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第5ターン(大陸歴939年2月第4週)

#Reyernland über Alles!

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 大陸歴939年2月23日12:00。
 ノイエス・ビューレン州ヴェーヴェルスブルク市/イルミン城・地下霊廟。

「……そちらは、お変わりありませんか、従兄弟殿?」

 厳粛な静寂に包まれた、地下の玄室。
 無数に居並ぶ燭台の列が、浄闇の中に重厚な漆黒の石棺の姿を浮かび上がらせています。その前に佇みつつ、軍服の青年……ライエルン連邦第2代総統ラインハルト・フォン・ヴェーヴェルスブルクは、おだやかな声音で故人に語り掛けました。
 黒大理石の棺は美しく磨き上げられており、ぬばたまの光を湛えた表面には、流麗な文字で主の名前が刻まれています。

『TRISTRANT von WEWELSBURG』

 首都ライエルンジーゲンから南西400キロ、なだらかな丘陵と美しい落葉樹の森が広がるのどかな田園地帯のはずれに、イルミン城は存在しています。ライエルンの城郭建築ではあまり例の無い、三角形の土台を有する城塞は、中世の初め頃、東方から侵入した蛮族に対抗するための砦として基礎が築かれ、その後、数世紀に渡り、増改築と破壊・修復が繰り返されてきました。新しく建てられた部分に組み入れられた旧城壁と、三角形の土地の各頂点に建つ3つの塔がこの城の特徴的な外観です。

 大陸歴920年、侵入したゴール・サクソニア連合軍に対し、当時、神聖ライエルン帝国の皇太子の地位にあったトリスタン・フォン・ライエルンは、この地に於いて決戦を挑み、歴史的な大勝利を収めて、祖国の危機を克服しました。後年、クーデターによって父である皇帝オイゲン2世を廃位し、帝政廃止・共和政体移行を宣言、新国家ライエルン連邦の初代総統となった彼は、この地の地名にあやかり、家名を”ヴェーヴェルスブルク”と改めると共に、イルミン城を買い取り、休暇を過ごすための別邸とします。
 トリスタンの死後、後継者となったラインハルトは、初代総統の棺を首都から故人の愛したこの地に改葬すると、城をライエルンの”聖地”として親衛隊に厳しく警護させると共に、自身も、多忙な公務の間を縫って、定期的に前任者の墓所に詣で続けているのでした。

「ラインハルト」

 亡き従兄弟の墓前に頭を垂れていた総統の背後から、年齢不詳の女の声がかけられました。
 ライエルン民族の国家元首かつライエルン民族の最高指導者たる人物を、背後から、しかも、敬称も何も付けずに名前を呼び捨てにする、という不埒千万な闖入者……。しかしながら、離れた位置で総統の身辺警護にあたっていた親衛隊員達は、一言も声を発する事無く、直立不動の姿勢を保ち続けています。

「おや、これは珍しい。お知らせ頂ければ、お迎えに参上いたしましたものを」

 背後を振り返るや否や、深々と頭を下げ、さながら、女主人の前で遜る小間使いのように、相手への敬意を示す、ラインハルト総統。その口上を無感動に聞き流しながら、年齢不詳の女……『啓明教会』イルミニーレン派総大主教エーファ・ヴァイスハウプトは、目の前に鎮座する漆黒の石棺に向かって、誰に聞かせるという訳でも無さげに、静かに言葉を発しました。

「トリスタン……愛しき我が同胞(はらから)よ」

 『啓明教会』は、中央大陸に於いて、教会の数と信者の数の双方に於いて他の追随を許さない大勢力を有する、事実上唯一の世界宗教であり、イルミニーレン派は、ライエルン国内に於いて最大の信徒数を誇る宗派です。その頂点に君臨する、総大主教ヴァイスハウプトは、旧神聖ライエルン帝国時代からライエルン社会に陰然たる影響力を有し、”女教皇”、”ライエルンの影の支配者”等々、敬意と畏れを込めた様々な異名を奉られている人物として知られています。

「我が腕より汝を奪いし者共に、今こそ永劫の罰を与えん。黒き太陽の御業に依りて……」

 言い終わるや否や、総大主教は(ラインハルトを顧みる事も無く)踵を返し、地下霊廟を後にしました。闇の中に消えていく彼女を無言のまま見送りながら、ラインハルト総統は(心の奥深くに刻み込んだ)怨念と復讐の想いを新たにします。

(……承りました、猊下。
 必ずや、黒き太陽の秘密を解き明かし、彼の者共を冥府へと叩き落として、亡き従兄弟殿への手向けといたしましょう……それまで、今暫くのご辛抱を)

●今回、結論を出す必要のある議題(第5ターン)
 A軍集団の作戦行動方針。

 ジーベルト参謀総長より、『A軍集団の作戦行動方針について意見のある者は早急に提出するように』という指示が発出されました。

 A軍集団は、”金の場合”に参加する西方総軍の3個軍集団中、質量ともに最強の軍集団であり、その作戦行動方針は、事実上、”金の場合”の基本戦略とイコールであると云っても過言ではないでしょう。
 当然、プランAを支持する参謀達もプランBを支持する参謀達も、あらゆる手段を用いて自らが支持する作戦案が正式採用となるように注力するものと予想されます。現時点では、前回の定例会議に於いて、親衛隊装甲軍の作戦行動方針についてはプランAに沿った内容とする事が仮決定された流れを受けて、プランAが一歩リードしていると考える者が多い状況ですが、勿論、最終的な結論がどのようなものとなるのか?予断は許されないでしょう。
 参謀総長は、前回と同様、意見が纏まらない場合は、職権で決定を下す事も辞さない方針のようです。

●懸案事項の一覧(第5ターン)
 (1)全体会議の前に、NPCに面会し、質問したり、交渉を持ち掛けたりする事が出来ます。
 対象のNPCは、クロースナー上級少将、フリンゲル少将、ヴェーゼラー少将、グロースファウストSD上級少将の4人です。
 なお、4人は多忙であり、複数人に面会を求めた場合、希望通りに面会出来ない可能性があります(いずれか1人に面会を求める場合は必ず面会出来ます)。

 (2)全体会議の前に、ジーベルト参謀総長に面会し、質問したり、交渉を持ち掛けたりする事が出来ます。
 ただし、質問や交渉の内容は、ラインハルト総統の真意(総統が”金の場合”に何を求めているのか?)に関するものに限られます。それ以外の話題を振られた場合、参謀総長は回答しようとはしません。
 この懸案事項の解決にあたる場合、ラインハルト総統が”金の場合”に何を求めているのか?具体的に推理した上で、プレイングに記述して下さい。

 (3)既に仮決定が為されている、B軍集団/C軍集団/親衛隊装甲軍の作戦行動方針に対して、改めて意見を述べ、修正を求める事が可能です。仮決定済みの作戦行動方針の内容については、ゲームサイトをご覧ください。
 なお、今回、修正を求める意見が全く無かった場合、又は、参謀達による合議の結果、修正を求める意見が全て否決された場合、当該軍集団(又は親衛隊装甲軍)の作戦行動方針は、仮決定済みの方針が正式な方針として採用される事になります。

 (4)総統府より、前回に引き続き、ラインハルト総統の『”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を期待している』という内々の意向が伝達されています。
 今回も正式な総統命令ではなく、あくまで個人的な要望というレベルに留まっており、かつ、要求のトーンは、これまでで最も弱いものとなっています。


安藤竜水
 PBWアライアンス【Reyernland über Alles! シナリオ#1”金の場合”】へようこそ!

 本ゲームは、異世界<レーベンスボルン>に存在する軍事国家ライエルン連邦とその西隣に位置するゴール共和国との戦争を題材とする仮想戦記風PBWです。
 皆さんには、ライエルン連邦国防軍最高司令部に所属する陸軍参謀本部の参謀将校となり、数か月後に実施される予定の共和国侵攻作戦"金の場合"の作戦計画の立案にあたって頂きます。

 ゲームの開催期間は約1年間、ターン数は5回です(なお、ゲーム内では1ターンは約1週間に相当します)。
 ゲーム期間終了後、制作された全リプライを元に最終的な判定結果を導き出した上で、断章として執筆・公開を予定しています。

 本ゲームへの参加にあたっての注意点です。
 皆さんの立ち位置は、陸軍参謀本部の作戦課に所属する佐官クラスの参謀将校であり、前線司令部で部隊を直接指揮したり、自ら最前線に立って敵と戦ったりする立場ではありません。
 従って、リプライの中で、戦闘や戦場の場面が描かれる事は基本的には無いものとお考え下さい(そもそも、このゲームの対象期間は、最後に制作する予定の断章を除き、ライエルンとゴールとの戦争が始まる数か月前の時期となっています)。

 皆さんに行って頂きたいのは、

 (1)公開済みのリプライやゲームサイトに掲載されている情報(各ターンの初期情報、戦略マップ、戦力表、各種図表類、ルール、世界設定等)を活用して、オリジナルの作戦案を立案する。
 (2)ゲームサイトに掲載されている、NPCが立案した二つの作戦案のどちらかを支持し、正式な作戦計画として採用されるように努力する。
 (3)各ターンのシナリオ・オープニングに掲載されている懸案事項に関して、意見を述べ、解決に向けて努力する。

 のいすれか、です。
 ただし、(3)だけを選択する事は出来ません((3)を選択したい方は、必ず(1)又は(2)と一緒に行って下さい)。
 また、(3)については、懸案事項を解決出来なかったとしても、ただちにゲーム上の不利益が発生する訳ではありませんが、懸案事項の解決に貢献したと認められた方は、上官や関係者から好感を獲得出来るだけでなく、状況によっては、本国からの増援部隊の来援等、ゲーム上の利益となる事象が発生する可能性もありますので、挑戦してみる価値は十分にあるでしょう。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

イラスト:みやの

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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘルムート・ロートシュタット
私は、修正されたA案を支持する。
その理由は、まず、従来からの二点、「A案の方がスピード重視で速戦即決」と「A案の方が兵力分散防止に適う」だ。
また、修正案で「敵主力を捕捉できなくなる可能性がかなり低くなったから」という事も理由に追加する。
対して、修正したB案もそれに劣らぬ良案だ。
多分、作戦案としては修正したA案と互角だろう。
しかし、修正したA案の方が、総統の御意向である「親衛隊装甲軍に重要な役割を担わせたい」には適うと考える。
なぜなら、修正したB案は親衛隊装甲軍をB軍集団の分遣隊に後続させるのに対し、修正したA案は親衛隊装甲軍にノール包囲を任せており、より重要な役割を担わせていると言えるからだ。



大陸歴939年2月24日15:45。
陸軍参謀本部・作戦課第1会議室。

「……私は、修正されたプランAを支持する。
その理由は二点、『プランAの方が、よりスピードを重視し速戦即決を指向する作戦であり』『兵力の分散投入が抑えられているから』だ。これまでにもこの場で何度か申し上げてきた事だが、"兵は拙速を貴ぶ"、そして、”兵力は集中して投入すべし”は、古今東西を問わず、兵法の常道である」

参謀達の前で熱弁をふるう、ヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐。
今回の全体会議の議題は、西方総軍隷下の3個軍集団中、最大にして最強の戦力を有する、A軍集団の作戦行動方針……その議論は、事実上、”金の場合”全体の基本戦略を決定するものと云っても過言ではなく、会議に参加している参謀達の言葉が普段以上に熱を帯び、力のこもったものとなっているのも当然の事だろう。

「それらに加え、新たにもう一つの理由を付け加えねばならないだろう。すなわち、修正案により、『敵主力を捕捉できなくなる可能性がかなり低くなったから』というものである。
修正前のプランAには、連合軍をヴァノアールに追い詰めたとしても、海路から脱出を許してしまう可能性があるという欠点が存在したが、この欠点は、ヴァノアールへの包囲と並行して、親衛隊装甲軍を中心とする部隊によるノール攻撃を実施する事で十分にカバーする事が出来る筈である」

分けても、ヘルムートの力強い舌鋒は並々ならぬ気迫を帯びている。決して修辞学的なレトリックを多用しているという訳ではなく、語彙についても必ずしも豊富とは言えない、彼の弁舌だが、天性のカリスマ性とでも形容するべきだろうか?その言葉を耳にしたプランAの支持者達の心理は大いに鼓舞され、同時に、未だプランAとプランBのどちらを支持すべきか?迷い続けている者達の心は、不可思議な魅力に鷲掴みにされて、プランA支持へとグッと引き寄せられていくのが常だった。その演説効果は、敵対関係にある筈のプランBを支持する参謀達にまで影響を及ぼしている。

「対して、修正後のプランBも、全体として見れば、修正後のプランAに決して劣らぬ良案だと云えるだろう。おそらく、実行に移されたならば、北部戦域の連合軍主力を撃破し、共和国首都アストリアス攻略への道を切り開く、という戦略目標を達成する事自体は可能であると判断する」
「おおっ……!!」

ヘルムートの口から発せられた、プランBへの賛辞に、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐やヴィルヘルミナ・グレーナー歩兵上級少佐をはじめとする、同案の支持者達の間から、どよめきが湧き起こった。
無論、彼らとて、この後に続くのが、良案であるプランBに対して、プランAの何処がどのように優れているのか?という比較衡量の主張である事は百も承知なのだが、それでも、ヘルムートが、プランBに一定の評価を与え、『良案である』とまで言い切った事については、純粋に嬉しく、誇らしいものに感じられていた。

「……しかしながら、私は、修正後のプランAの方が、総統閣下の「親衛隊装甲軍に重要な役割を担わせたい」という御意向には適うと考える。ただし、この”重要な役割”というのは、単純に”華々しい戦果が期待できる戦場への投入”という意味であるとは思わない。これはあくまで私の想像だが、総統閣下は、”金の場合”に於いて、親衛隊装甲軍に多くの実戦経験を積ませる事により、彼らを鍛え上げ、戦力の底上げを図る事をお望みなのではないだろうか?」

ヘルムートが指摘したのは、親衛隊装甲軍の能力不足……特に、兵士達の多くが実戦を経験した事が無い新兵同然の若者達で占められている、という問題に対し、ラインハルト総統がかなり真剣に懸念を抱いており、激戦が予想される北部戦域の戦場に投入するという”荒療治”によってその解決を図ろうとしているのではないか?という点だった。
確かに、親衛隊装甲軍を含む親衛隊所属の各戦闘部隊は、一般的な傾向として、装備や士気の点では国防軍部隊に比較しても遜色のない水準にあると云えるものの、多くの部隊がここ数年に編成されたものである事に起因する、経験の浅い兵士の多さや中下級指揮官達の指揮能力不足、部隊同士の連携に不安がある等々、明らかに見劣りする点も多い。実際、主にプランBを支持する参謀達の間では、『連合軍の撤退路であるノール方面に向かわせる部隊には、プランAの推す親衛隊装甲軍ではなく、プランBの推すA軍集団こそがふさわしいのではないか?』という意見が囁かれているとの話はヘルムートも耳にしていた(もっとも、今回の全体会議に於いては、幾つかの事情から、その種の意見を表明するプランBの支持者は全くと云って良い程現れなかったのだが……)。

「この私自身を含め、この場にいる多くの者は、長い間、総統閣下の御言葉の意味を誤解し続けてきたのではないだろうか?
私のこの考えが正鵠を射ているとすれば、総統閣下は、別段、親衛隊装甲軍を特別扱いし、ライエルン国民から英雄視される存在へと祭り上げる事を望んでいらっしゃるのではなく、むしろ、親衛隊の若い兵士達に厳しい試練を与え、戦場で鍛え上げる事によって、一人前の兵士へと成長させる事を期待しているのではないだろうか?
そして、私は、総統閣下の御真意がそのようなものであるならば、親衛隊装甲軍を向かわせるべき戦場は、ヴァノアールとノールの中間地点にあたる(プランBの)メディスではなく、ヴァノアールからの退路を死守すべく、連合軍守備隊の必死の抵抗が予想される(プランAの)ノールであるべきだ、と確信するものである……」

実際の所、ヘルムートの見解は、ラインハルト総統が”金の場合”に対して求めていたものを、(一部分に関してのみとはいえ)極めて正確に言い当てていた。すなわち、ヘルムートが睨んだ通り、総統は、”金の場合”の成功、そして、”金の場合”の後に予定されている第二段階作戦”銅の場合”による共和国首都への進撃・制圧が実行に移され、共和国軍の軍事的脅威を排除せしめた後に、発動されるであろう、新たなる軍事攻勢に備えて、親衛隊装甲軍の質的向上を(内心)強く望んでいたのである。
と同時に、彼の意見表明は、プランAの支持者達は勿論、未だプランAとプランBのどちらを支持すべきか?迷い続けていた参謀達……その中の少なくない人数は、親衛隊装甲軍の”華々しい戦果が期待できる戦場”である北部戦域への投入に対し、この期に及んでも未だ感情的なわだかまりを抱き続けている頑迷な者達によって占められていた……の心理にも少なからぬ影響を及ぼし、彼らのプランAを支持する事への抵抗感を取り除くにあたって大きな役割を果たす事になった。
また、ヘルムートは、プランBの支持者達からの、B軍集団と離れてA軍集団だけが突出すると、敵軍に各個撃破されてしまう恐れがあるという批判を、理に叶った指摘であると認め、A軍集団とB軍集団との連携を密にするよう、プランAに更なる微調整を加えるべきである、との主張も行っていた。すなわち、プランBを支持する参謀達に対しても、プランAが修正を重ねてより洗練されたものとなったのは、プランBを支持する側からのプランBへの批判があればこそであり、その事を考えれば、プランAが今日の完成形に達する事が出来たのはプランBの支持者のお蔭であると云って良いだろう、とその健闘を大いに称え、これまでの議論は非常に有意義なものであったと肯定的な評価を行う事で、(立場を越えた)大きな共感を呼ぶ事に成功していたのである。

それらの意見表明の結果、全体会議に於いては、ヘルムート達プランAの支持者達は、プランBを推す参謀達に対して、時折り、激しい意見の応酬はあったものの、全般的には終始優勢を保ちつつ議論を展開し、A軍集団の作戦行動方針については、親衛隊装甲軍のそれと同様、プランAを叩き台とし、プランBを推す参謀達の意見も反映して、クリスベルンの包囲と親衛隊装甲軍の背後の守りを担当する、西方総軍直轄部隊の更なる増強等、いくつかの修正を加えた基本方針が採択されるに至ったのだった。

……そして、大陸歴939年2月27日。
陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は、作戦名”金の場合”に於ける基本戦略をプランAに基づいて策定する事を正式に決定し、後日、参謀本部案としてラインハルト総統に上申する旨、陸軍部内及び関係各所に内示した。

陸軍参謀本部を舞台に、空軍や親衛隊、総統府まで巻き込み、数か月間の長きにわたって繰り返された議論はここに幕を閉じたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルミーナ・モルトケ
(2)全体会議では、A軍集団の作戦行動方針に関して、プランAの採用を訴える。
前回の全体会議の結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針がプランAに準拠して策定された流れを受け、
A軍集団の作戦行動もプランAに沿って決定されるべきであり、仮にプランBに沿った内容となるならば、A軍集団と親衛隊装甲軍の作戦行動方針の間に齟齬が生じ、整合性が取れなくなる恐れがある、と主張。

これに関連して、懸案事項の(3)について、他の参謀から、仮決定された親衛隊装甲軍の作戦行動方針に関して、大幅な変更を求める意見が提示された場合には、
反対意見を述べ、変更の阻止を試みる(反対意見の詳細な内容は、補足プレイングに記述)。



大陸歴939年2月24日13:45。
陸軍参謀本部・作戦課第1会議室。

「……ご列席の皆様も御承知の通り、前回の全体会議の結果を受け、参謀総長閣下より、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、プランAに準拠して策定するとの決定が為されております。小官の意見は、A軍集団の作戦行動方針も、同様にプランAに準拠する形で策定されるべきである、というものです」

全体会議の席上、参謀達の前で熱弁をふるったのは、ヘルミーナ・モルトケ装甲兵中佐。
西方総軍隷下の3個軍集団の中で、最大にして最強の戦力を有する、A軍集団の作戦行動方針は、事実上、”金の場合”全体の基本戦略に相当すると云っても過言ではない。ヘルミーナの、否、会議に参加する全ての参謀達の言葉が普段以上に熱を帯び、力のこもったものとなるのも当然の事だろう。

「もし仮に、A軍集団の作戦行動方針がプランBに沿った内容となるのであれば、A軍集団と親衛隊装甲軍の作戦行動方針の間に齟齬を生じ、整合性が取れなくなる恐れがあると小考いたします。
これを収拾し、A軍集団と親衛隊装甲軍の双方にとって矛盾する点の無い内容とするためには、追加の議論が必要となり、更に多くの時間と労力をこれに割かねばならなくなるでしょう。ここに至るまでに、我々は既に数か月の時間を費やして討議を重ねており、これ以上時間をかければ、”金の場合”の作戦開始時期そのものを延期しなければならなくなる可能性さえする生じかねない事態となりかねません。
皆様に於かれましては、これ以上の時間の浪費を回避するためにも、賢明なる御判断をお願い申し上げます……」

ヘルミーナが展開したこの主張に対しては、『参謀総長閣下の示達には、”親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、あくまで仮決定であり、今回の全体会議の結果によっては見直しもあり得る”と明記されているではないか?』という声が、一部の参謀から上がったものの、全体としては、『その通りである』『これ以上、議論に時間を費やしていては、参謀本部の作戦立案能力を疑われかねない』と、肯定的にとらえるか、若しくは、やむを得ない、と甘受する向きが多かった。本音の部分では、多くの参謀達は長引く議論に疲れ切っており、『いい加減、議論に決着を付けて、次のステップに進んで欲しい』と願っていたのである。
それを見越した、ヘルミーナの策は見事に功を奏し、特に、未だプランAとプランBのどちらを支持するか?決めかねていた参謀達の心理に対して、少なからぬ影響を及ぼす事に繋がったのだった。

なお、ヘルミーナは、プランBを支持する参謀達が、親衛隊装甲軍の能力不足を理由に掲げて、仮決定された同装甲軍の作戦行動方針の大幅変更を求めてくる事を警戒し、反対意見を述べて変更の阻止を図るべく、想定問答まで準備して待ち構えていた。
親衛隊装甲軍を含む親衛隊所属の各戦闘部隊は、一般的な傾向として、装備や士気の点では国防軍部隊に比較しても遜色のない水準にあると云えるものの、多くの部隊がここ数年に編成されたものである事に起因する、経験の浅い兵士の多さや中下級指揮官達の指揮能力不足、部隊同士の連携に不安がある等々、明らかに見劣りする点も多い。この点を問題視して、『ノール方面に向かわせる部隊には、プランAの推す親衛隊装甲軍ではなく、プランBの推すA軍集団こそがふさわしい』と主張する者が必ずいる筈だ、というのが彼女の見立てだったのだが、予想に反して、プランBの支持者達の間からは、その点を衝いてくる質問や指摘は一向に現れなかった。

(う~ん、プランBを支持する参謀達は、一体どうしてしまったのでしょう?現状のプランAに弱点があるとすれば、ここ以外には無いと思われるのですが……。まさかとは思いますが、『もはや勝負はついた、何をどう主張しようと形勢逆転は不可能だ』と、投了の意思を固めている、という事なのでしょうか……?)

内心、首をかしげる事しきりのヘルミーナ。全体会議の後で耳にした話によると、会議の席上、(彼女が想定し、完璧に対策を練り上げていた)その種の意見陳述を実施しようと考えていたプランBの支持者は実際に幾人かいたようであるが、いずれも、事前に、フリンゲル少将とエリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐によって、『そのような発言は行わないように』と固く制止されていたらしい。

つまるところ、彼女の用心は取り越し苦労に終わってしまった訳であるが、その結果として、全体会議に於いては、ヘルミーナ達プランAの支持者達は、プランBを推す参謀達に対して、時折り、激しい意見の応酬はあったものの、全般的には終始優勢を保ちつつ議論を展開し、A軍集団の作戦行動方針については、親衛隊装甲軍のそれと同様、プランAを叩き台とし、プランBを推す参謀達の意見も反映して、クリスベルンの包囲と親衛隊装甲軍の背後の守りを担当する、西方総軍直轄部隊の更なる増強等、修正を加えた基本方針が採択されるに至ったのだった。

……そして、大陸歴939年2月27日。
陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は、作戦名”金の場合”に於ける基本戦略をプランAに基づいて策定する事を正式に決定し、後日、参謀本部案としてラインハルト総統に上申する旨、陸軍部内及び関係各所に内示した。

陸軍参謀本部を舞台に、空軍や親衛隊、総統府まで巻き込み、数か月間の長きにわたって繰り返された議論はここに幕を閉じたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウラ・ヒンデンブルク
(2)全体会議の場で、プランAへの支持を表明。
A軍集団の作戦行動方針については、親衛隊装甲軍と同様に、プランAの方針に沿う形とするのが望ましい、と主張するが、更なる修正が必要だという意見に対しては真摯に耳を傾け、必要なら妥協を試みる。

全体会議に先立ち、ヴェーゼラー少将に面会を求めた上で、
『少将は、総統閣下が共和国領南部での大きな戦闘の発生を極力避けようとしている事に、最初から気付いていたのではありませんか?』と質問(詳細は補足プレイングに記述)、
ラインハルト総統の真意に関する自分の推理が正しいかどうか?確認。
その上で、少将に対し、改めて、『プランAを支持して欲しい』と最後の説得を試みる。



大陸歴939年2月21日17:10。
陸軍参謀本部・作戦課第3小会議室。

「やれやれ、また説得工作かい?君も、存外諦めが悪いね、ヒンデンブルク少佐」

パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐との面談の場に姿を現すなり、ハインツ・ヴェーゼラー少将は、芝居がかった仕草で盛大なため息を漏らしてみせた。
勿論、本気でうんざりしている訳では無いだろうが(もしそうならば、面談の求め自体に応じなかった筈である)、何十分の一か?は本心が混じっているのかもしれない、と心の中で独りごちたパウラは、いずれにせよ、したたかな少将のペースに引き込まれないよう、用心しなければ……、と改めて気を引き締めながら、交渉に臨む。

「今日は、主任参謀殿に、質問したい事があって参りました。宜しければ、お考えをお聞かせ願いたいのですが」
「フム、まぁ、私個人の意見で良ければ、幾らでもお答えするよ。それが、客観的事実に基づいた見解か?はたまた、私の主観に基づく判断か?は、保証できないけれどね」
「では、御言葉に甘えて……ヴェーゼラー少将、貴方は、総統閣下が共和国領南部での大きな戦闘の発生を極力避けようとしている事に、最初から気付いていたのではありませんか?」

単刀直入な問いかけに、思わず、両瞼をしばたかせるヴェーゼラー。

「おやおや、何かと思えば、凄い質問が来たもんだな!……一体全体、どうして、君はそんな風に思うんだい?」

対するパウラは、薄く微笑みながら、言葉を紡ぎ出す。

「理由は、これまでの少将殿の説明に、いささか腑に落ちない点があるためです。
貴方は、以前、私に、『自分の行動は、C軍集団司令部の幕僚達の求めに応じて、彼らに便宜を図るために行った事だ』と仰いましたが、それだけでは、今まで参謀本部に於いて貴方が取ってきた行動を説明するための動機として弱いのではないか?と思えてなりません。
……少将殿、貴方は、C軍集団司令部及びC軍集団のトップであるリッター上級大将の消極的な姿勢の背後に、総統閣下の思惑の存在を感じ取り、それ故に、敢えてC軍集団司令部の幕僚達の要求を丸呑みする事を選択したのではありませんか?」

「……」

「総統閣下の狙いは、共和国領の南部に存在する石油資源地帯を、軍事力ではなく謀略を用いて、可能な限り無傷で手に入れる事なのでしょう?そして、そのためには、親衛隊装甲軍を北部戦域に”転進”させる事で、南部戦域で大きな攻勢作戦を行えなくしなければならない。しかしながら、総統には、御自身のその意向を、参謀本部に対して、総統命令のような明瞭な形で示達する事は出来なかった。おそらく、国防軍内部に各国の諜報機関に通じる者が存在する可能性を考慮してのご判断なのでしょうが、いずれにせよ、総統閣下は、『”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を期待する』という”内々の意向”を示す事で、我々に”忖度”を求める方法しか取れなかった訳です。
……これら全ての事情を、少将殿は、かなり早い段階で推測出来ていた筈です。違いますか?」

「……いやはや、恐れ入った。まさに君の云う通りだよ!」

驚愕と感嘆とが綯い交ぜになった表情を浮かべながら、両腕を頭上に掲げ、”降参”のポーズをとる主任参謀。
ふうっ、と大きく息をついたパウラは、色の双眸で、ヴェーゼラーの瞳を覗き込んだ。

「……少将殿が、総統閣下の思惑にいち早く気付く事が出来たのは、参謀本部に配属される前に主計部門に長く勤務されていて、軍の兵站や国内経済に関する知識を豊富にお持ちだったから、ですね?」
「ああ、そうだ。君も知っての通り、わが国の経済界の最大の不安要因は石油の自給率が極端に低い事だからね。
経済を回すために必要不可欠な石油を得るために、長年、ライエルンは仮想敵国であるファントーシュに対して、心ならずも協調的な外交・安全保障政策をとらざるを得なかった。
勿論、共和国領の南部に存在する油田地帯が無傷で手に入ったとしても、石油の完全自給が可能となる訳ではないんだが……しかし、少なくとも、ファントーシュに経済の命綱を握られ続けている、現在の状況からは脱する事が出来る筈だ」
「もしかして、総統閣下は、共和国を屈服させた後、不可侵条約を破棄して、東方に軍を進めるおつもりなのでしょうか?」
「正直なところ、現時点では私にもそこまでは分からないよ。……けれども、参謀総長閣下は、その可能性はある、と予想していらっしゃるようだ。無論、二正面作戦となるのを避けるために、ファントーシュへの侵攻はサクソニアとの戦争状態を解消した上での話になるだろうけどね……」

ゴクリ、と息を呑み込む音……その主は、パウラなのか?ヴェーゼラーなのか?あるいは、その両者なのだろうか?しばらくの間、途轍もなく重い沈黙が会議室の中を支配する。

(なんという事でしょうか!?ファントーシュと戦争になるかもしれないだなんて、あまりにも恐ろしくて、思考を巡らせる事さえ躊躇してしまいそうです……。
ですが、私は参謀……否、それ以前に、ライエルン国家と国家元首たる総統に忠誠を誓った国防軍の軍人です。ここで怖気づく訳には参りません……軍人としての責務を全うするため、勇気を奮い起こして現実に立ち向かいましょうッ!!)

明らかとなった恐るべき未来予測に打ち震えながらも、懸命に自分を叱咤し、励まし続ける、パウラ。彼女の粘り強い交渉により、ヴェーゼラー少将はついに全体会議でのプランAへの支持を約束する事になる。
その結果、少将との面談の3日後に開催された全体会議に於いては、パウラ達プランAの支持者達は、プランBを推す参謀達に対して終始優勢を保ちつつ議論を展開し、A軍集団の作戦行動方針については、親衛隊装甲軍のそれと同様、プランAを叩き台とし、プランBを推す参謀達の意見も反映して、クリスベルンの包囲と親衛隊装甲軍の背後の守りを担当する、西方総軍直轄部隊の更なる増強等、修正を加えた基本方針が採択されるに至ったのだった。

……そして、大陸歴939年2月27日。
陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は、作戦名”金の場合”に於ける基本戦略をプランAに基づいて策定する事を正式に決定し、後日、参謀本部案としてラインハルト総統に上申する旨、陸軍部内及び関係各所に内示した。

陸軍参謀本部を舞台に、空軍や親衛隊、総統府まで巻き込み、数か月間の長きにわたって繰り返された議論はここに幕を閉じたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリーシャ・ファルケンハイン
(2)引き続き、"金の場合"の戦略方針に関して、全体会議の場で、プランBの採用が適当である旨、意見を述べる。
前回の全体会議の結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針がプランAを元にしたものとなってしまった事に関しては、
親衛隊装甲軍の将兵の能力には、特に練度の点で疑問がある事を理由に挙げて反対意見を述べ、ノール方面に向かわせるのは、A軍集団こそがふさわしい、と主張。
なお、全体会議の前に、グロースファウストSD上級少将に面談し、会議の場で親衛隊装甲軍の将兵の能力に疑義を呈する事を事前に説明し、陳謝を行っておく。

また、懸案事項の(3)に関して、前回、仮決定された親衛隊装甲軍の作戦行動方針の再検討を求める。



大陸歴939年2月19日16:20。
陸軍参謀本部・作戦課第4小会議室。

「……結論から先に言えば、答えは否(ナイン)だ。申し訳ないが、貴官の要望に応じる事は出来ない」

何時になく強い口調で言葉を切った、グロースファウストSD上級少将の、やや暗い色合いを帯びた蒼氷色の瞳が、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐を厳しく睨めつける。絶望感に打ちのめされ、その場に棹立ちとなる、上級中佐……このような返答が返ってくる可能性が高い事は重々承知の上で、それでもなお、『目の前の親衛隊連絡将校ならば、あるいは』と、一縷の望みを託しての請願だったものの、彼女の望みは言下の拒絶によって完全に断たれてしまった。

前回の全体会議の結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針がプランAを元にしたものとなってしまった事で、5日後に迫った次の全体会議に於ける、A軍集団の作戦行動方針を巡る議論に於いて、彼女の支持するプランBが採用される可能性は著しく低下してしまっていると云っても過言ではなかった。
プランAが、元の案では南部戦域で運用する事とされていた親衛隊装甲軍を北部戦域に投入する内容に改訂されたため、現状、プランAとプランBとの最大の差異は、ヴァノアールの連合軍部隊の退路を断つべく、ノールに進出する装甲部隊に、親衛隊装甲軍を充てるのか?(プランA)それともA軍集団主力を充てるのか?(プランB)という一点に絞られていると云って良いだろう。あくまでも仮決定であり、今回の全体会議の結論次第では全面的な変更もあり得ると付言されているとはいえ、この問題に関して、ノールへの進撃は親衛隊装甲軍を以て行うという決定が下された事実は、未だ態度を決めかねている参謀達の心理に、少なからぬ影響を及ぼすものと考えなければならなかった。
何とかして形勢逆転を図ろうと、エリーシャが考え付いたのが、親衛隊装甲軍の将兵の能力には、特に練度の点で疑問がある事を理由に挙げて、ノール方面に向かわせる部隊には(プランBが推す)A軍集団こそがふさわしい、と主張する事だった。
確かに親衛隊装甲軍を含む親衛隊所属の各戦闘部隊は、装備と士気の点では国防軍部隊に優るとも劣らないものの、志願して間もない新兵の多さや部隊として一体となって作戦行動に従事した経験に乏しい事、中下級指揮官達の指揮能力不足等、明らかに見劣りする点も多いとされている。エリーシャとしては、この点を衝く事でプランA優位の状況を少しでも崩そうとした訳であるが、それを実行する上で問題となるのが、親衛隊からの反発をいかに防ぐか?だった。いくら客観的な事実だと云っても、親衛隊装甲軍の将兵の能力には問題があるため、ノール攻撃作戦への投入は不適切である、と全体会議の場で主張すれば、会議に出席している親衛隊関係者から反感を買うのは避けられないだろう。それを防ぐために、彼女は、会議の前に親衛隊連絡将校のグロースファウストSD上級少将に面談し、あらかじめ了承を取り付けておこうと考えたのである。
親衛隊の将官の中では珍しく、警察・諜報部門の出身ではない、いわば生粋の軍人である彼ならば、親衛隊の体面よりも親衛隊の実情に重きを置いて判断してくれるかもしれない、という希望的観測に基づく行動であり、その判断自体は決して間違ってはいなかったのだが、彼女の失敗は、上級少将といえども、総統親衛隊の組織の一員であるという事実を軽視していた事に在った。親衛隊を代表して参謀本部での討議に参加している立場上、グロースファウストとしては、(たとえ彼個人としては完全に同意できる意見であったとしても)親衛隊を軽んずるような発言があれば、これを侮辱と看做して抗議しない訳にはいかないし、仮に、そのような発言があったにも関わらず、何ら反応を示さなかったならば、『親衛隊員としての自覚に欠ける』と親衛隊内部からの猛烈な批判の矢面に立たされる事は必至だろう。つまるところ、エリーシャの提案を受け容れる事は、彼自身が好むと好まざるとに関わらず、初めから不可能な相談だったのである。

「貴官の置かれている状況はよく分かるし、貴官のこの要望が、何としてでも、その窮地を打開し、プランBへの支持を回復しなければならぬ、という窮余の一策である事は理解している。
……だがな、ファルケンハイン歩兵上級中佐、私は親衛隊から連絡将校として参謀本部に派遣されている身なのだよ。申し訳ないが、その職責を果たすためには、このような提案を呑む訳にはいかないのだ」

そう云うなり、親衛隊連絡将校は椅子から立ち上がり、姿勢を正すと、目の前の女性参謀に向かって深々と頭を下げた。
一瞬、我が目を疑う、エリーシャ。
親衛隊の将官が、国防軍の佐官……自分よりも4つも階級が下の人間に向かって取るものでは決してあり得ない、謝罪の態度。異例中の異例と云う他ないその行為が、彼女に、グロースファウストの先程の言葉が、彼個人の意思に基づくものではなく、親衛隊の上層部によって強いられたものである事に思い至らせる。

(もしかして、親衛隊作戦本部はプランBへの支持を撤回する意向なのでしょうか?それに対して、上級少将は、これまで私達との間で積み重ねてきた友誼を重んじて、力の及ぶ範囲で抵抗して下さっているのでは……)

「……ど、どうか、頭をお上げ下さい、上級旅団指揮官殿。もう充分ですわ……ご厚意に感謝いたします」
「本当に済まない。今回の話は聞かなかった事にするから、早急に持ち帰って、何か別の方策を検討したまえ」

悄然と肩を落としたまま、小会議室を後にする、エリーシャ。全体会議の場で、親衛隊装甲軍の戦力不足を理由にプランAへの批判を展開するのは諦めざるを得ないだろう。無理に強行すれば、親衛隊と関係の深い参謀達から猛反発を浴びるだけでは済まず、最悪、彼らがプランB支持からプランA支持に鞍替えしてしまう事さえあり得るかもしれない。

(……グロースファウストSD上級少将を説得出来さえすれば、道は開けるかもしれない、と思っていたのですが、考えが浅かったようですわね。全体会議まであと5日……その間に、何としてでも、プランAの不備を突く事の出来る、新たな切り口を探し出さなければ、フリンゲル少将や今もなおプランBへの支持を貫き続けて下さっている同志達に顔向けできませんわ……)

失敗にめげる事無く、決意を新たにするエリーシャだったが、残念ながら、期日までに事態を打開できるような妙案を考え出す事は叶わなかった。
その結果、SD上級少将との面談の5日後に開催された全体会議に於いては、エリーシャやヴィルヘルミナ・グレーナー歩兵上級少佐を中心とするプランBの支持者達は(精一杯の善戦はしたものの)不利な状況を覆すには至らず、A軍集団の作戦行動方針については、親衛隊装甲軍のそれと同様、プランAを叩き台とし、プランBを推す参謀達の意見も反映して、クリスベルンの包囲と親衛隊装甲軍の背後の守りを担当する、西方総軍直轄部隊の更なる増強等、修正を加えた基本方針が採択されるに至ったのだった。

……そして、大陸歴939年2月27日。
陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は、作戦名”金の場合”に於ける基本戦略をプランAに基づいて策定する事を正式に決定し、後日、参謀本部案としてラインハルト総統に上申する旨、陸軍部内及び関係各所に内示した。

陸軍参謀本部を舞台に、空軍や親衛隊、総統府まで巻き込み、数か月間の長きにわたって繰り返された議論はここに幕を閉じたのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィルヘルミナ・グレーナー
(2)全体会議の場で、プランBへの支持を訴えます。
正直な所、現在の状況では、正攻法でプランBを採用に漕ぎつけさせるのはかなり困難だといわざるを得ませんが、今さらプランAの支持に回るわけにもいきません。
それに、総統閣下の思惑に関する私の考えが正しいものであれば、僅かにではありますがプランBにも逆転の可能性は残っている筈。
最後まで望みを捨てず、足掻き続けましょう。

懸案事項の(2)について、ジーベルト参謀総長に面会を求め、総統閣下の思惑に関する自分の推理を披露、正しいかどうか?感想を求めます。
もし自分の考えが正しければ、その場で取引を持ち掛けます(詳細については、補足プレイングをご覧ください)。



大陸歴939年2月22日19:30。
陸軍参謀本部・参謀総長執務室。

「成る程ね……君は、総統閣下の御真意をそのように推測しているという訳だ。実に興味深い」

重厚なマホガニー製の執務机に着座した、銀髪の将軍……ライエルン連邦陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は、デスクの上に置かれた数枚の書類から顔を上げると、参謀本部作戦課員ヴィルヘルミナ・グレーナー歩兵上級少佐の、やや冷たい印象を帯びる整った相貌に、視線を走らせた。
ライエルン陸軍の実質的なトップと一対一で向かい合っている状況に、いつもとは打って変わって余裕のない表情のヴィルヘルミナ。

「は、はい、総長閣下。可能でありましたら、感想をお聞かせ願えないでしょうか?」
「フム……そうだね。前半部分に関しては、概ね君の考えは間違ってはいないだろう」

穏やかな微笑みを湛えたまま、静かな口調で所感を述べ始める参謀総長。
身を乗り出したくなる衝動を必死に堪えながら、ヴィルヘルミナは耳を澄ませる。

「君の言う通り、総統閣下が”金の場合”に望んでおいでなのは、主要な戦闘が発生する戦場を、可能な限り、共和国領の北部に限定する事だと考えて間違いないだろう。裏を返せば、総統は、共和国領の南半分に関しては、極力大きな戦闘を起こさない事を望んでいらっしゃる……という事でもある。
その理由もまた、君が想像している通りのものだろうね」
「では、やはり、総統閣下の狙いは……共和国領南部に存在する油田地帯と石油関連産業を無傷で手に入れる事、なのですね!?」

自分の予測が的中していた嬉しさのあまり、思わず腰を浮かせ、身を乗り出しかける上級少佐。初老の将軍は僅かに苦笑を浮かべてみせる。

「そうだ。ラティニアのプラホヴァ油田やファントーシュのアブシェロン油田のような大規模な油床ではないが、共和国領の南部には大小十数か所の油田が点在し、原油の採掘と石油精製をはじめとする各種石油産業が盛んだ。その総生産量は……ヴェーゼラー少将から聞いた話では、ライエルンの年間石油需要の20パーセント前後に上るらしいね」
「わが国で1年間に消費される石油の約20パーセント……それを汲み出す事の出来る油田地帯を無傷で手に入れる事が出来れば……」
「そう。東方の仮想敵国からの原油輸入は必要無くなるだろう」

恐るべき未来予測をサラリと言ってのけた、ジーベルト。彼の言葉が意味するものに、ヴィルヘルミナは(自分自身でも、『あるいは、こういう事ではないか?』と推測していた中の一つであったにも関わらず)総身が粟立つ感覚を止める事ができない。

「共和国を屈服せしめた後、ファントーシュとの協調路線の見直し……あるいは、それ以上の断固たる行動に打って出る事も視野に入れていらっしゃる、と……」
「ああ、間違いないだろう……総統閣下は本気だよ。その証拠に、共和国領南部を戦場としない方針を、徹底して隠蔽しようとなされているだろう?全ては、ライエルン国内に潜むファントーシュの諜報要員や彼らに通じる協力者に御自分の真意を気取られるのを防ぐためだよ……」

嘆息とも讃嘆ともつかないため息を漏らすと、参謀総長は、再び手元の書類……ヴィルヘルミナが提出した”金の場合”に関する意見書へと視線を落とし、再度ページを捲る。昂奮の冷めやらぬ表情で、彼の一挙一投足を見つめ続ける、上級少佐。

「さて、後半部分に関してだが……単刀直入に云えば、些か考察が甘いのではないだろうか?という感想を禁じ得ないよ。
特に、『総統閣下は、来たるべきファントーシュ侵攻作戦に備え、”金の場合”の参加部隊が大きな損害を蒙る事を望んでいらっしゃらない筈である』という推論に関しては、再考が必要だと思うね。我らが総統は、共和国との戦争に勝利を収め、その軍事的脅威を取り除いた後、速やかに軍を返し、東方への進撃を命じるお考えではないか?と君は考えているようだが、はたしてそれはどうだろう?
私は、総統閣下は、共和国本土を軍事的に制圧し、共和国軍に当面の間……最低でも数年程度は立ち直れない程の大打撃を与えた上で、2年乃至3年程度の時間を置いた後に、新たな軍事攻撃に着手するおつもりなのでは?と推測しているんだがね」
「宜しければ、その理由をお聞かせ頂けませんか?」
「根拠は幾つかあるが……最大の理由は、サクソニアの存在だよ。
君も知っての通り、連合王国の海軍力は世界最強だ。加えて、空軍も侮れない実力を有しているし、陸軍は規模は決して大きくはないものの、質的には我が国防軍と互角と言って良い。更に、彼らは本国の後背に多くの海外植民地……資源と人材の供給地を有しているからね。多少の軍事的打撃を与えたとしても、すぐに立ち直りを許してしまうだろう。
その連合王国を放置したまま、ファントーシュとの戦争を開始するのは自殺行為以外の何物でもないが、かと云って、現在のライエルン海空軍の能力では、サクソニア近海を海上封鎖し、植民地との間の通商航路を機能停止に追い込むのは至難の業……ましてや、本土への上陸作戦など、夢物語だ。……となれば、彼らを戦争から離脱させるには、相応の時間をかけ、無制限潜水艦作戦と戦略爆撃によって経済的損失を与え続ける事で、国内世論が出血に耐えかねて和平交渉を求める方向に傾くのを待つしかないだろう?」

理路整然たる参謀総長の説明に、(不本意ながらも)首肯せざるを得ない、ヴィルヘルミナ。
彼女としては、ラインハルト総統は、来年(大陸歴940年)の夏にも予想されるファントーシュとの開戦に備えて、西部戦線に一定の防衛兵力を置きつつ、東部戦線に主力軍を配する筈だ、と考えた上で、そのためには共和国との戦いで自軍に大きな損害が出る事を望んでいらっしゃらないと判断していた。その見地に立った上で、連合軍側の必死の抵抗が予想されるノール方面の戦場には、経験の浅い親衛隊装甲軍ではなく、第1装甲軍を中心とするA軍集団主力を投入するべきだ(そうする事が総統閣下の密かなる御期待であるに違いない)、と考えていたのだが、ジーベルトの長期予測が正しければ、筋金入りの現実主義者である総統が二正面作戦の愚を犯すとは到底思えず、自分の考えは前提条件そのものからして間違っている事になる。

「で、では……総長閣下は、総統は攻撃部隊に多少の損害が生じるのは許容範囲内と看做して、積極的な戦果の拡大を望んでいらっしゃる、とお考えなのでしょうか?」
「その辺りに関しては、君の想像に任せるよ。私は参謀本部のトップとして、全ての参謀達に公正中立であらねばならない立場だからね。特定の部下に対して肩入れしていると誤解されかねないような言動には慎重でなくてはならないんだよ。特に、君のような見目麗しい女性と同席している際の発言には、ね……」

あわよくば、プランBの改善点に関して、何らかの具体的な助言を引き出せないか?と期待して、ラインハルト総統の思惑についての質問の中に、この問題に関するジーベルト個人の意見を求める意図を忍ばせてみたヴィルヘルミナだったが、彼女の問いに対する参謀総長の返答は、(冗談めかしてはいたものの)その下心を完全に見透かした上で、きっぱりと協力を拒絶するものだった。
『これは無理そうだ』と一瞬で判断を下した彼女は、面談に貴重な時間を割いてくれた事に感謝を述べつつ、そそくさとジーベルトの前から辞去していく。こうなったら、兎にも角にも、必死に智恵を絞って、自分自身でアイデアを捻り出すしかないだろう。

(とはいえ、全体会議まではもう時間がありません。フリンゲル少将や参謀達との調整作業に必要な時間を考えれば、もはや一刻の猶予も許されないと云っても過言ではない……)

失望を覚えつつも、必死に自分を奮い立たせ、腹案を練り直す上級少佐だったが、残念ながら、期日までに有効な方策を思い付く事は叶わなかった。
その結果、参謀総長との面談の2日後に開催された全体会議に於いては、ヴィルヘルミナやエリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐を中心とするプランBの支持者達は(精一杯の善戦はしたものの)不利な状況を覆すには至らず、A軍集団の作戦行動方針については、親衛隊装甲軍のそれと同様、プランAを叩き台とし、プランBを推す参謀達の意見も反映して、クリスベルンの包囲と親衛隊装甲軍の背後の守りを担当する、西方総軍直轄部隊の更なる増強等、修正を加えた基本方針が採択されるに至ったのだった。

……そして、大陸歴939年2月27日。
陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は、作戦名”金の場合”に於ける基本戦略をプランAに基づいて策定する事を正式に決定し、後日、参謀本部案としてラインハルト総統に上申する旨、陸軍部内及び関係各所に内示した。

陸軍参謀本部を舞台に、空軍や親衛隊、総統府まで巻き込み、数か月間の長きにわたって繰り返された議論はここに幕を閉じたのである。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月01日


挿絵イラスト