お狐様と竜神様の|夏の宝物《ミラクルサマー》
『お宝がー! 欲しいかー!』
――うぉぉぉぉぉっ!!
海賊団『フィッシャーマンズ』のお頭、オニキンメ船長が蒸気拡声器を手に声を響かせる。
その声に呼応して、老若男女様々な島民や商人達の拳が掲げられた。
『お宝をー! 見つけたいかー!』
――おぉー!
「おぉ~!」
「お、おー」
その中に、やる気満々な尾白・千歳(日日是好日・f28195)と不安げな千々波・漣音(漣明神・f28184)の姿が混じっていた。
「お宝かぁ~どんな素敵なお宝なんだろうね?」
「見つけられねェ可能性ってのは、考えてねェのな?」
ふわふわ尻尾をウキウキと左右に揺らし順番を待つ千歳とは対照的に、漣音は『心配だ……』と言う空気を背負っていた。
漣音の不安の源は、宝探し大会に使われている、どこからか流れ着いた海賊船である。
沈まず流れ着いたのが不思議なくらい朽ちかけの船だったらしいが、そこは海賊達の手で沈まない程度に補修されている。補修ついでにトラップが満載になっているらしい。
――海賊が本気を出したトラップ(※殺意はないから大丈夫☆)を掻い潜り、お宝を手にすることが出来るか!?
キャッチフレーズがこれである。
現に、船から海に放り出される参加者が後を絶たないでいる。ノリの割には、ハードなイベントな気配しかしない。
「え? だって私、めっちゃ運いいタイプだもん!」
(「ダメだ……オレが付いてってちぃを守らねェと」)
なのに千歳はいつもの様に根拠のない自信に満ちてるものだから、漣音は密かに決意を固めていた。
「次が私達の番だよ、さっちゃん!」
「そうだな。稲荷寿司食べとけ。稲荷寿司は運が上がるらしいぞ」
「そうなの!?」
稲荷寿司と言うか、油揚げは『揚げ』と『アゲ』をかけて運気を上げるとか言われているらしい。
「ちぃの好みの味付けにしたから、美味いだろ」
「ん。いつも通り」
だとしたら、食べておくべきは千歳よりも漣音だったのかもしれない。
そして――。
『次の挑戦者は――千歳・漣音ペア! 張り切って探して来ーい!』
ついに2人の番が訪れた。
順番が回って来た今、会場の船の中にいるのは千歳と漣音だけである。
(「――んっ? これってふたりっきり? これってデートじゃね?」)
今更ながらそこに気づいた漣音のやる気ゲージがギュインっと上がった。
「良いか、ちぃ。何か見つけても、いきなり触るなよ?」
とは言え、漣音は舞い上がっても己に課した使命を忘れはしない。
キリッと表情を引き締めると、千歳を庇うように前に出た。
「怪しいものはまずオレが調べる。オレならどんなトラップが来ても大丈夫だ。なんせ神格高い竜じ――」
「あ、さっちゃん! 宝箱あるよ!」
「って、聞けよ!?」
けれど漣音のやる気も警戒も気づかず笑顔で踏み越えて、千歳は宝箱に向かって迷わず駆け出した。
「待て、ちぃ。こんないきなりある宝箱なんて罠に決ま――って、あぶねェ!」
止める間もなく千歳が宝箱に手をかけると同時に、天井が開く。
ゴォォォンッ。
咄嗟に飛び出した漣音の頭に、降って来た金ダライが直撃した。
その後も、千歳と漣音の宝探しは順調(?)に進んでいった。
「この地図は! ……わかんないや。あ、こんなところにレバーがある!」
「ドワァァッ!?」
謎の海図の横にあった怪しいレバーを千歳が引いて、壁から飛び出して来たボクシンググローブを漣音が身体で食い止めたり。
『引くなよ?』
「えい」
「いや罠だろぉぉぉっ!?」
やっぱりやたら怪しく天井から下がってるロープを千歳が引いて落ちて来た樽に、漣音が船の外に落とされかけたり。
順調である。
漣音が庇った際に一度、いわゆる『壁ドン』っぽい状況になった事もあったのだが――。
「さっちゃん、早くどいてよ~」
お宝求める千歳に押しやられ、ドキドキのドの字にもならなかった。
「……や、やるじゃねェか、海賊達。オレ様がこんなになるなんてな……」
あっという間に、漣音がトラップ被害にあった回数は両手足の指を足しても足りなくなった。
中でもダミー宝箱の罠は、千歳が箱を見つける度に疑いもせず開けるので、発動率100%である。
「なぁ、ちぃ。なんで見つけた宝箱、全部開けるんだ?」
「だって、今度こそ本物かもしれないでしょ?」
何回目かのダミー宝箱トラップで箱の中に引きずり込まれかけた漣音の言葉に、千歳は自信たっぷりの笑顔で返す。
いつか本物があるかも――と言う自信ではない。
私なら本物を見つけられる――と言う自信である。
(「さっちゃんって、案外運が悪いのよね」)
宝箱見つけたら、運を分けてあげようか――なんて胸中で思いながら、千歳は通路の先の扉を開けて、やっぱり警戒などせずにずんずんと中に入って行く。
「わぁ!」
「な、なんだこりゃ……」
その部屋の中には、多くの宝箱がずらっと並んでいた。
――真実は1つ。
後ろの壁には、そんな掛け軸が掛かっている。
そして十数個はある宝箱の色柄は、全て異なっていた。1つを除いてダミーなのだろう。これまでのルートの中にヒントがあったのかもしれない。例えば宝の地図みたいな海図とか。なかったかな?
「んー……じゃあ全部開けちゃえ!」
だけどそんなの、見てたかもしれないけど覚えてない千歳は、全部開けることを迷わず選んだ。
「なんでだよ!?」
「だって全部開ければ、どれかが正解でしょ?」
式神使って秒で全ての宝箱を開けた千歳は、漣音のツッコミにも小首を傾げて返す。
(「なんだよその表情、可愛い……ってそれどころじゃねェ!」)
勝手に絆されかけた漣音だが、すぐにそんな場合ではないと思い直した。
この状況、一体全体いくつのハズレを開けたのも同じ事になるのだろうか。
「く、来るなら来やがれ! オレ様の神格の高さを見せてや――」
――ゴゴゴゴゴゴッ!
漣音の覚悟を嘲笑うかの様に、部屋全体が揺れ出した。まるで船自体が揺れているのではないかと言う大きな揺れだ。
「さっちゃん? 何したの?」
「オレじゃねェ!」
流石に千歳も漣音もその場で固まるしかなく――けれど揺れは程なく収まった。
他の宝箱を押し除けて、床から黄金の宝箱が出て来ると同時に。
壁の掛け軸は、ハラリと紙が剥がれ落ち、新たな文章が現れていた。
――真実は1つとは限らない。
『今回の宝探し大会! 勝者は千歳・漣音ペア!』
2人の勝利を告げるオニキンメ船長の声が、高々と響き渡る。
『いやあ、まさか【途中のトラップに5回以上かからないと鍵が開かないの部屋の宝箱をダミーも含めて全部開ける】なんて条件にしておいた隠し宝箱を見つけるやつが出るとは思わなかったぜ!』
普通なら、まずトラップは避けようとする。
けれど今回は、千歳がいた。
ハズレかトラップかなど気にせず、見つけた端から全部手を伸ばして行った千歳が。
「やったぁっ!」
「……」
そんなまさかのミラクルの反動と言うか犠牲と言うか、喜びを爆発させる千歳を守り切った漣音は、口から魂とか出てそうな顔で疲れ切っていた。
「やったよ、さっちゃん!」
「っ! ああ、良かったじゃねェか、ちぃ!」
けれど声を弾ませる千歳が無邪気に両手を取れば、漣音はパァァッと復活する。
(「あー、そう言う……難儀っつうか、不憫っつうか。ま、がんばれや」)
そんな2人の様子で、その関係性を凡そ察したオニキンメ船長が、胸中で漣音にエールを送っていた。
成功
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