馬県・義透
玉福パトロールの秋です!!
玉福🐈はいつものようにパトロール。ただ、今はご主人も屋敷にいるので…いってきますの『にゃー』。
ついでに夏夢もいってきますの声。
で、ご主人はいるのに。陰海月と霹靂がいなくて『?』ではあったのですが。
パトロールの途中、山の方で見かけることに!
何やってんだにゃー?とか思ったのですが。たしかその場所、昨日はいがいがとげとげした物(毬栗)が落ちていて。それを二匹は拾っていたのです。
玉福はパトロールなので、そう思いつつもちらっと見て終わり。
今日も縄張りには異常なし。
にゃー。と帰ってきてしばらくゴロゴロ。夏夢と遊んでゴロゴロ。
そうしたら二匹も帰ってきました。ちゃいろのコロコロした物(毬栗の中身)も一緒に。
台所でそれが水没してても『にやー?』とはなるが。まあ気にしない。
なお翌日。栗ご飯が始まったとか何とか。
●秋の風
どこか湿った風が終わりを告げ、己の毛並みが軽く毛羽立つようになった。
軽やかな足取り。
乾いた土。
踏みしめる葉の感触。
涼しい風がそよぐ。
そうしたものを猫である『玉福』は感じ取っていた。
己のひげで、身を覆う毛で、瞳で、鼻で。
色々なものを感じ取っている。
多くのことを知るのに人間のように理屈は必要ない。
ただあるがままを感じ取れば良いのだ。そういうものなのだと『玉福』は思っていたし、また己の背後に付き従うようにして浮かんでいる幽霊『夏夢』は、そういうのとは無縁であるとおもっていたので特に何かを言うまでもない。
こういう距離感が一番いいのかもしれない。
自分にとっての心地よい距離感が他者にとってもそうではないのと同じように、『玉福』はそれぞれの距離を許容する。
「にゃー」
一声鳴く。
屋敷の外に出るのは自由であるが、しかし、今は屋敷の主人――馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が在宅である。
となれば、やはりパトロールという毎日の務めとは言え、一言告げていくのが筋というものであろう。
「おや、行くのですか。気をつけて」
主人はどこに居ても己の声を聞きつけてくれる。
それに応えるように、もう一つ鳴く。
「それでは、後は私におまかせください!」
「ええ、頼みました」
『夏夢』が主人に張り切った様子で言葉を交わしている。任せて下さい、とはまさか己の世話をしているつもりなのだろうか。
いや、これくらいのことで一々目くじらを立てる己ではない。
『夏夢』は己の面倒を見ている、護衛しているくらいに思っているのかも知れないが、逆である。己が『夏夢』に付き合っているのである。
己の伴をさせるなど滅多なことではない。
基本的に単独行動が常であるのだ。
そこに余人の入る余地などない。主人であっても、だ。
だからこそ、『夏夢』は特別に己の背後を往く栄誉めいたものを与えた特別な存在なのだ。
「にゃあ」
「あ、はいはい。お待ち下さい~」
何やら一言二言、主人と話ていたようであるが、これ以上距離が離れるのならば置いていくぞ、くらいの感覚で鳴く。
まったくもって伴する者としての自覚というものが足りない。
そこまで思って『玉福』は思った。
あれ、と。
そう言えば、『陰海月』と『霹靂』の二匹はどうしたのだろう。
主人が屋敷に居る時は常に居るものであるはずだが、見かけなかった。彼らだけで出かけるということがあるのだろうか?
まあ、何にせよ、今から自分が往くのはパトロールである。
時間は有限なのだ。
ゆっくりと歩む。
ペースは一定に。急いでも、のんびりもしてはいけない。
猫の縄張りというのは、重複するものである。時間帯をずらしたりして鉢合わせしないように気遣うのが常であるが、しかし、『玉福』の縄張りは例外である。
自分以外の猫が寄り付かないのだ。
それはとある儀式や関連した事柄に起因しているのだが、『玉福』は事実がどうであるとかを気に留めない。
「にゃあ」
うん、今日も変わりない。
もう少し奥まで見回ったら引き返そう、と思った瞬間、己の視界に入ってきたのは『陰海月』と『霹靂』の姿であった。
「にゃ?」
何をしているのだろうか。
『霹靂』が脚で何かを抑え、そこに『陰海月』の触腕が伸びてほじくっている様子であった。
それを何回も繰り返しているし、何やら棘々したものをいじっているようだ。
よくわからない。
というか、よくあんな棘々したものを触ろうと思うものである。
自分であれば御免だ。
興味がそそられるものであったが、自分はパトロール中だ。やるべきことをしなければならない。
「ああ、お二人は栗拾いをしているのですね」
「にゃ?」
なに? 何をしているって? 栗ってあの棘々したやつか?
ますます持ってわからん。
そんなことを思いながら『玉福』は縄張りを歩んでいく。こちらの方も以上はない。
何かあればあったで動かなければならないが、この縄張りに関してはそういう心配がないのでほとんどの心配事は杞憂で終わってしまうのだ。
「今日のパトロールはおしまいですか?」
「にゃ」
「では、この後は?」
決まっている。
いつものように屋敷の中でゴロゴロするのである。
そんでもって、自分がその気になったのならば少しばかり『夏夢』と遊んでやっても良いと思う。
「はい、ではそのように」
『夏夢』の言葉に『玉福』は大仰に頷くような仕草をして屋敷に戻っていく。
あの二匹も日が暮れないうちに戻ってくればいいのだが。
まだまだあの二匹は子供である。
自分から見てもそうであるように思えるのだから、主人から見ればことさらそう見えるだろう。
心配をかけなければよいが、と思いながら屋敷への帰路に着く。
「新しい猫じゃらしが入ったんですよ! あとネズミみたいなのが! アレで遊びましょう、そうしましょう!」
『夏夢』が若干やかましかった。
けれどまあ、それも日常のうちである。
猫のあくびが出るほどに平穏であれば、世は事もなし。これくらいがちょうどいいのだというように『玉福』はあくびを一つして、屋敷でゴロゴロしながら、時折思い出したように『夏夢』の遊びに付き合ってやる。
そうしていると、『陰海月』と『霹靂』の二匹が戻ってくる。
「きゅ!」
「クエッ!」
何やら鳴き声が喜色ばんでいるように思える。
どうしたのだろうかと思って、とことこと駆け寄っていくと『夏夢』も気になったのだろう付いてくる。
「おや、これは沢山取れましたね。虫がいるかもしれませんから、一先ず水につけておきましょう」
主人が何やら籠を受け取っている。
ははーん、主人、あの棘々を知らないな?
そんなふうに思っていると、どうやら自分が思っていたものとは異なるものであることが知れる。
そこにあったのは濃い茶色の物体だった。
あれ!?
あの棘々したのは!?
「あれはガワなんですよ~。お二人はあの棘々の中身を取っていたんです」
『夏夢』の言葉に『玉福』は、関心する。
なるほど、確かに集めたくなるのもわかる気がする。
とは言え、これを一体どうしようというのだろうか。首を傾げる。
水に浮かぶそれを突くと面白い。
濡れるのは嫌だが、浮かんでいる濃い茶色のこれを突くのは、結構くせになる。
「はい、悪戯しない。水桶に落ちても知りませんよ」
主人が己の体を抱えて水桶から遠ざける。
なんでだ。
こんなにおもしろいのに。
少し不服であったが、まあ、仕方ない。主人が言うなら従うしかない。
「明日は栗ご飯にしましょうね」
「わっ、いいですね。楽しみです。秋の味覚というやつですね!」
主人と『夏夢』が嬉しそうに笑っている。
自分にとっては過ごしやすい気候になった喜びだけであるが、しかし主人たちにとっては違うらしい。
自分とは異なる存在。
だからこそ、感じ取れることも違うのだろうと理解できる。
秋は冬に至る道程。
けれど、実りを知る季節でも在る。待ち遠しき春を思い、厳しい冬を乗り越えるために力を蓄える季節。
「なぁ~」
「はいはい、『玉福』にも用意しますから」
いや、そういうことじゃないんだけど。
まあ、いいか。
なんだか、主人達の言葉の弾みようを思えば、きっと良いことが明日起こるのだろう。
それを楽しみにしておこう――。
成功
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