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👻と🐠のリユニオン

作者：海鶴

●再会、邂逅、いずれも
　人と人との出会いというのは偶然と云う名の運命に委ねられている。
　だが、因果は常に原因と結果の螺旋であることまた事実であろう。そして、一つ一つの因果がより合わさって大きな世界の流れと変わっていく。
　それは途方もない因果を束ねて初めて運命と呼べるものと相成るのだろうが、因果を持つ者たちにとって、それは大河の水の一粒ずつを認識するのと相違ないことであった。
「居候が増えた、ということだったけれど、一体どんな子なんだろうね」
　外邨・蛍嘉（雪待天泉・f29452）は首を傾げ、UDCアースの屋敷の廊下を歩いていた。
　少し留守にしていると、いつもあの馬県・義透（死天山彷徨う四悪霊・f28057）、その一柱となっている兄は居候を増やしているように思えてならない。

　巨大クラゲ。
　ヒポグリフ。
　猫。
　そして、今度は幽霊と来たものである。
「節操なしに程がないかな」
　とは言え、そういう事柄が器の大きさを示しているのもまた事実である。
　いや、自分もそう咎められたものではないな、と先を往く巨大なガラ・ルファ――ドクタフィッシュの宙を浮かぶ様を見やる。
　そんな巨大なガラ・ルファこと『陽凪』は新しい住人が増えたということで興味津々とばかりに屋敷の廊下を急ぐように泳いでいるのだ。

「そんなに急がなくたって会えるだろうに」
　だが、振り返った『陽凪』は頭を振るようであった。
　早く、と急かされているようであったので、じゃあ、お先にどうぞと笑むのだ。
　それに気をよくしたのか『陽凪』は意気揚々とするように屋敷の廊下をすっ飛んでいく。その勢いの良さに、まあ笑ってしまう。
「元気だなぁ。良いことだけど」
　なんて、そうしていると『陽凪』が飛んでいった先で何か驚いたような気配がするのを感じ取って、思わず歩む歩の速度を上げる。

●そこに
　人影を見た。
　それはともすれば、よくないもののように思えたかも知れない。
　見てしまった、と思う者のほうがほとんどのような影。
　性別もわからない影、と称するのが良いのだろうか。新たな居候である幽霊がいる、と聞いて『陽凪』は少し浮かれていたものだから不意打ちを受けた気分であった。
　ばったり出くわしたのが、新たな居候『夏夢』だった。
「（あ、この人。隣地の儀式跡に居た人魂……）」
　声には出さない。
　けれど、確かにそうだと思える。
　あの儀式の犠牲者とでも言えば良いのだろうか。

　逆に『夏夢』はびっくりしきりであった。
　何処かで見たことの在る、と思ったのは、それが巨大な魚の姿をしていたからだ。いやまあ、生前みたことがあるものであったとしても、これほど巨大な魚と真っ向から対峙することなどなかったであろうから、これもまた貴重な経験であると言えば、貴重な経験であるのだろうが。
「わっ！？」
　なので、声は抑えられなかった。
　初対面の者に対して失礼かな、と思ったが驚きのほうが勝ってしまったのだ。

　逆に『陽凪』は色々考えていた。
　この間、両者の間にはヤな空気が流れていた。
　緊張と不安。
　特に『陽凪』に至っては、隣地で行われていた邪神召喚の儀式のことを知っている。
　呪いを食べて浄化していたのがほかならぬ自分であるものだから、特に人魂としての姿はハッキリと覚えていた。
　呪いを食べることで薄くなっていった瘴気。
　最初は呪いが濃すぎたために何が蠢いているのかもわからなかったが、確かにあれは人魂だったし、目の前の『夏夢』そのものであるように認識できたのだ。

　けれど、と思う。
　あの人魂はいつしか、あの跡地から消えていた。
　何処かに言ってしまったのか、もしくは浄化されて消えてしまったのか。
　何れにせよ、足取りを追うことは叶わなかった。
　一体全体今まで何を、と問いかけたかったのだが、どうにも言葉が出てこない。
「わっ、わわ、わ」
　一方、『夏夢』は別の意味で驚きしきりであった。
　だって、急に魚である。
　もうびっくりである。何処かで見たような気がする、といっても気のせいかもしれない。それは相手方も同様であったように思えただろう。
「おや、どうしたんだい」
　そんな折、屋敷の廊下を渡ってくる女性の姿を認めて『夏夢』が、この屋敷の主である『馬県・義透』が言っていたところの、『外邨・蛍嘉』であると知る。

「ああ、君かい。増えた居候というのは」
「は、ひゃい、よろしゅく、おにゃがいしまふ！」
「……」
「……」
『夏夢』の顔が熱くなる思いだった。
　思いっきり噛んでしまった。　
　だってだって、ものすごく緊張していたのだもの。仕方ないではないか。自分だってもっと上手に自己紹介したいと思っていたのだ。
　でも、無理であった。
　いつも通り、と屋敷の主人たちは思うかも知れないが、それでも彼女は必死だったの。

　そんな彼女の様子を感じ取ったのか、蛍嘉は笑む。
「可愛らしい挨拶をありがとう。私のことはもう聞いているかな？」
「にゃ、ひゃい！　あ、はいっ！」
「ふふ、猫のようだね。もしかして、猫、好きかい？」
　ふわりと浮かぶ『陽凪』が自分のことも紹介してくれというように漂うにを認めてまた笑む。
「こちらは『陽凪』。見ての通り人畜無害な上に呪いを食べて浄化してくれる、洋風に言うところの、どくたぁふぃっしゅ、というやつさ」
「は、はい！　えっと猫、お猫様大好きです！」
　よろしく、よろしく、です、と『夏夢』がぺこぺこと頭を下げる様子を見て蛍嘉はまた笑む。

「そうかい。此処に一匹猫がいるけれど、もう仲良しさん？」
「誠心誠意お仕えさせていただいております！」
「はは、もうすっかり、ということかな。それなら何も問題はないよ。義透から話は聞いているよ」
　ふわりと尾ひれを揺らして『陽凪』もよろしくね、とジェスチャーをして見せる。
「とは言え、性別がわからない、というのは不便ではないかな？」
「い、いえ、よくわからないのですが、これでいいのかなって。気がついたらお猫様を追いかけていたので、そこまで頭が回らなくって……」
「生粋の猫好きってことだね」
『陽凪』は、『夏夢』の言葉に、もしかして、だからあの儀式の跡からいなくなったのかな、と思った。

　猫好き。
　それは人魂となっても変わらない核めいたものであったのだろう。
　だから、自分が呪いを食べて浄化して動けるようになったら、本能的に猫を追いかけるようにして移動したのかも知れない。
　そこでまた猫に出会って、こうして屋敷の一員になったというのならば、因果というのはほとほと巡るものだと思う。
　凄惨たる邪神召喚の儀式の犠牲者は少なくない。
　いや、それどころか多いと言える。
　時に街一つ消えることだってある。
　そうした中にあっては『夏夢』は幸運な部類であったのかもしれない。
「毎日お猫さまのお世話出来て幸せです！」
　こればかりは、臆することなくハッキリと彼女が言えることのひとつなのだろう。
　なら、何も心配することはないのかも知れない。
　どれだけ凄惨たる末路であったのだとしても。今という幸せを『夏夢』が良しとするのならば、それを間違いだと言うのは誤ちである。

「そうか。よかったね。改めてだけれど、よろしくね」
　そう微笑んで伸ばされた手の暖かさはが、その証明だった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2023年10月07日