チョコレート・トリオ
ステラ・タタリクス
【ステルク】
ナイアルテ様、随分とお疲れのようで。
ええ、|グリモアの予知《シナリオ》に、猟兵の皆様|に宿った『エンドブレイカー』の力の発現《のノベル》。
目が回る忙しさとは正しくこの事でしょう。
そこでおめめぐるぐるしてる勇者はさておいて。
ええ、触れると感染しますよ何か理不尽なものに。
とはいえ、ルクス様のアイディアは最高かと存じます。
それではメイドの本領、お見せしましょう。
【ヴァレット・パープル】
本職には叶いませんが、
見劣りしないものを提供します。
ルクス様……?貴方様の本職は勇者であって、料理人ではありませんし、何より音楽家でもありませんよね??
まあ、ルクス様の方が料理上手なのは認めます。
では、ルクス様のサポートに回りましょう。
出来上がり次第、
|待っている《椅子に縛り付けている》ナイアルテ様の元に届けて、
口まで運びましょう。
ところでナイアルテ様?
フォアグラの作り方、ご存知ですか?
あの料理人、止まりませんのでご注意くださいね。
だから、慰労会で死人を出そうとしない!!(すぱぁぁぁん!)
とりあえずハリセンをご用意しました!
ルクス・アルブス
【ステルク】
ナイアルテさん、おつかれですか……?
いえ、おつかれですよね! おつかれなんです! つかれてるんです!(催眠ぐるぐる
と、いうことで『ナイアルテさんお疲れ様会』をしましょう!
癒やす、となれば音楽とかお料理なんですけど、
ここは美味しいお料理をたくさん食べて、疲れを癒やすのです!
えっ。
本職は音楽……い、いえ、勇者です、はい!
でもお料理も得意ですので!
そしてやっぱりナイアルテさんと言えば、やっぱりチョコですよね。
ここはステラさんとわたしで、美味しいチョコづくしを作っちゃいましょう♪
どんなメニューがいいでしょうか……。
ショコラブレッドにホワイトチョコ風味のコーンポタージュ。
サラダはチョコとナッツのバルサミコサラダでいきましょう。
そしてメインは、ビターチョコソースのローストビーフです!
そしてここからがメインのデザートですね。
マロンとチョコレートのパフェに生チョコ、それにスイートチョコポテト♪
ナイアルテさん、たーくさん食べてくださいね!
今日だけはいろんなこと忘れて、スイーツに思いっきり癒やされましょう!
なんでしたらBGMもおつけしちゃ痛ぁ!?
●お疲れ様会
日々の営みは続く。
どんなに立ち止まっているように思えても、進んでいく。否応なくに。
そういうものだと割り切れたのならば、どんなに良いことだろうか。
「ナイアルテさん、おつかれですか……?」
ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)はグリモア猟兵であるナイアルテを前にして心配そうな顔をしていた。
いつもであれば、『ご心配には及びません。お心遣いありがとうございます』と彼女は返事をしただろう。
「ナイアルテ様、随分とお疲れのようで」
ルクスの言葉にステラ・タタリクス(紫苑・f33899)も同意するように頷く。
グリモアによる多くの世界の事件、つまり予知。
そして、猟兵達に新たに宿った『エンドブレイカー』としての力。
多くのことに対処しなければならないのは言うまでもない。けれど、ナイアルテは、自らの忙しさを理由にはしないだろう。
いつだってそうだが、最も大変なのは彼女ではなく事件に赴いてくれるグリモアベースに集った猟兵達なのだ。
故に彼女は頭を振って『皆さんの疲れに比べれば、へっちゃらです』と微笑んだことだろう。
だが、である。
そう、今彼女は言葉を発していない。
「いえ、おつかれですよね! おつかれなんです! つかれているんです!」
ルクスの催眠術が炸裂する。
効果は、ばつのぐんである。びっくりするくらいあっさりナイアルテが催眠術に掛かってしまったのは、ちょっとちょれーなってなるかもしれないが、それだけ日頃のルクスやステラの戦いぶりを知っているからである。信頼しているのである。
「ふぅ、というわけで今日は『ナイアルテさんお疲れ様会』をしましょう!」
ルクスの言葉にステラも同意する。
おめめぐるぐるしているルクスはさておき、ステラは関心していた。
「ルクス様のアイデアは最高かと存じます。ナイアルテ様はこうしないと休みを取られないでしょうから」
「でも、日頃の『イェッター』(※SNSの一種)を見ていると結構のんびりしているみたいですけどね」
ルクスの言う通りである。
お菓子食べたり。お菓子食べたり。コーヒー飲んだり。お茶したり、駄菓子食べたり。
いや、そんなんばっかりだな!
もっとこう、ないのか! となる、ぐうたらぶりである。フラフラしまくっているのは気晴らしの散歩みたいなものなのだろうが、ちょっと気が抜けすぎているような気がしないでもない。
「見事に駄菓子、お菓子、チョコレート、クッキー、グミ、飴ばかりですね……」
「ナイアルテさんの舌って子供舌なんでしょうか」
ステラとルクスは彼女の好みを把握しようとしていたのだが、なんていうか、こういうのを見ると彼女が以下に生活能力があるように見えてない人間なのかを知ることができる。
いや、厳密には人間じゃなくてフラスコチャイルドであるが。
それにしたってさぁってなる。
「癒やす、となれば音楽とかお料理なんですけど……」
「おやめなさい。ルクス様。お料理はわかりますが、音楽は」
ガシッ、とルクスの肩を掴んでステラは真顔になる。
そう、彼女の演奏は酷いもんである。あ、酷いもんって言ってしまった。あ、うそうそ、破壊音波魔法ですよね、わかってますってば。
「いいですか、貴方様の本職は勇者であって、料理人でありませんし、何より音楽家でもありませんよね? いいですか? 演奏はおやめになってください。アイデアが最高でも、時にはすっ転ん大惨事になることもあるのです」
ステラは必至であった。
良薬に用いられる材料も用法を間違えば、毒になるように。
ルクスという勇者の逸材も、道を間違えれば最悪なことになるのだ。メイドたるステラの双肩に勇者ルクスの味蕾は掛かっているのだ。がんばれ!
「わ、わかってますよぅ。本職は音楽……」
「光の勇者」
「……い、いえ、勇者です、はい! 住所不特定ですけど勇者ってそういうものですもんね! でもお料理も得意ですので!」
「まあ、ルクス様が料理上手なのは認めますが……」
「まあ、見ていてくださいよ! 私が本物の料理人としてのあれそれを教示してあげますよ」
ふふん、とルクスはステラが認めるところの料理の腕を振るうように腕まくりする。
とは言え、ナイアルテの慰労である。
彼女が好きなものを、と思えばやはりルクスの印象はチョコレートであった。
「いえ、別に肌の色がとかそういうあれじゃないですけどね! ステラさん、ここは美味しいチョコづくしを作っちゃいましょう♪」
「ええ、私はルクス様のサポートに」
二人は早速チョコレートを使ったスウィーツフェスティバルの準備に取り掛かる。
「ショコラブレッドにホワイトチョコ風味のコーンポタージュ、サラダはチョコとナッツのバルサミコサラダでいきましょう」
「前菜は決まりましたが、メインはいかがいたしますか」
「ビターチョコソースのローストビーフです!」
どう聞いてもチョコだらけである。
まあ、カカオを使ったモレソースというものもあるぐらいである。酷いことにはならないだろうが、加減した方がよいのではないかと思わないでもない。
しかし、コンセプトって大切である。
コンカフェ……コンセプトカフェが大流行している昨今を顧みても、それは自明の理である。故にルクスは本能的に、直感的に、それを悟ってチョコレートまみれにするつもりなのである。
もしも、此処に催眠術に掛かってないナイアルテがいたのならば、『同じチョコレートまみれなら、ビスケットやパイにチョコを染み込ませた、チョコレートまみれさんがいいです!』とかなんとか良い始めそうであったが、催眠術に掛かっているので、何も言えないのである。
催眠術、便利だけど難しいね。
「デザートはマロンとチョコレートのパフェに生チョコ、それにスイートチョコポテト♪」
「見事にチョコレートコンセプトを遵守されておりますね」
良心であるステラが一切止めないので、ルクスのチョコレートフェスティバルは止まらないし、敢行されてしまう。
部屋中に満たされる甘やかな香り。
甘いものが苦手な者であれば、眉根をしかめるほどにチョコレートの香りが充満しているのだ。
「……う、ううん……? んっ!?」
その香りに意識が刺激されたのか、ナイアルテが目を覚ます。催眠状態から解かれたのだろう。
「えっ!? ええ!? なんで、私縛られているんですか!?」
ガタガタと彼女は自分がなんか椅子に縛られていることに驚愕する。
これはあれだろうか、今流行りのデスゲーム的なあれなのだろうか。いや、彼女の中の流行りがちょっとズレている気がしないでもないが。
しかしまあ、彼女の戸惑いもわからんでもない。
目が覚めたらいきなりチョコレートの香り充満する部屋の椅子に拘束されているのである。これで泰然自若としていたのならば、肝が据わりすぎである。どんな心臓してんだって話である。
「お目覚めになられましたか、ナイアルテ様」
「す、ステラさん!? こ、これは一体全体どういうことなのですか? あの、私、何を……」
「ナイアルテさん、今日はナイアルテさんのお疲れ様会なんです。日頃の感謝も込めて、わたしたちがご用意させて頂きました♪」
動揺する彼女をよそにルクスたちは満面の笑顔で彼女の目の前に用意されたテーブルの上のチョコレートまみれのフルコースを示す。
この部屋に充満する香りの正体はこれか! とナイアルテは一瞬あっけにとられる。けれど、二人の心遣いが胸に染みる思いである。
「たーくさん食べてくださいね!」
「あ、ありがとうございます……!」
なんていう日だろうか。ナイアルテは感激した。
ガタッ、と椅子がなる。
あ、そうだ。自分は今拘束されているのであった。なんにせよ、食べられるのならば、と思っていたらルクスが側に寄ってくる。
「あの……これ、外していただけるんですよね? 食べて良いんですよね?」
「はい、ですが、本日はナイアルテ様のお疲れ様会。箸の一本とてお持ちさせるわけにはまいりません。故に。不肖、メイドである私が手ずから」
はい、あーん。
「え、えー!? じ、自分で、自分で食べれますから!」
恥ずかしい。
いや、この歳になって、あーんは恥ずかしい。顔を真赤にするナイアルテにルクスは『イェッター』を見せる。
「自分は、はいあーんってしてあげてますよね?」
んね?
にっこりルクスの顔にナイアルテは、あー!! と変な声を上げる。
みんなもSNSに迂闊な発信はしないようにしようね!
「ところでナイアルテ様? フォアグラの作り方、ご存知ですか?」
「なんで今そういうことおっしゃるんです!?」
「いえ、あの料理人……ごほん、ルクス様は止まりませんのでご注意くださいね」
それはまな板の鯉ならぬ、レーンの上のガチョウやアヒルめいた現実。
「今日だけはいろんなことを忘れて、スイーツに思いっきり癒やされましょう!」
にっこーとルクスの笑顔が眩しい。
あ、光の勇者ってそういう? それくらいにまばゆい。純粋ひゃくぱーの善意。その輝くに、うっ、てなるナイアルテ。
「あ、なんならBGMもおつけしちゃいますよ!」
此処ぞとばかりにルクスはヴァイオリンを手に取る。
瞬間、ステラのハリセンが彼女の後頭部を打ち据える。
「痛ぁ!? スリッパじゃない!?」
「銃撃じゃないだけありがたがってくださって良いですよ。慰労会で死人を出そうとしない!」
もう一発おまけにハリセンの一撃がルクスの天頂部を打ち据える。
見事なコンボであった。
二人のコントを見ながら、ナイアルテは、そっと拘束を引きちぎっていた。こう見えて彼女、武闘派である。
「ナイアルテ様?」
「ナイアルテさーん?」
がっしり掴まれる肩。
「こういう時だけ仲いいのずるいですよね!?」
そんな彼女の叫びが慰労会に響いた――。
成功
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