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サイバネティック=アンダーグラウンド

#サイバーザナドゥ #ノベル

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鹿忍・由紀




 深夜。二三時過ぎ。
 ぴしゃぴしゃと重金属酸性雨が降りしきるサイバーザナドゥの街。
 標識には不可思議な文字が描かれ、通りの名を示している。ラバレス区、ブロージア通り。傘も差さずに猥雑なネオンの下を歩くのは、ファー付きのモッズコートに身を包んだ金髪の青年だ。フードの下に覗く青の瞳と、細身だが実戦的な筋肉が付いていると分かるシャープな体つきに、サイバーサングラスをつけた客引きの娼婦が話しかけようとして、その肩に触れることもできずに躱される。
「急ぐんだ。悪いね」
 気怠げな声。後ろ髪を引くような娼婦の声を尻目に、そのまま彼は|地下鉄《メトロ》に降りた。帰る場所のない浮浪者が寝そべり転がるのを見ることもなく、改札をパスして四番線ホームに降りた彼は、一人の黒服が座って煙草を吹かしているベンチを見つけ、眼を細める。
 青年は迷うことなく、黒服と背中合わせに座り、煙草を咥えた。前に吸ったのはいつだったか。香りの落ちた両切り煙草だ。
「火を貸してくれる?」
 青年の問いに、黒服はライターを背も見ずに突き出した。受け取り、ついでにその手中から、かさりと紙片を抓み取る。
「どーも」
 青年は如才なく火を点けて、ライターだけを返した。ライターを受け取った黒服は、役目を終えたかのように無言で立つと、次にホームに滑り込んできた車両に乗り込んでいく。
 青年は味気なく重たい煙を吸い込んで、ふうと吐き出した。紙片の中身をちらりと確認。そこには、彼がこれからすべきことが事細かに書かれている。
 電子メールやSNS、広域ネットワークを介してではなく、直接の依頼をするという念の入れよう。この仕事が厄介者を相手にするということを端的に示していた。つまり、それらの連絡手段が検知され、盗聴される怖れがあるという事に他ならない。
 バックに|企業《コーポ》がいるか、或いは|職業的情報簒奪者《ジョブクラッカー》の集団を抱えているか。どちらにせよ、武力の方もそこそこ持っているに決まっている。
 しかし、それは彼にとって大した問題ではない。
 払いは充分。その時点でこの仕事を受けることは決まっていた。
 依頼の構図をごく単純化すると、これはとある反社会的勢力Aと反社会的勢力Bの小競り合いだ。娘が攫われたというBの幹部が、娘を攫ったAの幹部を締め上げて、娘を取り戻したがっている。しかし、組織の勢力を表立って動かせば全面戦争になるし、内輪からすら責められかねない。そこで外部に暴力を委託発注した。その暴力というのが、青年である。
 車両が来る。青年は灰皿みたいな床の上に、燃え尽きた眠り姫を捨てた。
 真新しい吸い殻を一つ床の一部にして、落書きだらけの車両に乗り込んでいく彼の名前は、鹿忍・由紀(余計者・f05760)といった。


 深夜二四時。
「――事務所っていうには随分大きいね。もうオフィスって感じでしょ、あれは」
 ラバレス・メトロを降りてしばらく歩き、由紀が辿り着いたのは、今も煌々と明かりの付いた雑居ビルだった。eager eyesが指示された住所と目の前のビルの座標を照合し、COLLECTと表示。同時に、赤外線センサーと人感センサーの効果範囲を可視化する。赤外線センサーは敷地内に接近する動体を的確に感知するよう、常に一定範囲内を周期的に走査しており、明らかにただのオフィスビルの為の防護処置ではないと感じさせる。
 しかしそれを知りながら、由紀は雨中、何気なく踏み出した。逆手にナイフを抜く。赤外線センサーが彼を捕らえ、視線の先のビル内の各所に、赤い警報灯が点ったのが見えた。問題ない。今回の依頼は、潜入が目的ではない。
 適度に殺して、適度に残して、残った連中から娘の所在を掴みつつ、『|わからせる《・・・・・》』。
 それを目的としている由紀が、敵が集まってくることを、どうして恐れる必要があろう?
 歩みを止めずに正面エントランスの強化ガラスドアに至った由紀は無造作にナイフを振るった。ジ、ッきィ! と軋む耳障りな音。ブーツの踵で蹴飛ばすと、巨大な短冊めいて切り抜かれたガラスドアが建物の内側に倒れる。風除室を通り抜けてもう一対。
 堂々と正面から突入した由紀の存在を検知し、いよいよ建物各所で隠しもしない警報が鳴り響き出す。遠くからドカドカと足音がして、すぐにエントランスに敵が集まってきた。上階から、一階奥から、開けたエントランスに武装サイボーグが溢れ出してくる!
「なんだァ、テメェはア!!!」
「一人だと……?!」
「イカれてやがんのか!!」
「おい、手前!! ここがどこだか分かって――」
 お決まりの台詞だ。由紀はそれ以上、敵方の台詞を聞くのをやめた。
「分かってないのはアンタ達だ。こういう時は、訊くより先に撃つもんでしょ」
 ここは、もう、戦場だ。

 由紀は踏み込んだ。

 正面。レーザーブラスターの銃口が自分の顔面に合いきる前に接敵し、由紀はブラスターの銃口を撫でるように横に押した。一瞬あとに迸る熱線が横合いのサイボーグの側頭部をブチ抜く。一。それに目を見開いたブラスターの主の首をナイフで掻っ斬った。二。左右からブラスターを向けてくる敵には既に、自身の影から射出した影のダガー――|影雨《シャドウレイン》の嵐を叩き付けている。全身を、真っ黒な逆剣山のようにして絶命し倒れる敵、これで三、四、五。
「なッ、こいつ――」
「速えッ! 素人じゃねえぞ!」
「人回せ!! 殺せーっ!!」
 バガガガガガガガッ!! 凄まじい銃声が炸裂!! 耳を聾する腕部内蔵連装型機関銃の銃声! 由紀は当然の如く仰け反って回避、息をもつかせぬ四連続バック転! 彼は既にユーベルコード『暁』を発動中、次に反応するであろう射撃型重サイボーグの射線を予測し、撃たれる前にその上から身を躱している!
 当然追従してくる重サイボーグの照準を誘導し、身を躱し遅れた他のサイボーグを|友軍射撃《フレンドリーファイア》で破壊する。六、七、八。当たらなくて焦れた重サイボーグが焦って盲撃ちに移る前に、その身体を魔力を込めた視線で射貫いた。
 ざ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ギンッ!! 全身クロームメタルの重サイボーグの関節各所に、全方位より突き刺さる影の棘、棘、棘、棘、棘!! これぞユーベルコード『|影繰《インペルメント》』!
 強い照明により全方位に伸びた重サイボーグの影から練り上げられた影棘が、瞬く間に無数に交差して|荊棘籠《いばらかご》となった。突き刺さる数多の棘が重サイボーグの全身の関節を破壊し、行動不能に陥れる!
 これで九。第一波を制圧。
「ば、バカな――なんだ、何なんだテメェは?!」
 棘檻に囚われて火花を散らしながら藻掻く重サイボーグの横を悠然と通り過ぎながら、
「それを聞いてもしょうがないでしょ。しばらく寝ててよ」
 由紀は涼しげに言って、ナイフの柄で重サイボーグの後頭部を殴り、その意識を刈り取った。棘檻がほどけ、声もなく倒れ伏すサイボーグを背に、由紀は事務所奥へ走り出した。
 廊下に飛び出したところで、影を曲がって走ってくる敵サイボーグ三体。サブマシンガンを連射してくる。即座に由紀は姿勢を限界まで低く取った。顎が地を擦るほどの前傾姿勢、屈曲したブーツの前底部がリノリウムの床を掻き毟る。彼は超低空を羽撃くハヤブサの如く加速し一人目の脚の腱を切断、悲鳴と共にバランスを崩しぐらりと傾ぐ十人目の横を通り過ぎながら、左手で地面を掴み身体を縮める。コンパクトな倒立回転、縮めた身体の|撥条《バネ》と慣性をぴたりと合わせ、そのままミサイルめいた低空ドロップキックを放つ。|運動量《キネティックエナジー》の権化めいた原始的な打撃が、十一人目の胴を穿って遙か後方に吹ッ飛ばした。由紀は着地。二人目の手から零れたらしいコンパクトサブマシンガンが落ちてくるのを、地面に落ちる前に左手で掻っ攫う。
「ちょうどよかった。使ってみたかったんだよね」
「……!!」
 浮き足立った十二人目が低姿勢の由紀目がけ銃弾を撒き散らす。暁によりその挙動を見抜いた由紀は、まるで四足獣がそうするかのように右拳右脚で地面を突き放しスライド移動。一弾も喰らうことなく壁を蹴り登り身を翻す。
 元来、人間というのは三次元的な挙動に弱い。銃による照準動作は、視野という名の楕円に敵を捉えることによって始まるが、首を動かさない状態での視野角は、仰角九十度を物理的に超えられないものだ。頭蓋が、瞼が、視界を塞ぐ。
 銃を持つ敵を前に由紀が敵に対して投射面積を最小限にし、上下に身体を振るのはこのためだ。奇しくもそのアクロバティックな動きこそが、銃弾に対する最適な対処である。
 空中で身体を捻って由紀は敵背後につけ、無造作に振り上げた左手の銃口をサイボーグの背に突きつけ、命乞いが口から迸るその前にフルオートでトリガーを引いた。耳を聾する甲高い、秒間十三発の死のラッパ。ブチ込まれた銃弾が背から射入し、敵サイボーグの胸郭を吹っ飛ばして殺す。
「うーん」
 由紀は眼を細め、脚の腱を斬られて藻掻き、悪態を吐きながらながらそれでも由紀に銃口を向けようとのた打つ十人目に銃口を向けた。
 銃声。今度こそ動かなくなるサイボーグを前に、弾切れになったサブマシンガンを放り捨てる。
「弾が切れると面倒だね。ある内はいいけど」
 リロードの手間、弾丸の供給問題。現実的な評価を下しつつ、由紀はがしゃと弾んだサブマシンガンに背を向けて、階上に駆けだした。


 由紀の仕事は迅速にして容赦が無かった。
 各フロア、他と比較して相対的に格の高そうなサイボーグを数体は生かしつつ、そのほかは徹底的に鏖殺する。もとよりそのような依頼だったし、汚れ仕事である旨は織り込み済みだ。一階に続き二階、三階を瞬く間に制圧して四階に上ったとき、ぴたりと由紀は脚を止める。
「……、!」
 背筋を這い上る危険信号に従い、彼は反射的に右前方に跳んだ。
 う゛、ォウッ!!
 果たして、一瞬前まで由紀のいた位置を、|電離剣《プラズマブレード》の蒼い軌跡が薙いだ。まるでバターを切るかのように階段の手すりが切断され、噎せ返るようなオゾン臭が周囲を満たす。転がり受身を取って跳ね起き、踵で床を掻き毟りながら制動した由紀に、襲撃者がゆっくりと振り向く。
『|侵入者ヲ確認、身分証明セヨ《イントルーダー・アイデンティファイ・ユアセルフ》』
「難しいこと言うね」
 由紀は肩を竦めた。それは、おそらくこの夜一番の難題であった。

 現れた襲撃者は、全身を白い流線装甲で覆った、流麗なフォルムのサイボーグだった。ヘッドギアは|三ツ目《サードアイ・スタイル》で、眉間のアイカメラは恐らく細かく稼働し、視覚情報を補佐するようになっている。両手に電離剣。あれを前にしては、並大抵の金属では防御になるまい。恐らくは企業製の、|高機能戦闘用《ハイコンバタント》サイボーグだ。
 高出力の|電離兵器《プラズマ・ウェポン》を搭載した|軍用《ミリタリー》グレードの高性能機。由紀の見立てによればその性能は猟兵一人分を遙かに凌駕する。――恐らくはオブリビオンだ。メガコーポによって在り方を歪められた人間の成れの果て。その歪な在り方に、しかし由紀は特に感慨を差し挟まない。この末路を彼が選んだにせよ選ばざるにせよ、彼が元の人間に戻ることはないし、剣を交えぬ道があるわけでもないからだ。
『当機ハIFE-0028、識別名『シュラ』。侵入者ヲ敵対象ト断定。強制排除ヲ執行スル』
 洒落の効いたネーミングだ。人としては死に、修羅道に堕ちたか。
 由紀が感想を挟む前に、両手に電離剣を展開し、シュラが踏み込んでくる。由紀は暁をフル稼動、敵の攻撃コースを予測する。
 しかし先程までのサイボーグ達とは異なりその能力の底が見えない。必然、完全な予想は困難だ。勘と身体能力で不足を補うほかない。
 死の旋風めいた風切音と共に振るわれる電離剣。振り下ろし、薙ぎ払い、その組み合わせに加えて身体を大きく廻してのフェイントからの胴一閃と、不規則なコンビネーションを織り交ぜての攻め手は有機的で、その軌道上から辛うじて身を躱す。一撃でも当たればよくて戦闘不能、回復が追いつかなければ即死もあり得る。手持ちのナイフでは受け太刀すら不可能、圧倒的不利!
(……関節。刃は立つか?)
 由紀は敵を観察しながら反撃を試みる。避ける、避ける、避ける、リズムを掴み、避けた次の瞬間、敵が腕を引くまでの隙に加速し、関節部にナイフを捻じ込んで刃を走らせる。ぎゃぎっッ……!! 刃の軋む音がして、きらきらと銀の欠片がLEDの光に舞った。ナイフの刃先が潰れ、たった一打で使い物にならなくなる。
(ダメだね。硬すぎる)
 由紀はごくフラットに事実を受け止め、刃の毀れたナイフを捨てた。反撃の一閃を潜り抜けながら横っ跳びに跳び、由紀は躰を叩き付けて手近な居室のドアをぶち破る。開けた室内。追撃してくるシュラへ、ノールックで影雨を最大数の高密度でブチ込み、束の間追撃を押し止めながら、居室内に目を走らせる。
「て、テメェッ……?!」
「イカれ野郎め!! オイ野郎共、殺せ、ぶっ殺せ!!」
 わめき散らす肥満体の男が下した命令に従うサイボーグが七体。肥満体のスーツは仕立てがいい。恐らく一番の格上だ。他の七体は恐らくただの兵隊。居室内には無造作にブラスターや接近戦用の武器が各所に転がっている。更に観察。部屋の奥に人を一人入れられそうな円筒状の|保存棺《コフィン》が一つ。恐らくシュラの|待機櫃《クレードル》。開放状態のそれに備え付けられた予備兵装。――|電離短剣《プラズマダガー》!
 一瞬で室内の位置関係、今の自分にとって重要な情報の全てを読み取ると、敵サイボーグが一発目を発砲する前に由紀は爆ぜ駆けた。瞬く間に室内を発砲音が席巻するが、弾丸が捉えたのは、由紀が壁に落とした影が精々である。
 跳躍、机に手をつきハンドスプリングしざまにブラスターを掠め取り、着地と同時に|羚羊《カモシカ》めいて横っ跳びに跳ねながら、由紀はブラスターを連射する。三人の腕、肩をブチ抜き戦闘不能に追い込み、接近戦を挑んできた二人を、新たに抜いたナイフで迎え討つ。シュラとは比較するべくもない鈍さに、脆さだ。由紀の敵ではない。
「毀れろ」
 身体に満たした魔力が、超高速で踏み込んだ由紀の身体から遊離し、質量を持った残像と化す。ユーベルコード、|影朧《カゲロウ》。由紀が振ったは一度きり、残像がそれをトレースする。二閃が首を二つ断った。吹き出る返り血すら浴びぬ速度で潜り抜け、部屋の最奥まで駆け抜けた由紀は、コフィンから電離短剣をもぎ取る。
『排除執行!!』
 ぶあうっ、と空気が逆巻く。烈風を起こす速度で由紀の背に襲いかかるシュラ! やはりというべきか影雨は有効打にはなってはいない! 由紀は身を返しざま電離短剣をアクティベート。青白く発振したプラズマ刃で、シュラの電離剣を受け流すッ!!
 呼吸を挟む余地すらない、嵐のような打ち合いが始まった。
 怖気の振るうプラズマとプラズマのぶつかり合い。磁極反発により弾け飛び合う両者の刃は、剣戟というにはあまりに歪なバズ音を奏でる。二刀かつ超高速のシュラによる打ち込みを、しかし由紀はそれにも増した速度で躱し、避け、電離短剣で逸らし、掻い潜る!! 生き残りのサイボーグ達に援護など許されるわけがない。まともな反応速度では、二人の動きは既に青白い雷電の風にしか見えぬのだ。
「あんまり時間を掛けさせないでよ。――面倒なのは嫌いなんだ」
 由紀は、一瞬の隙を盗んだ。瞳に集中させた魔力。それを敵の剣の根底に集中させる。シュラが放とうとした右の斬撃が空中に|引っ掛かる《・・・・・》。――|磔《モラトリアム》!! 視線を向けた座標の空間を固定することで敵の自由を奪うユーベルコード!
 封じられるのはほぼ一瞬。それこそ敵の手を一瞬緩めるだけの役にしか立たない。この近距離ではシュラの全身は眼に入らない。四肢の一つを止めるので精一杯――だが、それで十二分。
 続けざまに放たれるシュラの左の一打をダッキング回避、懐に潜り込み、声もなく、由紀は電離短剣を叩き込んだ。胸の中央への刺突。さしものシュラの表面装甲でさえ電離短剣の侵徹は止められない、突き刺さる――だが根元まで突き入れても刃渡りが足りぬ! その一撃では致命打にはならない!
『がガッ、ハイ、除ォ、ッ』
 由紀が電離短剣を抜くこともままならぬその機に、シュラは自由となった右の電離剣を由紀へと繰り出し――

 次の瞬間、部屋の壁に背中から叩き付けられ突き抜けて、廊下の柱に磔となった。

「――ふぅッ」
 由紀は詰めた息を、漸く吐く。打擲時の圧縮熱で煙を上げる掌底を、彼は冷ますように振った。
 ユーベルコード、『|壊絶《バーストクランブル》』。由紀は電離短剣を突き刺して、右の手掌に魔力を集中。最小限のコンパクトな振りから電離短剣の柄を、銀杭めいて打ち込んだのである。――一点に集中したその威力、想像を絶する!
 単純な壊絶の打撃では装甲を侵徹し得ぬ。電離短剣だけではシュラの急所にまで刃が届かない。
 しかし二つ合わせれば、ご覧の通り。吹っ飛び叩き付けられたシュラは、ピン刺しの虫めいて数度微動し、
『がが、ガッ ……!!』
 ――爆発四散!!
 壁の向こうでシュラが派手な爆焔を上げて粉々になる。それを確認しながら、由紀は冷めた青い眼で、思い出したように、肥満体の男に向き直った。
「て、テメェ……」
 からからに乾いた声で肥満体の男が発する。他の生き残りも皆、一様に色を失っている。
 それすらどうでもいいと言わんばかりに、由紀はダウナーな声で問うのだった。

「アンタ達が攫った娘がいるでしょ。その娘は、今どこ?」



 ――ぴしゃぴしゃと重金属酸性雨が降りしきるサイバーザナドゥの街。
 標識には不可思議な文字が描かれ、通りの名を示している。ラバレス区、エル・カミーノ通り。
 猥雑なネオンの下を、年端もいかない金髪の少女を片手に抱えた青年が歩いている。右手には傘。
 揺れを感じてか、少女が目を覚ます。琥珀の目をパチパチと瞬き、少女は首を傾げた。
「……おにいさん、だれ?」
 青年はその答えを用意していなかったかのように、無表情なまま青い眼を僅か彷徨わせた。
「そうだな……」
 彼は振り返る。遙か後方。
 一つの雑居ビルが、全ての物証を呑み込むように、ごうごうと燃えている。たった一瞥して、かれはその痕跡を、意識の外に追いやった。
「……君のお父さんの、お友達だよ」


 ここはサイバーザナドゥ。金で買えないものはない。
 例えばそれが、|友達《ぼうりょく》であったとしてもだ。


【 C y b e r n e t i c = U n d e r g r o u n d 】
           -FIN-

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月09日


挿絵イラスト