1
やっぱり猫が好き~全と大地の場合

#UDCアース #ノベル #猟兵達の秋祭り2023

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の秋祭り2023


0



源・全



水鳥川・大地




 世の学生たちにとって秋の一大イベントの一つといえば、そう、文化祭。
 UDCアース・関東地方に存在する男子高校『私立|才桜《サイオウ》高校』でも、秋らしい気候になってきた十月中旬に文化祭が催されることとなっていた。
 当日、一年生の源・全(地味目主人公系男子・f40236)は誰を伴うでもなく、なんとなしに自分のクラス以外の出し物がどんなものかとぶらり見て回っていた。
 コンセプトカフェ、縁日、謎解き脱出ゲーム……どのクラスも今日の晴れ舞台のために気合いを入れて準備をしたと思われる見事な出し物ばかりで、しかしぼっち参加の全としてはなかなかにどこも足を踏み入れにくいと、覗くだけ覗いて踵を返すを繰り返してしまっていた。
(「俺、せっかくの文化祭で何やってるのかな……」)
 はぁ、とため息ひとつ、体育館のライブ系パフォーマンスでも見に行くかと思ったその時、全のスマートフォンがぶるりと震えた。
(「RAIN? 誰からだろ……水鳥川くん?」)
 メッセージアプリに新着アリ。黒猫のアイコンの相手は水鳥川・大地(ギャップ系ヤンキー男子・f40237)。同じクラス、出席番号は隣同士、おまけに席も前後隣同士、さらには部活まで一緒という、全にとってはいわゆる腐れ縁的な存在だ。
 パツキンプリン頭に両耳ピアス、鋭い目つきな上に右頬には喧嘩でできたと思しき傷跡と、外見だけだと完全なヤンキーだった大地を一目見た全は『この人は苦手だ』と一方的に絶望していたものだが、色々あってお互いが『猫が好き』という共通点を持っていることを知り、苦手意識は一気に吹っ飛び、今ではこうして気軽にメッセージアプリで主に猫についてのやりとりをするに至るのだった。
(「そういえば水鳥川くん、文化祭来てるのかな?」)
 そもそも大地は今どこにいるのだろう、などと思いつつメッセージを開くと――。

『今3Bの教室前にいる 暇なら来てくれ』

(「……」)
 意図が掴めず、とりあえずタタタとスマホを叩いて返事を返す全。
『いいですけど、何かありました?』
 シュポン。返信をするとすぐに小気味良い音と共に更なる返信が返ってきた。
『わけはあとで話す』
(「……」)
 はっきり言って、ちょっとおっかない呼び出しだった。暇かどうかと問われれば完全に暇をもてあましていたので大地の呼び出しは渡りに船ではあったのだが。
(「いや、水鳥川くんなら大丈夫だろうけど、元ヤンからこういう呼び出しされるとちょっとおっかないなぁ……」)

『わかりました すぐ行きます』

 それでも、何らかの事情があるかも知れないし――なんて思いながら、了承の返事を送信してから全は指定された教室へと急いだのだった。

 果たして、待ち合わせ場所に到着した全は、教室の反対側の窓際に寄りかかって何やら難しそうな顔をして腕組みをする大地の姿を発見したのだった。
「すみません水鳥川さん、お待たせしちゃって」
「……ん」
 階段を駆け上がってきたので若干息を切らせながら声をかけた全に向けて、大地は親指だけで件の教室の方を指し示した。
「えー、なになに。『猫を題材とした展示、猫雑貨の販売』……え! 何ですかこれ! 見たい見たい!」
 全が今までのテンションの低さが嘘のように盛り上がると、大地も両の拳を握りしめて興奮を抑えきれない様子でそれに応える。
「だろ! お前も見たいだろ!」
 そして、全の背中にスッと手を当てて、押し出すようにしながらこう言った。
「というわけでお前から先に入ってくれ」
「どうして」
「一人で入るの恥ずいから、俺はお前の付き添いのフリして入る」
「(身体は大きいのに考えてることちっちゃいなこの人……)」
 声に出して言いたい本音ではあったが、言うと怒られそうで怖かったから黙っておいた。
 かくして、全とその付き添いの大地という絵面で、ねこ天国の略と思しき『ねこ天』という看板が掲げられた3年B組の教室へと足を踏み入れたのだった。

「うわ……!」
「すっげ……」
 全と大地が同時に声を上げた理由は、黒板いっぱいに描かれた見事な猫ちゃんたちの黒板アートだった。猫が持つ愛嬌がたっぷりと詰め込まれた見事な描写に、二人揃っていきなりハートを鷲掴みにされたのだった。
 ホワイトボードには一面の猫の写真。躍動感溢れるアングルからまったり猫ちゃんまで、これまた猫の魅力を余すことなく伝えてくる素晴らしい写真ばかりであった。
「あ~~~、クソかわ……!! すげぇなこの神アングル、俺もこんな写真撮ってみてぇ」
 日課の野良猫観察で自身も日々猫画像をスマホの中に増やしている大地は、純粋に憧れの目線で貼られた写真たちの中でも特に動きのあるものに興味を惹かれて見入っていた。
「いやぁ、本当にどの子も可愛いですね……」
 一方の全はそう言いつつ、公平な目線で猫たちの写真を眺めていた。それは、心に秘めた最愛の茶白猫『きなこ』あってこそ。何やかやで、飼い猫がいるニンゲンはうちの子が一番可愛いのだ。
「どうかな? 猫たち、可愛いでしょう」
「……!!」
「あっ、ハイ、どの展示も猫の魅力を存分に伝えてきてくれて……凄いです」
 3Bの生徒と思われる男子から声をかけられ、大地が絶句している間に全がフォローを入れる。そう、大地はあくまでも付き添い役なのだから。今更だけれど。
「猫のイラストの展示や、雑貨の販売もやらせてもらっててね」
 三年生の男子が照れくさそうに言いながら、全と大地に教室を紹介してくれた。
「全部、このクラス全員で手作りしたんだ。雑貨は販売もしてるから、良かったら見ていってね」
「……!?」
「はい、ありがとうございます……!」
 明らかに猫だと見て分かるバルーンアートをいつの間にか持たされながら、教室内の出し物が全てこのクラスの愛の結晶(?)だと知らされて、ただただ驚愕するばかりの大地と全。
「水鳥川さん、雑貨……」
「見る!!!」
 問いかければ、小声ながら力強い大地の返事が返ってきた。
(「本当に、見た目によらずシャイなんだよなぁ……」)
 内心で、またしても口には出せないことを考える全であった。

 雑貨コーナーには、さまざまな画風の猫デザインのマグネット、アクリルキーホルダー、しおり、ぬいぐるみなどのこれまた可愛らしいグッズが並んでいた。
「マジかよ……これも全部パイセンたちの手作りだってのか……!?」
「これは……愛がなければここまで精巧に猫の愛らしさを表現はできませんよ……!?」
 物販担当らしき生徒が、大地と全の言葉をこっそり耳にしてははにかんだ。
「外部からの参加者さんから、男子校なのに女子力高いねってよく言われるんだ~」
 遠慮なく見ていってよ、とニコニコ笑顔で生徒が言う。猫に愛されそうなタイプの人だなと二人は同時に感じたとか。
「マグネット良くねぇ? メモとか机に貼っておけるじゃんか」
「いいですね、俺はこの絵柄のキーホルダーを家の鍵につけたいです」
 お言葉に甘えて、とばかりに大地と全は雑貨をじっくりと見てはあれも欲しいこれも欲しいと手に取ってはうっとりした顔を隠せなくなる。
(「ぬいぐるみは……源ん家にはもうきなこがいるからいらないか……」)
 もふもふのぬいぐるみに手を伸ばしかけて、大地はしかしその手を引っ込めた。
(「やっぱり、本人が欲しいってるモンがいいよな」)
 大地は心の中でそう判断すると、一度大きく息を吸ってから、全が気にしていたキーホルダーを『二つ』手に取って「これ下さい」と言ったのだ。
「ありがとうございます! 千円になります」
(「あーあ、付き添い役だなんて言いながら結局自分で買い物しちゃってなぁ……」)
 買い物をする大地の様子を微笑ましく見ていた全の眼前に、突き出されたのはたった今お迎えしたばかりのキーホルダーが「二つ」。

「え!? 水鳥川さんの分じゃないんですか!?」
「バッカお前……これは……使う用と保存用に決まってんだろ!!」
「駄目ですよ、俺だけそんな……そうだ、このキジトラぬいぐるみを一つお願いします! 彼の分です!」
「言うな!!!」
「わあ、ぬいぐるみ買ってくれる人がいた! ありがとうございます、作ったヤツきっと喜びますよ~二千円お願いします」
(「しまった、意外と高かった……でもこれも普段仲良くしてもらってるお礼と思って」)
 にわかに賑やかになった雑貨物販コーナーには、それから次々と人が集まってきたという。

「マジで……ねこ天、だったな……」
 3Bの教室を堪能したのち、カフェを開いていた教室に立ち寄ってコーヒーを飲みながら、呆けた様子で天上を仰ぐ大地。キジトラぬいぐるみは帰宅ギリギリまで全が預かるという約束で、今は全の腕の中にいる。
「ねこ天……でしたね……」
 全は紅茶に砂糖をたっぷり入れながら、ぐるぐるとマドラーでかき回しながら冷めるのを待っていた。猫好きなだけに猫舌なのだろうか。
「あの、水鳥川さん」
「ん?」
 改まって名前を呼ばれて、大地は飲んでいたコーヒーを一気に飲み干して返事をする。
「今日は、本当にありがとうございました。水鳥川さんがねこ天に誘ってくれなかったら、俺は今日一日、適当に過ごして途中で帰る羽目になる所でした」
 ペコリと頭を下げられて、一瞬その様子にポカンとする大地。
 すぐに気を取り直して、顔を背けながらこう全に返した。
「……俺の方こそ、付き合ってもらって助かった」
「(あ、意外と素直な所もあるんだ)」
 内心で本音を出しつつ、ようやく紅茶を口に含んだ全は「そうだ」と言いながら家の鍵と買ってもらったキーホルダーを取り出して、早速二つを組み合わせた。
「色々な意味で、無くさないようにしないといけませんね」
「まったくだな、落とさないように気をつけろよ」

 ――大事なものが、またひとつ増えた。
 ありがとうねこ天、そして永遠に――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月06日


挿絵イラスト