悪魔探偵・姫城睡蓮〜秘密ノ花園ト赫キ白百合〜
「♪」
明・金時(アカシヤ・f36638)が、上機嫌で帝都を散策している。
この時期のサクラミラージュは、季節を問わず咲き誇る桜と、その中でも赤く彩られる葉の共演が見られるのだ。少し肌寒くはあるが、上着を羽織れば問題ない。過ごしやすい季節でもある。
特に明確な目的地もなく、何の気なしに曲がり角を曲がった、その時だった。
金時は手首を掴まれ、薄暗い路地へと力強く、ぐいと引っ張られる――!
「うおっ!?」
そのまま、彼は何者かに連れ去られ――なかった。
よく見ればその人物は外套で正体を隠していたものの、小柄で指も腕も白く細く、金時を力づくでどうこう出来るだけの筋力がなかったのだ。
結果、金時は不意を打たれたことで軽くたたらを踏んだが、それだけで終わってしまったのである。
「………………チッ」
その人物はひとつ舌打ちすると、外套を少し外してその髪色と、頭から咲く御衣黄桜を金時の前に晒した。
「! お前さん……」
「しっ。……いいからお前、こっちに来い」
路地へと踵を返したその人物の後を金時は追う。相手が相手だ、無視すると後が面倒臭……いや、怖い。
そもそも、特に用事もなかったので金時としては拒む理由もないのだ。
「で、何だってんだお|姫《ひい》さん?」
「その呼び方やめろ。……|波多野《はたの》・|潤《じゅん》の名を知っているか」
「波多野……ああ、こないだ首括ったッつー作家先生の」
確か、とある探偵小説で一躍売れっ子となった文豪だった筈だ。次回作を執筆している途中だと聞いていたが、完成の報を聞かないまま、自ら命を絶ったと聞いている。
揺れる遺体の周囲には、未完の原稿が散らばっていたと聞き及んでいるが。
「お前の耳には入れておこうと思ってな。……その遺体が、先日消失した」
「………………は?」
●
「――で、調べたんだがよ。その作家先生、蘇っちまったんだとよ」
……なんて?
「文豪を生業としてる奴には憶えがあるんじゃねェのか。文豪ってのは、絶筆しない限りは死ねない。著作に込める情念が強すぎるからだ。まさに死んでも死に切れねェ……そういうこった」
けれど自ら命を絶ったのでは?
「本人が書けねェと思っても、文豪としての本能が完成を夢見ちまう……そんなこともあるんだろうさ。ま、詳しくは本人に聞いてみるこった」
死人に口あり。尤も、その程度のことをあり得ないと断じるような猟兵達ではないが。
とは言え、ならば消えた遺体、もとい蘇った文豪はどこにいるのだろうか。
「未完の原稿がな、今も作家先生の家に残ってるんだとよ。立入禁止になってるが、超弩級戦力の名前を出せば入れるように、どっかの學徒兵さんが手を回してくれるッてよ。で、その原稿が自ら影朧を呼び寄せて溜め込む『魔書』になっててな。その中に作家先生もいる」
ちょっと待て。
どこからツッコめばいいんだそれは、という猟兵の視線を軽やかに受け流し、金時は続ける。
「そういう意味でも何とかしなきゃならねェ。魔書の中には原稿をある程度まで流し読みすれば入れるから、そこで作家先生を探して脱出の方法を探ってくれ。あ、一応作品の中なんで、作品に準じた行動を取るようにな。話が狂うとイレギュラアが発生して、帰れなくなるかも知れねェからな」
そこまで聞いて、猟兵達はこの場でツッコむのを諦めた。言っても無駄だ。
さて、肝心の作品内容であるが。
「これより語るは『悪魔探偵姫城睡蓮』が二作目――『秘密ノ花園ト赫キ白百合』」
●
――少女探偵『|姫城《ひめしろ》・|睡蓮《すいれん》』。
彼女は明晰な頭脳と卓越した推理力を持つが病弱。しかし今まで目の前にいたかと思えば、次の瞬間には全く別の場所に移動しているなど、常人離れした不可思議な力を持っている。故に彼女はこの世のものとは思えぬ美貌も相俟って、その身を真実の探究のため悪魔に堕とした『悪魔探偵』と呼ばれていた。
ある日、帝都女学館のマドンナ『内田シヅ』が校内に存在する中庭、通称『秘密の花園』で殺される事件が起こる。
秘密の花園とは、生徒は愚か教師すら誰も行き方を知らない、白百合などの美しい花が咲き乱れる美しい中庭である。
疑われたのは、遺体が発見される前夜、最後にシヅを目撃したと言う女学生『管野知永子』。だが彼女はシヅと懇意にしており、秘密の花園への行き方も知らないと言う。その為、未だ容疑者の域は出ていないようだが。
彼女にとって都合の悪いことには、どうやらシヅは制服であるセーラーの上を脱がされており、実は男性であることが発覚していた。その為、彼の評価は死して一転、非難の対象となり、それを庇った知永子の風当たりも強いと言う。
だが、彼を庇った知永子が果たして真犯人だろうか。彼女を信じたい親友『中谷雪子』の依頼で睡蓮は調査を開始する。
途中、シヅに憧れていたが真実を知り態度を変えた女学生達から睡蓮は追われ、妨害を受ける。しかし睡蓮は悪魔の青年の力を借り、彼女達を振り切り調査を続行する。
そう、睡蓮自身は悪魔ではなく、悪魔召喚の力を持つ探偵だったのだ。
やがて睡蓮は中庭に入る為の謎を解き、遂に秘密の花園へ、遺体の元へ辿り着く。
睡蓮は知永子と雪子を呼び、真実を語る。そう、雪子こそが真犯人だったのだ。
実は雪子はシヅと首席を争うほどの才女であった。そして、シヅすら解けなかった中庭に入る為の謎を解いてしまったのだ。
動機は知永子への想いの暴走。雪子は密かに知永子に想いを寄せていたが、同性同士であること、卒業すれば互いに家の定めた相手と結婚することから諦めてしまっていた。
結果、知永子はシヅと結ばれることになる。それでもシヅが知永子を幸せにしてくれるなら、と雪子は二人を祝福した。
だが、ひょんなことから雪子はシヅが男性だと知ってしまう。雪子は彼を中庭に呼び出し問い詰めると、不自然に話を切り上げられてしまった。
この男は周囲を、何より知永子を欺いている……そう考えた雪子は耐え切れなくなり、煉瓦をひとつ手に取ると、シヅの去り際、その背後を襲い撲殺してしまった。
雪子は全てを自白した。わざわざ睡蓮に依頼したのは、知永子の前で全てを明らかにしてくれるだろうと踏んでのことだった。知永子に真実を知られ、責められればこの想いにも、罪から逃れることも諦められる。そう思ってはいても、自ら白状するのが怖かったのだと。嫌われる覚悟が出来ていなかったのだと。
だが、知永子は真実を知っていた。その上、シヅは性自認が女性であり、人知れず苦悩していたのだと言う。
シヅの死は哀しいし、雪子を許せない気持ちもある。だが、自分が雪子を信じて真実を話していればこうはならなかったかも知れない。騙していたと言うなら自分だ、雪子を責められない、と言う知永子。
全てを知り、愕然とする雪子。そんな彼女に、睡蓮はゆっくりと口を開き――、
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあと申します。
続編もちゃんと面白いシリーズ小説は間違いなく名作だと思います。
流れと詳細は以下の通りになります。
第1章:冒険『探偵を尾行せよ!』
第2章:集団戦『誘花の影朧』
第3章:集団戦『死に添う華』
第1章では、悪魔の力を借りてどこかへ行こうとしている睡蓮の幻影を追跡していただきます。
悪魔は小柄な女性とは言え人ひとり抱えているとは思えないほど俊敏、かつ屋外(渡り廊下など)では屋根の上に跳躍することもあります。
捕まえるのが目的ではありません。見失わないよう追跡すれば『秘密の花園』へ行けるでしょう。
第2章では、秘密の花園にて睡蓮の推理ショーが行われます。
この推理ショーを、魔書の力で吸い寄せられた『誘花の影朧』が妨害しようとしています。
推理ショーが終わるまで、影朧の妨害を食い止めましょう。
第3章では、自らの作品に囚われた波多野がどこからともなく現れます。
どうやら、愕然とする雪子に対し睡蓮がかける言葉が思いつかず頭を抱えているようです。登場人物達も全員固まっています。
その間にも湧き出す『死に添う華』をいなしつつ、波多野に執筆を諦めさせるか、作品の完成を辛抱強く待つか……或いは、インスピレーションを与えるか、選択していただきます。
過去の『ある事件』に関わった猟兵の方々ならば、睡蓮、或いは彼女に力を貸す悪魔の気持ちが解るかも知れません。
※作品の題材が同性同士の恋愛ですが、あくまで架空の作品の題材です。
リプレイや断章内で詳細な描写をする予定はございませんし、プレイングに記載があっても描写出来ない可能性が高いです。
予めご了承いただければ幸いです。
第1章開始前に、断章を執筆予定です。
戦闘パートの地形などの追加情報も、断章での描写という形で公開させていただきます。
断章公開後、プレイング受付開始日をタグにて告知させていただきますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『探偵を尾行せよ!』
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POW : 尾行がバレた! 逃げる探偵を一直線に追いかける!
SPD : 屋根の上を跳びながら尾行する。
WIZ : 使い魔を放ったり、索敵魔術などで位置を特定する。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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――帝都女学館。
その廊下へと、猟兵達は降り立った。
壁に飾られた写真には色がなかったが、写る女学生達の出で立ちは、登場人物であるシヅが着ていたと言われた通りのセーラー服だ。
この女学館を卒業した女学生は、その殆どが外交官に嫁ぐとされている。故に、ここではそういった未来の夫を支えるべく、外国語など異国の学問や文化の学びに重きを置いており、校舎もまた諸外国の様式――言ってしまえば洋風の建築様式が取り入れられている、という設定のようだ。
さて、改めて視線を廊下の先に戻すと。
果たしてそこに、一人の少女の姿があった。
彩ある全ての色が抜けたような、真っ白な長髪。
内に秘めた真相究明へ捧げた命を燃やすが如き、真っ赤な瞳。
病的なほどに白い肌。ぞっとするほどの美貌に純な瞬きひとつ、猟兵達へ。
緑青の振袖には、睡蓮が白く咲き。紺地の袴は引き締まって凛と、知性すらも感じさせる佇まい。
間違いない――悪魔探偵、姫城・睡蓮!
猟兵達が、一歩踏み出す。
すると、同じだけ睡蓮が後退る。
刹那、ひゅっと風を切る音。
いつの間にか、人影がひとつ増えていた。
中性的な容貌に、書生を思わせる装い。
彼こそが、睡蓮の悪魔なのだろう。
そして悪魔は、躊躇いもなく探偵を軽々抱え上げた。そのまま、猟兵達と逆の方向へ走り出す。
成程、これはシヅを快く思わぬ女学生が、睡蓮の捜査を妨害しようという一幕か。勿論、猟兵達はここの女学生などではないが、どうやら『探偵が何者かに追われ、悪魔と逃げる』という構図が成立しさえすればいいわけだ。
ならば、仰せつかった代役、務め上げて見せようか。
物語によるとこのまま行けば、悪魔は探偵と共に渡り廊下へと出て、屋根の上へと跳躍。そのまま校舎の上を駆け抜け、最終的に中庭に降り立つ。
捕らえてはいけないが、見失ってもいけない。距離を保ちつつ、追跡するのだ。
さあ、悪魔探偵を追いかけろ!
フィーナ・シェフィールド
魔書を巡るミステリー…不謹慎かもしれませんが、ちょっぴりワクワク。
1年ちょっとぶりの歌姫探偵、復活です♪(以前も同じようなことを言ってたような…)
女学生に扮して、探偵と悪魔を追いかければ良いのですね。
見失わないようにUCを使って追跡者を飛ばしましょう。
「ヴィオレット、よろしくね♪」
バディペットのヴィオレットと、その分身を空に放ち、悪魔の居場所を追跡させます。
「待ちなさい!」
一生懸命追いかけてる演技をしながら、付かず離れず、見失わない程度の距離を維持しながら追いかけましょう。
屋根の上に逃げられた後もすぐに屋根には上らず、廊下から追いかけつつ、離されそうになったら翼を広げて屋根に飛び上がりますね。
●
女学校という名の、乙女の秘密の花園。
そこで巻き起こる、殺人事件と愛憎劇。
未完のその物語が、此度の魔書の舞台。
(「魔書を巡るミステリー……ですか」)
フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は、ちょっぴりワクワク心弾ませながら、魔書の中へと降り立った。
蘇ったとは言え死者が出ており、更にはこの魔書が創り上げた空間に呑み込まれてしまっている以上、不謹慎かも知れないとはフィーナも思う。だが、物語の世界の冒険と言われれば、浪漫を感じざるを得ないというもの。
「この事件、華麗に解決してみせましょう。一年ちょっとぶりの歌姫探偵、復活です♪」
しっかりと洗練された決めポーズと共に。
以前も同じことを言ったような記憶があるけれど、気にしない!
(「さて、」)
改めて顔を上げれば、現れた悪魔が探偵を抱え、廊下の向こうへと駆けていく。
(「このまま女学生に扮して、探偵と悪魔を追いかければ良いのですね」)
セーラー服だと言うので衣装もそれらしく合わせてきた。魔書が代役を求めているなら、オーダーはしっかりと承ります!
勿論、形から入るばかりが歌姫探偵フィーナではない。
「ヴィオレット、よろしくね♪」
白い鸚鵡が応えるようにひとつ羽ばたく。同じ一筋の紫を鶏冠に宿した分身達と共に、空へ。
その瞳は悪魔も探偵も見失わない。空からの偵察部隊だ。
「待ちなさい!」
そして、フィーナも駆け出した。
必死で追いかけても、悪魔の力の前では追いつくなど不可能に等しい。見失わないようついていくのが精一杯だ――と、いう体で。
今は、そういう役回りだ。そういう演技だ。見失わない程度の距離をしっかりと維持している。距離を縮めもしないが、離しもしないで。
「! ……どこへ!?」
屋外に出れば、不意に悪魔と探偵の姿が消えた。きょろり、とフィーナは周囲を見渡す。やはり姿はない。仕方なく、渡り廊下の先を目指す。
勿論、ヴィオレットのが追跡対象の位置は教えてくれている。敢えて見失ったフリをしただけだ。今、悪魔達は屋根の上にいる筈だ。けれど渡り廊下の向こうに着くまでは、地に足をつけて追いかける。
それから、頃合いを見計らって翼を広げ、フィーナもまた屋根の上へ。月明かりに照らされた影を見つけると、追跡を再開したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ジゼル・サンドル
紫矢絣に紅袴の歌姫探偵スタイル。
(悪魔召喚の力を持つ病弱な少女探偵とその悪魔…あのひととかの少女探偵にそっくりだ。まさか彼らをモデルにした小説なのか?)
まずは追跡だな。クロウタドリの美しいさえずりを聴かせる、というわけにはいかないが…
指定UC発動。クロウタドリに変身し渡り屋根の上へ跳んだ悪魔と睡蓮先輩を空から追跡。距離を保ち時には狭い隙間に入り込む能力を活かして身を隠したりしながら見つからないよう追跡。
クロウタドリは走るのも得意だから地上に降りての追跡もいけるだろう。
(それにしても抱き抱えて逃げるだなんてまるで愛の逃避行のような…いやいや)
あのひと達もあんなふうに探偵活動をしていたんだろうか…
●
紫矢絣に紅袴。
ハイカラ女学生風の出で立ちは、しかしジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)にとっては歌姫探偵スタイルだ。
大正浪漫な女学院、帝都女学館の敷地に降り立てば、魔書の世界に入ったのだ、と実感する。
(「しかし、悪魔召喚の力を持つ病弱な少女探偵と、その悪魔……」)
その人物像、その関係性――ジゼルには、思い当たる節があった。ありすぎた。
(「あのひとと、かの少女探偵にそっくりだ。まさか彼らをモデルにした小説なのか?」)
作者の文豪は、二人をよく知る人物なのだろうか。
だが、偶然の一致で片付けるには余りにも類似点が多すぎる。
色々と気になることはあるが、かつりと響いた小さな靴音で我に返るジゼル。顔を上げれば探偵は一歩後退り、直後に悪魔の姿が顕になる。
――ああ、やはり、余りにも、似ている……。
浮かんでは、消えていく、思考を、胸懐を、今はぐっと呑み込んで。
(「まずは追跡だな」)
探偵を抱えた悪魔が背を向ける。と、同時にジゼルの姿は鳥へと変じた。真黒よりは淡く柔らかく、落ち着いた色合いのクロウタドリ。
(「美しいさえずりを聴かせる、というわけにはいかないが」)
廊下を駆ける悪魔を追って、黒褐色の翼が空を滑る。しかし渡り廊下に出た途端、その姿は見えなくなった。だが、行き先は解っている。
空だ。そして、屋根の上。
ジゼルも負けじと空へと飛び上がり、悪魔の影を見つけて追跡を再開する。
いざという時、この身体を利用しどこかに身を隠すべきかとも思ったが、悪魔は特に気にも留めていないらしい。
(「危害さえ加えられなければ振り切ってしまえばいい、ということか。それにしても……」)
時折こちらを顧みる悪魔の表情は涼しげだ。息一つ切らした様子はない。
小柄な女性とは言え、人ひとり抱えていると言うのに。
(「抱き抱えて逃げるだなんてまるで愛の逃避行のような……いやいや」)
今度は、明確に頭を振ってその考えを振り払う。
だと言うのに、寄せては返す波のように、どうしたって浮かぶあのひとのこと。
(「あのひと達も、あんなふうに探偵活動をしていたんだろうか……」)
これはあくまで物語。空想であり、虚構である。
それでも少し、ほんの少し、胸が痛んだ。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・つかさ
死者蘇生に魔本の世界……今に始まった話ではないけれど、不思議な事も起こるものね。
まあ、不思議具合で言えば私達猟兵の方がよほどアレな人も居るかもだけれど。
で、追いかけつつも追い付いてはいけないと。
……見失いさえしなければ、多分何とかなるわよね。
登場人物らしく服装を整えて参戦
追跡は真っ向から、純粋に身体能力のみで加減しつつ追いかける(POW対抗)
私の鍛え上げた筋肉(怪力)なら、屋根への跳躍も朝飯前よ
それにしても、あの悪魔探偵さん。
なんとなくだけど、うちの妹に似てるわね……
(銀髪赤目で色白、人ならざる者に護られているという点で妹を連想)
●
きょろりと周囲を見渡せば、そこは文豪の書斎などではなく、広々とした女学館の校舎。
荒谷・つかさ(|逸鬼闘閃《Irregular》・f02032)は果たしてここが魔書の世界であると、即座に確信した。
(「死者蘇生に魔本の世界……今に始まった話ではないけれど、不思議な事も起こるものね」)
登場人物らしく整えたセーラー服の裾を正す。
本来、探偵を妨害する役回りである女学生達がいれば、ここが物語の世界と知れば驚いただろうか。
(「まあ、不思議具合で言えば私達猟兵の方がよほどアレな人も居るかもだけれど。……それはそれとして」)
既にこちらの存在に気づいた探偵――正確に言えば彼女を抱えた悪魔が、踵を返して走り去ろうとしていた。
(「追いかけつつも追い付いてはいけないと。……見失いさえしなければ、多分何とかなるわよね」)
身体能力、即ち体力筋力には自信がある。
走りは勿論、屋根への跳躍だって朝飯前だ!
「それじゃあ、行きましょうか」
駆け出す!
長い廊下が続く。だが、夜という舞台設定が、探偵と待ち構えていた女学生達――その代役である猟兵以外の介入を許さない。
誰とぶつかるなどを気にせず走れるならば安心だ。
(「ぶつかった相手に怪我させることもないしね」)
勿論、足腰の鍛錬にも抜かりはない。廊下は滑りやすいと言うが、つかさが転倒するなどあり得ない。
つまり今、つかさの疾走を妨げる者は何もないのだ。
「っと、いなくなったわね」
勿論、ただ姿が見えなくなっただけだとつかさは理解していた。そして肌に受ける風に、渡り廊下に出たのだと悟る。
ならば悪魔の行き先はひとつだろう。
「……ふっ!」
つかさは思い切り地を蹴って跳躍。そしてひらり、軽やかに屋根へと飛び上がる。
これも鍛え上げられた筋肉から齎される怪力の賜物。寧ろやりすぎないように加減する方が苦心するくらいだ。
悠々と、逃走劇の舞台を月下に変えて、つかさは追跡を続ける。
(「それにしても、あの悪魔探偵さん。なんとなくだけど、うちの妹に似てるわね……」)
銀の髪に赤い瞳。
そして、人ならざる者に護られる存在。
尤も、妹とは悪魔と精霊、という違いこそあれど……それを思えば、物語の登場人物と理解はしていても、放っておくことなど、つかさには出来なかったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『誘花の影朧』
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POW : 気まぐれな落花
【舞い散る花】に触れた対象の【戦う意思】を奪ったり、逆に与えたりできる。
SPD : 花あそび
【花の香り】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ : 花檻のたわむれ
レベルm半径内を【所構わずに咲く花】で覆い、[所構わずに咲く花]に触れた敵から【攻撃力】を吸収する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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――月夜の下。
中庭の前、悪魔は悠々と謎を解く探偵を見守っている。
「睡蓮、急がなければ追いつかれてしまうよ」
「解っているさ。だが、焦燥こそが思考の敵だ。……さあ、進もう」
「成程、回転扉だったのだね」
月明かりを頼りに、解いた謎を元にして隠された仕掛けを探偵が動かすと、中庭を覆う硝子の壁――否、壁と思われていた一枚が、回転扉としての役割を与えられる。そこから、探偵は悪魔を伴い中庭に入っていった。
猟兵達も、扉が閉まる前に中庭へ滑り込む。探偵と悪魔がそれを咎めることはなかった。どうやら邪魔者という役割を無事に終えた今、物語を破壊しない限りは自由に動けるらしい。
探偵は早速、百合の花――よく見ると精巧な作り物である。確かに教師すら立ち入りの叶わない庭に花を植えては、すぐに枯れ果ててしまうだろう――を掻き分け、自ら死体と現場の状況を調べる。そして、何かを納得したように頷くと。
「悪魔の証明は、これにて完了した」
恐らくはそれが、悪魔探偵の決め台詞なのだろう。
そして探偵は、悪魔を顧みて。
「君、彼女達を連れてきてくれるかな」
「主様の仰せの儘に」
悪魔の姿が、夢のように消えていく。ただ彼が在った証に、色とりどりの花弁を残して。
しかし、悪魔は数秒の内に中庭の外へと戻ってきた。容疑者と、依頼人らしい少女達を伴って。
「待っていましたよ、中谷さん。さあ、管野さんと一緒に入ってきてください。……貴女ほどの才女なら、出来るでしょう」
「……!」
中谷と呼ばれた、真犯人であろう少女の背後では、悪魔がにっこりと人好きのする笑顔を浮かべている。柔らかい印象と、確固たる圧力が同居した、何とも言えない空気を纏っている。逃さないという意思表示だろう。
観念して、中谷・雪子は中庭の――秘密の花園の仕掛けを解いて見せた。
●
さて、いよいよ秘密の花園にて、悪魔探偵の推理ショーが行われる運びとなる。
だが同時に、猟兵達は気がついていた。偽りの百合の花の中、『本物』が紛れ込んでいることに。
真なる花にして、影朧。猟兵達と共に本来招かれざる存在で、しかし猟兵達とは違い、物語など意にも介さぬ存在。
誘花の影朧は、登場人物達の幻影を生身の人間であると勘違いしているのだろうか。密かにその魔手を、彼女達に伸ばそうとしている。
あくまで幻影、死ぬことはないだろうが、彼女達が消滅し、物語が進まなくなってしまえば、猟兵達も閉じ込められているであろう文豪も、どうなるか解らない。
真なる花々こそを今は刈り取り、物語を護るのだ!
フィーナ・シェフィールド
いよいよ真犯人に推理を披露する場面ですね。
披露するのは悪魔ですが、誰にもこの推理ショーのステヱジを邪魔させるわけにはいきません。
なるべく推理の邪魔にならないよう、舞台の一部のように速やかに、密やかに影朧を退去させましょう。
現れた誘花に対して、インストルメントを構え、舞台のBGMのように演奏を開始します。
「…デア・フォイアリーゲ・エンゲル」
【歌劇『炎の天使』】を発動、悪しき魂だけを燃やす聖なる炎、破魔の力で誘花の影朧だけを焼き尽くしましょう。
炎が余分に燃え広がらないように、誘花の影朧だけを浄化するように。
細心の注意を払って演奏を続けます。
さぁ、悪魔探偵はどんな推理を披露してくれるのかしら?
●
「事件はこの秘密の花園で起こりました。お二方ともご存知でしょうが、秘密の花園と言うのは――」
女学生二人を前に、悪魔探偵は語り始める。
だが、その舞台を掻き回そうとする存在がある。
(「いよいよ真犯人に推理を披露する場面ですね」)
探偵と悪魔、最大の見せ場だ。フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は、その一幕をまるで舞台のようだと感じた。
自身もまた、舞台に立つ身であるからこそ。今この時は、物語の流れとしてだけではなく、彼女達にとって大切な場所であり、時間なのだろうと。
(「だからこそ、誰にもこの推理ショーのステヱジを邪魔させるわけにはいきません」)
人であっても、悪魔であっても、影朧であっても。
今の自分は舞台の一部。速やかに、密やかに、影朧を退去させるのだ。
さわり、風もないのに揺れる花がある。真なる花でありながら、花園にあってはならぬもの。
それこそが、影朧。
「……デア・フォイアリーゲ・エンゲル」
弦と鍵盤を一体に。構えるはインストルメント。
奏でるは舞台を華やかに彩る背景音楽。そして浮かび上がるのは、聖なる炎。
炎は真なる花のみを焼く。悪しき力の込められた花弁が、この場に立つ誰に触れることもないように。
自身にも、味方にも、そして舞台に欠かせない、登場人物達にも。
(「悪しき魂、悪しき花だけを焼き尽くしましょう。慎重に、繊細に……」)
花に灯る炎は宛ら舞台演出のようだ。
不要なものを焼きながらも、演者達を照らし輝かせる光。
奏でる最中、ちらとフィーナが刹那の視線を向けるのは。
冷静に、しかし堂々と推理を語る悪魔探偵。
「ところが、当代になって女学館に、この花園の謎を解くことの出来る才女が生徒として現れた――もう、お解りですね」
肯定を促すように、雪子へと向き直る探偵。
推理は着実に核心へと近づいているようだ。
(「さぁ、悪魔探偵はどんな推理を披露してくれるのかしら?」)
フィーナはその顛末を見守りつつ、舞台を壊す存在を退けていく。
それが今の自分の役目だ。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ(サポート)
基本、戦闘中は無口。
静かに、密やかに、確実に…
鋼糸やワイヤーを張り巡らせ、陸空構わず足場とし、武器として、
他に、毒にナイフ…と多彩な暗器で敵を討つ。
物心ついた時から戦場に在り、
仮令、相手が誰であっても、如何なる強者や数だろうと、
ふわり、いつも通りの微笑みを絶やさない、生粋の戦場傭兵。
かわいい小動物から猛獣まで、生き物には避けられがち。
かなしみ。
常に周囲を視。
敵の動きや特性を見切り、回避や攻撃へと繋げる、
距離・範囲拘らずの攻撃orサポートタイプ。
温かな癖に、凍れる感情。
特に色仕掛けは効かない。
状況に合わせ、動きやUCはご自由に。
物語にとって良い様に、上手いことサポートさせて頂ければ幸いです。
●
ぷつり。
ぷつり、ぷつり。
千切れるように、真なる花が手折られていく。
クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の繰る糸が、不要な花を剪定していく。
(「必要なのは、百合の花だけ」)
徒花だ。
なれど、この舞台にはそれが必要。他は、要らない。
クロトが為すべきは、庭を整えるように、舞台を完璧に整えること。それが今回の仕事だ。
「中谷さんは、この謎を解いてしまった。何らかの意図があってか、或いは好奇心ないし戯れか。それに関しては、推測の域を出ませんが」
悪魔探偵が言葉を紡ぐ。
それがとても、遠くから聞こえる。
特段何かを感じ入るようなこともないが、雑音に聞こえることもなく。
ただクロトは今日も、求められた仕事をする。それだけだ。
心掻き乱す筈の花の香りも、多少煩わしいだけ。強いて言うなら感情が少し動いただけでも、クロトからしてみれば効いたと言える。
それでも、惑うことはなく。剪定の手は止めない。
ぷつり、ぷつりと刈り取られていく。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
さて、今度の仕事は護衛って訳ね。
あんまり得手ではないけれど……ま、やられる前に殲滅すれば同じか。
触れるとマズいなら、触れずに焼き尽くすまで
ということで敵郡からは距離を取りつつ【轟烈鬼神熱破】発動
先手を取れれば収束モードで一体ずつ狙撃
コード発動されたなら拡散モードで散る花弁ごと纏めて焼却
この際物語への影響を考慮し、無害な偽りの百合への延焼は可能な限り最低限に抑えるよう努める
|傍役《ヱキストラ》の癖に、|主役《スタア》を喰おうなんて無粋なのよ。
己の分を弁えない役者は、この舞台からご退場願いましょう……なんて、ね。
●
(「さて、今度の仕事は護衛って訳ね」)
花園へと足を踏み入れた荒谷・つかさ(|逸鬼闘閃《Irregular》・f02032)は、まず周囲を見渡す。
「そこで貴女は内田さんを花園へと呼び出した。……尤も、この時点では殺意などなく、あくまで真意を聞き出したかったのでしょう」
推理は淀みなく語られてゆく。
つかさはその姿を一瞥し、それから不自然に揺れる花々を見た。
これは、敵だ。少なくとも探偵達にとっては。
(「あんまり得手ではないけれど……ま、やられる前に殲滅すれば同じか」)
攻撃は最大の防御、と言う。
ならば攻めることで守る戦いもある筈だ。
(「とは言えあの花弁、触れるとマズそうね。……なら」)
最適解は単純明快。
「触れずに焼き尽くすまで」
不用意に近づかない。
そして敵が動き出す前、先んじて収束させた魂の波動を炎へと変えて、真なる花へと狙いを定めて焼き尽くす!
「轟烈、鬼神熱破!」
的確に影朧だけを射抜き、舞台を彩る純白の徒花は害さぬよう、害させぬよう立ち回る。
「まだまだ、そう来るなら……」
つかさを敵と定めたらしい影朧がその身を震わせ花弁を撒き散らす。
その花ごと、今度は炎を拡散させ、花弁ごと纏めて焼き尽くす。百合へは触れずに寧ろ炎の壁となるよう奔らせて。
そう、この花園に咲き誇るのは、偽りとしても百合だけでいいのだから。
「|傍役《ヱキストラ》の癖に、|主役《スタア》を喰おうなんて無粋なのよ」
そのような者は、舞台を降りるが定め。
何人たりとも、人ならざる者にも例外はなく。
「己の分を弁えない役者は、この舞台からご退場願いましょう……なんて、ね」
スポットライトの当たらぬ場所に、猟兵達の奮戦がある。
だからこそ、この物語は淀みなく続いていく。
大成功
🔵🔵🔵
ジゼル・サンドル
【結界術】で【霊的防護】の膜を纏い攻撃力吸収を防ぎ、指定UCで犯人の自白シーンに合う切ない音楽をBGM代わりに流しつつ無数の花びらで真なる花を攻撃。
お互い静かに物語の行く末を見守ろうじゃないか。
何のためにこんな秘密の花園が作られたのかというのも気になるが、それ以上に…
探偵の口調といい、花の悪魔といいどう見てもあのひと達じゃないか。事件や登場人物は架空でも、これはきっとあのひと達の物語なんだと、そう思わずにはいられない。
…わたしが割り込む隙なんて少しもないな…分かっていたはずなのに。
少しだけ雪子先輩の気持ちも分かる気がする。
相手の幸せを願いながらも心のどこかで自分を見てほしいと思ってしまう。
親友として傍にいるなら尚更、向けられる好意が自分の欲しい「好き」ではないのは辛いだろう…
わたしの親友とはそういう関係ではないが、離れがたいのも分かる。嫌われたくはないものだ。
一番辛いのは恋人と親友を同時に失った知永子先輩だろうが…
人を好きになるのは素敵なことのはずなのに、どうしてこうも苦しいのだろうな…
●
さわさわと花が揺らめく。
その細やかな囁きも、この場においては雑音でしかない。
「おっと」
音感には自信のあるジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)だ。その僅かな声すら聞き逃さない。
そして、邪魔はさせない。霊的防護の結界をその身に膜として纏い、咲き続ける花々の力を拒絶し。
「旋律と共に舞え、花嵐」
静かに、しかし悲壮感の込められた音楽は、花嵐が舞い踊る為の舞曲であり、罪を犯した者が真実と心境の吐露を促す背景音楽。
「お互い静かに物語の行く末を見守ろうじゃないか」
そう、静かに邪魔することなく。
邪魔する者は、花嵐に裂かれて。
「想定外だったのは、管野さんのことでしょう。まさか最後に目撃したという理由だけで容疑者扱いとなるなんて、貴女は頭が回るからこそ思っていなかった」
「………………」
邪魔を、すること、なく。
……そう、邪魔をするつもりなど、ない。のだが。
(「何のためにこんな秘密の花園が作られたのかというのも気になるが、それ以上に……」)
ジゼルの視線は、自ずとそこに向けられる。
探偵と悪魔が立つ。その場所に。
月明かりに照らされた、二人に。
(「……どう見てもあのひと達じゃないか」)
探偵の纏う色彩こそ、僅かに違うものの。
その口調や仕草、そして契を交わしたと言う花の悪魔。
――この物語は、きっとあのひと達の物語。
そう、思わずにはいられない。事件も登場人物も、架空のものだと解っていても。
何故、ここまで酷似しているのかは解らない。けれど、一度そう思ってしまえば、もう。
(「……わたしが割り込む隙なんて少しもないな」)
そんなこと。
最初から、解り切っていた。
睡蓮と花の悪魔――否、浅沙とその悪魔。
互いの|心《はな》は、ジゼルが出会った時には既に互いのもので。そして来世へ旅立った二人はどれだけ望んでも、手を伸ばしても届くことはない。
本人達を目の前に、この想いを叶えることは愚か、玉砕することすら出来なかった。それを思えば。
(「少しだけ雪子先輩の気持ちも分かる気がする」)
想う相手に幸せになって貰いたい。
その願いに偽りはないのに、心のどこかでは自分を見て欲しい、そう求めてしまう自分もいる。
悩んで、苦しんで。
時に想う人が、想う相手を羨んで。
そんな自分に、嫌気が差すこともあって。
(「親友として傍にいるなら尚更、向けられる好意が自分の欲しい『好き』ではないのは辛いだろう……」)
互いに互いを好きではある。
だが、想い合ってはいない。想いの形が同じでないという意味では。
(「わたしの親友とはそういう関係ではないが、離れがたいのも分かる。嫌われたくはないものだ。……一番辛いのは、恋人と親友を同時に失った知永子先輩だろうが……」)
皆が皆、誰かを好きで。
けれど誰一人として、報われない物語だ。
そう、これは物語。それでも、そこに込められた想いは妙に現実味を帯びていて。
(「人を好きになるのは素敵なことのはずなのに、どうしてこうも苦しいのだろうな……」)
温かく、幸せなだけではない『好き』が、この花園には秘められている。
「中谷雪子さん」
「帝都女学館の才女にして、容疑者のご学友」
「「犯人は――貴女だ」」
重なる男女の声。
それすら、ジゼルの胸を締めつけた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『死に添う華』
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POW : こんくらべ
【死を連想する呪い】を籠めた【根】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD : はなうた
自身の【寄生対象から奪った生命力】を代償に、【自身の宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉体本来の得意とする手段】で戦う。
WIZ : くさむすび
召喚したレベル×1体の【急速に成長する苗】に【花弁】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
真犯人――雪子は全てを自白した。
殺害方法も、犯行の動機も全て、自身の口から。
項垂れながらも彼女の言葉は明瞭で、潔かった。
そして彼女は、最後に――と、知永子へと向き直り。
「謝っても許されないのは解っているわ。それでも……言わせて。……ごめんなさい」
罪が軽くなるわけもない。
知永子に許されるわけもない。
知っている。これはただ、自分が楽になりたいだけ。
解っていて、それでも言いたかった。他でもない知永子に聞いて欲しかった。
だが直後、知永子は信じられないことを口にしたのだ。
「……私、雪子を責められないわ」
「え……」
「許したい気持ちも、許せない気持ちもある。シヅさんが亡くなってしまったのは哀しいし、寂しいし、遣り切れない。その全部が本心。だけど……」
そうして、知永子もまた全ての秘密を晒け出す。
シヅが男性だと、知っていたこと。
そのシヅが、己の心と身体の差異に苦悩していたこと。
|彼《かのじょ》と、約束したこと。『本当に知永子が信じられる人にしか、この話をしないで欲しい』と。
話そうと思えば、雪子には話せたのだ。だが、知永子はそれをしなかった。心のどこかで雪子を信じ切れていなかったのだと。ここまで想ってくれていたのにと。
「本当に誰かを……大切な友達を騙していたのは、私。だから、私に雪子を責める資格なんて、ないの」
シヅを奪ったことは許せないし、その罰は受けるべきだと思う。しかし、必要以上に苦しむこともして欲しくないと。
だって、知永子にとって雪子は、親友だから。
シヅも雪子も、どちらも大切だから。
「……あ、ああ……私、私は……」
打って変わって、目に見えて動揺する雪子。
愕然とした彼女の様子に、悪魔探偵・睡蓮は――、
「ああ゛ぁああ゛あぁぁああ゛ああっ!!」
――誰、全部台無しにするような大声上げたの。
●
その声は、明らかに低く硬質な男の声だった。
睡蓮のものでないことは勿論、花の悪魔のものでもない。彼はその風貌に違わず、変声した男性としてはやや高めの柔らかい声質をしていたから。
そして、この何者かの絶叫と同時に、猟兵達以外の時間が止まってしまった。登場人物達は、一様に瞬きすらしない。
猟兵達が声の源へと視線を向けると、いつの間にかそこには文机代わりのロヲテヱブルに齧りつくように、原稿用紙と向き合っている一人の男がいる。
長髪に中性的な顔つきだけ見れば、美しい女とも見紛うようだが、その体躯は細身ながら案外締まっていることが見て取れる。正真正銘の男性だ。
猟兵達は直感する。この奇声を上げた残念な美人こそが、文豪・波多野であろう――と。
「解らない……!」
大きすぎる独り言だった。
だが、彼は確かにそう言った。書けない、ではなく、解らない、と。
その理由は続く彼の言葉を聞けばすぐに解った。
「解らない!! あの子ならこんな時なんて言うだろうか……!? いやいっそ彼でもいい、あの子達らしい言葉は!? ああ、あの尊い命が喪われてしまった今となっては私などには考えも及ばぬ……!!」
頭を掻き毟る文豪先生。
取り敢えず、折角の美しい髪がぶちぶちと抜け落ちそうなので、止めた。
●
「……魔書……私の著作がそのようなことになっているとはなあ」
他人事のように仰ってくれますけれども。
呆れたような空気を感じて文豪はぎょっとした表情を見せる。
「いや、私が望んでこのような状況を作り上げたわけではないからな!? そこのところは誤解なきよう!!」
自分だって脱却出来るものならこの状況から脱却したいと彼は言う。魔書に閉じ込められている事実もそうだが、完結の目処が全く立たないことについても。
「実はな、悪魔探偵……探偵と助手にはモデルがいるんだよ。読者向けに公表してはいないが、担当編集には話しているし、本人達にも許可を取って取材もしていた」
聞いたことはないかい、と文豪はその名を挙げる。
少女探偵『|森《もり》・|浅沙《あさざ》』と、その彼女が自らの手足として契約した悪魔。
成程、一部の猟兵が探偵と悪魔に感じていた既視感はそれが原因だったらしい。その悪魔が最期に起こした事件と関わった者がいる。
「だからなあ……困っているんだ。ほら彼女、病で世を儚んでしまっただろう? 契約していた悪魔も、後を追うように亡くなって……ああ!」
急にどうした。
「死に目に立ち会えなかった悪魔君。その胸中は如何ばかりだっただろうか……!! そしてそこまで彼に想われていた森君。種族も超えて結ばれた強い絆に裏打ちされた愛。尊い」
あ、解った強火のヲタクだこの人。推しカプを己の糧にしている。やたら探偵と悪魔の距離が近いのはそれが理由か。
語らせると長そうなので(既にもう大分長い)一旦その件に関しては黙っていただいて。
つまり探偵と悪魔のモデルとなった人物が死んだことで、物語の締めとでも言うべき真犯人にかける最後の台詞が浮かばないようだ。
これが書き上がらないことには猟兵達も文豪先生もこの世界から出られない。しかもそうこうしている内に、次の影朧が現れ始めている。
猟兵達に委ねられた選択肢は三つ。
何とか文豪を説得し、真の意味で絶筆させて成仏させる。一番簡単そうだが、納得させるのに相応の理由が必要になるし、著作はお蔵入りだ。
影朧を全滅させた上で、ゆっくり考えて貰う。この一群さえ一掃出来れば、暫くは影朧の侵入はない筈だ。文豪も諦めていないので、もう少し考えれば何か捻り出すかも知れない。
最後に、モデルの人物達が言いそうな台詞のヒントを与えることも可能だ。刺されば一瞬で解決だろうが、モデル本人達のことを知っている人物でなければ刺さらないだろう。
なお、意見が分かれた場合でも、掃討択とヒント択は統合可能だ。但し絶筆択はどちらとも統合出来ないので、絶筆と掃討、或いは絶筆とヒントで分かれてしまった場合は事件の解決そのものが遅れるかも知れない。
その上で、猟兵達はどのような選択を下すのか。この物語の顛末は、今はまだ誰も知らない。
フィーナ・シェフィールド
ステヱジに立つスタアとして、役者として。
物語が終幕を迎えないと言うのはいただけませんね。
残念ながらモデルの方々のことは存じ上げませんので、影朧を一掃してからゆっくり作品の締めを考えてもらいましょう。
「舞い散る花となりて、魔を祓え!」
攻撃はシュッツエンゲルで防ぎつつ、イーリスを手に【歌声に舞う彼岸の桜】を歌いだしながら、リーラ・リヒトをさっと一振り、彼岸桜の花びらに変えて影朧の花に向けて放ちます。
召喚された苗も含めて、まとめて退去させましょう。
空中を飛翔していても関係ありません。
花びらが触れたところから破魔の歌声が直接響き、影朧を浄化していきます。
さぁ、作品のラストはどうなるのかな?楽しみです♪
●
フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)はスタアである。
演奏家でもあるが、ステヱジに立つ役者でもある。
だからこそ。
(「物語が終幕を迎えないと言うのはいただけませんね」)
文豪の語るモデルとやらを、フィーナは知らない。
それでも、出来ることがないわけじゃない。
「一先ず、影朧を一掃してからゆっくり作品の締めを考えてもらいましょう」
彼に締切までの猶予を与えることは出来る。
時間はかかるだろう。その時間を作ることが、今のフィーナに出来ることだ。
菖蒲色に歌声を乗せて、高らかに声を上げよう。
澄んだ詩を清めの花に変えて、悪意を遮ろう。
「舞い散る花となりて、魔を祓え!」
響け、広がれ、|桜《はな》の歌。
舞台に満ちて、根を張り巡らす死華を攫え。
紫の光を掲げてさっと一振りで彼岸の桜は風に乗る。
守護の天使の羽根が如く、舞い散る白銀の飛盾が緑の魔手を拒絶して。
「召喚された苗も、空中を飛翔する花も、纏めて退去させましょう」
花弁から流れ込む破魔の歌声が、触れたものへとその音色を直に震わせる。
元を正せばこの華とて、傷ついた心が歪んでしまっただけの存在。浄化の響きが影朧の穢れを祓い清め、純然たる悲しみへと還して癒す。
邪なる澱から解き放たれた華は、花弁にも似て緑の光の粒子となり、舞台へと解けていく。
「……幻想的な光景だな。百合の花を濡らす翠雨のようだ」
「ほらほら、続きを考えてくださいな」
「おっといかん!」
つい目を奪われたといった風情の文豪へと、フィーナは苦笑しつつも執筆を促す。
未だ悩んでいるようではあるが、猟兵達と話して少しスッキリしたのだろうか。苦悶の声は先程よりもその重さが少し取り払われたようにも聞こえた。
(「さぁ、作品のラストはどうなるのかな? 楽しみです♪」)
どうか、彼にとっても登場人物達にとっても、好き結末を。
応援の代わりに歌を贈ろう。物語紡ぐその手を、世界を描くその心を、護る為の歌を。
大成功
🔵🔵🔵
ニノン・トラゲット(サポート)
『容赦なんてしませんから!』
『アレ、試してみちゃいますね!』
未知とロマンとお祭りごとを愛してやまない、アルダワ魔法学園のいち学生です。
学生かつ魔法使いではありますが、どちらかと言えば猪突猛進でちょっと脳筋っぽいタイプ、「まとめてぶっ飛ばせばなんとかなります!」の心で広範囲への攻撃魔法を好んでぶっ放します。
一人称はひらがな表記の「わたし」、口調は誰に対しても「です、ます、ですよね?」といった感じのあまり堅苦しくない丁寧語です。
基本的にはいつも前向きで、ネガティブなことやセンチメンタルっぽいことはあまり口にしません。
その他の部分はマスターさんにお任せします!
●
「魔書の世界も堪能しましたし、先生の為にも影朧を片付けて、しっかり成仏出来るようにしないとですねっ」
未知のものには興味津々、ニノン・トラゲット(ケットシーの精霊術士・f02473)は魔書の世界を結構楽しんでいたのだが。
勿論、猟兵としてやるべきことは忘れていません。仲間の猟兵達は文豪の為に時間を作り、影朧の相手をする方針で纏ったようなので、ニノンもその手伝いを。
「数も多いですし、まとめてぶっ飛ばしていきますよっ!」
こういうのは得意なんですと言わんばかりに。
杖を掲げ、詠唱を重ね、しかし登場人物含めた周囲の人間や庭の百合、建物には被害が及ばないよう調節しつつも。
「今です! えいっ!!」
白き炎が一条の光となって、並ぶ死華を宣言通り、纏めて焼き払う!
じゅ、と音を立てて燃え落ちるように崩れていく。灰に、塵になっていく。
「まだまだいきますよー!」
再び詠唱を開始するニノン。
文豪の創り出すこの世界を護りながらも、魔書の支配からは解き放つ。
戦いは、まだまだ終わらない!
成功
🔵🔵🔴
ハル・エーヴィヒカイト(サポート)
▼心情
手の届く範囲であれば助けになろう
悪逆には刃を振り下ろそう
▼戦闘
殺界を起点とした[結界術]により戦場に自身の領域を作り出し
内包された無数の刀剣を[念動力]で操り[乱れ撃ち]斬り刻む戦闘スタイル
敵からの攻撃は[気配感知]と[心眼]により[見切り]
[霊的防護]を備えた刀剣で[受け流し]、[カウンター]を叩き込む
クロト・ラトキエ(サポート)
基本、戦闘中は無口。
静かに、密やかに、確実に…
鋼糸やワイヤーを張り巡らせ、陸空構わず足場とし、武器として、
他に、毒にナイフ…と多彩な暗器で敵を討つ。
物心ついた時から戦場に在り、
仮令、相手が誰であっても、如何なる強者や数だろうと、
ふわり、いつも通りの微笑みを絶やさない、生粋の戦場傭兵。
かわいい小動物から猛獣まで、生き物には避けられがち。
かなしみ。
常に周囲を視。
敵の動きや特性を見切り、回避や攻撃へと繋げる、
距離・範囲拘らずの攻撃orサポートタイプ。
温かな癖に、凍れる感情。
特に色仕掛けは効かない。
状況に合わせ、動きやUCはご自由に。
物語にとって良い様に、上手いことサポートさせて頂ければ幸いです。
●
影朧の数が多い。
一息で多を刈り取る力が必要だった。少しでも多く。
殊に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)とハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣聖・f40781)はその力を持っている。
「纏めて相手になろう。さあ、我が眼前に集え世界――」
ハルが動く。詠唱と共に己の領域を展開し、数多の刃を世界へと忍ばせる。それは敵を討つ剣と、視認すら困難なほどの細微な白刃である。
そして主の命に応えて、刃は煌めくのだ。
「降りそそげ破邪の光塵、白蓮雪華」
剣の一振り一振りが、刹那の内に閃いて。
根こそぎ、群生する死華を刈り取っていく。
但し人と百合の花は護られる。護りの刃によって。
ただ的確に、死を求めてそよぐ華のみを切り裂くのだ。
(「――断截」)
そして。
領域の隙間を埋めるように奔るのは、光を受けてその色を変える鋼糸。
今は秘する必要もなく、月の光で仄金に、華の輝きで緑青に彩られた一本一本が、花弁を裂いて葉を千切る。
既に展開された刃を阻害せずに張り巡らされ、空間の合間を縫って精緻に敵を絡め取る。
そして、ぷつりと切り落とすのだ。
平素の穏やかな微笑みはそのままに。|常在戦場《ここ》が日常だからこそ。
今や敵群は残らず刃と糸の領域に閉じ込められた。五体満足で逃げ果せることは、決してない。
逃れようと試みれば糸に、留まり抗えば刃に刻まれるのみ。それ以外の結末は、もうない。
「たとえ嘗ては傷つき絶望した存在であっても、それを他に齎す存在に成り下がったのなら容赦はしない」
ハル自身も剣を取り、領域外へと迫る個体を斬り伏せる。
「悪逆に刃を――」
全て断ち切る。
繰る刃を挙げて。
躊躇うように動きが止まれば獲物を追う生き物のように、糸が華へと食らいつく。
緑が、目に見えてその数を減らしている。
大勢はほぼ、決したと言っていいだろう。
着実に、近づいてきている。
影朧の掃討も。
物語の完結も。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジゼル・サンドル
やっぱりかー!あのひと達のことを聞きたいと思っていたが、聞かずとも色々喋ってくれたな!?
とても言えないな、あのひとを好きになってしまったなんて…
ええと…わたしは浅沙先輩の悪魔が最期に起こした事件に関わった者なのだが。見せようか、悪魔が浅沙先輩のために燃やした炎を。
指定UC発動、魂鎮めの歌で敵だけを燃やすよう頑張って制御。
悪魔自身でも制御できないほどの炎だった、わたしはその炎を美しいと思ったんだ。
一先ず敵を一掃してから落ち着いて話そう。
最期の事件の顛末を語りつつ。少し関わっただけのわたしにあのひと達ならこう言うんじゃないか、なんて偉そうなことは言えない…わたしもなんて言葉をかけたらいいのか分からない。
でも…誤解だったとはいえ雪子先輩は知永子先輩を守りたかったんだろうし知永子先輩はシヅ先輩を守りたかった。互いを想いあっていた二人なら、大切な人を守りたい気持ちも、それゆえに他者を傷つけてしまう気持ちも分かるんじゃないかと思う。
わたしが言えるのはここまでだ。後は先生が終わらせてくれ。この物語を。
●
「やっぱりかー!」
「お、おう!?」
「……いや失礼、何でもないんだ」
ジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)、思わずシャウト。
ビクーッと肩を跳ね上がらせた文豪を見て、咳払いひとつ。
しかし思った通りだった。やはり余りに出来すぎた偶然の一致、などではなかったのだ。あの探偵と悪魔は、明確にジゼルの知る人物達がモデルだったのだ。
(「しかしあのひと達のことを聞きたいと思っていたが、聞かずとも色々喋ってくれたな!?」)
久々に著作とか推しカプとかについて語れて饒舌になったのかも知れない。一応は草葉の陰で寝てた筈の身だからね。起き上がっちゃったけど。
(「……とても言えないな、あのひとを好きになってしまったなんて……」)
探偵と悪魔の恋路を応援していたのであれば、その片割れを想う自分を文豪はよく思わないのではないか。
……いや、万一好意的に受け取られたとしても、それはそれで何かのネタにされそうだ。どちらに転んでも碌なことにならない未来しか見えない。
ともあれ、問題は文豪のスランプである。
「ええと……わたしは浅沙先輩の悪魔が最期に起こした事件に関わった者なのだが」
「何! それは本当か!?」
「近い!! そして思った以上に食いつくな!?」
距離感ってものを考えて欲しい。
確かに美形は美形なのだが、それこそジゼルの心にはまだあのひとがいる。そしてこの文豪先生、案外デカいのだ。
ときめきよりも圧しか感じない。尤も、文豪もやましい意図があったわけではないのは事実――いや、ある意味では疚しかったかも知れないが――のようで、指摘すればあっさり身を引いてくれた。
「……見せようか、悪魔が浅沙先輩のために燃やした炎を」
「お、おお……そんなことが可能なのか! 是非!!」
子供のようにきらきらとした目を向けられた。やり辛い。
だが、やらなければ。あの日の炎を想起して、あの日の心を揺り起こして歌う。
(「悪魔自身でも制御できないほどの炎だった、わたしはその炎を美しいと思ったんだ」)
そして、それは。
文豪もまた、同じだったようだ。
「……おお、おお……何と、美しい……」
残る緑も紅蓮に呑まれて燃えていく。
想う人の為に、救えなかった他者も、看取れなかった自身も、それまで集めた大切なものも、全て燃えてしまえと願った純然たる炎。
(「……全てを話そう」)
あの日、探偵と悪魔に起きた全てを。
ジゼルの視点からにはなってしまうが、それでもこの目で見て、聞いた最期の事件の顛末を。
勿論、邪魔をする華は土に還してから、だ。
●
「……ということがあったんだ」
「そうか……悪魔君。苦しかっただろう、辛かっただろう。だがそれ以上に……くっ」
悪魔の最期の事件について聞き届けた文豪は、瞑目し目頭を押さえている。泣いてはいないようだが、泣き出してもおかしくない様子だ。
「関わったのはその一件だけだから……少し関わっただけのわたしにあのひと達ならこう言うんじゃないか、なんて偉そうなことは言えない……わたしも、なんて言葉をかけたらいいのか分からない」
元より、正解のない問いなのだ。
物語も、人生も。
「でも……誤解だったとはいえ、雪子先輩は知永子先輩を守りたかったんだろうし……知永子先輩はシヅ先輩を守りたかった。互いを想いあっていた二人なら、大切な人を守りたい気持ちも、それゆえに他者を傷つけてしまう気持ちも分かるんじゃないかと思う」
「………………」
「わたしが言えるのはここまでだ」
きっと、取材をしている文豪の方が二人のことは解るだろう。
やはりそれも、まだ少し悲しいけれど。
「後は先生が終わらせてくれ。この物語を」
●
――口を開こうとした探偵を、悪魔は制して。
「それでも罪は罪だ、償わなければならないよ。二人共、解っているね」
水を差すような言葉だ。余りにも無粋、それでも誰かが言わなければならなかった。
変えようのない事実だ。けれど、罪に救いはなくとも、想いに救いはあってもいいだろう。
神が許さずとも、悪魔が許すのだ。
「ただ、僕としては……君達のその想いは、心ある者として好ましいと思うよ。その手が汚れても、真実を隠し通すことになろうとも、……そして、一度壊れてしまってもなお、大切に想う心とその向く相手は、余りにも得難いものだから……ね」
そう言って、悪魔は探偵に視線を送り目配せする。
再び開かれたその瞳には、確かな熱が籠っていて。
探偵は何も言わなかったけれど、ひとつきょとんと瞬いて――それから、はにかむように微笑んだ。
物語は終焉を迎える。
猟兵達も、創造主もいなくなった世界で。
波多野・潤の遺作とされた悪魔探偵二作目は、再びベスト・セラアを迎えた。
そして、今度こそ安らかな死を迎えた筈の文豪が、カフェーで三作目の構想について頭を悩ませる姿が目撃されたことで話題となったのは、また別の物語である。
大成功
🔵🔵🔵