぶろっ!?」「みっ!!!」
遠当て、背負い投げ、ハイキック。
ブリュンヒルデは鍛えた肉体を躍動させて、無重力空間を利用した機敏な立ち回りで次々に脳震盪を引き起こして暴徒たちの意識を落としていく。
招き猫を振るう酔っぱらいには招き猫を保護するように、スカートを気にせず後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「大いなる豊饒の女神の使徒の名に於いて、その威を司る衣紋を此処に」
そして、るこるが発動するのは《豊乳女神の加護・皎翼紈(チチガミサマノカゴ・コウヨクノキギヌ)》。
『祭器の衣』を纏った姿に変身し、るこるの有する全ての『祭器』を強化しつつ、時速14500kmで飛翔しながら、戦場の敵全てに意識を奪う弱めの『覇』を放ち続けることができるユーベルコードだ。
非能力者やキャバリア搭乗者といった、オブリビオンではない相手を傷つけることなく無力化することができるのだ。
『祭器の衣』の意匠は現地に居てもおかしくない雰囲気に留め、るこるは僅かに地面から浮いて『覇』を放射する。
「えい」
「ぶるすこぁ!?」
当然、オブリビオンでもなく特殊な能力を有する訳でもない一般人たちはひとたまりもない。
戦場にいた暴れん坊たちは『覇』を浴びて悉く意識を喪失する。
ブリュンヒルデとるこるの活躍により、乱闘の敗北者たちは大人しく気絶して宙を漂うこととなった。
二三夫とニクロムが、ユーベルコードが解除された後で無力化された人々が怪我しないよう拘束していく。
「ふぅ。これでよし、と。何とかなりそうですね」
「目覚めた時には落ち着きを取り戻しているといいのだが」
「『世界結界』の関係上、表向きは『酔いが回った』等ということになるのではないかとぉ」
「……ふええ」
「あれ? フリルさん?」
一方、フリルは《突然の大雨と雨宿りが齎す恋?物語》により喧嘩を一時中断した酔っ払いに絡まれていた。
喧嘩は中断したので、酒呑みを再開したのだろう。
「おじょうちゃん! そこの焼酎を注いで、頼んまぁ! あひゃひゃ!」
「喧嘩が収まっても、なんで私がお酌して回らないといけないんですか?」
「ぐわっ!」
「雨降って地固まったから、酒を交わすのは当たり前って、私は関係ないじゃないですか」
「ああ、回るぜぇ、お空が下で地面が上で……うっぷ」
「ふええ、エチケット袋はどこですかぁ?」
「今行きます!」
無重力下で大回転したことで大変なことになった人物は、慌てて駆け付けた二三夫が対処してから笑顔を放ったことで無事に眠りについた。
フリルに降りかかりそうになった惨劇は今回は防げたことを明記しておきます。
●回収交渉に備えて。
「状況柄『売った側』の正体が気になる面も有りますが。まずはロミオさんへの対処から、ですねぇ」
喧嘩を収めた猟兵たちはひと段落ついたことで、息を整える。
これで、メガリスによる被害が拡大することは防ぐことができた。
路上で横たわる人々への事後の処置は、現地のお巡りさんや各種組織が面倒を見てくれることだろう。
「ロミオさんもとんだアンラッキーアイテムを手に入れちゃったみたいだね」
「ぐわっ!」
「ふえ? 私がロミオさんより先に不幸の渦中に飛び込んだのだからしょうがないって、そんなぁ」
「これであとは……あ」
二三夫がロミオに目を向けると、そこには重力領域と局地的豪雨により濡れたままふわふわと漂っているロミオがいた。
どうやら二三夫のアルカイックスマイルに巻き込まれたため、のんきに寝息を立てているようだ。
『タスラム』はしっかりと握られているが、所有者の意識が失われたためそのメガリスが使用されることはないだろう。
四人の少女から向けられる視線に目を逸らし、二三夫はいい笑顔を浮かべる。
「……落ち着いて話し合い……出来るといいですよね」
「ふええ。ロ、ロミオさんが」
「このまま持ち去ってもいいかもしれないが……いや、メガリスが何を引き起こすかわからないし、ちゃんと手順は踏もう」
『タスラム』を回収する交渉を行うため、ブリュンヒルデがロミオの寝たままシナリオからフェードアウトするという『終焉』を破壊する。
目を覚ましたロミオが混乱しないよう、ニクロムとフリルはゆっくりとユーベルコードを解除していく。
「う、うう……なんだ……?」
「災難だったな」
「ひとまず、場所を移しましょうかぁ」
「うん。早くロミオさんからメガリスを回収しないとね」
「え……え? なにこれ」
『タスラム』の所有者であるロミオから穏便に譲渡してもらうために、猟兵たちは場所を変えることにした。
流石に、酔っ払いの残滓が臭う場所で甘味を堪能する訳にはいくまい。
「しかしこういう言葉もある……神秘使いは神秘使いと惹かれ合う。
銀誓館学園という鎌倉の学校法人を聞いたことは無いか?」
「銀誓館……? いや、無いけど……何か?」
「いや何、惹かれていると思ってな……」
ブリュンヒルデが口火を切り、猟兵たちから簡単に話を聞きながら歩いていくロミオ。
『タスラム』の悪影響が彼を蝕む前に、引き起こされた騒動は無事に収束した。
あとは落ち着いてから、ロミオからメガリス『タスラム』を回収するだけである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『甘味は全てを解決する』
|
POW : 甘い「和」のお菓子を堪能する
SPD : 甘い「洋」のお菓子を堪能する
WIZ : 甘い「中」のお菓子を堪能する
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●断章:買収フェイズ。
多重的に発生した喧嘩による乱闘騒ぎが収束して、現場を離れた猟兵たちとロミオは簡単に事情を説明した。
メガリスなどの詳細を語らずとも、手に入れてすぐにトラブルに巻き込まれたこともあって、ロミオは猟兵たちの言葉を受け入れている様子だ。
「要するに、この石はアンラッキーアイテムだったわけか。
あの番組、よく当たる占いだったのになぁ……!」
ロミオが猟兵に対して好意的なこともあり、あとは気兼ねなく回収できるように交渉すれば解決するだろう。
具体的には用意した甘味やお菓子を提供して、堪能してもらえれば躊躇も憂いもなく快く渡してくれるだろう。
騒動を収めたことの慰労も兼ねて、皆さんにも甘味を堪能していってもらいたい。
※備考。
シナリオクリア後にメガリス『タスラム』の持ち帰りを希望する方は、第二章のプレイング文章冒頭に「@」を記載してください。
その人が所属する旅団が管理するという形で、『タスラム』を持ち帰ってもらって構いません。(『タスラム』のアイテム化・ユーベルコード化はお客様が自由に設定し作成してくださって構いません)
希望者が複数名おられた場合、プレイング受付締切後にバルタン・ノーヴェの日記帳にてダイスを振り、一番出目の小さかった方にお持ち帰りしてもらいます。(00は100として扱います)
展開の都合上、リプレイは連携プレイングになると思われます。ご了承いただけると幸いです。
それでは皆様、よろしくお願いいたします。
雁帰・二三夫
@
「石弾と聞いて5cm程度かと思っていましたが…よくこれ持てましたね、桜庭さん」
タスラム掴んだおっさん、慄いた
「これ、桜庭さんの前では投げない方がいいでしょうねえ」
「桜庭さん、でしたか。わたくし雁帰二三夫と申します。貴方のお持ちのその石を譲っていただきたいのです」
車からキャンプ用ローテーブルと折畳椅子人数分出し珈琲と洋菓子勧め
「モンブランケーキと安納芋タルト、絶品ですね…いかんいかん」
「我々は銀星館学園の協力者で、そういう危険な物を集めて保管しています。その石は所持していると喧嘩に巻き込まれやすくなりその石で人を殺したくなるという曰くがあります」
「お菓子食べ放題の幸運は得られたじゃないですか」
ブリュンヒルデ・ブラウアメル
銀誓館の提供する甘味は美味だな
(抹茶パフェを食べている)
それと……手配したイグニッションカード等の能力者であるか判別するキットもな
運命の糸、という概念があるそうだが……彼がタスラムを拾ったのも何かの縁…能力者の可能性もある
そうして、能力者である事が判明したら銀誓館学園と世界の真実を説明する
オブリビオン化した世界結界のせいで、放置していたら狂気に飲まれる可能性もあるからな
そう言って検査の後、次はチョコケーキを食べる
チョコは好きか?我は好きだ
ん?ああ、この口調と一人称は素だ
何せ我は『本物』の異能者、であるからな
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
甘味は有難いですねぇ。
会話中ですので量は普段より抑えますが、それでも驚かれそうな?
実際に巻込まれた分、話が早いですねぇ。
「購入額+α」になる様な何かとの交換、という形にすれば、快く譲って頂けそうですぅ。
出来れば、以前の持主に当たるはずの「売主」の情報も、判る範囲でお尋ねしたい処ですし、その情報料も「+α」に上乗せと言うことで。
……結果的には「石を購入して得をした」わけですし、占いも当たっている様な?
「タスラム」の持ち帰りは辞退しますが、『FPS』で一度調べさせて頂きたいですぅ。
品自体の情報に加え、一通りの機能を把握しておけば、【宝創】で複製を生み出すことも出来ますので。
ニクロム・チタノ
それじゃロミオさんも落ち着いてくれたみたいだし、姉妹達アレを持って来て
大変な目にあったロミオさんのために甘いお菓子を用意しているんです
甘くてサクサクのブリオッシュです、今日のボク達のラッキーアイテムだよ
みんなで一緒に食べませんか?
もぐもぐ、甘くてとても美味しいですねー
ねえロミオさん、お話した通りその石はとても危険な道具なんです
ボク達猟兵がきちんと管理するので譲ってもらえませんか
話のわかる良い人でよかったね
ボクはメガリスには興味がないので他の方にお譲りします
おいしいブリオッシュを食べれただけで十分です
これも反抗の加護、感謝です
フリル・インレアン
ふええ!?持ち主に不幸を呼ぶメガリスですか?
それって何か意味があるのでしょうか?
渡した人に不幸を齎すですか?
呪いみたいで怖いですね。
ふえ?呪いをすでに渡されてる本人が何を言っている?
アヒルさんそれって、どういうことですか?
ふええ!?ふええ石がまさしくそうだって、
そんな筈は……あれ?思い当たる事がいっぱいあるような?
とりあえず、今はお菓子を楽しみましょう。
私も作ってきたクッキーがありますので、よかったらみなさんもどうぞ。
●全甘味解決交渉。
騒動を鎮圧した猟兵たちはメガリス『タスラム』の所有者である桜庭・ロミオを連れて、ひと気の無い公園へ移動していた。
一息ついたところで、雁帰・二三夫がロミオに語り掛ける。
「桜庭さん、でしたか。わたくし雁帰二三夫と申します。
貴方のお持ちのその石を譲っていただきたいのです」
「あ、うん、別にいいけど……」
「実際に巻込まれた分、話が早いですねぇ」
「ただ、うーん……」
夢ヶ枝・るこるが話が早いと頷くが、承諾したロミオはどこか釈然としない様子である。
『タスラム』の放つ非日常的な雰囲気に、そして猟兵たちがこうして駆け付けて譲渡を求めるという希少性に、好奇心が刺激されているのかもしれない。
このままなし崩し的に受け取るのはその後の心理状態にも芳しくない、と考えているのかはさておき。
フリル・インレアンが気分を変える意図も込めて、予定していた甘味を堪能することを提案する。
「とりあえず、今はお菓子を楽しみませんか?」
「ああ、そうですね。話し合いの前に、お茶にしましょう」
フリルの提案に応えると、二三夫は自身の『キャンピングカー』からキャンプ用のローテーブルと折畳椅子を出して並べていく。
その手際の良さはキャンプ好きの面目躍如というもので、瞬く間にお茶会の準備が整った。
ロミオもフリルも、二三夫の見事な支度に感心している。
「おお、キャンプだ」
「すごいですね」
「それじゃロミオさんも落ち着いてくれたみたいだし、姉妹達アレを持って来て」
「えっ、どこからこんなに……!?」
そう告げると、今度はニクロム・チタノが指を鳴らす。
次の瞬間、あちらこちらから続々と、左頬に1と刻印された少女たちが142人現れる。
《哀れな姉妹達(ニクロムナンバーズ)》。
戦闘用の2966ナンバーズが瞬く間に公園を占拠して、それぞれが用意した甘いお菓子を提出していく。
「大変な目にあったロミオさんのために甘いお菓子を用意しているんです」
「俺のために可愛い子たちがお菓子を……!?」
「甘くてサクサクのブリオッシュです、今日のボク達のラッキーアイテムだよ。
みんなで一緒に食べませんか?」
「私も作ってきたクッキーがありますので、よかったらみなさんもどうぞ」
「あ、ああ……いただきます」
ニクロムたちの用意したブリオッシュに、フリルの持参したクッキーがテーブルに並べられる。
二三夫は人数分のマグカップに珈琲を淹れ、モンブランケーキと安納芋タルトを勧めていく。
六人と142人による、ささやかなパーティが始まった。
ブリュンヒルデ・ブラウアメルも、銀誓館から調達してきた抹茶パフェに舌鼓を打っている。
「銀誓館の提供する甘味は美味だな」
「もぐもぐ、甘くてとても美味しいですねー」
「甘味は有難いですねぇ」
「す、すげぇ……食、いや、吸いこんでる……?」
ニクロムとフリルもお互いの用意したお菓子を頬張り、ロミオと二三夫も洋菓子を口にして頬をほころばせている。
るこるは交渉中であるため普段より摂取量を抑えているのだが、それでも尋常ならざる吸引力で用意した甘味を摂食し続けている。
そのるこるの様子にロミオが驚愕の視線を送っており、その表情を見てブリュンヒルデは自身の推測が合致していると確信した。
「いやあ、絶品ですね……っと、いかんいかん。そろそろ本題に戻りましょう」
そのまま全員で甘味を堪能することに没頭しそうになったが、理性を維持した二三夫が口火を切って改めてロミオに交渉を再開する。
「我々は銀星館学園という組織の協力者で、そういう危険な物を集めて保管しています。
その石は所持していると喧嘩に巻き込まれやすくなりその石で人を殺したくなるという曰くがあります」
「マジっすか」
「ふええ!? 持ち主に不幸を呼ぶメガリスですか? それって何か意味があるのでしょうか?」
二三夫の説明にロミオは目を丸くし、フリルが驚愕の声を上げる。
「渡した人に不幸を齎すですか? 呪いみたいで怖いですね」
「これ、そんなにヤバイものだったのか……」
「ぐわっ!」
お菓子を食べるためにテーブルの上に置いた『タスラム』に視線を落とし、息を呑むロミオ。
そして、何かを訴える『アヒルさん』の声に反応するようにフリルが所持している『ふええ石』がキラリと光る。
それは、持ち主に艱難辛苦を呼び込む不思議な石である。
「ふえ? 呪いをすでに渡されてる本人が何を言っている?
アヒルさんそれって、どういうことですか?」
『ふええ石』。それは、持ち主に艱難辛苦を呼び込む不思議な石である。
大事なことなので繰り返しお伝えました。
そう。
何を隠そう、フリルこそが恐るべき石の所有者なのであった!
「ぐわっ!」
「ふええ!?ふええ石がまさしくそうだって、
そんな筈は……あれ?思い当たる事がいっぱいあるような?」
「そんな、こんな子まで呪いに……」
目をぐるぐると回しながら自己を省みているフリル。
同情するような視線を向けるロミオだが、安心してください。平常運転です。
フリルのおかげでロミオに振るかかる不幸が吸引されたのだと前向きに思いましょう。
|閑話休題《それはさておき》。
「運命の糸、という概念があるそうだが……君がタスラムを拾ったのも何かの縁……能力者の可能性もある」
「能力……超能力者、ってことですか? 俺が?」
ブリュンヒルデは布巾で口を拭い、手配した『グニッションカード』をロミオに差し出す。
銀誓館学園で開発されたそれを使えば、装備しているアイテムを収納し、あるいは瞬時に装着できる不思議なカードである。
それであると同時に、持ち主が一般生活を違和感無く過ごせるようにするため、能力者の力を封じる効果もあるのだ。
「もし君が能力者であるならば、銀誓館学園と|この世界《シルバーレイン》の真実を説明しよう。
オブリビオン化した世界結界のせいで、放置していたら狂気に飲まれる可能性もあるからな」
「なにそれ怖い……。えっと、ようするに、俺も何か力があって、それでこの石に惹かれた、と?
……あの番組の占い、よく当たってたのになぁ。アンラッキーアイテムだったわけか……」
「そうとも限りませんよ。こうしてお菓子食べ放題の幸運は得られたじゃないですか」
「……結果的には石を購入して得をしたわけですし、占いも当たっている様な?」
「……それもそうか!」
二三夫とるこるの励ましに、気を持ち直すロミオ。
そしてブリュンヒルデの懸念通り、おそらくロミオは無自覚か覚醒前の能力者なのだろう。
彼はるこるの食事量に驚愕していた。つまり、猟兵などの異物に対して正常な認識をしているのだ。
取り返しのつかない事件に巻き込まれる前に、こうして目を掛けられることになったのは、確かにラッキーなのかもしれない。
何はともあれ、ロミオ本人への対応はまた後日に済ませることになるだろう。
そして、るこると二三夫が本題……懸念していた質問を含めて、メガリス譲渡の交渉に移行する。
「それで、ロミオさん。出来れば、以前の持主に当たるはずの売主の情報も、判る範囲でお尋ねしたい処なのですが」
「売り主って言っても、あっちのフリーマーケットで買っただけだしなぁ。
雰囲気づくりか日よけか、布かタオルか頭に被ってたから顔も覚えてなくって……。
声からして女性、たぶん俺より年上の女の人だと思う」
「なるほどぉ……ありがとうございますぅ。それで、その石ですけれど。
購入額に+αとなる何かとの交換、という形にすれば、快く譲って頂けますかぁ?」
「ま、まあ。元々100円で手に入ったものだし、こうして美味いものご馳走になってるし」
「了解した。終焉を破壊せよ、我が蒼き翼!
竜の肉体から奏上される不死を司る極上の甘き果実で死という終焉を覆し、その終焉に終焉を!」
猟兵たちと甘味を堪能しているからと言ったロミオの前で、ブリュンヒルデは立ち上がりユーベルコードを展開する。
対価のダメ押しに、とっておきの甘味を提供しようというのだ。
《蒼翼の終焉破壊・甘き竜菓は不死を以て履行する(ブラウアフリューゲル・メロディア・フルーツ)》。
対象を回復する希少植物『極上のチョコ味のメロディア・フルーツ』を形成して、上質なチョコケーキを用意した。
ブリュンヒルデは立派なチョコケーキを切り分けて、その一片を食べながらロミオに差し出した。
「チョコは好きか? 我は好きだ」
「ああ、大好きさ!
って……そういえば、君、その口調とか、羽根とか……本物、なのか……?」
「ん? ああ、この口調と一人称は素だ。何せ我は『本物』の異能者、であるからな」
「おお……そうか……いるんだ、異能者……」
好奇心旺盛なロミオは、初めて目の当たりにする一般人ではない猟兵たち……その中でも一目で『違う』とわかるヴァルキリーの姿を改めて認識して、心から猟兵たちの発言を信じる様子となった。
美味しいチョコレートケーキに意識を奪われ、『タスラム』への未練が断たれた。
今やロミオの関心は、猟兵たちに重点が置かれている。
そのことを感じ取り、ニクロムとフリルがトドメを刺しに行く。
「ねえロミオさん、お話した通りその石はとても危険な道具なんです。
ボク達猟兵がきちんと管理するので譲ってもらえませんか」
「私たちだったら、ふええ石のようにちゃんと制御できますから。
どうかお願いします」
楽しく美味しいお茶会を経て、小柄で可愛い少女たちから頼み事を断れる男児がいるだろうか。
いない。
「ああ、わかったよ。君たちみたいな、んっんっ。
猟兵とか異能者とか、そういう凄い人たちがいるんだな。喜んで譲るよ」
「ありがとうございます」
「話のわかる良い人でよかったね。これも反抗の加護、感謝です」
所有者が明確に譲渡の意思を示したことにより、『タスラム』は抵抗を諦めたのか刻印の輝きが収まる。
そして、この場の猟兵たちの中で唯一の大人であり『タスラム』に強い興味を持ち、是非触ってみたい、投げてみたいとずっと意思を表明していた二三夫が代表して『タスラム』を受け取った。
無事に交渉を終えた一同は、心置きなく残ったお菓子をゆっくりと堪能する。
円満な団らんを終えて、ロミオと猟兵たちはそれぞれのペースで帰還していくのであった。
●そして少しのこぼれ話。
「石弾と聞いて5cm程度かと思っていましたが……よくこれ持てましたね、桜庭さん」
その後。
ロミオから『タスラム』を受け取った二三夫は、その大きさと重みに慄いていた。
試しに投げてみようかと思いつつもロミオの前で投げるのは良くないだろうと考え、お茶会を片付けた後ひと気のない河川敷へ移動していた。
そして、手の中で感じる『タスラム』の強い力に、冷や汗を浮かべて生唾を飲み込んでいる。
「……ごくっ」
「二三夫さん、少しよろしいでしょうかぁ?」
「おっと、るこるさん? どうされましたか?」
『タスラム』を投げるかやめておくか考えていた二三夫の前に、先ほど別れたはずのるこるが現れた。
その周囲には、浮遊する涙滴水晶型の祭器『フローティング・プローブ・システム』が佇んでいる。
その祭器は、各種探知機能のほか情報の概念化と複製&記録、概念結界の展開を行うものであり……すなわち、メガリスなどの不思議存在を解析することができる代物である。
「『タスラム』の持ち帰りは辞退しますが、一度調べさせて頂きたいですぅ」
「ああ、なるほど。構いませんよ」
「ありがとうございますぅ。それでは」
快く応じた二三夫は、るこるに向けててのひらの上の『タスラム』を差し出す。
るこるは『フローティング・プローブ・システム』を『タスラム』の周囲へと巡らせ、ユーベルコードを起動する。
「大いなる豊饒の女神、その名の下に宝物を形作り捧げましょう」
《豊乳女神の加護・宝創(チチガミサマノカゴ・ササゲラレシザイカ)》。
それは、るこる自身が既知であるメガリスを複製し、創出することができるユーベルコードだ。
こうして『タスラム』自体の情報を獲得しつつ、一度複製して一通りの機能を把握しておけば、いずれ再び《宝創》で複製を生み出すことが可能となるだろう。
その時、性能通りになるのかどうかは、|その時《シナリオ》次第だろう。
「終わりましたぁ」
「はい。……ふむ。少し試してみたい気もありますが……用心して、いったん持ち帰るとしましょう」
二三夫は『タスラム』をそのまま、自身のミサンガに接触させる。
それがユーベルコード、《おっさん自慢の健康温泉ランドへようこそ(オッサンジマンノケンコウオンセンランドヘヨウコソ)》の発動条件だ。
小さな二三夫の手にしたミサンガに触れた抵抗しない対象を吸い込み、『タスラム』をユーベルコード製の設備が整った巨大健康温泉ランド風無限倉庫の中に収納することで、危険なメガリスであろうと安全に持ち帰ることができるのだ。
「楽しみは帰ってからに取っておきますよ」
「ええ。お疲れ様ですぅ」
こうして、少しの寄り道を済ませてから、猟兵たちは全員無事に帰路に着くのだった。
―――メガリス回収作戦、完遂。魔弾タスラム、収容完了。
※メガリス『タスラム』は、雁帰・二三夫(f37982)さんにお持ち帰りしていただきます。管理のほど、よろしくお願いいたします。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵