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男子高校生が秋限定クレープに出会ったならば

#UDCアース #ノベル #猟兵達の秋祭り2023

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知花・飛鳥




「で、どうする?」
 少し高い位置から投げかけられる窺う声音に、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)はついに頭を抱えた。
(どないしたらええねん……っ)
 ほんのり桜めく色合いの髪を、無造作に掻き毟る。前髪を留める数個のヘアピンが、そろいもそろってあらぬ方向を向くが、そんなことを気に留める余裕は無い。
 ぐぎぎぎ、と。飛鳥は本気で奥歯を噛み締めた。額に浮かんだ汗も、滴を結んで肌を伝う寸前である。
 と、その時。
 じゅ、と水が蒸気に変わる音がする。
「!?」
 弾かれたように顔を上げた飛鳥は、木製のトンボをくるりと手首で返す妙齢の女性と目が合った。
「……俺、まだ注文してへんけど」
 飛鳥の恨みがましい科白に、キッチンカーの主である女性の口角がニヤリと上がる。
「別に、君の為に焼いてるわけじゃないよ」
「――!」
 くい、と女性がしゃくった顎につられて振り返った飛鳥は、はっと息を呑む。そこには女子高生の集団がいたのだ。
「ちなみに、限定商品『秋を告げる栗と梨のクレープ』の材料は残り一食ぶ――」
「おねえさん、『秋を告げる栗と梨のクレープ』を一つよろしゅう頼んます……っ!」
「はい、承りました。あ、お支払いは現金? バーコード?」
「……げ、現金、でっ」
 鞄の中から財布を引っ張り出しながら、飛鳥は既に底を尽きつつある『今月のお小遣い』の行く末を憂う。
(ク、クリスマス商戦も控えとるっちゅーに、俺は、俺は、俺は――っ!!)
 秋は、冬の一つ手前の季節だ。そして美食の季節だ。中でも、甘党の飛鳥にとっては限定スイーツ目白押しの季節でもある。
 しかし高校生である飛鳥の経済力は、お察しだ。だのに飛鳥の通学路には“商店街”がある。
 様々な店舗が軒を連ねる通りには、もちろん甘味を商う店も多い。和菓子も洋菓子も選び放題――つまり、飛鳥にとっては天国で有り、地獄でもある。
 仕込みと重なる登校時間で、既にヤバい。しっかり門扉を閉ざしていようと、“香り”は羽でも生えたように勝手に外へ飛び出し、飛鳥の鼻をくすぐる。
 下校の頃は、言わずもがなだ。迂闊に視線を巡らせば、煌びやかなショーケースの中身が否応なしに目に飛び込んで来る。すっかり馴染みとなった店主たちだって、容赦ない。満面笑顔の手招きと、新作をアピールする早口は、さながら精神攻撃だ。
 故に飛鳥は、足元だけを見て商店街を歩いた。しかも小走り気味に。匂いも出来るだけ嗅がずに済むよう、呼吸も減らした。
 そんな風に、色々な苦しさを我慢して我慢して我慢したにも関わらず、最後の最後でとんでもない罠が仕掛けられていたのである。
「お代は500円でいいよ」
「え?」
「さっき『おねえさん』って言ってくれたでしょ。そのお礼」
 コイントレーに500円玉を乗せ、80円分の小銭を漁っていた飛鳥は、商店街の終わりという気の緩む箇所にキッチンカーを停めていた“やり手女性店主”の顔をまじまじと眺め、ふにゃりと相好を崩す。
「ゴチにならしてもらいます」
「礼儀正しい子だねぇ」
 笑った女性が、焼き上げたクレープ生地を、鮮やかな手捌きで調理台へ移した。
(少し厚めやな。モチモチ食感やろか)
 そこへたっぷりのマロンホイップが敷き詰められ、大き目の渋皮煮がごろごろ三つ乗せられる。
「ホイップの方に使ってるのはフランス産よ。渋皮煮は熊本産」
「国が違うと味がちゃうん?」
「フランス産の方が、味が濃いの。国産はちょっと控えめだけど、ほくほく食感が抜群よ」
(モチモチ生地にほくほくの栗)
 想像するだけで、飛鳥の腹の虫たちが騒ぎ出す。授業終わりの帰り道なんて、高校生男子にとっては空腹の極みだ。
 巻き上げた時に縁から覗くよう、カットされた梨のカラメルコンポートが並べられる。添えられたアイスは、栗と相性の良い紅茶味だとか。
「はい、お待たせ」
「ふおおお」
 トドメにマロンソースが絞り乗せられたクレープを受け取り、飛鳥は感嘆を漏らす。
(おっちゃん、おばちゃん。今日だけは堪忍やで)
 全スルーしてしまった馴染みの店主たちへ飛鳥は心で詫びて、なかなかの“映え”っぷりをスマホに一枚収めると、大き目の一口をがぶりといく――そして。
(ヤバい。これヤバいて)
 甘さとほろ苦さと、食感のコントラストに中てられ、飛鳥は文字通り天を仰いだ。うっかり目の端には涙まで浮かんでしまう。
 完食してしまうのが惜しい。でも押し寄せて来る“秋の奔流”に抗えない。
 見る間に小さくなってくクレープに、飛鳥は細めた紫眸の奥に誰かの姿を映す。
 キッチンカーとの出逢いは一期一会だ。常設でないから、次があるとは限らない――。
(食べさしたいなあ)
「これから隔週水曜、来るから。またおいでよ、今度は友達でも連れてさ」
 胸の裡を見透かしたような女性店主の誘いに、飛鳥はぺろりと親指の腹を舐めて「うす」と頷く。
 再来週は、幼馴染も誘おうかな――なんて思いながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月06日


挿絵イラスト